JP3717771B2 - 内視鏡におけるコイルパイプ研磨方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は軟性部の硬度を調整する硬度調整手段を備えた内視鏡におけるコイルパイプ研磨方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、細長の挿入部を体腔内に挿入することにより、切開を必要とすることなく、体腔内の検査対象部位を観察したり、必要に応じ、処置具を用いて治療処置のできる内視鏡が広く用いられるようになった。
【0003】
前記内視鏡の挿入部は、屈曲した挿入経路内にも挿入できるように可撓性を有する。しかし、この挿入部が可撓性を有することにより、手元側に対し先端側の方位が定まらず、目標とする方向に導入することが難しくなる場合がある。
【0004】
この問題に対処するため、例えば特開平10−276965号公報には、内視鏡の挿入部内にシースの1つであるコイルパイプとワイヤとからなる硬度可変手段(本実施形態で言う硬度調整手段)を設けた内視鏡が開示されている。この従来例の構成によれば、内視鏡検査を行う術者が簡単な操作で挿入部の可撓性を適宜調整することによって、大腸等の屈曲した経路内への挿入性が向上する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記特開平10−276965号公報の内視鏡では硬度可変手段を数多くの検査で繰り返し使用すると、コイルパイプを構成する素線の表面が摩耗、変形を起こす。この摩耗、変形を、素線の一断面で注目した場合には微少なものであるが、このコイルパイプは素線を複数回(数百〜数千回)、巻くことで形成されている。このため、複数回素線を巻回して形成されたコイルパイプでは、この摩耗、変形が累積されると全長に対してはかなりの変形量になる。
【0006】
前記硬度可変手段を操作してコイルパイプの硬さを上昇させるということは、コイルパイプの素線同士の密着度を自然長の状態より上げることに他ならない。このため、前述したような摩耗・変形が生じると、この密着度が大きく低下して、この硬度可変手段で硬さ調整可能な最大硬さが初期設定時よりも極端に落ちてしまう。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、硬度調整手段を繰り返し使用した場合でも、硬度調整機能が大きく劣化することを防止した内視鏡におけるコイルパイプ研磨方法を提供することを目的にしている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の内視鏡におけるコイルパイプ研磨方法は、内視鏡端挿入部を構成する軟性部内にコイルパイプとワイヤとを設け、このワイヤをコイルパイプに対して牽引して前記コイルパイプを圧縮させることによってコイルパイプの硬度を変化させ、前記軟性部の硬度調整を可能にした硬度調整手段を設けた内視鏡におけるコイルパイプ研磨方法において、前記コイルパイプの素線を巻回してコイルパイプを成形するコイルパイプ成形工程と、前記コイルパイプ成形工程において成形した後のコイルパイプの素線表面であって、少なくとも当該コイルパイプを圧縮した際に少なくとも隣接して互いに接触する素線表面を研磨加工するコイルパイプ素線表面研磨加工工程と、を有し、前記コイルパイプ素線表面研磨加工工程において当該素線間の幅寸法を自然長以上で弾性変形領域以下になるように保持することを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、硬度変化させるためにワイヤを牽引してコイルパイプの隣接する素線同士を密着させたとき、素線の密着部分である素線表面に微細な凹凸が少ないので、密着部分における摩耗・変形が生じ難い。