JP3742438B2 - 自動変速機用潤滑油組成物 - Google Patents

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JP3742438B2 JP08764994A JP8764994A JP3742438B2 JP 3742438 B2 JP3742438 B2 JP 3742438B2 JP 08764994 A JP08764994 A JP 08764994A JP 8764994 A JP8764994 A JP 8764994A JP 3742438 B2 JP3742438 B2 JP 3742438B2
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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、自動変速機用潤滑油組成物に関し、さらに詳しくは、トルク伝達容量を低下させることなく、初期及び長期にわたるシャダー防止性能に優れた自動変速機用潤滑油組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動変速機油(Automatic Transmission Fluid;ATFと略記)は、トルクコンバータ、歯車機構、油圧機構、湿式クラッチなどを内蔵する自動車の自動変速機(AT)に用いられる潤滑油である。
自動変速機を円滑に作動させるために、ATFには、トルクコンバーターや油圧系、制御系における動力の伝達媒体、歯車や軸受け、湿式クラッチの潤滑、温度調節用熱媒体、摩擦材の潤滑、適正な摩擦特性の維持など、多くの機能を有することが求められている。
ATFには、自動車の高速化、高出力化などの高性能化に伴う使用条件の過酷化や更油期間の延長などに対応することが求められているが、特に、新しいコンバータークラッチのシャダー(Shudder;車体異常振動)への対策が重要な技術的課題となっている。
【0003】
近年、多くの自動車用のATには、燃費向上に有効なロックアップクラッチが採用されている。ロックアップ機構を設けて、トルクコンバーター駆動と直接駆動の切替を適当な時期に行うことにより、トルクコンバーターの効率を向上させることができる。ロックアップクラッチの機能は、走行条件に応じて、エンジンの駆動力を直接トランスミッションへ伝達するものである。従来、ロックアップ機構は、高速域においてのみ作動し、低速域においては使用されていなかったため、自動車の発進時などの低速域においては、トルクコンバーターによるトルク伝達時に、エンジン出力回転数とトランスミッション入力回転数との間に動力伝達ロスを生じ、燃費低下の原因となっていた。この動力伝達ロスを減少させるために、最近では、自動変速機の低速域においてもロックアップ機構を作動させることが行われている。
【0004】
すなわち、燃費の向上を目的として、トルクコンバーター内に内蔵されたロックアップクラッチを低速域でも使用するスリップ制御が導入されつつある。ところが、ロックアップクラッチ付き自動変速機は、ロックアップ作動時にシャダーを発生することがある。このシャダーは、自動変速機の低速域においてロックアップ機構を作動させた場合に頻繁に発生する。特に、エンジンのトルク変動をシャーシーに伝達しないように、エンジン回転数とトルクコンバーターの出力回転数の差が特定値となるようにするスリップ制御式ロックアップクラッチでは、シャダーが発生し易い。
【0005】
スリップ制御式ロックアップクラッチにおいては、相対すべり速度の減少に伴って摩擦係数が増加する場合に、シャダーが発生し易くなる。したがって、シャダーの発生を防ぐためには、ATFには、低速すべり性能に優れていること、すなわち、すべり速度の増加と共に摩擦係数が高くなるような摩擦特性と高トルク容量(高摩擦係数)が要求される。しかも、このような摩擦特性は、自動変速機内に使用されている機械部品(特に摩擦材)がATFになじむ前から、自動車走行距離が10万km以上となるまでの長期間、安定していなければならない。
しかしながら、従来のATFは、μ(摩擦係数)−V(すべり速度)特性の良好な摩擦特性を欠如し、スリップ制御機構付き自動変速機用潤滑油として、シャダー防止性能及びその耐久性がいまだ不十分である。
【0006】
従来、例えば、特開昭62−84190号公報には、潤滑油基油に、マグネシウムスルフォネートを添加することにより、シフト変速の持続性とシフトフィーリング防止性を改善し、摩擦係数の経時変化を抑制することが提案されている。さらに、該公報には、通常の潤滑油に添加されているりん酸エステル、酸性りん酸エステル、ジチオりん酸亜鉛(ZnDTP)を添加することがが記載されている。しかし、該公報に記載の添加剤組成によるATFでは、シャダー防止性能の点で未だ難点を包蔵している。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、トルク伝達容量を低下させることなく、自動変速機のクラッチ部の摩擦材のならし前を含み初期及び長期にわたるシャダー防止性能に優れ、特にスリップ制御機構を備えた自動車の自動変速機用の潤滑油として好適な自動変速機用潤滑油組成物を提供することにある。
