JP3749809B2 - 高温耐摩耗性および熱伝導性の優れた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環 - Google Patents

高温耐摩耗性および熱伝導性の優れた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環 Download PDF

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  • Powder Metallurgy (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、すぐれた高温耐摩耗性および熱伝導性を有し、かつ相手攻撃性 (ピストンリング攻撃性)の小さい冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、高速ディーゼルエンジンのピストンは、図8(a)の概略縦断面図に示されるように、ピストンリング耐摩環1をピストン鋳物本体2の鋳造時にトップランド部3直下に鋳包むことにより取り付け、その後このピストンリング耐摩環1の外周を切削することによりピストンリング耐摩環1の外周に断面コの字状のトップリング溝4を形成し、ピストンリング5をこのトップリング溝4に同(b)の要部縦断面図で示されるように嵌合して製造することは知られている。
【0003】
前記ピストン鋳物本体2は主としてSi:8〜13重量%を含有したAl−Si系合金で構成され、さらに上記ピストンリング耐摩環1は良好な耐摩耗性と相手攻撃性の低いFe−Ni−Cu系焼結材料(組成:Fe−8〜25%Ni−3.5〜10%Cu−2.0%以下C)や、Ni−Cu−Cr系オーステナイト鋳鉄であるニレジスト鋳鉄(組成:Fe−13〜16%Ni−5〜8%Cu−1.5〜2.4%Cr−1.4〜1.8%Si−0.5〜1.2%Mn−2.5〜3%C、以上重量%、以下%は重量%を示す)などの材料で構成されていることも知られる。
【0004】
このようにして製造したピストン鋳物本体2には、冷却空洞6が設けられており、この冷却空洞6にオイルを通すことによりピストン鋳物本体2自体およびピストンリング耐摩環1を冷却している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
一方、エンジンに対する排気ガス規制は年々厳しさを増す傾向にあり、同時に燃費の向上も依然として求められており、この対応手段として、近年、過給率を増大する傾向に有る。これら新型エンジンでは燃焼室内が従来のエンジンよりも高温になり、ピストンリング耐摩環も高温燃焼室の影響を受けるため、従来のFe−Ni−Cu系焼結材料やニレジスト鋳鉄で構成されているピストンリング耐摩環では急速な摩耗の進行は避けられない。
そのため、ピストン鋳物本体2内部に設けられた冷却空洞6を可能な限りピストンリング耐摩環1の近くに設けて耐摩環の熱影響を軽減しようとているが、ピストン鋳物本体2内部の冷却空洞6をピストンリング耐摩環1に接する程度に近くに形成することは難しい。
【0006】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、新型エンジンに組み込むことのできる高温耐摩耗性および熱伝導性の優れたピストンリング耐摩環を開発すべく研究を行った結果、
図1の一部斜視断面図に示されるように、空洞7を有する鋼パイプからなる内輪環8と鉄基焼結合金からなる外輪環9が同心円状に接合した構造を有するピストンリング複合耐摩環11は、
(a)肉厚の薄いリング状の鋼パイプで構成された内輪環8が鉄基焼結合金からなる外輪環9に直接接合しているために、外輪環9の冷却能力が改善されて高温耐摩耗性を向上させることができる、
(b)ピストンリング複合耐摩環の外輪環9を鉄基焼結合金に含まれるCu成分含有量を従来の鉄基焼結合金よりも多いCu:11〜40%とし、さらにこの鉄基焼結合金の組織が、Feを主成分とするFe基合金相をCuを主成分とするCu基合金相により結合している組織となっているために、熱伝導性にすぐれ、放熱性が良くなって温度上昇が低減され、したがって高温耐摩耗性が一層向上する、
(c)さらに、外輪環9がFeを主成分とする硬質なFe基合金相およびCuを主成分とする軟質なCu基合金相からなる硬軟混合組織からなるために、耐摩耗性に優れるとともに相手攻撃性が小さい特性を示し、さらにピストンリング複合耐摩環をピストン本体に鋳包るんだ場合に、ピストン本体を構成するAl−Si系合金との密着性が向上する、
という研究結果を得たのである。
【0007】
この発明は、上記の研究結果に基づいてなされたものであって、
)鋼パイプからなる内輪環と鉄基焼結合金からなる外輪環が同心円状に接合した構造を有する冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環であって、前記鉄基燒結合金からなる外輪環は、重量%で、Cu:11〜40%、Ni:0.5〜10%、C:0.001〜3%を含有し、残りがFeおよび不可避不純物からなる組成、並びにFeを主成分とするFe基合金相をCuを主成分とするCu基合金相により結合してなる組織を有する鉄基焼結合金で構成されている高温耐摩耗性および熱伝導性の優れた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環、
に特徴を有するものである。
【0008】
この発明の冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環の外輪環9を構成する鉄基焼結合金は、Feを主成分とするFe基合金相をCuを主成分とするCu基合金相で結合してなる組織を有するが、この組織中に遊離黒鉛が分散していることがありまた無いこともある。この遊離黒鉛の析出の有無は、鉄基燒結合金に含有する炭素の量によるもので、鉄基燒結合金に含有するCが0.8%未満では遊離黒鉛の析出は見られないが、0.8%を越えると遊離黒鉛が析出する。したがって、相手攻撃性(ピストンリング攻撃性)の一層小さい冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環を必要とするときは、C:0.8〜3%に調整し、相手攻撃性 (ピストンリング攻撃性)を考慮する必要の無いときは、C:0.001〜0.8%未満に調整した冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環を作ることが好ましい。