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1ないし図11は本発明の一実施形態に係り、図1は内視鏡装置の概略の構成を説明する図、図2は内視鏡の構成を説明する長手軸方向断面図、図3は内視鏡の構成を説明する長手軸方向に直交する断面図、図4はカム体の具体例を示す図、図5は素線表面を説明する図、図6は電解研磨液にコイルを浸漬させて研磨する工程を説明する図、図7はコイルの素線間の状態を説明する図、図8は低温焼きなましを行う際のコイルの設置状態を示す図、図9はコイルの素線が密着した状態で湾曲したときの内側と外側との状態を説明する図、図10はコイルの素線同士が密着している状態の拡大図、図11はコイル素線間を所定の間隔に設定する治具を説明する図である。
【0011】
なお、図3(A)は図2のA−A線断面図、図3(B)は図2のB−B線断面図、図5(A)は形成直後のコイルの素線表面を示す図、図5(B)は電解研磨後のコイルの素線表面を示す図、図7(A)は初期状態のコイル素線間の状態を説明する図、図7(B)は電解研磨液に浸漬されているコイルの素線間の状態を説明する図、図7(C)はコイルの素線が密着した状態を説明する図、図10(A)は素線の凸部同士が当接している状態を示す図、図10(B)は当接していた凸部が摩耗・変形した状態を示す図である。
【0012】
図1に示すように、内視鏡装置1は、撮像手段を内蔵した電子内視鏡2と、この電子内視鏡2に照明光を供給する光源装置3と、電子内視鏡2から出力される撮像信号を信号処理する信号処理装置4と、この信号処理装置4から出力される映像信号を画面上に表示するカラーモニタ5とから構成されている。
【0013】
電子内視鏡2は、細長の挿入部6と、この挿入部6の後端側に連設された太幅の操作部7と、この操作部7の側部から延設されたユニバーサルケーブル8とを備え、ユニバーサルケーブル8の端部にはコネクタ9が設けられており、このコネクタ9は光源装置3に着脱自在で接続することができる。
【0014】
挿入部6は、先端側から硬性の先端部11と、この先端部11の後端に形成され、湾曲自在の湾曲部12と、この湾曲部12の後端に形成され、長尺で可撓性を有する軟性部13とからなり、この軟性部13の後端は操作部7の前端に連結されている。この軟性部13の後端外周にはテーパ形状にして折れ止め機能を有する折れ止め部材10が設けてある。
【0015】
挿入部6、操作部7、ユニバーサルケーブル8内には可撓性を有し、照明光を伝送する機能を有するファイバ束からなるライトガイド14が挿通され、コネクタ9に突出するように固定されたライトガイドコネクタ部15を光源装置3に接続することにより、光源装置3内のランプ16の照明光がレンズ17で集光されてライトガイドコネクタ部15の端面に供給される。
【0016】
このライトガイド14によって伝送された照明光は先端部11の照明窓に固定された先端面から前方に出射され、患部等の被写体を照明する。照明された被写体は照明窓に隣接して先端部11に設けられた観察窓に取り付けた対物レンズ18によりその結像位置に光学像を結ぶ。この結像位置には光電変換する機能を備えた撮像素子として電荷結合素子(CCDと略記)19が配置され、光学像を電気信号に変換する。
【0017】
このCCD19は信号ケーブル21の一端と接続され、この信号ケーブル21は挿入部6内等を挿通されてその後端はコネクタ9の電気コネクタ22に接続され、この電気コネクタ22に接続される外部ケーブル23を介して信号処理装置4に接続される。この信号処理装置4内のドライブ回路24で発生したCCDドライブ信号がCCD19に印加されることにより、光電変換された撮像信号が読み出され、信号処理装置4内の信号処理回路25に入力され、標準的な映像信号に変換する処理を行う。この標準的な映像信号はカラーモニタ5に入力され、内視鏡画像表示領域5aにCCD19に結像された像をカラー表示する。
【0018】