本発明者は、従来技術の問題点を克服するために鋭意研究した結果、潤滑油基油に、ジチオりん酸亜鉛及び/または塩基性ジチオりん酸亜鉛、アルカリ土類金属のスルフォネート、フェネート、サリシレート及びこれらの過塩基性塩からなる群より選択される少なくとも一種の化合物、及びりん酸エステル、酸性りん酸エステル及び亜りん酸エステルの群から選択される少なくとも一種の化合物を必須成分としてを含有させることにより、自動変速機内に使用されている機械部品がなじむ前から、自動車走行距離が10万km以上となるまでの長期間、優れたシャダー防止性能を発揮し、しかも高トルク容量を有する潤滑油組成物が得られることを見い出し、その知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、鉱油及び/または合成油からなる基油に、
組成物全重量基準で、
(A)ジチオりん酸亜鉛、及び塩基性ジチオりん酸亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物0.05〜5重量%、
(B)炭素数8以上のアルキル基を少なくとも一つ有するアルカリ土類金属のスルフォネート、フェネート、サリシレート、及びこれらの過塩基性塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物0.05〜5重量%、及び
(C)りん酸エステル、酸性りん酸エステル、亜りん酸エステル、及び酸性亜りん酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物0.01〜5重量%
を含有させてなるスリップ制御式ロックアップクラッチ付き自動変速機用潤滑油組成物が提供される。
また、本発明によれば、以下のような好ましい発明の実施態様(1)〜(6)が提供される。
(1)ジチオりん酸亜鉛が、一般式(a)
【0009】
【化1】
Figure 0003742438
【0010】
(式中、R1、R2、R3及びR4は、各々独立に炭素数1〜20の炭化水素基であり、同一または相異なっていてもよい。)
で表される化合物であり、
アルカリ土類金属のスルフォネート、フェネート及びサリシレートが、各々以下の一般式(b)、(c)及び(d)
【0011】
【化2】
Figure 0003742438
【0012】
【化3】
Figure 0003742438
【0013】
【化4】
Figure 0003742438
【0014】
〔式(a)、(b)及び(c)中、R5、R6、R7及びR8は、各々独立に水素原子または炭素数1〜30の炭化水素基であり、同一または相異なっていてもよいが、少なくともその一つは、炭素数8以上のアルキル基である。Meは、カルシウムまたはマグネシウムである。Xは、1〜3の整数である。〕
で表される化合物であり、そして、
りん酸エステル、酸性りん酸エステル、亜りん酸エステル、及び酸性亜りん酸エステルが各々下記の一般式(e)、(f)及び(g)
【0015】
【化5】
Figure 0003742438
【0016】
【化6】
Figure 0003742438
【0017】
【化7】
Figure 0003742438
【0018】
〔式(e)、(f)及び(g)中、R9は、炭素数1〜30の炭化水素基または硫黄原子含有炭化水素基である。Xは、1、2または3である。Yは、1または2である。〕
で表される化合物である前記の自動変速機用潤滑油組成物。
【0019】
(2)一般式(a)において、R1、R2、R3及びR4が、各々独立に炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数6〜18のシクロアルキル基、アリールアルキル基、またはアルキルアリール基である第(1)項記載の自動変速機用潤滑油組成物。
(3)一般式(b)、(c)及び(d)において、R5、R6、R7及びR8が、各々独立に炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数6〜18のシクロアルキル基、アリールアルキル基、またはアルキルアリール基である第(1)項記載の自動変速機油潤滑油組成物。
【0020】
(4)一般式(e)、(f)及び(g)において、R9が、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数6〜20のシクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、またはアルキルアリール基である第(1)項記載の自動変速機用潤滑油組成物。
