JP3735002B2 - シリコン半導体基板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、シリコン単結晶基板及びその製造方法に関するもので、酸化膜耐圧特性に優れた品質のシリコン単結晶基板及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
高集積MOSデバイスの基板として用いられるチョクラルスキー法により製造されるシリコン単結晶ウエハには、酸化膜耐圧特性などのデバイス特性に悪影響を与えないような高品質な結晶が求められている。
【0003】
近年、結晶育成直後のシリコン単結晶中に、酸化膜耐圧特性のうちの初期絶縁破壊特性(TZDB特性)を劣化させる結晶欠陥が存在することが明らかとなってきた。それらの結晶欠陥は選択エッチング法、アンモニア系のウエハ洗浄、あるいは赤外散乱・赤外干渉を用いた結晶欠陥評価法で検出されるものであり、総じてgrown-in欠陥と呼ばれる。これらの欠陥の実体はいずれも八面体ボイド欠陥であり、特にアンモニア系のウエハ洗浄後に八面体ボイド欠陥が表面にエッチピットとして顕在化したものはCOP(Crystal Originated Particle)と呼ばれている(J.Ryuta,E.Morita,T.Tanaka and Y.Shimanuki,Jpn.J.Appl.Phys.29,L1947(1990))。
【0004】
このCOP等のgrown-in欠陥を減らすことを目的とした結晶製造方法として、例えば特開昭59-20264号公報で規定するようにシリコン単結晶基板を水素雰囲気100%中でアニール(熱処理)することで、ウエハ表面のCOPを低減できることが知られている。またこの水素雰囲気アニールを施すシリコン半導体基板として、特開平10-208987号公報で規定するような赤外トモグラフで検出されるgrown-in欠陥(Laser Scattering Tomography Defect;LSTD)密度が3×106個/cm3以上、もしくはSeccoエッチング液で検出されるgrown-in欠陥(Flow Pattern Defect;FPD)が3×106個/cm3以上存在するような基板を用いることで、表面のCOPがより顕著に低減できることが知られている。しかし、このようなCOPをアニールによって効果的に消滅させるためには、1200℃以上の高温アニールを行い、更に水素という爆発の危険性がある特殊ガスを用いる必要がある。そのため、高温アニールに耐えうる仕様であり、かつ安全上の防護対策を施した特殊な炉が必要となり、ウエハのコストアップに繋がるという問題点があった。
【0005】
一方、デバイス特性に無害である不純物の一つである窒素を添加したシリコン単結晶基板の場合、grown-in欠陥としてCOPは見られなくなり、grown-in酸素析出物が代わりに発生することが知られている(第46回応用物理学会春季講演会29a-ZB-2)。この、grown-in酸素析出物は、酸素の外方拡散を利用することにより比較的低温アニールで容易に消滅する。更に、アニール雰囲気として非酸化性雰囲気(アルゴンなど)を用いることができるため、市販されている通常仕様の炉で安価なシリコン半導体基板の製造が可能となる。窒素を添加したアニール用基板としては、例えば特開平10-98047号公報で規定するような基板が提案されていたが、言及されているgrown-in欠陥はCOPのみであり、grown-in酸素析出物に関する記載は全くない。窒素添加結晶のCOPは、grown-in酸素析出物に比べるとアニールで消滅しにくいので、COPが残留しているような窒素添加結晶はアニール基板としては不適当である。
【0006】
これまで知られている窒素添加結晶の、grown-in酸素析出物サイズは球換算で直径50nm程度であり、表面付近の欠陥を消滅させるためには比較的高温長時間(1150℃4時間程度)のアニールが必要であった。