JP3742567B2 - 真空蒸着装置及び真空蒸着方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、基板に有機エレクトロルミネッセンス材料の被膜を蒸着して成膜するため等に用いられる真空蒸着装置及び真空蒸着方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
真空蒸着装置は、真空チャンバー内に蒸着源と基板とを対向させて配置し、真空チャンバー内を減圧した状態で、蒸着源を加熱して、蒸着源を溶融させて蒸発させるか、もしくは蒸発源を昇華させるかして、気化させ、この気化させた物質を基板の表面に堆積させて成膜するようにしたものである。蒸着源の加熱方法は、蒸着源に電子を加速して照射する電子ビーム法や、タングステンやモリブデンなどの高融点金属からなるボートを抵抗体として電流を流して、ボートの上に置いた蒸着源を加熱する抵抗加熱法などがある。そして加熱されて蒸着源から発生する気化分子は蒸着源から法線方向に直進的に放出されるが、放出空間は真空に保たれているため、気化分子の平均自由行程は数十mにも及び、気化分子は直進して、蒸着源と対向して配置される基板の上に付着して堆積されるものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
このように気化分子は蒸着源2から法線方向に直進的に放出されるので、図14に矢印で示すように、気化分子は四方八方へ飛散する方向に直進することになるが、基板3の表面が平面状のものであると、蒸着源2からの距離が基板3の中央部と端部とではd1,d2のように異なるので、基板3の中央部と端部とでは蒸着物質の堆積量が異なり、基板3に成膜される膜厚が不均一になり易いという問題があった。
【0004】
またこのように蒸発源2から気化分子が飛散する方向に直進するために、基板3へ向かって進行しない気化分子が多く、この気化分子は基板3の表面に付着せず成膜に寄与しないので、無効材料となる。従って蒸発源2の材料利用効率が低い、つまり歩留まりが低いという問題や、基板3の表面の成膜速度が遅くなるという問題もあった。
【0005】
そしてこの基板3に付着されない気化分子は、真空チャンバーの内壁に到達して付着・堆積されることになるが、同じ真空チャンバーを用いて異なる材料に切り換えて真空蒸着を行なう場合、材料を切り換えて真空蒸着をする際に、真空チャンバーの内壁に堆積している前の材料が再度加熱されて気化し、これが真空蒸着で形成される蒸着膜に混入して汚染し、成膜の純度が低下するという問題も引き起こすものであった。
【0006】
さらにこのように真空チャンバーの内壁に材料が堆積されていると、真空チャンバーを大気に開放した際に空気中の水分やガスがこの堆積された材料に吸蔵され、真空チャンバー内を真空に維持することがこの吸蔵された水分やガスが阻害因子となって困難になり、またこの真空チャンバーの内壁に堆積された材料がフレーク状の細片になって剥がれ、基板3やボート等のルツボを汚染する原因になるという問題も発生するおそれがあった。
【0007】
ここで、有機エレクトロルミネッセンス材料のような有機材料は真空蒸着の際の加熱温度が低いので、基板3に付着されない気化分子は真空チャンバーの内壁に付着して堆積され易く、またこの真空チャンバーの内壁に堆積したものは気化し易いので、上記のような基板3に付着されない気化分子が真空チャンバーの内壁に堆積することによる問題が顕著に発生するおそれがある。
【0008】
また、有機薄膜素子は基板上に有機薄膜を順次積層堆積させて個々の機能を付加するものとして形成されており、特に有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板上の透明電極の上に順次有機薄膜を積層していく積層構造になっているのが一般的であり、複数の有機材料を順次真空蒸着することによってこのような積層構造が作製されている。そしてこの真空蒸着の際に、有機材料のホスト材料に蛍光を有する発光材料を少量ドープする方法が、KodakのTangらにより発表されて以来一般に採用されている。例えば緑色素子形成においてAlq3層をホスト材料にキナクリドンを同時に蒸着する共蒸着を行なってドープすることがよく知られている。さらに、高効率有機EL素子を形成するため、陽極からのホール注入効率を高めるためにホール輸送性の有機物とドーパントである電子受容性の化合物を共蒸着することや、電子輸送性の有機物とドーパントであるLiなどの電子供与性の金属を共蒸着して電子注入層を形成することなども知られている。
【0009】
これらのように有機材料を真空蒸着する成膜方法においては、一つの真空チャンバー内に二つ以上の蒸発源を設置して、真空蒸着をすることが一般に行なわれているが、このように共蒸着する場合、ドープ材料の濃度は膜の性質を決定する大きな要因である。つまり、有機材料の場合は蒸発温度が低く、2元蒸着を行なう場合も二つの蒸着源の蒸発温度が接近している場合が多く、どちらか一方の有機材料が真空チャンバーの壁などに付着している場合に、加熱によってそれらが再蒸発すると、成膜された膜内のドーピング濃度に影響を及ぼすことになる。従って、このような場合にも、既述したような、基板に付着されない気化分子が真空チャンバーの内壁に堆積することによる問題が顕著に発生するおそれがあるのである。
【0010】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、基板に有機材料を蒸着するにあたって、均一な膜厚で成膜速度高く、しかも歩留まり高く蒸着を行なうことができ、また真空チャンバー内に蒸着物が堆積されることを最小限に抑えて、真空チャンバー内の真空の質を高く保持しつつ高い純度で真空蒸着を行なうことができる真空蒸着装置を提供することを目的とするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の請求項1に係る真空蒸着装置は、蒸着源2のうち少なくとも一つは有機材料を用い、その有機材料が堆積されない温度に加熱された壁4で、蒸着源2と基板3が対向する空間を囲んだ状態で、0.01Pa以下の減圧下の真空チャンバー1内で蒸着源2を加熱して基板3表面に蒸着するようにした真空蒸着装置において、真空チャンバー1に接続して減圧可能な予備チャンバー11を付設し、蒸着源2を真空チャンバー1と予備チャンバー11の間で移動自在にして成ることを特徴とするものである。
