JP3719664B2 - 大物用高クロム鋳鉄鋳物及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、破砕機や粉砕機等のタイヤ型ローラ、テーブルライナ等として用いられる大物用高クロム鋳鉄鋳物及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、この種の高クロム鋳鉄鋳物としては、鋳放ししたもの、鋳造物を衝風冷却焼入れしたもの、あるいは鋳造物を自然冷却焼入れのまま又はその後焼戻し(350〜600℃)したものが知られている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来の高クロム鋳鉄鋳物のうち、鋳放ししたものは、熱処理コストが必要ないものの、耐用寿命に関与する硬さが低く、かつ、使用中の破損に関与する残留応力が高い不具合がある。
又、鋳造物を衝風冷却焼入れしたものは、高硬度であるものの、残留応力が高い不具合がある。
更に、鋳造物を自然冷却焼入れや焼戻ししたものは、残留応力を低減できるものの、硬さが低下する不具合がある。
これらの不具合は、鋳造物が重さ500kg〜10ton 、肉厚100mm程度以上と大物である程顕著となる。
【0004】
そこで、本発明は、耐用寿命を長くし、かつ使用中の破損を防止し得る大物用高クロム鋳鉄鋳物及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0005】
前記課題を解決するため、本発明の大物用高クロム鋳鉄鋳物は、C2.4〜3.5wt%、Si0.5〜1.5wt%、Mn0.5〜2.5wt%、Cr14wt %以上18wt%未満、Mo2〜4wt%、Ni0.5〜2.5wt%、及び残部がFeと不可避不純物からなり、硬さ62〜67HR C、残留応力−200〜200MPaであることを特徴とする。
なお、本発明の大物用高クロム鋳鉄鋳物の製造方法において、Moは、3.0 wt %を超え4 wt %以下とするのがよい。
【0006】
一方、本発明の大物用高クロム鋳鉄鋳物の製造方法は、C2.4〜3.5wt%、Si0.5〜1.5wt%、Mn0.5〜2.5wt%、Cr14wt %以上18wt%未満、Mo2〜4wt%、Ni0.5〜2.5wt%、及び残部がFeと不可避不純物からなる鋳造物を900〜1100℃の温度に加熱後自然冷却し、しかる後に、420〜550℃の温度で焼戻しすることを特徴とする。
このとき、前記のMoは、3.0 wt %を超え4 wt %以下とするのがよく、前記の自然冷却は、3〜20℃/ min の冷却速度とするのがよい。
【0007】
【作用】
本発明の大物用高クロム鋳鉄鋳物においては、62〜67HR Cの高い硬さと−200〜200MPaの低い残留応力を有するものとなる。
【0008】
Cは、鋳鉄の硬さ(耐摩耗性)を確保するものであり、2.4wt%未満であると、所望の硬さが得られない。一方、3.5wt%を超えると、所望の衝撃値(靱性)が得られず、かつ、焼入性が得られない。
Cは、2.6〜3.4wt%が好ましく、より好ましくは2.8〜3.2wt%である。
【0009】
Siは、Cr、Moと共に低温焼戻し脆性を高温側へ移行させる性質を有するものであり、0.5wt%未満であると、強度が低下する。一方、1.5wt%を超えると、衝撃値、硬さが低下する。
Siは0.6〜1.3wt%が好ましく、より好ましくは0.7〜1.2wt%である。
【0010】
Mnは、脱酸脱硫に寄与するものであり、0.5wt%未満であると、脱酸脱硫効果が得られない。一方、2.5wt%を超えると、衝撃値が低下し、又、残留γ量が多くなり、硬さも低下する。
Mnは、0.6〜2.0wt%が好ましくは、より好ましくは0.7〜1.5wt%である。
【0011】
Crは、低温焼戻し脆性を高温側へ移行させる性質を有するものであり、14wt%未満であると、焼入れ性が低下する。一方、21wt%を超えると、耐摩性が低下し、靱性も低下する。
Crは、14 wt %以上18 wt %未満がより好ましい。
【0012】
Moは、焼入れ性を高め、強度を高める性質を有するものであり、2wt%未満であると、所望の焼入れ性が得られない。一方、4wt%を超えると、上記効果が一定となり、経済的メリットがない。
Moは、3.0 wt %を超え3.5wt%以下が好ましい。
【0013】
