JP3717957B2 - Cf3置換基を有するポルフィリン誘導体およびその塩 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、癌の診断及び治療に有用な、CF3置換基を有するポルフィリン誘導体及びその塩に関する。
【0002】
【従来の技術及びその課題】
ヘマトポルフィリン誘導体(HPD)が、レーザー光線併用による癌の治療用医薬品としてカナダで認可された。この治療法は、レーザー光線又は超音波等のエネルギーを利用して癌組織を破壊するものであり、これらの外部からのエネルギーを、組織破壊エネルギーに変換できるポルフィリン体を予め投与しておく事が必須である。
【0003】
しかし、カナダで認可されたHPDは、ヘマトポルフィリンの重合体の混合物であり、その構造は確定していない。更に、投与後、太陽光線を浴びると、皮膚炎症を起こす事が知られており、これが、この治療を行う際の実際上の問題点である。この副作用は、投与したポルフィリン体が皮膚に集積する事によって起こるもので、これを回避するには、皮膚組織に比べて癌に選択的に取り込まれるポルフィリン体を開発する事が先決である。
【0004】
この医薬品は通常、診断にも用いられる事を考慮すると、皮膚は固より、皮膚以外の代謝組織への取り込みによる副作用の発現が危惧され、これを回避するために、現在使用されているHPDと比べて、より選択的に癌に集積する物質を発見する事がこの治療法の成否を決めると言える。更に、投与したポルフィリン体が癌に集積すると言う薬理作用を解明するためにも、HPDの様に重合体の混合物では無く、単一物質で、化学構造が明らかなポルフィリン誘導体を投与する事が求められている。
【0005】
カナダにおける、HPDを用いたこの治療法の対象範囲は、現在のところ、対象患者数が比較的少ない皮膚癌等に対するものである。一方、本邦で行われているHPDを用いた治療実験においては、内視鏡を用いて肺癌又は消化器癌の治療を行う際に、予めHPDを投与しておくと、肉眼では発見出来ない微小癌が、癌に集積したHPDにレーザー光線等が照射されると蛍光を発する事から、その存在を確認出来、更に癌と診断された部位に集中的に、より強いレーザー光線等を照射して、診断と同時に、癌を破壊し治療する事が行われている。この様に、この治療法は診断法としても特筆すべき方法であり、又、外科手術を行う事無く、診断と治療が行える画期的な方法であり、癌の早期診断、早期治療に道を開くものである。
【0006】
この目的の為に、フタロシアニン系誘導体を含む、多くの種類のポルフィリン体が合成され、選択的に癌に集積する物質を探索する研究が活発に行われている。しかしながら、フタロシアニン系誘導体等の生体にとって完全な異物であるポルフィリン体を投与した場合は、生体の持つポルフィリン代謝系による排泄が期待出来ず、肝臓、腎臓への負担が増える事になる。
【0007】
この点を回避しようとする考えに従い、生体に常在するプロトポルフィリンを基本骨格とする誘導体の合成と、その誘導体の薬理作用の研究が行われて来た。その研究の過程で、これまで、特にプロトポルフィリンの3位のビニル基にメタノールが付加した化合物が、選択的に癌へ集積する事が発見されている。また、上記の薬理作用の研究過程で、以下に述べる発展が見られた。
【0008】
一般的に、フッ素原子は、生理活性物質の薬理活性部位の水素と置換する事により、優れた制癌効果を発揮する事が5-フロロウラシル等の制癌剤で知られ、制癌効果のみならず、多くの有用な医薬品を創製して来た。このフッ素原子を水素と置換する事により生ずる生理活性の増加は、フッ素原子の「疑似効果」として知られており、また、その効果については、更に、フッ素原子の導入により、生理活性物質が、より親油性になる事によって生体膜に対する吸収速度が増加することによるものと言われている。更に、癌に集積する性質を有するポルフィリン体にフッ素原子を導入する事により、癌に集積した含フッ素ポルフィリン体を、バックグランドが水素に比べて遙かに少ないフッ素の核磁気共鳴スペクトルの測定により、非破壊的に検出できれば、癌の診断が、内視鏡を用いなくとも、より鮮明な癌の画像として得られる事により、容易になると考えられてきた。
【0009】
この様な目的を達成するには、フッ素原子が生理活性物質の薬理活性部位の水素と置換する事が望ましく、選択的に癌に集積するポルフィリン体を得るには、先に述べた研究により、薬理活性の中心である、ポルフィリン環の3位及び/又は8位にフッ素原子を導入するのが望ましい。3位及び/又は8位にフッ素原子を持ったポルフィリン誘導体としては、次式、
