JP3744722B2 - 2層stn型液晶表示装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶表示装置に係わり、特にSTN型の光学的補償液晶セルと駆動液晶セル(表示セル)とを重ねて配置した2層STN型液晶表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
STN型LCD(Super−Twisted Nematic Liquid Crystal Display)は、1984年にT.J.Scheffer他により提案された。STN型LCDにおける不要な色付を防止してクリアな白黒表示を実現する方法として、2層型のSTN−LCDが提案されている。
【0003】
図1を参照して2層型STN−LCDの構造について説明する。図1は2層型STN−LCDの電圧無印加時の断面を模式的に描いたものである。上側のSTN型液晶セル(以下、単にセルと称する)2は補償セルであり、下側のセル3は駆動セル(表示セル)である。補償セル2と駆動セル3は、それぞれ対向する透明ガラス基板1の間に液晶分子4を配置している。
【0004】
図1では液晶分子4の長軸方向を表している。上下の基板1間の液晶分子4のツイスト(ねじれ)方向(向き)は上下セルで互いに逆になっている。ツイスト角はいずれも160〜270度程度である。また、上下セルの基板の配向方向は直交している。駆動セル3だけが透明電極(図示せず)を有し、電極への電圧の印加により液晶分子4の配列を変えて光の透過率を制御する。上下セル2、3を互いに直交する偏光軸方向の偏光板5が挟持している。
【0005】
補償セル2と駆動セル3とは、基板の配向方向と液晶分子のツイスト方向以外は、互いに同一のの光学的特性を有する。すなわち、上下のセルは、ツイスト角、プレティルト角、液晶材料、液晶の屈折率(ΔN)、セル厚(d)などが同一となっている。しかも、両セルの対向する液晶分子4aと4bとは配向方向が直交している。
【0006】
両セルはお互いに相手のセルの光学的性質(状態)を補償しあっているので、直交ニコル配置の偏光板5と組み合わせると、光学的補償が完全になされた高コントラストなノーマリブラックの表示が実現できる。高透過率でかつ高コントラストな表示を実現するには、光の入射側における偏光板5の偏光軸とセル基板界面の液晶分子の配向方向とのなす角度は、45度とするのが通常である。
【0007】
図2に、ツイスト角180度の2層STN型LCDの配向方向(ラビング方向)及び偏光板の透過軸(偏光軸)方向の一例を示す。これは図1の補償セル2の上方から見た平面図である。この例では、駆動セル3に電圧を印加しない時に黒表示が得られる。電圧を印加すると、駆動セル3の液晶分子4が立ち上がり、駆動セルのリタデーション(R値)が小さくなって補償セル2による光学補償がなくなるために、光透過状態(白表示)となる。
【0008】
図3に駆動セル3での印加電圧の変化に対する光の透過率変化の特性の例を示す。印加電圧を増加していくと、約1.7V程度から透過率が増加し、約2.2Vで最大透過率を示す。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、理論的には上下のセル間で互いに完全に補償し合っているので、電圧無印加時には、完全な黒表示が得られるはずであるが、実際にこのような2層セルを製作して表示を行ってみたところ、かなりの光抜けがあることがわかった。光抜けがあると、黒表示でのセルの光透過率の値が上昇し、白表示と黒表示の比率(白表示透過率/黒表示透過率)により決まるコントラスト比が低下して表示品位が低下することになる。
【0010】
本発明の目的は、黒表示における光抜けを防止してコントラスト比を改善した2層セル型のSTN型液晶表示装置を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明のSTN型液晶表示装置は、 第1の液晶セルと、前記第1の液晶セルと同一の光路中に前記第1の液晶セルと重ねて配置された第2の液晶セルとを有し、前記第1と第2の液晶セルとは光学的特性が互いに同一であって、かつ互いに対向する配向膜の配向方向が直交し、液晶分子のねじれ方向が逆である2層STN型液晶表示装置において、
前記第1と第2の液晶セルは、前記第1と第2の液晶セルの内の一方の液晶セル内で内部反射した光成分による黒表示時の透過光スペクトルの幾つかある極小値成分の内の一つが、前記透過光の光源の複数の発光スペクトルの内の視感度が最大の波長域に最も近いピーク波長成分の領域にあるように設定する。
【0012】
【発明の実施の形態】
