JP3740779B2 - 開蓋性とリベット成形性に優れるイージーオープン缶蓋用鋼板およびその製造方法、ならびにイージーオープン缶蓋 - Google Patents

開蓋性とリベット成形性に優れるイージーオープン缶蓋用鋼板およびその製造方法、ならびにイージーオープン缶蓋 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、イージーオープン缶の缶蓋に用いて好適な鋼板とその製造方法、および缶蓋に関し、とくに開蓋性とリベット成形性に優れるイージーオープン缶蓋用鋼板(各種のめっき、有機樹脂塗装、有機樹脂皮膜等の表面被覆を施したものを含む)とその製造方法、およびこの鋼板を用いて製造した缶蓋に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
缶詰の缶蓋にスコアとよばれる切れ目をあらかじめ導入することにより、缶切りなどの特殊な道具を用いることなしに缶を開け、缶体内部の食品や飲料を取り出すことができる、いわゆるイージーオープン缶蓋(イージーオープンエンド、EOE)がビール缶、炭酸飲料ジュース缶を始めとして、各種の飲料缶および食缶に使用されている。
このような缶蓋のタイプとしては、開蓋時にいわゆる「てこ」あるいは「把手」の役目を果すタブが切りとり分離される「プルオフ型」のものと、開蓋後もタブが缶に付随した状態となる「ステイオン型」に大別される。また、開蓋部の大きさで分けると、開口が缶径に対し部分的に行われるパーシヤルイージーオープンエンドと、ほぼ全体が開蓋されるフルイージーオープンエンドがあり、食缶の多くは後者である。
さて、これらのイージーオープン缶蓋の開けやすさ(以下、「開蓋性」と略記する)に対して、前述したスコア加工(開蓋性向上のための切れ目加工)が大きな影響を及ぼしている。開蓋性は、スコア加工後の板厚の残存量(スコア残厚)を小さくするほど向上することが知られているが、従来の技術では、工業的に安定して加工することと、内圧上昇に対する耐圧強度の維持という観点から限界があった。
すなわち、開蓋性を優先するあまり、スコア残厚を減少させ過ぎると、加工の際にスコア部分に亀裂を生じたり、運送、貯蔵などのときに、熱的な内部圧力の増大や衝撃的な応力の負荷などによってスコア部が破断し、内容物がもれるといった不具合を生ずる危険性があった。
【0003】
ところで、これらの強度と開蓋性を両立させるために、これまでにも多くの試みが行われてきた。例えば、特開昭60−56052 号公報や特開昭62−80224 号公報などに開示の技術がある。しかし、これらの技術では、いまだ十分な開蓋性が得られていない。
また、開蓋時の強度を低下させて開蓋性を向上させるために、鋼板中にボイドの起点を発生させ、破壊クラックがより容易に進展するように考慮した技術として、例えば特開平1−116030号公報、特開平2−200754号公報などの方法がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これらの技術においては、Sを0.05wt%以上と極めて多量に添加するので、鋼が著しく脆化し、連続鋳造時の種々の割れや熱間圧延時の割れを招き、また表面性状の劣化をも招き実用化には至らなかった。このほか、REMを添加する技術として、特開昭62−93345 号公報が挙げられるが、この技術も同様な問題を抱えていた。しかも、これらの技術では、Sを含む介在物が腐食の活性点となって、耐食性を著しく低下させるという、缶材として用いる場合の本質的な問題もあった。
さらに、特開昭62−103341号公報には、BNを鋼中に分散させることにより、開蓋性を改善する技術が開示されている。しかし、この方法では、未だ開蓋性が十分でなく、さらなる改善が必要とされていた。
【0005】
上記した技術によるこれら鉄製イージーオープン缶蓋を実際に適用することを困難にしている他の要因のひとつは、蓋を成形する際のリベット成形性 (リベットは蓋本体にタブを取り付ける部分であり、蓋材に三次元的な突起部をプレス加工で形成する) の問題である。というのは、前述したように、開蓋性向上のために、鋼中に非金属介在物を多く残存させると、開蓋性が向上する反面、鋼板のリベット成形性が顕著に劣化するからである。リベット成形性が劣化すると、イージーオープン缶蓋成形において重要な成形過程である、タブ取り付けが、鋼板の破断のために困難となる。なお、リベット成形の代替技術として、接着などを用いて、タブをとりつける方法も提案されているものの、信頼性に今一つ欠け、デザイン的な制約が大きいという問題も残っており採用されるまでには至っていない。