【0010】
【化3】
により示されるプロトポルフィリン(PP)の3位及び8位のビニル基の水素をフッ素原子に換え、13位及び17位の2-カルボキシエチル基中のカルボキシル基末端のHを、場合によってはアルカリ金属に換えた化合物、即ち、次式
【0011】
【化4】
において、のR1が-CH=CF2であり、R2が-CH=CH2であり、RがH又はアルカリ金属である誘導体(3-FPP) 、または、R1が -CH=CH2、R2が -CH=CF2であり、RがH又はアルカリ金属である誘導体(8-FPP) 、更に、R1とR2が共に-CH=CF2の誘導体(3,8-FPP) 等があり、特に、この中では、3-FPPが癌に集積する事が見出されている。
【0012】
又、次式、
【化5】
により示されるヘマトポルフィリンの3位及び8位の -CH(0H)-CH3のメチル基が-CF3基に置換した含フッ素ヘマトポルフィリンにおける、肝細胞癌に対する取り込み量は、細胞実験で、両方のメチル基が-CF3基に置換した誘導体が、単に一方の3位又は8位の置換誘導体より優位である事が知られている。しかし、これらの優位性は、他の同様な目的に対して研究されているポルフィリン化合物と比較して劣るものではないが、満足出来るものとは言いがたい。
【0013】
本発明においては、更に、選択的に癌へ集積するポルフィリン誘導体を得るため、ポルフィリン体の3位及び8位の一方に -CH(0H)-CF3基を有すると同時に、より集積効果を高めるため、3位及び8位のもう一方の置換基を活性なアルデヒド基、又は脂溶性の側鎖を置換させた誘導体を合成し、癌への集積性を検討し、従来の含フッ素ポルフィリンと比べて優位である事を認めた。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記に述べた、かかる知見と発想に基づいてなされたものであり、癌の診断及び治療に有用な次の式1で表されるCF3置換基を有するポルフィリン誘導体及びその塩を提供するものである。
【0015】
【化6】
(式1中、R 1 及びR 2 は、一方が−CH(OH)−CF 3 であり、他方が−CH(OH)−CH=CH 2 、又は−CH=CH−C(=O)−C 6 H 13 である。)
【0019】
【作用及び発明の効果】
本発明のCF3基保有の置換基を有するポルフィリン誘導体及びその塩は、従来知られているHPD等のポルフィリン誘導体と比べて、癌に多量に集積する性質を有するために、癌の診断及び治療薬として有用である。その中でも特に、実施例7の薬理試験では、次の表1に示した6種類のポルフィリン体の中で、3A-8Tf及び3VEt-8Tfの誘導体が、癌に多量に集積すると共に、正常組織、例えば、肝臓、腎臓よりも癌組織に、1.5倍のポルフィリンが集積するという特異的な結果を得た。
【0020】
【表1】
【0021】
この結果から、3A-8Tf又は3VEt-8Tfの誘導体を投与した場合、他のポルフィリン誘導体と比較して、癌以外の臓器への集積が少ない事から、結果的に癌以外の組織に対する影響が少ないと考えられる。この事から副作用の発現が少ない癌の診断及び治療に役立つポルフィリン体を特定した。
【0022】
又、本CF3置換基を有するポルフィリン誘導体は、後に掲げる表2に示した様に、従来のポルフィリン体、例えばHPD投与時に得られた結果と比較すると、何れも、癌組織における集積量が、他の組織と比較して多い事が判明した。
【0023】
実施例1
3-(1-ヒドロキシ- 2, 2,2-トリフルオロエチル)-8- フォルミル−デューテロポルフィリン ジソディウム(3Tf-8A)の合成。
【0024】
(1) 3-(1-アセトキシ- 2, 2,2-トリフルオロエチル)-8- フォルミル−デューテロポルフィリン ジメチルエステル 銅錯体(3-AcO-TfE-8-CHO-DPME Cu 錯体)の合成。
アルゴン雰囲気下、室温で 3-AcO-TfE-DPME Cu- 錯体(300 mg, 0.41 m mol)とCH(OMe)3 (1.5 ml, 13.7 m mol) の乾燥CH2Cl2 (6.0 m l) 溶液中にトリフルオロ酢酸 (1.8 ml, 23.4 m mol) をゆっくりと加え、更に、1時間撹拌を続ける。反応終了後、反応液を氷水にあけCH2Cl2で抽出する。抽出物を無水 MgSO4で乾燥した後、カラムクロマトグラフィ−(SiO2, CH2Cl2-酢酸エチル,97:3 〜90:10 )で分離し、 3-Ac0TfE-8-CHO-DPME Cu 錯体 (161 mg, 52 %) および原料(127
