JP3725065B2 - 難燃性エポキシ樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、難燃性エポキシ樹脂組成物に関する。本発明は、より好ましくは、ハロゲンフリーの難燃性エポキシ樹脂組成物に関する。すなわち、ハロゲンを含有しないで優れた難燃性を示し、しかもエポキシ樹脂との反応性に優れているため、樹脂の表面に浮き出てくること(ブルーミング)が実質的にない難燃性エポキシ樹脂組成物に関する。本発明はさらに、そのようなエポキシ樹脂用の難燃剤、そのような難燃剤により変性された難燃性エポキシ樹脂、およびその難燃性エポキシ樹脂を含む難燃性エポキシ樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
エポキシ樹脂組成物は、その優れた密着性、電気特性ゆえに電気電子工業分野を中心に広く使用されている。電気電子工業分野で、IC封止剤、積層板及び高圧トランス等の部品は、安全上の問題から作動時における特性の安定化と難燃性とが要求されている。エポキシ樹脂の難燃化手法としては、通常、テトラブロムビスフェノールAのようなハロゲン化物類の添加が広く行なわれている。あるいは、ブロムビスフェノールAのようなハロゲン化物のビスエポキシ化合物のようなハロゲン化エポキシ化合物が広く使用されている。
【0003】
しかし、最近では、環境面における安全性を特に重要視することから、低ハロゲンあるいはハロゲンフリーである難燃性のエポキシ樹脂組成物が強く求められてきている。ハロゲン化合物を用いる方法は、燃焼時に塩化水素、臭化水素などの腐食性ガス類を発生する。また、ダイオキシンに代表されるような毒性の有機ハロゲン化物質が発生する可能性もある。
【0004】
こういったハロゲンフリーという観点から、リン化合物、窒素化合物、金属化合物などの種々の難燃剤を用いてエポキシ樹脂を難燃化することが行われている。
【0005】
これらの中で、リン化合物に関しては、例えば特開平9−235449号公報や特開2000−309679号公報には、難燃剤として反応性官能基を持たない添加型リン酸エステルを用いてエポキシ樹脂を難燃化する技術が記載されている。しかしながら、これらの方法では難燃剤が官能基を有していないため、エポキシ樹脂の硬化の際に、エポキシ樹脂と難燃剤との間に結合が形成せず、難燃剤が樹脂骨格中には組み込まれない。また、樹脂骨格中に組み込まれないリン酸エステルは可塑化特性を有しており、エポキシ樹脂組成物の機械的、電気的特性に悪影響を及ぼすことがある。
【0006】
一方、特開2001−19746号公報には、難燃剤としてフェノール性水酸基を2個有する反応型リン酸エステルを用いてエポキシ樹脂を難燃化する技術が記載されている。ここで用いられているリン酸エステルは、フェニルホスホン酸ジクロライドなどのアリールホスホン酸ジクロライドから誘導される(モノもしくはポリ)リン酸エステルである。しかしながらこの公報に記載されているリン酸エステルを製造するためには、高価であるアリールホスホン酸ジクロライドを原料として使用しなければならず、製造コストが高くなるために汎用品には使用し難いという欠点がある。さらに特開2001−19746号公報に記載されたエポキシ樹脂組成物は、ガラス転移温度が低く、また難燃性も充分ではないという欠点がある。さらに、このようなリン酸ジエステル中のフェニル基における置換基の有無および置換基の位置が難燃効果にどのような影響を与えるかについては知られていない。
【0007】
また別にエポキシ樹脂を難燃化する技術として、特開2001−72744号公報を始めとしてかなり数多くの公開公報に下記一般式(V)または下記一般式(V)の誘導体(VI)で表される反応型リン酸エステルが使用されている旨が記載されている。
【0008】
【化7】
