JP3752980B2 - クロムを含む産業廃棄物の安定化処理技術 - Google Patents

クロムを含む産業廃棄物の安定化処理技術 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、クロムを含む産業廃棄物の安定化処理技術に関するものであり、具体的には、クロムを高濃度に含む合金鋼およびステンレス鋼のそれぞれの製造工程で不可避的に発生するスラグ、ダストおよびスラッジ、クロムを含む産業廃棄物、都市ごみおよび可燃性産業廃棄物を焼却処理した際に生じる焼却灰および焼却飛灰、前記焼却灰および焼却飛灰のうち少なくとも一方を溶融炉により減容化のために溶融処理する場合において前記溶融炉において発生するスラグおよび溶融飛灰の処理、ならびに都市ごみおよび産業廃棄物を直接溶融する直接溶融炉やガス化溶融炉において発生するスラグおよび飛灰の安定化処理技術と、土中埋設用材料およびその製造方法とに関する。
【0002】
【従来の技術】
クロムを高濃度に含む合金鋼およびステンレス鋼の製造工程では、脱りんや脱硫の際に精錬スラグが不可避的に発生するが、これらの精錬スラグにはクロムが不可避的に含有される。また、同時に発生するダストやスラッジさらにはこれらの焼却飛灰にも高濃度のクロムが含まれる。これらをそのまま土木工事材や埋立材等として用いると、不可避的にクロムおよび6価クロムによる環境汚染が発生してしまう。
【0003】
しかし、現時点では、クロムを高濃度に含む合金鋼およびステンレス鋼の製造工程で発生する精錬スラグ、ダストおよびスラッジを高温炉において還元処理する量は十分とは言えない。このため、大量の精錬スラグ、ダストおよびスラッジに対する安定化処理が不充分なまま、特別管理型処分場に埋め立てられてしまうおそれがある。
【0004】
一方、都市ゴミを焼却施設で焼却処理する際には、クロムをはじめとする重金属を高濃度に含む焼却灰および焼却飛灰(以下、この2つを総称して「焼却残渣」という)が発生する。この焼却残渣は、1992年の改正廃棄物処理法によって特定管理廃棄物に指定されたため、焼却残渣に安定化処理を施さないと、管理型処分場に埋め立てることができないこととされた。このため、管理型処分場に埋め立てるに際しては、精錬スラグ、ダストおよびスラッジを高温炉において還元処理することによりクロムを回収する方法が用いられている。
【0005】
この安定化処理法としては、厚生省告示第194号第1号による分類では、セメント固化法、薬剤処理法、酸抽出法さらには溶融法がある。これらの安定化処理法のうちで溶融法は、運転・設備コストが大きいものの、焼却残渣を加熱して溶融スラグ状態にすることで焼却残渣に含まれている有害重金属をガラス化したスラグ中へ安定に閉じ込め略完全に無害化することができ、しかも焼却残渣の大幅な減容化が可能であるため、既設の焼却施設の焼却残渣を処理する方法の主流となっている。
【0006】
さらに、新しい安定化処理技術として、直接溶融炉やガス化溶融炉を用いて、300〜1000℃の熱分解帯で廃棄物から可燃性ガスを発生させた後、この可燃性ガスを燃料にしてさらに温度を上昇することによって廃棄物を溶融処理する方法も知られている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、溶融処理は1100〜1500℃の高温で行うため、蒸気圧の高い物質は容易に揮発し、集塵機において当初の焼却灰よりも高濃度の有害重金属を含有する溶融飛灰(鉄鋼二次飛灰)を生成することになる。このため、溶融処理により高濃度に含まれる有害重金属を安定化することは困難である。
【0008】
また、直接溶融炉やガス化溶融炉では、廃棄物から可燃性ガスを取り出す際に発生する飛灰とその後の溶融において発生する飛灰とが一緒に排出され(以下、「直接溶融飛灰」という)、有害重金属濃度が高くなる。このため、直接溶融飛灰に高濃度に含まれる有害重金属を安定化することは困難である。
【0009】
そこで、本発明者らは、先に特願平10−208170号により、主に塩化物からなる溶融飛灰および直接溶融飛灰に二次精錬スラグの粉末、溶銑予備処理スラグの粉末、転炉スラグの粉末、カルシウムアルミネートの粉末、あるいはカルシウムシリケートの粉末を添加し、水と混練した後加温することによって、重金属の溶出を抑制する発明を提案した。
【0010】
この発明は、略述すると、重金属塩化物を含む溶融飛灰および直接溶融飛灰に、水の存在下で二次精錬スラグの粉末、溶銑予備処理スラグの粉末、転炉スラグの粉末、カルシウムアルミネートの粉末、あるいはカルシウムシリケートの粉末を安定化剤として添加すると、重金属を含むフリーデル氏塩3CaO・Al・CaCl・10HOまたはCaO−SiO−HO−Cl系化合物が生成されることを利用し、溶融飛灰および直接溶融飛灰からの重金属の溶出を抑制するものである。
【0011】
しかし、本発明者らがさらに鋭意検討を重ねた結果、クロム酸化物、クロム硫酸塩および/またはクロム硫化物の形態で精錬スラグ、ダスト、スラッジ、焼却残渣、溶融飛灰および直接溶融飛灰中に含まれるクロムを安定化処理するには、クロム酸化物、クロム硫酸塩および/またはクロム硫化物を塩化物に変える必要があることがわかった。このため、現在の工業的規模では、クロム酸化物、クロム硫酸塩および/またはクロム硫化物の形態で精錬スラグ、ダスト、スラッジ、焼却残渣、溶融飛灰および直接溶融飛灰中に含まれるクロムを、二次精錬スラグの粉末、溶銑予備処理スラグの粉末、転炉スラグの粉末、カルシウムアルミネートの粉末、あるいはカルシウムシリケートの粉末により安定化処理することは困難であった。
【0012】
ここに、本発明の目的は、精錬スラグ、ダスト、スラッジ、焼却残渣、溶融飛灰さらには直接溶融飛灰といった、大量に発生するクロムを含む産業廃棄物の安定化処理技術を提供することである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
ここに、本発明は、SiO量が6質量%以下であるとともにT.Fe量が2質量%以下である、カルシウムアルミネートを含む二次精錬スラグの粉末をクロム固定剤として用い、クロムを含む産業廃棄物の安定化処理を行うことを特徴とするクロムを含む産業廃棄物の安定化処理方法である。この本発明にかかるクロムを含む産業廃棄物の安定化処理方法によれば、3CaO・Al・CaCrO・12HO等が生成され、これら反応生成物をクロム固定剤として用いるものである。
【0014】
この本発明に係るクロムを含む産業廃棄物の安定化処理方法では、クロムを含む産業廃棄物100質量部に対して、カルシウムアルミネートを含む二次精錬スラグの粉末を50〜150質量部添加することが望ましい。
【0015】
これらの本発明に係るクロムを含む産業廃棄物の安定化処理方法では、安定化処理が、クロムを含む産業廃棄物と、二次精錬スラグの粉末を、水の存在の下で反応させることによって、行われることが望ましい。
【0016】
これらの本発明に係るクロムを含む産業廃棄物の安定化処理方法では、安定化処理が、水の存在の下で、オートクレーブ処理または蒸気養生を行うことによって、60℃以上の温度域に1時間以上加温加圧することによって、行われることが望ましい。
【0017】
別の観点からは、本発明は、クロムを含む産業廃棄物に対して、合成されたカルシウムシリケート化合物、天然に産するカルシウムシリケート鉱物、およびカルシウムシリケートを含む脱珪スラグの1種または2種以上の組合せからなるカルシウムシリケートを含む粉末と硫酸根を含む粉末との混合物をクロム固定剤として添加することにより生成する、Ca(SiO、SO、CrO[(OH)、F]、Ca10(SiO(SO、CrO[(OH)、F]等のCaO−SiO−S−HO−F−Cr系化合物およびCaO−SiO−S−HO−Cr系ゲル状非晶質化合物、またはCa(SiO、CrO(OH、F)等のCaO−SiO−HO−F系化合物およびCaO−SiO−HO−Cr系ゲル状非晶質化合物によってクロムを捕捉することを特徴とするクロムを含む産業廃棄物の安定化処理方法である。本発明によれば、産業廃棄物にカルシウムシリケートを含む粉末と硫酸根を含む粉末との混合物を添加することにより生成するCa(SiO、SO、CrO(OH、F)、Ca10(SiO(SO、CrO(OH、F)等のCaO−SiO−S−HO−F−Cr系化合物およびCaO−SiO−S−HO−Cr系ゲル状非晶質化合物、またはCa(SiO、CrO(OH、F)等のCaO−SiO−HO−F系化合物およびCaO−SiO−HO−Cr系ゲル状非晶質化合物によって産業廃棄物に含まれるクロムを捕捉することができる。
【0018】