光抜けの原因解明のために、駆動セル3と補償セル2のセル厚を同じ割合で変化させて黒表示での透過率を測定する実験を行った。その結果を図4に示す。この実験で用いた液晶の複屈折率Δnは0.150である。図4の実験結果から、セル厚の変化、すなわちリタデーション変化に伴って透過率も変化することがわかった。
【0013】
2層STN型LCDの原理からは駆動セル3と補償セル2のリタデーションが同じであるにもかかわらず、リタデ−ションの値が変わると透過率が変わるという現象は説明できない。
【0014】
次に、黒表示での透過光スペクトルのセル厚依存性について測定を行った。その結果を図5に示す。図5で縦軸は透過率を、横軸は透過光の波長を示す。セル厚5.6μmでリタデーション840nmの2層セルと、セル厚6.0μmでリタデーション900nmの2層セルと、セル厚6.4μmでリタデーション960nmの2層セルの結果を示している。測定結果から明らかなように、2層セルの黒表示での透過率は波長依存性があり、透過光のスペクトルはセルのリタデーション(セル厚)が大きくなると長波長側にシフトしている。
【0015】
この現象から、2層セルを透過した光には各セルを1回ずつ透過して完全に補償された光以外に、別の光が透過してくることが予想される。さらに検討を進めた結果、図6に示すように、各セルを1回ずつ透過して完全に補償された光10のほかに、駆動セル3あるいは補償セル2のいずれか一方のセルで余計に内部反射した光11,12が存在し、それが他方のセルで完全に補償されずに漏れ光として出射されるという現象が推察された。
【0016】
このように伝播した透過光のスペクトルのシミュレーション結果を実際のセルでの実験結果と併せて示したものが図7である。図7で実線が実際のセルの透過光スペクトルであり、点線がシミュレーションによる透過光スペクトルを示す。この結果から、実際のデータとシミュレーション結果との間では、スペクトルの個々のピークの大きさや小さなピークの有無に違いがあるものの、波長に対するスペクトルの周期など基本的特性において、互いに非常によい一致が見られることが判る。
【0017】
黒表示での光抜けの原因が、上記のようにセル内を余計に一往複した光によるものであるとすれば、セルのリタデーションの増加に依存して長波長方向にスペクトル波形がシフトすることに関しても簡単に理解できる。実際にそのような条件でシミュレーションした結果である図8の特性からも上述の解釈が確認できる。図8は、セルの厚みdを変えて4つの異なるリタデーション値Rでの透過光スペクトル(黒表示時)をシミュレーションしたものである。この結果からリタデーション値Rが大きくなるにつれてスペクトルが長波長側にシフトすることがわかる。
【0018】
以上の図5及び図8の結果から明らかなように、黒表示での透過光スペクトルはセルのリタデーションの増加に対して長波長側にシフトするが、その大きさを変化させることはない。すなわち、スペクトルの振幅方向には変化がない。このことは、図4に示した2層セルにおける黒表示透過率のリタデーション依存性は説明できないように思える。しかし、実際のセルの透過率は、各波長の透過率に人間の視感度を掛け合わせたものとして定義される(色彩光学でのY値のため。)ので、視感度が高い波長(最大は550nm)付近でのスペクトルの透過率が高い場合にセルの透過率は高くなり、逆に視感度が高い波長での透過率が低い場合には、セル全体の透過率は低くなる。これが、セルの透過率のリタデーション依存性として現れると考えられる。
【0019】
上述の解釈、測定結果、シミュレーション結果に基づき、同一光学特性を持った二つのSTN型液晶セルを積層したものであり、セルのリタデーション値を適切に選択することにより、一方のセル内を余計に一往複した光を含む黒表示時の透過光スペクトルを最適に設定することによって、黒表示時のセルの透過率を最少にしてコントラスト比を改善する2層STN型液晶表示装置を提供する。
【0020】
本発明の一実施形態によれば、黒表示時のセルの透過光のスペクトルの幾つかある極小値成分(下向きのピーク)の内の少なくとも一つが視感度が最大となる波長付近、例えば500〜600nmの範囲になるようにセル(補償セルと駆動セル両方)のリタデーション値を適切に設定する。別の表現によれば、上記極小値成分の波長範囲が530〜590nmとなるようにセルのリタデーション値が選ばれる。
【0021】
本発明の別の実施形態によれば、透過光のスペクトルの極小値成分波長をSTN液晶表示装置の表示光源の発光ピーク(スペクトルの極大成分)に一致させるようにする。
【0022】