これらの反応型リン酸エステルは、エポキシ樹脂を難燃化するのに有効な化合物ではあるが、これらは非常に高価なため汎用品には使用し難いのが現状である。さらに、コストを抑えるためにエポキシ樹脂への添加量を抑制すると、充分な難燃化効果が得られにくい。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、エポキシ樹脂との反応性に優れた反応型リン酸エステルを使用し、耐熱性等のエポキシ樹脂硬化物の基本特性を劣化させることなく、エポキシ樹脂材料の硬化の後に、エポキシ樹脂中でリン酸エステルが化学的に結合した、耐熱性および難燃性に優れた難燃性エポキシ樹脂組成物を提供することを課題とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究の結果、特定の反応型リン酸エステルが硬化物特性を劣化させることなく優れた難燃効果を発現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
具体的には、本発明者らは、(A)エポキシ樹脂に対して、(C)一般式(I):
【0012】
【化8】
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子またはC1〜C4アルキル基を表し、Xは一般式(II)〜(IV)のうちのいずれかを表す)
【0013】
【化9】
で表される反応型リン酸エステルを難燃化剤として用いたエポキシ樹脂組成物により上記課題が解決されることを発見し、本発明を完成させた。
【0014】
より具体的には、本発明によれば、以下の組成物、難燃剤、難燃化方法、および難燃性エポキシ樹脂が提供される。
【0015】
(1) (A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤および(C)一般式(I):
【0016】
【化10】
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子またはC1〜C4アルキル基を表し、Xは一般式(II)〜(IV)のうちのいずれかを表す)
【0017】
【化11】
で表される反応型リン酸エステルを含む、難燃性エポキシ樹脂組成物。
【0018】
(2) 上記一般式(I)中のR1およびR2が水素原子である、上記項1に記載の組成物。
【0019】
(3) リン含有率が1.7%以上である、上記項1または2に記載の組成物。
【0020】
(4) 式(I)の化合物を含むエポキシ樹脂用難燃剤。
【0021】
【化12】
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子またはC1〜C4アルキル基を表し、Xは一般式(II)〜(IV)のうちのいずれかを表す)
【0022】
【化13】
(5) 式(I)の化合物と、エポキシ樹脂とを反応させて、難燃性エポキシ樹脂を得る工程を包含する、エポキシ樹脂の難燃化方法。
【0023】
【化14】
(式中、R1およびR2はそれぞれ独立して水素原子またはC1〜C4アルキル基を表し、Xは一般式(II)〜(IV)のうちのいずれかを表す)
【0024】
【化15】
(6) (A’)上記項5に記載の方法で得られる難燃性エポキシ樹脂と、(B)硬化剤とを含む、難燃性エポキシ樹脂組成物。
【0025】
(7) 上記(B)硬化剤が、アミン系硬化剤である、上記項6に記載の組成物。
【0026】
(8) リン含有率が1.7%以上である、上記項7に記載の組成物。
【0027】
【発明の実施の形態】
(1.本発明の組成物)
まず、本発明の組成物について説明する。
【0028】
(A成分:エポキシ樹脂)
本発明に用いられる(A)エポキシ樹脂とは、1分子中に2個以上のエポキシ基を有する化合物をいう。エポキシ樹脂として公知の任意のエポキシ樹脂が使用可能である。液状エポキシ樹脂であってもよく、固形エポキシ樹脂であってもよい。
【0029】
エポキシ樹脂のタイプとしては、任意の系のエポキシ樹脂が使用可能である。具体的には例えば、使用可能なエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノールA型エポキシ樹脂、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ハイドロキノンジグリシジルエーテル、フタル酸ジグリシジルエステル等の2官能性エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂等の多官能性エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは単独または2種以上混合して使用することができる。また、これらの他に必要に応じて液状のモノエポキシ樹脂等を使用することができる。これらの各種エポキシ樹脂の詳細については、例えば室井宗一、石村秀一編「入門 エポキシ樹脂」((株)高分子刊行、1988)などに説明されている。
