JP3742825B2 - ポリ乳酸樹脂を分解する微生物およびポリ乳酸樹脂の微生物分解方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規な生物学的処理法によるポリ乳酸樹脂の分解方法および分解能を有する微生物に関する。
【0002】
【従来の技術】
最近、プラスチック廃棄物の処理が問題になっている。処理方法としては焼却や埋め立てが主であるが、焼却は地球温暖化の促進、埋め立ては埋立地の減少等の問題を抱え、生物学的分解処理法が注目れている。また、ポリ乳酸樹脂は次世代のプラスチックとして種々の用途開発が進められており、近い将来、現在使用されているプラスチック同様廃棄物問題がクローズアップされることが十分に予想される。
【0003】
ポリ乳酸樹脂は水系の中で加水分解する高分子であり、現在医療や医薬用材料として応用されているが、澱粉等の再生可能な資源から乳酸醗酵を通して合成できることから、環境分解が困難である汎用プラスチックに代わる生分解性プラスチックの素材として注目されている。ポリ乳酸樹脂はその構成モノマーの種類によりポリL−乳酸、ポリD−乳酸、ポリDL−乳酸あるいは他の高分子との共重合体が存在している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ポリ乳酸樹脂は酵素によって加水分解が促進されていると知られている。しかしながら、これまでポリ乳酸樹脂およびその廃棄物を直接生物学的に分解処理するための微生物およびその微生物による分解方法技術は、放線菌Amycolatopsis mediterranei(FERM P―14921)およびこの菌を用いた分解のみであった。
【0005】
そこで、本発明は、ポリ乳酸樹脂およびそれらを含むプラスチックを直接生物学的に分解処理する微生物およびその方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意研究を重ねた結果、微生物学的手段により優れたポリ乳酸分解活性を有する放線菌を見い出し、本研究を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明によれば、ポリ乳酸を放線菌で分解することを特徴とするポリ乳酸樹脂の分解方法が提供され、また無機塩類を含む培地にポリ乳酸樹脂とStreptomyces属に属する放線菌を添加し、分解することを特徴とするポリ乳酸樹脂の分解方法が提供され、特に前記Streptomyces に属する放線菌(FERM P―15869、FERM P−15870)であることを特徴とする前記ポリ乳酸樹脂の分解方法が提供される。更に培養条件がpH4.0−10.0、温度10〜47℃であることを特徴とする前記ポリ乳酸樹脂の分解方法が提供される。
【0008】
なお、本発明でいうポリ乳酸樹脂とは、乳酸を主要成分とする重合体をさし、ポリL−乳酸やポリD−乳酸等のポリ乳酸ホモポリマ−、ポリL/D−乳酸共重合体、及びこれらに他のポリマ−を共重合させたポリ乳酸共重合体、そして上記ポリマ―間、および他の成分ポリマ−とのブレンド体を含み、重合体中の乳酸成分の重量比率が10%以上のものをいう。
【0009】
本発明はポリ乳酸樹脂の分解を、その分解能を有する微生物に行わせることで、好気条件下でのポリ乳酸樹脂の分解処理を可能にするものである。
【0010】
ポリ乳酸分解活性を有する微生物は放線菌である。放線菌としては表1に示す菌が挙げられる。
【0011】
【表1】
Figure 0003742825
その中で特にAmycolatopsis mediterranei(FERM P−14921)と、Streptomyces に属する放線菌(FERM P―15869およびFERM P−15870) に属する放線菌が好ましく、その分離獲得は以下に示す方法により行った。
【0012】
本発明者らは茨城県つくば市の土壌、河川および湖沼水を採用し、以下に詳述する操作を経てポリ乳酸樹脂を分解する好気性微生物を分離獲得した。
【0013】
以下の表2に示す基本培地1リットルに1000mgのポリ乳酸樹脂を乳化させ、1.5%の寒天を含む寒天平板培地を調製した。各サンプル1gを5mlの滅菌水に懸濁させ、10〜102 に希釈した後、0.2mlを調製した培地に塗布した。培養は30℃のふ卵器中で行った。培地上に生育したコロニーの中でコロニーの周囲に透明域を形成したものをポリ乳酸樹脂の分解菌とし、白金耳でコロニーを釣り上げることにより単離操作を行った。
【0014】
【表2】
Figure 0003742825
培地上に生育したコロニーの中から、周囲に透明領域を確認したサンプルのコロニーを白金耳で釣り上げ、同様な培地を用い純粋分離し、ポリ乳酸樹脂を分解するStreptomyces属微生物(FERM P−15869及びFERM P−15870)を得ることができた。
【0015】
分離菌株をNUTRIENT BROTHに接種しコロニーを形成させ、得られた菌体の性状について顕微鏡で観察し、また生化学的性状を調べた。結果は以下の表3および表4に示す。
【0016】
【表3】
Figure 0003742825
【表4】
Figure 0003742825