また、本発明は、クロムを含む産業廃棄物100質量部に対して、合成されたカルシウムシリケート化合物、天然に産するカルシウムシリケート鉱物、およびカルシウムシリケートを含む脱珪スラグの1種または2種以上の組合せからなるカルシウムシリケートを含む粉末50〜150質量部と硫酸根を含む粉末20〜80質量部との混合物をクロム固定剤として添加して、水の存在下で、オートクレーブ処理または蒸気養生を行うことによって60℃以上の温度域に1時間以上加温加圧することにより、クロムを含む産業廃棄物の安定化処理を行うことを特徴とするクロムを含む産業廃棄物の安定化処理方法である。本発明によれば、上述したゲル状非晶質化合物によってCrを捕捉することができる。
【0019】
これらの本発明に係るクロムを含む産業廃棄物の安定化処理方法では、硫酸根を含む粉末が、石膏、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウムおよび硫酸鉄の1種または2種以上の組合せからなることが望ましい。
【0020】
これらの本発明に係るクロムを含む産業廃棄物の安定化処理方法では、カルシウムアルミネートを含む二次精錬スラグの粉末の平均粒径、または、カルシウムシリケートを含む粉末の平均粒径が2mm以下であることが、クロムの安定化を確実に行うためには、望ましい。一方、硫酸根を含む粉末は、水への溶解が速やかであることから、硫酸根を含む粉末の大きさには限定を要しない。
【0021】
また、これらの本発明にかかるクロムを含む産業廃棄物の安定化処理法では、クロムを含む産業廃棄物が、クロムを含有する鋼材の圧延スラッジ、この圧延スラッジの焙焼時に発生する灰、クロムを含有する鋼材の酸洗スラッジ、クロムを含有する鋼材の溶製時に発生するスラグ、および都市ゴミの焼却灰のうちの少なくとも1種であることが例示される。また、本発明における産業廃棄物としては、クロムを高濃度に含む合金鋼およびステンレス鋼の製造工程で発生するクロムを含む精錬スラグ、クロムを含むダスト、およびクロムを含むスラッジ、または、クロムを含む焼却残渣、クロムを含む溶融飛灰、およびクロムを含む直接溶融飛灰等に対しても同様に適用可能である。
【0022】
また、別の観点からは、本発明は、クロムを含む産業廃棄物に、カルシウムアルミネートを含む二次精錬スラグの粉末と、徐冷高炉スラグ、高炉水砕スラグ、コンクリート屑および石炭灰のうちの1種または2種以上に由来する増容材とを添加することにより得られることを特徴とする土中埋設用材料である。この増容材は、クロムを含む産業廃棄物を希釈してクロム溶出量を低減させる効果を主に奏するため、増容材自体がクロムの安定化機構に直接関与するとしても、その大きさには限定を要さない。
【0023】
この本発明に係る土中埋設用材料では、クロムを含む産業廃棄物100質量部に対して、カルシウムアルミネートを含む二次精錬スラグの粉末を50〜150質量部、および増容材を900質量部以下添加することが望ましい。
【0024】
また、本発明は、クロムを含む産業廃棄物に、カルシウムシリケートを含む粉末、および硫酸根を含む粉末の混合物と、徐冷高炉スラグ、高炉水砕スラグ、コンクリート屑および石炭灰のうちの1種または2種以上に由来する増容材とを添加することにより得られることを特徴とする土中埋設用材料である。
【0025】
この本発明に係る土中埋設用材料では、クロムを含む産業廃棄物100質量部に対して、カルシウムシリケートを含む粉末を50〜150質量部、硫酸根を含む粉末を20〜80質量部、および増容材を900質量部以下添加することが望ましい。
【0026】
別の観点からは、本発明は、クロムを含む産業廃棄物に、カルシウムアルミネートを含む二次精錬スラグの粉末と、徐冷高炉スラグ、高炉水砕スラグ、コンクリート屑および石炭灰のうちの1種または2種以上に由来する増容材とを添加することを特徴とする土中埋設用材料の製造方法である。
【0027】
また、本発明は、クロムを含む産業廃棄物に、カルシウムシリケートを含む粉末、および硫酸根を含む粉末の混合物と、徐冷高炉スラグ、高炉水砕スラグ、コンクリート屑および石炭灰のうちの1種または2種以上に由来する増容材とを添加することを特徴とする土中埋設用材料の製造方法である。
【0028】
また、本発明は、合成されたカルシウムシリケート化合物、天然に産するカルシウムシリケート鉱物、およびカルシウムシリケートを含む脱珪スラグの1種または2種以上の組合せからなるカルシウムシリケートを含む粉末100質量部に、硫酸根を含む粉末20〜100質量部を添加して混合することにより、クロムを含む産業廃棄物の安定化処理剤を製造することを特徴とするクロムを含む産業廃棄物の安定化処理剤の製造方法である。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本実施形態の安定化処理方法により、クロムを含む産業廃棄物1a〜1fに対して安定化処理を施す状況を模式的に示す説明図である。
【0030】
同図に示す本実施形態では、合成されたカルシウムアルミネート化合物またはカルシウムシリケート化合物2a、天然に産するカルシウムアルミネート鉱物またはカルシウムシリケート鉱物2b、および、カルシウムアルミネート化合物を含む鉄鋼二次精錬スラグまたはカルシウムシリケートを含む脱珪スラグ2cの1種または2種以上に由来する、カルシウムアルミネートまたはカルシウムシリケートを含む粉末2と、石膏3a、硫酸アルミニウム3b、硫酸マグネシウム3c、硫酸ナトリウム3dおよび硫酸鉄3eの1種または2種以上に由来する、硫酸根を含む粉末3とをともに固定剤として用い、クロムを含む産業廃棄物1a〜1fの安定化処理を行っている。
【0031】
また、クロムを含む産業廃棄物1a〜1f、カルシウムアルミネートまたはカルシウムシリケートを含む粉末2a、2b、硫酸根を含む粉末3a〜3eに、徐冷高炉スラグ4a、高炉水砕スラグ4b、コンクリート屑4c、石炭灰4dの1種または2種以上に由来する、増容材4を添加し土中埋設用材料6を製造する。
【0032】
そこで、以降の説明では、産業廃棄物1、カルシウムアルミネートまたはカルシウムシリケートを含む粉末2、硫酸根を含む粉末3、増容材4、および安定化処理について順次説明する。
【0033】
[産業廃棄物1]
本実施形態において安定化処理が行われる産業廃棄物1は、図1に示すクロムを含む精錬スラグ1a、クロムを含むダスト1b、クロムを含むスラッジ1c、クロムを含む焼却残渣1d、クロムを含む溶融飛灰1e、およびクロムを含む直接溶融飛灰1fの6種である。
【0034】
本発明では、クロムを含む精錬スラグ1a、クロムを含むダスト1b、およびクロムを含むスラッジ1cが発生する製鋼工程の形態は、何ら限定を要さない。クロムを含む精錬スラグ1a、クロムを含むダスト1b、およびクロムを含むスラッジ1cの各組成は、当然のことながら、例えば操業法や溶鋼組成等の各種要因により、変動する。例えば、クロムを含む精錬スラグ1aは0.2〜5.0%(以下、本明細書においては特にことわりがない限り「%」は「質量%」を意味する)のクロムを、クロムを含むダスト1bは0.1〜7.0%のクロムを、クロムを含むスラッジ1cは0.1〜6.0%のクロムを、それぞれ含有する。また、クロムを含む焼却残渣1d、クロムを含む溶融飛灰1e、およびクロムを含む直接溶融飛灰1fが発生するゴミ処理工程の形態は、何ら限定を要さず、これらの各組成は、当然のことながら、例えば地域性に依るゴミの種類の相違、焼却処理法等の各種要因により、変動する。例えば、クロムを含む焼却残渣1dは0.002〜0.8%のクロムを、クロムを含む溶融飛灰1eは0.02〜1.2%のクロムを、クロムを含む直接溶融飛灰1fは0.006〜0.9%のクロムを、それぞれ含有する。
【0035】
産業廃棄物中に含まれるこれらのクロムは、産業廃棄物1a〜1f中において、例えば、Cr、Fe・Cr、3CaO・2Al・Cr、Cr(SO、CrClとして存在するが、いずれの鉱物相が存在するかは、操業法等の各種要因により変動する。
【0036】
[カルシウムアルミネートを含む粉末2]
本発明では、カルシウムアルミネートを含む粉末2として、合成されたカルシウムアルミネート化合物2a、天然に産するアルミネート鉱物2b、カルシウムアルミネートを含む鉄鋼二次精錬スラグ2cの1種または2種以上に由来する粉末2を用いる。
【0037】
本発明では、「カルシウムアルミネート」とは、例えば、CaO・Al、5CaO・3Al、12CaO・7Al、9CaO・5Al、2CaO・Al、3CaO・Al、若しくはこれらの混合物、またはこれらの水和物等を意味する。
【0038】
