JP3729178B2 - 冷間圧延用遠心鋳造製複合ワークロール - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば鉄鋼等の金属材の冷間圧延を行うためのワークロールに好適に使用することができる冷間圧延用遠心鋳造製複合ワークロールに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、鉄鋼等の金属材の冷間圧延を行うためのワークロールとしては、5% (以下、本明細書においては特にことわりがない限り「%」は「質量%」を意味するものとする) Cr系の鍛鋼製焼き入れワークロールが多用されている。また、特に耐摩耗性が要求される場合には、冷間ダイス鋼相当の10%Cr系、あるいはMo、V等を少量添加したセミハイス系の鍛鋼製焼き入れワークロールが一部使用されている。
【0003】
これらの鍛鋼製焼き入れワークロールは、大気溶解法あるいはエレクトロスラグ溶解法により製造された鋼塊に鍛造・焼鈍処理を行い、所定の形状、寸法に機械加工した後、定置誘導加熱焼き入れあるいは連続移動誘導加熱焼き入れにより所望の硬さに硬化されている。ここで、「定置誘導加熱焼き入れ」とは、ロール胴部全体をカバーする長さのコイルを用いてロール胴部表層を一辺に誘導加熱後焼き入れする焼入れ法であり、「連続移動誘導加熱焼き入れ」とは、ロール胴部長さよりも短いコイルを胴片の下部から上部へかけて移動させながら焼き入れする焼入れ法である。
【0004】
10%Cr系およびセミハイス系の鍛鋼製焼き入れワークロールは、Cr、Mo、Vが形成する硬質な炭化物を鋼中に分散させて耐摩耗性を向上させるものであるが、鍛造素材である鋼塊全体、すなわち圧延材に直接的に接触しない部位にもこれらの高価な元素が含有されるという無駄を不可避的に伴うことのみならず、大気溶解法のみでは鋼塊内部の健全性を確保できないことからエレクトロスラグ溶解法を用いることが必須であること、さらには難鍛造性であるので鍛造工数が多くなる等のことから、5%Cr系鍛鋼製焼き入れワークロールに比較すると製造コストが著しく嵩むという問題があった。
【0005】
一方、ヨーロッパにおいては、1980年代前半から、竪型遠心鋳造機を用いて高Cr鋳鉄(2.7%C−18%Cr) の溶湯を外層として形成させた後に、安価な片状黒鉛鋳鉄あるいは球状黒鉛鋳鉄の溶湯を芯材として鋳込み、溶着接合凝固させる遠心鋳造製複合ロールを、冷間圧延用ワークロールとして一部使用している。また、特許文献1には、高Cr鋳鉄に替えて高Cr鋳鋼を外層とする冷間圧延用遠心鋳造製複合ワークロールが提案されている。
【0006】
これらの遠心鋳造製複合ワークロールは、焼鈍処理された鋳造品を一定の形状、寸法に機械加工した後、全体加熱焼き入れにより外層の表面を硬化するものである。ここで、全体加熱焼き入れとは、ロール全体をロール胴部内部に過大な温度勾配がつかないように徐々に焼き入れ温度まで昇温加熱した後に焼き入れする方法である。したがって、製造コスト的には安価であり、所定の使用性能を確保できれば、エレクトロスラグ溶解法により製造された10%Cr系あるいはセミハイス系の鍛鋼製焼き入れワークロールを凌駕できるものと考えられる。
【0007】
しかしながら、竪型遠心鋳造機および日本で賞用されている横型あるいは傾斜型遠心鋳造機を用いて製造される、高Cr鋳鉄又は高Cr鋳鋼を外層とする遠心鋳造製複合ロールには、後述するような製造上および使用性能上の問題があり、日本の冷間圧延機においては、1990年代前半以降殆ど使用されなくなったというのが実状である。
【0008】
さらに、近年においては、これらの遠心鋳造製複合ワークロールに替わるものとして、低炭素低合金鍛鋼等の芯材の周囲にCr、Mo、V、W等を多量に含有する耐摩耗性に優れた外層を、エレクトロスラグ再溶解法を利用した肉盛方法あるいは連続鋳掛肉盛法により形成した、冷間圧延用複合ワークロールを製造する技術が特許文献2あるいは特許文献3により提案されている。これらの肉盛法による複合ワークロールは、肉盛法により形成された鋳塊を、場合によっては鍛造処理も行い、一定の形状、寸法に加工した後、連続移動誘導加熱焼き入れにより外層の表面を硬化するものである。
【0009】
【特許文献1】
特公平1−11707 号公報
【特許文献2】
特公平7−68588 号公報
【特許文献3】
特開平10−27761 号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、これらの肉盛法による複合ロールは、低炭素低合金鍛鋼等の芯材を事前に製造する必要があること等から、いきおい製造コストが嵩む。このため、製造コストを勘案した使用性能評価では前記の鍛鋼製焼き入れロールを凌駕するに至らないというのが実状である。
【0011】
