JP3720435B2 - 4−ハロゲノグルタミン酸のラセミ分割方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、医薬品原料等として有用な4−ハロゲノグルタミン酸のラセミ分割方法及びそれを利用した光学活性体の製造方法に関する。
4−ハロゲノグルタミン酸、特に4−フルオロ−グルタミン酸は、例えば特公平5−33230号等で開示されているように抗ガン剤等の原料として有用であることから、その光学活性体が注目されており、その効率のよい工業的製造方法の開発が望まれている。
【0002】
【従来技術】
アミノ酸のラセミ分割方法の一手段として、アミノアシラ−ゼによる酵素反応を利用する方法が古くから知られている。また、ハロゲン化アミノ酸についても例えば、3−フルオログルタミン酸のラセミ分割方法が開示されている(J.Org.Chem.1985,50,3163-3167)。しかし、4−ハロゲノグルタミン酸ついては、これまで、アミノアシラ−ゼによるラセミ分割方法は全く報告されていない。よって当然ながら、4−ハロゲノグルタミン酸からそのL体を選択的に得る方法は知られていない。その替わりに例えばL−4−フルオログルタミン酸の製法として、以下の方法が報告されている。
▲1▼J.Chem.Soc.Perkin Trans.I,475(1984)
D,L−4−F−グルタミン酸とロイシンとのジペプタイドを、ロイシンアミノペプチダ−ゼで加水分解する方法。
▲2▼Tetrahedron Letters Vol.31,No.51,7403(1990)
4−ヒドロキシ−L−プロリンを原料に用いて、化学修飾を行なう方法。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記▲1▼の方法は、酵素反応の原料となるジペプタイドを合成するために、ペプチド結合部位以外のアミノ基、カルボキシ基を保護・脱保護する必要がある等、その調製が厄介である。更に、酵素反応後に遊離してくるL−4−F−グルタミン酸及びL−ロイシン、並びに未反応のジペプチドの分離が困難である。また、上記▲2▼の方法は、多工程を要し、操作の簡便性・安全性、収率等の面で問題がある。よって、いずれの方法も工業的製法としては満足のいく方法ではなかった。
【0004】
【課題を解決するための手段】
上記課題に鑑み本発明者は鋭意検討した結果、4−ハロゲノグルタミン酸をアミノアシラ−ゼを用いてラセミ分割する際に、5位カルボキシル基が遊離カルボン酸のままでは酵素反応が全く進行しないが、5位カルボキシル基をエステル化しておけば、酵素反応がスム−ズに進行しラセミ分割が達成されることを見出し、本発明を完成した。その結果、4−ハロゲノグルタミン酸のL体を効率よく製造することにも成功した。
【0005】
即ち、本発明は、代表的には以下の方法を提供する。
(1) 4−ハロゲノグルタミン酸の5位カルボキシエステル体を基質に用いることを特徴とする、アミノアシラ−ゼによる酵素反応を利用する4−ハロゲノグルタミン酸のラセミ分割方法。
(2) N−アシル−4−ハロゲノグルタミン酸の5位カルボキシエステル体に、アミノアシラ−ゼを作用させることにより、D体及びL体のいずれか一方を選択的に脱アシル化する、上記(1)の方法。
(3) 4−ハロゲノグルタミン酸の5位カルボキシエステル体を、アミノアシラ−ゼ存在下でアシル化剤と反応させることにより、D体及びL体のいずれか一方を選択的にN−アシル化する、上記(1)の方法。
(4) 5位カルボキシエステル体が低級アルキルエステルである、上記(1)〜(3)のいずれかの方法。
【0006】
(5) pH5〜7にて酵素反応を行なう、上記(1)〜(4)のいずれかの方法。
(6) 4−ハロゲノグルタミン酸が4−フルオログルタミン酸である、上記(1)〜(5)のいずれかの方法。
(7) 上記(1)〜(5)のいずれかの方法を用いる、L−4−ハロゲノグルタミン酸の製造方法。
(8) N−アシル−4−ハロゲノグルタミン酸の5位カルボキシエステル体に、アミノアシラ−ゼを作用させることにより、L体を選択的に脱アシル化する、上記(7)の製造方法。
(9) 4−ハロゲノグルタミン酸の5位カルボキシエステル体を、アミノアシラ−ゼ存在下でアシル化剤と反応させることにより、L体を選択的にN−アシル化する、上記(7)の製造方法。
(10) 4−ハロゲノグルタミン酸が4−フルオログルタミン酸である、上記(7)〜(9)のいずれかの製造方法。