【0012】
また請求項2の発明は、上記請求項1において、蒸着源2と基板3とが相対的に移動した状態で、蒸着源2を加熱して基板3表面に蒸着するようにして成ることを特徴とするものである。
【0013】
また請求項3の発明は、上記請求項1又は2において、蒸着源2と、蒸着源2と基板3が対向する空間を囲む壁4とが、相対的に移動した状態で、蒸着源2を加熱して基板3表面に蒸着するようにして成ることを特徴とするものである。
【0014】
また請求項4の発明は、上記請求項1乃至3のいずれかにおいて、蒸着源2として用いる有機材料が、有機エレクトロルミネッセンス材料であることを特徴とするものである。
【0015】
また請求項5の発明は、上記請求項1乃至4のいずれかにおいて、蒸着源2と基板3が対向する空間を囲む壁4として筒体5を用い、真空チャンバー1内に複数の筒体5を配置し、各筒体5に蒸着源2を配置すると共に、基板3を各筒体5の開口部間に亘って移動させるようにして成ることを特徴とするものである。
【0016】
また請求項6の発明は、上記請求項1乃至5のいずれかにおいて、蒸着源2と基板3が対向する空間を囲む壁4として筒体5を用い、一つの筒体5に複数の蒸着源2を配置すると共に各蒸着源2の間を仕切る仕切り壁6を筒体5内に設け、筒体5と仕切り壁6によってそれぞれの蒸着源2と基板3が対向する空間をそれぞれ囲んで成ることを特徴とするものである。
【0017】
また請求項7の発明は、上記請求項1乃至6のいずれかにおいて、基板3を移動させる基板送り装置7を具備し、基板送り装置7を基板3の移動速度を制御自在に形成して成ることを特徴とするものである。
【0018】
また請求項8の発明は、上記請求項1乃至7のいずれかにおいて、基板3を移動させる基板送り装置7を具備し、基板3を円運動させる方向に移動させるように基板送り装置7を形成して成ることを特徴とするものである。
【0019】
また請求項9の発明は、上記請求項1乃至7のいずれかにおいて、基板3として長尺シート材8を用い、長尺シート材8を一対の一方のロール9から巻き外すと共に他方のロール10に巻き付けて移動させるようにして成ることを特徴とするものである。
【0021】
また請求項10の発明は、上記請求項2乃至のいずれかにおいて、筒体5の基板3の側の開口部の幅を、基板3の移動方向と直交する方向の基板3の幅より20%広い寸法からこの幅より20%狭い寸法の範囲内に形成して成ることを特徴とするものである。
【0022】
また請求項11の発明は、上記請求項1乃至10のいずれかにおいて、有機材料が堆積されない温度に加熱された壁4で、蒸着源2と基板3が対向する空間のうち、60〜90%を囲んで成ることを特徴とするものである。
【0023】
また請求項12の発明は、上記請求項1乃至11のいずれかにおいて、有機材料が堆積されない温度に加熱された壁4の、蒸着源2と基板3が対向する空間を囲む側の表面が、有機材料と反応しにくい材質で形成されていることを特徴とするものである。
【0024】
また、本発明の請求項13に係る有機材料の真空蒸着方法は、上記請求項1乃至12のいずれかに記載の真空成形装置を用いて、基板3表面に複数の有機材料を蒸着することを特徴とするものである。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0026】
図1は本発明の実施の形態の一例における真空チャンバー1を示すものであり、真空チャンバー1は底板16と底板16の上面に設けられる真空容器17とから形成してある。底板16には排気口18が設けてあり、この排気口18に気密的に取り付けられるゲートバルブ19を介して真空ポンプ20が排気口18に接続してある。図1の例では、蒸着源2と基板3が対向する空間を囲む壁4として上下が開口する円筒形の筒体5を用いるようにしてあり、この筒体5は真空チャンバー1内において底板16の上に設置してある。勿論、蒸着源2と基板3が対向する空間を囲む壁4は、このような円筒形の他に、角筒形、円錐形など任意の形状の筒体5として形成することができ、また仕切り板を組み合わせて壁4を形成することもできる。筒体5の外周にはシーズヒータ21を巻き付け、底板16に設けた電流導入端子部22を介して電源23がシーズヒータ21に接続してあり、シーズヒータ21を発熱させることによって筒体5を加熱することができるようにしてある。
【0027】
また筒体5の下部内には高融点金属のボートで形成される発熱体24が配置してあり、この発熱体24の両端は筒体5及び真空容器17を貫通して取着された一対の電流導入端子25の各一端に電気的に接続した状態で取り付けてある。この一対の電流導入端子25の各他端には電源26が接続してあり、電源26からの給電によって発熱体24を抵抗発熱させるようにしてある。さらに筒体5の外側において底板16に複数本の支柱27が立設してあり、各支柱27の上端部間に基板支持体28が取り付けてある。基板支持体28は真空チャンバー1内において、筒体5の上端開口の直上に近接した位置に水平に配置してあり、基板支持体28には筒体5の上端開口の中央部の位置で開口窓29が形成してある。
【0028】
尚、図1の実施の形態では、筒体5の下部内には一つの発熱体24を配置して一種類の蒸着源2を加熱して蒸着を行なうようにしてあるが、筒体5の下部内に複数の発熱体24を配置し、各発熱体24にそれぞれ異なる蒸着源2を充填して、各蒸着源2を個別に加熱することによって、共蒸着を行なうようにしてもよい。
【0029】
本発明において蒸着源2としては、複数の蒸着源2を用いる場合にはそのうち少なくとも一つは有機材料を用いるものである。この有機材料としては、例えば有機エレクトロルミネッセンス材料(以下、有機EL材料と略称)を用いるものであり、有機EL材料としては、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体、キナクリドン、ルブレン、N,N′−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1′−ビフェニル)−4,4′−ジアミン(TPD)、4,4′−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)、バソフェナントロリン、バソクプロイン、オキサジアゾールなどを例示することができる。ELを蒸着する場合、有機EL材料以外に一部金属を用いる場合もある。従って複数の蒸着源2のうち一部のものは蒸着源2として金属など有機材料以外の材料を用い、有機材料と同時に蒸着するようにしてもよい。有機材料以外の材料としては、リチウム、セシウム、フッ化リチウム、及びこれらを含有する合金などを用いることができる。また有機EL材料などの被膜を表面に成膜する基板3としては、ガラス、金属、樹脂など任意のものを用いることができ、特に制限されるものではない。