mg, 42 % )を得た。
【0025】
(2) 3-(1-アセトキシ- 2, 2,2-トリフルオロエチル)-8- フォルミル−デューテロポルフィリン ジメチルエステル(3-AcOTfE-8-CHO-DPME) の合成。
氷冷下、3-AcOTfE-8-CHO-DPME Cu- 錯体(1.74 g, 2.27 m mol)にトリフルオロ酢酸 (20.0 ml, 0.30 mol) と濃硫酸 (2.0ml)を加え、 1 時間撹拌を続ける。反応終了後、反応液を氷水に空け、CH2Cl2で抽出する。 抽出液を無水MgSO4で乾燥した後、カラムクロマトグラフィ− (SiO2,CH2Cl2 -酢酸エチル, 95:5〜70:30 ) で分離し 3-AcOTfE-8-CHO-DPME (1.49 g,93.2 %) を得た。
【0026】
1H-NMR(CDCl3) δ: 11.41 (1H, s), 10.57 (1H, s), 10.45 (1H, s), 9.98 (1H, s), 9.64 (1H, s), 7.87 (1H, q, J=7.3Hz), 4.19 (2H, t, J=7.8Hz), 4.17 (2H, t, J=7.8Hz), 3.96 (3H, s), 3.83 (3H, s), 3.63 (3H, s), 3.61 (3H, s), 3.50 (3H, s), 3.44 (3H, s), 3.18 (2H, t, J=7.8Hz),3.13 (2H, t, J=7.8Hz), 2.48 (3H, s), -3.77 (2H, s).
【0027】
(3) 3-(1-ヒドロキシ- 2, 2,2-トリフルオロエチル)-8- フォルミル−デューテロポルフィリン ジソディウム(3Tf-8A)
3-AcOTfE-8-CHO-DPME(20mg, 0.028m mol) をトルエン50mlに溶解し、別にNaOH 100mgをメタノール100ml に溶解した液3.5ml を加え、1 時間煮沸攪拌する。反応終了後、メタノールを留去し、析出した結晶を濾集し、減圧乾燥して、3Tf-8A(22mg, 110%)を得た。
【0028】
実施例2
3-フォルミル-8- (1-ヒドロキシ-2, 2, 2- トリフルオロエチル)- デューテロポルフィリン ジソディウム(3A-8Tf)の合成。
【0029】
(1) 3-フォルミル-8- (1-アセトキシ-2, 2, 2- トリフルオロエチル)- デューテロポルフィリンジメチルエステル銅錯体(3-CHO-8-AcOTfE-DPME Cu- 錯体)の合成。
アルゴン雰囲気下,室温で 8-AcOTfE-DPME Cu-錯体 (309 mg, 0.41 m mol) とCH(OMe)3(1.6 ml, 14.6 m mol)の 乾燥CH2Cl2(6.0 ml) 溶液中トリフルオロ酢酸(1.9 ml, 24.7 m mol)をゆっくりと加えて,更に 1時間撹拌を続ける。反応終了後、反応液を氷水に空けCH2Cl2で抽出する。抽出物を無水MgSO4で乾燥した後、カラムクロマトグラフィ− (SiO2,CH2Cl2- 酢酸エチル97:3〜80:20)で分離し、3- CHO-8-Ac0TfE-DPME Cu- 錯体(162 mg, 50.5 %)および原料 (139 mg, 45.0%)を得た。
【0030】
(2) 3-フォルミル-8- (1-アセトキシ-2, 2, 2- トリフルオロエチル)- デューテロポルフィリン ジメチルエステル(3-CHO-8-AcOTfE-DPME )の合成。
氷冷下、3-CHO-8-AcOTfE-DPME Cu- 錯体(1.51 g, 1.97 mmol) にトリフルオロ酢酸(15.0 ml, 0.19 mol) と濃硫酸 (1.5ml)を加え、1時間撹拌を続ける。
反応終了後、反応液を氷水に空け CH2Cl2 で抽出する。 抽出液を無水MgSO4で乾燥した後、カラムクロマトグラフィ−(SiO2,CH2Cl2- 酢酸エチル, 95: 5 〜70: 30) で分離し 3-CHO-8-AcOTfE-DPME (1.26 g,90.7 %) を得た。
【0031】