【0030】
エポキシ樹脂のエポキシ当量は、100〜1000g/eqの範囲であることが好ましく、特に100〜500g/eqの範囲であることが好ましい。
【0031】
エポキシ樹脂は、ハロゲン原子非含有のエポキシ樹脂が好ましい。ハロゲン原子を含有するエポキシ樹脂を用いてもよいが、ハロゲン含有エポキシ樹脂を用いた場合には、そのエポキシ樹脂製品を使用後に廃棄する際の有害廃棄物の発生などの問題が生じ易い。
【0032】
通常エポキシ樹脂は、原料としてエピクロルヒドリンを反応させて合成することから、合成後のエポキシ樹脂中に微量の塩素が含有されてしまう。従って、本発明でいうハロゲン原子非含有のエポキシ樹脂とは、このような微量の塩素は含まれていてもよい。しかし、ハロゲンフリーの難燃処方としては、その様な塩素成分は低減することが好ましい。
【0033】
従って、本発明に用いるエポキシ樹脂は、そのハロゲン含有量が樹脂中に0.1重量%以下であることが好ましく、より好ましくは、0.05重量%以下であり、さらに好ましくは、0.01重量%以下であり、特に好ましくは、0.001重量%以下である。
【0034】
(B成分:硬化剤)
本発明の組成物中に用いる硬化剤としては、エポキシの硬化剤として従来公知の任意の硬化剤が使用され得る。本発明に使用可能な(B)硬化剤の具体例としては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、ジエチルアミノプロピルアミンなどの脂肪族アミン類、m−フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンなどの芳香族アミン類、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などの酸無水物、フェノールノボラック、クレゾールノボラックなどのノボラック類、イミダゾール類、ジシアンジアミド、BF3−アミン錯体等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。これらの硬化剤は単独で使用してもよく、または2種以上の硬化剤を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
これらの硬化剤の使用量は、エポキシ樹脂を充分に硬化させて良好な性能を有する硬化物を得られる限り、任意である。用いるエポキシ樹脂のエポキシ当量と、用いる硬化剤の当量とから計算された量を使用するのが一般的である。
【0036】
好ましくは、硬化剤の使用量は、用いるエポキシ樹脂のエポキシ当量と、用いる硬化剤の当量とから計算される。一般的には、硬化剤の使用量は、好ましくは、エポキシ樹脂のエポキシ当量および硬化剤の当量から計算される理論量の0.5倍〜2倍の範囲内であり、より好ましくは、0.7倍〜1.5倍の範囲内であり、さらに好ましくは、0.8倍〜1.2倍の範囲内である。
【0037】
(C:反応型リン酸エステル)
本発明に用いられる(C)反応型リン酸エステルは、モノリン酸トリアリールエステルであって、エステル結合している3つのアリール基のうち、2つのアリール基が、2,6−ジメチルフェニル基またはその3、4、もしくは5位が置換された基であり、1つのアリール基が、エポキシ樹脂のエポキシ基と反応可能なフェノール性水酸基を有する。
【0038】
本明細書中では、リン酸エステルが「反応型」であるとは、リン酸エステルが、エポキシ樹脂のエポキシ基と反応可能なフェノール性水酸基を有することをいう。
【0039】