表3および表4に示す結果を Bergey's Manual of Determinative Bacteriology9版等に参照したところ、上記の菌株はStreptomyces属の菌と性状が類似していることから、FERM P−15869及びFERM P−15870はStreptomyces属であることが示された。
【0017】
本発明で使用される菌株はStreptomyces属とし、ポリ乳酸樹脂を処理するために本菌株(FERM P−15869及びFERM P−15870)を含んだ微生物群を用いることが望ましい。
【0018】
本菌株又は本菌株を含む微生物群は必要に応じて、凍結乾燥した粉末、その粉末と各種ビタミンやミネラルと必要な栄養源を配合した後打錠した錠剤、先に記した基本培地中で生育培養させた培養液、の形でポリ乳酸樹脂の処理に提供される。
【0019】
本発明における培養において使用される基本培地は、窒素源として例えば、硫酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、炭酸アンモニウム等が使用され、その他無機塩としてリン酸−カリウム、リン酸二カリウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、モリブデン酸ナトリウム、タングステン酸ナトリウムおよび硫酸マンガン等の通常利用される培養源が使用され、そのpHは4.0〜10.0であり好ましく5.0〜8.0である。また、培養温度は10〜47℃であり好ましくは10〜40℃である。
【0020】
本発明のポリ乳酸の生物学的分解処理は、培養槽に先に示した基本培地、処理されるべきポリ乳酸樹脂、上記菌株および菌群を配合した粉末、錠剤、培養液を添加することで行われることが望ましいが、上記菌株を活性汚泥およびコンポストに組み込んでも良い。なお、基本培地に対するポリ乳酸樹脂の投入量は、0.01重量%〜10重量%が望ましい。添加する微生物量は極少量であっても構わないが、投入量が処理時間に影響を及ぼさないためにポリ乳酸樹脂に対して0.01重量%以上が好ましい。
【0021】
【実施例】
(実験例1)
表2の基本培地1リットルに1000mgのポリ乳酸樹脂(Mw:1.89×105 )を乳化させた1.5%の寒天を含む寒天平板培地を用意し、FERM P−15869菌株を接種、30℃で2週間培養した。その結果は図1に示したように、乳化白濁した寒天平板培地上での、FERM P−15869菌株のコロニー形成に伴い、コロニー周囲に透明領域が確認された。
【0022】
(実験例2)
表2の基本培地100mlに対し、粉末加工したポリ乳酸樹脂(Mw:1.89×105 )を炭素源として100mg添加したものを用意し、FERM P−15869菌株を接種、30℃で、粉末加工したポリ乳酸樹脂を4週間、180rpm回転型振とう機で培養した。添加粉末加工ポリ乳酸樹脂の分解に伴う、ポリ乳酸樹脂の回収重量(クロロホルム抽出)の変化を測定した。その結果は表5に示したように、菌株を植菌しないコントロールが培養前後で重量が僅かしか変化しなかったのに比べ、ポリ乳酸樹脂の回収重量が約30%減少した。
【0023】
(実験例3)
表2の基本培地を含んだ寒天平板培地を用意し、ポリ乳酸樹脂(Mw:1.89×105 )を加工したフィルム片をFERM P−15869菌株縣濁液に浸し平板培地上に着床し、30℃で、40日間培養した。培養後のフィルム片を滅菌水で水洗、風乾し、走査型電子顕微鏡JST−T220型(日本電子株式会社製)で、倍率1 000倍、加速電圧15kVで観察した結果、図2に示す如く表面が粗くなったことが確認された。
【0024】
以上のことから、分離菌株は高分子のポリ乳酸樹脂を分解出来ることが明らかとなった。なお、図1はFERM P−15869による寒天平板培地中のポリ乳酸樹脂を分解しているコロニーの培養2週間後の状態を示すものである。図2(a)はFERM P−15869無植菌、図2(b)はFERM P−15869植菌である
【表5】
Figure 0003742825
なお、FERM P−15870についても上記と同じ実験をしたところ、FERM P−15869と同じ結果が得られた。
【0025】
【発明の効果】
本発明のポリ乳酸樹脂の分解方法は、ポリ乳酸樹脂廃棄物の処理方法であり、これまで既存の燒却のように排ガスも生じず、埋立処理に比べて極めて省時間な技術であり、廃棄物処理上で極めて価値の高い方法である。
また、コンポスト化施設で本発明の処理方法を用いることにより、ポリ乳酸樹脂を有機酸等の有用物質や堆肥に転換することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】FERM P−15869による寒天培地中のポリ乳酸樹脂を分解しているコロニーの培養2週間後の顕微鏡写真
【図2】FERM P−15869によるフィルムの分解を示すもので、培養40日後のフィルムの顕微鏡写真

Claims (3)

  1. ポリ乳酸樹脂をStreptomyces属微生物に属する菌で分解することを特徴とするポリ乳酸樹脂の分解方法。
  2. Streptomyces 属微生物に属する菌がStreptomyces violaceusnigerである請求項記載のポリ乳酸樹脂の分解方法。
  3. Streptomyces 属微生物に属する菌がStreptomyces cyaneusである請求項記載のポリ乳酸樹脂の分解方法。
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