先端部11に隣接して設けられた湾曲部12はリング形状の多数の湾曲駒26が、隣接する湾曲駒26と上下、左右に対応する位置でリベット等で互いに回動自在に連結して構成され、最先端の湾曲駒26或いは先端部11に固着された湾曲ワイヤ27の後端は操作部7内のスプロケット28に連結され、このスプロケット28の軸には湾曲操作を行う湾曲操作ノブ29が取り付けられている(図1では簡単化のため、上下、或いは左右方向のみの湾曲機構の概略を示す)。
【0019】
そして、この湾曲操作ノブ29を回動する操作を行うことにより、上下方向或いは左右方向に沿って配置した1対の湾曲ワイヤ27の一方を牽引、他方を弛緩させて牽引した湾曲ワイヤ27側に湾曲部12を湾曲させることができるようにしている。
【0020】
操作部7には、湾曲操作ノブ29が設けられた位置より前方側に把持部31が設けられ、術者は把持部31を把持した片方の手(の把持に使用しない親指等の指)で湾曲操作ノブ29の操作等を行うことができるようにしている。
【0021】
また、この把持部31より前端側には、処置具挿入口32が設けてあり、この処置具挿入口32から処理具を挿入することにより内部の処置具チャンネル33(図3参照)を経て先端部11のチャンネル出口から処置具の先端側を突出して、ポリープの切除等の処置を行うことができるようにしている。
【0022】
また、本実施の形態では、例えば折れ止め部材10に隣接する操作部7の前端には、硬度調整操作を行う円筒形状の硬度調整ノブ34が設けられており、この硬度調整ノブ34を回動する操作を行うことにより軟性部13内に配置された硬度可変手段を形成する硬度変更用のワイヤ(以下、単にワイヤと略記)35及びシースとして硬度変更用のコイルパイプ(以下、単にコイルと略記)36を介して軟性部13の硬度を変更できる硬度調整機構が形成されている。
【0023】
図2は電子内視鏡2の挿入部6及び操作部7のより具体的な構造を示す。軟性部13の外皮を形成する軟性管37の中には硬度調整ノブ34を操作した場合の力を伝達するワイヤ35と、このワイヤ35が挿通された密巻きに近い状態のコイル36が設けられている。
【0024】
コイル36内を挿通されたワイヤ35はコイル36の先端にろう付け等で強固に固定され、このコイル36の先端から延出されたコイル回転規制部材を形成するワイヤ延出部30はその先端が湾曲部12と軟性部13とを接続する硬性でリング状の接続管38にろう付け等で強固に固定されている。
【0025】
この接続管38は最後端の湾曲駒26に固着されている。或いは最後端の湾曲駒26が接続管38の機能を兼ねるようにしても良い。この接続管38を含む湾曲駒26はゴムチューブ等の弾性を有する外皮39で覆われている。
【0026】
本実施の形態ではこのようにコイル36の先端部は、このコイル36の自然状態における捻れ剛性よりは、強い(大きい)捻れ剛性を有するワイヤ延出部30を介して接続管38に固定することにより、コイル36の回転を規制ないしは抑制する回転止めの機能を有するようにしている。このワイヤ延出部30は曲げに対して柔軟な弾性を有し、捻れに対しても適度の弾性を有する。
【0027】
このコイル36の手元側の端部は操作部7の前端内部に配置したコイルストッパ40に突き当たってろう、半田、接着剤等で固着されており、この位置より後方側への移動と回転とが規制(阻止)されている。
【0028】
コイル36内を挿通されたワイヤ35はこのコイルストッパ40の孔を貫通して後方側に延出され、コイル36に対してワイヤ35は移動自在になっている。
【0029】
コイルストッパ40は、軟性管37の後端を操作部7に固定する後端口金41にビス42で固定されている。この後端口金41は、その外周に配置した円筒管43の前端付近でナット44で固定されている。一方、ワイヤ35の手元側の端部、つまり後端にはリング形状のワイヤストッパ45がろう付け等で強固に固定されている。
【0030】
また、コイルストッパ40とワイヤストッパ45の間には、前後方向に移動可能な牽引部材46が配置され、この牽引部材46は溝48内にワイヤ35を通すようにして移動リング47に固定されている。
【0031】