【0009】
この発明の冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環の鉄基焼結合金からなる外輪環9の組織を構成するFe基合金相およびCu基合金相の成分含有量はEPMAにより測定して求めることができる。EPMAにより測定した結果、前記Fe基合金相はNi、CuおよびCを含みかつFeを50重量%以上含んでおり、前記Cu基合金相はNi、FeおよびCを含みかつCuを50重量%以上含んでおり、さらにFe基合金相に含まれるNiおよびCの濃度は、Cu基合金相に含まれるNiおよびCの濃度よりも大であることが分かった。
【0010】
したがって、この発明は、
)鋼パイプからなる内輪環と鉄基焼結合金からなる外輪環が同心円状に接合した構造を有する冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環であって、前記鉄基燒結合金からなる外輪環は、重量%で、Cu:11〜40%、Ni:0.5〜10%、C:0.001〜3%を含有し、残りがFeおよび不可避不純物からなる組成、並びにFeを主成分とするFe基合金相をCuを主成分とするCu基合金相により結合してなる組織を有し、
前記Feを主成分とするFe基合金相は、Ni、CuおよびCを含みかつFeを50%以上含むFe基合金相であり、
前記Cuを主成分とするCu基合金相はNi、FeおよびCを含みかつCuを50%以上含むCu基合金相であり、
前記Fe基合金相に含まれるNiおよびCの濃度は、前記Cu基合金相に含まれるNiおよびCの濃度よりも大きい鉄基焼結合金で構成されている高温耐摩耗性および熱伝導性のすぐれた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環、
に特徴を有するものである。
【0011】
この発明の冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環の外輪環は、前記()または()記載の組成を有する鉄基焼結合金に、さらにMo:0.1〜15%、Cr:0.1〜10%の内の1種または2種を含有することが一層好ましく、これらMoおよびCrはいずれもFe基合金相およびCu基合金相に固溶するが、MoおよびCrの固溶量はFe基合金相の方がCu基合金相よりも多い。
したがって、この発明は、
)鋼パイプからなる内輪環と鉄基焼結合金からなる外輪環が同心円状に接合した構造を有する冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環であって、前記鉄基燒結合金からなる外輪環は、重量%で、Cu:11〜40%、Ni:0.5〜10%、C:0.001〜3%、Cr:0.1〜10%を含有し、残りがFeおよび不可避不純物からなる組成、並びにFeを主成分とするFe基合金相をCuを主成分とするCu基合金相により結合してなる組織を有する鉄基焼結合金で構成した高温耐摩耗性および熱伝導性のすぐれた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環、
)前記Feを主成分とするFe基合金相は、Ni、Cu、CrおよびCを含みかつFeを50%以上含むFe基合金相であり、
前記Cuを主成分とするCu基合金相は、Ni、Fe、CrおよびCを含みかつCuを50%以上含むCu基合金相であり、
前記Fe基合金相に含まれるNi、CrおよびCの濃度は、前記Cu基合金相に含まれるNi、CrおよびCの濃度よりも大きい前記()記載の高温耐摩耗性および熱伝導性のすぐれた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環、
)鋼パイプからなる内輪環と鉄基焼結合金からなる外輪環が同心円状に接合した構造を有する冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環であって、前記鉄基燒結合金からなる外輪環は、重量%で、Cu:11〜40%、Ni:0.5〜10%、C:0.001〜3%、Mo:0.1〜15%を含有し、残りがFeおよび不可避不純物からなる組成、並びにFeを主成分とするFe基合金相をCuを主成分とするCu基合金相により結合してなる組織を有する鉄基焼結合金で構成した高温耐摩耗性および熱伝導性のすぐれた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環、
)前記Feを主成分とするFe基合金相は、Ni、Cu、MoおよびCを含みかつFeを50%以上含むFe基合金相であり、
前記Cuを主成分とするCu基合金相は、Ni、Fe、MoおよびCを含みかつCuを50%以上含むCu基合金相であり、
前記Fe基合金相に含まれるNi、MoおよびCの濃度は、前記Cu基合金相に含まれるNi、MoおよびCの濃度よりも大きい前記()記載の高温耐摩耗性および熱伝導性のすぐれた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環、
)鋼パイプからなる内輪環と鉄基焼結合金からなる外輪環が同心円状に接合した構造を有する冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環であって、前記鉄基燒結合金からなる外輪環は、重量%で、Cu:11〜40%、Ni:0.5〜10%、C:0.001〜3%、Mo:0.1〜15%、Cr:0.1〜10%を含有し、残りがFeおよび不可避不純物からなる組成、並びにFeを主成分とするFe基合金相をCuを主成分とするCu基合金相により結合してなる組織を有する鉄基焼結合金で構成した高温耐摩耗性および熱伝導性のすぐれた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環、