(5)塩基性ジチオりん酸亜鉛が、前記一般式(a)に対応する塩基性ジチオりん酸亜鉛である前記の自動変速機用潤滑油組成物。
(6)アルカリ土類金属のスルフォネート、フェネート及びサリシレートの過塩基性塩が、前記一般式(b)、(c)及び(d)で表される化合物の過塩基性塩である前記の自動変速機用潤滑油組成物。
以下、本発明について詳述する。
【0021】
基 油
自動変速機用潤滑油組成物の基油としては、鉱油及び合成油のいずれをも使用することができる。
鉱油としては、原油の常圧または減圧蒸留により誘導される潤滑油原料をフェノール、フルフラール、N−メチルピロリドンの如き芳香族抽出溶剤で処理して得られる溶剤精製ラフィネート、潤滑油原料を水素化処理用触媒の存在下において、水素化処理条件下で水素と接触させて得られる水素化処理油、あるいは、これらの混合油または溶剤精製工程と水素化処理工程を組み合わせて得られる潤滑油留分などを挙げることができる。いずれの製造法によっても脱蝋工程、水素化仕上げ工程、白土処理工程等の工程は常法に従って任意に採用することができる。鉱油の具体例としては、軽質ニュートラル油、中質ニュートラル油、重質ニュートラル油及びブライトストック等が挙げられ、要求性状を満たすように適宜混合することにより調製することができる。
【0022】
合成油としては、例えば、ポリα−オレフィン、α−オレフィンコポリマー、ポリブテン、アルキルベンゼン、ポリオールエステル、二塩基酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール、ポリオキシアルキレングリコールエステルまたはポリオキシアルキレングリコールエーテル、シリコーン油等を挙げることができる。
【0023】
これらの基油は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができ、鉱油と合成油を組み合わせて使用してもよい。本発明で使用する基油は、100℃において、通常、3〜20mm2/sの動粘度を有し、好適な動粘度は、4〜15mm2/sの範囲である。基油の動粘度が高すぎると、低温粘度が悪化し、逆に、低すぎると、自動変速機のギヤ軸受、クラッチ等の摺動部において摩耗が増加するという難点を有する。
【0024】
(A)成分
ジチオりん酸亜鉛は、一般式(a)
【0025】
【化8】
Figure 0003742438
で表わされるものを包含し、式中、R1、R2、R3及びR4は、各々独立に炭素数1〜20の炭化水素基であり、同一または相異なっていてもよい。
【0026】
好ましい炭化水素基としては、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数6〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、アルキルアリール基またはアリールアルキル基等を挙げることができる。特に好ましい炭化水素基は、アルキル基及びアルケニル基を包含し、直鎖状または分岐状のものであり、好ましい炭素数は、5〜18で、特に好ましい炭素数は6〜13である。
【0027】
ジチオりん酸亜鉛は、基油に対して、組成物全重量基準で、0.05〜5重量%、好ましくは0.07〜1重量%の割合で添加される。特に好適な添加量は、0.1〜0.5重量%の範囲である。
【0028】
本発明においては、ジチオりん酸亜鉛に亜鉛酸化物を含有させて得られる塩基性ジチオりん酸亜鉛を使用することができる。塩基性ジチオりん酸亜鉛は、ZnOとして0〜50モル%含有するものが使用できる。この塩基性ジチオリン酸亜鉛は、アモコ社製などの市販品を使用することができる。
【0029】
(B)成分
アルカリ土類金属のスルフォネートは、石油スルフォン酸または長鎖アルキルベンゼンやアルキルナフタリンのスルフォン酸のアルカリ金属塩であり、本発明においては、一般式(b)
【0030】
【化9】
Figure 0003742438
で表わされるものを包含する。式(b)中、R5及びR6は、各々独立に炭素数1〜30の炭化水素基であり、同一または相異なっていてもよい。ただし、炭化水素基の少なくとも一つは、炭素数8以上のアルキル基である。Meは、カルシウムまたはマグネシウムである。
【0031】
好ましい炭化水素基としては、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数6〜20のシクロアルカリ基、炭素数6〜20のアリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基等を挙げることができる。特に好ましい炭化水素基は、炭素数8〜18の直鎖状または分岐状のアルキル基またはアルケニル基である。
本発明では、過塩基性スルフォネートを用いることができ、シャダー防止性能の点において顕著な効果を発揮する。過塩基性塩は、水酸化物[Me(OH)2]または炭酸塩[MeCO3]を上記スルフォネートにコロイド状に分散させたものであり、本発明においては塩基価が0〜400mgKOH/gのものが使用できる。