つまり、図3(B)に示すように半径方向にワイヤ35を通す溝48を形成した牽引部材46がビス49によって円管状の移動リング47の内周面に固定されている。
【0032】
この移動リング47は、円筒管43の内側を軸方向(前後方向)に移動可能である。したがって、この移動リング47とともに、牽引部材46が後方側に移動すると、図2の2点鎖線で示すように牽引部材46はワイヤストッパ45に突き当たることになる。さらに牽引部材46を後方側に移動させる操作を行うことにより、ワイヤストッパ45も後方側に移動されることになる。
【0033】
ワイヤストッパ45が後方側に移動されない状態では、コイルストッパ40により後方側への移動が規制されたコイル36は最も可撓性が高い状態、つまり最も屈曲し易い硬度が低い軟状態である。
【0034】
これに対し、コイルストッパ40が後方側に移動してワイヤ35の後端も同時に後方側に移動すると、相対的にコイルストッパ40はコイル36を前方側に押しつける圧縮力が作用する。
【0035】
つまり、ワイヤ35の後端を後方側に移動させる力を加えることによりコイル36に圧縮力を与えることになり、この圧縮力により、弾性を有するコイル36の可撓性を低い状態、つまり屈曲しにくい硬度(より正確には屈曲に対する硬度)が高い、硬い状態に設定できるようにしている。この場合、ワイヤストッパ45の後方側への移動量に応じてコイル36への圧縮力の大きさを変更でき、したがってその可撓性の大きさ(硬度の大きさ)を変更できるようにしている。
【0036】
前記円筒管43の外側にはカム筒体51がかぶさっている。このカム筒体51には、その筒体部分の対向する2箇所にカム溝52a、52bが螺旋状に設けられている。また、円筒管43にもその長手方向に長孔53が設けられている。移動リング47には、この移動リング47とともに移動する2つのピン54がカム溝52a又は52b及びその外側の長孔53を通してビス部で固定されている。
【0037】
カム筒体51にはその外側に硬度調整ノブ34が、周方向の複数ケ所のピン55によって固定されている。つまり、硬度調整ノブ34にはその内側のカム筒体51に届くピン孔が形成され、ピン55が嵌入され、充填剤56で塞ぐようにしている。
【0038】
硬度調整ノブ34はその前端が円環形状の当接部材57に突き当たり、前方ヘの移動が規制されている。この当接部材57は円筒管43の前端付近の外側に配置され、折れ止め部材10の後端を支持する支持部材58の外周にビス59で固定されている。
【0039】
また、この硬度調整ノブ34の後端側ではカム筒体51の外周面に把持部筒体61の前端の内周面が嵌合し、かつこの把持部筒体61の前端の外周面は硬度調整ノブ34の後端の切り欠いた内周面に嵌合している。つまり、硬度調整ノブ34は前後方向への移動が規制された状態で、カム筒体51を介して円筒管43の外周面に摺接し、(円筒管43の周りで)回動自在に配置されている。
【0040】
このように硬度調整ノブ34は回転操作可能であるが、当接部材57は回転しないようにビス59で固定されている。
【0041】
硬度調整ノブ34の前端内周面とその内側に対向する円筒管43の外周面との間にはOリング62が配置され、硬度調整ノブ34の前端内周面がOリング62に圧接している。又、カム筒体51の後端付近の外周面とこの外周面に嵌合する把持部筒体61の内周面との間にも、例えばカム筒体51側に設けた周溝にOリング63が収納され、把持部筒体61の内周面がOリング63に圧接している。
【0042】
つまり、Oリング62、63により水密を確保するとともに、カム筒体51及び硬度調整ノブ34に対して摩擦力を与えるようにして、その摩擦力により硬度調整ノブ34を操作した手を離してもその状態にロック(或いは保持)できるようにしている。
【0043】
図4は、カム筒体51のカム溝52a、52bの形状を示す。カム溝52a,52bは2条カムであり、その一方をカム溝52aもう一方をカム溝52bで示している。
【0044】