そのため、生産性を上げてウエハコストを下げるため、より低温短時間の熱処理で表面欠陥フリーとなるような窒素添加シリコン単結晶基板が望まれた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、これまでより低温短時間のアニールで表層無欠陥を達成できるシリコン単結晶基板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは窒素を添加したシリコン単結晶中に存在する、grown-in酸素析出物のサイズを小さくすることにより、比較的低温短時間のアニールで消滅させることが可能になると考え、種々の結晶成長条件で育成したシリコン単結晶中の、grown-in酸素析出物のサイズとアニール後の消滅挙動を調査し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1) 基板窒素濃度が1×1014atoms/cm3以上2×1016atoms/cm3以下のシリコン単結晶基板であって、基板表面から1μmの深さの酸素濃度が基板の厚み中心の酸素濃度の70%以下で、かつウエハ表面から5μmより浅い領域のサイズ20nm以上の酸素析出物密度が105個/cm3以下であることを特徴とするシリコン半導体基板、
(2) 窒素を1×1017atoms/cm3以上3×1019atoms/cm3以下含有するシリコン融液を用いたチョクラルスキー法により育成し、結晶育成中の1100〜900℃までの通過時間が1時間以下になるように育成したシリコン単結晶から切り出したシリコン単結晶基板を、不純物5volppm以下の希ガスもしくは熱処理後の酸化膜厚が2nm以下に抑えられている非酸化性雰囲気中に1100℃以上1300℃以下で30分以上熱処理することを特徴とするシリコン半導体基板の製造方法、
(3) 上記(1)に記載のシリコン半導体基板を製造するために用いられるシリコン単結晶であって、窒素濃度が1×1014atoms/cm3以上2×1016atoms/cm3以下であり、育成直後の状態での酸素析出物の対角長が40nm以下であることを特徴とするシリコン単結晶、
である。
【0010】
【発明の実施の形態】
窒素添加を行わないチョクラルスキー法によるシリコン単結晶(CZ-Si結晶)の場合、結晶育成中に固液界面から過剰の原子空孔が導入され、それらが結晶冷却中の1100℃付近で凝集しCOPと呼ばれる欠陥を形成する。COPは図1に示すように{111}面で囲まれた八面体形状をしている空洞であり、複数の空洞が連結している場合が多い。これに対して、窒素を添加したCZ-Si結晶の場合、COPが形成されず、grown-in酸素析出物が形成される。grown-in酸素析出物は図2に示すように形状は{100}面上の板状であり、内部はシリコン酸化物で満たされている。窒素添加結晶の場合、COPの元となる原子空孔が窒素と結合して複合体となり、このような窒素-原子空孔複合体は、自ら凝集すること無しに、酸素と結合して酸素析出核になっているものと考えられる。CZ-Siに導入される酸素濃度は1〜10×1017atoms/cm3であるため、酸素の析出は、酸素が過飽和となる1100℃以下で起こる。よって、grown-in酸素析出物は結晶育成中の1100℃で核形成していると考えられる。なお、窒素を1×1017atoms/cm3以上3×1019atoms/cm3以下含有するシリコン融液からチョクラルスキー法により育成したシリコン単結晶中には、1×1014atoms/cm3以上2×1016atoms/cm3以下の窒素が含有される。
【0011】
grown-in酸素析出物がウエハ表面に露出していた場合、酸化熱処理を行うと、このgrown-in酸素析出物が核となって表面近傍にOSF(Oxidation induced Stacking Fault)という結晶欠陥が発生してしまう。このようなウエハの上に形成されたデバイスは欠陥起因の動作不良を起こす。表面近傍の欠陥密度が105個/cm3超の場合、一般に用いられる電極面積20mm2、動作領域の深さ5μmのデバイスにおいて、動作不良が引き起こされる確率は10%を越える。一般的なウエハの受け入れ基準である不良率は10%程度であるので、この基準を満たすためには表層5μmまでの酸素析出物密度を105個/cm3以下にする必要がある。またサイズ20nm未満の酸素析出物は経時破壊特性(TDDB特性)などの特性に影響を与えないことがわかっている。
【0012】
上記のことから、grown-in酸素析出物が存在するようなウエハはasgrown状態で用いることができないため、アニールによって表面近傍の、grown-in酸素析出物を消滅させる必要がある。grown-in酸素析出物はCOPに比べてアニールで消滅しやすい。{111}面で囲まれた八面体形状をしているCOPは結晶学的に安定な構造であるため、1200℃以上の高温もしくは水素などの特殊な雰囲気でのアニールが必要になる。それに対して、grown-in酸素析出物は{100}面上の板状構造であり、結晶学的に不安定な構造であるため、非酸化性雰囲気のアニールにより酸素を外方拡散させることで容易に消滅させることが可能である。