ここで、鉄鋼等の金属材の冷間圧延を行うためのワークロールは、大半が胴径が650 mm以下の小径ロールであり、胴部表面硬さはショア硬さで90以上の範囲に選定されている。これは硬さが低過ぎると圧延使用時の異材飛び込みによる疵入りが発生し易くなる(疵入り抵抗性を「耐凹み性」という)等の不都合が生じるからである。また、ワークロールは、圧延材と直接接触して圧延製品の寸法精度や表面品質を大きく左右するため、耐摩耗性が強く要求されるとともに、ワークロール自体の表面品質を決定する研削性も重要な要求性能となっている。したがって、耐摩耗性及び研削性がともに優れたワークロール材としては、研削性を考慮しながら、Cr、Mo、V、W等の元素が形成する硬質な炭化物を鋼中に多量に分散させて耐摩耗性を向上させる必要がある。
【0012】
しかしながら、Cr、Mo、V、W等の硬質な炭化物を形成する元素を多量に含有する溶湯を遠心鋳造により外層として形成させた後に、球状黒鉛鋳鉄の溶湯を芯材として鋳込んで溶着接合させて凝固させることにより、外層の表面がショア硬さ90以上に硬化された耐摩耗性及び研削性に優れた遠心鋳造製複合ワークロールを製造することは、下記の理由により現実的には不可能であるとされている。
【0013】
まず、遠心鋳造法による複合ロールは、外層材溶湯を大きな遠心力下でモールド表面から内側に凝固させるので、溶湯と比重の異なる凝固前面の濃化溶湯あるいは初晶炭化物が未凝固溶湯中を移行して、結果的に凝固形成された外層内の半径方向の成分分布が不均一になりやすいこと、および外層内側に溶着接合の困難なあるいは脆弱な炭化物富化層または過共晶組成相を形成しやすいことがある。この現象は、外層材溶湯がCr、Mo、V、W等の元素を多量に含有するほど、また用いる遠心力が大になるほど顕著になる。
【0014】
一方、芯材溶湯鋳込み時の外層と芯材との溶着接合条件を一定にするためには、遠心力を大にしてモールド内の長さ方向の溶湯厚みの差異を極力小さくする必要があるが、遠心力は回転数の二乗と直径とに比例するので、モールド内径(結局はロール胴径)が小さくなるほど、また外層材溶湯厚みが大であるほど、健全な境界部を得るためには遠心力を大きくする必要がある。
【0015】
したがって、特に直径が650mm 以下の小径ロールが大半を占める冷間圧延用ワークロールにおいては、健全な境界部を得ようとしてモールド内の溶湯厚みの差異を小さくすれば、外層内の半径方向の成分分布が不均一になり、かつ外層内側に溶着接合の困難なあるいは脆弱な炭化物富化層または過共晶組成相が形成し易くなるという不都合があった。逆に、遠心力を抑えて外層内の半径方向の成分分布を均一にしようとすれば、モールド内の溶湯厚みの差異が大となり、健全な境界部の確保が困難になるという不都合があった。
【0016】
また、遠心鋳造法による複合ロールの芯材を形成する球状黒鉛鋳鉄は、黒鉛を晶出させることによって靭性を発揮することができるのであるが、外層がCr、Mo、V、W等の白銑化傾向の強い元素を多量に含有していると、芯材の黒鉛化が阻害されて脆くなり易いという問題がある。すなわち、芯材溶湯の鋳込み時に、外層内面に未凝固溶湯が残留している場合には、その未凝固溶湯は芯材溶湯と混合し芯材溶湯中に希釈する。また、凝固形成された外層の内面側には、上述したように脆弱な炭化物富化層あるいは過共晶組成相が集中して発生しているので、これらを芯材溶湯により溶融除去する必要がある。
【0017】
さらに、研削性を考慮してC含有量が少ない高融点材料を外層に採用する場合には、凝固形成された外層内側に収縮巣等の鋳造欠陥が発生し易いため、この鋳造欠陥発生層も芯材溶湯により溶融除去する必要がある。したがって、芯材の白銑・脆弱化の程度は、外層内面の未凝固溶湯および/または外層内面側に凝固形成された除去すべき外層の厚み(量)、およびそれらに含まれるCr、Mo、V、W等の白銑化傾向の強い元素の量により決定されることになる。
【0018】
このようなことから、特に本発明が対象としている、Cr、Mo、V、W等の白銑化傾向の強い元素を多量に含有し、かつ内面側に収縮巣等の鋳造欠陥が発生し易い高融点材料を外層とし、外層の表面がショア硬さ90以上に硬化された耐摩耗性及び研削性に優れたワークロールを製造する場合には、外層と芯材との溶着接合強度を著しく低下させる炭化物富化層あるいは収縮巣等の鋳造欠陥を完全に除去しようとすれば芯材の白銑・脆弱化が生じ易いという問題があり、実用化が進んでいないというのが実状であった。
【0019】
一方、外層成分の芯材溶湯への混合希釈による芯材の白銑・脆弱化を低減する手段として、外層と芯材との間にアダマイトあるいは黒鉛鋼等の中間層を設けることが提案されている。しかし、この方法では、混合除去および溶融除去された外層成分は中間層に混合希釈され、形成した中間層は外層と類似した熱機械的特性を有することになり、結果的にロールの使用層としては活用できない外層厚みを増大させたことに過ぎないこととなる。このようなことから、この方法には、外層の表面がショア硬さ90以上に硬化された、直径が650mm 以下の小径ロールが大半を占めるワークロールでは、後述するように製造および使用時に大根割れ(胴部芯材内部を起点とする折損)等の不都合を起しやすいという問題がある。
【0020】
次に、芯材を球状黒鉛鋳鉄とする遠心鋳造製複合ワークロールには、熱処理に関しても大きな問題がある。