カム溝52a,52bは同じ形をしていてカム筒体51の軸に対して一方を180度回転した位置に他方が重なるような対称となる位置にそれぞれ設けられている。図4ではカム溝52a、52bは単純な滑らかな溝形状(滑らかな螺旋形状)をしている。
【0045】
図2に示すように、把持部31に隣接する前方位置に処置具挿入口32を形成する挿入口枠体65が設けられている。この挿入口枠体65は操作部7の内部において処置具挿入□32側と吸引管路66側とに分岐している分岐部材67に接続され、この分岐部材67の前端には挿入部6内に設けられた処置具チャンネル33の手元端の端部が接続部68により接続されている。
【0046】
また、この分岐部材67はビスにより円筒管43に固定されている。また、この円筒管43はその後端がビスにより操作部7の湾曲操作機構等が取り付けられる枠体60に接続されている。この円筒管43は硬度調整ノブ34側が回転されても回転しない構造となっている。
【0047】
挿入部6内には図3(A)に示すように様々の内蔵物が配置されている。つまり、上下、左右に対応する位置に配置された4本の湾曲ワイヤ27、中央付近に配置された2本の信号ケーブル21、中央の上部寄りに配置された2本のライトガイド14、下寄りに配置された処置具チャンネル33、左寄りに配置されたコイル36及びワイヤ35、これに隣接して配置された送気を行うための送気チューブ69及び送水するための送水チューブ70が内蔵されている。
【0048】
また、操作部7内にも図3(B)に示すような内蔵物が配置されている。この内蔵物の配置は図3(A)とほぼ同様である。
【0049】
ここで、前記コイル36について説明する。
前記コイル36は、例えばバネ用ステンレス鋼線を冷間自動コイリング機によって成形されたものである。図5(A)に示すように、この冷間自動コイリング機によって成形されたコイル36の素線表面には、コイリング時に生じた傷等が原因で凹凸が多く存在する凹凸面36aになっている。この凹凸をなくすため、本実施形態においてはコイル36に対して素線表面を平滑にする電解研磨を行う。
【0050】
電解研磨を行う際、図6に示すようにコイル36の一端側に重り71を引っ掛ける。そして、コイル36の他端を研磨用フック72に吊り下げた状態にして、このコイル36全体を電解研磨液73に浸漬させる。このことにより、コイル36が自重で鉛直下方に垂れ下がた状態になる。
【0051】
このとき、前記研磨用フック72に吊り下げたコイル36の下端に重り71が引っ掛かけられているので、電解研磨液73に浸漬されているコイル36の素線間隔は、図7(A)に示す初期状態の寸法aから図7(B)に示すように寸法aより幅広な寸法bに広がっている。このことによって、素線間に十分な隙間が形成されて電解研磨液が素線表面全体に行き渡るようになる。
【0052】
なお、前記研磨用フック72には図示しない配線によって電源の陽極が電気的に接続され、電解研磨液73中には図示しない銅板等の陰極が浸漬されている。また、前記コイル36の一端側に引っ掛けられる重り71の重量は、コイル36が弾性変形する範囲で所定間隔に広がるように設定されている。
【0053】
この状態で、電解研磨を行うため所定時間の通電を行う。すると、前記凹凸面36aの凸部が徐々に削られていく。そして、所定時間が経過すると、素線表面の凹凸面36aが図5(B)に示す平滑面36bになる。なお、この平滑面36bは、後述する素線の変形・摩耗を考慮して鏡面仕上げが望ましい。
【0054】
電解研磨終了後、水洗処理及び乾燥処理を行い、その後低温焼きなましを行って所定のコイル36が形成される。
【0055】
なお、電解研磨によりコイル素線の外径が減少する分を予め計算によって求め、その分余計にワイヤストッパ45を牽引するようにカム溝52のストロークを設定している。このため、初期状態での硬度変化の幅も従来のコイルによるものと変わらないようになっている。
【0056】
