JP3746398B2 - 誘電体磁器組成物とセラミック電子部品 - Google Patents

誘電体磁器組成物とセラミック電子部品 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、積層タイプのセラミックコンデンサ、共振器、フィルター等の積層電子デバイス、特にマイクロ波用積層電子デバイスの誘電体層の材料として好適な誘電体磁器組成物と、この誘電体磁器組成物を用いたセラミック電子部品に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
積層タイプのセラミックコンデンサ、共振器、フィルター等のセラミック電子部品は、一般に、電極材料と誘電体磁器組成物とを所定の積層構造に形成し、これらを一体的に焼成して焼結させることにより製造されている。積層構造をとることで、小型でありながら高性能のセラミック電子部品を実現することが可能になる。
【0003】
積層タイプのセラミック電子部品の代表例としてはチタン酸バリウム系の誘電体磁器組成物とNi金属の電極材料とを積層構造に形成し、これらを高温で一体的に焼成して焼結させることにより形成した小型・大容量の積層セラミックコンデンサがある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、近年、GHz帯以上のマイクロ波を利用した移動体通信機器が広く使用されてきており、そのため、マイクロ波用のセラミック電子部品の高性能化が求められている。
【0005】
マイクロ波用のセラミック電子部品の特性は、まず、誘電体層の材料として使用される誘電体磁器組成物の誘電特性に大きく影響される。マイクロ波用のセラミック電子部品の誘電体層の材料として使用される誘電体磁器組成物としては、BaO−TiO2 系誘電体磁器組成物、BaO−Nd23 −TiO2 系誘電体磁器組成物、MgTiO2 −CaTiO2 系誘電体磁器組成物などが知られている。
【0006】
また、マイクロ波用のセラミック電子部品の特性は、内部電極の材料として使用される金属の導電性にも影響される。すなわち、マイクロ波用のセラミック電子部品の内部電極の材料としては導電性の良い金属が好ましい。そして、導電性の良い金属としてはAg,Cu等が挙げられる。
【0007】
しかし、Agの融点は960℃、Cuの融点は1083℃であるのに対し、マイクロ波用のセラミック電子部品の誘電体層の材料として使用されている前記誘電体磁器組成物は焼結温度が1200℃以上とかなり高い。このため、このままでは誘電体層と内部電極とを一体的に焼成して焼結させることができず、従って、Ag,Cu等の金属を内部電極の材料として使用することはできない。
【0008】
Ag,Cu等の金属をマイクロ波用のセラミック電子部品の内部電極の材料として使用できるようにするためには、誘電体層の材料として使用されている前記誘電体磁器組成物の焼結温度をAg,Cu等の金属の融点以下の900〜1050℃程度にしなければならない。
【0009】
一般に、誘電体磁器組成物の焼結温度を下げる方法の一つとして、誘電体磁器組成物中に焼結助剤としてガラス成分を添加する方法が知られている。従来の誘電体磁器組成物の焼結温度は上述したように1200℃以上と高いので、この誘電体磁器組成物の焼結温度を900〜1050℃程度まで下げるためにはガラス成分をかなり多量に添加する必要がある。
【0010】
しかし、マイクロ波用のセラミック電子部品の誘電体層の材料として使用されている誘電体磁器組成物中にガラス成分を多量に添加すると誘電体磁器組成物が本来有している誘電特性が低下し、所望の誘電特性が得られなくなってしまう。
【0011】
この発明は、Ag,Cu等と一体焼成できる程度の低い温度で焼結させることができ、しかも、誘電特性を発現している主相が本来有している誘電特性を充分に引き出すことができる誘電体磁器組成物とそのような誘電体磁器組成物を誘電体層として用いたセラミック電子部品を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