【0006】
そこで、本発明の目的は、従来技術が抱えている上記問題点を解決し、開蓋性に優れ、しかもリベット成形性にも優れるイージーオープン缶蓋用鋼板(各種のめっき、有機樹脂塗装、有機樹脂皮膜等の表面被覆を施したものを含む)およびその製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、上記イージーオープン缶蓋用鋼板を用いて製造した開蓋性に優れた缶蓋を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、缶蓋用鋼板としての好ましい素材を追求した。その過程で、従来技術における、素材を単純に脆くするという手法は、均一な材質に仕上げること自体が困難であること、缶体として組み立てた後の信頼性が不十分であることが明らかとなった。そして、鉄の持つ優れた延性を生かしつつ、上記課題を解決するためには、素材は次のような条件を備える必要があるとの注目すべき知見を得た。
【0008】
1)鋼板のリベット成形性を向上させるためには、Cの低減が有効である。
2)Bを0.01wt%以上添加して、B析出物の粒径を0.1 〜20μmの範囲に制御することにより、リベット成形性の劣化を伴うことなく、開蓋性を顕著に向上させることができる。
3)BとOの含有量を適正範囲に制御することが,上記2)の効果を達成するためには必要である。
4)この時、アルミ含有量を0.01wt%以下に規制することにより、さらに開蓋性が向上する。
5)さらに製造条件の制御も重要な条件の一つである。
6)鋼板の耐食性が、Mn、Sなどを多量に添加した場合には劣化するのに対し、B、Oを適正量添加した場合には劣化しない。
【0010】
以上の知見に基づいて完成された本発明の要旨構成は以下のとおりである。
(1) C:0.02wt%以下、Si:0.05wt%以下、Mn:0.6wt%以下、S:0.020wt%以下、B:0.010〜0.020wt%、Al:0.010wt%以下、N:0.02wt%以下、O:0.010〜0.030wt%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物の組成からなることを特徴とする、開蓋性とリベット成形性に優れるイージーオープン缶蓋用鋼板。
【0011】
(2) C:0.02wt%以下、Si:0.05wt%以下、Mn:0.6wt%以下、S:0.020wt%以下、B:0.010〜0.020wt%、Al:0.010wt%以下、N:0.02wt%以下、O:0.010〜0.030wt%を含み、かつNb:0.003〜0.02wt%、Ti:0.003〜0.02wt%の1種または2種を含有し、残部がFe及び不可避的不純物の組成からなることを特徴とする、開蓋性とリベット成形性に優れるイージーオープン缶蓋用鋼板。
【0012】
(3) 上記(1)または(2)に記載の鋼に、さらに、Cu:0.20wt%以下、Ni:0.20wt%以下、Cr:0.20wt%以下のうちから選んだ1種または2種以上を含有させることを特徴とする、開蓋性とリベット成形性に優れるイージーオープン缶蓋用鋼板。
【0013】
(4) B酸化物の平均粒径が0.1〜20μmであることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の開蓋性とリベット成形性に優れる缶用鋼板。
【0014】
(5) 上記 (1) (4)のいずれか1つに記載の鋼板の表面に、錫めっき、クロムめっき、ニッケルめっき、有機樹脂塗装、有機樹脂フィルムのいずれかの表面被覆を形成したことを特徴とする、開蓋性とリベット成形性に優れるイージーオープン缶蓋用鋼板。
【0015】
(6) 上記 (1) (5)のいずれか1つに記載の鋼板を成形加工してなることを特徴とする、開蓋性に優れるイージーオープン缶蓋。
【0016】
