JP3744060B2 - アシルオキシスルホン酸エステル誘導体の製造法 - Google Patents

アシルオキシスルホン酸エステル誘導体の製造法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は1,2−ジオール化合物から医薬、農薬において重要な中間体であるアシルオキシスルホン酸エステルの製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
1,2−ジオール化合物は工業的に入手容易なうえに、最近では光学活性な化合物も入手可能となり、その重要性がますます増加している。しかしながら、1,2−ジオール化合物は、アミンやアルコールなどの求核剤との反応では不活性なためこれらと反応させるためには、より有用な合成中間体に変換させる必要がある。従来、この変換方法としては、次のようなものが知られている。即ち、ジオール化合物の水酸基の一方にスルホン酸クロライドと反応させてトシル化した後、残る水酸基をアセチル化する方法(特公昭57−165352号)、ジオール化合物を45%w/v臭化水素/酢酸で処理して末端の水酸基を臭素化し残る水酸基をアセチル化する方法(Org.Synth.,63,140)、ジオール化合物を塩化チオニルを使用し環状サルフェートとすることで反応性を上げる方法(J.Am.Cem.Soc.1988,110,7538)、ジブチル錫ジメトキシドを用いてジオール化合物の選択的アシル化、アルキル化する方法(SYNLETT,1993,913)等が挙げられる。ジオール化合物を、オルト酢酸メチル処理した後、トリメチルシリルクロライドや、アセチルブロマイド等と反応させてハロゲノアシルオキシ化合物を得る方法(Tetrahedron,Vol.48,No.48,pp10515−10530,1992)、またジオール体にフェニルアルデヒドを反応して環化、これをN−ブロモスクシンイミドで開く反応(J.Chem.Soc.,Chem.Commun.,1988,1004)等が挙げられる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの合成法には工業的に次のような問題点がある。即ち、ジオール化合物の水酸基の一方をトシル化した後、残る水酸基をアセチル化する方法では、トシル化の選択性が悪いうえに、一度モノトシル体を単離した後にアセチル化せねばならず効率的でない、ジオール化合物を45%w/v臭化水素/酢酸で処理して末端の水酸基を臭素化し残る水酸基をアセチル化する方法では、強い酸性条件化での反応であるので酸に弱い基質については使用できない、ジオール化合物を塩化チオニルを使用し環状サルフェートとすることで反応性を上げる方法では、酸化の際に加水分解が起こり収率が下がる場合や、基質にアミンを含むものには使用できない、ジブチル錫ジメトキシドを用いてジオール化合物の選択的アシル化、アルキル化する方法では、等量のすず化合物を使用する点で高価であり、実用的でない、ジオール化合物からオルトエステルを経る反応で、オルト酢酸メチルを用いトリメチルシリルクロライド、アセチルブロマイド等で開く反応では、オルトエステル体を開環させハロゲン置換はしているものの、ハロゲンよりも結晶性が良く脱離基としてより優れているアルキルスルホネートやフェニルスルホネートとしたものはなかった。また、開環に使用する試薬が、アセチルブロマイド、トリメチルシリルクロライドと言った高価なものであることからコストの面で不利といえる、ジオール体にフェニルアルデヒドを反応して環化、これをN−ブロモスクシンイミドで開く反応においても、使用する試薬が高価であるため実用的でない。したがって、より効果的で、有用な合成中間体への変換方法が求められていた。
【0004】
【課題を解決するための手段】
発明者等は従来の技術のもつ欠点を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ジオール化合物をオルトエステル化合物とし、スルホン酸で開環させることで効率的に、1位にスルホネート基、2位にエステル基を同時に導入する方法を見いだし本発明を完成した。
【0005】
本発明は即ち、下記式(1)
【0006】
【化5】
Figure 0003744060
【0007】
(式中、Xは水素、無置換もしくはフェニル基を置換基として有するC1〜C4のアルキル基、無置換もしくはC1〜C4のアルキル基を置換基として有するフェニル基、ハロゲン基、シアノ基、−COOR2(R2は無置換もしくはフェニル基を置換基として有するC1〜C4のアルキル基)又は−OR2(R2は前記に同じ)を表す。)
で表される1,2−ジオール化合物に、酸触媒存在下、オルトエステルを反応させて、下記式(2)
【0008】
【化6】
Figure 0003744060
【0009】
(式中、R3は水素、C1〜C4のアルキル基又は無置換もしくはC1〜C4のアルキル基を置換基として有するフェニル基を表し、R4はC1〜C4のアルキル基を表す)
で表されるオルトエステル化合物を生成後、該エステル化合物に、下記式(3)
【0010】
【化7】
Figure 0003744060