1H-NMR(CDCl3) δ: 10.98 (1H, s), 10.66 (1H, s), 10.27 (1H, s), 9.71 (1H, s), 9.04 (1H, s), 7.89 (1H, q, J=7.3Hz), 4.29 (2H, t, J=7.6Hz), 4.15 (2H, t, J= 7.6Hz), 3.84 (3H, s), 3.69 (3H, s), 3.62 (3H, s), 3.61 (3H, s), 3.25 (2H, t, J=7.8Hz), 3.18 (6H, s), 3.13 (2H, t, J=7.6Hz), 2.51 (3H,
s), -4.19 (2H, s)。
【0032】
(3) 3-フォルミル-8- (1-ヒドロキシ-2, 2, 2- トリフルオロエチル)- デューテロポルフィリン ジソディウム(3A-8Tf)の合成。
3-CHO-8-AcTfE-DPME(20mg, 0.028m mol)をトルエン50mlに溶解し、別にNaOH 100mgをメタノール100ml に溶解した液5.5ml を加え、1時間煮沸攪拌する。反応終了後、メタノールを留去し、析出した結晶を濾集し、減圧乾燥して、3A-8Tf (18.6mg, 93%)を得た。
【0033】
実施例3
3-(1-ヒドロキシ-2,2, 2- トリフルオロエチル)-8-(1-ヒドロキシ−2 −プロペニル)−デューテロポルフィリン ジソディウム(3Tf-8VEt) の合成。
【0034】
(1) 3-(1-アセトキシ-2,2, 2- トリフルオロエチル)-8-(1-ヒドロキシ−2 −プロペニル)−デューテロポルフィリン ジメチルエステル(3-AcOTfE-8-CH(OH)CH= CH2 DPME の合成。
アルゴン雰囲気下、 0 ℃で 3-AcOTfE-8-CHO-DPME (50 mg)のTHF (1.5 ml)溶液にビニルマグネシウム臭化物の 1.0 Mヘキサン溶液 (0.1 ml, 0.1 m mol)を滴下し、 このまま1時間撹拌を続ける。 飽和 NH4Cl液を加え反応を終了させた後水洗しCH2Cl2で抽出する。抽出液を無水 MgSO4で乾燥した後、カラムクロマトグラフィ− (SiO2,CH2Cl2- 酢酸エチル, 95:5〜70:30)で分離し 3-AcOTfE-8-CH( OH)CH= CH2-DPME (44 mg, 85 %)(ジアステレオマー混合物)を得た。
【0035】
MS m/z: 734(M+). HRMS C39H41N4O7F3 (M+): 734.292. Found:734.292
1H-NMR(CDCl3) [ジアステレオマーの混合物で測定]δ: 10.41 (2H*, s), 10.12 (1H, s), 10.09(1H, s), 9.91 (1H, s), 9.90 (IH, s), 9.55 (2H*, s), 7.88 (1H, q, J=7.4Hz), 7.87 (1H,q, J= 7.4Hz), 6.68(1H, d-d-d, J=17.0Hz,10.5Hz,5.0Hz), 6.64 (1H, d-d-d, J=17.0Hz ,10.5Hz, 5.0Hz), 6.60 (1H, d, J=5Hz), 6.48 (1H, d, J=5Hz), 5.61 (1H, d-d, J=16.5Hz ,1.5Hz), 5.56 (1H, d-d, J=16.5Hz, 1.5Hz), 5.35 (1H, d-d, J=10.5Hz,1.5Hz), 5.32 (1H, d-d, J=10.5Hz,1.5Hz), 4.13 (4H*, t, J=7.8Hz), 3.97 (4H*, t, J=7.1Hz), 3.80 (3H, s), 3.79 (3H, s), 3.63 (6H*, s), 3.60 (6H*, s), 3.59 (6H*, s), 3.40 (3H, s), 3.37 (3H, s), 3.35 (3H, s), 3.34 (3H, s), 3.12 (4H*, t, J=7.8Hz), 3.07 (4H*,t, J=7.1Hz), 2.62 (1H, bd, J=5.0Hz), 2.51 (1H, bd, J=5.0Hz), 2.47 (3H, s), 2.46 (3H, s), -4.08 (4H*, s)
※データー中の* 印は,ジアステレオマーの両者が存在することを示す。
【0036】
