JP3748586B2 - 耐久性に優れた燃料噴射弁装置及びその製造方法 - Google Patents

耐久性に優れた燃料噴射弁装置及びその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、燃料噴射弁の摺動部及びストッパ部の耐久性を向上させるようにした燃料噴射弁装置及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ガソリンエンジン用の燃料噴射弁装置のバルブ及びバルブシートの材料として、JIS−SUS440Cを焼入れ、焼戻し処理したものが、またバルブの作動を規制するストッパ部材の材料としてJIS−SUS440Cを焼なまし処理したものが知られている。
また、ディーゼルエンジン用の燃料噴射弁装置のバルブとしてJIS−SKH2を焼入れ、焼戻し処理したものが、またバルブシートとしてJIS−SCM420Hに浸炭焼入れしたものが知られている。
【0003】
一方、近年重要視されている環境問題に対処するため、ガソリン、軽油等の石油系燃料に代えてアルコール系燃料の使用が検討され、アルコール系燃料は石油系燃料に較べて潤滑性に劣り、材料の摩擦が生じやすく、含有水分とかアセトアルデヒド、ホルムアルデヒド等のアルコールの酸化物とか、酢酸、蟻酸等の不純物によって腐食性が生じやすいため、アルコール系燃料に適合する燃料噴射装置のバルブ及びバルブシートとして、特開平4−141560号公報に示されるようなものが知られている。
【0004】
更に、環境問題対処技術の一環として燃焼室等に燃料を直接噴射する筒内噴射エンジンも検討されており、このような形式のエンジンでは、燃料噴射弁の一部が燃焼室内に臨み、その周囲の雰囲気温度は摂氏300℃以上にも及ぶことから、高温化での耐久性と耐摩耗性を一層高めるため例えば特願平5−163980号公報に示されるようなものも知られている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、上記のような燃料噴射弁装置の各種材料でも、使用環境が厳しい場合、特に燃料噴射弁に激しい振動が加わるような状況下では、耐摩耗性が不足し、この摩耗に起因して作動特性にバラツキが生じるという問題があった。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため本発明は、燃料噴射弁のバルブ又はバルブシートとして、重量%でC;1.75〜3.0%、Si;1.0%以下、Mn;1.0%以下、Cr;9.0〜20.0%、MoとWの一種又は二種をMo+1/2W;1.0〜10.0%、VとNbの一種又は二種をV+1/2Nb;1.0〜6.5%、Co;1.0〜5.0%、を含有し残Feからなる成分を有し、熱処理後の硬さHRC63以上で且つ素地中の炭化物粒径が10μm以下の鋼材を使用するようにした。そしてこの鋼材は、例えば上記成分の合金微粉末を熱間等方圧縮(HIP)して得たビレットを更に熱間鍛造して形成した圧密体である。
また、燃料噴射弁のストッパ部材に、ビッカース硬さ1000以上の炭化物等の硬質微細粒子を含まず、且つ母材の硬さがビッカース硬さ170以上のオーステナイト系ステンレス鋼を使用するようにした。
【0007】
更に、本発明に係る燃料噴射弁装置の製造方法は、重量%でC;1.0〜3.0%、Si;1.0%以下、Mn;1.0%以下、Cr;9.0〜20.0%、MoとWの一種又は二種をMo+1/2W;1.0〜10.0%、VとNbの一種又は二種をV+1/2Nb;1.0〜6.5%、Co;1.0〜5.0%、を含有し残Feからなる成分割合の合金粉末を熱間等方圧縮(HIP)してビレットとし、このビレットを熱間鍛造・圧延により素地中の平均炭化物粒径が10μm以下の圧密鋼材とし、この鋼材を燃料噴射弁のバルブ又はバルブシートに加工後、熱処理によりHRC63以上の硬さとなるようにした。