)前記Feを主成分とするFe基合金相は、Ni、Cu、Mo、CrおよびCを含みかつFeを50%以上含むFe基合金相であり、
前記Cuを主成分とするCu基合金相は、Ni、Fe、Mo、CrおよびCを含みかつCuを50%以上含むCu基合金相であり、
前記Fe基合金相に含まれるNi、Mo、CrおよびCの濃度は、前記Cu基合金相に含まれるNi、Mo、CrおよびCの濃度よりも大きい前記()記載の高温耐摩耗性および熱伝導性のすぐれた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環、
に特徴を有するものである。
【0012】
Mo:0.1〜15%を含有する鉄基燒結合金からなる外輪環は、原料粉末としてMo含有量が15%以下のFe−Mo合金粉末を使用して製造すると、素地中に前記Moを主成分とした硬質粒子は生成しないが、原料粉末としてMo含有量が15%を越えるMo−Fe合金粉末を使用して製造すると、Moを50%以上含有するMoを主成分とした硬質粒子が素地中に分散している組織が得られ、この組織を有するピストンリング複合耐摩環は特に耐摩耗性が向上する。したがって、この発明は、
(9)前記(5),(6),(7)または(8)記載のMoを含む鉄基燒結合金からなる外輪環は、Feを主成分とするFe基合金相をCuを主成分とするCu基合金相により結合してなる素地中にMoを主成分とした硬質粒子が均一分散した組織を有する高温耐摩耗性および熱伝導性の優れた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環、に特徴を有するものである。
【0013】
前記(9)記載の発明を一層具体的に記載すると、
)鋼パイプからなる内輪環と鉄基焼結合金からなる外輪環が同心円状に接合した構造を有する冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環であって、前記鉄基燒結合金からなる外輪環は、重量%で、Cu:11〜40%、Ni:0.5〜10%、C:0.001〜3%、Mo:0.1〜15%を含有し、残りがFeおよび不可避不純物からなる組成、並びにFeを主成分とするFe基合金相をCuを主成分とするCu基合金相により結合してなる素地中にMoを主成分とした硬質粒子が分散している組織を有する鉄基焼結合金で構成した高温耐摩耗性および熱伝導性のすぐれた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環、
)前記Feを主成分とするFe基合金相は、Ni、Cu、MoおよびCを含みかつFeを50%以上含むFe基合金相であり、
前記Cuを主成分とするCu基合金相は、Ni、Fe、MoおよびCを含みかつCuを50%以上含むCu基合金相であり、
前記Fe基合金相に含まれるNi、MoおよびCの濃度は、前記Cu基合金相に含まれるNi、MoおよびCの濃度よりも大きい前記()記載の高温耐摩耗性および熱伝導性のすぐれた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環、
(ハ)鋼パイプからなる内輪環と鉄基焼結合金からなる外輪環が同心円状に接合した構造を有する冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環であって、前記鉄基燒結合金からなる外輪環は、重量%で、Cu:11〜40%、Ni:0.5〜10%、C:0.001〜3%、Mo:0.1〜15%、Cr:0.1〜10%を含有し、残りがFeおよび不可避不純物からなる組成、並びにFeを主成分とするFe基合金相をCuを主成分とするCu基合金相により結合してなる素地中にMoを主成分とした硬質粒子が分散している組織を有する鉄基焼結合金で構成した高温耐摩耗性および熱伝導性のすぐれた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環、
(ニ)前記Feを主成分とするFe基合金相は、Ni、Cu、Mo、CrおよびCを含みかつFeを50%以上含むFe基合金相であり、
前記Cuを主成分とするCu基合金相は、Ni、Fe、Mo、CrおよびCを含みかつCuを50%以上含むCu基合金相であり、
前記Fe基合金相に含まれるNi、Mo、CrおよびCの濃度は、前記Cu基合金相に含まれるNi、Mo、CrおよびCの濃度よりも大きい前記()記載の高温耐摩耗性および熱伝導性のすぐれた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環、となる。
【0014】
この発明の冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環の内輪環を構成する鋼パイプは、炭素鋼、合金鋼などいかなる鋼のパイプでも良いが、これらの鋼の内でもステンレス鋼パイプを使用することが耐熱性、強度、耐食性、コストなどの点から最も好ましい。
したがって、この発明は、
(10)前記内輪環を構成する鋼パイプは、ステンレス鋼パイプである前記(1)、(3)、(5)または(7)記載の高温耐摩耗性および熱伝導性の優れた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環、に特徴を有するものである。
この発明の冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環の内輪環を構成する鋼パイプは、図1の一部切欠き斜視図に示されるような断面が四角形であることが製造しやすいところから好ましいが、鋼パイプは断面が四角形に限定されるものではなく、図5および図6の一部切欠き斜視図に示されるような断面が円形であっても良く、その他任意の断面形状を有する鋼パイプを使用することができる。
【0015】