本発明に用いる反応型リン酸エステルは、具体的には、例えば、上記式(1)で表される化合物である。使用可能な具体例としては、例えばビス(2,6−ジメチルフェニル)−3−ヒドロキシフェニルホスフェート、ビス(2,6−ジメチルフェニル)−4−ヒドロキシフェニルホスフェート、ビフェノールモノ(ビス(2,6−ジメチルフェニル))ホスフェート、ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−3−ヒドロキシフェニルホスフェート、ビス(2,4,6−トリメチルフェニル)−4−ヒドロキシフェニルホスフェート、ビフェノールモノ(ビス(2,4,6−トリメチルフェニル))ホスフェートなどが例示される。
【0040】
上述した反応型リン酸エステルは、公知の方法または当業者に容易な方法を用いることにより合成され得る。
【0041】
具体的には、例えば、ビス(2,6−ジメチルフェニル)−4−ヒドロキシフェニルホスフェートは、例えば、次の方法により製造することができる。
【0042】
(1)原料として、2モルの2,6−ジメチルフェノールと1モルのオキシ塩化リンとを反応させ、さらに1モルのハイドロキノンと反応させる方法
(2)原料として、2モルの2,6−ジメチルフェノールと1モルの三塩化リンとを反応させ、加水分解後に、さらに1モルのp−ベンゾキノンと反応させる方法。
【0043】
他の反応型リン酸エステルも、類似の方法により得ることができる。
【0044】
反応型リン酸エステルの使用量は、エポキシ樹脂に充分な難燃性を与え得る限り、任意である。一般的には、例えば、組成物の樹脂分のうちの約1〜50重量%が好ましい。約3〜40重量%がより好ましい。約5〜30重量%がさらに好ましい。
【0045】
なお、本明細書中で樹脂分とは、エポキシ樹脂組成物に用いられる樹脂材料の合計量をいう。例えば、後述する実施例の場合では、エポキシ樹脂、硬化剤およびリン酸エステルの合計重量である。エポキシ樹脂組成物にエポキシ樹脂以外の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂などが添加される場合には、それらの樹脂の量が樹脂分に含まれる。しかし、着色顔料、充填材などの添加剤の量は、樹脂分に含まれない。
【0046】
エポキシ樹脂組成物に良好な難燃性を与えるためには、さらに、組成物の樹脂分のうちのリン含有率が1.7%以上となるように配合することが好ましい。1.8%以上がより好ましく、2.0%以上が特に好ましい。リン含有率の上限は、用いるエポキシ樹脂および硬化剤の種類などに依存するが、好ましくは、5.0%以下であり、より好ましくは、4.0%以下であり、さらに好ましくは3.0%以下である。
【0047】
本発明の組成物には、必要に応じて、エポキシ樹脂のエポキシ基と反応し得る官能基を有さないリン酸エステル(以下、「非反応型リン酸エステル」ともいう)をエポキシ樹脂の諸物性を低下させない限りにおいて含んでもよい。例えば、上記の方法で得られる反応型リン酸エステルは、不純物として、下記式(VII)や下記式(VIII)で示される化合物を含有する場合がある。そのような不純物を除去せずに用いてもよい。
【0048】
【化16】
これらの非反応型リン酸エステルの含有量が多すぎると、ブルーミングやエポキシ樹脂の可塑化などの悪影響を及ぼすことがある。
【0049】
したがって、本発明の組成物においては、非反応型リン酸エステルの含有量が少ないほどよい。
【0050】
従って、本発明の組成物中に存在する非反応型リン酸エステルの含有量は、組成物の樹脂分のうちの20重量%以下であることが好ましく、より好ましくは、15重量%以下であり、さらに好ましくは10重量%以下であり、特に好ましくは5重量%以下であり、最も好ましくは3重量%以下である。
【0051】
さらに、本発明の組成物には、必要に応じて、リン酸エステル以外の難燃剤化合物を用いることができる。しかし、ハロゲン系難燃剤を用いる場合には、上述した廃棄物の環境問題などが生じ易い。リン酸エステル以外の難燃剤化合物の使用量は、組成物の樹脂分のうちの20重量%以下であることが好ましく、より好ましくは、15重量%以下であり、さらに好ましくは10重量%以下であり、特に好ましくは5重量%以下であり、最も好ましくは3重量%以下である。
【0052】
(各成分の混合方法)