合成されたカルシウムアルミネート化合物2aとしては、例えばCaO・Al、5CaO・3Al、12CaO・7Al、9CaO・5Al、2CaO・Al、3CaO・Al若しくは3CaO・Al・MgO、4CaO・Al・Fe、またはこれらの混合物等が例示される。これらは、いずれも、いわゆる高温焼成法により容易に合成される。これらを水と反応させることにより生じる水和物としては、CaO・Al・8.5HO、CaO・Al・10HO、4CaO・3Al・3HO、2CaO・Al・6HO、2CaO・Al・8HO、CaAl(OH)12、3CaO・Al・xHO(x=8〜12)、3CaO・Al・Ca(OH)・18HO、3CaO・Al・3Ca(OH)・32HO、4CaO・Al・13HO、α−4CaO・Al・19HO、4CaO・Al・xHO等がある。
【0039】
天然に産するカルシウムアルミネート鉱物2bとしては、例えば、12CaO・7Al組成の鉱物としてMayeniteが、CaO・Al・8.5HO組成の鉱物としてTunisiteが、CaAl(OH)12組成の鉱物としてKatoiteやHydrogrossularがある。
【0040】
鉄鋼二次精錬スラグ2cとは、真空精錬法、取鍋精錬法または簡易取鍋精錬法等の鉄鋼二次精錬(炉外精錬)を行った際に生成されたスラグを意味し、CaO(石灰)およびAl(アルミナ)を主成分として含むものである。このような鉄鋼二次精錬スラグ2cについて、X線回折法等の適宜方法により鉱物相を同定すると、鉄鋼二次精錬スラグ2c中のAl濃度およびSiO濃度に応じて、例えばAl濃度が高くSiO濃度が低い場合には3CaO・Al相および12CaO・7Al相が、Al濃度およびSiO濃度がともに高い場合には2CaO・Al・SiO相が主要鉱物相として認められる。一部の鉄鋼二次精錬スラグでは、スラグ中のSiO濃度が高くP濃度が低いことに起因して、冷却時に2CaO・SiO相が相変態を起こし、粉状の鉄鋼二次精錬スラグとなる。このため、この粉状の鉄鋼二次精錬スラグをクロムの安定化剤として用いる場合には、安定化剤の粉砕工程を省略できる。
【0041】
本実施形態で用いる二次精錬スラグ2cの粉末のSiO量は6質量%以下であるとともに、T.Fe量が2質量%以下であることが、望ましい。すなわち、SiO量が6質量%以下であると、Crの固定化に最も有効な3CaO・Al相が増し、6質量%を超えると12CaO・7AlおよびCaO・Alとなり、さらにSiO量が11質量%を超えると2CaO・7Al・SiO相が多くなる。また、T.Fe量が2質量%を超えると、2CaO・(Al、Fe)相あるいは12CaO・7(Al、Fe)相の量が増え、3CaO・Al相の量が減少する。このため、特に、カルシウムアルミネートを含む二次精錬スラグに硫酸根を含む粉末を添加せずにクロムの安定化を行う場合、二次精錬スラグのSiO濃度、T.Fe濃度の制限は重要である。
【0042】
二次精錬スラグ2cは製鋼工程で大量に生成されることから、この二次精錬スラグ2cをクロム固定剤として用いることにより、合成されたカルシウムアルミネート化合物2aや天然に産するアルミネート鉱物2bを固定剤として用いる場合に比較すると、処理コストを大幅に低減することが可能である。
【0043】
本発明では、「カルシウムアルミネート」である、例えばCaO・Al、5CaO・3Al、12CaO・7Al、9CaO・5Al、2CaO・Al、3CaO・Al若しくは3CaO・Al・MgO、4CaO・Al・Fe、若しくはこれらの混合物、またはこれらの水和物のいずれにおいても、3CaO・Al・CaCrO・12HO、3CaO・(Al、Fe)・CaCrO・12HO、3CaO・Fe・CaCrO・12HO等が生成し、産業廃棄物1に含まれるクロムを、容易かつ確実に固定化することができる。また、「カルシウムアルミネート」は、硫酸イオンと反応することによりエトリンガイト3CaO・Al・3CaSO・32HOおよびモノサルフェート3CaO・Al・CaSO・yHO(y=12または14)が生成し、産業廃棄物1に含まれるクロムを、容易かつ確実に固定化することができる。
【0044】
本実施形態では、カルシウムアルミネートを含む粉末2の平均粒径が2mmを超えると、水存在下において、これらの粉末2と水との反応界面積が少なくなることにより、粉末2からのCaイオンおよびAlイオンの供給が遅くなる。その結果、クロムイオンとの反応生成物量が少なくなる。また、硫酸イオンが共存する場合には、硫酸イオンとの反応によるエトリンガイトおよびモノサルフェートの生成量が少なくなり、これら反応生成物の生成の際に反応生成物中に取り込まれるクロム量が産業廃棄物1からのクロム溶出量より少なくなって、クロムの固定化が不十分になるおそれがある。そこで、粉末2の平均粒径は2mm以下であることが望ましく、同様の観点から、0.2mm以下であることがより望ましい。このような観点からは、粉末2の平均粒径の下限は限定を要さないが、0.02mm未満の平均粒径であると、粉末2の取り扱いが面倒になるとともにクロムを含まない水和物の生成が短時間で終了し易くなる。また、エトリンガイトおよびモノサルフェートの生成反応が短時間で終了し易くなる。そこで、粉末2の平均粒径の下限は、0.02mmであることが望ましい。
【0045】
また、カルシウムアルミネートを含む粉末2の添加量が少ないと、水存在下において、これらの粉末2と水との反応による水和物の生成量、あるいは硫酸イオンとの反応によるエトリンガイトの生成量およびモノサルフェートの生成量が十分でないために、産業廃棄物1からのクロム溶出量より水和物、エトリンガイトおよびモノサルフェートへのクロム取り込み量が少なくなって、クロムの固定化が不十分になるおそれがある。これらの傾向は、産業廃棄物に含まれるクロムの濃度が高くなればなるほど顕著になる。
【0046】
一方、粉末2および硫酸根を有する化合物の添加量が多過ぎると、クロムの安定化効果が飽和するとともに、コスト高となって減容化を阻害する。
そこで、本実施形態では、クロムを含む精錬スラグ1a、クロムを含むダスト1b、クロムを含むスラッジ1c、クロムを含む焼却残渣1d、クロムを含む溶融飛灰1e、およびクロムを含む直接溶融飛灰1fの安定化処理を行う際には、これらのクロムを含む産業廃棄物100質量部に対して、カルシウムアルミネートを含む粉末2を50質量部以上150質量部以下添加することが望ましく、80質量部以上150質量部以下添加することがより望ましい。カルシウムアルミネートを含む粉末を用いる場合、硫酸根を含む粉末を添加しなくとも、Crの安定化は十分進行する。
【0047】
[カルシウムシリケートを含む粉末2’]
本発明では、カルシウムシリケートを含む粉末2’として、合成されたカルシウムシリケート化合物2a’、天然に産するカルシウムシリケート鉱物2b’、カルシウムシリケートを含む脱珪スラグ2c’の1種または2種以上に由来する粉末2’を用いる。
【0048】
本発明では、「カルシウムシリケート」とは、例えば、CaO・SiO、3CaO・2SiO、8CaO・5SiO、2CaO・SiO、3CaO・SiO、若しくはこれらの混合物、またはこれらの水和物等を意味する。
【0049】
合成されたカルシウムシリケート化合物2a’としては、例えばCaO・SiO、3CaO・2SiO、8CaO・5SiO、2CaO・SiO、3CaO・SiO若しくはCaO・MgO・SiO、3CaO・MgO・2SiO、5CaO・MgO・3SiO、7CaO・MgO・4SiO、3CaO・Fe・3SiO、CaFeSiO、CaTiSiO、またはこれらの混合物等が例示される。これらは、いずれも、いわゆる高温焼成法により容易に合成される。これらを水と反応させることにより生じる水和物としては、CaO・SiO・xHO(x=1/6、1/3または1)、3CaO・2SiO・yHO(y=0.5〜11/3)、8CaO・5SiO・2HO、5CaO・3SiO・2HO、2CaO・SiO・zHO(z=0.3〜1)、5CaO・2SiO・HO、3CaO・SiO・1.5HO等があり、これらの他に、CaO−SiO−HO系化合物と称されるゲル状非晶質化合物がある。
【0050】
天然に産するカルシウムシリケート鉱物2b’としては、例えば、CaO・SiO組成の鉱物としてWollastoniteが、3CaO・2SiO組成の鉱物としてRankiniteが、2CaO・SiO組成の鉱物としてLarniteやBredigiteが、3CaO・SiO組成の鉱物としてHatruriteが、CaO・MgO・SiO組成の鉱物としてMonticelliteが、3CaO・MgO・2SiO組成の鉱物としてMerwiniteが、7CaO・MgO・4SiO組成の鉱物としてBredigiteが、CaFeSiO組成の鉱物としてKirschsteiniteが、CaTiSiO組成の鉱物としてTitaniteがある。また、CaO・SiO・HO組成の鉱物としてSuoluniteが、3CaO・2SiO・3HO組成の鉱物としてAfwilliteが、2CaO・SiO・HO組成の鉱物としてHillebranditeが、5CaO・2SiO・HO組成の鉱物としてChondroditeやReinhardbraunsiteが、3CaO・SiO・1.5HO組成の鉱物としてJaffeiteがある。