(7) C:0.02wt%以下、Si:0.05wt%以下、Mn:0.6wt%以下、S:0.020wt%以下、B:0.010〜0.020wt%、Al:0.010wt%以下、N:0.02wt%以下、O:0.010〜0.030wt%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物の組成からなる鋼スラブを、仕上温度800℃以上で熱間圧延した後、450〜700℃の温度範囲で巻き取り、1次冷間圧延を経て、再結晶焼鈍を行い、次いで圧下率30%以下で2次冷間圧延することを特徴とする開蓋性とリベット成形性に優れるイージーオープン缶蓋用鋼板の製造方法。
(8) C:0.02wt%以下、Si:0.05wt%以下、Mn:0.6wt%以下、S:0.020wt%以下、B:0.010〜0.020wt%、Al:0.010wt%以下、N:0.02wt%以下、O:0.010〜0.030wt%を含み、かつNb:0.003〜0.02wt%、Ti:0.003〜0.02wt%の1種または2種を含有し、残部がFe及び不可避的不純物の組成からなる鋼スラブを、仕上温度800℃以上で熱間圧延した後、450〜700℃の温度範囲で巻き取り、1次冷間圧延を経て、再結晶焼鈍を行い、次いで圧下率30%以下で2次冷間圧延することを特徴とする開蓋性とリベット成形性に優れるイージーオープン缶蓋用鋼板の製造方法。
(9) 請求項(7)または(8)に記載の鋼に、さらに、Cu:0.20wt%以下、Ni:0.20wt%以下、Cr:0.20wt%以下のうちから選んだ1種または2種以上を含有させることを特徴とする、開蓋性とリベット成形性に優れるイージーオープン缶蓋用鋼板の製造方法。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。
(1) 鋼成分について;
C:0.02wt%以下
Cは、0.02wt%を超えて含有すると、鋼中に存在する炭化物の分率が増加する結果、鋼板の延性が劣化する。また、下限は特に定めないが、C量が0.0005wt%以下になると結晶粒の粗大化し、オレンジピール現象に似た肌荒れ不良を発生する危険性が増大するので、0.0005wt%以上とすることが望ましい。
したがって、C量は0.02wt%以下、好ましくは0.0005〜0.02wt%、さらに材質の安定性と延性を高める必要がある場合には、0.0015〜0 .015wt%の範囲が望ましい。また、さらに加工性向上の面では0.01wt%以下が望ましい。
【0018】
Si:0.05wt%以下
Siは、多量に含有すると、表面処理性の劣化、耐食性の劣化等の問題を招くので、その上限は0.05wt%とする。特に、優れた耐食性が必要な場合には、0.02wt%以下とするのが望ましい。
【0019】
Mn:0.6 wt%以下
Mnは、Sによる熱延中の赤熱脆性を防止し、結晶粒を微細化する作用を有し、望ましい材質を確保する上で必要な元素である。しかし、0.6 wt%を超えて添加すると耐食性が劣化し、また鋼板が硬質化して冷間圧延性が低下し、開蓋性が低下するので0.6 wt%以下とする。なお、より良好な耐食性とリベット成形性が要求される用途には、望ましくは0.20wt%以下、さらに望ましくは0.15wt%以下の範囲で添加するのがよい。
【0020】
S:0.020 wt%以下
Sは、鋼中でMnSなどの非金属介在物として存在し、開蓋性を改善する一方で、リベット成形性、スラブ表面性状の低下、耐食性の劣化をもたらす有害な元素であるので0.020 wt%以下に制限する。リベット成形性、耐食性をより重視する場合には、0.015 wt%以下の範囲に制限するのが望ましい。
【0021】
B:0.010 〜0.020 wt%
Bは、本発明において極めて重要な添加元素のひとつである。鋼中のO量を適正範囲に制御するとともにBを0.01wt%以上添加することにより、Bは適正な寸法の酸化物の状態で鋼中に分散する。このB酸化物はアルミ酸化物と異なりクラスターを形成しにくく、本発明の目的に好ましい範囲の大きさに成長し、かつ均一に分散した状態で存在する。また、B酸化物は比較的安定な化合物であるため、缶体を構成する蓋材として使用される場合も耐食性を劣化させることがない。さらに、B酸化物は、缶蓋の成形時に、割れを誘発することがないのに、使用時には、開蓋に要する仕事量を低減するという、缶蓋用素材として望ましい効果を有している。