本発明の難燃性エポキシ樹脂組成物に硬化剤としてジアミノジフェニルメタンのようなアミン化合物を使用する場合は、反応型リン酸エステルのフェノール性水酸基が、アミン化合物とエポキシ基の触媒として作用し、すぐに反応して樹脂のゲル化を起こしてしまい易い。ゲル化してしまうと、取り扱いが困難となるので、予めエポキシ樹脂と反応型リン酸エステルとを反応させて、変性されたエポキシ樹脂すなわちリン原子含有エポキシ樹脂を得、これにアミン化合物を添加して用いることが望ましい。
【0053】
他方、硬化剤として、フェノールノボラックやクレゾールノボラックのようなフェノール性水酸基含有物を使用する場合には、このようなゲル化の問題は生じないので、未反応のエポキシ樹脂と硬化剤と反応型リン酸エステルとの3者を同時に組成物中に共存させてもよい。
【0054】
エポキシ樹脂と反応型リン酸エステルとの反応は下式にて示される。反応式1の反応と反応式2の反応の両方が起こると考えられる。
【0055】
【化17】
反応式1では、エポキシ樹脂のエポキシ基の末端の炭素に反応型リン酸エステルが結合する。反応式2では、エポキシ樹脂のエポキシ基の末端から2つ目の炭素に反応型リン酸エステルが結合する。
【0056】
反応条件は、ゲル化しない条件であれば任意の条件が使用可能である。エポキシ樹脂と反応型リン酸エステルとを、例えば、室温で長時間(例えば、約5時間〜1週間)反応させてもよい。加熱を行なうことが、反応時間を短縮できる点で好ましい。例えば、約50〜200℃に加熱して反応させることができる。加熱を行なう場合、反応時間は、例えば、約20分間〜約12時間程度が好ましい。
【0057】
エポキシ樹脂と反応型リン酸エステルとの反応の際には、必要に応じて溶剤を使用してもよい。ただし、使用する溶剤としてはエポキシ樹脂と反応型リン酸エステルに対して不活性であり、反応温度に適した沸点を有する溶剤を選定する必要がある。例えば、アルコール系溶剤は一部エポキシ樹脂と反応する場合もあるので注意して選定する必要がある。使用可能な溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、酢酸エチル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、ジクロロベンゼン等が挙げられる。これらは単独で使用してもよく、または2種以上の溶媒を混合して使用してもよい。
【0058】
(他の添加剤)
本発明の難燃性エポキシ樹脂組成物には、樹脂物性を損なわない範囲において、必要に応じて種々の添加剤(例えば、充填剤、顔料、安定剤、強化繊維など)を添加配合することが出来る。これらの添加剤としては、エポキシ樹脂組成物に従来使用されていた公知の任意の添加剤が使用可能である。
【0059】
これらの添加剤を用いる場合、その配合量は、使用される添加剤の総量として、エポキシ樹脂組成物の樹脂分100重量部に対して、0.1〜300重量部であることが好ましく、より好ましくは、1〜200重量部である。添加量が少なすぎる場合には、充分な添加効果が得られにくく、添加量が多すぎる場合には、相対的にエポキシ樹脂量が減少するために充分な物性が得られにくい。
【0060】
(硬化促進剤)
また、本発明の組成物には、必要に応じて硬化促進剤を使用してもよい。特に限定されるものではないが、具体的には例えば、ベンジルジメチルアミンなどの第3級アミン類、テトラメチルアンモニウムクロリドなどの第4級アンモニウム塩類、2−エチル−4−メチルイミダゾールなどのイミダゾール類、トリフェニルホスフィンなどのホスフィン類等が使用可能である。これらの硬化促進剤は単独で使用してもよく、または2種以上の硬化促進剤を併用して使用してもよい。
【0061】
上述した硬化促進剤の中で、テトラメチルアンモニウムクロリドなどの第4級アンモニウム塩類などは、分子内にハロゲンを含有する。しかし、硬化促進剤として使用する場合、通常、硬化促進剤の使用量は非常に少ないので、このような硬化促進剤の使用は、エポキシ樹脂製品にハロゲン系廃棄物の大きな問題を与えることはない。従って、上記硬化促進剤の使用は、通常、本発明に実質的には不利益を与えない。ただし、ハロゲンフリーの難燃処方としては、その様なハロゲンを含む成分の使用量を低く抑制することが好ましい。
【0062】
(成形および硬化方法)