【0013】
酸素を外方拡散させるためには、熱処理温度として1100℃以上でなければならない。1100℃未満では酸素の拡散距離が十分でないため、外方拡散が起こらない。また1300℃超では酸素の固溶度が高くなるため、酸素の外方拡散が起こらなくなるため不適切である。また、熱処理雰囲気も酸素の外方拡散に大きく影響を与える。酸化性雰囲気のアニールでは表面に酸化膜が形成されるため、ウエハ表面の酸素濃度が十分低下せず、外方拡散は起こりにくい。色々な条件で実験を行った結果、アニール後の酸化膜が2nm以下になれば表面の酸素が十分低下し、酸素析出物低減効果が最も著しくなる。また、希ガス中の不純物が5volppm超あった場合は表面荒れを引き起こすので、不純物は5volppm以下に抑える必要がある。このような熱処理を行うと、酸素の外方拡散によって、基板表面から1μmの深さの酸素濃度が基板の厚み中心の酸素濃度の70%以下となる。
【0014】
ところで、従来の製造方法で作成した窒素添加結晶は、grown-in酸素析出物サイズが50nmである。なお、析出物は板状であるため、板の対角長をサイズとしている。このgrown-in酸素析出物は、例えば1150℃4時間のアニールを行うことで、表面近傍の密度を105個/cm3以下にすることができる。しかし、1150℃4時間のアニール工程は、ウエハ製造工程数を増やすこととなり、ウエハコストの増加につながる。コスト試算によると、アニールなしで製造していた窒素添加無しのウエハと同程度のコストに抑えるためには、アニール時間を30分に抑えることが必要である。
【0015】
grown-in酸素析出物をアニールで消滅しやすくするためには、結晶育成条件をコントロールして、grown-in酸素析出物サイズを小さくすることが有効である。種々の結晶育成条件で製造した結晶からウエハを切り出し、grown-in酸素析出物サイズとアニール挙動との詳細な調査を行った結果、grown-in酸素析出物サイズが板状の対角長で40nm以下であれば、1100〜1300℃で30分のアニールにより表面近傍のサイズ20nm以上の析出物密度を1×105個/cm3以下にすることが可能であることがわかった。以上のことから、これまでのアニール無しのウエハと同程度のコストでデバイス特性に優れたシリコン半導体基板の製造が可能となった。
【0016】
窒素添加シリコン単結晶における、grown-in酸素析出物のサイズを対角長で40nm以下にするためには、結晶育成中の1100〜900℃結晶温度域を1時間以下で冷却することが有効である。grown-in酸素析出物は結晶育成中の1100℃で核形成し、その後酸素の拡散律速で成長するが、900℃以下の温度では酸素の拡散がほとんど起きなくなるため、実質上は1100〜900℃の温度範囲でのみ、grown-in酸素析出物の成長が起こる。このため、結晶育成中の1100〜900℃の冷却時間を短くすることで、grown-in酸素析出物のサイズを小さくすることが可能となる。1100〜900℃の温度範囲を1時間超で冷却した場合は、析出物が成長し過ぎてしまうため、grown-in酸素析出物のサイズが対角長で40nm超となってしまう。
【0017】
【実施例】
以下に本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例の記載によって制限されるものではない。
【0018】
実施例1
本実施例では、CZ法によるシリコン単結晶製造に用いられる単結晶製造装置を利用して、結晶育成中の1100℃から900℃までの冷却条件を制御して、シリコン単結晶の引上成長を行った。育成されたシリコン単結晶は、導電型p型(ボロンドープ)、結晶径200mm、抵抗率10Ωcmであった。grown-in酸素析出物のサイズは透過型電子顕微鏡(TEM)にて測定し、板状析出物の対角長のうち大きい方をgrown-in酸素析出物サイズとした。
【0019】
このインゴットから切り出したウエハを、市販の縦型炉を用いて熱処理を行った。熱処理条件は、温度を1150℃、時間を30分とした。雰囲気はAr100%とした。このArの純度は5volppm以下であった。熱処理後の酸化膜厚はいずれも2nm以下であった。