本発明のさらに別の実施形態によれば、表示光源が複数の発光ピークを有するような場合には、その複数の発光ピークのうちの視感度が最大の波長成分の発光ピークに透過光のスペクトルの極性成分波長に一致するようにする。
【0023】
【実施例】
次に、本発明によるSTN型液晶表示装置の具体的な実施例について、実際に発明者が行った実験結果を参照しながら説明する。なお、実験は、本願発明の効果を明らかにするために、従来の黒表示の光抜けについて考慮してないSTN液晶表示装置についても比較対象として行った。本発明の実施例による2層型のSTN型液晶表示装置の構造は基本的には図1に示したものと同一である。但し、本発明の実施例ではリタデーション値を特定の条件に基づき選択している。
【0024】
まず、実験に使用した各セルの諸条件を次に示す。
【0025】
(従来の2層セル)
駆動セル
基板:透明電極付ガラス基板
配向膜:日立化成工業製HL−1104(プレティルト角2度)
ラビング:レーヨン製ラビング布使用
配向方向:図2と同様(180度ツイスト)
セル厚d:5.4μm
液晶:ロリク製RDP−00333にカイラル材としてメルク製S−811を0.55wt%添加(左ツイスト)複屈折率=0.150
【0026】
補償セル
基板:ガラス基板(透明電極なし)
配向膜:日立化成工業製HL−1104(プレティルト角2度)
ラビング:レーヨン製ラビング布使用
配向方向:図2と同様(180度ツイスト)
セル厚d:5.4μm
液晶:ロリク製RDP−00333にカイラル材としてメルク製ZLI−3786を0.55wt%添加(右ツイスト)複屈折率=0.150
【0027】
偏光板
偏光板:日東電工製G−1220
偏光板配置角度:図2と同様
(本発明の実施例のセル)
【0028】
駆動セル
基板:透明電極付ガラス基板
配向膜:日立化成工業製HL−1104(プレティルト角2度)
ラビング:レーヨン製ラビング布使用
配向方向:図2と同様(180度ツイスト)
セル厚d:6.2μm
液晶:ロリク製RDP−00333にカイラル材としてメルク製S−811を0.55wt%添加(左ツイスト)複屈折率=0.150
【0029】
補償セル
基板:ガラス基板(透明電極なし)
配向膜:日立化成工業製HL−1104(プレティルト角2度)
ラビング:レーヨン製ラビング布使用
配向方向:図2と同様(180度ツイスト)
セル厚d:6.2μm
液晶:ロリク製RDP−00333にカイラル材としてメルク製ZLI−3786を0.55wt%添加(右ツイスト)複屈折率=0.150
【0030】
偏光板
偏光板:日東電工製G−1220
偏光板配置角度:図2と同様
次に、実験結果について説明する。バックライト光源としてハロンゲンランプを使用し、1/64デューディ駆動における従来と本発明の実施例の2層STN型液晶表示装置の実験結果を表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
この場合の黒表示の透過光スペクトルを図9に示す。実線は本発明の実施例で点線が従来のものである。このスペクトルから、本発明の実施例では、スペクトルの極小値成分(下向きピーク)が視感度最大となる波長である550nm付近にあることが判る。従来のものは逆に視感度最大波長で極大ピークとなっている。その結果、表1に示したように黒表示での透過率が従来のものよりも相当低くなり、コントラスト比が大幅に改善されていることが明らかになった。
【0033】
以上の実施例から、180度ツイストのセルの場合には、セルのリタデーション値を850〜1050nmの範囲とし、より好ましくは900〜1000nmの範囲に設定すればよいことがわかる。ツイスト角が180度以外の場合には、本発明の主旨に従ってリタデーション値を設定すればよい。
【0034】
次に、バックライト光源として液晶表示用に一般的に用いられている3波長タイプの冷陰極蛍光(CCFL)管を用いたときの1/64デューディ駆動における従来と本発明の実施例の2層STN型液晶表示装置の実験結果を表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】
この場合の黒表示の透過光スペクトルを図10に示す。実線は本発明の実施例で細かい点線が従来のものである。また、荒い破線はCCFL管の発光スペクトルを示す。このスペクトル図から、本発明の実施例では、スペクトルの極小値成分(下向きピーク)がCCFL管の発光ピークの1つである545nm付近に一致していることがわかる。しかも、それが視感度最大となる波長である550nm付近にある。従来のものは逆にCCFL管の545nm付近の発光ピークが透過光のスペクトルの極大ピークと一致している。
【0037】
