JP3749278B2 - フォトクロミック材料 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、フォトクロミック材料を製造するための塗料及び該塗料を用いて得られるフォトクロミック材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
光が当たると着色し、光が当たらなくなると次第に退色するフォトクロミック材料が知られており、採光用建材やサングラスなどに応用されている。
このフォトクロミック性、すなわち着色・退色の可逆性は、一般にガラスという固体溶媒中に取り込まれた銀とハロゲン化物が、光によって、集合・分離する光化学反応過程から生ずる。
【0003】
フォトクロミック材料は、従前より、ガラス原料にハロゲン化銀(例えば、塩化銀や臭化銀)を混合したものを高温(約1000℃)で溶解してハロゲン化銀をガラスに溶解し、冷却固化後、約500℃で再度熱処理してハロゲン化銀の一部を微結晶として析出させる方法(ドープ法)によって製造されている。
特開平6−87629号公報は、上記のように製造したフォトクロミックガラス材料を微粉末にすることによって、複雑な形状物やプラスチックにフォトクロミック性を付与できることについて記載している。すなわち、フォトクロミックガラス微粉末とバインダー樹脂、有機溶剤等を配合して塗料とし、これをプラスチックフィルムなどの成形品に塗布したことを特徴とするフォトクロミック材や、該微粉末を透光性樹脂に混練してシート状に成形したプラスチック主体のフォトクロミック材について記載している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ドープ法によるフォトクロミックガラスは、一度製造したならばそのドープ量を変更することができないので、着色・退色性能を変えることができない。
また、ドープ法では、パターン化されたフォトクロミック性を示すガラスを製造することができない。
さらに、ドープ法によるフォトクロミックガラスの製造は、ガラスとハロゲン化銀を溶融混合する工程、微結晶の析出工程、などをはじめとする多数の工程、及びこれらの工程に付随する特殊な装置を要し、非常にコストがかかる。
【0005】
特開平6−87629号公報に記載のフォトクロミック塗料は、上記のように塗料として便利に使用できるとはいえ、ドープ法によるフォトクロミックガラスを微粉砕して得られるものであるため、上記のフォトクロミックガラスの製造に付随する課題を解決するものではなく、むしろ製造工程に関してはよりコスト高となる。
また、特開平6−87629号公報に記載のフォトクロミック材は、上記の製造コストにまつわる課題の他、バインダー樹脂が50重量%以上を占めるため、硬度、耐擦傷性が求められる用途には向いていない。
【0006】
本発明は、上記の如き従来技術における種々の問題を解決するために、ポリシラザン及びハロゲン化銀を含むフォトクロミック塗料、並びにこのような塗料を塗布して得られるフォトクロミック材料を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明によると、これらの及びその他の課題は、
(1)ポリシラザン及びハロゲン化銀を含むフォトクロミック塗料、並びに
(2)ポリシラザン及びハロゲン化銀を含むフォトクロミック塗料を基材に塗布後、該塗料をセラミック化したことを特徴とするフォトクロミック材料
によって解決される。
【0008】
本発明の好ましい実施態様を以下に列挙する。
(3)前記ポリシラザンが下記一般式(I):
【0009】
【化1】
【0010】
(上式中、R1 、R2 及びR3 は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、またはこれらの基以外でケイ素に直結する基が炭素である基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アルコキシ基を表わす。ただし、R1 、R2 及びR3 の少なくとも1つは水素原子である)で表わされる単位からなる主骨格を有する数平均分子量が100〜5万のポリシラザンである、(1)項記載のフォトクロミック塗料。
(4)前記ハロゲン化銀が、塩化銀、臭化銀及びヨウ化銀から成る群より選ばれた少なくとも1種である(1)又は(3)項記載のフォトクロミック塗料。
(5)前記ポリシラザンが下記一般式(I):
【0011】
【化2】
【0012】