【0032】
アルカリ土類金属のスルフォネートは、基油に対して、組成物全重量基準で、0.05〜5重量%、好ましくは0.07〜3重量%の割合で添加される。特に好ましい添加量は、0.1〜1重量%の範囲である。
アルカリ土類金属のフェネートは、硫化アルキルフェノールのアルカリ土類金属塩により代表され、一般式(c)
【0033】
【化10】
Figure 0003742438
【0034】
で表わされるものを包含する。式(c)中、R5、R6、R7及びR8は、各々独立に炭素数1〜30の炭化水素基であり、同一または相異なっていてもよい。ただし、炭化水素基の少なくとも一つは、炭素数8以上のアルキル基である。Meは、カルシウムまたはマグネシウムである。Xは、1〜3の整数である。
好ましい炭化水素基は、前述のスルフォネートについて説明したものと同一であり、特に好ましい炭化水素基は、炭素数8〜18の直鎖状または分岐状のアルキル基またはアルケニル基である。
【0035】
過塩基性フェネートは、上記フェネートに水酸化物[Me(OH)2]または炭酸塩[MeCO3]がコロイド状に分散したものであり、MeCO3で表示して0〜50モル%含有し、また、塩基価として0〜400mgKOH/gのものである。
アルカリ土類金属のフェネートは、基油に対して、組成物全重量基準で、0.05〜5重量%、好ましくは0.07〜3重量%の割合で添加される。特に好ましい添加量は、0.1〜1重量%の範囲である。
アルカリ土類金属のサリシレートは、一般式(d)
【0036】
【化11】
Figure 0003742438
【0037】
で表わされるものを包含する。式(d)中、R5及びR6は、各々独立に炭素数1〜30の炭化水素基であり、同一または相異なっていてもよい。ただし、炭化水素基の少なくとも一つは、炭素数8以上のアルキル基である。Meは、カルシウムまたはマグネシウムである。
過塩基性サリシレートは、炭酸塩が上記サリシレートにコロイド状に分散したものであり、MeCO3として0〜50モル%含有するものである。
アルカリ金属のサリシレートは、基油に対して、組成物全重量基準で、0.05〜5重量%、好ましくは0.07〜3重量%の割合で添加される。特に好ましい添加量は、0.1〜1重量%の範囲である。
【0038】
(C)成分
りン酸エステル、酸性りン酸エステル及び亜りン酸エステルなどのりん系化合物は、一般式(e)、(f)及び(g)で表わされるものを包含する。
【0039】
【化12】
Figure 0003742438
【0040】
【化13】
Figure 0003742438
【0041】
【化14】
Figure 0003742438
【0042】
上記式中、R9は、炭素数1〜30の炭化水素基または硫黄原子含有炭化水素基であり、それぞれの式中で同一または相異なるものであってもよい。Xは、1、2または3である。Yは、1または2である。
好ましい炭化水素基は、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜20のアルケニル基、炭素数6〜20のシクロアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基である。特に好適な炭化水素基は、炭素数8以上の直鎖状または分岐状アルキル基である。
【0043】
具体的には、りん酸エステルとして、トリアリールホスフェート等があり、例えば、ベンジルジフェニルホスフェート、アリルジフェニルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、エチルジフェニルホスフェート、トリブチルホスフェート、ジブチルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、エチルフェニルジフェニルホスフェート、ジエチルフェニルフェニルホスフェート、プロピルフェニルジフェニルホスフェート、ジプロピルフェニルフェニルホスフェート、トリエチルフェニルホスフェート、トリプロピルフェニルホスフェート、ブチルフェニルジフェニルホスフェート、ジブチルフェニルフェニルホスフェート、トリブチルフェニルホスフェート、プロピルフェニルフェニルホスフェート混合物、ブチルフェニルフェニルホスフェート混合物等の化合物を挙げることができる。
【0044】
酸性りん酸エステルとしては、例えば、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、イソデシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、トリデシルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、イソステアリルアミッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ジ−2−エチルヘキシルホスフェート等が挙げられる。
