JP3744146B2 - 電池式電動工具 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は変速装置を備えた電動工具、殊に電池を電源としている電池式電動工具に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
電動ドライバーなどでは、作業効率の向上の点から、自動変速機能を備えたものが提供されている。特開昭63−101545号公報などに示されたこの種の変速装置付き電動工具では、作業負荷が増大すれば、それまでの高速低トルク回転状態から減速比を大きくする変速を自動的に行って低速高トルク回転状態に切り替えるものであり、低負荷時には作業を迅速に行うことができ、高負荷になれば変速操作を加えなくとも自動的に減速比が大きくなるために、所要の締め付けを行うことができる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、電池を電源とするものにおいては、小減速比となっている高速低トルク状態においてモーターロックが生じやすくなり、モーターロック状態となれば変速動作が不能となる。作業負荷の増大に応じて高速低トルク回転状態から減速比を大きくする変速を自動的に行う自動変速機能を備えたものにおいては、本来ならば上記モーターロック状態となる前に低速高トルク回転状態への変速を行うが、作業負荷を電気的に検知して自動変速を行うものであると、電池電源の端子電圧の低下に伴い、作業負荷の検知動作が不能となることがあり、作業負荷をモーター回転数で見ているものにおいては、回転数の急激な低下による回転数検知動作のポイント遅れが原因で自動変速を行う前にモーターロック状態に陥ってしまうことがあり、電池電源の端子電圧の低下時における動作の安定性に問題を有する。
【0004】
本発明はこのような点に鑑み為されたものであり、その目的とするところは電池電源の端子電圧が低下した時にもモーターロック状態に陥ってしまうおそれが少ない電池式電動工具を提供するにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
しかして本発明は、電池を電源とするとともに変速手段を備えている電池式電動工具において、電池電源の端子電圧の低下を監視するとともに該端子電圧が所定値以下になった時もしくは端子電圧の低下方向の変化量が所定値を越えた時に上記変速手段を作動させて出力部の回転を高速低トルク回転から低速高トルク回転に切り換える切換手段を備えていることに特徴を有している。電池電源の端子電圧が低下した時にはモーターロック状態となりにくい低速高トルク回転の状態に切り換えてしまうようにしたものである。
【0006】
上記変速手段が作業負荷の増大にて出力部の回転を高速低トルク回転から低速高トルク回転に切り換える自動変速手段であってもよいのはもちろんである。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下本発明の実施の形態の一例を図2に示す電動ドリルドライバーである電動工具の場合について説明する。まず動力であるモーター6と、出力部であるチャック50を備えた出力軸5に至るまでの減速機構部における変速装置について説明すると、図3〜図5に示すように、ギアケース1の一端開口側に配されるモーター6の出力軸60には、歯数の異なる二つのサンギア11,12が固着されており、軸方向に並ぶこれらサンギア11,12には夫々複数個、図示例では3個ずつの遊星ギア21,22が噛み合っている。互いに歯数が異なる両遊星ギア21,22は共にキャリア4によって支持されたもので、遊星ギア21はサンギア11の回りに等間隔で、遊星ギア22はサンギア12の回りに等間隔で支持されており、両遊星ギア21,22は個々に自転を行なうものの、同じ公転を行なうものとなっている。
【0008】
そして出力軸60と同心に配されているリングギア31に遊星ギア21がかみ合っており、同じく出力軸60と同心に配されているリングギア32が遊星ギア22とかみ合っている。軸方向に並ぶこれら2つのリングギア31,32のうち、リングギア31はその外周面に複数個の係合突起35が周方向において等間隔に形成されたもので、ギアケース1に対して遊転自在とされている。またリングギア32もギアケース1に対して遊転自在とされたものであるとともに、このリングギア32は、ギアケース1を外レース330とするワンウェイクラッチ33の内レース331を兼ねたものとなっている。
【0009】