複合ロールの焼き入れに際しては、外層には変態膨張による大きな圧縮残留応力が発生し、それとバランスして芯材には大きな引張応力が発生して、芯材の引張強さよりも過大になると焼き入れ中に芯材が破断してしまう。この問題は、ロール胴径が小さくなるほど、すなわちロール胴部断面積に占める外層の断面積が相対的に大きくなるほど、芯材に発生する引張応力が増大するので、より発生し易くなる。また、外層の表面を硬化させるほど、すなわち焼き入れ冷却時の冷却速度を大にするほど、外層の変態膨張が大きくなるのみならず、ロール胴部内部の温度勾配が大となり、芯材に作用する熱応力型の引張応力が大となるため、焼き入れ中に芯材が破断してしまうという問題が発生し易くなる。
【0021】
したがって、直径が650mm 以下の小径ロールが大半を占め、かつ外層にCr、Mo、V、W等の白銑化傾向の強い元素を多量に含有することにより芯材の白銑・脆弱化が生じ易い、外層の表面がショア硬さ90以上に硬化された耐摩耗性及び研削性に優れたワークロールを製造する場合には、全体加熱焼き入れを採用して焼き入れ冷却時に芯材に発生する応力が過大にならないようにしても、焼き入れ中に芯材が破断してしまうという問題があった。
【0022】
また、遠心鋳造製複合ワークロールに連続移動誘導加熱焼き入れを適用する場合には、胴片の下部から上部へ連続移動的に焼き入れ加熱および冷却を行うので、焼き入れの際に、焼き入れ開始部の表面より外層に割れが発生するという問題や、芯材が局部的に急速加熱されて焼き入れ中に芯材が破断してしまうという問題がある。
【0023】
さらに、高Cr鋳鉄を外層とする遠心鋳造製冷間圧延用複合ロールが日本の冷間圧延機において普及しなかった一因として、5%Cr系の鍛鋼製焼き入れロールに比較して研削性が悪い等の使用上の問題が発生し易いことがあった。この問題を解決するために、特許文献1には、高Cr鋳鉄に替えて高Cr鋳鋼を外層とする竪型遠心鋳造製冷間圧延用複合ロールが提案されているが、上述したように実用化が進んでいないというのが実状である。これは、特許文献1に開示された高Cr鋳鋼では、近年の圧延製品の高品質化のニーズに対応できなくなったためである。
【0024】
本発明は、鉄鋼等の金属材の冷間圧延を行うためのワークロールに遠心鋳造製複合ロールを適用する場合に発生する、上述したような問題を解消したものであり、エレクトロスラグ溶解法を用いた10%Cr系あるいはセミハイス系の鍛鋼製焼き入れワークロールよりも製造コストが安価で、かつ同等以上の耐摩耗性及び研削性を有する高性能の冷間圧延用遠心鋳造製複合ワークロールを提供するものである。
【0025】
【課題を解決するための手段】
本発明は、回転軸の傾斜角が30度以下である遠心鋳造機により形成された外層と芯材とを備える複合ロールであって、外層が、C:0.50〜0.95%、Si:0.2〜2.0%、Mn:0.2〜2.0%、Ni:0.1〜2.0%、Cr:4.5〜8.5%、Mo:1.5〜4.5%、V:0.1〜1.0%、W:0.1〜3.0%、残部 Fe 及び不可避的不純物からなる鉄系高合金であり、このロールの両軸部を構成する芯材が、C: 2.5 〜 3.6 %、 Si : 1.6 〜 3.3 %、 Mn : 0.2 〜 0.8 %、 P : 0.1 %未満、 S : 0.05 %未満、 Ni : 0.2 〜 1.5 %、 Mg : 0.02 〜 0.08 %、 Cr 、 Mo 、V、W:それぞれ 0.70 %以下、かつ(Cr+2V)量:0.70%以下、残部 Fe 及び不可避的不純物からなる球状黒鉛鋳鉄であり、さらに外層の表面が定置誘導加熱焼き入れによりショア硬さ90以上に硬化されていることを特徴とする耐摩耗性に優れた冷間圧延用遠心鋳造製複合ワークロールである。
【0026】
また、本発明は、回転軸の傾斜角が30度以下である遠心鋳造機により形成された外層と芯材とからなる複合ロールであって、外層が、C:0.50〜0.95%、Si:0.2〜2.0%、Mn:0.2〜2.0%、Ni:0.1〜2.0%、Cr:4.5〜8.5%、Mo:1.5〜4.5%、V:0.1〜1.0%、W:0.1〜3.0%、{C+0.1(Cr+0.8Mo+0.4W)}量:1.70%以下、残部 Fe 及び不可避的不純物からなる鉄系高合金であり、このロールの両軸部を構成する芯材が、C: 2.5 〜 3.6 %、 Si : 1.6 〜 3.3 %、 Mn : 0.2 〜 0.8 %、 P : 0.1 %未満、 S : 0.05 %未満、 Ni : 0.2 〜 1.5 %、 Mg : 0.02 〜 0.08 %、 Cr 、 Mo 、V、W:それぞれ 0.70 %以下、かつ(Cr+2V)量:0.70%以下、残部 Fe 及び不可避的不純物からなる球状黒鉛鋳鉄であり、さらに外層の表面が定置誘導加熱焼き入れによりショア硬さ90以上に硬化されていることを特徴とする耐摩耗性に優れた冷間圧延用遠心鋳造製複合ワークロールである。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下に、まず、本発明にかかる冷間圧延用遠心鋳造製複合ワークロールの胴部外層を構成する鉄系高合金の主要組成の限定理由を説明する。
【0028】
C: 0.50 〜 0.95 %