(上式中、R1 、R2 及びR3 は、それぞれ独立に水素原子、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、またはこれらの基以外でケイ素に直結する基が炭素である基、アルキルシリル基、アルキルアミノ基、アルコキシ基を表わす。ただし、R1 、R2 及びR3 の少なくとも1つは水素原子である)で表わされる単位からなる主骨格を有する数平均分子量が100〜5万のポリシラザンである、(2)項記載のフォトクロミック材料。
(6)前記ハロゲン化銀が、塩化銀、臭化銀及びヨウ化銀から成る群より選ばれた少なくとも1種である(2)又は(5)項記載のフォトクロミック材料。
【0013】
(7)前記基材がプラスチックフィルムであることを特徴とする(2)、(5)又は(6)項記載のフォトクロミック材料。
(8)前記基材がガラス板であることを特徴とする(2)、(5)又は(6)項記載のフォトクロミック材料。
【0014】
(9)(7)項記載のフォトクロミック材料をガラス板の少なくとも片面に貼付したことを特徴とするフォトクロミックガラス。
(10)(7)項記載のフォトクロミック材料を中間膜としてガラス板を貼り合わせたことを特徴とするフォトクロミックガラス。
【0015】
本発明のフォトクロミック塗料によると、ハロゲン化銀濃度や塗布回数を変えることにより、基材に任意の着色・退色性能(調光性)を容易に付与することができる。
また、本発明のフォトクロミック塗料によると、フォトクロミック性を示すことが望まれる領域にのみこれを塗布することにより、容易にフォトクロミック性をパターン化することができる。
さらに、本発明のフォトクロミック塗料は、ポリシラザンとハロゲン化銀を単に混合するだけで得られるので、ガラスにハロゲン化銀をドープするための多数の工程及びこれらの工程に付随する特殊な装置を必要とせず、低コストで製造される。
【0016】
本発明のフォトクロミック材料は、ポリシラザンとハロゲン化銀を含む塗料を基材に塗布した後、そのポリシラザン成分をセラミック化することにより得られるので、複雑な形状の基材であってもその成形加工後に容易に製造することができる。
また、本発明によると、ポリシラザンとして低温セラミック化タイプを使用することにより、或いは低温セラミック化法を採用することにより、プラスチック基材(例えば、プラスチックフィルム)にも熱損傷を与えることなく容易にフォトクロミック性を付与することができる。
【0017】
このようにして得られたフォトクロミックフィルムをガラスに貼付したり、貼り合わせガラスの中間膜として使用する場合には、目的に応じたフォトクロミック性を示す種々のフィルムを選定することができ、またその変更も容易である。さらに、既存のガラス板に容易にフォトクロミック性を付与できると共に、ガラス板の飛散防止機能を併せ持たせることができる。
また、本発明のフォトクロミック塗料はポリシラザン成分を含む塗料を用いるために、セラミック化して得られたフォトクロミック材料は非常に高い硬度、耐擦傷性を示す。
【0018】
本発明のフォトクロミック塗料は、ポリシラザンとハロゲン化銀を含む。用いるポリシラザンは、分子内に少なくともSi−H結合、あるいはN−H結合を有するポリシラザンであればよく、ポリシラザン単独は勿論のこと、ポリシラザンと他のポリマーとの共重合体やポリシラザンと他の化合物との混合物でも利用できる。
用いるポリシラザンには、鎖状、環状、あるいは架橋構造を有するもの、あるいは分子内にこれら複数の構造を同時に有するものがあり、これら単独でもあるいは混合物でも利用できる。
【0019】
用いるポリシラザンの代表例としては下記のようなものがあるが、これらに限定されるものではない。セラミックス膜の硬度(緻密性)の点からはペルヒドロポリシラザンが好ましく、可撓性の点ではオルガノポリシラザンが好ましい。また、高温処理すると物性が損なわれるプラスチックや強化ガラスを基材とする場合には、低温セラミック化ポリシラザンを使用することが好ましい。これらポリシラザンの選択は、当業者であれば用途に合わせて適宜行うことができる。
上記一般式(I)でR1 、R2 及びR3 に水素原子を有するものは、ペルヒドロポリシラザンであり、その製造法は、例えば特公昭63−16325号公報、D. Seyferth らCommunication of Am. Cer. Soc., C-13, January 1983. に報告されている。これらの方法で得られるものは、種々の構造を有するポリマーの混合物であるが、基本的には分子内に鎖状部分と環状部分を含み、
【0020】
【化3】
【0021】
の化学式で表わすことができる。ペルヒドロポリシラザンの構造の一例を以下に示す。
【0022】
【化4】
【0023】