このような効果が得られる、詳細な機構は必ずしも明らかではないが、B酸化物の粒径、分散状態および分率などがが適正範囲にある場合にリベット成形性と良破断性(開蓋性)いう、通常は相反する特性が、両立するものと考えられる。いずれにしてもB酸化物は、従来技術で提案されているBN析出物とは全く異なった効果をもたらす。
以上のように、0.010 wt%以上のBを添加することにより、初めて顕著な開蓋性とリベット成形性に代表される成形性の改善効果があらわれる。しかし、0.020 wt%を超えて添加すると、鋼の顕著な脆化のためにリベット成形性が劣化するので、Bは0.010 〜0.020 wt%の範囲で添加する。
【0022】
Al:0.010 wt%以下
Alは、合有量が多くなると、アルミナクラスターの形成に起因して表面性状が悪化する。また、本発明では、開蓋性を向上させるために、鋼中のアルミナ生成量を最小限に抑制する必要があり、Al合有量は0.010 wt%以下とする。なお、材質の安定性という観点では0.005 wt%以下に制限するのが望ましい。
【0023】
N:0.02wt%以下
Nは、添加量が増すと、鋼板の強度がいたずらに増加し、缶蓋として使用する際の開蓋性を低下させる。この悪影響は0.02wt%以下に制限することにより、実質的な弊害が回避できる。なお、一層の開蓋性改善効果を発揮させるためには、0.0080wt%以下に制限することが望ましい。
【0024】
O:0.010 〜0.030 wt%
Oは、本発明において上記Bとともに重要な成分である。O含有量を、0.010 wt%以上とすることにより、はじめて開蓋性とリベット成形性を両立させるという改善効果が発揮される。この効果は、破壊の起点となるに有効な寸法の、十分な量の酸化物が鋼中に形成されることによると考えられる。
しかし、Oの含有量が0.030 wt%を超えると、製鋼段階で表面割れ、内部割れなどのない健全なスラブ(薄スラブを含む)を製造することが困難となり、表面の美麗性が要求される缶材への用途には適さなくなる。なお、より高いレベルの表面性状が要求される場合には0.025 wt%以下の範囲が望ましい。
【0025】
上記基本成分に加えて、必要に応じて、さらにNb:0.003 〜0 .020wt%、Ti:0.003 〜0.020wt %の1種以上または2種以上の元素、Cu:0.20wt%以下、Ni:0.20wt%以下、Cr:0.20wt%以下、Mo:0.20wt%以下の元素の1種以上または2種以上の元素を、単独または組み合わせて添加することができる。
【0026】
Nb:0.003 〜0.020 wt%
Nbは、鋼板の微視組織の微細化に有用な元素である。鋼板組織の微細化により素材の強靱化がはかられ、イージーオープンエンド加工後、使用時までに加えられる衝撃的な荷重に対する信頼性が向上する。このような効果が得られるのは、0.003 wt%以上の添加からである。しかし、0.020 wt%を超えて添加しても、これらの効果が飽和するうえ、再結晶温度が顕著に上昇し、焼鈍が困難になる。したがって、Nb添加量は0.003 〜0.020 wt%の範囲とする。
【0027】
Ti:0.003 〜0.020 wt%
Tiは、Nbと同様に鋼板の微視組織の微細化に寄与する。また、Tiは、介在物の形態制御にも有効であり、イージーオープン缶蓋加工後、使用時までに加えられる衝撃的な荷重に対する信頼性を向上させる。このような効果を得るためには、0.003 wt%上の添加が必要である。しかし、0.020 wt%を超えて添加しても、これらの効果が飽和するほか、再結晶温度が上昇して、焼鈍が困難になる。したがって、Ti添加量は0.003 〜0.020 wt%の範囲とする。
【0028】
Cu:0.20wt%以下、Ni:0.20wt%以下、
Cr:0.20wt%以下、Mo:0.20wt%以下
Cu、Ni、CrおよびMoは、延性の劣化を最小限に抑えて強度を増加させ、また耐食性を向上させる効果を有する。しかし、0.20wt%以上を超えて添加しても、これらの効果が飽和するのみでなく、強度が高くなりすぎて、開蓋性を劣化させる。したがって、Cu、Ni、CrおよびMoは、いずれも0.20wt%以下の範囲で添加する。これらの元素の添加効果は複合添加しても相殺されることはないが、開蓋性確保の点から合計量で0.5 wt%以下とすることが望ましい。また、これらの元素は各々0.01wt%以上の添加が、添加効果を得るためには望ましい。
【0029】
B酸化物の平均粒径:0.1 〜20μm