【0051】
鉄鋼脱珪スラグ2c’とは、高炉出銑樋または溶銑鍋において溶銑の脱珪処理を行った際に生成されたスラグを意味し、SiOおよびCaOを主成分として含むものである。このような鉄鋼脱珪スラグ2c’について、X線回折法等の適宜方法により鉱物相を同定すると、鉄鋼脱珪スラグ2c’中のCaO濃度およびSiO濃度に応じて、例えばCaO濃度が高くSiO濃度が低い場合には2CaO・SiO相や3CaO・2SiO相が、CaO濃度が低くSiO濃度が高い場合にはCaO・SiO相が主要鉱物相として認められる。
【0052】
本発明では、「カルシウムシリケート」である、例えばCaO・SiO、3CaO・2SiO、8CaO・5SiO、2CaO・SiO、3CaO・SiO若しくはCaO・MgO・SiO、3CaO・MgO・2SiO、5CaO・MgO・3SiO、7CaO・MgO・4SiO、3CaO・Fe・3SiO、CaFeSiO、CaTiSiO、若しくはこれらの混合物、またはこれらの水和物のいずれにおいても、硫酸イオンと反応することにより、Ca[(Si、S)O(OH、F)、Ca10(SiO(SO(OH、F)およびCaO−SiO−S−HO系ゲル状非晶質化合物が生成し、産業廃棄物1に含まれるクロムを、容易かつ確実に固定化することができる。さらに、これら反応生成物の他に、Ca(SiO(OH、F)、CaSi(OH、F)およびCaO−SiO−HO系ゲル状非晶質化合物が生成し、産業廃棄物1から溶出したクロムを固定化することができる。
【0053】
本実施形態では、カルシウムシリケートを含む粉末2’の平均粒径が2mmを超えると、水存在下において、これらの粉末2’と水との反応界面積が少なくなることにより、粉末2’からのCaイオンおよびSiイオンの供給が遅くなる。その結果、硫酸イオンとの反応によるCaO−SiO−S−HO系化合物および硫酸イオンが関与しないCaO−SiO−HO系化合物の生成量が少なくなり、これら反応生成物の生成の際に反応生成物中に取り込まれるクロム量が産業廃棄物1からのクロム溶出量より少なくなって、クロムの固定化が不十分になるおそれがある。そこで、粉末2’の平均粒径は2mm以下であることが望ましく、同様の観点から、0.2mm以下であることがより望ましい。このような観点からは、粉末2’の平均粒径の下限は限定を要さないが、0.02mm未満の平均粒径であると、粉末2’の取り扱いが面倒になることから、粉末2’の平均粒径の下限は、0.02mmであることが望ましい。
【0054】
また、カルシウムシリケートを含む粉末2’の添加量が少ないと、水存在下において、これらの粉末2’と硫酸イオンとの反応によるCaO−SiO−S−HO系化合物および硫酸イオンが関与しないCaO−SiO−HO系化合物の生成量が十分でないために、これら反応生成物へのクロム取り込み量が産業廃棄物1からのクロム溶出量より少なくなって、クロムの固定化が不十分になるおそれがある。これらの傾向は、産業廃棄物に含まれるクロムの濃度が高くなればなるほど顕著になる。一方、粉末2’および硫酸根を有する化合物の添加量が多過ぎると、クロムの安定化効果が飽和するとともに、コスト高となって減容化を阻害する。
【0055】
そこで、本実施形態では、クロムを含む精錬スラグ1a、クロムを含むダスト1b、クロムを含むスラッジ1c、クロムを含む焼却残渣1d、クロムを含む溶融飛灰1e、およびクロムを含む直接溶融飛灰1fの安定化処理を行う際には、クロムを含む産業廃棄物100質量部に対して、カルシウムシリケートを含む粉末2’を50質量部以上150質量部以下添加することが望ましく、80質量部以上150質量部以下添加することがより望ましい。
【0056】
[硫酸根を含む粉末3]
本実施形態では、硫酸根を含む粉末3として、例えば、石膏3a、硫酸アルミニウム3b、硫酸マグネシウム3c、硫酸ナトリウム3dおよび硫酸鉄3eの1種または2種以上に由来する粉末3を用いる。これらの中で、石膏3aは、鉄鉱石の焼結工程における廃ガス中の硫黄除去装置において多量に生成する。また、鋼板の酸洗廃液である硫酸にpH調節用の石灰を投入した際に多量に晶出する。本実施形態では、鉄鋼業における副産物である石膏を用いるため、資源の有効利用の面から好ましい。
【0057】
石膏3a、硫酸アルミニウム3b、硫酸マグネシウム3c、硫酸ナトリウム3dおよび硫酸鉄3e等の硫酸根を含む粉末は、水への溶解が速やかであることから、本発明では、硫酸根を含む粉末3の粒度について何ら制限を要さない。
【0058】
また、本実施形態では、カルシウムアルミネートを含む粉末、カルシウムシリケートを含む粉末の1種または2種の組合せからなる粉末2の100質量部に対して、硫酸根を含む粉末3を20質量部以上100質量部以下添加することが、エトリンガイト、モノサルフェートおよびCaO−SiO−S−HO系化合物を効率的に生成でき、望ましい。
【0059】
さらに、本実施形態では、カルシウムアルミネートを含む粉末およびカルシウムシリケートを含む粉末の1種または2種の組合せからなる粉末2および硫酸根を含む粉末3を産業廃棄物1に同時に添加する場合を示しているが、これとは異なり、カルシウムアルミネートを含む粉末、およびカルシウムシリケートを含む粉末の1種または2種の組合せからなる粉末2および硫酸根を含む粉末3を混合することにより安定化処理剤を製造しておき、この安定化処理剤を、クロムを含む産業廃棄物に添加してもよい。この場合に、カルシウムアルミネートを含む粉末、およびカルシウムシリケートを含む粉末の1種または2種の組合せからなる粉末2の100質量部に対して、硫酸根を含む粉末3を20質量部以上100質量部以下添加することが、望ましい。
【0060】
[増容材4]
本実施形態では、増容材4として、例えば徐冷高炉スラグ4a、高炉水砕スラグ4b、コンクリート屑4cおよび石炭灰4dの1種または2種以上に由来する産業廃棄物を用いる。
【0061】
この増容材4は、産業廃棄物1、すなわち、クロム溶出源の希釈材としての効果も有する。
また、徐冷高炉スラグ4a、高炉水砕スラグ4b、コンクリート屑4cからはCaイオン、Siイオン、Alイオンが溶出し、直ちにCaO−SiO−HO化合物やCaO−Al−SiO−HO化合物を多量に生成させる。しかし、CaO−SiO−HO化合物やCaO−Al−SiO−HO化合物は、エトリンガイト、モノサルフェートおよびCaO−SiO−S−HO系化合物と比べて、クロムイオンを取り込む能力が小さいため、これら化合物が大量に生成してもクロムイオンが固定化される量は少ない。
【0062】
このように、増容材がクロムの安定化反応機構に大きくは関与しないことから、増容材の粒度についてなんら限定を要さない。また、産業廃棄物1の安定化処理だけを目的とし、後述する土中埋設材料7の製造を行わない場合には、必ずしも、増容材4を添加する必要はない。
【0063】
また、本実施形態では、産業廃棄物100質量部に対して、増容材を900質量部以下添加することが、路盤材および埋立材を製造する処理コストの上昇を抑制するとともに、産業廃棄物、徐冷高炉スラグ、高炉水砕スラグ、コンクリート屑さらには石炭灰等の、いわゆる産業廃棄物の再資源化のために、望ましい。
【0064】
なお、我が国の高炉スラグの総排出量は、例えば1997年の1年間に約2300万トンにも達しており、そのうちの69%に相当する約1600万トンが、セメントおよびコンクリートに再利用されているにすぎない。したがって、本実施形態により、高炉スラグの再利用をさらに促進することもできる。
【0065】
[産業廃棄物1a〜1fの安定化処理]
図1に示すように、本実施形態では、上述したカルシウムアルミネートを含む粉末、およびカルシウムシリケートを含む粉末の1種または2種の組合せからなる粉末2および硫酸根を含む粉末3を用い、クロムを含む精錬スラグ1a、クロムを含むダスト1b、クロムを含むスラッジ1c、クロムを含む焼却残渣1d、クロムを含む溶融飛灰1e、およびクロムを含む直接溶融飛灰1fの安定化処理を行う。
【0066】
クロムを含む精錬スラグ1a、クロムを含むダスト1b、クロムを含むスラッジ1c、クロムを含む焼却残渣1d、クロムを含む溶融飛灰1e、およびクロムを含む直接溶融飛灰1fの安定化処理は、これらスラグにカルシウムアルミネートを含む粉末、およびカルシウムシリケートを含む粉末の1種または2種の組合せからなる粉末2および硫酸根を含む粉末3を適量添加した後、機械5を用いて十分混合することにより、これら産業廃棄物1a〜1fから溶出したクロムを固定化して、安定化処理品である土中埋設用材料6を得る処理である。この際、オートクレーブまたは蒸気養生装置9を用いて60℃以上でオートクレーブ処理または蒸気養生を行うことにより、産業廃棄物1a〜1f中のクロムを固定化してもよい。