次に、前記(1)および(2)記載の成分組成を有するこの発明の冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環の製造方法を図面により具体的に述べる。
まず、図2(a)はこの発明の冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環の内輪環を構成するリング状鋼パイプ(以下、リングパイプという)18の断面図であり、このリングパイプ18は突合せ溶接して製造することができる。
次に、原料粉末として、Fe粉末、黒鉛粉末およびCu−Ni合金粉末を用意し、これら原料粉末を金型成形時の潤滑剤であるステアリン酸亜鉛粉末またはエチレンビスステアラミドとともにダブルコーンミキサーで混合して混合粉末を作製し、この混合粉末をプレス成形してリング状圧粉体(図2には図示せず)を作製し、このリング状圧粉体を仮燒結して図2(b)の断面図に示されるリング状仮燒結体19を作製する。このリング状仮燒結体19の内部に同心円状にリングパイプ18を図2(c)の断面図に示されるようにはめ込むことにより中間体15を作製し、この中間体15を本燒結することにより図1の一部切欠き斜視図に示されるような鋼パイプからなる内輪環と鉄基焼結合金からなる外輪環が同心円状に接合した構造を有するこの発明の冷却空洞7付きピストンリング複合耐摩環11を作ることができる。
【0016】
さらに、図3(a)の断面図に示されるリングパイプ18を、図3(b)の断面図に示される混合粉末をプレス成形して得られたリング状圧粉体29に直接図3(c)の断面図に示されるようにリング状圧粉体29が破壊しないように注意して同心円状にはめ込むことによりリングパイプ18およびリング状圧粉体29からなる中間体25を作製し、この中間体25をそのまま燒結することにより図1の一部切欠き斜視図に示されるような鋼パイプからなる内輪環と鉄基焼結合金からなる外輪環が同心円状に接合した構造を有するこの発明の冷却空洞7付きピストンリング複合耐摩環11を作ることができる。
【0017】
なお、図示されてはいないが、前記作製したリングパイプを所定の金型内にセットし、金型の内部側壁とリングパイプの間に前記作製した混合粉末を充填し、充填した混合粉末をプレス成形して圧粉体を形成することにより図3(c)の断面説明図に示されるリングパイプ18と圧粉体29が同心円状に接合してなる中間体25を作製し、この中間体25を燒結することにより、図1の一部切欠き斜視図に示されるような鋼パイプからなる内輪環8と鉄基焼結合金からなる外輪環9が同心円状に接合してなる構造を有するこの発明の冷却空洞7付きピストンリング複合耐摩環11を作製することもできる。
【0018】
前記図2(c)に示されるリングパイプ18およびリング状仮燒結19からなる中間体15の本燒結、並びに図3(c)のリングパイプ18およびリング状圧粉体29からなる中間体25の燒結は、水素含有窒素雰囲気中、温度:1100〜1300℃(好ましくは、1100〜1200℃)で行われる。前記中間体15および25の焼結により、中間体の外周に位置する仮燒結体19および圧粉体29は燒結して収縮し、リングパイプ18に密着すると共にリングパイプ18と燒結体は一部拡散接合し、図1に示される鋼パイプからなる内輪環8と鉄基焼結合金からなる外輪環9が同心円状に接合してなる構造のこの発明の冷却空洞7付きピストンリング複合耐摩環11を作製することができる。
【0019】
このようにして作製したピストンリング複合耐摩環11は、図4の概略縦断面図に示されるように、ピストンリング複合耐摩環11をピストン鋳物本体2の鋳造時にトップランド部3直下に鋳包むことによりピストン鋳物本体2の内部に鋼パイプからなる冷却空洞7を形成し、その後このピストンリング複合耐摩環11の外輪環9の外周を切削することによりピストンリング複合耐摩環11の外周に断面コの字状のトップリング溝4を形成し、ピストンリング5をこのトップリング溝4に嵌合してピストンに組み込まれる。
【0020】
この発明の冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環は、図5の一部切欠き斜視図に示されるように、リングパイプ18の断面形状は円形でも良く、断面円形のリングパイプを仮燒結体または圧粉体にはめ込むことにより中間体を作製し、これを燒結して作製することができる。このようにして得られたこの発明の冷却空洞7付きピストンリング複合耐摩環11は、内輪環8が断面円形であるために、内輪環8と外輪環9の接合部分Sが狭いが、図6の一部切欠き斜視図に示されるように、内輪環8の外半周部分を外輪環9で包み込んで接合部分Sを広くすることもできる。
【0021】
図6の一部切欠き斜視図に示されるこの発明の冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環11は、図7の断面説明図に示されるように、前記作製した断面円形のリングパイプ18を下金型10内にセットし、下金型10の内部側壁12と断面円形のリングパイプ18の間に前記作製した混合粉末13を充填し、充填した混合粉末13を上金型14によりプレス成形してリングパイプ18の外側半周部分に圧粉体を形成することにより中間体(この中間体は図示せず)を作製し、この中間体を燒結することにより作製することができる。圧粉体成形時に断面が円形のリングパイプ18は幾分つぶれて断面が楕円形状に変形することもあるが、冷却空洞が確保されるならば、多少の偏平化は差し支えない。
【0022】
さらに前記()〜()の内のいずれかに記載の成分組成を有する外輪環をもったこの発明の冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環を製造するには、原料粉末として、Fe粉末、黒鉛粉末およびCu−Ni合金粉末のほかに、Fe−Cr合金粉末、Fe−Mo合金粉末を用意し、これら原料粉末を所定量配合し混合し、さらに金型成形時の潤滑剤であるステアリン酸亜鉛粉末またはエチレンビスステアラミドとともにダブルコーンミキサーで混合し、混合粉末を作製する以外は、前記(1)〜()の記載のこの発明の冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環の製造方法と全く同じであるから、詳細な説明は省略する。