【0020】
熱処理後のウエハの表面酸素析出物密度を市販の欠陥評価装置である三井金属製LSTDスキャナ(MO-5)を用いて測定した。LSTDスキャナは、可視光レーザーをブリュースター角から照射し、鉛直方向に配置したカメラでp偏光の散乱のみを欠陥像として取り込む。レーザー波長は700nmであるので、表面から5μmまでレーザーが浸透する。よって、ウエハ表層より5μmまでの酸素析出物が評価できる。測定に際しては、検出感度を調整してサイズ20nm以上の酸素析出物をカウントするようにした。
【0021】
熱処理後の酸素の深さ方向プロファイルをSIMSを用いて測定した結果、いずれのウエハも表層1μmで酸素濃度が基板厚み中心の酸素濃度の70%以下になっていた。
【0022】
熱処理後のウエハのTDDBを評価するために、同時バッチで熱処理した別のウエハ上に電極面積10mm2のポリシリMOSをエピウエハ上に作成した。酸化膜厚は25nmとした。連続ストレス電流密度を-5mA/cm2とし破壊判定電界を10MV/cmとした時、判定電荷(Qbd)が10C/cm2以上である歩留まりを調査した。
【0023】
評価結果を比較例も含めて表1に示す。この結果から結晶育成中の1100〜900℃までの冷却時間が1時間以下である結晶は、grown-in酸素析出物の対角長が40nm以下であり、アニール後のウエハ表面におけるサイズ20nm以上の酸素析出物密度が105個/cm3以下、TDDB歩留が90%以上と良好の品質を示した。
【0024】
【表1】
【0025】
実施例2
実施例1で用いたウエハのうち、grown-in酸素析出物のサイズが対角長で30nmであるものを用い、アニール条件を変えて同様の評価を行った。
【0026】
試験結果を比較例も含めて表2に示す。熱処理雰囲気が100%Arで、熱処理温度が1100℃以上1300℃以下、熱処理時間が30分以上であるものは、アニール後のウエハ表面におけるサイズ20nm以上の酸素析出物密度が105個/cm3以下、TDDB歩留が90%以上と良好の品質を示した。また、熱処理雰囲気がAr+10%酸素のものはアニール後のウエハ表面におけるサイズ20nm以上の酸素析出物密度が105個/cm3超、TDDB歩留が90%未満であり、実施例に比べて劣った。
【0027】
【表2】
【0028】
【発明の効果】
本発明のシリコン単結晶基板は、表面欠陥が少なく、酸化膜耐圧特性に優れたものであり、高集積度の高い信頼性を要求されるMOSデバイス用ウエハを製造するのに最適な結晶品質を有している。また、本発明のシリコン単結晶基板の製造方法は、行程数増大による製造コストの増加を招くことなく、高品質のシリコン単結晶基板を安価に歩留良く提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 窒素添加なしのCZ-Si結晶中に見られるCOPのTEM像である。
【図2】 窒素添加CZ-Si結晶中に見られる、grown-in酸素析出物のTEM像である。
Claims (3)
- 基板窒素濃度が1×1014atoms/cm3以上2×1016atoms/cm3以下のシリコン単結晶基板であって、基板表面から1μmの深さの酸素濃度が基板の厚み中心の酸素濃度の70%以下で、かつウエハ表面から5μmより浅い領域のサイズ20nm以上の酸素析出物密度が105個/cm3以下であることを特徴とするシリコン半導体基板。
- 窒素を1×1017atoms/cm3以上3×1019atoms/cm3以下含有するシリコン融液を用いたチョクラルスキー法により育成し、結晶育成中の1100〜900℃までの通過時間が1時間以下になるように育成したシリコン単結晶から切り出したシリコン単結晶基板を、不純物5volppm以下の希ガスもしくは熱処理後の酸化膜厚が2nm以下に抑えられている非酸化性雰囲気中に1100℃以上1300℃以下で30分以上熱処理することを特徴とするシリコン半導体基板の製造方法。
- 請求項1に記載のシリコン半導体基板を製造するために用いられるシリコン単結晶であって、窒素濃度が1×1014atoms/cm3以上2×1016atoms/cm3以下であり、育成直後の状態での酸素析出物の対角長が40nm以下であることを特徴とするシリコン単結晶。
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