【0030】
尚、本発明の真空蒸着装置は、蒸発源2として上記のような有機EL材料を用いるものに限定されるものではなく、例えば太陽電池の光電変換層を形成する有機材料を蒸発源2として用いてもよい。この光電変換層を形成する有機材料としては、例えばペリレン誘導体、フタロシアニン誘導体、キナクリドン誘導体等を挙げることができる。
【0031】
そして蒸着源2を発熱体24の上に充填して筒体5の下部の中央にセットすると共に、基板3を基板支持体28の上に開口窓29から下面を露出させた状態でセットし、基板3と蒸着源2とを上下に対向配置する。また真空ポンプ20を作動させて真空チャンバー1内を真空状態に減圧し、さらに発熱体24を発熱させて蒸着源2を加熱すると共にシーズヒーター21によって筒体5を加熱する。このように真空チャンバー1内を減圧して蒸着源2を加熱すると、蒸着源2は溶融・蒸発、あるいは昇華して気化し、蒸着源2から発生するこの気化分子31は蒸着源2から法線方向に直進的に放出され、四方八方へ飛散する方向で直進する。ここで、気化分子31は一部が基板3へ向けて直進し、他は基板3から外れる方向に直進するが、この気化分子31が進む蒸着源2と基板3の間の空間は筒体5で囲まれており、気化分子31は筒体5内に閉じ込められた状態にあるので、図1に示すように、基板3から外れる方向に直進する気化分子31も飛散してしまうことなく、筒体5の内壁で反射して基板3へ向けて進み、蒸着源2から発生する気化分子31の多くを基板3の表面に到達させて付着させることができる。従ってこのように、蒸着源2から発生する気化分子31の多くが基板3の表面に付着して成膜に寄与することになるので、無効材料が少なくなり、蒸発源2の材料利用効率が高くなって歩留まりの高い蒸着が可能になり、基板3の表面の成膜速度を速くすることができるものである。また気化分子31は筒体5の内壁で反射して色んな方向から基板3の表面の各部に付着するので、基板3の表面の各部への堆積量が均一化され、均一な膜厚で成膜することができるものである。
【0032】
また、筒体5は加熱されていてホットウォールになっているために、気化分子31が筒体5の表面に付着しても、付着物は筒体5で再加熱されて気化し、筒体5の表面に堆積されることがなくなるものである。このように、筒体5の表面に蒸着源2の材料が堆積されることを防ぐことができるものであり、そして蒸着源2から発生する気化分子31は筒体5内に閉じ込められているために、真空チャンバー1の内壁に付着して堆積することも低減することができるものである。従って、同じ真空チャンバー1を用いて異なる材料に切り換えて真空蒸着を行なう場合に、材料を切り換えて真空蒸着をする際に加熱を行なっても、加熱で気化するような堆積材料が筒体5や真空チャンバー1の表面に存在しないので(存在しても少量)、真空蒸着で形成される蒸着膜を汚染するようなことがなくなって、純度の高い成膜を行なうことが可能になるものである。また空気中の水分やガスが吸蔵される堆積材料が筒体5や真空チャンバー1の表面に存在しないので(存在しても少量)、真空チャンバー1内を真空に維持することが困難になることを防ぐことができるものである。
【0033】
本発明のように蒸着源2として有機EL材料などの有機材料を用いる場合、有機材料は気化温度が低いので、基板3に付着されない気化分子31は筒体5に付着して堆積され易いが、筒体5を上記のように加熱することによって、このような堆積を確実に防ぐことができるものである。また基板3に成膜される有機EL材料の膜厚は数百nmの薄い層であり、膜の純度が非常に厳密に要求されるが、上記のように純度の高い成膜を行なうことが可能なので、本発明は有機EL材料を蒸着する際に特に有効である。
【0034】
ここで、筒体5を蒸発源2の材料が堆積されない温度に加熱するにあたって、筒体5の加熱温度は、真空蒸着を行なう際の減圧下での蒸発源2の材料の気化温度(蒸発温度、昇華温度)以上に設定するのが好ましい。筒体5の加熱温度の上限は特に設定されるものではないが、蒸発源2の材料が分解しない温度であることが必要であるので、一般的には加熱温度の上限は蒸発源2の材料の気化温度+100℃程度に設定するのが適当である。蒸発源2である有機EL材料の気化温度は50〜300℃程度であるので、筒体5の加熱温度は100〜400℃程度に設定するのが一般的である。尚、筒体5を加熱するにあたって、図1の例では、加熱源としてシーズヒータ21を筒体5に固着して用いるようにしたが、このように加熱源を筒体5に固着して加熱を行なう他に、ハロゲンヒータのように輻射熱を利用したランプ加熱で加熱を行なうようにしてもよい。
【0035】
また真空チャンバー1内の減圧度は、蒸発源2の材料に応じて適宜設定されるが、蒸着源2から出る気化分子31が真空チャンバー1内の気体分子と衝突せずに基板3に到達することができること、すなわち平均自由行程が数十cm以上であることが必要であり、0.01Pa以下に設定する必要がある。減圧度は低い程好ましく、理想的には0Paである。また、図1の実施の形態では、円筒形に形成される筒体5の基板3の側の開口部の幅を、基板3の幅より10%広い寸法からこの幅より10%狭い寸法の範囲内で形成するようにしてある。
【0036】