この発明に係る誘電体磁器組成物は、セラミック粒子の焼結体からなり、該セラミック粒子がBaTi511を主成分とするものである。また、この発明に係るセラミック電子部品は、誘電体層と該誘電体層を挟む内部電極とを備え、前記誘電体層が誘電体磁器組成物からなり、該誘電体磁器組成物がセラミック粒子の焼結体からなり、該セラミック粒子がBaTi511を主成分とするものである。
【0013】
ここで、前記セラミック粒子にはAgが固溶するのが好ましい。この場合、セラミック粒子に固溶しているAgの固溶量は0.2〜3.0モル%が好ましい。0.2モル%未満では焼成温度が950℃と高くなり、耐湿負荷試験の結果も悪くなるという不都合があり、3.0モル%を越えるとQ値及び比誘電率温度特性が共に悪くなるという不都合を生ずるからである。
【0014】
また、前記セラミック粒子はBa2 TiSi28 を含有するのが好ましい。この場合、BaTi511/Ba2 TiSi28 は1.5〜9が好ましい。BaTi511/Ba2 TiSi28 が1.5未満になると、温度特性(TCC)が±100ppm/℃を外れて悪化し、BaTi511/Ba2 TiSi28 が9を超えると、1050℃の焼成で緻密に焼結しないからである。
【0015】
また、前記焼結体は焼結助剤であるガラス相を含有していてもよい。ガラス相としては、例えばSiO2 ,ZnO,Bi23 及びB23 から選択された1種又は2種以上からなるものを挙げることができるが、これらに限定されるものではなく、ガラス相を形成し、BaTi511の特性を低下させないものであればこれら以外のものを使用してもよい。
【0016】
なお、内部電極の材料としては、Ag又はCuを主成分とする導電ペーストの焼結体を使用することができる。
【0017】
【実施例】
実施例1
まず、予め合成したBaTi511粉末、Ag2 O、予め溶融・粉砕を行って作成したSiO2 −B23 −MgOガラスを準備した。そして、BaTi511粉末、Ag2 O及びSiO2 −B23 −MgOガラスを表1に示す比率となるように秤量した。
【0018】
次に、これらをポリエチレン製ポットに水と共に入れて十分に湿式混合した。そして、これを脱水・乾燥し、この乾燥物を空気中において800℃で2時間仮焼して、誘電体磁器の成分材料を得た。
【0019】
次に、この誘電体磁器成分材料をポリエチレン製ポットに水と共に入れ、十分に湿式粉砕した。そして、これを脱水・乾燥し、誘電体磁器原料粉末を得た。
【0020】
次に、この誘電体磁器原料粉末に有機バインダを加えて造粒し、この造粒物を500kgf/cm2 の圧力で加圧成形し、直径9.8mm、厚さ0.6mmの円板状の成形体を得た。
【0021】
次に、この成形体をジルコニアセッタ上に載せ、空気中において900〜950℃の温度で2時間焼成してこの成形体を焼結させ、誘電体磁器からなる円板状磁器を形成した。
【0022】
次に、この円板状磁器の一部についてXRD回折分析を行ない、回折X線スペクトルを求めた。
【0023】
そして、これらの回折X線スペクトルからBaTi511結晶相のピーク角度ずれ(ピークΔ2θ°)を求めたところ、表1に示す通りとなった。この結果から、BaTi511相へのAgの固溶が確認された。
【0024】
次に、この焼成で得られた円板状磁器の両主面に銀ペーストを塗布して焼き付けて磁器コンデンサを作成した。そして、この磁器コンデンサの比誘電率εr 、Q値、数1に示す比誘電率の温度係数τεr (ppm/℃)を測定した。結果は表1に示す通りとなった。
【0025】
ここで、比誘電率εr は周波数1MHz、1V及び周囲温度20℃の条件で、LCZメータを用いて測定した。Q値も1MHz、1V及び20℃の条件で測定した。静電容量の温度係数τεr (ppm/℃)は、上記磁器コンデンサを恒温槽に入れ、温度を20℃から85℃まで変化させ、20℃の静電容量(C20)と85℃の静電容量(C85)とを1MHz、1Vの条件で測定し、以下の数1の式に基づいて算出した。
【0026】
【数1】
Figure 0003746398
【0027】
また、得られた磁器コンデンサの信頼性を調べるために、温度120℃、湿度98%、電圧50Vの条件で24時間耐湿負荷試験を行ない、試験前と試験後での絶縁抵抗の変化率を調べたところ、表1に示す通りとなった。
【0028】
【表1】
Figure 0003746398
【0029】