【0067】
また、産業廃棄物1、カルシウムアルミネートを含む粉末、およびカルシウムシリケートを含む粉末の1種または2種の組合せからなる粉末2、硫酸根を含む粉末3および増容材4を機械5を用いて十分混合することにより、土中埋設用材料6を得るようにしてもよい。この際も、オートクレーブまたは蒸気養生装置9を用いて60℃以上でオートクレーブ処理または蒸気養生を行うことにより、産業廃棄物1a〜1f中のクロムを固定化してもよい。
【0068】
また、クロムを含む精錬スラグ1aを粉砕したもの、通常は粉状であるところの、クロムを含むダスト1b、クロムを含むスラッジ1c、クロムを含む焼却残渣1d、クロムを含む溶融飛灰1e、およびクロムを含む直接溶融飛灰1fを、例えば、混練機や造粒機あるいは混練および造粒の二つの機能をあわせ持つ機械7等を用いて、カルシウムアルミネートを含む粉末、およびカルシウムシリケートを含む粉末の1種または2種の組合せからなる粉末2と硫酸根を含む粉末3と増容材4と共に混練し、所望の形状(例えば円柱状)の造粒物8とすることにより土中埋設用材料6を得る処理である。この際も、オートクレーブまたは蒸気養生装置9を用いて60℃以上でオートクレーブ処理または蒸気養生を行うことにより、産業廃棄物1a〜1f中のクロムを固定化してもよい。
【0069】
この際、増容材4として高炉水砕スラグ粉末を用いることにより、造粒物8が堅固になり、雨水や地下水との接触が造粒物8の表面だけに限定されるため、クロムの溶出がさらに効果的に抑制されることになり、望ましい。
【0070】
なお、安定化処理の際に、産業廃棄物1の粉末、カルシウムアルミネートを含む粉末、およびカルシウムシリケートを含む粉末の1種または2種の組合せからなる粉末2および硫酸根を含む粉末3と共存させる水は、本実施形態では、転動造粒や撹拌造粒等により凝集造粒現象を生じさせて造粒物8を形成するために用いられる。そのため、造粒物8に求める強度や硬度等に応じて、水とともに適当な溶媒を用いてもよい。このような溶媒としては、デキストリンやリグニン等を例示することができる。
【0071】
[安定化の作用]
フッ化水素酸を蒸留水で希釈した溶液に六価クロム溶液を添加し、これを攪拌しながら、高温焼成によって合成したカルシウムアルミネート(3CaO・Alまたは12CaO・12Al)の粉末を添加し、6時間攪拌して、反応後の粉末について、その鉱物相をX線回折法およびX線マイクロアナライザーにより同定した。その結果、いずれのカルシウムアルミネート粉末の場合においても、X線回折法からは3CaO・Al・CaCrO・12HO、CaAl(OH)12、3CaO・Al・Ca(OH)・18HOが同定され、X線マイクロアナライザーからはCaAl(OH)12、3CaO・Al・Ca(OH)・18HO相中にフッ素が含有されていることが認められた。
【0072】
このようにして、カルシウムアルミネートを含有する粉末による、このような六価クロムの安定化は、下記の反応機構により説明される。
例えば、3CaO・Al粉末が水共存下で六価クロムイオンと反応して3CaO・Al・CaCrO・12HO、CaAl(OH)12が生成する場合、3CaO・Al粉末からカルシウムおよびアルミニウムが溶出してイオンとなる反応式(1)と、カルシウムイオンおよびアルミニウムイオンが六価クロムイオンと反応して3CaO・Al・CaCrO・12HOが生成する反応式(2)が進行する。
【0073】
3CaO・Al+2HO→3Ca2++2AlO +4OH
・・・・・(1)
4Ca2++2AlO2−+CrO42−+4OH+12HO→
3CaO・Al・CaCrO・12H
・・・・・(2)
一方、12CaO・7Al粉末が水共存下でクロムイオンと反応して3CaO・Al・CaCrO・12HOが生成する場合、12CaO・7Al粉末からカルシウムおよびアルミニウムが溶出してイオンとなる反応式(3)と、カルシウムイオンおよびアルミニウムイオンがクロムイオンおよび硫酸イオンと反応して3CaO・Al・CaCrO・12HOが生成する反応式(2)が進行する。
【0074】
12CaO・7Al+5HO→12Ca2++14AlO +10OH
・・・・・(3)
特に、3CaO・Al粉末の場合、3CaO・Al粉末表面で(4)式の反応により3CaO・Al・CaCrO・12HOが生成する反応式(4)も進行する。
【0075】
3CaO・Al+CrO 2−+Ca2++12HO→
3CaO・Al・CaCrO・12H
・・・・・(4)
この際、上述したように、X線回折法およびX線マイクロアナライザーから、Cal2(OH)12、3CaO・Al・Ca(OH)・18HO相中にフッ素が含有されていることが認められたことから、フッ素はCaAl(OH、F)12、3CaO・Al・Ca(OH、F)・18HO相として固定化されるとみなされる。
【0076】
また、フッ化水素酸を蒸留水で希釈した溶液に六価クロム溶液を添加し、これを攪拌しながら、高温焼成によって合成したカルシウムアルミネート(3CaO・Al、12CaO・7AlまたはCaO・Al)の粉末を石膏粉末と共に添加し、3〜12時間攪拌して、反応後の粉末について、その鉱物相をX線回折法およびX線マイクロアナライザーにより同定した。その結果、いずれのカルシウムアルミネート粉末の場合においても、X線回折法からはエトリンガイドCa[Al(OH)(SO・26HOおよびモノサルフェートCa[Al(OH)(SO)・yHO(y=12または14)が同定され、X線マイクロアナライザーからはエトリンガイドおよびモノサルフェート中にフッ素およびクロムが含有されていることが認められた。このことから、生成物はCa[Al(OH、F)(SO、CrO・26HOおよびCa[Al(OH、F)(SO、CrO)・yHOが考えられる。
【0077】
このようにして、カルシウムアルミネートを含有する粉末と石膏粉末による、このようなフッ素と六価クロムとの安定化は、下記の反応機構により説明される。
【0078】
例えば、3CaO・Al粉末が水共存下で六価クロムイオン、フッ素イオンおよび硫酸イオンと反応してCa[Al(OH、F)(SO、CrO)・12HOが生成する場合、3CaO・Al粉末からカルシウムおよびアルミニウムが溶出してイオンとなる反応式(1)と、石膏が溶解してカルシウムイオンおよび硫酸イオンになる反応式(5)と、カルシウムイオンおよびアルミニウムイオンが六価クロムイオン、フッ素イオンおよび硫酸イオンと反応してCa[Al[(OH)1−x[(SO1−y(CrO]・6HOが生成する反応式(6)が進行する。
【0079】
CaSO・2HO→Ca2++SO 2−+2HO ・・・・・(5)
8Ca2++2AlO +12xF+(1−y)SO 2−+yCrO 2−+12(1−x)OH+16HO→
Ca[Al[(OH)1−x[(SO1−y(CrO]・12HO+4Ca(OH)
・・・・・(6)
あるいは、3CaO・Al粉末が直接六価クロムイオン、フッ素イオン、石膏、カルシウムイオンおよび水と反応してCa[Al[(OH)1−x[(SO1−y(CrO]・12HOが生成する反応式(7)が進行する。
【0080】
3CaO・Al+(1−y)CaSO・2HO+12xF+yCrO 2−+(6x+y)Ca2++(16+8x)HO→
Ca[Al[(OH)1−x[(SO1−y(CrO]・12HO+3xCa(OH)
・・・・・(7)
一方、12CaO・7Al粉末(またはCaO・Al粉末)が水共存下でフッ素イオンおよび六価クロムイオンと反応してCa[Al[(OH)1−x[(SO1−y(CrO]・12HOが生成する場合、12CaO・7Al粉末(またはCaO・Al粉末)からカルシウムおよびアルミニウムが溶出してイオンとなる反応式(3)(または(8))と、カルシウムイオンおよびアルミニウムイオンがフッ素イオン、六価クロムイオンおよび硫酸イオンと反応してCa[Al[(OH)1−x[(SO1−y(CrO]・12HOが生成する反応式(6)が進行する。
【0081】
CaO・Al→Ca2++2AlO ・・・・・(8)
このようにして、カルシウムアルミネートを含む化合物を硫酸根を含む化合物とともに用いて、エトリンガイド3CaO・Al・3CaSO・32HOおよびモノサルフェート3CaO・Al・CaSO・12HOが生成する際にフッ素および六価クロムが捕捉されることにより、フッ素および六価クロムが固定される。
【0082】