【0011】
(式中、R1はC1〜C4のアルキル基、無置換又はC1〜C4のアルキル基、ニトロ基、ハロゲンから選ばれた基を置換基として有するフェニル基を表す)で表されるスルホン酸を反応させる事を特徴とする、下記式(4)
【0012】
【化8】
Figure 0003744060
【0013】
(式中、X、R1、R3は前記に同じ)
で表されるアシルオキシスルホン酸エステルの製法である。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の工程を図示し、更に詳細に説明する。
【0015】
【化9】
Figure 0003744060
【0016】
上記の1,2−ジオール化合物(1)を無溶媒又は溶媒中、酸触媒存在下に、オルトエステルと反応するとオルトエステル化合物(2)が得られる。使用する1,2−ジオール化合物としては、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、4−フェニルブタン、3−フェニル−1,2−プロパンジオール、3−クロロ−1,2−プロパンジオール、1,2−ジヒドロキシブチロニトリル、1,2−ジヒドロキシブタン酸メチルエステル、1,2−ジヒドロキシブタン酸エチルエステル、1,2−ジヒドロキシブタン酸n−ブチルエステル、1,2−ジヒドロキシプロパンメチルエーテル、1,2−ジヒドロキシプロパンエチルエーテル、1,2−ジヒドロキシプロパンベンジルエーテル等が挙げられる。
【0017】
使用する溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジグライム等のエーテル系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタン等の塩素系溶媒、ならびにこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0018】
使用する酸触媒としては、塩酸、硫酸、燐酸等の鉱酸、酢酸、安息香酸等の有機酸、メタンスルホン酸、P-トルエンスルホン酸等の有機スルホン酸、三フッ化ホウ素/エーテル錯体、四塩化錫等のルイス酸が挙げられる。酸触媒の使用量は、1,2−ジオール化合物1モルに対して0.01モル%から10モル%で、好ましくは、0.1モル%から1モル%である。
【0019】
使用するオルトエステルは、オルト蟻酸メチル、オルト蟻酸エチル、オルト酢酸メチル、オルト酢酸エチル、オルト安息香酸メチル等が挙げられる。オルトエステルの使用量は、1,2−ジオール化合物1モルに対して1モルから30モルで、好ましくは、1モルから3モルである。過剰に使用しても収率には影響はないが、経済的に不利である。反応温度は−50℃から溶媒の還流温度までで、好ましくは0℃から30℃である。
【0020】
この様にして得られたオルトエステル化合物(2)の反応溶液から、副成したアルコールを減圧又は常圧で留去したのち、単離することなく無溶媒又は溶媒中でスルホン酸を反応させるとアシルオキシスルホン酸エステル(4)が得られる。
【0021】
使用する溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジグライム等のエーテル系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタン、トリクロロエタン等の塩素系溶媒、ならびにこれらの混合溶媒等が挙げられる。
【0022】
使用するスルホン酸としては、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、フェニルスルホン酸、p−トルエンスルホン酸等のトルエンスルホン酸、ニトロベンゼンスルホン酸、2,4,6−トリクロロベンゼンスルホン酸等が挙げられる。スルホン酸の使用量は、1,2−ジオール化合物1モルに対して1モルから30モルで、好ましくは、1モルから3モルである。反応温度は−50℃から溶媒の還流温度までで、好ましくは−10℃から30℃である。
【0023】
原料として光学活性な1,2−ジオール化合物を用いる場合は、光学活性なアシルオキシスルホン酸エステルを合成することができる。例えば、式中のXがハロゲンの場合、S体の1,2−ジオール化合物を用いれば、S体のアシルオキシスルホン酸エステルが得られる。R体の場合も同様である。光学純度の高い1,2−ジオール化合物を用いると、反応中顕著なラセミ化反応は起こらず光学純度の高いアシルオキシスルホン酸エステルを合成することができる。
【0024】
【実施例】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0025】
実施例1