図2は本発明の実施の形態の他の一例における真空チャンバー1を示すものであり、真空チャンバー1内に正方形の角筒状に形成した複数の筒体5が一列に並べて配置してある。各筒体5は基台33の上に載置してあり、各筒体5の外周にはシーズヒータ21を巻いて加熱することができるようにしてある。また各筒体5の下部に発熱体24を設け、発熱体24の上に充填して蒸着源2を各筒体5の下側にセットするようにしてある。そして真空チャンバー1内において各筒体5の直上間に渡るように基板送り装置7が配置してある。この基板送り装置7は一対のプーリ34,34と、両プーリ34,34の両端間に懸架される左右一対の無限索条体の搬送具35,35から形成されるものであり、プーリ34を回転駆動させることによって搬送具35を走行させ、左右の搬送具35の上に跨らせて載置した基板3を各筒体5の上端開口の直上間に亘って連続的に移動させることができるようにしてある。
【0037】
このものにあって、真空チャンバー1内を真空状態に減圧し、発熱体24を発熱させて各筒体5の下側の蒸着源2を加熱すると共にシーズヒーター21によって各筒体5を加熱すると、各筒体5内で蒸着源2から気化分子31が発生する。各筒体5で発生した気化分子31は、基板3が筒体5の上端開口の直上を通過する際に、基板3の下面に付着して堆積し、そして基板3には各筒体5の上を通過する際にそれぞれ気化分子31が付着して堆積し、基板3に蒸着膜を成膜することができるものである。このように基板送り装置7で基板3を各筒体5の上端開口の直上間を連続的に移動させながら、基板3を次々に基板送り装置7で送るようにすることによって、蒸着をバッチ処理ではなく、連続処理で行なうことが可能になるものであり、しかも基板3を筒体5の開口を横切るように移動させながら基板3の下面に気化分子31を付着させて蒸着膜を成膜することができるので、基板3の下面に均一に気化分子31を付着させて均一な厚みで成膜することが可能になるものである。また基板3には各筒体5の上を通過する際に蒸着を受けるので、各筒体5に設ける蒸着源2として異なる材料を用いることによって、異種の複数の材料を積層した構造で成膜することが可能になるものである。基板3に蒸着した有機EL材料を発光させるために、基板3に蒸着した膜は積層構造になっているが、上記のように積層構造で蒸着が行なえるので、本発明は有機EL材料を蒸着する際に特に有効である。
【0038】
また、基板送り装置7は搬送具35の走行速度を任意に変更できるように制御されており、基板3の移動速度を任意に調整できるようにしてある。基板3に蒸着される膜厚は基板3が筒体5の上端の開口に面している時間に依存するので、基板3の送り速度を調整して筒体5の上を通過する時間を調整することによって、基板3に成膜される膜厚を制御することが可能になるものである。
【0039】
尚、図2の実施の形態にあって、筒体5の上端の開口部の、基板3を移動させる方向と直交する方向での幅W1を、基板3の移動方向と直交する方向での幅W2より20%広い寸法からこの幅より20%狭い寸法の範囲内に形成してある。筒体5の上端の開口部の幅W1がこれより広いと、筒体5の開口部と基板3との間から逃げて飛散する気化分子31の量が多くなり、歩留まりが悪くなる。逆に筒体5の上端の開口部の幅W1がこれより狭いと、基板3の側端部へ到達する気化分子31の量が少なくなって基板3の側端部の蒸着膜厚が薄くなり、均一な膜厚で成膜することが難しくなる。
【0040】
図3は本発明の他の実施の形態の一例における真空チャンバー1を示すものであり、真空チャンバー1内に上下に開口する円筒状に形成した筒体5が配置してある。筒体5内には縦の仕切り壁6が複数枚配置してあり、筒体5内を横方向に複数の空間37に仕切るようにしてある。仕切り壁6にはシーズヒータ21が固着してあり、筒体5と同じ温度で仕切り壁6を加熱することができるようにしてある。この仕切り壁6で仕切られる各空間37の下部内には発熱体24が設けてあり、発熱体24に蒸着源2を充填して各空間37の下部内に蒸着源2をセットするようにしてある。従って筒体5の下部内に複数の蒸着源2をセットすることができるものであり、筒体5と仕切り壁6によって各蒸着源2と基板3が対向する空間37が囲まれるようになっている。また筒体5の外周にはシーズヒータ21を巻いて加熱することができるようにしてあり、さらにハロゲンランプ38を真空チャンバー1内に配置してこのハロゲンランプ38を熱源して筒体5を加熱することができるようにもしてある。
【0041】
そして真空チャンバー1内において筒体5の上端開口の直上に基板送り装置7が配置してある。この基板送り装置7は水平に配置される円板39と真空チャンバー1の外部に取着されるモーター40を具備して形成してあり、モーター40の出力軸41に円板39の中央を固定することによって、円板39を水平面で回転駆動できるようにしてある。この円板39にはその円周に沿って複数の開口窓29が形成してあり、この開口窓29の上に基板3を載置するようにしてある。図4は円板39の保持の機構を示すものであり、真空チャンバー1の内壁に設けた複数本のガイドレール支持腕42によってリング状のガイドレール43を固定し、円板39の下面に設けたコロ44をガイドレール43の上面に沿って走行させることによって、円板39を回転自在に支持するようにしてある。
【0042】
このものにあって、真空チャンバー1内を真空状態に減圧し、発熱体24を発熱させて筒体5内の各蒸着源2を加熱すると共に筒体5及び仕切り壁6を加熱すると、筒体5内の各空間37で蒸着源2から気化分子31が発生する。一方、基板3は基板送り装置7の円板39の回転に従って筒体5の上面開口の上を円運動して移動しており、この移動によって基板3が各空間37の上端開口の直上を通過する際に、各空間37で発生した気化分子31は基板3の下面に付着して堆積し、基板3に蒸着膜を成膜することができるものである。このように基板3を各空間37の上面の開口を横切って移動させながら、基板1の下面に気化分子31を付着させて蒸着膜を成膜することができるので、基板3の下面に均一に気化分子31を付着させて均一な厚みで成膜することが可能になるものである。また基板3には各空間37の上を通過する際に蒸着を受けるので、各空間37に設ける蒸着源2として異なる材料を用いることによって、異種の複数の材料を積層した構造で成膜することが可能になるものである。そしてこの図3の実施の形態では、前記の図2の実施の形態の場合のように、複数の筒体5を用いるような必要なく、このような異種の複数の材料を積層構造で成膜することができるので、装置の構成を単純化することができるものである。
【0043】