一般式(I)でR1 及びR2 に水素原子、R3 にメチル基を有するポリシラザンの製造方法は、D. Seyferth らPolym. Prepr., Am. Chem. Soc., Div. Polym. Chem., 25, 10(1984)に報告されている。この方法により得られるポリシラザンは、繰り返し単位が−(SiH2 NCH3 )−の鎖状ポリマーと環状ポリマーであり、いずれも架橋構造をもたない。
一般式(I)でR1 及びR3 に水素原子、R2 に有機基を有するポリオルガノ(ヒドロ)シラザンの製造法は、D. Seyferth らPolym. Prepr., Am. Chem. Soc., Div. Polym. Chem., 25, 10(1984)、特開昭61−89230号公報、同62−156135号公報に報告されている。これらの方法により得られるポリシラザンには、−(R2 SiHNH)−を繰り返し単位として、主として重合度が3〜5の環状構造を有するものや
(R3 SiHNH)X 〔(R2 SiH)1.5 N〕1-X (0.4<x<1)の化学式で示される分子内に鎖状構造と環状構造を同時に有するものがある。
【0024】
一般式(I)でR1 に水素原子、R2 及びR3 に有機基を有するポリシラザン、またR1 及びR2 に有機基、R3 に水素原子を有するものは、−(R1 R2 SiNR3 )−を繰り返し単位として、主に重合度が3〜5の環状構造を有している。
用いるポリシラザンは、上記一般式(I)で表わされる単位からなる主骨格を有するが、一般式(I)で表わされる単位は、上記にも明らかなように環状化することがあり、その場合にはその環状部分が末端基となり、このような環状化がされない場合には、主骨格の末端はR1 、R2 、R3 と同様の基又は水素であることができる。
【0025】
ポリオルガノ(ヒドロ)シラザンの中には、D. Seyferth らCommunication of Am. Cer. Soc., C-132, July 1984. が報告されている様な分子内に架橋構造を有するものもある。一例を下記に示す。
【0026】
【化5】
【0027】
また、特開昭49−69717号公報に報告されている様なR1 SiX3 (X:ハロゲン)のアンモニア分解によって得られる架橋構造を有するポリシラザン(R1 Si(NH)X )、あるいはR1 SiX3 及びR2 2SiX2 の共アンモニア分解によって得られる下記の構造を有するポリシラザンも出発材料として用いることができる。
【0028】
【化6】
【0029】
さらに、下記の構造(式中、側鎖の金属原子であるMは架橋をなしていてもよい)のように金属原子を含むポリメタロシラザンも出発材料として用いることができる。
【0030】
【化7】
【0031】
その他、特開昭62−195024号公報に報告されているような繰り返し単位が〔(SiH2 )n (NH)m 〕及び〔(SiH2 )r O〕(これらの式中、n、m、rはそれぞれ1、2または3である)で表わされるポリシロキサザン、特開平2−84437号公報に報告されているようなポリシラザンにボロン化合物を反応させて製造する耐熱性に優れたポリボロシラザン、特開昭63−81122号、同63−191832号、特開平2−77427号公報に報告されているようなポリシラザンとメタルアルコキシドとを反応させて製造するポリメタロシラザン、特開平1−138108号、同1−138107号、同1−203429号、同1−203430号、同4−63833号、同3−320167号公報に報告されているような分子量を増加させたり(上記公報の前4者)、耐加水分解性を向上させた(後2者)、無機シラザン高重合体や改質ポリシラザン、特開平2−175726号、同5−86200号、同5−331293号、同3−31326号公報に報告されているようなポリシラザンに有機成分を導入した厚膜化に有利な共重合シラザン、特開平5−238827号公報、特願平4−272020号、同5−93275号、同5−214268号、同5−30750号、同5−338524号明細書に報告されているようなポリシラザンにセラミック化を促進するための触媒的化合物を付加または添加したプラスチックスやアルミニウムなどの金属への施工が可能で、より低温でセラミック化する低温セラミック化ポリシラザンなども同様に使用できる。
【0032】
本発明では、さらに以下のような低温セラミック化ポリシラザンを使用することができる。例えば、本願出願人による特願平4−39595号明細書に記載されているケイ素アルコキシド付加ポリシラザンが挙げられる。この変性ポリシラザンは、上記一般式(I)で表されるポリシラザンと、下記一般式(II):
Si(OR4 )4 (II)