また、フッ化水素酸および六価クロム溶液を蒸留水で希釈した溶液を攪拌しながら、高温焼成によって合成したカルシウムシリケート(3CaO・SiOまたは2CaO・SiO)の粉末を石膏粉末と共に添加し、3〜12時間攪拌して、反応後の粉末について、その鉱物相をX線回折法およびX線マイクロアナライザーにより同定した。その結果、3CaO・SiO粉末の場合においては、X線回折法からはCa[(Si、S)O(OH、F)およびCa10(SiO(SO(OH、F)が同定され、さらに、硫酸イオンを含まないCa(SiO(OH、F)およびCaSi(OH)が同定された。X線マイクロアナライザーからは、これら化合物およびCaO−SiO−S−HO−F系ゲル状非晶質化合物中にCrが検出された。このことから、Ca(SiO、SO、CrO(OH、F)、Ca10(SiO(SO、CrO(OH、F)、Ca(SiO、CrO(OH、F)が生成したと考えられる。また、CaO−SiO−S−HO−F−CrO系ゲル状非晶質化合物が生成したと考えられる。2CaO・SiO粉末の場合においては、X線回折法からCa[(Si、S)O(OH、F)が同定され、X線マイクロアナライザーからは、この化合物中にCrが検出され、さらに、CaO−SiO−S−HO−F系ゲル状非晶質化合物中にCrが認められた。
【0083】
このようにして、カルシウムシリケートを含有する粉末と石膏粉末による、このような六価クロムおよびフッ素の安定化は、下記の反応機構により説明される。
【0084】
例えば、3CaO・SiO粉末が水共存下で六価クロムイオン、フッ素イオンおよび硫酸イオンと反応してCa10(SiO[(SO1−x(CrO[(OH)1−yが生成する場合、3CaO・SiO粉末からカルシウムおよびシリコンが溶出してイオンとなる反応式(9)と、石膏が溶解してカルシウムイオンおよび硫酸イオンになる反応式(5)と、カルシウムイオンおよびシリコンイオンがフッ素イオンおよび硫酸イオンと反応してCa10(SiO[(SO1−x(CrO[(OH)1−yが生成する反応式(10)が進行する。
【0085】
3CaO・SiO+2HO→3Ca2++SiO 2−+4OH ・・・(9)
10Ca2++3SiO 2−+3(1−x)SO 2−+3xCrO 2−+(8−2y)OH
Ca10(SiO[(SO1−x(CrO[(OH)1−y+3H
・・・・・(10)
2CaO・SiO粉末が水共存下でフッ素イオンおよび硫酸イオンと反応してCa[(Si1−x)O(OH)1−yが生成する場合、2CaO・SiO粉末からカルシウムおよびシリコンが溶出してイオンとなる反応式(11)と、石膏が溶解してカルシウムイオンおよび硫酸イオンになる反応式(5)と、カルシウムイオンおよびシリコンイオンがフッ素イオンと反応してCa[(Si1−x)O(OH)1−yが生成する反応が進行する。
【0086】
2CaO・SiO+HO→2Ca2++SiO 2−+2OH ・・・(11)
このようにして、カルシウムシリケートを含む化合物を硫酸根を含む化合物とともに用いて、Ca(SiO、SO、CrO(OH、F)、Ca10(SiO(SO、CrO(OH、F)等のCaO−SiO−S−HO−F−Cr系化合物およびCaO−SiO−S−HO−Cr系ゲル状非晶質化合物が生成する際に六価クロムおよびフッ素が補足されることにより、六価クロムおよびフッ素が固定化される。また、硫酸イオンが関与しない反応による反応生成物であるCa(SiO、CrO(OH、F)等のCaO−SiO−HO−F系化合物およびCaO−SiO−HO−Cr系ゲル状非晶質化合物が生成する際に六価クロムおよびフッ素が補足されることにより、六価クロムおよびフッ素が固定化される。
【0087】
このようにして得られた土中埋設用材料である安定化処理物6は、いずれも、産業廃棄物の埋立基準である「全クロム溶出量:1.5mg/L以下」を満足し、さらに水質および地下水環境基準値である「6価クロム溶出量:0.05mg/L以下」を十分に満足するため、産業廃棄物の管理型埋立に供し得るのみならず、路盤材や埋め戻し材等として土木現場において、環境汚染を確実に防止しながら、長期間にわたって有効に用いることができる。
【0088】
このように、本実施形態によれば、クロムを含む精錬スラグ1a、クロムを含むダスト1b、クロムを含むスラッジ1c、クロムを含む焼却残渣1d、クロムを含む溶融飛灰1e、およびクロムを含む直接溶融飛灰1fといった、クロムを含む産業廃棄物を、確実に安定化処理することができる。また、この処理に際して、低コストの鉄鋼二次精錬スラグまたは鉄鋼脱珪スラグを用いることもできる。従って、鉄鋼二次精錬スラグまたは鉄鋼脱珪スラグを用いる場合には、処理コストの低減が可能となる。
【0089】
また、安定化に用いるカルシウムアルミネートを含む二次精錬スラグの粉末、およびカルシウムシリケートを含む粉末の1種または2種の組合せからなる粉末2は、産業廃棄物1に含まれるクロムおよび硫酸根を含む粉末3からもたらされる硫酸イオンと効果的に反応するため、粉末2の使用量の増加も抑制される。そのため、この面からも、処理コストの低減が可能となる。
【0090】
また、これら、カルシウムアルミネートを含む二次精錬スラグの粉末、または、カルシウムアルミネート、およびカルシウムシリケートの少なくとも1種を含む粉末と硫酸根を含む粉末との混合物は、六価クロム、または、六価クロムとフッ素とに汚染された土壌の浄化剤として用いることができる。
【0091】
この際、カルシウムアルミネートを含む二次精錬スラグの粉末、または、カルシウムアルミネートを含む粉末と硫酸根を含む粉末との混合物は、この種の土壌の浄化法として周知慣用の手段を適用することができ、例えば、汚染土壌の上層に層状に敷設する方法、汚染土壌の下層に層状に敷設する方法、さらには汚染土壌と混合して敷設する方法が考えられる。
【0092】
また、浄化の効果を高めるためには、カルシウムアルミネートを含む二次精錬スラグの粉末、または、カルシウムアルミネートを含む粉末と硫酸根を含む粉末との混合物を汚染土壌と混合した後、蒸気養生またはオートクレーブ処理を行うことが有効である。
【0093】
さらに、蒸気養生またはオートクレーブ処理の効果を向上させるためには、カルシウムアルミネートを含む二次精錬スラグの粉末、または、カルシウムアルミネート、カルシウムシリケートを含む粉末と硫酸根を含む粉末との混合物を汚染土壌と混合した後、圧粉成型することにより、カルシウムアルミネートを含む二次精錬スラグの粉末、または、カルシウムアルミネートを含む粉末と硫酸根を含む粉末との混合物と汚染土壌との反応界面を密着させることが有効である。
【0094】
【実施例】
さらに、実施例により本発明の効果を例証する。
(実施例1)
クロムを含むステンレス精錬スラグ、クロムを含むダスト、クロムを含むスラッジ、クロムを含む焼却残渣、クロムを含む溶融飛灰、およびクロムを含む直接溶融飛灰の化学組成を表1に示す。
【0095】
【表1】
Figure 0003752980
【0096】
これらの各産業廃棄物について、平成3年環境庁告示第46号で規定された溶出試験を行った。全クロムおよび6価クロムの溶出量と、土壌環境基準における6価クロム規制値とを対比して表2に示す。
【0097】
【表2】
Figure 0003752980
【0098】
表2に示す結果から、クロムを含む精錬スラグ、クロムを含むダスト、クロムを含むスラッジ、クロムを含む焼却残渣、クロムを含む溶融飛灰、およびクロムを含む直接溶融飛灰のいずれも、六価クロムの溶出量が土壌環境基準の規制値を大幅に超えるため、六価クロムの固定化処理を行う必要があることが明らかであった。また、全クロム溶出量は土壌環境基準の規制対象に含まれていないが、溶出した六価クロム以外のクロム(二価または三価)は自然環境下で六価に変化する可能性を有するため、環境保全のために全クロム溶出量も低減することが望ましい。
【0099】
これらの産業廃棄物のうち、クロムを含む焼却残渣100質量部に対して、粒度が2mm以下、0.5mm以下、0.1mm以下のCaO・Al合成品、12CaO・7Al合成品または3CaO・Al合成品の粉末を60質量部添加した。
【0100】
得られた処理品について、平成3年環境庁告示第46号で規定された溶出試験を行った。溶出液中の全クロム濃度(mg/L)および六価クロム濃度(mg/L)と、CaO・Al合成品、12CaO・7Al合成品または3CaO・Al合成品の粒度(mm)との関係を図2にグラフで示す。
【0101】
図2に示すグラフから、CaO・Al合成品、12CaO・7Al合成品または3CaO・Al合成品の粒度が2mm以下で、溶出液中の六価クロム濃度は、土壌環境基準値である0.05mg/Lを大きく下回ることがわかる。また、溶出液中の全クロム濃度についての規制値は制定されていないが、クロムを含む焼却残渣からの溶出値(表2において9.3mg/L)と比べて著しく低減している。
【0102】
(実施例2)