【0008】
【作用】
バルブ又はバルブシートの成形にあたり、上記成分の鋼材(圧密体)を焼入れ、焼戻し処理すると、マルテンサイト素地中に炭化物が微細に析出して、耐摩耗性に優れた特性が得られる。従って激しい振動下でアルコール系燃料を使用した場合とか、燃焼室内に燃料を直接噴射するような場合でも、摺動部の耐久性を向上させることが出来る。
【0009】
上記効果を得るために熱処理硬さをHRC63以上とした。また耐摩耗性を良好とするためには素地中の炭化物を微細に分散させて偏摩耗を防止して摩耗の均一性を維持することが重要で、上記効果を得るために素地中の平均炭化物粒径を10μm以下とした。
【0010】
また、ストッパ部材に硬質微細粒子を含まない材料を使用することで、ストッパー部にバルブとの衝撃によるストッパー摩耗が生じても摩耗粉が摺動部に悪影響(摩耗粉が摺動部に入り込むことによる摺動部の摩耗、いわゆるアブレッシブ摩耗)を与えず、耐久性が向上する。
【0011】
ここで、上記成分の限定理由について述べる。
Cは、Fe素地中に固溶し、焼入れした際に素地をマルテンサイト化するとともにCr、Mo、W、V、Nbとの炭化物を形成するため、硬さ及び耐摩耗性の向上のためには必須の元素である。本案の噴射弁に必要な硬さを得るためには、最低1.0%の添加が必要であり、更に耐摩耗性向上のための炭化物を形成するためには多い方が望ましいが、過剰に添加すると熱間加工性が低下するので、1.0〜3.0%の範囲とした。
【0012】
Siは、鋼の脱酸材として添加されるが、一部は鋼中に入り込んで素地を強化し耐摩耗性を向上させる効果がある。しかし、過剰に添加すると熱間加工性が低下するので1.0%以下とした。
【0013】
Mnは、鋼の精錬に使用される元素であり、また、焼入れ性を向上させる効果がある。しかしながら、これはオーステナイト生成元素であるため、過剰に添加すると焼入れ時の残留オーステナイトが過多になって必要な硬さが得られなくなり、経時変化による寸法変化が懸念されるため1.0%以下とする。
【0014】
Crは、M73、M236タイプの炭化物を形成して耐摩耗性を向上させる作用がある。また、焼入れ性、焼戻し軟化抵抗を向上させるとともに鋼を不働態化して耐食性を向上させる効果がある。更に耐摩耗性を高め、特に燃料噴射弁のバルブ、バルブシートのように微小空壁間の摺動部分には良好な表面状態を維持する効果を有する。上記の効果を得るためCrは9.0%以上の添加が必要であるが、過剰に添加すると素地の硬さが低下し且つ熱間加工性が低下するので、9.0〜20.0%の範囲とした。
【0015】
MoとWは、焼戻しによってCrとの複合炭化物及び炭化物を析出し、耐摩耗性を向上させる作用がある。また、素地を強化し、耐食性及び焼戻し軟化抵抗を向上させる効果がある。しかし、共に高価な元素でもあるので、性能/コストのバランスからMo+1/2Wで1.0〜10.0%の範囲とした。
【0016】
VとNbは、2次炭化物を析出させ、耐摩耗性を向上させるとともに、結晶を微細化させる作用がある。また、Cr、Moよりも炭化物生成傾向が高いため、結果として素地中のCr、Mo量を高くして耐食性を向上させる。V、Nb共に同様な効果をもたらすが、NbがVに対して2倍の原子量であることから、V+1/2Nbにて規定すると良い。また、両元素共に高価である上、過剰に添加すると研削性が悪くなるので、性能/コスト/研削性のバランスから、V+1/2Nbを1.0〜6.5%の範囲とした。
【0017】
Coは、炭化物の保持力を強化して耐摩耗性を向上させる効果がある。また、素地を強化するとともに、靭性を向上させ、耐食性にも効果がある。これも高価な元素であるため性能/コストのバランスから1.0〜5.0%の範囲とした。