本発明の組成物は、必要に応じて、各種成形技術、塗布技術等により、所望の形状に成形,塗布および積層等される。その後、本発明の組成物は、用いるエポキシ樹脂および硬化剤の種類に応じて、さらにはその組成物が用いられる用途に応じて、公知の方法により硬化させる。例えば、低温反応性の硬化剤が用いられる場合には、室温で例えば1分間〜1日間程度反応させてもよく、高温反応性の硬化剤が用いられる場合には、加熱下、例えば約50〜200℃で、例えば1分間〜8時間程度反応させてもよい。
【0063】
このように成形および硬化反応を行なうことにより、所望の形状および物性を有する製品が得られ、各種用途に使用される。
【0064】
(本発明の組成物の用途)
本発明の組成物は、従来公知のエポキシ樹脂の各種用途に使用可能である。例えば、電機絶縁材料、積層板、塗料、接着剤、成形材料(例えば、ガラス繊維強化プラスチック成形材料)、土木・建築材料などの各種用途に使用可能である。特に難燃性を要求される用途、例えば、半導体基板材料(ガラスエポキシ銅張積層板など)、電子部品用封止材料(例えば、IC封止剤)、および高圧トランスなどに有用である。
【0065】
(2.本発明の難燃剤)
本発明の難燃剤は、上述した式(1)の反応型リン酸エステルを含む。本発明の難燃剤は、エポキシ樹脂と混合され、またはエポキシ樹脂と反応させて使用される。反応型リン酸エステル単独で難燃剤の最終製品としてもよく、必要に応じて、各種添加剤を加えて製品としてもよい。例えば、有機溶媒などを添加して粘度を調節してもよい。また、酸化防止剤等を添加してもよい。
【0066】
本発明の難燃剤には、必要に応じて、非反応型リン酸エステルまたはリン酸エステル以外の難燃剤をブレンドすることができる。しかし、非反応型リン酸エステルの含有量が多すぎると、ブルーミングやエポキシ樹脂の可塑化などの悪影響を及ぼすことがある。ハロゲン系難燃剤を用いる場合には、上述した廃棄物の環境問題などが生じ易い。
【0067】
従って、本発明の難燃剤中に存在する非反応型リン酸エステルの含有量は、難燃剤のうちの70重量%以下であることが好ましく、より好ましくは、55重量%以下であり、さらに好ましくは30重量%以下であり、特に好ましくは10重量%以下であり、最も好ましくは5重量%以下である。
【0068】
リン酸エステル以外の難燃剤化合物の使用量は、難燃剤のうちの40重量%以下であることが好ましく、より好ましくは、30重量%以下であり、さらに好ましくは15重量%以下であり、特に好ましくは10重量%以下であり、最も好ましくは5重量%以下である。
【0069】
本発明の難燃剤の使用方法などは、本発明の組成物について上述した通りである。
【0070】
(3.本発明のエポキシ樹脂難燃化方法)
本発明のエポキシ樹脂難燃化方法では、上記式(1)の化合物をエポキシ樹脂のエポキシ基と反応させることにより、エポキシ基がリン酸エステル変性されたエポキシ樹脂が得られる。この変性されたエポキシ樹脂は、優れた難燃性を示す。式(1)の化合物とエポキシ樹脂とを反応させる方法などについては、上記組成物の発明について説明した通りである。
【0071】
【実施例】
本発明を以下の合成例、実施例および比較例によりさらに具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の範囲が限定されるものではない。
【0072】
実施例および比較例においては次の配合材料を各成分として使用した。
【0073】
(A)成分(エポキシ樹脂)
ビスフェノールA型エポキシ樹脂
(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名:エピコート828)
フェノールノボラック型エポキシ樹脂
(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名:エピコート154)。
【0074】
(B)成分(硬化剤)
フェノールノボラック樹脂
(荒川化学工業株式会社製、商品名:タマノル759)
ジアミノジフェニルメタン(DDM)
(和光純薬工業株式会社製、試薬)。
【0075】
(C)成分(リン酸エステル)
C1:ビス(2,6−ジメチルフェニル)−4−ヒドロキシフェニルホスフェート(合成例1)