Cは、 基地中に固溶して焼き入れ性を高めるとともに、 Cr、Mo、V、W等の元素と結合して硬質な炭化物を形成する。 しかし、 0.50%未満の含有量であると炭化物量が少なく、 耐摩耗性が得られない。 一方、 含有量が0.95%を超えると、炭化物量が多くなり研削性を劣化させる。したがって、 C含有量の範囲は0.50%以上0.95%以下と限定する。同様の観点から、C含有量の下限は0.55%であることが、上限は0.90%であることが、それぞれ望ましい。
【0029】
Si : 0.2 〜 2.0 %
Siは脱酸作用を目的として添加する。 しかし、 Si含有量が0.2 %未満であるとその効果が不十分であり、 逆に、 Si含有量が2.0 %を超えるとミクロ偏析を助長して研削性を劣化させる。したがって、 Si含有量の範囲を0.2 %以上2.0 %以下と限定する。
【0030】
Mn : 0.2 〜 2.0 %
Mnは、脱酸及び脱硫作用を目的として添加する。 しかし、 Mn含有量が0.2%未満であるとその効果が不十分であり、 一方、 Mn含有量が2.0 %を超えると靱性を低下させるため、 Mn含有量の範囲を0.2 %以上2.0 %以下と限定する。
【0031】
Ni : 0.1 〜 2.0 %
Niは基地中に固溶して焼き入れ性を向上する。 そのため、 Niは0.1%以上含有させるが、 Ni含有量が2.0 %を超えて含有させると、 残留オーステナイトが安定化し過ぎて硬さの確保が困難となる。したがって、 Ni含有量の範囲は0.1 %以上2.0 %以下と限定する。同様の観点から、Ni含有量の下限は0.2 %であることが、上限は1.5 %であることが、それぞれ望ましい。
【0032】
Cr : 4.5 〜 8.5 %
Crは、基地中に固溶して焼き入れ性を高め強化するとともに、 Cと結合して硬質なCr炭化物を形成する。Cr含有量が4.5%未満であるとこれらの効果が少なく、逆に、 Cr含有量が8.5%を超えると、 炭化物量が多くなり研削性を劣化させる。したがって、 Cr含有量の範囲を4.5 %以上8.5 %以下と限定する。同様の観点から、Cr含有量の下限は5.0 %であることが、上限は8.0 %であることが、それぞれ望ましい。
【0033】
Mo : 1.5 〜 4.5 %
MoもCrと同様に基地中に固溶して焼き入れ性を高め強化するとともに、 Cと結合して硬質な炭化物を形成する。 したがって、 基地強化のために1.5 %以上含有させるが、4.5%を超えて含有させると炭化物量が多くなり研削性を劣化させる。したがって、 Mo含有量の範囲は1.5 %以上4.5 %以下と限定する。同様の観点からMo含有量の下限は2 .0%であることが望ましく、上限は4.0 %であることが、それぞれ望ましい。
【0034】
V: 0.1 〜 1.0 %
Vは、Cと結合して最も硬質なMC炭化物を形成する重要な元素である。 しかし、0.1%未満の含有量では炭化物量が不十分で耐摩耗性を確保できず、 一方1.0 %を超えるとC量が不足して所要の硬さが得られなくなるとともに硬質なMC炭化物が多くなり研削性を劣化させる。したがって、 V含有量の範囲を0.1 %以上1.0 %以下と限定する。
【0035】
W: 0.1 〜 3.0 %
Wは、 Moと同様に基地中に固溶して焼き入れ性を高め強化するとともに、 Cと結合して硬質な炭化物を形成する。 基地強化のためには、 最低0.1 %以上含有させるが、3.0% を超えると炭化物量が多くなり研削性を劣化させる。したがって、 W含有量の範囲は0.1 %以上3.0 %以下と限定する。同様の観点から、W含有量の下限は0.2 %であることが、上限は2.5 %であることがそれぞれ望ましい。
【0036】
{C+ 0.1(Cr + 0.8Mo + 0.4 W)}量: 1.70 %以下
研削性は、{C+0.1(Cr+0.8Mo +0.4 W)}量に比例して劣化し、この値が1.70%を超えると、良好なロール表面性状の確保が困難となるので、{C+0.1(Cr+0.8Mo +0.4 W)}量を1.70%以下と限定する。同様の観点から、{C+0.1(Cr+0.8Mo +0.4 W)}量の上限は1.65%と限定することが望ましい。
【0037】
なお、本発明にかかる冷間圧延用遠心鋳造製複合ワークロールの胴部外層を構成する鉄系高合金は、上記した主要化学成分に加えて、 さらにNb、Co、Ti等を添加してもよく、その添加の適否及び含有量は、耐摩耗性および研削性等を考慮して適宜判断すればよい。
【0038】
次に、本発明にかかる冷間圧延用遠心鋳造製複合ワークロールの胴部内部および両軸部を構成する芯材である球状黒鉛鋳鉄の主要化学成分の一例について、簡単に説明する。
【0039】
C: 2.5 〜 3.6 %
Cは、2.5 %未満では黒鉛の量が少なくなり、 球状黒鉛鋳鉄としての材質特性を充分に発揮できない。 一方、3.6%を超えて含有させると脆弱となる。そこで、本実施の形態ではC含有量は2.5 %以上3.6 %以下である。
【0040】
Si : 1.6 〜 3.3 %
Siは、1.6%未満では黒鉛の量が少なくなり炭化物が多く析出するために脆くなる。 一方、3.3%を超えると黒鉛の量が多くなり過ぎ、強度の劣化をきたす。そこで、本実施の形態ではSi含有量は1.6 %以上3.3 %以下と限定する。
【0041】
Mn : 0.2 〜 0.8 %