また、低温焼きなましを行う際には、図8に示すようにコイル36の一端部を熱処理用フック74に吊し、コイル36が自重で鉛直下方に垂れ下がった状態にする。このことにより、コイル36に曲がり癖が付くことが防止されるとともに、コイル36に均一に熱が伝達されて焼なましにムラが生じ難い。この方法で焼きなましを行うことによって、均質なコイルの製造を大量生産で可能にするという長所がある。
【0057】
ここで、上述の研磨処理を施したコイル36の作用を具体的に説明する。
コイル36は、初期状態で前記図7(A)で示すように、素線間隔が寸法aで巻回されている。硬度調整ノブ34を回転させて軟性部13を硬くさせた状態では、図7(C)に示すようにコイル36の素線が互いに強く密着して密着部を形成した状態になる。
【0058】
そして、この密着状態でコイル36を湾曲させると、図9に示すように湾曲部分内側の素線は、圧縮力を受けて弾性変形し、この際生じる反発力により硬さが上昇する。電解研磨を行わない従来タイプのコイルでは、前記硬度調整ノブ34を操作して軟性部13を硬くした場合、図10(A)に示すように素線表面に微視的に見ると多くの凹凸があることにより、たとえ素線同士が密着した状態であっても、多くの場合、密着部は微視的には互いの素線表面の凸部36c同士が接触した状態になっている。
【0059】
この場合、前記凸部36cに荷重が集中することにより、硬度を変化させる操作が数回行われると、図10(B)に示すように接触していた凸部36cが摩耗・変形する。この摩耗・変形が起こると、ワイヤストッパ45を初期と同じ長さ分だけ牽引しているにも関わらず、コイルの密着性が低下する。
【0060】
この密着性が低下すると、前記コイル36が湾曲された際、湾曲部分の内側に位置する素線の圧縮変形量が初期状態より小さくなって、この際生じる反発力が減少して軟性部の硬さが余り変化しなくなる。つまり、従来のコイルでは、硬度を変化させる操作を数回行っただけで、硬度変化の幅が急激に初期状態に比べて小さくなっていた。
【0061】
これに対し、本実施形態ではコイル36の素線表面を電解研磨によって予め凹凸を無くした平滑面36b若しくは鏡面に加工している。このため、前記硬度調整ノブ34を操作して軟性部13を硬くしようとした場合、素線の平滑面36b同士で密着した状態になる。このため、素線表面は摩耗・変形し難い。
【0062】
したがって、硬度を変化させる操作を繰り返し行った場合でもコイルの密着度が低下することがない。すなわち、繰り返しの硬度変化操作によって、硬度変化の幅が急激に小さく変化することがない。
【0063】
このように、成形後のコイルの素線表面に存在する凹凸面を、電解研磨によって平滑面にしたことによって、硬度調整ノブを操作して軟性部を硬くさせたとき、素線の平滑面同士が密着した状態になるので、素線表面が変形・摩耗することを防止することができる。このことにより、硬度調整手段を繰り返し使用した場合でも硬度調整機能が大きく劣化することが防止される。すなわち、コイルの密着度が低下することや硬度変化の幅が急激に小さくなることがなくなる。
【0064】
また、電解研磨を行う際、コイル素線間の幅寸法を所定の寸法に広げた状態にして電解研磨液に浸漬させたことにより、素線表面に十分電解研磨液が浸入して、全長に渡って一様に研磨を行うことができる。このことにより、コイルの品質が安定して、電解研磨のばらつきによるコイルの固体差が生じることによる硬度変化の幅がばらつく事態を避けられる。
【0065】
なお、本実施形態においてコイル36の材質を、ステンレス鋼としているが材質は特にステンレス鋼に限定されるものではなく、ばね鋼であればよく、例えばピアノ線、オイルテンパー線などがある。
【0066】
また、本実施形態では電解研磨法を用いて、コイル表面の研磨を行っているが、コイル表面の研磨を化学研磨によって行うようにしてもよい。また、前述した電解研磨を用いる方法の他に、特殊な薄型のヤスリ等による機械研磨なども考えられるが、機械研磨ではコイル素線間の小さな隙間を研磨するのが非常に困難である。これに対して、電解研磨による方法では作業も簡単で手間もかからないことから、生産コストを飛躍的に低減させることができる。なお、この効果は化学研磨でも同様である。