クロムを含むスラッジ100質量部に対して、石膏20質量部と、粒度が0.1mm以下の鉄鋼二次精錬スラグAの粉末、または3CaO・SiO合成品の粉末を10〜150質量部添加した。鉄鋼二次精錬スラグAとは、SiO濃度が高く全鉄濃度が低い鉄鋼二次精錬スラグ(44%CaO、16%SiO、27%Al、0.6%T.Fe、6%MgO、0.6%F)である。
【0103】
得られた処理品について、平成3年環境庁告示第46号で規定された溶出試験を行った。鉄鋼二次精錬スラグAの粉末、または3CaO・SiO合成品の粉末の質量部と、溶出液中の六価クロム濃度および全クロム濃度との関係を図3にグラフで示す。
【0104】
図3に示すグラフから、クロムを含むスラッジ100質量部に対して、鉄鋼二次精錬スラグAの粉末、または3CaO・SiO合成品の粉末を50〜150質量部添加すれば、溶出液中の六価クロム濃度は、土壌環境基準値である0.05mg/Lを下回ることがわかる。また、溶出液中の全クロム濃度は、クロムを含むスラッジからの溶出値(表2において0.24mg/L)と比べて著しく低減している。
【0105】
(実施例3)
クロムを含むステンレス精錬スラグ、溶融飛灰、または直接溶融飛灰100質量部に対して、粒度が0.1mm以下の鉄鋼二次精錬スラグAを100質量部、石膏粉末または硫酸マグネシウム粉末または硫酸ナトリウム粉末を0〜100質量部添加した。得られた処理品について、平成3年環境庁告示第46号で規定された溶出試験を行った。溶出液中の六価クロム濃度および全クロム濃度を表3に示す。
【0106】
【表3】
Figure 0003752980
【0107】
表3に示す結果から、石膏粉末または硫酸マグネシウム粉末または硫酸ナトリウム粉末の添加量が20〜80質量部であれば、溶出液中の六価クロム濃度は、土壌環境基準値である0.05mg/Lを下回ることがわかる。また、石膏粉末または硫酸マグネシウム粉末または硫酸ナトリウム粉末を80質量部以上添加しても、その効果は飽和している。これらのことから、石膏粉末または硫酸マグネシウム粉末または硫酸ナトリウム粉末の添加量は20〜80質量部で十分である。また、溶出液中の全クロム濃度は、クロムを含むステンレス精錬スラグ、溶融飛灰、または直接溶融飛灰からの溶出値(表2において、それぞれ2.4、2.9、1.6mg/L)と比べて著しく低下している。
【0108】
(実施例4)
クロムを含むスラッジの100質量部に対して、粒度が0.1mm以下の鉄鋼二次精錬スラグA、鉄鋼二次精錬スラグBまたは鉄鋼二次精錬スラグCを50質量部、石膏を0〜30質量部添加し、さらに、徐冷高炉スラグ、高炉水砕スラグ、コンクリート屑または石炭灰を0〜900質量部添加した。ここで、鉄鋼二次精錬スラグBとは、SiO濃度が低く全鉄濃度が高い鉄鋼二次精錬スラグ(38%CaO、9%SiO、19%Al、13%T.Fe、6%MgO、0.2%F)であり、鉄鋼二次精錬スラグCとは、SiO濃度が低く全鉄濃度が低い鉄鋼二次精錬スラグ(51%CaO、5%SiO、33%Al、1.6%T.Fe、4%MgO、1.3%F)である。
【0109】
得られた処理品について、平成3年環境庁告示第46号で規定された溶出試験を行った。溶出液中の六価クロム濃度および全クロム濃度を表4に示す。また、溶出液中のフッ素濃度も表4に示す。
【0110】
【表4】
Figure 0003752980
【0111】
表4に示す結果から、スラッジに鉄鋼二次精錬スラグAおよび石膏を添加し、さらに徐冷高炉スラグ、高炉水砕スラグ、コンクリート屑または石炭灰を添加する場合、鉄鋼二次精錬スラグAから供給されたカルシウムイオン、アルミニウムイオンおよびシリコンイオンが、石膏から供給された硫酸イオンと反応して、エトリンガイト3CaO・Al・3CaSO・32HO、少量のモノサルフェート3CaO・Al・CaSO・yHO(y=12または14)、Ca[(Si、S)O(OH)、Ca10(SiO(SO(OH)等が生成する際に、クロムイオンを固定する。
【0112】
また、スラッジに鉄鋼二次精錬スラグBおよび石膏を添加し、さらに徐冷高炉スラグ、高炉水砕スラグ、コンクリート屑または石炭灰を添加した場合、鉄鋼二次精錬スラグBから供給されたカルイウムイオンとアルミニウムイオンおよび鉄イオンが六価クロムイオンと反応して3CaO・Al・CaCrO・12HO、3CaO・(Al、Fe)・CaCrO・12HO、エトリンガイト、モノサルフェートが生成し、クロムイオンを固定する。
【0113】
これら反応生成物のクロム固定化効果は、溶液中で同時に生成するCaO−SiO−HO系化合物およびCaO−Al−SiO−HO系化合物のクロム固定化効果より著しく大きい。このため、徐冷高炉スラグ、高炉水砕スラグから溶出したカルシウムイオンとアルミニウムイオンとシリコンイオンによりCaO−SiO−HO系化合物およびCaO−Al−SiO−HO系化合物が生成したとしても、これら化合物のクロム固定化効果は小さいことから、結果的に高炉スラグはクロムの固定化にわずかしか寄与せず、むしろ増容材の役割を果たすことになる。
【0114】
また、表4に示す結果から、スラッジに鉄鋼二次精錬スラグCを添加し、さらに徐冷高炉スラグ、高炉水砕スラグ、コンクリート屑または石炭灰を添加する場合、鉄鋼二次精錬スラグCから供給されたカルシウムイオンおよびアルミニウムイオンが六価クロムイオンと反応して3CaO・Al・CaCrO・12HOが生成し、クロムイオンを固定化する。また、スラッジに鉄鋼二次精錬スラグCおよび石膏を添加し、さらに徐冷高炉スラグ、高炉水砕スラグ、コンクリート屑または石炭灰を添加する場合、鉄鋼二次精錬スラグCから供給されたカルシウムイオンおよびアルミニウムイオンが硫酸イオンおよび六価クロムイオンと反応してエトリンガイトおよびモノサルフェートが生成し、さらに3CaO・Al・CaCrO・12HOも生成して、クロムイオンを固定化する。
【0115】
いずれの配合においても溶出液中の六価クロム濃度は、土壌環境基準値(0.05mg/L以下)を下回ることがわかる。また、溶出液中の全クロム濃度は、クロムを含むスラッジからの溶出値(表2において0.24mg/L)と比べて著しく低減している。
【0116】
(実施例5)
クロムを含むスラッジまたはクロムを含む焼却残渣の100質量部に対して、粒度が0.1mm以下の鉄鋼二次精錬スラグAまたは鉄鋼脱珪スラグを70質量部、石膏を30質量部添加し、さらに、徐冷高炉スラグを0〜900質量部添加した。これらを混合した後、適量の水を加えて混練してから円柱状に圧粉成型し、60℃(エアバス中)、80℃(エアバス中)、120℃(オートクレーブ中)で3時間または6時間養生した。得られた処理品について、平成3年環境庁告示第46号で規定された溶出試験を行った。各試験における溶出液中の六価クロム濃度および全クロム濃度を表5に示す。
【0117】
【表5】
Figure 0003752980
【0118】
表5において、クロムを含むスラッジまたはクロムを含む焼却残渣に、鉄鋼二次精錬スラグまたは鉄鋼脱珪スラグを添加し、さらに石膏を添加した後に、適量の水を加えてさらに混合してから60℃以上で養生することにより、溶出液中の六価クロム濃度は土壌環境基準値(0.05mg/L以下)を大きく下回ることがわかる。これらの処理において、徐冷高炉スラグ等の増容剤を加えることによって、溶出液中の六価クロム濃度はさらに低下させることができる。
【0119】
以上の実施例1〜実施例5より、CaO・Al、5CaO・3Al、12CaO・7Al、9CaO・5Al、2CaO・Al、3CaO・Al、2CaO・SiO・Al等のカルシウムアルミネート化合物を含む二次精錬スラグの粉末を固定剤として用いることにより、クロムを含む精錬スラグ、クロムを含むダスト、クロムを含むスラッジ、クロムを含む焼却残渣、クロムを含む溶融飛灰、およびクロムを含む直接溶融飛灰からのクロムおよび六価クロムの溶出を、確実に抑制できることがわかる。
【0120】
また、これらカルシウムアルミネート化合物、CaO・SiO、3CaO・2SiO、8CaO・5SiO、2CaO・SiO、3CaO・SiO等のカルシウムシリケート化合物、および、これらの混合物の合成品、水和物、鉄鋼二次精錬スラグ、鉄鋼脱珪スラグの1種または2種以上を組み合わせて、石膏粉末または硫酸マグネシウム粉末または硫酸ナトリウムと混合し、その混合物を固定剤として用いることにより、クロムを含む精錬スラグ、クロムを含むダスト、クロムを含むスラッジ、クロムを含む焼却残渣、クロムを含む溶融飛灰、およびクロムを含む直接溶融飛灰からのクロムおよび六価クロム溶出を確実に抑制できることがわかる。さらに、徐冷高炉スラグ、高炉水砕スラグ、コンクリート屑、および、石炭灰の1種または2種以上を組合せたものを増容材として用いることが可能であることがわかる。
【0121】
(実施例6)