波長435nm付近の発光ピークに対してもほぼ同様の状態が成立している。波長610nm付近の発光ピークに対しては、従来のものより高い透過率を示しているがその差は小さい。その結果、表2に示したように黒表示での透過率が従来のものよりも相当低くなり、コントラスト比が大幅に改善されていることが明らかになった。
【0038】
表2の結果の実施例では、CCFL管の発光ピークの少なくとも1つと視感度最大となる波長とがほぼ一致していたので、発明の効果が十分発揮された。光源の発光ピーク波長が視感度最大となる波長と異なる場合には、発光ピーク波長に合わせるようにリタデーション値(セル厚)を設定すればよい。
【0039】
また、表示光源に3波長管のような複数の発光ピークを持っているものを使用する場合には、視感度最大の波長に最も近い波長付近に、黒表示透過光スペクトルの極小値の波長成分が合うように設定することが望ましい。
【0040】
さらに、ネオン管やLCDのように、ある特定波長に発光ピークを持つ光源を使用する場合には、セルの黒表示透過光スペクトルの極小値の波長成分がその特定波長にできるだけ一致するようにリタデーション値を選択することが望ましい。また白熱電球にカラーフィルタを用いて単色光源として使用する場合、セルの黒表示透過光スペクトルの極小値の波長成分がそのカラーフィルタを透過後の単色光源の最大波長にできるだけ一致するようにリタデーション値を選択することが望ましい。
【0041】
以上、実施例に沿って発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせが可能なことは当業者に自明であろう。
【0042】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のSTN型液晶表示装置は、同一光学特性を持った二つのSTN型液晶セルを積層し、黒表示時の透過光スペクトルの極小値成分の内の一つが、視感度が最大の波長域に含まれる波長域になるようにセルのリタデーション値を適切に選択したことにより、黒表示時のセルの透過率を最少にしてコントラスト比を改善し、表示品質を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】2層セル型のSTN型液晶表示装置の断面図である。
【図2】図1の2層セル型のSTN型液晶表示装置の液晶の配向方向を表した平面図である。
【図3】駆動セルの印加電圧に対する光透過率の変化を示す特性図である。
【図4】セルのセル厚に対する光透過率の変化を示す特性図である。
【図5】リタデーション値の違いにより透過光スペクトルの変化を測定した結果を示す図である。
【図6】2層セルの光の透過状態を示す断面図である。
【図7】黒表示時の透過光スペクトルの実測値とシミュレーション値との比較を示す特性図である。
【図8】黒表示時の透過光スペクトルのリタデーション値依存性をシミュレーションした結果を示す。
【図9】黒表示時の透過光の透過率スペクトルを従来の2層セルと本発明の実施例の2層セルとで比較した結果を示す。
【図10】CCFL管をバックライト光源として使用した場合の、黒表示時の透過光の透過率スペクトルを従来の2層セルと本発明の実施例の2層セルとで比較した結果を示す。
【符号の説明】
1 ガラス基板
2 補償セル
3 駆動セル
4 液晶分子
5 偏光板
6 上側偏光板光透過軸
7a 補償セル上側基板ラビング方向
7b 補償セル下側基板ラビング方向
8a 駆動セル上側基板ラビング方向
8b 駆動セル下側基板ラビング方向
9 下側偏光板透過軸
10 透過光
11、12 内部反射透過光
Claims (2)
- 第1の液晶セルと、前記第1の液晶セルと同一の光路中に前記第1の液晶セルと重ねて配置された第2の液晶セルとを有し、前記第1と第2の液晶セルとは光学的特性が互いに同一であって、かつ互いに対向する配向膜の配向方向が直交し、液晶分子のねじれ方向が逆である2層STN型液晶表示装置において、
前記第1と第2の液晶セルは、前記第1と第2の液晶セルの内の一方の液晶セル内で内部反射した光成分による黒表示時の透過光スペクトルの幾つかある極小値成分の内の一つが、前記透過光の光源の複数の発光スペクトルの内の視感度が最大の波長域に最も近いピーク波長成分の領域にあるように設定された2層STN型液晶表示装置。 - 前記第1と第2の液晶セルの液晶分子のねじれ角が約180度であり、前記各セルのリタデーション値を900〜1000nmの範囲に設定した請求項1記載の2層STN型液晶表示装置。
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