ここにおけるワンウェイクラッチ33は、上述のようにギアケース1を外レース330、リングギア32を内レース331とするとともに、両レース330,331間に形成された楔状空間にボール332を配したものとして形成されたフリーホイール型のもので、狭くなる方向が異なる2種の楔状空間を備えるともに、両種楔状空間の間に正逆切換リング76から突設させた駆動片77を位置させたもので、ギアケース1に対して正逆切換リング76を回転させて、駆動片77の両側に位置する一対のボール332,332のうちのいずれを駆動片77で押圧するかによって、内レース331であるリングギア32の回転可能方向を切り換えることができるものとなっている。
【0010】
すなわち、駆動片77が図6に示すように片側のボール332を楔状空間の広い方に押し込んでいる時、他方のボール332はばね333による付勢で楔状空間の狭い部分に位置しており、この状態では図中の矢印A方向のリングギア32(内レース331)の回転は可能であるが、図中の矢印B方向のリングギア32の回転は阻止される。駆動片77によって図中右側のボール332を図中右方に押す時には、逆に図中の矢印B方向のリングギア32(内レース331)の回転が可能となるとともに矢印A方向のリングギア32の回転は阻止される。
【0011】
ギアケース1内には、上記遊星機構及び正逆切換リング76とワンウェイクラッチ33の他に、係止リング70が配設されている。軸方向にスライド自在とされている係止リング70は、一方向に移動した時にリングギア31外周面の上記係合突起35と係合する突起71を具備しているもので、この係合によってリングギア31の回転を阻止するとともに、そのスライドで係合突起35と突起71との係合が解除された時、リングギア31の回転を許す。この係止リング70の上記軸方向スライドは、ソレノイドのような切換駆動部材7と、ギアケース1外面に軸66に枢支されるとともに一端を切換駆動部材7に、他端を係止リング70外周面から突設させた連結軸72に連結させたレバー65とによってなされる。
【0012】
上記両遊星ギア21,22を支持しているキャリア4は、サンギア41を一体に備えており、このサンギア41の回転はサンギア41とリングギア43とに噛み合う遊星ギア42を支持しているキャリア44に伝達され、更にキャリア44の回転はオートロック機構55を通じて出力軸5に伝達される。ここにおけるオートロック機構55は、モーター6の回転を止めた時に出力軸5をギアケース16に対して自動的にロックしてしまい、モーター6を回転させればこのロックを自動的に解除する機能をもつものであるが、この点については説明を省略する。また、上記リングギア43も遊転自在として、このリングギア43にクラッチばね47のばね圧力でボール48を係合させることで、負荷トルクが所定値以上になった時に出力軸5とサンギア41とを切り離してしまうトルクリミッターを構成しているのであるが、この点についても説明を省略する。図中13は正逆切換リング76の動作空間を確保しつつ正逆切換リング76とリングギア32との間の摺動抵抗を無くして機構ロスの低減を図るために設けられてリングギア32のスラスト受け面となるもので、ギアケース1の一端を閉じている蓋部材10に一体に形成してある。
【0013】
今、図5(a)に示すように、係止リング70がリングギア31の回転を阻止しており、且つリングギア32が図中矢印で示す方向について回転可能にワンウェイクラッチ33が設定されている時、モーター6を回転させれば、その回転出力は、回転が阻止されているリングギア31と噛み合った遊星ギア21を通じてキャリア4に伝達される。この時、リングギア32は一方向にこの空転は図中矢印で示す回転が許されている方向である。
【0014】
そして、負荷の増大の検出に応じて切換駆動部材7が作動し、図5(b)に示すように係止リング70が移動して係合突起35と突起71との係合を解除すれば、リングギア31がフリーとなるとともに、負荷につながったキャリア4の停止がサンギア11,12に噛み合う遊星ギア21,22の自転でリングギア31,32を回転させようとするが、この時のリングギア32の回転方向は、上記空転時とは逆方向に、つまりワンウェイクラッチ33によって回転が阻止されている方向となるために、この時点からリングギア32と噛み合った遊星ギア22を通じてキャリア4、そして出力軸5に動力が伝達される。
【0015】