B酸化物、すなわちBx Oy ( x:〜2、 y:〜3)の組成で表わされる析出物、の平均粒径が0.1 〜20μmであることが重要である。鋼中には、この他に、炭化物、硫化物および窒化物およびその複合したものなどの析出物が存在するが、延性を低下させることなく、開蓋性を改善できる析出物は、球状にかつ、孤立して存在する傾向の強いB酸化物である。B酸化物以外の他の析出物に起因する延性の低下などは、後述する製造条件を適用することにより最低限に抑えることができる。
B酸化物出物の平均粒径が0.1 μmを下回ると、析出物による鋼板の強化が顕著となり開蓋性の改善が不十分となる。一方、この平均粒径が20μmを上回ると成形性の劣化が大きくなり、蓋材の成形過程でプレス割れなどの不具合を生ずる危険性が増す。したがって、B酸化物の平均粒径は0.1 〜20μmとする。なお、鋼中にはB酸化物の他に、Al2O3 、MnOなどの酸化物も存在するが、それらの存在形態は、本発明の製造条件の範囲であれば、リベット成形性、開蓋性に大きく影響しない。また、これらの酸化物が複合して析出している場合もこれに準ずる。
上述の鋼中析出物についての知見は、光学顕微鏡での確認、電解抽出法により採取した残査の走査型電子顕微での観察および分析などによって解明したものである。なお、析出物寸法は一義的に定まるものではなく、その調査方法によって異なる場合がある。本発明における測定方法は次の方法による。まず、鋼板から50g以上の重量の試料を採取し、定電位電解したのち、凝集防止剤を添加して粒子の凝集を防止しながら通常のニュークルポアフィルターでろ過して残査を抽出する (電解抽出法) 。次いで、この残査をそのまま走査型電子顕微鏡により観察し、通常の画像処理(統計処理)を行って平均粒径を求める。
【0030】
(2) 製造条件について;
スラブの製造工程は常法に従うが、成分のマクロな偏析を防止するうえで連続鋳造法で製造することが望ましい。連続鋳造されたスラブは、一旦室温まで冷却して加熱しても、また冷却することなくそのまま加熱炉に高温挿入してもよい。
【0031】
・熱間圧延
スラブ加熱につづく、熱間圧延では、仕上げ熱延温度を800 ℃以上とする必要がある。仕上げ熱延温度を800 ℃以上にすることにより、均一微細な熱延組織を得ることができ、最終製品の組織を均一微細化することができる。
しかし、仕上げ圧延温度が950 ℃を超えると、スケールに起因した庇が発生しやすくなるので、表面の健全性が強く要求される缶用鋼板の分野では、好ましくは800 〜950 ℃の範囲で仕上げ圧延するのがよい。なお、材質の均一性を重視する場合には、さらに850 〜920 ℃の温度範囲で仕上げ圧延することが望ましい。
【0032】
・熱延後の巻き取り
巻取温度は、450 〜700 ℃とする必要がある。この巻取温度は、一般的な成形性改善のためには、通常、700 ℃を超える高温に設定されるが、このような温度範囲で巻き取ると、缶蓋に成形したあとの開蓋性を劣化してしまう。また、コイルの長手方向、幅方向における材質の不均一性も増大するようになる。発明者らの調査によれば、450 〜700 ℃の巻取り温度であれば、このような成形性の劣化を防ぎ、開蓋性の改善を図ることが可能であることが明らかとなった。なお、一層の開蓋性向上を必要とする場合には、500 〜650 ℃の範囲で巻き取ることが望ましい。
【0033】
・酸洗および1次冷間圧延
酸洗については、格別の制限条件を設ける必要はない。酸洗効率の上からは、通常の塩酸による酸洗が推奨されるが、硫酸による酸洗でも材質上の問題は生じない。また、1次冷間圧延についても、特にさだめる必要はないが、通常適用される、70%以上の圧下率範囲で行うことが好ましい。
【0034】
・焼鈍
蓋材の成形を安定化させるために、再結晶温度以上で焼鈍することが、必須である。上限の温度は特に定めないが、本発明の成分鋼ではおおむね850 ℃以下の範囲で焼鈍することが望ましい。
【0035】
・2次冷間圧延
2次冷延の圧下率は30%以下の範囲で行う。この2次冷延には通常スキンパス圧延と称される軽度の圧延 (おおむね0.8 〜2.0 %) を含む。スキンパス圧延の役割は、主として、缶蓋の成形時に、より均一な変形を与えることを可能にすることにあり、またより高圧下率での2次冷間圧延の役割は、加工強化により、缶蓋としての強度を増加させることにある。しかし、この圧下率が30%を超えると、素材の延性が低下し、成形不良を生じる危険性が増大する。したがって、2次冷間圧延は、30%以下の圧下率範囲で目的に応じて施すものとする。