(式中、R4 は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、炭素原子数1〜20個を有するアルキル基またはアリール基を表し、少なくとも1個のR4 は上記アルキル基またはアリール基である)で表されるケイ素アルコキシドを加熱反応させて得られる、アルコキシド由来ケイ素/ポリシラザン由来ケイ素原子比が0.001〜3の範囲内かつ数平均分子量が約200〜50万のケイ素アルコキシド付加ポリシラザンである。
【0033】
低温セラミック化ポリシラザンの別の例として、本出願人による特開平6−122852号公報に記載されているグリシドール付加ポリシラザンが挙げられる。この変性ポリシラザンは、上記一般式(I)で表されるポリシラザンとグリシドールを反応させて得られる、グリシドール/ポリシラザン重量比が0.001〜2の範囲内かつ数平均分子量が約200〜50万のグリシドール付加ポリシラザンである。
低温セラミック化ポリシラザンのさらに別の例として、本願出願人による特願平5−35604号明細書に記載されているアセチルアセトナト錯体付加ポリシラザンが挙げられる。この変性ポリシラザンは、上記一般式(I)で表されるポリシラザンと、金属としてニッケル、白金、パラジウム又はアルミニウムを含むアセチルアセトナト錯体を反応させて得られる、アセチルアセトナト錯体/ポリシラザン重量比が0.000001〜2の範囲内かつ数平均分子量が約200〜50万のアセチルアセトナト錯体付加ポリシラザンである。上記の金属を含むアセチルアセトナト錯体は、アセチルアセトン(2,4−ペンタジオン)から酸解離により生じた陰イオンacac- が金属原子に配位した錯体であり、一般に式(CH3 COCHCOCH3 )n M〔式中、Mはn価の金属を表す〕で表される。
【0034】
本発明により用いるポリシラザンは、分子量が低すぎると、セラミック化時の収率が低くなり、実用的でない。一方分子量が高すぎると溶液の安定性が低く、健全な膜が得られない。これらの理由から、用いるポリシラザンの分子量は数平均分子量で下限は100、好ましくは500である。また、上限は5万、好ましくは10000である。
本発明のフォトクロミック塗料は、上記のポリシラザンの他、ハロゲン化銀を含む。ハロゲン化銀としては、塩化銀(AgCl)、臭化銀(AgBr)、ヨウ化銀(AgI)、等が用いられる。中でも、塩化銀及び臭化銀が好適に用いられる。ハロゲン化銀は、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0035】
ハロゲン化銀の濃度は、上記のポリシラザン及び後述の溶剤を含むフォトクロミック塗料全体を100重量%として、0.2重量%〜50重量%、好ましくは0.6重量%〜40重量%とする。ハロゲン化銀濃度が0.2重量%よりも少ないと、塗布してセラミック化した後の塗膜のフォトクロミック性が不十分となる。また、50重量%よりも多いと、ハロゲン化銀の分散性が悪くなり、実用的でなくなる。
ハロゲン化銀はポリシラザン塗料に均一に分散させるべきである。均一に分散させる方法としては、ボールミル、振動ミル、等の方法がある。
【0036】
本発明のフォトクロミック塗料は、上記のポリシラザン及びハロゲン化銀を、適当な溶剤中に溶解させたものである。溶剤としては、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素の炭化水素溶媒、ハロゲン化メタン、ハロゲン化エタン、ハロゲン化ベンゼン等のハロゲン化炭化水素、脂肪族エーテル、脂環式エーテル等のエーテル類を使用することができる。好ましい溶媒は、塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、ブロモホルム、塩化エチレン、塩化エチリデン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン等のハロゲン化炭化水素、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、エチルブチルエーテル、ブチルエーテル、1,2−ジオキシエタン、ジオキサン、ジメチルジオキサン、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル類、ペンタンヘキサン、イソヘキサン、メチルペンタン、ヘプタン、イソヘプタン、オクタン、イソオクタン、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の炭化水素等である。これらの溶剤を使用する場合、ポリシラザンの溶解度や溶剤の蒸発速度を調節するために、2種類以上の溶剤を混合してもよい。
溶剤の使用量(割合)は採用するコーティング方法により作業性がよくなるように選択され、また用いるポリシラザンの平均分子量、分子量分布、その構造によって異なるので、適宜、自由に混合することができる。好ましくは固形分濃度で5〜50重量%の範囲で混合することができる。