【0018】
本発明においては、C;2.5〜3.0%、Si;0.5%以下、Mn;0.5%以下、Cr;15.0〜19.0%、Mo+1/2W;1.5〜3.0%、V+1/2Nb;2.0〜5.5%、Co;1.0〜3.0%、残部は実質的にFeの組成、また、C;1.5〜3.0%、Si;0.5%以下、Mn;0.5%以下、Cr;8.0〜12.0%、Mo+1/2W;5.0〜9.0%、V+1/2Nb;4.0〜6.5%、Co;1.5〜3.5%、残部は実質的にFeの組成が望ましい。
【0019】
【実施例】
以下に、本発明の具体的な実施例について説明する。図1に示すように、燃料噴射弁1はバルブシート2の中でコイル4の電磁力にて作動するバルブ3と、このバルブ3の作動を規制するストッパ部材5を備え、本発明はバルブ3及びバルブシート2並びにストッパ部材5の耐久性を向上させることを目的とし、まずバルブ3及びバルブシート2の材料として表1に示すような成分を有する材料を用いて試験を行った。そして、No.1〜No.8はバルブ3及びバルブシート2材料として有効性が確認された本発明に係る材料である。そして、No.9は特開平4−141560号公報に示された材料であり、No.10は特願平5−163980号公報に示された材料である。また、No.11は従来一般のガソリン燃料用噴射弁の材料であり、No.12はディーゼルエンジン用燃料噴射弁の材料であり、いずれもJISに規格された材料である。
【0020】
【表1】
Figure 0003748586
【0021】
ここで表1のNo.1〜No.8の材料は、それぞれの成分の合金微粉末をアトマイズ法により製造し、熱間等方圧縮(HIP)によって得られたビレットを熱間鍛造した圧密体であり、これを表2の温度条件下で熱処理を行った。また、No.9及びNo.10は、夫々の成分組成の鋼を溶解し、次いでこの溶鋼からインゴットを鋳造し高温で拡散焼なましを行った後、熱間加工、焼なましを行った材料に表2の温度条件下で熱処理を行った。また、従来材のNo.11及びNo.12は、市販の材料に表2の温度条件下で熱処理を行った。
【0022】
【表2】
Figure 0003748586
【0023】
また、ストッパ部材5としては表3に示すような材質の▲1▼〜▲5▼の5種類を組合わせて試験した。
【0024】
【表3】
Figure 0003748586
【0025】
そして、この熱処理を行ったNo.1〜No.12の各種合金鋼について、アルコール作動試験、高温作動試験及び耐食性試験を行った。ここで、アルコール作動試験は、実際に組立た燃料噴射弁にアルコール燃料を使用して加振状態で作動状況を試験したものであり、高温作動試験については高温条件下(約250℃程度)アルコールで作動状況を確認したものである。そしてこれら作動試験においては、3億回作動させて流量変動幅を確認し、流量変動幅が±3%以内なら◎、±3〜±4.5%なら○、±4.5〜±6%なら△、±6%以上なら×とした。また、耐食性試験については、メタノール+1%NaCl水の1%溶液浸漬テストを行って、表1の材料No.11のSUS440Cを基準にして、錆発生時間が4倍以上であれば○、2〜4倍であれば△、2倍以下であれば×にした。そして、この評価試験結果は表4の通りとなった。
【0026】
【表4】
Figure 0003748586
【0027】
また、上記作動試験結果から流量変動幅をグラフ化すると図2乃至図4の通りとなる。そしてこのグラフは、図2がNo.1〜No.12のバルブ3等にSUS304−CSP3/4Hのストッパ部材5を組合わせてアルコール作動試験を行った時の流量変動幅(絶対値%)を示すものであり、図3がNo.1とNo.9のバルブ3等に▲1▼〜▲5▼のストッパ部材5を組合わせてアルコール作動試験を行った時の流量変動幅(絶対値%)を示すものである。また、図4は高温作動試験の流量変動幅を示している。