【0007】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明において、4−ハロゲノグルタミン酸とは、4位の水素原子1個がハロゲン原子(F、Cl、BrまたはI)で置換されたグルタミン酸のラセミ体(D・L体)を意味する。
4−ハロゲノグルタミン酸の5位カルボキシエステル体とは、4−ハロゲノグルタミン酸の5位のカルボキシル基におけるエステル体を意味する(以下、単に、5位カルボキシエステル体ということもある)。この場合も、そのラセミ体(D・L体)を意味する。
【0008】
本発明のラセミ分割方法は、具体的には以下の2つの方法を包含するが、好ましくは方法1である。
(方法1:脱アシル化)
N−アシル−4−ハロゲノグルタミン酸の5位カルボキシエステル体(以下、N−アシル−5−カルボキシエステル体という)を基質原料に用いて、アミノアシラ−ゼを作用させることにより、D体、L体のいずれか一方を選択的に脱アシル化すれば、両者が分離可能な状態になる。即ち、酵素反応終了後の反応液には、脱アシル化により生成した5位カルボキシエステル体の一方の光学活性体、脱アシル化されなかったN−アシル−5−カルボキシエステル体の他方の光学活性体、及び場合により未反応のラセミ体が含まれる。
【0009】
即ち、例えば、4−ハロゲノグルタミン酸のL体(以下、L−4−ハロゲノグルタミン酸という)を選択的に得たい場合には、好ましくは、基質原料のL体に特異的に作用し、L体を選択的に脱アシル化するアミノアシラ−ゼを用いればよい。そうすることにより、5位カルボキシエステル体のL体(以下、L−5−カルボキシエステル体という)及びN−アシル−5−カルボキシエステル体のD体を含む反応液が得られる。
本方法における酵素反応はアミドの加水分解であるので、溶媒としては水が適当である。
アシル基としては、使用するアミノアシラ−ゼによりD体またはL体のいずれか一方が選択的に脱アシル化されるものであれば公知のものを幅広く使用でき、ホルミル、低級アルカノイル(アセチル、クロロアセチル、プロピオニル、ブチリル等)、アロイル(ベンゾイル、トルオイル等)等が例示される。
【0010】
(方法2:アシル化)
5位カルボキシエステル体を基質原料に用いて、アミノアシラ−ゼ存在下でアシル化剤と反応させることにより、D体、L体のいずれか一方のアミノ基を選択的にアシル化すれば、両者が分離可能な状態になる。即ち、酵素反応終了後の反応液には、N−アシル−5−カルボキシエステル体のいずれか一方の光学活性体、アシル化されなかった5位カルボキシエステル体の他方の光学活性体、及び場合により未反応のラセミ体が含まれる。
【0011】
即ち、例えば、L−4−ハロゲノグルタミン酸を選択的に得たい場合には、好ましくは、基質原料のL体に特異的に作用し、L体を選択的にアシル化するアミノアシラ−ゼを用いればよい。そうすることにより、N−アシル−5−カルボキシエステル体のL体、及び5位カルボキシエステル体のD体を含む反応液が得られる。
本方法における酵素反応は脱水反応に相当するので、溶媒系中に水は本来不要であるが、例えば、pH調節のための少量の水は含まれていてもよい。
アシル化剤としては、アミノアシラ−ゼをできるだけ失活させずに、基質原料のアミノ基を選択的にアシル化できるものであれば特に制限されないが、好ましくは、酢酸エチル、ハロゲン化酢酸エチル、ハロゲン化プロピオン酸エチル等のエステル型構造を有する試薬である。
【0012】
上記いずれかの方法により酵素反応を行なった反応液を、公知の物理化学的分離手段(例えば、カラムクロマトグラフィ−、等電点晶析、分液操作等)で後処理することにより単離される光学活性体を、所望により、公知のエステル加水分解反応及び/又は脱アシル化反応を行なうことにより、目的の4−ハロゲノグルタミン酸の光学活性体が得られる。尚、該酵素反応中または反応溶液の後処理中に、エステル体が加水分解されることもある。
【0013】
尚、上記いずれの方法においても、5位カルボキシエステル体のエステルとしては、好ましくは、低級アルキルエステル、例えば、メチルエステル、エチルエステル、イソプロピルエステル、t−ブチルエステル、n−ペンチルエステル、n−ヘキシルエステル等のC1〜C6アルキルエステルが例示されるが、より好ましくはC1〜C3アルキルエステル、特に好ましくはメチルエステルである。
【0014】
アミノアシラ−ゼとしては、原料基質のラセミ体に対する反応の選択性があるものであれば特に制限されない。