図5は基板3を円運動で移動させるようにした基板送り装置7の他の態様を示すものであり、真空チャンバー1内に上記と同様なリング状のガイドレール43を設けると共にモータ40で回転駆動される駆動円板45をガイドレール43の上方に配置し、複数枚の円板39の外周の両端をガイドレール43と駆動円板45に載置してある。そしてこのものでは、駆動円板45を回転駆動させることによって、上面に基板3を載せた円板39を自転させながらガイドレール43に沿って公転させるようにして、基板3を円運動で移動させることができるものである。
【0044】
図6の実施の形態では、筒体5内に複数の蒸着源2を設けるにあたって、図3のように仕切り壁6で筒体5内を仕切らないようにしてある。従ってこのものでは、筒体5の下部内の複数の蒸着源2から、複数の材料が混ざった状態で基板3に蒸着することができるものである。
【0045】
図7は本発明の実施の形態の他の一例における真空チャンバー1を示すものであり、基板3として樹脂フィルムなど可撓性の長尺シート材8を用いるようにしてある。長尺シート材8を形成する樹脂フィルムとしてはPETやポリエチレンなど任意のものを用いることができる。そして真空チャンバー1内には複数枚の仕切り板などで形成される壁4が配置してあり、この壁4間において上下が開口する複数の空間37が形成されるようにしてある。壁4にはシーズヒータ21を固着して加熱することができるようにしてある。この壁4で囲まれる各空間37の下側には発熱体24が設けてあり、発熱体24に蒸着源2を充填して各空間37の下側に蒸着源2をセットするようにしてある。
【0046】
真空チャンバー1内は壁4を設けた下部の部屋と上部の部屋とに仕切り天井46で上下に仕切ってあり、仕切り天井46には空間37の上方位置に開口窓47が形成してある。この仕切り天井46より上側の部屋には一対のロール9,10が配置してあり、一方のロール9に長尺シート材8を巻き付けてあると共にこのロール9から繰り出した長尺シート材8を他方のロール10に巻き取ることができるようにしてある。またこのロール9,10間において開口窓47内に配置してバックロール48が設けてあり、一方のロール9から繰り出した長尺シート材8をこのバックロール48の外周に沿わせて送った後、他方のロール10に巻き取るようにしてあり、バックロール48の外周に沿わせる際に長尺シート材8を開口窓47から空間37を介して蒸着源2に対向させるようにしてある。
【0047】
このものにあって、真空ポンプ20を作動させて真空チャンバー1内を真空状態に減圧し、発熱体24を発熱させて各蒸着源2を加熱すると共に壁4を加熱すると、壁4で囲まれる各空間37で蒸着源2から気化分子31が発生する。一方、長尺シート材8はロール9,10を回転駆動させることによってロール9からロール10へと連続的に移動しており、長尺シート材8がバックロール48の外周に沿って開口窓47から露出する際に、各空間37で発生した気化分子31は長尺シート材8の下面に付着して堆積し、長尺シート材8に蒸着膜を成膜することができるものである。このように長尺シート材8を連続的に送って移動させながら、長尺シート材8の表面に気化分子31を付着させて蒸着膜を成膜することができるので、長尺シート材8に全長に亘って均一に気化分子31を付着させて均一な厚みで成膜することが可能になるものである。またロール9,10は回転速度を調整自在に制御されており、ロール9,10は回転速度を制御して巻取り速度を変えることによって、長尺シート材8の移動速度を変えることができるものであり、長尺シート材8に蒸着させる膜の厚みを制御することが可能であると共に、成膜を高速で行なわせることも可能になるものである。
【0048】
尚、上記の各実施の形態では、基板3を送ることによって、蒸着源2に対して基板3を移動させるようにしたが、基板3と蒸着源2とは相対的に移動すればよいものであり、基板3を固定して蒸着源2を移動させるようにしてもよく、また基板3と蒸着源2の両方を移動させるようにしてもよい。
【0049】
また、蒸着源2が固定されている場合、壁4も固定されていると、壁4に対する蒸着源2の相対位置が一定であるので、壁4の特定の個所に特定の蒸発源2の材料が付着し易くなって、壁4を加熱することによって堆積を防止する効果が不十分になるおそれがあるが、このときには、蒸発源2と壁4の少なくとも一方を移動させることができるようにして、両者を相対的に移動した状態で蒸着を行なうようにすれば、壁4の特定の個所に特定の蒸発源2の材料が付着するようなことを未然に防ぐことができ、壁4を加熱することによって堆積を防止する効果を高く得ることができるものである。
【0050】
図8は本発明の実施の形態の他の一例を示すものであり、真空チャンバー1の下部の両側に予備チャンバー11が設けてある。各予備チャンバー11はゲートバルブ49を介して真空チャンバー1に接続してあり、ゲートバルブ49を開くことによって予備チャンバー11を真空チャンバー1の下部内に連通させ、ゲートバルブ49を閉じることによって予備チャンバー11と真空チャンバー1の間の連通を気密的に遮断することができるようにしてある。既述のように真空チャンバー1には真空ポンプ20が接続してあるが、各予備チャンバー11にも別の真空ポンプ20がそれぞれ接続してあり、これらの各予備チャンバー11は上面の開口が蓋50によって開閉できるようにしてある。真空チャンバー1の上部内には複数枚の仕切り板などで形成される壁4が配置してあり、この壁4間において複数の上下が開口する空間37が形成されるようにしてある。この壁4にはシーズヒータ21を固着して加熱することができるようにしてある。また壁4の上方には基板支持体28が配置してあり、各空間37に対応して基板支持体28に開口窓29を設け、各開口窓29の個所において基板支持体28の上に基板3を載置してセットするようにしてある。
【0051】
また、各予備チャンバー11内には直線状のガイドレール52が設けてあり、ガイドレール52にスライド具53がスライド移動自在に取り付けてある。このスライド具53に真空チャンバー1の側へ突出するように屈曲したアーム54が設けてあり、アーム54の先端に移動ステージ55が取着してある。この移動ステージ55は中央部が真空チャンバー1側に開口した平面U字形に形成してある。そして各予備チャンバー11の下側には駆動ガイドレール56がガイドレール52と平行に設けてあり、この駆動ガイドレール56に駆動スライド具57がスライド移動駆動されるように取り付けてある。スライド具53と駆動スライド具57は例えば共にマグネットで形成してあり、駆動スライド具57を駆動ガイドレール56に沿って駆動してスライド移動させると、この駆動スライド具57に吸引されてスライド具53もガイドレール52に沿ってスライド移動するようにしてある。