【0028】
この結果から、本案の燃料噴射弁装置は従来の噴射弁に較べて優れた耐久性を発揮することが確認された。
【0029】
また、図5は表1のNo.1材の金属組織を示す400倍の顕微鏡写真、図6はNo.9材の金属組織を示す400倍の顕微鏡写真、図7はNo.11材の金属組織を示す400倍の顕微鏡写真であり、これらの顕微鏡写真からも明らかなように、本発明材は従来材に比較して、その金属組織が緻密であることが分る。
【0030】
【発明の効果】
以上のように本発明の燃料噴射弁装置は、バルブ及びバルブシートの摺動部の耐摩耗性を向上させることが出来るので、例えばアルコール系燃料を使用する場合や、燃焼室内に燃料を直接噴射する場合のように特に厳しい環境下で使用される燃料噴射弁において、摩耗に起因する耐久性の問題を解決することが出来る。また、ストッパ部材に硬質微細粒子を含まない材料を使用することで、ストッパ部材にバルブとの衝撃により摩耗が発生しても、摩耗粉が摺動部に入り込んでアブレッシブ摩耗を促進するような事態が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【図1】燃料噴射弁の断面図
【図2】No.1〜No.12のバルブ等とSUS304−CSP3/4Hのストッパ部材を組合わせてアルコール作動試験を行った時の流量変動幅を示し、横軸が各材料、縦軸が流量変動幅(絶対値%)
【図3】No.1とNo.9のバルブ等と▲1▼〜▲5▼のストッパ部材を組合わせてアルコール作動試験を行った時の流量変動幅を示し横軸が材料の組合わせ、縦軸が流量変動幅(絶対値%)
【図4】高温作動試験の特性ばらつきを示し、横軸が各材料、縦軸が特性ばらつき(絶対値%)
【図5】表1のNo.1材の金属組織を示す400倍の顕微鏡写真
【図6】表1のNo.9材の金属組織を示す400倍の顕微鏡写真
【図7】表1のNo.11材の金属組織を示す400倍の顕微鏡写真
【符号の説明】
1…燃料噴射弁、2…バルブシート、3…バルブ、5…ストッパ部材。

Claims (3)

  1. 燃料噴射弁のバルブ又はバルブシートとして、重量%でC;1.75〜3.0%、Si;1.0%以下、Mn;1.0%以下、Cr;9.0〜20.0%、MoとWの一種又は二種をMo+1/2W;1.0〜10.0%、VとNbの一種又は二種をV+1/2Nb;1.0〜6.5%、Co;1.0〜5.0%、を含有し残Feからなる成分を有し、熱処理後の硬さHRC63以上で且つ素地中の平均炭化物粒径が10μm以下の鋼材を使用したことを特徴とする耐久性に優れた燃料噴射弁装置。
  2. 請求項1記載の燃料噴射弁装置において、前記燃料噴射弁のストッパ部材に、ビッカース硬さ1000以上の炭化物等の硬質微細粒子を含まず、且つ母材の硬さがビッカース硬さ170以上のオーステナイト系ステンレス鋼を使用することを特徴とする耐久性に優れた燃料噴射弁装置。
  3. 重量%でC;1.0〜3.0%、Si;1.0%以下、Mn;1.0%以下、Cr;9.0〜20.0%、MoとWの一種又は二種をMo+1/2W;1.0〜10.0%、VとNbの一種又は二種をV+1/2Nb;1.0〜6.5%、Co;1.0〜5.0%、を含有し残Feからなる成分割合の合金粉末を熱間等方圧縮(HIP)してビレットとし、このビレットを熱間鍛造・圧延により素地中の平均炭化物粒径が10μm以下の圧密鋼材とし、この鋼材を燃料噴射弁のバルブ又はバルブシートに加工後、熱処理によりHRC63以上の硬さとすることを特徴とする耐久性に優れた燃料噴射弁装置の製造方法。
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