【0036】
以上のようにして製造された鋼板に対して、表面に耐食性向上のために錫めっき、Niめっき、有機樹脂被膜の密着性を重視してのクロムめっき、などを行って缶蓋に供される。また、有機樹脂塗装の替わりに、有機樹脂フィルムを熱融着(接着剤を併用するものも含む)したものも、同様に缶蓋に適用できる。
【0037】
【実施例】
実施例1
表1に示す種々の成分の鋼スラブを溶製し、下記条件で缶蓋用鋼板を製造した。
スラブ加熱温度:1250℃
仕上げ圧延温度:850 ℃
仕上げ厚み:2.0 mm
巻取温度: 620 ℃
1次冷間圧下率:90%
焼純:連続焼純、750 ℃−20 sec、過時効なし
2次冷間圧下率:1.5 %のスキンパス
25#ブリキ(錫目付 2.8 g/m2
この鋼板を用いて、長円形状のパーシヤルイージーオープン缶蓋(長さ40mm、半径10mmφ〜20mmφ、スコア残厚45μm)を製造し、リベット成形性、開蓋性の調査、および閉塞後の外観観察を行なった。これらの調査結果を表2に示す。
ここに、リベット成形性は、通常のタブを取付けて、5mmφ, 1mm高さの形状に成形した際の割れ発生の有無により判定した。また、ポップ値、ティア値、デタッチ値は、引張試験機により引張荷重を負荷し、荷重−変位の関係(n=20)から求めた。
ポップ値:タブを起こして初期クラックが生成されるに必要な力(kgf)
ティア値:スコア部でせん断破壊を安定して継続させるに必要な力(kgf)
デタッチ値:蓋部を缶体より切り離すに要する力(kgf)
【0038】
【表1】
Figure 0003740779
【0039】
【表2】
Figure 0003740779
【0040】
これらの実施例から、本発明を適用することにより、ポップ値、ティア値に代表される開蓋性が顕著に向上し、またリベット成形性も改善されることが明らかである。特に、BNが主たる析出物であるNo. 7に比べ、本発明例は開蓋性が優れていることがわかる。
【0041】
実施例2
表1のNo.1の鋼スラブを素材とし、表3に示す種々の条件で表面被覆まで行った缶蓋用鋼板を製造し、実施例1と同様の調査をおこなった。その結果を表4に示す。
本発明に従う製造条件を満たせば、リベット成形性および開蓋性に優れた缶蓋用鋼板および缶蓋が製造できることが明らかである。
【0042】
【表3】
Figure 0003740779
【0043】
【表4】
Figure 0003740779
【0044】
No.2の鋼板を用いて、残厚にして40μmのスコアを有する蓋を取り付けた、3ピース缶を製造した。この缶に、水を充填して加熱し、約2bar の内圧を発生させ、その耐圧性を評価した。その結果、従来の低炭素アルミキルド鋼連続焼鈍材により製造されたものと同等以上の耐圧性能を有していることが確認された。
また、同様に準備した試料缶をコンクリート面の上に1.5 m高さから落下させて、スコア部の耐衝撃特性を調査した。その結果、本発明鋼板で製造した缶蓋のスコア部は従来の低炭素アルミキルド鋼連続焼鈍材により製造されたものと同等以上の耐衝撃特性を有していることが確認された。
すなわち、本発明によれば、従来の低炭素アルミキルド鋼連続焼鈍材と同等以上の、耐圧性、内容物に対する耐衝撃保護性を有しながら、リベット成形性、開蓋性のいずれをも顕著に向上させることが可能であることがわかった。
【0045】
0.010 wt%C−0.01wt%Si−0.15wt%Mn−0.010 wt%S−0.005 wt%Al−0.0030wt%N鋼をベースに材とし、O含有量を0 .0150 wt%に制御し、Bを幅広く変化させ、同様にして缶蓋を製造し、開蓋性((ポップ値+ティア値)/2)と缶蓋のリベット成形時の割れ不具合の発生率について調査(n=30)した。その結果を図1に示す。
図1から、B、Oの含有量を適正範囲に制御することにより当初の課題が達成できることがわかる。
【0046】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明によれば、従来はアルミ材で多く製造されていた缶蓋材に替わって鉄材を適用するにあたり、鉄材の課題であった、開蓋性とリベット成形性を大幅に向上できるので、安価でリサイクルが容易なイージーオープン缶蓋としての使途が期待される。