【0045】
亜りん酸エステルとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリ(p−クレジル)ホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルイソデシルホスファイト、トリイソデシルホスファイト、トリステアリルホスファイト、トリオレイルホスファイト等が挙げられる。
【0046】
酸性亜りん酸エステルとしては、例えば、ジ−2−エチルヘキシルハイドロジエンホスファイト、ジラウリルハイドロジエンホスファイト、ジオレイルハイドロジエンホスファイト等が挙げられる。
硫黄原子含有炭化水素基としては、例えば、ドデシルチオエチル基が挙げられる。
りん系化合物は、基油に対して、組成物全重量基準で、0.01〜5重量%、好ましくは0.03〜3重量%の割合で添加される。特に好ましい添加量は、0.05〜1重量%の範囲である。
【0047】
(B)成分の金属系清浄剤は、熱的に安定で、剪断力に対しても強い構造を有する化合物である。この金属系清浄剤の炭化水素基の長いものを摩擦調整剤として使用することにより、長寿命のATFを得ることができる。
また、(A)成分のZnDTP及び/または塩基性ZnDTPを併用することにより、これらの成分がならし前の金属表面に即座に反応被膜を形成し、あたかも、金属表面はならし後のような平滑面となるため、ならし前の初期状態からならし後と同様の良好な摩擦特性を得ることができる。
これ等の組み合わせに加え、(C)成分の摩耗防止剤の添加は、ATFとしての最低限必要な組成を構成するために必須である。
【0048】
本発明の自動変速機用潤滑油組成物には、必要に応じて、粘度指数向上剤、無灰分散剤、酸化防止剤、極圧剤、金属不活性化剤、流動点降下剤、消泡剤、腐食防止剤などを適宜添加することができる。
粘度指数向上剤としては、例えば、ポリメタクリレート系、ポリイソブチレン系、エチレン−プロピレン共重合体系、スチレン−ブタジエン水添共重合体等を用いることができ、これらは、通常、3〜35重量%の割合で使用される。
無灰分散剤としては、例えば、ポリブテニルこはく酸イミド系、ポリブテニルこはく酸アミド系、ベンジルアミン系、エステル系のものがあり、これらは、通常、0.05〜7重量%の割合で使用される。
【0049】
酸化防止剤としては、例えば、アルキル化ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキル化−α−ナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤、2,6−ジターシャリーブチルフェノール、4,4′−メチレンビス−(2,6−ジターシャリーブチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤等を挙げることができ、これらは、通常、0.05〜2重量%の割合で使用される。
極圧剤としては、例えば、ジベンジルサルファイド、ジブチルジサルファイド等があり、これらは、通常、0.05〜3重量%の割合で添加される。
【0050】
金属不活性剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、チアジアゾール等があり、これらは、通常、0.01〜3重量%の割合で添加される。
流動点降下剤としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合物、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合物、ポリメタクリレート、ポリアルキルスチレン等が挙げられ、これらは、通常、0.1〜10重量%の割合で使用される。
【0051】
【実施例】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0052】
実施例における各種性能測定法
(1)ならし前シャダー防止性能
試験機としてLVFA(Low Velocity Friction Apparatus)を用い、次の要領でならし前シャダー防止性能を測定した。
μH/μLの比を判断基準とした。
・試験機: LVFA
・摩擦材: SD1777
・油 温: 80℃
・油 量: 100cc
・面 圧: 10kgf/cm2
・判断基準: μH/μL
μH・・・相対スリップ速度1.0m/sにおける摩擦係数
μL・・・相対スリップ速度0.5m/sにおける摩擦係数
μH/μL>1であれば、実機でシャダーを発生しない。
【0053】
(2)シャダー防止性能寿命
・試験機: LVFA
・判断基準:
連続スリップによる耐久性評価を行い、一定時間おきに上記ならし前シャダー防止性能の方法に基づきμH/μLを測定し、μH/μL≦1となるまでの時間を指標とする。時間が長いほどシャダー防止性能寿命が長いことを意味する。