(2)3-(1-ヒドロキシ-2,2, 2- トリフルオロエチル)-8-(1-ヒドロキシ−2 −プロペニル)−デューテロポルフィリン ジソディウム(3Tf-8VEt)の合成。 3-AcOTfE-8-CH(OH)CH=CH2 DPME (20mg, 0.028m mol) をトルエン50mlに溶解し、別に、NaOH 100mgをメタノール100ml に溶解した液5.5ml を加え、1時間煮沸攪拌する。反応終了後、メタノールを留去し、析出した結晶を濾集し、減圧乾燥して、3Tf-8VEt (21.1mg, 105.5%) を得た。
【0037】
実施例4
3- (1- ヒドロキシ-2- プロペニル)-8-(1- ヒドロキシ-2,2,2トリフルオロエチル)−デューテロポルフィリン ジソディウム(3VEt-8Tf)の合成。
【0038】
(1) 3- (1-ヒドロキシ-2- プロペニル)-8-(1- アセトキシ-2,2,2トリフルオロエチル)−デューテロポルフィリンジメチルエステル (3-CH(OH)CH=CH2-8-AcOTfE-DPME) の合成。
アルゴン雰囲気下、0℃で 3-CHO-8-AcOTfE- DPME (100mg) の THF(6.0 ml)溶液にビニルマグネシウム臭化物の 1.0 Mヘキサン溶液 (0.2 ml, 0.2 m mol)を10分間かけて滴下しこのまま1時間撹拌を続ける。飽和NH4Cl 液を加え反応を終了させた後、水洗し、CH2Cl2で抽出する。抽出液を無水MgSO4で乾燥した後、カラムクロマトグラフィ− (SiO2,CH2Cl2- 酢酸エチル, 95:5 〜70:30)で分離し 3-CH(OH)CH=CH2-8-AcOTfE-DPME (40 mg, 38 %) (ジアステレオマー混合物)を得た。
【0039】
MS m/z: 734(M+). HRMS C39H41N4O7F3 (M+): 734.291. Found: 734.291.
1H-NMR (CDCl3)〔ジアステレオマーの混合物で測定〕 δ: 10.35 (1H, s), 10.34 (1H, s), 10.19 (1H, s), 10.12 (1H, s), 9.52(2H*, s), 9.50 (1H, s), 9.44 (1H, s), 7.88 (1H, q, J=7.4Hz), 7.87 (1H, q, J=7.4Hz), 6.45(1H, d-d-d, J=17.0Hz,10.5Hz,5.0Hz), 6.42 (1H, d-d-d, J=17.0Hz ,10.5Hz,5.0Hz), 6.13 (1H, d, J=5.0 Hz), 6.04 (1H, d, J=5.0Hz), 5.40 (1H, d-d, J=17.0Hz,1.5Hz), 5.36 (1 H, d-d, J=17.0Hz,1.5Hz), 5.21(1H, d-d, J=10.5Hz,1.5Hz), 5.18 (1H, d-d , J=10.0 5Hz, 1.5Hz), 4.16 (4H*, t, J=7.8Hz), 3.86 (2H, t, J=7.1Hz), 3.82(2H, t, J =7.1Hz), 3.73 (3H, s), 3.70 (3H, s), 3.64 (6H*, s), 3.63(6H*, s), 3.60 (6H*, s), 3.20 (3H, s), 3.18 (3H, s), 3.15 (4H*, t, J=7.8Hz), 3.13 (3H, s), 3.11 (3H, s), 3.02 (2H, t, J=7.1Hz), 3.00 (2H, t, J=7.1Hz), 2.48 (3H, s), 2.45 (3H, s), 2.34 (1H, br), 2.18 (1H, br), -4.23 (2H, s), -4.24 (2H, s). * 印は,ジアステレオマーの両者が存在することを示す。
【0040】
(2) 3- (1-ヒドロキシ-2- プロペニル)-8-(1- ヒドロキシ-2,2,2トリフルオロエチル)−デューテロポルフィリン ジソディウム(3VEt-8Tf)の合成。
3-CH(OH)CH=CH2-8-AcOTfE-DPME (20mg, 0.028m mol) をトルエン50mlに溶解し、別に NaOH 100mgをメタノール100ml に溶解した液5.5ml を加え、1時間煮沸攪拌する。反応終了後、メタノールを留去し、析出した結晶を濾集し、減圧乾燥して、3VEt-8Tf(19.7mg, 98.5%) を得た。
【0041】
実施例5
3-(1- ヒドロキシ−2,2,2 トリフルオロエチル)- 8-(3- オキソ-1- ノネイル)−デューテロポルフィリン ジソディウム(3Tf-8VHt)の合成。