表1に示された結果から、BaTi511相を主成分とするセラミック粒子にAgを0.2〜3.0モル%固溶させれば、誘電体磁器の誘電率を70〜80と高く保ちながら、焼成温度を900〜920℃と低くできることがわかる。
【0030】
また、本発明の効果は出発原料に依存しない。
【0031】
同時に、中間での反応相の変化にも依存しない。最終的な結晶構造で効果が発現するため、反応過程をどのように設定しても効果に変化はない。
【0032】
実施例2
まず、表2のNo.8に示すように、BaCO3 ,ZnO,TiO2 ,SiO2 ,Bi23 ,Mn34 及びAg2 Oの各化合物の粉末を各々秤量した。ここで、各化合物は純度99.0%以上のものを使用した。
【0033】
次に、これらの化合物を水とともにボールミルに入れ、湿式で15時間攪拌混合し、得られた泥漿をバットに空け、乾燥機に入れて150℃で24時間乾燥した。そして、得られた乾燥物を粉砕機で粉砕して325メッシュの粉体とし、この粉体を大気中において800℃で3時間仮焼した。
【0034】
次に、この仮焼によって得られた粉体を有機バインダとともにボールミルに入れて混合し、磁器原料のスラリーを得た。そして、このスラリーを脱泡した後、ドクターブレード法で成形して所定の大きさのセラミックグリーンシートを得た。
【0035】
一方、銀粉末を主成分とする内部電極用の導電性ペーストを形成し、上記セラミックグリーンシートにこの導電性ペーストからなる50個の導電パターンを印刷し、乾燥させた。
【0036】
次に、上記導電パターンの印刷面を上にして複数枚のセラミックグリーンシートを積層した。この際、隣接する上下のセラミックグリーンシートにおいて、その印刷面がパターンの長手方向に約半分程ずれるように配置した。更に、この積層物の上下両面に導電パターンの印刷の施されていないセラミックグリーンシートを積層した。
【0037】
そして、この積層物を厚さ方向に圧力を加えて圧着させ、その後、この積層物を導電パターン毎に格子状に裁断し、チップ状の積層体50個を得た。
【0038】
次に、このチップ状の積層体を電気炉に入れ、大気雰囲気中において950℃で3時間焼成し、チップ状の素体を得た。そして、このチップ状の素体の両端部にAgからなる導電ペーストを塗布して焼き付けることにより一対の外部電極を形成し、積層セラミックコンデンサを得た。
【0039】
そして、得られた積層セラミックコンデンサの誘電体層の焼結性をインクテストで調べたところ、誘電体層は緻密に焼結していた。インクテストは、試料をインクに浸し、インクが染み込むものをNG、インクが染み込まないものをOKとした。
【0040】
また、この積層セラミックコンデンサの温度特性(TCC)を測定したところ、±100ppm/℃に入っていた。温度特性(TCC)は、20℃における静電容量を基準とした時の、85℃における静電容量の変化率として求めた。
【0041】
また、この積層セラミックコンデンサの誘電体層を形成している誘電体磁器組成物のXDRプロファイルを求め、BaTi511/Ba2 TiSi28 を算出したところ、2.7であった。
【0042】
また、原料として使用する化合物の割合を表2のNo.9に示すように変えた以外は表2のNo.8と同様の条件で積層セラミックコンデンサを作成した。
【0043】
そして、得られた積層セラミックコンデンサの誘電体層を調べたところ、誘電体層は緻密に焼結していた。また、この積層セラミックコンデンサの温度特性(TCC)を測定したところ、±100ppm/℃に入っていた。
【0044】
更に、この積層セラミックコンデンサの誘電体層を形成している誘電体磁器組成物のXDRプロファイルを求め、BaTi511/Ba2 TiSi28 を算出したところ、9であった。
【0045】
また、原料として使用する化合物の割合を表2のNo.10に示すように変えた以外は表2のNo.8と同様の条件で積層セラミックコンデンサを作成した。
【0046】
そして、得られた積層セラミックコンデンサの誘電体層を調べたところ、誘電体層は緻密に焼結していた。また、この積層セラミックコンデンサの温度特性(TCC)を測定したところ、±100ppm/℃に入っていた。
【0047】