【0037】
本発明のフォトクロミック塗料は、当業者には周知の各種添加剤、例えば、感光性を増大させるための添加剤(例、CuO)、退色速度を向上させるための添加剤(例、NaCl)、対可視光感度を向上させるための添加剤(例、NaBr)、などを必要に応じて適当に含有することができる。
また、本発明のフォトクロミック塗料には、必要に応じて所望の充填剤及び/又は増量剤を加えることができる。充填剤の例としてはシリカ、アルミナ、ジルコニア、マイカを始めとする酸化物系無機物、炭化珪素、窒化珪素等の非酸化物系無機物の微粉、あるいはアクリル樹脂、フッ素樹脂、等の有機化合物、が挙げられる。また用途によってはアルミニウム、亜鉛、銅等の金属粉末の添加も可能である。さらに充填剤の例を詳しく述べれば、シリカゾル、ジルコニアゾル、アルミナゾル、チタニアゾル等のゾル:ケイ砂、石英、ノバキュライト、ケイ藻土等のシリカ系:合成無定形シリカ:カオリナイト、雲母、滑石、ウオラストナイト、アスベスト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム等のケイ酸塩:ガラス粉末、ガラス球、中空ガラス球、ガラスフレーク、泡ガラス球等のガラス体:窒化ホウ素、炭化ホウ素、窒化アルミニウム、炭化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ホウ化チタン、窒化チタン、炭化チタン等の非酸化物系無機物:炭酸カルシウム:酸化亜鉛、アルミナ、マグネシア、酸化チタン、酸化ベリリウム等の金属酸化物:硫酸バリウム、二硫化モリブデン、二硫化タングステン、弗化炭素その他無機物:アルミニウム、ブロンズ、鉛、ステンレススチール、亜鉛等の金属粉末:カーボンブラック、コークス、黒鉛、熱分解炭素、中空カーボン球等のカーボン体等があげられる。好ましい充填剤は、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムなどの酸化物系無機物の超微粒子、シリカゾル及びアクリル樹脂、フッ素樹脂である。
【0038】
これら充填剤は、針状(ウィスカーを含む)、粒状、鱗片状等種々の形状のものを単独又は2種以上混合して用いることができる。これら充填剤の粒子の大きさは1回に適用可能な膜厚よりも小さいことが望ましい。また充填剤の添加量はポリシラザン1重量部に対し、0.05〜10重量部の範囲であり、特に好ましい添加量は0.2〜3重量部の範囲である。
コーティング用組成物には、必要に応じて各種顔料、レベリング剤、消泡剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、分散剤、表面改質剤、可塑剤、乾燥促進剤、流れ止め剤、等を加えてもよい。
【0039】
本発明のフォトクロミック材料の基材としては、ガラスの他、種々のプラスチック材料(特に、透明プラスチックフィルム)が包含され、例えば、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリエーテルサルファイド、ポリエステル、ポリプロピレン、等が挙げられる。好ましいプラスチックフィルムはポリエチレンテレフタレート(PET)である。
ガラスやプラスチック基材の面積や厚さには特に制限はなく、用途に応じた任意の面積及び厚さのガラス、プラスチック基材を使用することができる。
【0040】
本発明によると、上記のようなフォトクロミック塗料を上記のようなガラスまたはプラスチック基材の少なくとも片面に適用することによってポリシラザンの膜を形成する。適用方法は、通常実施されている塗布方法、すなわちスピンコート、浸漬、ロール塗り、バー塗り、刷毛塗り、スプレー塗り、フロー塗り等が用いられる。また、塗布前に基板をヤスリがけ、脱脂、各種ブラスト、等で表面処理しておくとフォトクロミック塗料の付着性が向上する。
このような方法でコーティングし、十分乾燥させた後、その塗膜に必要に応じて焼成工程を含むセラミック化工程を施す。このセラミック化工程によってポリシラザンが架橋、縮合、あるいは、焼成雰囲気によっては酸化、加水分解して硬化し、フォトクロミック性を有する強靱な被覆を形成する。
【0041】
上記セラミック化の条件は、用いるポリシラザンの分子量や構造などによって異なる。焼成する場合、その焼成温度はポリシラザンがセラミック化する温度、通常400℃以上が好ましいが、より低温でセラミック化するタイプのポリシラザンでは、例えば130〜350℃でもよい。昇温速度は特に限定しないが、5〜20℃/分の緩やかな昇温速度が好ましい。焼成雰囲気は酸素中、空気中あるいは不活性ガス等のいずれであってもよいが、空気中がより好ましい。空気中での焼成により金属微粒子添加ポリシラザンの酸化、あるいは空気中に共存する水蒸気による加水分解が進行し、上記のような低い焼成温度でSi−O結合あるいはSi−N結合を主体とする強靱な被膜の形成が可能となる。この被膜はポリシラザンに由来するため窒素を原子百分率で0.005〜5%含有する。