【0023】
素地中にMoを主成分とした硬質粒子が分散しない組織を有する前記()〜()記載の鉄基焼結合金で構成されている高温耐摩耗性および熱伝導性の優れた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環を製造するにはMo含有量が15%以下のFe−Mo合金粉末を添加して作製する。また、素地中にMoを主成分とした硬質粒子が分散している組織を有する前記()記載の鉄基焼結合金で構成されている高温耐摩耗性および熱伝導性の優れた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環は、Mo含有量が15%を越えるFe−Mo合金粉末を添加することにより製造する。
【0024】
前記中間体の圧粉体を焼結する際のメカニズムは、焼結初期段階においてCu−Ni合金の固溶共存域に昇温すると、Cu−Ni合金粉末のNiはFe粉末中へ拡散して始めにFe相とCu相の密着性を向上させる。燒結中期段階において、Cu−Ni合金からFeへの拡散量が増し、液相発生も徐々に増える。焼結後期段階においてはNiの大部分がFe粉末中へ拡散するところからCu−Ni合金粉末のNi含有量が下がって融点が下がり、一気にCu−Ni合金粉末は融解し、ダイナミックな液相焼結が進行して緻密化し、さらに焼結中にCuはFe粉末へ拡散する。燒結初期および燒結中期において徐々に液相が発生した後、燒結後期になって始めて大量の液相が発生するのでたわみや歪が発生することはない。
【0025】
つぎに、この発明のピストンリング複合耐摩環において、これを構成する外輪環の鉄基燒結合金の成分組成を上記の通りに限定した理由を説明する。
(a)Cu
Cuは、放熱性、相手攻撃性および耐摩耗性を向上さ、さらにピストン本体との密着性を向上させる効果があるが、その含有量が11重量%未満では所望の効果が得られず、一方、40重量%を越えると液相が過大となり、焼結中に変形が生じて寸法のバラツキが大きくなるので好ましくない。したがって、Cuの含有量は11〜40重量%に定めた。Cuの含有量の一層好ましい範囲は12〜25重量%である。
【0026】
(b)Ni
Niは、Cu合金相中においてCu合金相の融点を上昇させ、液相焼結をコントロールし、またFe合金相とCu合金相との密着性を向上させる作用があるが、その含有量が0.5重量%未満ではその効果が十分でなく、一方、10重量%を越えて含有してもそれ以上の効果が少ない。したがって、Niの含有量は0.5〜10重量%に定めた。Niの含有量の一層好ましい範囲は1〜8重量%である。
【0027】
(c)C
Cは、強度および硬さを向上させる作用があるが、その含有量が0.001重量%未満では所望の効果が得られず、一方、3.0重量%を越えて含有する靭性を低下させるので好ましくない。したがって、Cの含有量は0.001〜3重量%に定めた。Cの含有量の一層好ましい範囲は0.001〜1.6重量%である。
【0028】
(d)Cr
Cr成分は、オーステナイト相の素地に固溶して、これの耐熱性を向上させ、もってピストンリング複合耐摩環の高温耐摩耗性向上に寄与する作用をもつところから必要に応じて添加するが、その含有量が0.1%未満では前記作用に所望の向上効果が得られず、一方その含有量が10%を越えると靭性が低下するようになることから、その含有量を0.1〜10%、望ましくは0.3〜3%と定めた。
【0029】
(e)Mo
Mo成分は、素地に固溶して強度を向上させる作用をもち、さらにFeやCと合金化したMoを主成分とした硬質粒子を分散させて耐摩耗性を向上させるために、必要に応じて含有されるが、その含有量が0.1%未満では所望の強度向上効果が得られず、一方その含有量が15%を越えると、靭性が低下するので好ましくない。したがって、その含有量を0.1〜15%、望ましくは0.5〜10%と定めた。
【0030】
【発明の実施の形態】
まず、断面が正方形で縦:8mm×横:8mm×肉厚:1mmの寸法を有し、18−8ステンレス鋼からなるパイプをリング状に曲げ加工し、曲げ加工したリング状鋼パイプの端部を突合せ溶接して内径:84mm、外径:100mmの寸法を有するリングパイプを作製し用意した。
【0031】
実施例1
原料粉末として、平均粒径:55μmのアトマイズFe粉末、表1に示される平均粒径および成分組成を有するCu−Ni合金粉末A〜D、平均粒径:18μmの黒鉛粉末、を用意した。
【0032】
【表1】
Figure 0003749809
【0033】
これら原料粉末を表2に示される配合組成に配合し、潤滑材としてステアリン酸亜鉛を0.7%添加してV型ミキサーにて30分間混合して混合粉末を作製し、この混合粉末を6ton/cm2 の圧力でプレス成形してリング状圧粉体を作製し、このリング状圧粉体をN2−10%H2 雰囲気中、温度:1140℃に10分間保持の条件で仮焼結することにより外径:120mm×内径:100mm×厚さ:8mmの寸法をもった仮燒結体を作製し、この仮燒結体の内側に前記リングパイプにはめ込んで中間体を作製し、この中間体をN2−10%H2 雰囲気中、温度:1140℃に30分間保持の条件で本焼結することにより、外部に表2に示される成分組成を有する鉄基焼結合金からなる外輪環とその内部に内輪環が同心円状に接合してなる本発明ピストンリング複合耐摩環(以下、本発明複合耐摩環と云う)1〜10をそれぞれ製造した。上記本発明複合耐摩環1〜10の外輪環は、Feを主成分とするFe基合金相をCuを主成分とするCu基合金相で結合してなる組織を有していた。
【0034】
さらに、本発明複合耐摩環1〜10の外輪環の組織におけるFe基合金相およびCu基合金相の成分含有量をEPMAにより測定した結果、前記Fe基合金相はNi、CuおよびCを含みかつFeを50重量%以上含んでおり、前記Cu基合金相はNi、FeおよびCを含みかつCuを50重量%以上含んでおり、さらにFe基合金相に含まれるNiおよびCの濃度は、Cu基合金相に含まれるNiおよびCの濃度よりも大であることが分かった。