例えば、4−ハロゲノグルタミン酸のL体を選択的に得たい場合には、好ましくは、5位カルボキシエステル体またはそのN−アシル体のL体に対して特異的に作用するアミノアシラ−ゼを使用すればよく、通常、Acylase Iに分類されて いるものが好適である。そのようなものとしては、例えば、豚腎由来のアミノアシラ−ゼ、Aspergillus oryzae由来のアミノアシラ−ゼ、または特開昭63−22188号や特開平3−224483号等に記載のものが使用できる。また、アミノアシラ−ゼは固定化されたものを使用してもよい。
【0015】
(酵素反応条件)
上記いずれの方法においても、アミノアシラ−ゼによる酵素反応の条件は、基質原料及びアミノアシラ−ゼの種類により若干異なり一概には規定できないが、酵素の至適pH、至適温度、酵素基質及び分離生成する光学活性体の安定性等を考慮することにより、最適条件を設定することが可能である。
例えば、L体を収率よく得るためには、好ましくは、pH約5〜7、温度約10〜40℃である。pH調節用のアルカリ試薬としては、NH4OH、LiOH、Ca(OH)2、KOH、NaOH等が例示される。また、反応時間は通常数時間〜数十時間である。 但し、L−4−フルオログルタミン酸エステルは、アルカリ性条件下では極めて不安定なため、酵素反応終了後は直ちに反応溶液のpHを下げ、好ましくは、pH3〜4に調節するのが望ましい。
また、通常、基質原料の濃度は約0.5〜10%、好ましくは約1〜5%である。
【0016】
【実施例】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(略号)
D,L-FGlu:4-フルオログルタミン酸(ラセミ),
D,L-FGlu-Me:4-フルオログルタミン酸の5位メチルエステル体(ラセミ),
L-FGlu:4-フルオログルタミン酸(L),
L-FGlu-Me:4-フルオログルタミン酸の5位メチルエステル体(L),
Ac-L-FGlu:N-アセチル-4-フルオログルタミン酸(L),
Ac-D,L-FGlu-Me:N-アセチル-4-フルオログルタミン酸の5位メチルエステル 体(ラセミ),
Ac-L-FGlu-Me:N-アセチル-4-フルオログルタミン酸の5位メチルエステル体 (L),
ClAc-D,L-FGlu-Me:N-クロロアセチル-4-フルオログルタミン酸の5位メチル エステル体(ラセミ),
【0017】
実施例1(方法1)
ClAc-D,L-FGlu-Me(erythro:threo=16:1)31gを蒸留水に懸濁し、2N NH4OHにてpHを6.0に調整しつつ、蒸留水にて全量を2Lとした。この溶液に、豚腎臓由来のアミノアシラ−ゼI(Sigma製)を0.3g添加し、28℃にて緩 やかな撹拌を行ない乍ら4時間反応した。反応中は、pHを2N NH4OHにて6.0に維持した。
酵素反応終了後、酢酸を50ml添加してpHを約3.5に下げ、陽イオン交換樹脂(DOWEX 50W-X8,室町化学工業)800mLのカラムを通過(100mL/分)させ、酵素反応により生成したL-FGlu-Me及びL-FGluを吸着させた。蒸留 水4Lにてカラムを洗浄後、1NNH4OHにて溶出した。溶出液をHPLCで測定 したところ、L-FGluの含量は9.6gであった(L-FGlu-Meの形で吸着されたも のも、L-FGluとして溶出されていると考えられる)。
更に、陰イオン交換樹脂(AG1-X4, Bio-Rad製)400mLにL-FGluを100mL/分の流速で吸着させ、蒸留水4Lで洗浄後、1N ぎ酸にて溶出させた。T LCにより、L-FGlu溶出各分を確認した後、濃縮乾固し、8.3gのL-FGluを得た。総収率76%、光学純度99.2%であり、erythroとthreoの比率は原料と同じであった。
尚、用いたアミノアシラ−ゼI(Sigma製)の至適pHは約7、至適温度は約 40〜45℃であった。
【0018】
実施例2(方法1)
ClAc-D,L-FGlu-Me(erythro:threo=1:4)36.6gを蒸留水に懸濁し、実施 例1と同様の方法で4.5時間反応させた後、同様に分離精製を行ない、6.0gのL-FGluを得た(収率64%)。erythroとthreoの比率は原料と同じであった。
【0019】
実施例3(方法2)