【0042】
(1) 3-(1- アセトキシ−2,2,2 トリフルオロエチル)- 8-(3- オキソ-1- ノネイル)−デューテロポルフィリン ジメチルエステル(3-AcOTFHE-8-CH=CHC(=O) C6H13-DPME) の合成。
アルゴン雰囲気下、-50℃で 3-AcOTfE-8-CHO-DPME (50 mg, 0.071 m mol) の乾燥CH2Cl2(2.0 ml) 溶液に TiCl4(9.3μl, 0.085 m mol) を加える。 次に同温で2-( トリメチルシリルオキシ)-1-オクテン(30 mg, 0.15 m mol) をゆっくりと滴下し30分間撹拌する。 反応温度を-50℃から0℃に上げ3時間撹拌した後、さらに室温で2時間撹拌を続ける。反応終了後、反応液を水洗し、CH2Cl2で抽出する。抽出液を無水 MgSO4で乾燥した後、カラムクロマトグラフィ−(SiO2,CH2Cl2-酢酸エチル, 5:95〜30:70)で分離し、3-AcOTfHE-8-CH=CHC(=O)C6H13 -DPME (27 mg, 46.7 %)を得た。
【0043】
MS m/z : 816(M+). HRMS C45H51N4O7F3(M+ ): 816.372. Found: 816.372. 1H-NMR(CDCl3)δ: 10.48 (1H, s), 10.08 (1H, s), 10.03 (1H, s), 9.90 (1H, s ), 9. 20(1H, d, J=16.1Hz), 7.85 (1H, q, J=7.4Hz),7.45 (1H, d, J=16,1Hz), 4.31 (2H, t, J=7.9Hz), 4.29 (2H, t , J=7.9Hz), 3.83 (3H, s), 3.81 (3H, s), 3.65 (3H, s), 3.63 (3H, s), 3.57 (3H, s), 3.52 (3H, s), 3.24 (2H, t, J=7.9Hz), 3,23 (2H, t, J=7.9Hz), 3.00 (2H, t, J=7.3Hz), 1.96 (2H,quint, J=7.3Hz), 1.58 (2H, m), 1.40-1.53 (4H, m), 0.98 (3H, t, J=7.1Hz), -3.63 (2H, s)
【0044】
(2) 3-(1- ヒドロキシ−2,2,2 トリフルオロエチル)- 8-(3- オキソ-1- ノネイル)−デューテロポルフィリン ジソディウム(3Tf-8VHt)の合成。
3-AcOTfE-8-CH=CHC(=O)C6H13-DPME(20mg, 0.028mmol)をトルエン50mlに溶解し、別に、NaOH 100mgをメタノール100ml に溶解した液5.5ml を加え、1時間煮沸攪拌する。反応終了後、メタノールを留去し、析出した結晶を濾集し、減圧乾燥して、3Tf-8VHt(20.3mg, 101.5%)を得た。
【0045】
実施例6
3-(3- オキソ-1- ノネイル)-8-(1- ヒドロキシ-2, 2, 2- トリフルオロエチル)- デューテロポルフィリン ジソディウム(3VHt-8Tf)の合成。
【0046】
(1) 3-(3- オキソ-1- ノネイル)-8-(1- アセトキシ-2, 2, 2- トリフルオロエチル)- デューテロポルフィリンジメチルエステル(3-CH=CHC(=O)C6H13-8-AcOTfE-DPME)の合成。
アルゴン雰囲気下、-50 ℃ で 3-CHO-8-AcOTfE-DPME (50 mg, 0.071 m mol) の乾燥CH2Cl2(3,5 ml) 溶液に TiCl4(9.3 μl, 0.085 m mol) を加える。次に同温で 2- ( トリメチルシリルオキシ)-1-オクテン (70 mg, 0.35 mmol) をゆっくりと滴下し 30 分間撹拌する。反応温度を-50℃から0℃に上げ2時間撹拌した後、さらに室温で2時間撹拌を続ける。反応終了後、反応液を水洗し CH2Cl2で抽出する。 抽出液を無水MgSO4で乾燥した後、カラムクロマトグラフィ− (SiO2,CH2Cl2- 酢酸エチル, 5:95〜 30:70) で分離し、3-CH=CHC(=O)C6H13-8-AcOTfHE-DPME (15 mg, 26.0 %) を得た。
【0047】
MS m/z: 816(M+). HRMS C45H51N4O7F3(M+): 816.370. Found: 816.370.