【0052】
さらに、真空チャンバー1の底部内には固定ステージ59が設けてある。固定ステージ59は図11のように中央が上下に開口する平面形状ロ字形に形成してあり、この固定ステージ59の中央開口にリフト板60が配置してある。リフト板60はシリンダー装置61によって固定ステージ59より上方へ持ち上げられるように昇降自在になっている。
【0053】
図10は蒸着源保持カセット63を示すものであり、基台64の上面にL字形の複数対の端子板65を取り付け、対をなす端子板65の上端部間に高融点金属のボートで形成される発熱体24が取り付けてある。各端子板65は端部の給電接続部66を基台64の端縁から突出させてある。この蒸着源保持カセット63は移動ステージ55の上に載置して使用されるものである。
【0054】
上記のように形成される真空蒸着装置で真空蒸着を行なうにあたっては、まず一つの予備チャンバー11の蓋50を開いて上面を開口させ、この予備チャンバー11内に位置する蒸着源保持カセット63の発熱体24の上に蒸着源2を充填してセットする。この後に図9(a)のように蓋50を閉じて真空ポンプ20を作動させ、予備チャンバー11内を真空状態に減圧する。一方、真空チャンバー1内も真空状態に減圧してあり、壁4は加熱してある。そしてゲートバルブ49を開いて一対の予備チャンバー11のうち一方の予備チャンバー11と真空チャンバー1内を連通させる。次に駆動スライド具57を駆動ガイドレール56に沿って真空チャンバー1の側へスライド移動させると、この駆動スライド具57に吸引されているスライド具53もガイドレール52に沿って真空チャンバー1の側へスライド移動し、図9(b)のように移動ステージ55は予備チャンバー11から開いているゲートバルブ49を通して真空チャンバー1内に導入される。移動ステージ55の上に載置されている蒸着源保持カセット63も移動ステージ55とともに真空チャンバー1に導入されるものであり、移動ステージ55と蒸着源保持カセット63は固定ステージ59の直上に位置するようになっている。次に、リフト板60が上昇し、移動ステージ55の中央の開口を挿通して上昇するリフト板60によって、図9(c)のように移動ステージ55の上から蒸着源保持カセット63が持ち上げられる。このように蒸着源保持カセット63が持ち上げられると、駆動スライド具57が真空チャンバー1から離れる方向へスライド移動し、この駆動スライド具57に吸引されているスライド具53も真空チャンバー1から離れる方向へスライド移動し、図9(d)のように移動ステージ55を真空チャンバー1から予備チャンバー11内に戻すようになっている。この後、リフト板60を下降させて図9(e)のように蒸着源保持カセット63を固定ステージ59の上に載置させる。このように蒸着源保持カセット63が固定ステージ59の上に載置されてセットされると、真空チャンバー1内に設けた給電電極67が下降して、蒸着源保持カセット63の各端子板65の給電接続部66に接触し、端子板65を介して発熱体24に給電して発熱体を発熱させるようにしてある。
【0055】
この後、ゲートバルブ49を閉じ、既述と同様にして基板3に蒸着源保持カセット63の発熱体24に充填した蒸着源2の材料を基板3に蒸着して成膜を行なうことができるものである。そして、蒸着源2が消費されると、上記と逆の手順で蒸着源保持カセット63が予備チャンバー11に戻される。すなわちリフト板60が上昇して蒸着源保持カセット63が持ち上げられ、上記のゲートバルブ19を開いて移動ステージ55を真空チャンバー1に導入し、次にリフト板60が降下して蒸着源保持カセット63が移動ステージ55の上に載り、蒸着源保持カセット63が移動ステージ55とともに予備チャンバー11に戻され、最後にゲートバルブ49が閉じられる。このとき、他方の予備チャンバー11において蒸着源保持カセット63の発熱体24の上に蒸着源2が充填してセットされており、この他方の予備チャンバー11から蒸着源保持カセット63が上記と同様にして真空チャンバー1内にセットされるようになっている。このようにして、真空チャンバー1内を開いて大気に曝す必要なく、真空チャンバー1内の蒸着源2を取り換えて補充することが迅速に行なえるものであり、基板3への蒸着膜を膜厚を厚く成膜することが可能になるものである。
【0056】
図8の実施の形態では、一対の予備チャンバー11を真空チャンバー1の両側に接続するようにしたが、予備チャンバー11は一つのみを用いて真空チャンバー1とこの予備チャンバー11の間で蒸着源2の取り換えができるようにしてもよい。また、3個以上の予備チャンバー11を用い、真空チャンバー1の回りに放射状に各予備チャンバー11を接続するようにすることもできる。図13の実施の形態では、真空チャンバー1を平面視五角形に形成し、五個の予備チャンバー11を真空チャンバー1の回りに接続するようにしてある。このものでは各予備チャンバー11から順に真空チャンバー1内の蒸着源2を取り換えて補充することができるものである。
【0057】
尚、蒸着源2と基板3が対向する空間を壁4で囲むにあたって、この空間は完全に壁4で囲まれている必要はなく、空間の60〜90%の範囲が壁4で囲まれていれば良い。蒸着源2と基板3が対向する空間の60〜90%の範囲を壁4で囲むことによって、歩留まり良く均一な膜厚で蒸着して成膜することが可能になるものである。
【0058】
また、有機材料が堆積されない温度に加熱される壁4は、蒸着源2と基板3が対向する空間を囲む側の表面がこの有機材料と反応しにくい材質で形成しておくのが好ましい。このような有機材料と反応しにくい材質としては、アルミナ、炭化ケイ素などのセラミックや、ダイヤモンド、ステンレススチールを例示することができる。このように壁4を形成しておくことによって、有機材料が壁4に付着した場合であっても、有機材料が壁4によって変質されることを防ぐことができ、壁4に一旦付着した有機材料が再度蒸発して、基板3に蒸着されて成膜される場合でも、成膜の純度が低下することを防ぐことができるものである。