サンギア12の歯数がサンギア11の歯数より少なく且つ遊星ギア22の歯数が遊星ギア21の歯数より多くなっていることから、高速回転低トルク状態から低速回転高トルク状態に切り換えられたことになる。しかもこの変速は、ワンウェイクラッチ33を利用してリングギア32の回転を止めるために、リングギア31の係止突起35から係止リング70が離れるだけで、リングギア32の回転阻止のために衝突が生じる部材が存在しておらず、従って動作中の変速であるにもかかわらず、スムーズで且つ騒音の無い変速がなされるものである。なお、低速回転高トルク状態から高速回転低トルク状態への復帰は、上記切換駆動部材7の復帰によって行われるとともに、この変速は、モーター6の停止時、またはモーター6の起動時に行われる。
【0016】
正逆切換リング76を回転させることで、ワンウェイクラッチ33による回転規制方向を逆にするとともにモーター6の回転方向を逆にした時には、当初、係止リング70によって回転が止められているリングギア31に噛み合う遊星ギア21を通じてキャリア4に動力が伝達され、この時、リングギア32はワンウェイクラッチ33における回転可能方向に空転し、負荷の増大の検出で切換駆動部材7が作動してリングギア31がフリーとなれば、ワンウェイクラッチ33によって回転が阻止されているリングギア32とこれに噛み合う遊星ギア22を通じてキャリア4に動力が伝達される。ワンウェイクラッチ33は一つだけであるものの、その回転阻止方向を切り換えられるようにすることで、電動ドリルドライバーに求められる正転と逆転とにおいて、同じ動作を得られるようにしているわけである。ただし、機構的にこのようにしてあるだけで、後述するように、実際にはモーター6の逆転時には、作業負荷に応じて切換駆動部材7を作動させて自動変速することは行っていない。なお、図示例における正逆切換リング76の作動は、図7に示す回転方向切換ロッド8と、ギアケース1に軸91で軸支されて一端を回転方向切換ロッド8に、他端を正逆切換リング76に係合させた切換レバー90とによってなされる。ここにおける回転方向切換ロッド8は、図2に示すスイッチユニットSWとも連動しており、モーター6の回転方向の切り換えも同時になされる。
【0017】
次に、上記切換駆動部材7を作動させる制御回路Cについて説明する。マイクロコンピュータやロジックICによって形成された制御回路Cは、モーター6に設けられたフィードバックジェネレータ(FG)のような速度検出手段SPが入力側に接続されており、作業負荷の増大に伴ってモーター6の回転数が低下した時に切換駆動部材7に変速信号を出力して減速比を大きくする変速動作を行わせるのであるが、この制御回路Cには、上記回転数信号のほかに、変速モード切換スイッチSからの変速モード信号と、上述の回転方向切換ロッド8によるところの正転と逆転との回転方向信号と、速度制御回路によって速度制御がなされるモーター6が最高出力状態となっているかどうかのスピードコントロール・フル信号とが入力されるようになっている。そして変速信号の出力は、これら変速信号と切換信号とスピードコントロール・フル信号も参照して行うものとなっている。
【0018】
すなわち、変速モード切換スイッチSは、自動変速モードとするか、自動変速をしないモードとするかを切り換えるもので、図2に示す切換ハンドル95の操作によって両モードの切り換えを行うものであり、自動変速をしないモードとした時には、上記制御回路Cは作業負荷の増大に応じた変速信号の出力はせず、減速比を一定に保つ。なお、図8に示すフローチャートでは、作業開始に伴い、即座に変速信号を出力して、減速比を大きくした高トルク低速回転状態で終始作業を行うようにしたものを示しているが、変速信号を出力せずに低トルク高速回転状態が作業終了まで継続するようにしたものであってもよい。
【0019】
そして、速度制御回路は、図2に示すスイッチユニットSWにおけるトリガースイッチハンドル9を引く量が多くなるにつれてモーター6の回転速度が高くなるように、上記速度検出手段SPで検出される速度を参照しつつモーター6の回転速度のフィードバック制御を行うものであるが、トリガースイッチハンドル9を最大限に引いた時には、上記速度制御回路の出力部のスイッチング素子FETをバイパスする図1中のスイッチTがオンとなるためにモーター6は最大出力で回転を行うものであり、スイッチング素子FETのドレイン・ソース間電圧を上記スピードコントロール・フル信号として取り込むことで、モーター6の回転数低下に伴う変速信号の出力は、スピードコントロール・フル信号が入っている時のみ、つまりモーター6が最大出力で回転している時のみ行うものとし、最大出力に達していない状態においては、負荷の増大によるところのモーター6の回転数低下があっても、変速信号は出力しないようにしてある。
【0020】