〔連続スリップ耐久性評価条件〕
・摩擦材: SD1777
・油 量: 100cc
・油 温: 150℃
・面 圧: 10kgf/cm2
・相対スリップ速度: 1.0m/s連続スリップ
【0054】
(3)トルク容量
・試験機: SAE No.2
・摩擦材: SD1777、3枚
・油 量: 800cc
・油 温: 100℃
・面 圧: 8kgf/cm2
【0055】
〔Dynamic試験〕
摩擦材を回転数3600rpm、慣性重量3.5kgf・cm・s2で無負荷回転し、スチールプレートで摩擦材を挟み込むように圧力を付加し、回転を停止させる。
〔Static試験〕
摩擦材をスチールプレートで挟み込むように圧力を付加し、回転数0.72rpmで摩擦材を回転させ、その時に発生する回転トルクを読み取り、摩擦係数に換算する。
低速回転ですべり出す最大トルク時の摩擦係数μsを測定する。
【0056】
[実施例1]
基油として溶剤精製鉱油(100℃での動粘度4mm2/s)に、ジチオりん酸亜鉛としてジ−2−エチルヘキシルジチオりん酸亜鉛0.3重量%、金属清浄剤としてカルシウムスルフォネート0.3重量%、S/P系摩耗防止剤として2−エチルヘキシルアシッドホスフェート0.1重量%を添加し、さらに、ポリメタアクリレート(粘度指数向上剤)5重量%、ポリブテニルこはく酸イミド(無灰清浄分散剤)4重量%、アルキルジフェニルアミン(酸化防止剤)0.5重量%、ジベンジルサルファイド(極圧剤)0.2重量%、及びベンゾトリアゾール(金属不活性化剤)0.05重量%を添加し、自動変速機用潤滑油組成物を得た。
【0057】
ここで得られた自動変速機用潤滑油組成物のシャダー防止性能指数、シャダー防止性能寿命指数及びトルク容量としてSAE No.2 50c/c時のμs(100℃)を求めたところ次の結果を得た。
シャダー防止性能指数 : 1.14
シャダー防止性能寿命指数 : 10
SAE No.2 50c/c時のμs[100℃] : 0.13
【0058】
[実施例2〜21、比較例1〜8]
表1〜5に従い各成分を用いて、自動変速機油潤滑油組成物を調製した。実施例1と同様に各組成物のシャダー防止性能及びトルク容量を求め、その結果を表1〜5に示す。
【0059】
【表1】
Figure 0003742438
【0060】
【表2】
Figure 0003742438
【0061】
【表3】
Figure 0003742438
【0062】
【表4】
Figure 0003742438
【0063】
【表5】
Figure 0003742438
【0064】
(脚注)
(1)鉱油:溶剤精製鉱油(100℃での動粘度4mm2/s)
(2)合成基油:ポリα−オレフィン(100℃での動粘度4mm2/s)
(3)R1、、R6、R8及びR18は、それぞれの化合物におけるアルキル基の炭素数を示す。
(4)*1:塩基性ジチオりん酸亜鉛(ZnO15モル%)
(5)*2:過塩基性Caスルフォネート(炭酸塩;塩基価300mgKOH/g)
(6)*3:硫黄原子含有アルキル基(ドデシルチオエチル基)
【0065】
これらの表から明らかなように、本発明の潤滑油組成物は、シャダー防止性能指数が良好であり、ならし運転時におけるシャダー防止性に優れていると共に、シャダー防止性寿命指数も顕著に優れており、シャダー防止性能寿命に優れている。しかも、本発明の潤滑油組成物は、トルク容量が十分である。
【0066】
【発明の効果】
本発明の自動変速機用潤滑油組成物は、低速すべり速度性能に優れると共に、低速すべり速度の耐久性に優れ、自動変速機において低速域及びロックアップ機構を採用した場合にも、そのためのスティックスリップを生じることがなく、従って、シャダー防止性能が高く、かつ、防止性能が長寿命であるという特性を有すると共に、トルク容量が高いという優れた特性を有する。

Claims (1)

  1. 鉱油及び/または合成油からなる基油に、
    組成物全重量基準で、
    (A)ジチオりん酸亜鉛、及び塩基性ジチオりん酸亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物0.05〜5重量%、
    (B)炭素数8以上のアルキル基を少なくとも一つ有するアルカリ土類金属のスルフォネート、フェネート、サリシレート、及びこれらの過塩基性塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物0.05〜5重量%、及び
    (C)りん酸エステル、酸性りん酸エステル、亜りん酸エステル、及び酸性亜りん酸エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物0.01〜5重量%
    を含有させてなるスリップ制御式ロックアップクラッチ付き自動変速機用潤滑油組成物。
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