Mnは、 Sの害を抑えるのに有効であるが、0.2%未満ではその効果が充分でなく、 一方 0.8% を超えると材質を劣化させる。そこで、本実施の形態ではMn含有量は0.2 %以上0.8 %以下と限定する。
【0042】
P: 0.1 %未満
Pは、溶湯の流動性を増加させるが、 材質を脆弱にするため、本実施の形態では0.1 %未満に限定する。
【0043】
S: 0.05 %未満
Sは、黒鉛の球状化を阻害するために低く抑える必要があり、 本実施の形態ではS含有量は0.05%未満と限定する。
【0044】
Ni : 0.2 〜 1.5 %
Niは、 黒鉛化を促進させるが、 Ni含有量が0.2 %未満ではその効果が不十分であり、 一方Ni含有量が1.5 %を超えて添加しても顕著な効果がない。 よって、本実施の形態でNi含有量の範囲は0.2 %以上1.5 %以下とする。
【0045】
Mg : 0.02 〜 0.08 %
Mg は、 黒鉛の球状化を促進させる作用を有する。 しかし、 含有量が0.02%未満であるとその効果が不十分であり、 一方0.08%を超えて添加すると黒鉛化を阻害し、 鋳造欠陥を発生し易くなる。そこで、本実施の形態では0.02%以上0.08%以下と限定する。
【0046】
Cr 、 Mo 、V、W:それぞれ 0.70% 以下、かつ( Cr +2V)量が 0.70 %以下
Cr、Mo、V、Wは、 前記の通り白銑化元素であるため、基本的には、 本発明の芯材を形成するための球状黒鉛鋳鉄の溶湯には添加しない。 しかしながら、 本発明の複合ロールの外層にはCr、Mo、V、Wが多量に含有されるので、外層と芯材とを溶着接合する際に、それらの外層に含まれる元素が芯材に不可避的に混入する。また、溶解原料から不可避的に混入する場合もある。何れも芯材に多く混入すると、芯材の黒鉛の球状化が阻害され、 かつ白銑化・脆弱化する。そのため、Cr、Mo、V、Wの含有量の上限をそれぞれ0.70%とした。
【0047】
さらに、強力な白銑化元素であるCr及びVについては、(Cr+2V)量が0.70%を超えると、定置誘導加熱焼き入れ法を採用した熱処理を行っても、芯材内部からの破壊が生じるので、(Cr+2V)量を0.70%以下と限定する。同様の観点から、(Cr+2V)量の上限は0.65%であることが望ましい。
【0048】
また、 本発明にかかる冷間圧延用遠心鋳造製複合ワークロールの胴部内部及び両軸部を構成する芯材である球状黒鉛鋳鉄は、上記した主要化学成分に加えて、 さらにNb、Co、Ti等の外層に含まれる元素が不可避的に混入することがあるが、黒鉛の球状化および白銑化・脆弱化等を考慮し、 その混入の適否を適宜判断するとよい。
【0049】
また、 本発明にかかる冷間圧延用遠心鋳造製複合ワークロールの外層は、回転軸の傾斜角が30度以下である遠心鋳造機により形成される。回転軸の傾斜角が30度超であると、芯材溶湯鋳込み時の外層と芯材との溶着接合条件をモールド全長内でほぼ一定にすることができなくなり、胴部全長に亘って健全な境界部を得ることができないのみならず、芯材の白銑化が生じやすく、熱処理中および/または使用中に破壊が発生しやすくなるからである。
【0050】
さらに、本発明にかかる冷間圧延用遠心鋳造製複合ワークロールの外層の表面は、定置誘導加熱焼き入れによりショア硬さ90以上に硬化されている。この定置誘導加熱焼き入れは、外層の有効使用径域を適正な焼き入れ加熱温度に保持でき、かつ内部の温度が低く、焼き入れ冷却時には内部からの冷却も寄与するので、特に外層内部(径小域)の硬化が容易であるという特徴を有している。さらに、残留応力の観点からも、加熱速度が速く芯材の温度を低く抑える、すなわち軸心部の引張残留応力を低くできるとともに、芯材の強靱性の劣化を防止することが可能であり、本発明の遠心鋳造製複合ロールの熱処理法として好適である。
【0051】
さらに、本発明にかかる冷間圧延用遠心鋳造製複合ワークロールの構成を、その実施の形態とともに詳細に説明する。
【0052】
【実施例】
(実施例1)
表1に示す化学成分を有する、通常の工程で製造されている5%Cr系鍛鋼製焼き入れワークロール(大気溶解法)及びセミハイス系鍛鋼製焼き入れワークロール(エレクトロスラグ溶解法)の鍛造・焼鈍後の胴端部から採取した従来材2種の素材と、抵抗式溶解炉により溶製し小型遠心鋳造試験機(モールド内径120mm )で鋳造した高Cr鋳鋼(比較材1)を含む各種組成材(比較材2〜4)及び本発明材の素材から、回転摩耗試験片および研削性評価用試験片(直径90mm)を採取した。これらの試験片は、970 〜1085℃からの焼き入れ処理とさらに100 〜520 ℃での焼き戻しによりショア硬さ91〜96の範囲に調整した。
【0053】
【表1】
【0054】
回転摩耗試験は、相手材:ショア硬さ93の5%Cr系鍛鋼製焼き入れワークロール材、潤滑:灯油、表面状態:研削施工により表面粗さRaを2μm に調整、ヘルツの接触応力:1451MPa 、すべり率:5%、回転数:2×105 回の条件で試験を行い、 摩耗減量を測定した。
【0055】