さらに、前述の回転方向切換ロッド8とスイッチユニットSWとによるところのモーター6の回転方向切換によって、モーター6に流れる電流の方向が切り換えられるわけであるが、モーター6の一方の端子の電圧を監視し、モーター6が正転状態にある時には、モーター6の回転数低下に伴う変速信号の出力を行うものの、モーター6が逆転状態にある時には、負荷の増大によるところのモーター6の回転数低下があっても、変速信号は出力しないようにしてある。
【0021】
すなわち、この電動工具においては、モーター6が正転状態にあるとともに、変速モードが自動変速モードにセットされ、更にトリガースイッチハンドル9が最大限に引かれてモーター6が最大出力で回転している時にのみ、作業負荷の増大に伴う自動変速が行われるものであり、上記3つの条件を満足していない時には、作業負荷が増大しても自動変速がなされないようになっている。
【0022】
もっともこの電動工具では、グリップ部分に着脱自在に装着される電源としての電池の端子電圧が所定値より低下した時には、制御回路Cを介さずに切換駆動部材7を作動させて低速高トルク状態に切り換えてしまう電圧検知切換回路VPを設けているために、どのような条件にセットされている時でも、電池の端子電圧が所定値より低下したためにモーターロックが生じやすくなっている状態においては、制御回路Cからの変速信号の出力の有無にかかわらず、低速高トルク状態に切り換えられる。
【0023】
モーター6に負荷がかかると電池電圧が低下するが、これがモーター6の停止寸前のロック状態だと電圧低下が最大となるとともに、この時には制御回路Cに十分な電圧を供給することができない状態となることがあり、また負荷の検出や制御回路Cの応答性の点から負荷の増大がきわめて急である場合には負荷に応じた自動変速がなされる前にモーターロック状態に陥ってしまうおそれがあるが、このような時には電圧検知切換回路VPの出力によってモーターロックに陥る前に減速比を大きくする変速がなされるものであり、モーターロック状態に陥るおそれがきわめて少なくなっているものである。
【0024】
なお、負荷の増大に応じて自動変速するものに適用したものを示したが、負荷検出機能を備えていないものにおいても適用することができるのはもちろんである。また、電池の端子電圧が所定値以下になれば低速高トルク回転状態に移行するようにしたものを示したが、電池の端子電圧の低下方向の変化量が所定値を越えると低速高トルク回転状態に移行するようにしたものであってもよい。
【0025】
【発明の効果】
以上のように本発明においては、電池を電源とするとともに変速手段を備えている電池式電動工具において、電池電源の端子電圧の低下を監視するとともに該端子電圧が所定値以下になった時もしくは端子電圧の低下方向の変化量が所定値を越えた時に上記変速手段を作動させて出力部の回転を高速低トルク回転から低速高トルク回転に切り換える切換手段を備えているために、電池電源の端子電圧が低下した時には低速高トルク回転の状態に無条件に切り換えられてしまうものであり、このためにモーターロック状態に陥るおそれが少なくなっているものであり、使い勝手のよいものである。
【0026】
また、上記変速手段が作業負荷の増大にて出力部の回転を高速低トルク回転から低速高トルク回転に切り換える自動変速手段である時には、負荷の状況に応じた減速比での駆動がなされるために、使い勝手がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態の一例のブロック回路図である。
【図2】同上の部分縦断面図である。
【図3】同上のギアケース部分の縦断面図である。
【図4】同上のギアケース部分の横断面図である。
【図5】同上の変速動作を示すもので、(a)は変速前を示す斜視図、(b)は変速後を示す斜視図である。
【図6】同上のワンウェイクラッチの回転方向切り換え部分の説明図である。
【図7】同上の回転方向切換操作部を示す断面図である。
【図8】同上の自動変速モードの動作についてのフローチャートである。
【符号の説明】
6 モーター
7 切換駆動部材
C 制御回路
VP 電圧検知切換回路

Claims (2)

  1. 電池を電源とするとともに変速手段を備えている電池式電動工具において、電池電源の端子電圧の低下を監視するとともに該端子電圧が所定値以下になった時もしくは端子電圧の低下方向の変化量が所定値を越えた時に上記変速手段を作動させて出力部の回転を高速低トルク回転から低速高トルク回転に切り換える切換手段を備えていることを特徴とする電池式電動工具。
  2. 変速手段は作業負荷の増大にて出力部の回転を高速低トルク回転から低速高トルク回転に切り換える自動変速手段であることを特徴とする請求項1記載の電池式電動工具。
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