しかも、本発明によれば、上記特性に加えて、優れた耐圧性と、良好な耐食性と耐衝撃性をも付与したイージーオープン缶蓋を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】開蓋性とリベット成形性に及ぼすB含有量の影響を示す図である。

Claims (9)

  1. C:0.02wt%以下、Si:0.05wt%以下、Mn:0.6wt%以下、S:0.020wt%以下、B:0.010〜0.020wt%、Al:0.010wt%以下、N:0.02wt%以下、O:0.010〜0.030wt%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物の組成からなることを特徴とする、開蓋性とリベット成形性に優れるイージーオープン缶蓋用鋼板。
  2. C:0.02wt%以下、Si:0.05wt%以下、Mn:0.6wt%以下、S:0.020wt%以下、B:0.010〜0.020wt%、Al:0.010wt%以下、N:0.02wt%以下、O:0.010〜0.030wt%を含み、かつNb:0.003〜0.02wt%、Ti:0.003〜0.02wt%の1種または2種を含有し、残部がFe及び不可避的不純物の組成からなることを特徴とする、開蓋性とリベット成形性に優れるイージーオープン缶蓋用鋼板。
  3. 請求項1または2に記載の鋼に、さらに、Cu:0.20wt%以下、Ni:0.20wt%以下、Cr:0.20wt%以下のうちから選んだ1種または2種以上を含有させることを特徴とする、開蓋性とリベット成形性に優れるイージーオープン缶蓋用鋼板。
  4. B酸化物の平均粒径が0.1〜20μmであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の開蓋性とリベット成形性に優れる缶用鋼板。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の鋼板の表面に、錫めっき、クロムめっき、ニッケルめっき、有機樹脂塗装、有機樹脂フィルムのいずれかの表面被覆を形成したことを特徴とする、開蓋性とリベット成形性に優れるイージーオープン缶蓋用鋼板。
  6. 請求項1〜5のいずれか1項に記載の鋼板を成形加工してなることを特徴とする、開蓋性に優れるイージーオープン缶蓋。
  7. C:0.02wt%以下、Si:0.05wt%以下、Mn:0.6wt%以下、S:0.020wt%以下、B:0.010〜0.020wt%、Al:0.010wt%以下、N:0.02wt%以下、O:0.010〜0.030wt%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物の組成からなる鋼スラブを、仕上温度800℃以上で熱間圧延した後、450〜700℃の温度範囲で巻き取り、1次冷間圧延を経て、再結晶焼鈍を行い、次いで圧下率30%以下で2次冷間圧延することを特徴とする開蓋性とリベット成形性に優れるイージーオープン缶蓋用鋼板の製造方法。
  8. C:0.02wt%以下、Si:0.05wt%以下、Mn:0.6wt%以下、S:0.020wt%以下、B:0.010〜0.020wt%、Al:0.010wt%以下、N:0.02wt%以下、O:0.010〜0.030wt%を含み、かつNb:0.003〜0.02wt%、Ti:0.003〜0.02wt%の1種または2種を含有し、残部がFe及び不可避的不純物の組成からなる鋼スラブを、仕上温度800℃以上で熱間圧延した後、450〜700℃の温度範囲で巻き取り、1次冷間圧延を経て、再結晶焼鈍を行い、次いで圧下率30%以下で2次冷間圧延することを特徴とする開蓋性とリベット成形性に優れるイージーオープン缶蓋用鋼板の製造方法。
  9. 請求項7または8に記載の鋼に、さらに、Cu:0.20wt%以下、Ni:0.20wt%以下、Cr:0.20wt%以下のうちから選んだ1種または2種以上を含有させることを特徴とする、開蓋性とリベット成形性に優れるイージーオープン缶蓋用鋼板の製造方法。
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