【0067】
さらに、本実施形態では冷間成形によりコイルを成形しているが、コイルの成形は熱間成形であってもよい。
【0068】
又、本実施形態では低温焼きなましを行っているが、使用するばね鋼の特性により、球状化焼きなまし、焼きならし、焼き入れ・焼き戻し、オーステンパー処理、析出硬化処理(析出硬化系ばね材料の場合)マルエージング(マルエージング鋼の場合)などの熱処理を選択することも考えられる。
【0069】
また、本実施形態では、コイリング機によるコイル成形後に研磨工程を設けているが、他の製作工程として、熱処理を行った後、研磨を行う方法を選択してもよい。この場合には、熱処理を行う際、冷間成形時の潤滑油がコイル表面に残存しているので、潤滑油が熱処理で燃焼・炭化する。このため、熱処理後、コイル表面の色が茶色に着色されるので、コイルを熱処理したことが一目で判別可能になる。このことにより、熱処理をしていないコイルを誤って次工程に流す不具合が確実に防止される。
【0070】
ただし、コイリングの際に使用される潤滑油は、炭化時に不快臭を発生させるので、潤滑油を洗滌した後、加熱により色が変化する薬剤をコイルの一部に塗布するようにしてもよい。
【0071】
また、本実施形態では重り71を使用して素線間に所望の間隔を形成させるようにしているが、この主旨とするところは、電解研磨を行うためにコイル36の素線間隔を所定の幅寸法に広げることである。このため、例えば、図11に示すようにコイル36の先端部及び基端部を、コイル36の全長よりも長い棒状の治具76の取付け部76a,76bにそれぞれ配置させ、このコイル36の素線間が所定の間隔に広がるように引き伸ばして電解研磨を行うようにしてもよい。なお、前記コイル36の素線間隔が初期状態で、電解研磨するのに既に十分に広がっている場合には、間隔をさらに広げることなく、その状態で電解研磨を行う。
【0072】
さらに、研磨後の処理としては、液体浸炭窒化法、軟窒化法、浸硫軟窒化法などの表面硬化処理を併用しもてよく、あるいはNi等のメッキ処理を施してもよい。これら表面処理を併用することにより、よりコイル表面の耐久性を向上させることができる。
【0073】
また、本実施形態では所定間隔を設けてコイル36の全面にわたって研磨を行うようにしているが、機能的に研磨する必要な部位は、コイル36が密着した状態になったとき、隣接する素線が互いに接触する部位のみである。したがって、例えばコイル36を内視鏡2に組み込む際、外表面にたとえ傷が入っていた場合でも、その傷が素線同士の接触部位でなければ、そのまま使用しても支障はない。しかし、素線が互いに接触する部位は、コイルが湾曲すると移動するため、研磨範囲としては、コイルが湾曲したときの接触部位までを十分にカバーするように設定する必要がある。
【0074】
上述のように構成したな内視鏡2の作用を簡単に説明する。
図2の実線で示す様に牽引部材46がワイヤストッパ45に突き当たっていない状態では、ワイヤ35に張力がかかっていないのでコイル36も柔らかい。したがって軟性部13は柔らかい屈曲し易い状態になっている。
【0075】
この状態で硬度調整ノブ34を図4の符号Cで示す方向(図4では左側が挿入部側とした状態で示している。)に回転させると、図4の実線で示すようにピン54が(カム筒体51に対して)カム溝52aの中を矢印Dで示すように移動する。また、このピン54は円筒管43の長手方向に形成した長孔53内に貫通しているので、移動リング47はピン54とともにこの長孔53に沿って後方に移動する。つまり、ピン54は実際には図4で水平方向(右側)に移動する。
【0076】
この移動により、移動リング47に固定された牽引部材46も後方に移動し、この移動により図2の実線の位置から2点鎖線で示す位置まで移動するとワイヤストッパ19に突き当たる。
【0077】