C2:ハイドロキノンビス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェート(下式)(大八化学工業株式会社製、商品名:PX−201)。
【0076】
【化18】
C3:ジフェニル−4−ヒドロキシフェニルホスフェート(合成例2)。
【0077】
その他の成分
硬化促進剤
2−エチル−4−メチルイミダゾール
(油化シェルエポキシ株式会社製、商品名:エピキュアEMI−24)。
【0078】
合成例1
(ビス(2,6−ジメチルフェニル)−4−ヒドロキシフェニルホスフェートの合成)
攪拌機、還流管、追加漏斗および温度計を備えた2リットルの四つ口フラスコに、2,6−キシレノール854g(7モル)、無水塩化マグネシウム3.3gおよびキシレン35gを充填し、この混合物を窒素雰囲気下で加熱溶解させ、120℃を保持した。追加漏斗に三塩化リン481g(3.5モル)を充填し、同温度(120℃)で4時間30分かけて追加し、同温度(120℃)で30分保持した後に、160℃まで2時間かけて加熱昇温し、同温度(160℃)で1時間保持した。その後さらに同温度(160℃)の減圧下(約30kPa)で2時間還流を行った。還流後、反応混合物を85℃まで冷却し、窒素を用いて常圧にし、同温度(85℃)でキシレン200gを反応混合物に加え、さらに追加漏斗に水62.1g(3.45モル)を充填し、1時間かけて追加し、同温度(85℃)で1時間保持した。その後、130℃まで1時間かけて加熱昇温し、同温度(130℃)の減圧下(約40kPa)で1時間還流を行った。この反応混合物を2.0kPaの減圧下で165℃に達するまで1時間30分かけて低沸点成分を除去し、ビス(2,6−ジメチルフェニル)ホスファイト775.4gを得た。収率は76%であった。
【0079】
次いで、攪拌機、2本の追加漏斗および温度計を備えた1リットルの四つ口フラスコに、1,4−ベンゾキノン162g(1.5モル)、トリエチルアミン7.5g(0.075モル)およびトルエン150gを充填し、2本の追加漏斗に上記反応で得られたビス(2,6−ジメチルフェニル)ホスファイト775.4gのうち435g(1.5モル)およびトリエチルアミン55g(0.54モル)をそれぞれ充填し、20℃で2時間30分かけて追加し、同温度(20℃)で30分保持した後に、80℃まで1時間かけて加熱昇温し、同温度(80℃)で30分保持した。同温度(80℃)にて10%塩酸水溶液および水で順次洗浄した。この反応混合物を2.0kPaの減圧下で130℃に達するまで1時間かけて溶媒および低沸点成分を除去した。この反応混合物にトルエンを加え、120℃で均一溶解したのち、室温まで冷却して結晶を析出させ、濾別した結晶をトルエン/イソプロピルアルコールの1/1混合溶液で洗浄し、さらにトルエンで洗浄した。洗浄後の結晶を減圧乾燥してビス(2,6−ジメチルフェニル)−4−ヒドロキシフェニルホスフェートの白色粉体300gを得た。収率は50%であった。
【0080】
全体的な収率は76%×50%=38%であった。
【0081】
得られた生成物の融点とリン含有率を測定した。
【0082】
融点:140℃
リン含有率:7.7%。
【0083】
合成例2
(ジフェニル−4−ヒドロキシフェニルホスフェートの合成)
攪拌機、追加漏斗および温度計を備えた1リットルの四つ口フラスコに、1,4−ベンゾキノン108g(1モル)、トリエチルアミン5g(0.05モル)およびトルエン200gを充填し、追加漏斗にジフェニルホスファイト257g(1.1モル)を充填し、20℃で1時間かけて追加し、80℃まで30分かけて加熱昇温し、同温度(80℃)で30分保持した。同温度(80℃)にて10%塩酸水溶液および水で順次洗浄した。この反応混合物を2.0kPaの減圧下で120℃に達するまで1時間かけて溶媒および低沸点成分を除去した。この反応混合物にトルエンを加え、110℃で均一溶解した。その後、室温まで冷却して結晶を析出させ、濾別した結晶をトルエンで洗浄し、さらにトルエン/n−ヘキサンの1/1混合溶液で洗浄した。洗浄後の結晶を減圧乾燥してジフェニル−4−ヒドロキシフェニルホスフェートの白色粉体269gを得た。収率は79%であった。