表1に、本発明材、 従来材及び比較材の回転摩耗試験による摩耗減量を示す。 表1に示すように、本発明材は従来材及び比較材よりも摩耗減量が少なくなっている。 特に、 比較材1及び比較材4は本発明材よりもCr含有量が高いが、摩耗減量が多くなっている。すなわち、Crを多量に添加するよりもMoとともにV及びWを複合添加するほうが、耐摩耗性の向上に効果的である。
【0056】
このように、 本発明材を冷間圧延用複合ワークロールの外層材に適用すると、その目的とする耐摩耗性の作用及び効果を十分に奏することが明らかである。
研削性評価試験は、直径355mm の汎用砥石(WA120)を用いて、実際の冷間圧延用ワークロールの研削をシミュレートした条件で研削を行い、研削後の表面状況(仕上がり粗度及びビビリの発生有無)により評価した。
【0057】
表2に、従来材、比較材および本発明材の{C+0.1(Cr+0.8Mo +0.4 W)}量と仕上がり粗度及びビビリの発生有無との関係を示す。
【0058】
【表2】
【0059】
この表から明らかなように、 {C+0.1(Cr+0.8Mo +0.4 W)}量が1.70%以下である本発明材は、汎用砥石を用いてもビビリの発生無しに高い仕上がり粗度に研削することができる。すなわち、{C+0.1(Cr+0.8Mo +0.4 W)}量を1.70%以下にすれば、ビビリやスクラッチ疵等の有害な研削欠陥を発生させずに、所定の研削粗さに仕上げることができるという良好な研削性を確保できる。
【0060】
これに対し、{C+0.1(Cr+0.8Mo +0.4 W)}量が1.70%を超える従来材及び比較材は、ビビリが発生するとともに低い仕上がり粗度にしか仕上がらず、研削性に劣ることが明らかとなった。すなわち、研削性を阻害する度合いの大きいCrの含有量を抑制して、Mo、V及びWを複合添加することにより、良好な研削性とともに優れた耐摩耗性を確保できる。
【0061】
このように、 本発明材は、 本発明にかかる冷間圧延用遠心鋳造製複合ワークロールの外層材に適用すると、耐摩耗性に優れるとともに良好な研削性を得られるという効果を十分に奏する。
【0062】
(実施例2)
直径が650mm 以下の小径ロールが大半を占め、かつ外層にCr、Mo、V、W等の白銑化傾向の強い元素を多量に含有することにより芯材の白銑化及び脆弱化が生じ易い、外層の表面がショア硬さ90以上に硬化された耐摩耗性及び研削性に優れたワークロールを製造する場合には、製造及び使用時に大根割れ(胴部芯材内部を起点とする折損)等の不都合を生じさせないために、外層成分の芯材溶湯への混合希釈による芯材の白銑化及び脆弱化を防止する必要がある。
【0063】
図1は、3.5 %C−2.1 %Si−0.5 %Mn−0.9 %Ni−0.2 %Mo−0.03%Mg系の球状黒鉛鋳鉄に、Cr及びVを (Cr+2V) 量が1.0 %以下の範囲で添加した時の (Cr+2V) 量と硬さとの関係をラボテストにより調査した結果を示すグラフである。同図に示すように、球状黒鉛鋳鉄は (Cr+2V) 量に比例して白銑化し、 (Cr+2V) 量が0.70%を超えると著しく硬化すなわち脆弱化する。
【0064】
したがって、本発明にかかる冷間圧延用遠心鋳造製複合ワークロールの熱処理法として、軸心部の引張残留応力を低くできるとともに、芯材の強靱性の劣化を防止することが可能である定置誘導加熱法を採用する場合においても、焼き入れ中の内部破断、さらには使用時の大根割れを防止するためには、両軸部の (Cr+2V) 量を0.70%以下に抑制する。好ましくは0.65%以下に抑制する。
【0065】
(実施例3)
遠心鋳造法は、鋳造機の回転軸の方向(傾斜角)で横型(傾斜角が0 度)、傾斜型と竪型(傾斜角が90度)とに分類され、日本においては横型あるいは傾斜型が多く用いられているのに対し、ヨーロッパ、米国等の日本を除く諸外国では竪型遠鋳機が用いられているので、前述の特許文献1で提案された高Cr鋳鋼を外層とする冷間圧延用遠心鋳造製複合ワークロールロールは竪型遠鋳機にて鋳造されていると推量される。このようなことから、傾斜角が異なった場合の本発明にかかる冷間圧延用遠心鋳造製複合ワークロールへの適用可否を検討した。
【0066】
図2は、内径、長さがそれぞれ565 mm、2600 mm であるモールドを用いて、芯材の鋳込み時の鋳込み側(あるいは鋳型の上側)のモールド端から200mm 位置における溶湯厚みが62 mm になるように外層材の溶湯を鋳込んだ時の、鋳造機の回転軸の傾斜角および遠心力の大きさ(重力加速度、G No. )とモールド両端部間における溶湯厚みの差との関係を示すグラフである。
【0067】
傾斜角が30度以下であれば120Gの遠心力であってもモールド両端部間における溶湯厚みの差は15mm以下となり、芯材溶湯鋳込み時の外層と芯材との溶着接合条件をモールド全長内でほぼ一定にすることができ、胴部全長に亘って健全な境界部を得ることができる。それに対して、傾斜角が30度を超えると、芯材溶湯鋳込み時の外層厚みの差が大となり、胴部全長に亘って健全な境界部を得ることができなくなる。
【0068】