【0042】
低温セラミック化ポリシラザンを使用した場合には、上記のような方法でコーティングした後、プラスチック基材やガラス(特に、強化ガラス)を損なわない温度、好ましくは150℃以下で加熱処理を施す。一般に、加熱処理を150℃以上で行うと、プラスチック基材が変形したり、その強度が劣化するなど、プラスチック基材が損なわれる。しかしながら、ポリイミド等の耐熱性の高いプラスチック基材の場合にはより高温での処理が可能であり、この加熱処理温度は、基材の種類によって当業者が適宜設定することができる。加熱雰囲気は酸素中、空気中のいずれであってもよい。
上記の温度での熱処理においてはSi−O、Si−N、Si−H、N−Hが存在する膜が形成される。この膜はまだセラミックスへの転化が不完全である。この膜を、次に述べる2つの方法▲1▼及び▲2▼のいずれか一方又は両方によって、セラミックスに転化させることが可能である。
【0043】
▲1▼水蒸気雰囲気中での熱処理。
圧力は特に限定されるものではないが、1〜3気圧が現実的に適当である。相対湿度は特に限定されるものではないが、10〜100%RHが好ましい。温度は室温以上で効果的であるが室温〜150℃が好ましい。熱処理時間は特に限定されるものではないが10分〜30日が現実的に適当である。
水蒸気雰囲気中での熱処理により、低温セラミック化ポリシラザンの酸化または水蒸気との加水分解が進行するので、上記のような低い加熱温度で、実質的にSiO2 からなる緻密な膜の形成が可能となる。但し、このSiO2 膜はポリシラザンに由来するため窒素を原子百分率で0.005〜5%含有する。この窒素含有量が5%よりも多いと膜のセラミック化が不十分となり所期の効果(例えば紫外線防止性や硬度)が得られない。一方、窒素含有量を0.005%よりも少なくすることは困難である。好ましい窒素含有量は原子百分率で0.1〜3%である。
【0044】
▲2▼触媒を含有した蒸留水中に浸す。
触媒としては、酸、塩基が好ましく、その種類については特に限定されないが、例えば、トリエチルアミン、ジエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、n−ヘキシルアミン、n−ブチルアミン、ジ−n−ブチルアミン、トリ−n−ブチルアミン、グアニジン、ピグアニン、イミダゾール、1,8−ジアザビシクロ−〔5,4,0〕−7−ウンデセン、1,4−ジアザビシクロ−〔2,2,2〕−オクタン等のアミン類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、ピリジン、アンモニア水等のアルカリ類;リン酸等の無機酸類;氷酢酸、無水酢酸、プロピオン酸、無水プロピオン酸のような低級モノカルボン酸、又はその無水物、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸のような低級ジカルボン酸又はその無水物、トリクロロ酢酸等の有機酸類;過塩素酸、塩酸、硝酸、硫酸、スルホン酸、パラトルエンスルホン酸、三フッ化ホウ素及びその電気供与体との錯体、等;SnCl4 、ZnCl2 、FeCl3 、AlCl3 、SbCl3 、TiCl4 などのルイス酸及びその錯体等を使用することができる。好ましい触媒は塩酸である。触媒の含有割合としては0.01〜50重量%、好ましくは1〜10重量%である。保持温度としては室温から沸点までの温度にわたって有効である。保持時間としては特に限定されるものではないが10分〜30日が現実的に適当である。
【0045】
触媒を含有した蒸留水中に浸すことにより、低温セラミック化ポリシラザンの酸化あるいは水との加水分解が、触媒の存在により更に加速され、上記のような低い加熱温度で、実質的にSiO2 からなる緻密な膜の形成が可能となる。但し、先に記載したように、このSiO2 膜はポリシラザンに由来するため窒素を同様に原子百分率で0.005〜5%含有する。
本発明では、本願出願人による特願平6−236881号明細書に記載されているセラミック化法を採用することもできる。この方法によれば、本発明のフォトクロミック塗料を基材に塗布し、十分に乾燥した後、その塗膜にアルコキシシランと水を含む混合溶液を(例えば、浸漬法や噴霧法により)接触させるだけで常温においてもポリシラザンがセラミック化し、実質的にSiO2 からなる緻密な膜が得られる。
【0046】