【0084】
得られた生成物の融点とリン含有率を測定した。
【0085】
融点:87℃
リン含有率:9.1%。
【0086】
実施例1〜4および比較例1〜4
表1および表2の配合中に記載されたエポキシ樹脂と反応型リン酸エステルとを170℃で4時間反応させた。その後、表1および表2に示されたその他の成分を100〜120℃で添加して、均一な組成物を得た。得られた組成物を型に流し込み、150℃で2時間、さらに180℃で2時間硬化させた。得られた硬化物から難燃性(垂直燃焼性)試験用試験片および機械的特性試験用試験片をそれぞれ作製し、下記の試験方法に基づいて物性を測定した。得られた結果を樹脂組成物の配合成分およびその割合と共に表1および表2に示す。
【0087】
(1)垂直燃焼性(UL)試験
試験方法:UL−94に準拠(5検体の平均消炎時間)
試験片:厚さ3.2mm
評価:規定によるランク V−0、V−1、V−2および燃焼。
【0088】
(2)荷重たわみ温度(HDT)
試験方法:JIS K−7191に準拠
試験片:厚さ6.4mm
条件:曲げ応力18.5kgf/cm2で測定
単位:℃。
【0089】
(3)ブルーミング試験
硬化終了後の樹脂の表面を目視にて観察した。○は、ブルーミング(表面への難燃剤の染み出し)が認められなかったことを示す。×は、ブルーミングが認められたことを示す。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
表1の結果から、実施例1〜4の樹脂組成物は、優れた難燃性を示し、荷重たわみ温度も大きく、実用に耐え得る強度を有していることがわかる。特に、硬化剤としてDDMを用いた場合はより大きな値の荷重たわみ温度が得られていることがわかる。このことから、本発明の反応型リン酸エステルは、優れた難燃性をエポキシ樹脂に付与し、樹脂本来の機械的強度を低下させない極めて有用な非ハロゲン系反応型リン酸エステル難燃剤であることがわかる。
【0092】
一方、表2の結果より、比較例1〜4の樹脂組成物はいずれかの点において、実施例1〜4の樹脂組成物よりも劣っている。
【0093】
具体的には、比較例1の樹脂組成物は、難燃性ランクがV−1となっており、難燃性能がやや低下している。
【0094】
比較例2の樹脂組成物は、難燃性ランクがV−1となっており、難燃性能がやや低下している。また、リン酸エステルが未反応型であるため、ブルーミングを起こしている。
【0095】
比較例3および4の樹脂組成物は、フェニル基に置換基を持たない反応型リン酸エステルを用いている。フェニル基に置換基がないために、難燃性ランクV−0を達成することができなかったと考えられる。
【0096】
【発明の効果】
本発明によれば、反応型リン酸エステルをエポキシ樹脂と反応させることにより、優れた難燃性をエポキシ樹脂に付与することができる。本発明によれば、樹脂本来の機械的強度を低下させない、安価でかつ極めて有用な非ハロゲン系反応型リン酸エステル難燃剤および難燃性エポキシ組成物が提供される。
【0097】
さらに本発明によれば、特開2001−19746号に記載されるような従来のエポキシ樹脂組成物における難燃性や耐熱性の不足、およびブルーミングの発生という問題点が解決される。
Claims (8)
- (A)エポキシ樹脂、(B)硬化剤、および(C)一般式(I):
- 上記一般式(I)中のR1およびR2が水素原子である、請求項1に記載の組成物。
- 前記組成物の樹脂分のうちのリン含有率が1.7%以上である、請求項1または2に記載の組成物。
- 式(I)の化合物を含むエポキシ樹脂用難燃剤。
- 式(I)の化合物と、エポキシ樹脂とを反応させて、難燃性エポキシ樹脂を得る工程を包含する、エポキシ樹脂の製造方法。
- (A’)請求項5に記載の方法で得られる難燃性エポキシ樹脂と、(B)硬化剤とを含む、難燃性エポキシ樹脂組成物。
- 前記(B)硬化剤が、アミン系硬化剤である、請求項6に記載の組成物。
- 前記組成物の樹脂分のうちのリン含有率が1.7%以上である、請求項7に記載の組成物。
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