1H-NMR(CDCl3) δ: 10.35 (1H, s), 10.11 (1H, s), 9.88 (1H, s), 9.71 (IH, s), 9.06 (1H, d, J=15.63Hz), 7.86(1H, q, J=7.3Hz), 7.32 (1H, d, J=16.1Hz), 4,35 (2H, t, J=7.8Hz), 4.2 3 (2H, t, J=7.3Hz), 3.82 (3H, s), 3. 66 (3H, s), 3.65 (3H, s), 3.63 ( 3H, s), 3.50 (3H, s), 3.41 (3H, s), 3.26 (2H, t, J=7.8Hz), 3.20 (2H, t, J=7.3Hz), 2.98 (2H, t, J=7.5Hz), 2.46 (3H, s), 1.96 ( 2H, quint, J =7.6Hz), 1.53-1.62 (2H, m), 1.40-1.52 (4H, m), 0.99 (3H, t, J=7.1Hz), -3.80(2H, s)
【0048】
(2) 3-(3- オキソ-1- ノネイル)-8-(1- ヒドロキシ-2, 2, 2- トリフルオロエチル)- デューテロポルフィリン ジソディウム(3VHt-8Tf)の合成。
3-CH=CHC(=O)C6H13-8-AcOTfE-DPME(20mg, 0.028m mol) をトルエン50mlに溶解し、別にNaOH 100mgをメタノール100ml に溶解した液5.5ml を加え、1時間煮沸攪拌する。反応終了後、メタノールを留去し、析出した結晶を濾集し、減圧乾燥して、3VHt-8Tf(20.1mg, 100.5%)を得た。
【0049】
実施例7
培養したヒト肝細胞癌(JTC-16)をヌードマウスの皮膚に塗布して移植し、移植癌が一定の大きさ(10×10mm) になった時点で、実施例1,2,3,4,5,6 で得られたCF3置換基を有するポルフィリン誘導体(3Tf-8A, 3A-8Tf, 3Tf-8VEt, 3VEt-8Tf , 3Tf-8VHt, 3VHt-8Tf)の各ソディウム塩10mgを1mL の水に溶解した液又は、HPD 10mg/mLの液を各々、間隙0.5 μm のメンブランフィルターを通過させ、体重1kg当たり10mgを腹空内投与し、投与24時間後に解剖し、各組織を摘出した。なお、各化合物について各々3匹のヌードマウスを使用した。
【0050】
摘出した癌、及び正常肝臓、腎臓の各組織を、即時凍結乾燥し、得られた乾燥物を乳鉢で粉砕した後、その 25mg を秤量し、水50μl 加えてよく混和した。30分放置後、2.5%のジイソプロピルアミンを含有するメタノールを0.9 ml加えて抽出し、よく混合した後、遠心分離し、その上澄液について、励起波長400nmにおける570nmから660nmまでの蛍光スペクトルを測定し、630nmの蛍光強度を得た。
【0051】
630nmの蛍光強度の測定は、各々の組織について行い、各化合物について得られた蛍光強度の平均値を各組織における集積量とした。その値を次の表2に示す。
【0052】
【表2】
【0053】
表2から、CF3置換基を有するポルフィリン誘導体(3Tf-8A, 3A-8Tf, 3Tf-8VEt, 3VEt-8Tf, 3Tf-8VHt, 3VHt-8Tf)は、HPDと比較して、より多くのポルフィリンが癌に存在するか、又は、正常肝臓、腎臓の各組織への集積量が、HPDと比較して、より少ないことが判明し、何れもHPDと比較して、その集積量に選択性があり、又、その中でも特に3A-8Tfと3VEt-8Tfは、より選択的に癌に集積し、癌には肝臓の1.5倍量が確認された。
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