D,L-FGlu-Me(erythro:threo=1:1)40.3mgを、40mMリン酸緩衝液(pH7.0,0.1mM CoSO4及び3.3M CH3COONa含有)0.3mLと酢酸エチル9.7mLの混液中に懸濁し、実施例1で用いたアシラ−ゼIを4.9mg添加し、30℃で19時間、緩やかに撹拌した。濃塩酸0.15mLを添加して反応を停止した後、減圧濃縮により酢酸エチルを除去し、水10mL添加後、不溶性物質を遠心分離により除去した。この反応溶液を、実施例1で用いた陽イオン交換樹脂2mLカラムで処理することにより、Ac-L-FGlu-MeとAc-L-FGluを集めた。これらを塩酸で加水分解することにより、最終的にL-FGluを 6.2mg得た。
【0020】
実施例4(方法1)
Ac-D,L-FGlu-Me(erythro:threo=1:1)3gを、蒸留水150mLに添加し、 2N NH4OHにてpHを6.5に調整した。この溶液に豚腎由来のアシラ−ゼI(Sigma社)を14.2mg添加し、28℃にて緩やかな撹拌を行ないながら 4時間反応した。反応中、pHは2N NH4OHで6.5になるよう調節した。酵素反応終了後、酢酸を5mL添加してpHを下げた後、反応液を陽イオン交換樹脂(DOWEX 50W-X2,室町化学工業)80mLのカラムで処理した。最終的に得られたL-FGluは、0.41g(収率65%)であった。
【0021】
実施例5(方法1)
キトパ−ルBCW3001(富士紡績)200gに15%グルタルアルデヒド500 mLを添加し、室温で2時間反応させた。反応終了後、蒸留水500mLによる洗浄を4回繰り返すことにより、活性化したキトパ−ルBCW3001を調製した。
一方、アミノアシラ−ゼ「アマノ」(天野製薬)40gを10mMリン酸緩衝液(pH7)600mLに懸濁し遠沈上澄を調製した後、活性化したキトパ−ルBCW3001と混合し、室温で2時間緩やかな撹拌を行なった。カップリング反応終 了後、蒸留水及び50mMリン酸アンモニウム緩衝液(pH7)で洗浄し、更に50mMのN−アセチルグルタミン酸で洗浄することにより、アシラ−ゼの固定化酵素を調製した。
次に、この固定化酵素11.1gを使用して、実施例4と同様に酵素反応を行なうことにより、最終的にL-FGluを0.42g(収率66%)得た。
【0022】
比較例1(遊離カルボン酸による検討)
Ac-D,L-FGluを原料に用いて実施例1と同じ条件で酵素反応を行なったが、反 応の進行は認められなかった。更に反応液をカラムクロマトで処理したが、光学活性体は得られなかった。
【0023】
【発明の効果】
本発明方法により、4−ハロゲノグルタミン酸をアミノアシラ−ゼを用いて効率よくラセミ分割することができる。その結果、例えばそのL体を簡便に収率よく高い光学純度で得ることができる。
Claims (9)
- 4−ハロゲノグルタミン酸の5位メチルエステル体を基質に用いることを特徴とする、アミノアシラ−ゼによる酵素反応を利用する4−ハロゲノグルタミン酸のラセミ分割方法。
- N−アシル−4−ハロゲノグルタミン酸の5位メチルエステル体に、アミノアシラ−ゼを作用させることにより、D体及びL体のいずれか一方を選択的に脱アシル化することを特徴とする、請求項1記載の方法。
- 4−ハロゲノグルタミン酸の5位メチルエステル体を、アミノアシラ−ゼ存在下でアシル化剤と反応させることにより、D体及びL体のいずれか一方を選択的にN−アシル化することを特徴とする、請求項1記載の方法。
- pH5〜7にて酵素反応を行なう、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
- 4−ハロゲノグルタミン酸が4−フルオログルタミン酸である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の方法を用いる、L−4−ハロゲノグルタミン酸の製造方法。
- N−アシル−4−ハロゲノグルタミン酸の5位メチルエステル体に、アミノアシラ−ゼを作用させることにより、L体を選択的に脱アシル化することを特徴とする、請求項6記載の製造方法。
- 4−ハロゲノグルタミン酸の5位メチルエステル体を、アミノアシラ−ゼ存在下でアシル化剤と反応させることにより、L体を選択的にN−アシル化することを特徴とする、請求項6記載の製造方法。
- 4−ハロゲノグルタミン酸が4−フルオログルタミン酸である、請求項6〜8のいずれかに記載の製造方法。
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