Niは、CrやMoと協働して焼入れ性の向上に寄与するものであり、0.5wt%未満であると、上記効果が得られない。一方、2.5wt%を超えると、上記効果が得られるものの、残留γ量が増加して硬さが低下し、かつ、経済的メリットもない。
Niは、0.7〜2.0wt%が好ましく、より好ましくは0.8〜1.6wt%である。
【0014】
一方、大物用高クロム鋳鉄鋳物の製造方法においては、900〜1100℃の温度での加熱後の自然冷却によって残留応力が低減され、かつ、420〜550℃の温度での焼戻しにより硬さが上昇される。
【0015】
鋳造物(1300〜1350℃の温度で鋳込み、自然冷却した後に型ばらししたもの)の加熱温度が、900℃未満であると、マトリックス中のC濃度が低下し、かつ、硬さも低下する。一方、1100℃を超えると、マトリックス中のC、Cr等の合金元素濃度が高くなりすぎ、残留γ量が増加して硬さが低下する。鋳造物の加熱温度は、920〜1070℃が好ましく、より好ましくは950〜1050℃である。
又、上記加熱温度の保持時間は、鋳造物の重量と肉厚にもよるが、6〜20時間(500kg:6時間、10ton :20時間)が好ましい。
一方、加熱後の自然冷却の冷却速度は、鋳造物の重量と肉厚にもよるが、3〜20℃/min (500kg:10〜15℃/min 、10ton :3〜5℃/min )が好ましい。
【0016】
鋳造物の焼戻し温度が420〜550℃から外れると、所望の硬さが得られない。
鋳造物の焼戻し温度は、450〜520℃が好ましく、より好ましくは470〜500℃である。
焼戻し温度の保持時間は、焼戻し温度にもよるが、5〜100時間が好ましい。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について具体的な実施例を参照して説明する。
実施例
先ず、原材料として銑鉄とそれぞれの合金鉄を用い、高周波誘導炉にて溶解し、図1に示すように、一辺150mmの立方体状の試験片採取部1aと、その一面に立設した直径150mm、高さ150mmの円柱状の押湯部1bとからなるブロック状の各種の鋳造物1を鋳込んだ。
次に、上記各鋳造物1の型ばらし後、押湯部1bを切除して一辺150mmの立方体状の各種のテストピースを得た。これらのテストピースの化学成分(wt%で表し、残部がFeと不可避不純物である。)は、表1に示すようになった。
【0018】
【表1】
【0019】
次いで、各テストピースを、表1に示すように、980℃、1030℃のオーステナイト化温度で6時間保持した後、表1に示すように、製品重量が4ton の場合の自然冷却速度に相当する5.5℃/min 、6.5℃/min の半冷却速度になるように制御して冷却した。
冷却後の各テストピースの表面硬度を測定するため、鋳鉄用砥粒のグラインダーを用い、#24の粗研削後、#80で仕上げ研削を行い、表面硬度をエコーチップで15点測定し、ショア硬度換算平均値を求めたところ、図2に示すようになった。
図2から分るように、パーライトノーズ変態による程の硬度低下は見られない。成分による表面硬度の違いは、合金元素量の多いNo.6(20Cr−3Mo−2Ni)で低くなっているが、それ以外の組成では、通常の表面硬度測定方法でも85Hs(HR C62)以上である。No.6の硬さが低い原因としては、合金元素量が多くなる程焼入れ性が向上する反面、残留γ量が増加したためと考えられる。
【0020】
又、冷却後の各テストピースの断面硬度測定結果は、図3に示すようになった。
図3から分るように、内部まで硬さが低下することなく、逆に多少上昇している。
更に、冷却後の各テストピースの断面硬度の平均値は、図4に示すようになった。
図4から分るように、やはり表面より内部の方が高くなる傾向があり、ショア硬度で2Hs程度の違いある。
このことは、次のような理由によると思われる。
すなわち、鋳造物の内外の温度差は、高温域程大きく、低温域程小さくなる。高クロム鋳鉄の場合、炭化物析出温度域(600〜800℃)の冷却が遅い程、基地中に細かい二次炭化物が多く析出し、基地中の合金元素量の低下により残留γ量は少なくなる。表面より内部の方が硬かったのは、残留γ量が少なかった(マルテンサイト量が多かった)ための考えられる。又、低温域での鋳造物の内外の温度差は小さくなるのでMs点以下での残留γ量の安定化による影響は、鋳造物の内外でなかったと考えられるからである。
【0021】
次に、冷却後の各テストピースを420〜550℃の温度で焼戻ししたところ、それぞれの硬度及び残留応力は、表2に示すようになった。