さらに、比較の目的で、同じく表2に示されるCuがこの発明の組成よりも少ない組成をもち、同じ寸法の比較ピストンリング耐摩環(以下、比較耐摩環と云う)を製造した。
【0035】
ついで、上記の本発明複合耐摩環1〜10および比較耐摩環を、通常の条件で前処理、すなわち脱脂、乾燥、および温度:700℃の後述の鋳造Al−Si系合金溶湯と同じ組成をもったAl−Si系合金溶湯中に5分間浸漬の前処理を施した状態で、それぞれ精密鋳造金型内に設置し、これにAl−12.4%Si−1.12%Cu−0.96%Mg−1.06%Niの組成をもったAl−Si系合金溶湯を鋳造してピストン本体を形成すると共に、前記各種耐摩環を鋳包み、ついで前記各種耐摩環の外周面に沿って切削加工にて溝深さ:7mm×溝幅:3mmの寸法のトップリング溝を形成することにより、トップリング溝を形成した耐摩環を有するAl−Si系合金製ピストンをそれぞれ製造した。
【0036】
さらに、冷却空洞に冷却用オイルを通すようにした後、これらのピストンを、排気量:8200ccの直列6気筒直噴ディーゼルエンジンに組み込み、回転数:2900rpm、エンジンの冷却温度:95℃、運転モード:500時間連続運転、負荷:フル出力の条件で加速運転試験を行ない、試験後の耐摩環のトップリング溝における外周面の最大溝幅増加量(最大溝幅−切削加工により形成した溝幅)を測定することにより高温耐摩耗性を評価し、また上記トップリング溝に嵌合されたピストンリング(Fe−2.7%Si−3.5%Cの組成をもった球状黒鉛鋳鉄製でCrメッキしたもの)の上下面における最大摩耗深さを測定することにより相手攻撃性を評価した。これらの測定結果を表2に示した。
【0037】
【表2】
Figure 0003749809
【0038】
表2に示される結果から、本発明複合耐摩環1〜10は、いずれも最大溝幅増加量が小さいところから優れた高温耐摩耗性を示し、かつ相手攻撃性もきわめて小さいのに対して、比較耐摩環は十分な高温耐摩耗性を具備しないために、トップリング溝の最大溝幅増加量が大きくなって好ましくないことが明らかである。
【0039】
実施例2
原料粉末として、平均粒径:55μmのアトマイズFe粉末、表1に示される平均粒径および成分組成を有するCu−Ni合金粉末、平均粒径:18μmの黒鉛粉末を用意し、さらに
平均粒径:40μmを有し、Crが表3に示される20〜80%の範囲内の所定量を含有し、残部:Feおよび不可避不純物からなるFe−Cr合金粉末、
平均粒径:50μmを有し、Moが表3に示される0.5〜15%の範囲内の所定量を含有し、残部:Feおよび不可避不純物からなるFe−Mo合金粉末を用意した。
【0040】
これら原料粉末を表3に示される配合組成に配合し、潤滑材としてステアリン酸亜鉛を0.7%添加してV型ミキサーにて30分間混合し、6ton/cm2 の圧力で実施例1と同じ形状および寸法をもったリング状圧粉体を作製し、この圧粉体を実施例1と同じ条件で仮燒結し、得られたリング状仮燒結体の内側に前記リングパイプをはめ込むことにより中間体を作製し、この中間体をN2−10%H2 雰囲気中、温度:1140℃に30分間保持の条件で焼結することにより表3に示される成分組成を有する外輪環とその内部に内輪環が同心円状に接合してなる冷却空洞を有する本発明複合耐摩環11〜20をそれぞれ製造した。上記本発明複合耐摩環11〜20の外輪環は、いずれもFeを主成分とするFe基合金相をCuを主成分とするCu基合金相で結合してなる組織を有していた。
【0041】
さらに、この発明の冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環の外輪環の組織を構成するFe基合金相およびCu基合金相の成分含有量をEPMAにより測定した結果、前記Fe基合金相はNi、CuおよびCを含みさらにCrおよび/またはMoを含み、かつFeを50重量%以上含んでおり、前記Cu基合金相はNi、FeおよびCを含みさらにCrおよび/またはMoを含み、かつCuを50重量%以上含んでおり、さらにFe基合金相に含まれるNiおよびCの濃度並びにCrおよび/またはMoの濃度は、Cu基合金相に含まれるNiおよびCの濃度並びにCrおよび/またはMoの濃度よりも大であることが分かった。
【0042】
ついで、上記の各種複合耐摩環を、実施例1と同様にしてAl−Si系合金溶湯中に5分間浸漬の前処理を施した状態で、それぞれ精密鋳造金型内に設置し、これにAl−12.4%Si−1.12%Cu−0.96%Mg−1.06%Niの組成をもったAl−Si系合金溶湯を鋳造してピストン本体を形成すると共に、前記複合耐摩環を鋳包み、ついで前記複合耐摩環の外周面に沿って切削加工にて溝深さ:7mm×溝幅:3mmの寸法のトップリング溝を形成することによりAl−Si系合金製ピストンをそれぞれ製造した。
【0043】
さらに、これらのピストンを実施例1と同様に、排気量:8200ccの直列6気筒直噴ディーゼルエンジンに組み込み、回転数:2900rpm、エンジンの冷却温度:95℃、運転モード:500時間連続運転、負荷:フル出力の条件で加速運転試験を行ない、試験後の複合耐摩環のトップリング溝における外周面の最大溝幅増加量(最大溝幅−切削加工により形成した溝幅)を測定することにより高温耐摩耗性を評価し、また上記トップリング溝に嵌合されたピストンリング(Fe−2.7%Si−3.5%Cの組成をもった球状黒鉛鋳鉄製でCrメッキしたもの)の上下面における最大摩耗深さを測定することにより相手攻撃性を評価し、これらの測定結果を表4に示した。
【0044】
【表3】
Figure 0003749809
【0045】
【表4】
Figure 0003749809
【0046】
表4に示される結果から、本発明複合耐摩環11〜20は、いずれもすぐれた高温耐摩耗性を示し、かつ相手攻撃性もきわめて小さいのに対して、表2のニレジスト鋳鉄からなる比較耐摩環は十分な高温耐摩耗性を具備するものでないために、摩耗進行が著しいことが明らかである。