【0059】
【実施例】
次に、図2の実施形態の装置について、具体的な実施例で本発明の効果を実証する。
【0060】
図2に示す装置において、各筒体5として、材質がSUS316で、寸法が50mm×50mm×高さ250mmに形成したものを用い、各発熱体24としてタングステンフィラメントとルツボからなるものを用いた。また各発熱体24に充填される蒸着源2として、基板3の移動方向の手前から順に、CuPc(copper phthalocyanine)、α−NPD(α−naphthylphenylbiphenyldiamine)、Alq3(tris-(8-hydroxyquinoline))をそれぞれ用い、基板3として50mm×50mm×厚み0.7mmのガラス板を用いた。
【0061】
そして、各発熱体24に5Aの電流を流して各蒸着源2を加熱して蒸発させると共に、各筒体5を250℃に加熱し、基板3を基板送り装置7によって2mm/秒の移動速度で各筒体5の上方を移動させることによって、基板3に真空蒸着をした。
【0062】
このように蒸着を行なった基板3について、蒸着膜の膜厚を触針式膜厚計で測定し、またこの膜厚から蒸着速度(タクトタイム)を評価した。さらに、蒸着前後の基板3の質量変化と、蒸着前後の発熱体24のルツボの質量変化を測定し、これらから、蒸着源2の利用効率である材料利用効率を評価した。
【0063】
(蒸着前後基板質量変化/蒸着前後ルツボ質量変化)×100=材料利用効率
その結果、蒸着膜のトータル膜厚=1300Å、平均蒸着速度=17.3Å/秒、材料利用効率=35.0%であった。比較のために、筒体5を用いずに同様に蒸着を行なったところ、蒸着膜のトータル膜厚=140Å、平均蒸着速度=1.9Å/秒、材料利用効率=4.2%であり、加熱された壁である筒体5を用いたことによる本発明の効果が実証された。
【0064】
【発明の効果】
上記のように本発明の請求項1に係る真空蒸着装置は、0.01Pa以下の減圧下の真空チャンバー内で蒸着源を加熱して基板表面に蒸着する真空蒸着装置において、蒸着源のうち少なくとも一つは有機材料を用い、その有機材料が堆積されない温度に加熱された壁で、蒸着源と基板が対向する空間を囲むようにしたので、蒸着源から発生する気化分子を壁で囲んで閉じ込めることができ、蒸着源から発生する気化分子の多くを基板の表面に到達させて付着させることができるものであり、均一な膜厚で成膜速度高く、しかも歩留まり高く蒸着を行なうことができるものである。また、気化分子が壁の表面に付着しても再加熱されて気化し、壁の表面に堆積されることがなくなるものであり、同じ真空チャンバーを用いて異なる材料に切り換えて真空蒸着を行なう場合に、純度の高い成膜を行なうことが可能になると共に、真空チャンバー内を真空に維持することが困難になることを防ぐことができるものである。
しかも、真空チャンバーに接続して減圧可能な予備チャンバーを付設し、蒸着源を真空チャンバーと予備チャンバーの間で移動自在にしたので、真空チャンバー内を開いて大気に曝す必要なく、予備チャンバーから真空チャンバー内の蒸着源を取り換えて補充することができるものである。
【0065】
また請求項2の発明は、上記請求項1において、蒸着源と基板とが相対的に移動した状態で、蒸着源を加熱して基板表面に蒸着するようにしたので、蒸着源として複数種の材料を用いることによって、基板の表面に異なる材料を蒸着することができ、異種の複数の材料を積層した構造で成膜することが可能になるものである。
【0066】
また請求項3の発明は、上記請求項1又は2において、蒸着源と、蒸着源と基板が対向する空間を囲む壁とが、相対的に移動した状態で、蒸着源を加熱して基板表面に蒸着するようにしたので、壁の特定の個所に蒸発源の材料が付着するようなことを未然に防ぐことができ、壁を加熱することによって堆積を防止する効果を高く得ることができるものである。
【0067】
また請求項4の発明は、上記請求項1乃至3のいずれかにおいて、蒸着源として用いる有機材料が、有機エレクトロルミネッセンス材料であるので、精度の高い有機エレクトロルミネッセンス素子を製造することが容易になるものである。
【0068】
また請求項5の発明は、上記請求項1乃至4のいずれかにおいて、蒸着源と基板が対向する空間を囲む壁として筒体を用い、真空チャンバー内に複数の筒体を配置し、各筒体に蒸着源を配置すると共に、基板を各筒体の開口部間に亘って移動させるようにしたので、各筒体に設ける蒸着源として異なる材料を用いることによって、基板の表面に異なる材料を順に蒸着することができ、異種の複数の材料を積層した構造で成膜することが可能になるものである。
【0069】
また請求項6の発明は、上記請求項1乃至5のいずれかにおいて、蒸着源と基板が対向する空間を囲む壁として筒体を用い、一つの筒体に複数の蒸着源を配置すると共に各蒸着源の間を仕切る仕切り壁を筒体内に設け、筒体と仕切り壁によってそれぞれの蒸着源と基板が対向する空間をそれぞれ囲むようにしたので、一つの筒体内の複数の蒸着源を仕切り壁で分離した状態で、蒸着源の材料が混ざり合うことなく、基板に成膜することができるものである。
【0070】
また請求項7の発明は、上記請求項1乃至6のいずれかにおいて、基板を移動させる基板送り装置を具備し、基板送り装置を基板の移動速度を制御自在に形成したので、基板の移動速度の調整によって蒸着の作用を受ける時間を調整することができ、基板の表面に成膜する蒸着膜の膜厚を任意に制御することができるものである。
【0071】
また請求項8の発明は、上記請求項1乃至7のいずれかにおいて、基板を移動させる基板送り装置を具備し、基板を円運動させる方向に移動させるように基板送り装置を形成したので、基板を移動させることによって蒸着源に対する位置を変えながら基板の表面への蒸着を行なうことができ、基板の表面の成膜の膜厚を均一化することができるものである。
【0072】
また請求項9の発明は、上記請求項1乃至7のいずれかにおいて、基板として長尺シート材を用い、長尺シート材を一対の一方のロールから巻き外すと共に他方のロールに巻き付けて移動させるようにしたので、長尺シート材に全長に亘って蒸着を行なって成膜することができるものである。
【0074】