特に、竪型では、外層内の半径方向の成分分布が不均一になる不具合を無視して、160Gの大きな遠心力を加えてもモールド両端部間における溶湯厚みの差は20mmを超えるので、外層が完全に凝固した状態でモールド中央から下部の接合条件に合わせて芯材溶湯を鋳込んだ場合には、溶湯厚みの小な芯材鋳込み側のモールド上端部は温度が下がり過ぎて溶着不良となる。一方、溶湯厚みが小さな芯材鋳込み側のモールド上端部に接合条件を合わせて芯材溶湯を鋳込んだ場合には、モールド中央から下部は凝固が完了していないので、Cr、Mo、V、W等の白銑化傾向が強い元素が多量に含有した、多量の未凝固溶湯が芯材溶湯中に混入して芯材を著しく白銑化し、熱処理中および/または使用中に芯材を起点とした内部破壊が発生する。このような不具合は、程度の差異はあるものの、傾斜角が30度を超えた遠心鋳造機を用いた場合にも発生する。
【0069】
なお、外層内面の未凝固溶湯および/または外層内面側に凝固形成された除去すべき外層の芯材溶湯への混合希釈による芯材の白銑化及び脆弱化を低減する手段として、芯材の鋳込み量を増加させる手段もあり得るが、これは製造コストの大幅なアップを招くため、本発明にかかる冷間圧延用遠心鋳造製複合ワークロールの目的にはそぐわず、好ましくない。
【0070】
以上のことから、外層にCr、Mo、V、W等の白銑化傾向の強い元素を多量に含有し、かつ胴部全長に亘って健全な境界部が要求される本発明にかかる冷間圧延用遠心鋳造製複合ワークロールの製造においては、遠心鋳造機の回転軸の傾斜角が30度以下の遠心鋳造機、好ましくは25度未満の遠心鋳造機を用いる。また、傾斜角が小さいほどモールド両端部間における溶湯厚みの差が小さくなるが、横型では、外層溶湯のモールド内への充填に要する時間が長くなり、外層の凝固組織に胴長方向のムラが生じやすくなるので、傾斜角は5 度以上であることが好ましい。
【0071】
(実施例4)
本発明例として、回転軸の傾斜角が18度の傾斜型遠心鋳造機を用いて、製品時の胴部の直径560mm 、長さ2032mmの複合ロールを製造した。この複合ロールは、以下に示す手順▲1▼〜▲4▼により製造した。
【0072】
▲1▼胴部を形成するためのモールド(内径595mm 、長さ2600mm)と両軸部を形成するための軸鋳型とを組み立てた後(組み立てたものを鋳型という)、遠心鋳造機に搭載した。なお、モールド内面には2mm厚さの塗型を施工した。
【0073】
▲2▼モールド内面の遠心力が120Gになるように鋳型を高速回転させてから、低周波誘導炉を用いて溶解した、表3に示す化学組成の溶湯を外層材溶湯として、モールド長さ方向の中央位置の厚みが72mmになるように、モールド内に1410℃で鋳込んだ。
【0074】
【表3】
【0075】
▲3▼外層材溶湯が凝固した後に遠心鋳造機の回転を停止し、鋳型を垂直に立て、芯材として表3に示す球状黒鉛鋳鉄溶湯を、外層溶湯鋳込開始から27分経過後、1420℃で鋳込んだ。
【0076】
▲4▼冷却、鋳型解体及び焼鈍後、得られた鋳放し品の胴部表面を直径568mm に旋削加工し、超音波探傷により外層の厚みおよび境界部健全性を調査した。また、両胴端部から試験片を採取し、これらの試験片を使用して境界部健全性及び芯材の白銑化状況を調査した。さらに、両軸部から試験片を採取し、これらの試験片を使用して芯材の白銑化状況及び化学組成を調査した。
【0077】
なお、芯材鋳込みにより除去された外層の厚みは、収縮率を1.01として算出した。境界部の健全性は探触子5Z20N 、探傷感度 V15−90%+20dBの条件で探傷し、反射エコーの高さ及び検出位置により判定した。芯材の内部の白銑化状況は、芯材のCr、V量等の化学組成が両胴端部から採取した試験片内部の芯材と鋳込み時の下側軸部とでほぼ同一であったことから、芯材鋳込み時の下側軸部の化学組成により評価した。
【0078】
超音波探傷により測定した外層厚みから算出した芯材鋳込みにより除去された外層の厚みは直径8mmであり、かつ超音波探傷による境界部健全性は、境界部からの反射エコーの高さが100 %以下と良好であった。また、下側軸部から採取した試験片による芯材の(Cr+2V) 量は0.46%であり、芯材の白銑化は認められなかった。
【0079】
このロールを焼き入れ寸法(胴長2060mm)に旋削加工した後、定置誘導加熱法により熱処理を行い、その後、胴部表面を旋削仕上加工して、超音波探傷により胴内部の健全性を調査した。
【0080】
その結果、芯材の破断(内部破壊)もなく、所定の硬さであるショア硬さ93が得られた。本発明例で実施した定置誘導加熱法は、次のようにして行った。ロール全体を400 ℃に予熱保持した後、定置誘導加熱装置により胴部表面を平均昇温速度650 ℃/hで1085℃まで昇温し、この温度で7分間保持した後、噴霧を付加した衝風空気焼入れを行い、520 ℃の温度で停止する。続いてロール温度を520 ℃に20時間維持し、次に空冷によりロールを室温まで冷却する。引き続き、このロールを520 ℃の温度で20時間の焼き戻しを2回行った。
【0081】
なお、特許文献1により開示された、高Cr鋳鋼を外層とする冷間圧延用遠心鋳造製複合ワークロールでは全体加熱焼き入れ法を採用しているが、この加熱法では、芯材が外層と同一の温度に加熱されるので、熱応力型の軸心部引張残留応力が大になり、かつ芯材が脆弱化し熱処理時および/または使用中に内部破壊が生じる可能性が高いとともに、芯材の溶融開始温度以上に焼き入れ温度を高くすることができないので、本発明ロールにおいてショア硬さ90以上の高硬度を得るに必要な1050℃超の焼き入れ温度とすることができないために、本発明の遠心鋳造製複合ロールの熱処理には採用できない。