更に、この積層セラミックコンデンサの誘電体層を形成している誘電体磁器組成物のXDRプロファイルを求め、BaTi511/Ba2 TiSi28 を算出したところ、1.5であった。
【0048】
また、原料として使用する化合物の割合を表2のNo.11に示すように変えた以外は表2のNo.8と同様の条件で積層セラミックコンデンサを作成した。
【0049】
そして、得られた積層セラミックコンデンサの誘電体層を調べたところ、誘電体層は緻密に焼結していなかった。
【0050】
更に、この積層セラミックコンデンサの誘電体層を形成している誘電体磁器組成物のXDRプロファイルを求め、BaTi511/Ba2 TiSi28 を算出したところ、12であった。
【0051】
また、原料として使用する化合物の割合を表2のNo.12に示すように変えた以外は表2のNo.8と同様の条件で積層セラミックコンデンサを作成した。
【0052】
そして、得られた積層セラミックコンデンサの誘電体層を調べたところ、誘電体層は緻密に焼結していた。しかし、この積層セラミックコンデンサの温度特性(TCC)を測定したところ、±100ppm/℃の範囲から外れていた。
【0053】
更に、この積層セラミックコンデンサの誘電体層を形成している誘電体磁器組成物のXDRプロファイルを求め、BaTi511/Ba2 TiSi28 を算出したところ、1.4であった。
【0054】
【表2】
Figure 0003746398
【0055】
【発明の効果】
この発明によれば、誘電体磁器組成物がBaTi511を主成分とするセラミック粒子の焼結体からなるので、その電気的特性を低下させることなく低い温度で焼結でき、導電性の良いAg,Cu等を内部電極の材料として使用することができ、従って、高周波特性の良いセラミック電子部品を提供することができるという効果がある。
【0056】
また、この発明によれば、BaTi511を主成分とするセラミック粒子にAgを固溶させた場合、セラミックスの結晶格子が歪み、誘電率が90〜95迄向上し、焼結助剤を加えたとしても70〜80という十分に高い誘電率を確保でき、形状のより小さいセラミック電子部品を提供することができるという効果がある。
【0057】
また、また、この発明によれば、BaTi511を主成分とするセラミック粒子にAgを固溶させた場合、セラミック粒子の結晶格子がAgの固溶により歪み、焼結中の物質移動が激しくなり、焼結温度が900〜920℃迄低下し、Ag内部導体の拡散が抑制されるという効果がある。
【0058】
また、この発明によれば、セラミック粒子の主成分をBa2 TiSi28 で形成し、BaTi511/Ba2 TiSi28 を1.5〜9とした場合、その特性を低下させることなく低い温度で焼結でき、導電性の良いAg,Cu等を内部電極の材料として使用することができ、従って、高周波特性の良いセラミック電子部品を提供することができるという効果がある。

Claims (7)

  1. セラミック粒子の焼結体からなり、該セラミック粒子がBaTi11を主成分とし、該セラミック粒子にAgが0.2〜3.0モル%固溶していることを特徴とする誘電体磁器組成物。
  2. 前記セラミック粒子がBaTiSiを含有し、BaTi11/BaTiSiが1.5〜9であることを特徴とする請求項1に記載の誘電体磁器組成物。
  3. 前記焼結体が焼結助剤を含有していることを特徴とする請求項1又は2に記載の誘電体磁器組成物。
  4. 誘電体層と、該誘電体層を挟む内部電極とを備え、前記誘電体層が誘電体磁器組成物からなり、該誘電体磁器組成物がセラミック粒子の焼結体からなり、該セラミック粒子がBaTi11を主成分とし、該セラミック粒子にAgが0.2〜3.0モル%固溶していることを特徴とするセラミック電子部品。
  5. 前記セラミック粒子がBaTiSiを含有し、BaTi11/BaTiSiが1.5〜9であることを特徴とする請求項4に記載のセラミック電子部品。
  6. 前記焼結体が焼結助剤を含有していることを特徴とする請求項4又は5に記載のセラミック電子部品。
  7. 前記内部電極がAg又はCuを主成分とする導電ペーストの焼結体からなることを特徴とする請求項4〜6のいずれかに記載のセラミック電子部品。
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