3−クロロ−1,2−プロパンジオール 55.27g(0.5mol)、pートルエンスルホン酸 0.238g(1.25mmol,0.25mol%)を塩化メチレン 250ml中に溶解し、室温、窒素雰囲気下で攪拌、そこにオルト酢酸メチル 77.72g(0.646mol)の塩化メチレン 溶液50mlを20分かけて滴下し、滴下終了後4時間攪拌した。溶媒を減圧留去すると、83.23g の粗生成物が得られた。この粗生成物はそのまま次の反応に用いた。上記の反応で得られたオルトエステル体 0.340g(2.0mmmol) を、t−ブチルメチルエーテル 4ml中に溶解、そこにp−トルエンスルホン酸 0.371g(2.15mmol)を加え、室温で19時間反応した。反応終了後、有機層を飽和炭酸ナトリウム水溶液で処理、水洗後、溶媒を留去、HPLCによる定量では収率75.2%で1−p−トルエンスルホキシ−2−アセトキシ−3−クロロプロパン 0.670gを得た。
【0026】
実施例2
実施例1と同様の方法で得られたオルトエステル体 0.340g(2.0mmmol)を、酢酸エチル 4ml中に溶解、そこにpートルエンスルホン酸 0.371g(2.15mmol)を加え、室温で17時間反応した。反応終了後、有機層を飽和炭酸ナトリウム水溶液で処理、水洗後、溶媒を留去、HPLCによる定量では収率86.0%で1−p−トルエンスルホキシ−2−アセトキシ−3−クロロプロパン 0.655gを得た。
【0027】
実施例3
実施例1と同様の方法で得られたオルトエステル体 3.340g(20mmol)を、塩化メチレン 30ml中に溶解し、−18℃まで冷却。そこにメタンスルホン酸 2.00g(28mmol)を滴下した。滴下終了後も液温を−15℃〜−12℃に保ち8時間反応した。反応終了後、有機層を飽和炭酸ナトリウム水溶液で処理、水洗後、溶媒を留去、HPLCによる定量では収率66.8%で1−メタンスルホキシ−2−アセトキシ−3−クロロプロパン 4.86gを得た。
【0028】
実施例4
ジオール化合物を光学活性なR−3−クロロ−1,2,−プロパンジオール(光学純度98%ee)に代えて実施例1と同様に反応した。反応終了後、有機層を飽和炭酸ナトリウム水溶液で処理、水洗後、溶媒を留去、収率78.2%でR−1−p−トルエンスルホキシ−2−アセトキシ−3−クロロプロパンを得た。これをメタノール中青酸カリを作用させ、4−クロロ−3−ヒドロキシブチロニトリルに誘導し、ガスクロマトグラフィーにより光学純度を測定したところ98%eeであった。
【0029】
実施例5
ジオール化合物として1,2−ジヒドロキシブタン酸メチルエステルを用いた以外は実施例1と同様に反応を行った。HPLCによる定量では収率65.2%で1−p−トルエンスルホキシ−2−アセトキシブタン酸エステルを得た。
【0030】
実施例6
ジオール化合物として1,2−ジヒドロキシプロパンエチルエーテルを用いた以外は実施例1と同様に反応を行った。HPLCによる定量では収率67.4%で1−p−トルエンスルホキシ−2−アセトキシプロパンエチルエーテルを得た。
【0031】
【発明の効果】
本発明によれば、1,2−ジオール化合物をアミンやアルコールなどの求核剤と反応させるためのより有用な合成中間体への変換を、より効果的に実施することができる。また、高光学純度の1,2−ジオール化合物を用いると、反応中顕著なラセミ化反応を起こすことなく高光学純度のアシルオキシスルホン酸エステルの合成ができる。本反応は2段階であるがワンポットで行え、しかもハロゲンよりも脱離能の高いスルホネートをより安価な原料で導入することができるという利点を有する。

Claims (4)

  1. 下記式(1)
    Figure 0003744060
    (1)
    (式中、Xは水素、無置換もしくはフェニル基を置換基として有するC1〜C4のアルキル基、無置換もしくはC1〜C4のアルキル基を置換基として有するフェニル基、ハロゲン基、シアノ基、−COOR2(R2は無置換もしくはフェニル基を置換基として有するC1〜C4のアルキル基)又は−OR2(R2は前記に同じ)を表す。)
    で表される1,2−ジオール化合物に、酸触媒存在下、オルトエステルを反応させて、下記式(2)
    Figure 0003744060
    (2)
    (式中、R3は水素、C1〜C4のアルキル基又は無置換もしくはC1〜C4のアルキル基を置換基として有するフェニル基を表し、R4はC1〜C4のアルキル基を表す)
    で表されるオルトエステル化合物を生成後、該エステル化合物に、下記式(3)
    Figure 0003744060
    (3)
    (式中、R1はC1〜C4のアルキル基、無置換又はC1〜C4のアルキル基、ニトロ基、ハロゲンから選ばれた基を置換基として有するフェニル基を表す)で表されるスルホン酸を反応させる事を特徴とする、下記式(4)
    Figure 0003744060
    (4)
    (式中、X、R1、R3は前記に同じ)
    で表されるアシルオキシスルホン酸エステルの製法。
  2. 式(4)、式(2)中の、R3がメチル基である請求項1に記載のアシルオキシスルホン酸エステルの製法。
  3. 式(4)中の、R1がメチル基又はp−トルイル基である請求項1又は2に記載のアシルオキシスルホン酸エステルの製法。
  4. 1,2−ジオール化合物が光学活性体である請求項1〜3のいずれかに記載の光学活性アシルオキシスルホン酸エステルの製法。
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