【0082】
一方、前述の全体加熱焼き入れ法および本発明の定置誘導加熱法の他に、遠心鋳造製複合ロールの熱処理法としては、ガスバーナー等により胴部表面を焼き入れ温度に加熱する方法もある。しかしながら、この加熱法には、焼き入れ加熱域を確保するために必要以上にロール表面温度を上げる必要があるので、外層表面の溶融が生じやすいこと、また加熱速度が遅く芯材の温度が高くなるので、熱応力型の軸心部引張残留応力が大になること、及び芯材が脆弱化する等の不具合があること等により、本発明にかかる冷間圧延用遠心鋳造製複合ワークロールの熱処理には採用できない。
【0083】
本発明の定置誘導加熱法によれば、外層の有効使用径域を適正な焼き入れ加熱温度に保持でき、かつ内部の温度が低く、焼き入れ冷却時には内部からの冷却も寄与するので、特に外層内部(径小域)の硬化が容易であるという特徴を有している。さらに、残留応力の観点からも、加熱速度が速く芯材の温度を低く抑える、すなわち軸心部の引張残留応力を低くできるとともに、芯材の強靱性の劣化を防止することが可能であり、本発明の遠心鋳造製複合ロールの熱処理法として好適である。
【0084】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、本発明にかかる冷間圧延用遠心鋳造製複合ワークロールによれば、製造コストが安価で、かつエレクトロスラグ溶解法を用いた10%Cr系あるいはセミハイス系の鍛鋼製焼き入れワークロールと同等かそれ以上の耐摩耗性および研削性を有する冷間圧延用複合ワークロールが提供される。
【0085】
かかる効果を有する本発明の意義は著しい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 3.5 %C−2.1 %Si−0.5 %Mn−0.9 %Ni−0.2 %Mo−0.03%Mg系の球状黒鉛鋳鉄に、Cr及びVを (Cr+2V) 量が1.0 %以下の範囲で添加した時の (Cr+2V) 量と硬さとの関係をラボテストにより調査した結果を示すグラフである。
【図2】内径、長さがそれぞれ565 mm、2600 mm であるモールドを用いて、芯材の鋳込み時の鋳込み側のモールド端から200mm 位置における溶湯厚みが62 mm になるように外層材の溶湯を鋳込んだ時の、鋳造機の回転軸の傾斜角および遠心力の大きさ(重力加速度、G No. )とモールド両端部間における溶湯厚みの差との関係を示すグラフである。
Claims (2)
- 回転軸の傾斜角が30度以下である遠心鋳造機により形成された外層と芯材とを備える複合ロールであって、
前記外層が、質量%で、C:0.50〜0.95%、Si:0.2〜2.0%、Mn:0.2〜2.0%、Ni:0.1〜2.0%、Cr:4.5〜8.5%、Mo:1.5〜4.5%、V:0.1〜1.0%、W:0.1〜3.0%、残部 Fe 及び不可避的不純物からなる鉄系高合金であり、
該ロールの両軸部を構成する前記芯材が、質量%で、C: 2.5 〜 3.6 %、 Si : 1.6 〜 3.3 %、 Mn : 0.2 〜 0.8 %、 P : 0.1 %未満、 S : 0.05 %未満、 Ni : 0.2 〜 1.5 %、 Mg : 0.02 〜 0.08 %、 Cr 、 Mo 、V、W:それぞれ 0.70 %以下、かつ(Cr+2V)量:0.70%以下、残部 Fe 及び不可避的不純物からなる球状黒鉛鋳鉄であり、さらに
前記外層の表面が定置誘導加熱焼き入れによりショア硬さ90以上に硬化されていることを特徴とする耐摩耗性に優れた冷間圧延用遠心鋳造製複合ワークロール。 - 回転軸の傾斜角が30度以下である遠心鋳造機により形成された外層と芯材とからなる複合ロールであって、
前記外層が、質量%で、C:0.50〜0.95%、Si:0.2〜2.0%、Mn:0.2〜2.0%、Ni:0.1〜2.0%、Cr:4.5〜8.5%、Mo:1.5〜4.5%、V:0.1〜1.0%、W:0.1〜3.0%、{C+0.1(Cr+0.8Mo+0.4W)}量:1.70%以下、残部 Fe 及び不可避的不純物からなる鉄系高合金であり、
該ロールの両軸部を構成する前記芯材が、質量%で、C: 2.5 〜 3.6 %、 Si : 1.6 〜 3.3 %、 Mn : 0.2 〜 0.8 %、 P : 0.1 %未満、 S : 0.05 %未満、 Ni : 0.2 〜 1.5 %、 Mg : 0.02 〜 0.08 %、 Cr 、 Mo 、V、W:それぞれ 0.70 %以下、かつ(Cr+2V)量:0.70%以下、残部 Fe 及び不可避的不純物からなる球状黒鉛鋳鉄であり、さらに
前記外層の表面が定置誘導加熱焼き入れによりショア硬さ90以上に硬化されていることを特徴とする耐摩耗性に優れた冷間圧延用遠心鋳造製複合ワークロール。
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