この特願平6−236881号明細書に記載されている方法に用いられるアルコキシシランは、ゾル−ゲル法によるSiO2 系セラミック被膜の形成に一般に用いられるアルコキシシランの中から任意に選ぶことができる。
好適なアルコキシシランは、Si(OR)4 〔式中、Rは、各々独立に、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアミノ基またはアルキルシリル基を表す〕で示されるアルコキシシランである。好ましいRは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基及びイソプロペニル基である。中でも特に好ましいアルコキシシランは、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランである。
【0047】
この方法では、上記のアルコキシシランの他、R’n Si(OR)4-n 〔式中、Rは、各々独立に、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアミノ基またはアルキルシリル基を表し、R’は、各々独立に、上記Rの他、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基またはメルカプト基を表し、そしてnは1〜2の整数である〕で表される有機アルコキシシラン、又はR’n (RO)3-n Si−R”−Si(OR)3-m R’m 〔式中、Rは、各々独立に、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアミノ基またはアルキルシリル基を表し、R’は、各々独立に、上記Rの他、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基またはメルカプト基を表し、R”は、2価の有機結合基または−O−を表し、nは0〜3、mは0〜3の整数を表すが、但し、n+mは4以下である〕で表されるアルコキシジシランを使用してもよい。このような有機基R’及びR”は、得られる最終のセラミック被膜が所望の膜質(例えば、耐熱性、耐磨耗性、可撓性)を示すように、当業者であれば適宜選択することができる。
【0048】
反応性の混合溶液に用いられる水(H2 O)には、通常のイオン交換水、工業用水、濾過水、等が使用できる。しかしながら、得られる最終セラミック被膜の膜質等を考慮した場合、純水を使用することが好ましい。また、水の代わりに過酸化水素水を使用することは可能である。
混合溶液中のアルコキシシランと水の存在比率は、体積基準でアルコキシシラン/水=0.01〜100、より好ましくは0.1〜10の範囲が好ましい。この比率が0.01よりも小さいと、水による反応が主体となり、得られるセラミックスの膜質が悪くなる。一方、100よりも大きいと、アルコキシシランの加水分解速度が遅くなる。また、この比率を変更することによって混合溶液の反応性を制御することができる。
【0049】
このように、特願平6−236881号明細書に記載されているセラミック化法を採用すると、常温でもフォトクロミック塗膜をセラミック化することができるので、加熱が好ましくない基材(例えば、低融点プラスチック)に対してもフォトクロミック性を付与することができる。
1回の塗布で得られるフォトクロミック被膜の厚さは、好ましくは1〜40μm、より好ましくは1〜20μmの範囲である。膜厚が40μmよりも厚いとセラミック化時に割れが入ることが多く、また曇りが生じることによりヘイズ率(透明板の場合、3%以下が好ましい)が増加してしまう。反対に、膜厚が1μmよりも薄いと所期の効果、例えば所望のフォトクロミック性が得られない。この膜厚は、コーティング用組成物の濃度を変更することによって制御することができる。すなわち、膜厚を増加するためにコーティング用組成物の固形分濃度を高くする(溶剤濃度を低くする)ことができる。また、コーティング用組成物を複数回塗布することによって膜厚をさらに増加させることもできる。
【0050】
こうして、本発明のフォトクロミック塗料をセラミック化すると、硬度8H以上、さらには9H以上(鉛筆硬度)の高硬度で且つ緻密な実質的にSiO2 からなる膜が塗布、硬化という通常の簡便な方法で得られる。このようにして得られる実質的にSiO2 からなる膜はハロゲン化銀、好ましくは塩化銀及び/又は臭化銀を含むので、従来のフォトクロミックガラス同様、光によって可逆的に着色・退色する。
【0051】
また、本発明によると、上記のように、基材の少なくとも片面にハロゲン化銀を含みフォトクロミック性を有する実質的にSiO2 からなる膜を形成した後、さらにその膜上に、或いは該膜を有しない反対面上に、上記のようなポリシラザンをセラミック化したハロゲン化銀を含まない別の実質的にSiO2 からなる膜を形成させてもよい。