【0047】
実施例3
実施例2におけるFe−Mo合金粉末の代わりに平均粒径:30μmを有し、Moが表5に示される15を超え〜60%の範囲内の所定量を含有し、残部:Feおよび不可避不純物からなるFe−Mo合金粉末を用意した以外は、実施例2と同じ原料粉末を用意した。
【0048】
これら原料粉末を表5に示される配合組成に配合し、潤滑材としてステアリン酸亜鉛を0.7%添加してV型ミキサーにて30分間混合し、実施例1と同じ条件で焼結することにより表6に示される成分組成を有し、実施例1と同じ形状および寸法を有する本発明複合耐摩環21〜31をそれぞれ製造した。上記本発明複合耐摩環21〜31は、いずれもFe基合金相をCu基合金相で結合してなる組織を有し、素地中にMoを主成分とする硬質粒子が分散していた。
【0049】
さらに、この発明の冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環の外輪環組織のFe基合金相およびCu基合金相の成分含有量をEPMAにより測定した結果、前記Fe基合金相はNi、CuおよびCを含みさらにCrおよび/またはMoを含みかつFeを50重量%以上含んでおり、前記Cu基合金相はNi、FeおよびCを含みさらにCrおよび/またはMoを含みかつCuを50重量%以上含んでおり、さらにFe基合金相に含まれるNiおよびCの濃度並びにCrおよび/またはMoの濃度は、Cu基合金相に含まれるNiおよびCの濃度並びにCrおよび/またはMoの濃度よりも大であることが分かった。
【0050】
ついで、上記の各種複合耐摩環を、実施例1と同様にしてAl−Si系合金溶湯中に5分間浸漬の前処理を施した状態で、それぞれ精密鋳造金型内に設置し、これにAl−12.4%Si−1.12%Cu−0.96%Mg−1.06%Niの組成をもったAl−Si系合金溶湯を鋳造してピストン本体を形成すると共に、前記複合耐摩環を鋳包み、ついで前記複合耐摩環の外周面に沿って切削加工にて溝深さ:7mm×溝幅:3mmの寸法のトップリング溝を形成することによりAl−Si系合金製ピストンをそれぞれ製造した。
【0051】
さらに、これらのピストンを実施例1と同様に、排気量:8200ccの直列6気筒直噴ディーゼルエンジンに組み込み、回転数:3500rpm、エンジンの冷却温度:95℃、運転モード:500時間連続運転、負荷:フル出力の条件で加速運転試験を行ない、試験後の複合耐摩環のトップリング溝における外周面の最大溝幅増加量(最大溝幅−切削加工により形成した溝幅)を測定することにより高温耐摩耗性を評価し、また上記トップリング溝に嵌合されたピストンリング(Fe−2.7%Si−3.5%Cの組成をもった球状黒鉛鋳鉄製でCrメッキしたもの)の上下面における最大摩耗深さを測定することにより相手攻撃性を評価し、これらの測定結果を表6に示した。
【0052】
【表5】
Figure 0003749809
【0053】
【表6】
Figure 0003749809
【0054】
表6に示される結果から、本発明複合耐摩環21〜30は、いずれもすぐれた高温耐摩耗性を示し、かつ相手攻撃性もきわめて小さいのに対して、表2の比較耐摩環は十分な高温耐摩耗性を具備するものでないために、摩耗進行が著しいことが明らかである。
【0055】
【発明の効果】
上述のように、この発明の冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環は、鋼パイプからなる内輪環が熱伝導性に優れかつ相手攻撃性の小さい鉄基燒結合金からなる外輪環に隣接している構造を有するところから、冷却性能に優れ、高温雰囲気下にあっても小さい相手攻撃性ですぐれた高温耐摩耗性を発揮し、エンジンの排気ガス規制に十分満足に対応することができ、かつエンジンの高出力化および省燃費化の促進に寄与するなど工業上有用な特性をもつものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環の一部切欠き斜視図である。
【図2】 この発明の冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環の製造方法を説明するための断面説明図である。
【図3】 この発明の冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環の製造方法を説明するための断面説明図である。
【図4】 この発明の冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環を組み込んだディーゼルエンジンのピストンを例示する概略縦断面図である。
【図5】 この発明の冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環の一部切欠き斜視図である。
【図6】 この発明の冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環の一部切欠き斜視図である。
【図7】 この発明の冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環の製造方法を説明するための断面説明図である。
【図8】 従来のディーゼルエンジンのピストンを例示する概略縦断面図(a)および同要部縦断面図(b)である。
【符号の説明】
1 ピストンリング耐摩環
2 ピストン鋳物本体
3 トップランド部
4 トップリング溝
5 ピストンリング
6 冷却空洞
7 冷却空洞
8 内輪環
9 外輪環
10 下金型
11 複合耐摩環
12 内部側壁
13 混合粉末
14 上金型
15 中間体
18 リングパイプ
19 リング状仮燒結体
25 中間体
29 リング状圧粉体

Claims (10)