クロムを含むスラッジまたはクロムを含む焼却残渣の100質量部に対して、粒度が0.1mm以下の鉄鋼二次精錬スラッジAを30〜70質量部、石膏を0〜30質量部添加し、これらを混合した後、適量の水を加えて混練してから成型し、80℃(エアバス中)で3時間養生した。
【0122】
得られた処理品について、一軸圧縮試験をJIS A 5015、CBR試験を、JIS規格A1211にて評価試験を行った。
各試験における評価値を表6に示す。
【0123】
【表6】
Figure 0003752980
【0124】
表6に示す結果から、二次精錬スラグA:50質量部、石膏:30質量部の添加量であれば、路盤材としての規格強度(鉄鋼スラグ複合路盤材の規格値)である一軸圧縮強度および修正CBRの規格値を満足することがわかる。
【0125】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明によれば、クロムを含む精錬スラグ、クロムを含むダスト、クロムを含むスラッジ、クロムを含む焼却残渣、クロムを含む溶融飛灰、およびクロムを含む直接溶融飛灰といった、クロムを含む産業廃棄物を、確実に安定化処理することができる。
【0126】
また、本発明によれば、併せて、路盤材品質の規格値を満足することができ、再資源化としての用途利用が可能である。
さらに、本発明によれば、この処理に際して、低コストの鉄鋼二次精錬スラグまたは鉄鋼脱珪スラグを用いることもできるため、処理コストの上昇も確実に抑制できる。さらに、コンクリート屑および石炭灰等の産業廃棄物を用いることも可能であり、産業廃棄物の再資源化の面からも好ましい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 産業廃棄物について、本発明を実施する形態の安定化処理法を模式的に示す説明図である。
【図2】 実施例1において、溶出液中の六価クロム濃度および全クロム濃度と、CaO・Al合成品、12CaO・7Al合成品、あるいは3CaO・Al合成品の粒度との関係を示す図である。
【図3】 実施例2において、3CaO・SiO合成品、2CaO・SiO・Al合成品、あるいは、鉄鋼二次精錬スラグAの質量と、溶出液中の六価クロム濃度および全クロム濃度との関係を示す図である。
【符号の説明】
1 産業廃棄物
1a クロムを含むステンレス精錬スラグ
1b クロムを含むダスト
1c クロムを含むスラッジ
1d クロムを含む焼却残渣
1e クロムを含む溶融飛灰
1f クロムを含む直接溶融飛灰
2 カルシウムアルミネートを含む粉末および、カルシウムシリケートを含む粉末の 1種または2種の組合せからなる粉末
2a カルシウムアルミネート、カルシウムシリケートの合成品およびその水和物
2b 天然鉱石
2c 鉄鋼二次精錬スラグまたは鉄鋼脱珪スラグ
3 硫酸根を含む粉末
3a 石膏
3b 硫酸マグネシウム
3c 硫酸アルミニウム
3d 硫酸ナトリウム
3e 硫酸鉄
4 増容材
4a 徐冷高炉スラグ
4b 高炉水砕スラグ
4c コンクリート屑
4d 石炭灰
5 混合装置
6 安定化処理品(土中埋設用材料)
7 混練および造粒の二つの機能をあわせ持つ機械
8 造粒物
9 オートクレーブ装置または蒸気養生装置

Claims (16)

  1. SiO量が6質量%以下であるとともにT.Fe量が2質量%以下である、カルシウムアルミネートを含む二次精錬スラグの粉末をクロム固定剤として用い、クロムを含む産業廃棄物の安定化処理を行うことを特徴とするクロムを含む産業廃棄物の安定化処理方法。
  2. 前記クロムを含む産業廃棄物100質量部に対して、前記カルシウムアルミネートを含む二次精錬スラグの粉末を50〜150質量部添加する請求項1に記載されたクロムを含む産業廃棄物の安定化処理方法。
  3. 前記安定化処理は、前記クロムを含む産業廃棄物と、前記二次精錬スラグの粉末を、水の存在の下で反応させることによって、行われる請求項1または請求項2に記載されたクロムを含む産業廃棄物の安定化処理方法。
  4. 前記安定化処理は、水の存在の下で、オートクレーブ処理または蒸気養生を行うことによって、60℃以上の温度域に1時間以上加温加圧することによって、行われる請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載されたクロムを含む産業廃棄物の安定化処理方法。
  5. クロムを含む産業廃棄物に対して、合成されたカルシウムシリケート化合物、天然に産するカルシウムシリケート鉱物、およびカルシウムシリケートを含む脱珪スラグの1種または2種以上の組合せからなるカルシウムシリケートを含む粉末と硫酸根を含む粉末との混合物をクロム固定剤として添加することにより生成する、CaO−SiO−S−HO−F−Cr系化合物およびCaO−SiO−S−HO−Cr系ゲル状非晶質化合物、またはCaO−SiO−HO−F系化合物およびCaO−SiO−HO−Cr系ゲル状非晶質化合物によって前記クロムを捕捉することを特徴とするクロムを含む産業廃棄物の安定化処理方法。
  6. クロムを含む産業廃棄物100質量部に対して、合成されたカルシウムシリケート化合物、天然に産するカルシウムシリケート鉱物、およびカルシウムシリケートを含む脱珪スラグの1種または2種以上の組合せからなるカルシウムシリケートを含む粉末50〜150質量部と硫酸根を含む粉末20〜80質量部との混合物をクロム固定剤として添加して、水の存在下で、オートクレーブ処理または蒸気養生を行うことによって60℃以上の温度域に1時間以上加温加圧することにより、前記クロムを含む産業廃棄物の安定化処理を行うことを特徴とするクロムを含む産業廃棄物の安定化処理方法。
  7. 前記硫酸根を含む粉末は、石膏、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウムおよび硫酸鉄の1種または2種以上の組合せからなる請求項5または請求項6に記載されたクロムを含む産業廃棄物の安定化処理方法。
  8. 前記カルシウムアルミネートを含む二次精錬スラグの粉末の平均粒径、または、前記カルシウムシリケートを含む粉末の平均粒径は、2mm以下である請求項1から請求項7までのいずれか1項に記載されたクロムを含む産業廃棄物の安定化処理方法。
  9. 前記クロムを含む産業廃棄物は、クロムを含有する鋼材の圧延スラッジ、該圧延スラッジの焙焼時に発生する灰、クロムを含有する鋼材の酸洗スラッジ、クロムを含有する鋼材の溶製時に発生するスラグ、および都市ゴミの焼却灰のうちの少なくとも1種である請求項1から請求項8までのいずれか1項に記載されたクロムを含む産業廃棄物の安定化処理方法。
  10. クロムを含む産業廃棄物に、カルシウムアルミネートを含む二次精錬スラグの粉末と、徐冷高炉スラグ、高炉水砕スラグ、コンクリート屑および石炭灰のうちの1種または2種以上に由来する増容材とを添加することにより得られることを特徴とする土中埋設用材料。
  11. 前記クロムを含む産業廃棄物100質量部に対して、前記カルシウムアルミネートを含む二次精錬スラグの粉末を50〜150質量部、および前記増容材を900質量部以下添加する請求項10に記載された土中埋設用材料。
  12. クロムを含む産業廃棄物に、カルシウムシリケートを含む粉末、および硫酸根を含む粉末の混合物と、徐冷高炉スラグ、高炉水砕スラグ、コンクリート屑および石炭灰のうちの1種または2種以上に由来する増容材とを添加することにより得られることを特徴とする土中埋設用材料。
  13. 前記クロムを含む産業廃棄物100質量部に対して、前記カルシウムシリケートを含む粉末を50〜150質量部、前記硫酸根を含む粉末を20〜80質量部、および前記増容材を900質量部以下添加する請求項12に記載された土中埋設用材料。
  14. クロムを含む産業廃棄物に、カルシウムアルミネートを含む二次精錬スラグの粉末と、徐冷高炉スラグ、高炉水砕スラグ、コンクリート屑および石炭灰のうちの1種または2種以上に由来する増容材とを添加することを特徴とする土中埋設用材料の製造方法。
  15. クロムを含む産業廃棄物に、カルシウムシリケートを含む粉末、および硫酸根を含む粉末の混合物と、徐冷高炉スラグ、高炉水砕スラグ、コンクリート屑および石炭灰のうちの1種または2種以上に由来する増容材とを添加することを特徴とする土中埋設用材料の製造方法。
  16. 合成されたカルシウムシリケート化合物、天然に産するカルシウムシリケート鉱物、およびカルシウムシリケートを含む脱珪スラグの1種または2種以上の組合せからなるカルシウムシリケートを含む粉末100質量部に、硫酸根を含む粉末20〜100質量部を添加して混合することにより、クロムを含む産業廃棄物の安定化処理剤を製造することを特徴とするクロムを含む産業廃棄物の安定化処理剤の製造方法。
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