この付加的なSiO2 膜は、ハロゲン化銀を含むSiO2 膜よりも硬度が高く且つ透明であるため、これをオーバーコートとして使用することにより本発明のフォトクロミック材料の硬度、耐擦傷性をさらに向上させることができる。
【0052】
基材を透明なプラスチックフィルムとしたフォトクロミック材料の場合には、これをガラスの少なくとも片面に貼付することによって、既存のガラス板に簡単に任意のフォトクロミック性を付与することができる。その際、フィルムのセラミック化した塗料面(上記のオーバーコートを有する場合にはオーバーコート面)を外側に向けて貼付すれば、実質的にSiO2 からなる膜による硬度、耐擦傷性も同時に付与することができる。
また、基材を透明なプラスチックフィルムとしたフォトクロミック材料を、ガラスを貼り合わせる際の中間膜として使用した場合には、フォトクロミック性を任意に選定することができる他、破損時にガラスが飛散しないよう飛散防止機能をも付与することができる。
【0053】
上記のようにフォトクロミック性を有するプラスチックフィルムを貼り合わせる場合には、これを貼り換えるだけで容易にフォトクロミック性を変更することができる。
【0054】
【実施例】
実施例によって本発明をさらに説明する。
【0055】
実施例1
120℃硬化タイプのポリシラザン(PCP)液〔数平均分子量Mn=1000、濃度20重量%、キシレン溶液〕に、硬化後のSiO2 中のAg含有量が1重量%となるようにAgBr(臭化銀)を添加分散することによって塗料液を調製した。
該塗料液を、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム表面の片面にグラビアコート法により乾燥塗膜厚が6μmとなるように塗布した。塗布後、130℃で10秒間乾燥することにより塗膜中のキシレン溶剤を蒸発させた後、その塗膜をさらに120℃で1時間処理した。次いで、その塗膜を、温度95℃/相対湿度80%の雰囲気において30時間処理することによりセラミック化した。
【0056】
このようにして得られた塗膜は実質的にSiO2 からなるセラミック膜であるが、元素分析によると、添加したAgBrの他、ポリシラザン由来の窒素を原子百分率で0.005〜5%含むことが確認された。
また、このセラミック膜は、基材のPETフィルムに対する密着性も良好であり、さらに鉛筆硬度で9H以上という高い硬度を示した。
【0057】
このフォトクロミック性セラミック膜担持フィルムを、そのセラミック膜側を外側に向けてガラス板の片面に貼り合わせて調光ガラスを製作した。
この調光ガラスのフォトクロミック性能を、全線透過率計を用い、透過光波長440〜700nmにおいて評価した。その結果、光透過率は退色時に82%、着色時に61%であった。
【0058】
実施例2
250℃硬化タイプPCP液〔数平均分子量Mn=1000、濃度20重量%、キシレン溶液〕に、硬化後のSiO2 中のAg含有量が0.7重量%となるようにAgBrを添加分散することによって塗料液を調製した。
該塗料液を、ガラス板表面の片面にスプレー塗布法により乾燥塗膜厚が20μmとなるように塗布した。塗布後、300℃で1時間加熱することにより塗膜をセラミック化し、調光ガラスを得た。
【0059】
このようにして得られた塗膜は実質的にSiO2 からなるセラミック膜であるが、元素分析によると、添加したAgBrの他、ポリシラザン由来の窒素を原子百分率で0.005〜5%含むことが確認された。
また、このセラミック膜は、基材のガラス板に対する密着性も良好であり、さらに鉛筆硬度で9H以上という高い硬度を示した。
この調光ガラスのフォトクロミック性能を、全線透過率計を用い、透過光波長440〜700nmにおいて評価した。その結果、光透過率は退色時に86%、着色時に56%であった。
【0060】
【発明の効果】
本発明によると、ポリシラザンとハロゲン化銀を含むフォトクロミック塗料を使用することにより、プラスチックや強化ガラスなどの基材をこれらを損なうほど高温の熱処理にさらすことなく塗布等の簡便な方法によって、これらの基材に任意のフォトクロミック性を付与することができる。
Claims (1)
- ポリシラザン及びハロゲン化銀を含むフォトクロミック塗料を基材に塗布後、該塗料を、相対湿度10〜100%RHの水蒸気雰囲気中室温〜150℃で熱処理する工程及び/又は酸もしくは塩基を含有した蒸留水中に浸す工程によってセラミック化したことを特徴とするフォトクロミック材料。
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