また請求項10の発明は、上記請求項2乃至のいずれかにおいて、筒体の基板の側の開口部の幅を、基板の移動方向と直交する方向の基板の幅より20%広い寸法からこの幅より20%狭い寸法の範囲内に形成したので、歩留まり良く均一な膜厚で蒸着して成膜することが可能になるものである。
【0075】
また請求項11の発明は、上記請求項1乃至10のいずれかにおいて、有機材料が堆積されない温度に加熱された壁で、蒸着源と基板が対向する空間のうち、60〜90%を囲むようにしたので、歩留まり良く均一な膜厚で蒸着して成膜することが可能になるものである。
【0076】
また請求項12の発明は、上記請求項1乃至11のいずれかにおいて、有機材料が堆積されない温度に加熱された壁の、蒸着源と基板が対向する空間を囲む側の表面が、有機物が反応しにくい材質で形成されているので、有機材料が壁に付着した場合であっても、有機材料が変質し難く、壁に一旦付着した有機材料が再度蒸発して基板に付着した場合でも、成膜の純度が低下することを防ぐことができるものである。
【0077】
また、本発明の請求項13に係る有機材料の真空蒸着方法は、上記請求項1乃至12のいずれかに記載の真空成形装置を用いて、基板表面に複数の有機材料を蒸着するようにしたので、均一な膜厚で成膜速度高く、しかも歩留まり高く有機材料を蒸着することができ、有機材料による純度の高い成膜を行なうことができるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態の他の一例を示す斜視図である。
【図3】本発明の実施の形態の他の一例を示す斜視図である。
【図4】同上の実施の形態の一部を示すものであり、(a)は断面図、(b)は斜視図である。
【図5】本発明の実施の形態の他の一例を示す一部の斜視図である。
【図6】本発明の実施の形態の他の一例を示す斜視図である。
【図7】本発明の実施の形態の他の一例を示す断面図である。
【図8】本発明の実施の形態の他の一例を示す断面図である。
【図9】同上の実施の形態の一部を示すものであり、(a)乃至(e)は断面図である。
【図10】同上の実施の形態の一部を示す斜視図である。
【図11】同上の実施の形態の一部を示す斜視図である。
【図12】同上の実施の形態の一部を示す断面図である。
【図13】本発明の実施の形態の他の一例を示すものであり、(a)は概略斜視図、(b)は概略平面図である。
【図14】蒸着源と基板との関係を示す概略図である。
【符号の説明】
1 真空チャンバー
2 蒸着源
3 基板
4 壁
5 筒体
6 仕切り壁
7 基板送り装置
8 長尺シート材
9 ロール
10 ロール
11 予備チャンバー

Claims (13)

  1. 着源のうち少なくとも一つは有機材料を用い、その有機材料が堆積されない温度に加熱された壁で、蒸着源と基板が対向する空間を囲んだ状態で、0.01Pa以下の減圧下の真空チャンバー内で蒸着源を加熱して基板表面に蒸着するようにした真空蒸着装置において、真空チャンバーに接続して減圧可能な予備チャンバーを付設し、蒸着源を真空チャンバーと予備チャンバーの間で移動自在にして成ることを特徴とする真空蒸着装置。
  2. 蒸着源と基板とが相対的に移動した状態で、蒸着源を加熱して基板表面に蒸着するようにして成ることを特徴とする請求項1に記載の真空蒸着装置。
  3. 蒸着源と、蒸着源と基板が対向する空間を囲む壁とが、相対的に移動した状態で、蒸着源を加熱して基板表面に蒸着するようにして成ることを特徴とする請求項1又は2に記載の真空蒸着装置。
  4. 蒸着源として用いる有機材料が、有機エレクトロルミネッセンス材料であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の真空蒸着装置。
  5. 蒸着源と基板が対向する空間を囲む壁として筒体を用い、真空チャンバー内に複数の筒体を配置し、各筒体に蒸着源を配置すると共に、基板を各筒体の開口部間に亘って移動させるようにして成ることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の真空蒸着装置。
  6. 蒸着源と基板が対向する空間を囲む壁として筒体を用い、一つの筒体に複数の蒸着源を配置すると共に各蒸着源の間を仕切る仕切り壁を筒体内に設け、筒体と仕切り壁によってそれぞれの蒸着源と基板が対向する空間をそれぞれ囲んで成ることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の真空蒸着装置。
  7. 基板を移動させる基板送り装置を具備し、基板送り装置を基板の移動速度を制御自在に形成して成ることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の真空蒸着装置。
  8. 基板を移動させる基板送り装置を具備し、基板を円運動させる方向に移動させるように基板送り装置を形成して成ることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の真空蒸着装置。
  9. 基板として長尺シート材を用い、長尺シート材を一対の一方のロールから巻き外すと共に他方のロールに巻き付けて移動させるようにして成ることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の真空蒸着装置。
  10. 筒体の基板の側の開口部の幅を、基板の移動方向と直交する方向の基板の幅より20%広い寸法からこの幅より20%狭い寸法の範囲内に形成して成ることを特徴とする請求項乃至9のいずれかに記載の真空蒸着装置。
  11. 有機材料が堆積されない温度に加熱された壁で、蒸着源と基板が対向する空間のうち、60〜90%を囲んで成ることを特徴とする請求項乃至10のいずれかに記載の真空蒸着装置。
  12. 有機材料が堆積されない温度に加熱された壁、蒸着源と基板が対向する空間を囲む側の表面が、有機材料と反応しにくい材質で形成されていることを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の真空蒸着装置。
  13. 請求項1乃至12のいずれかに記載の真空成形装置を用いて、基板表面に複数の有機材料を蒸着することを特徴とする有機材料の真空蒸着方法
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