  1. 鋼パイプからなる内輪環と鉄基焼結合金からなる外輪環が同心円状に接合した構造を有する冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環であって、前記鉄基燒結合金からなる外輪環は、重量%で、Cu:11〜40%、Ni:0.5〜10%、C:0.001〜3%を含有し、残りがFeおよび不可避不純物からなる組成、並びにFeを主成分とするFe基合金相をCuを主成分とするCu基合金相により結合してなる組織を有する鉄基焼結合金で構成されていることを特徴とする高温耐摩耗性および熱伝導性の優れた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環。
  2. 前記Feを主成分とするFe基合金相は、Ni、CuおよびCを含みかつFeを50%以上含むFe基合金相であり、
    前記Cuを主成分とするCu基合金相はNi、FeおよびCを含みかつCuを50%以上含むCu基合金相であり、
    前記Fe基合金相に含まれるNiおよびCの濃度は、前記Cu基合金相に含まれるNiおよびCの濃度よりも大きいことを特徴とする請求項記載の高温耐摩耗性および熱伝導性の優れた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環。
  3. 鋼パイプからなる内輪環と鉄基焼結合金からなる外輪環が同心円状に接合した構造を有する冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環であって、前記鉄基燒結合金からなる外輪環は、重量%で、Cu:11〜40%、Ni:0.5〜10%、C:0.001〜3%、Cr:0.1〜10%を含有し、残りがFeおよび不可避不純物からなる組成、並びにFeを主成分とするFe基合金相をCuを主成分とするCu基合金相により結合してなる組織を有する鉄基焼結合金で構成されていることを特徴とする高温耐摩耗性および熱伝導性の優れた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環。
  4. 前記Feを主成分とするFe基合金相は、Ni、Cu、CrおよびCを含みかつFeを50%以上含むFe基合金相であり、
    前記Cuを主成分とするCu基合金相は、Ni、Fe、CrおよびCを含みかつCuを50%以上含むCu基合金相であり、
    前記Fe基合金相に含まれるNi、CrおよびCの濃度は、前記Cu基合金相に含まれるNi、CrおよびCの濃度よりも大きいことを特徴とする請求項記載の高温耐摩耗性および熱伝導性の優れた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環。
  5. 鋼パイプからなる内輪環と鉄基焼結合金からなる外輪環が同心円状に接合した構造を有する冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環であって、前記鉄基燒結合金からなる外輪環は、重量%で、Cu:11〜40%、Ni:0.5〜10%、C:0.001〜3%、Mo:0.1〜15%を含有し、残りがFeおよび不可避不純物からなる組成、並びにFeを主成分とするFe基合金相をCuを主成分とするCu基合金相により結合してなる組織を有する鉄基焼結合金で構成されていることを特徴とする高温耐摩耗性および熱伝導性の優れた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環。
  6. 前記Feを主成分とするFe基合金相は、Ni、Cu、MoおよびCを含みかつFeを50%以上含むFe基合金相であり、
    前記Cuを主成分とするCu基合金相は、Ni、Fe、MoおよびCを含みかつCuを50%以上含むCu基合金相であり、
    前記Fe基合金相に含まれるNi、MoおよびCの濃度は、前記Cu基合金相に含まれるNi、MoおよびCの濃度よりも大きいことを特徴とする請求項記載の高温耐摩耗性および熱伝導性の優れた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環。
  7. 鋼パイプからなる内輪環と鉄基燒結合金からなる外輪環が同心円状に接合した構造を有する冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環であって、前記鉄基燒結合金からなる外輪環は、重量%で、Cu:11〜40%、Ni:0.5〜10%、C:0.001〜3%、Mo:0.1〜15%、Cr:0.1〜10%を含有し、残りがFeおよび不可避不純物からなる組成、並びにFeを主成分とするFe基合金相をCuを主成分とするCu基合金相により結合してなる組織を有する鉄基焼結合金で構成されていることを特徴とする高温耐摩耗性および熱伝導性の優れた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環。
  8. 前記Feを主成分とするFe基合金相は、Ni、Cu、Mo、CrおよびCを含みかつFeを50%以上含むFe基合金相であり、
    前記Cuを主成分とするCu基合金相は、Ni、Fe、Mo、CrおよびCを含みかつCuを50%以上含むCu基合金相であり、
    前記Fe基合金相に含まれるNi、Mo、CrおよびCの濃度は、前記Cu基合金相に含まれるNi、Mo、CrおよびCの濃度よりも大きいことを特徴とする請求項記載の高温耐摩耗性および熱伝導性の優れた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環。
  9. 前記請求項5,6,7または8記載のMoを含む鉄基燒結合金からなる外輪環は、Feを主成分とするFe基合金相をCuを主成分とするCu基合金相により結合してなる素地中にMoを主成分とした硬質粒子が均一分散した組織を有することを特徴とする高温耐摩耗性および熱伝導性の優れた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環。
  10. 前記内輪環を構成する鋼パイプは、ステンレス鋼パイプであることを特徴とする請求項1、3、5または7記載の高温耐摩耗性および熱伝導性の優れた冷却空洞付きピストンリング複合耐摩環。
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