【0022】
【表2】
【0023】
ここで、No.2とNo.3の焼戻し温度と硬さとの関係は、図5、図6に示すようになる。
図5、図6から分るように、共に焼戻し温度が上がると硬さが徐々に低下し、450℃を超えると硬さが再び上昇する。そして、500℃で硬さのピークを示し、500℃を超えると急激に硬さが低下する。
又、450℃でも100時間と長時間焼戻しすれば、500℃で5時間かけて焼戻ししたものと同じ二次硬化があらわれている。
これにより、90Hs(64.7HR C)以上の高硬度を得る条件は、450℃の温度で長時間(100時間)、又は500℃の温度で短時間(5時間)保持する焼戻しを行えばよい。
通常の炭素鋼は、焼戻し温度が上がると硬さはほぼ直線的に低下するが、合金鋼になると、500℃以下までの硬度の低下が著しく押えられる。更に、高速度工具鋼等の多量の合金元素を含む鋼は、500℃付近で残留γが分解され、焼戻しの冷却過程でマルテンサイト変態を起こし二次硬化(二次硬化に関与する他の因子として、Mo、V等の炭化物の析出もある)する。本実施例のNo.1〜No.7の焼戻し性能曲線は、高速度工具鋼のそれに非常に類似している。
ちなみに、No.2の焼戻し温度(5時間保持したもの)と残留γ量との関係は、図7に示すようになった。
図7から分るように、450℃以上の温度で残留γが分解し始め、500℃以上の温度ではほぼ完全に残留γが分解している。
【0024】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の大物用高クロム鋳鉄鋳物によれば、62〜67HR Cの高い硬さと−200〜200MPaの低い残留応力を有するものとなるので、500kg〜10ton 、肉厚100mm程度以上の大物であっても、耐用寿命を長くすることができ、かつ、使用中の破損を防止することができる。
【0025】
一方、大物用高クロム鋳鉄鋳物の製造方法によれば、900〜1100℃の温度での加熱後の自然冷却、好ましくは3〜20℃/ min の冷却速度の自然冷却によって残留応力が低減され、かつ、420〜550℃の温度での焼戻しにより硬さが上昇されるので、62〜67HR Cの高い硬さと−200〜200MPaの低い残留応力を有する高クロム鋳鉄鋳物とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る大物用高クロム鋳鉄鋳物の製造方法の実施の形態の一例を示すテストピースのための鋳造物の斜視図である。
【図2】各テストピースの焼準処理後の表面硬さを示す説明図である。
【図3】各テストピースの焼準処理後の断面硬度を示す説明図である。
【図4】各テストピースの焼準処理後の断面硬度の平均値を示す説明図である。
【図5】テストピースNo.2の焼戻し温度と硬さとの関係を示す説明図である。
【図6】テストピースNo.3の焼戻し温度と硬さとの関係を示す説明図である。
【図7】テストピースNo.2の焼戻し温度と残留γ量との関係を示す説明図である。
Claims (5)
- C2.4〜3.5wt%、Si0.5〜1.5wt%、Mn0.5〜2.5wt%、Cr14wt %以上18wt%未満、Mo2〜4wt%、Ni0.5〜2.5wt%、及び残部がFeと不可避不純物からなり、硬さ62〜67HR C、残留応力−200〜200MPaであることを特徴とする大物用高クロム鋳鉄鋳物。
- 前記Moが3.0 wt %を超え4 wt %以下であることを特徴とする請求項1に記載の大物用高クロム鋳鉄鋳物。
- C2.4〜3.5wt%、Si0.5〜1.5wt%、Mn0.5〜2.5wt%、Cr14wt %以上18wt%未満、Mo2〜4wt%、Ni0.5〜2.5wt%、及び残部がFeと不可避不純物からなる鋳造物を900〜1100℃の温度に加熱後自然冷却し、しかる後に、420〜550℃の温度で焼戻しすることを特徴とする大物用高クロム鋳鉄鋳物の製造方法。
- 前記Moが3.0 wt %を超え4 wt %以下であることを特徴とする請求項3に記載の大物用高クロム鋳鉄鋳物の製造方法。
- 前記自然冷却が3〜20℃/ min の冷却速度であることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の大物用高クロム鋳鉄鋳物の製造方法。
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