さらに硬度調整ノブ34を回転して、牽引部材46を後方に移動することによってワイヤ35に引張力が働き、かつコイル36に圧縮力を与えることでコイル36を硬くし、そのことによって軟性部13を硬くすることができる。
【0078】
このようにして、状況にあわせて自由に軟性部13の硬さが変化できるので、例えばS字結腸等の屈曲の強い部分では軟らかく、横行結腸等の弛みやすい部位では軟性部13を硬くするなどして、患者への内視鏡の挿入性を向上させることが可能である。
【0079】
なお、本発明は、以上述べた実施形態のみに限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形実施可能である。
【0080】
[付記]
以上詳述したような本発明の前記実施形態によれば、以下の如き構成を得ることができる。
【0081】
(1)内視鏡端挿入部を構成する軟性部内にコイルパイプとワイヤとを設け、このワイヤをコイルパイプに対して牽引して前記コイルパイプを圧縮させることによってコイルパイプの硬度を変化させ、前記軟性部の硬度調整を可能にした硬度調整手段を設けた内視鏡において、
前記コイルパイプの少なくとも隣接して互いに接触する素線表面を、研磨加工面で構成した内視鏡。
【0082】
(2)前記研磨加工は、電解研磨若しくは化学研磨である付記1記載の内視鏡。
(3)前記コイルパイプに研磨加工を施す際、コイル素線間の幅寸法を自然長以上で弾性変形領域以下になるよう保持する付記1記載の内視鏡。
【0083】
(4)前記研磨加工を施した面は鏡面である付記2記載の内視鏡。
【0084】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、硬度調整手段を繰り返し使用した場合でも、硬度調整機能が大きく劣化することを防止した内視鏡におけるコイルパイプ研磨方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1ないし図11は本発明の一実施形態に係り、図1は内視鏡装置の概略の構成を説明する図
【図2】内視鏡の構成を説明する長手軸方向断面図
【図3】内視鏡の構成を説明する長手軸方向に直交する断面図
【図4】カム体の具体例を示す図
【図5】素線表面を説明する図
【図6】電解研磨液にコイルを浸漬させて研磨する工程を説明する図
【図7】コイルの素線間の状態を説明する図
【図8】低温焼きなましを行う際のコイルの設置状態を示す図
【図9】コイルの素線が密着した状態で湾曲したときの内側と外側との状態を説明する図
【図10】コイルの素線同士が密着している状態の拡大図
【図11】コイル素線間を所定の間隔に設定する治具を説明する図
【符号の説明】
34…硬度調整ノブ
35…硬度変更用ワイヤ
36…硬度変更用コイルパイプ
36a…凹凸面
36b…平滑面
Claims (2)
- 内視鏡端挿入部を構成する軟性部内にコイルパイプとワイヤとを設け、このワイヤをコイルパイプに対して牽引して前記コイルパイプを圧縮させることによってコイルパイプの硬度を変化させ、前記軟性部の硬度調整を可能にした硬度調整手段を設けた内視鏡におけるコイルパイプ研磨方法において、
前記コイルパイプの素線を巻回してコイルパイプを成形するコイルパイプ成形工程と、
前記コイルパイプ成形工程において成形した後のコイルパイプの素線表面であって、少なくとも当該コイルパイプを圧縮した際に少なくとも隣接して互いに接触する素線表面を研磨加工するコイルパイプ素線表面研磨加工工程と、
を有し、
前記コイルパイプ素線表面研磨加工工程において当該素線間の幅寸法を自然長以上で弾性変形領域以下になるように保持することを特徴とする内視鏡におけるコイルパイプ研磨方法。 - 前記コイルパイプ素線表面研磨加工工程における研磨加工は、電解研磨または化学研磨であることを特徴とする請求項1に記載の内視鏡におけるコイルパイプ研磨方法。
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