JP3713649B2 - 躯体補強構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、既設建物を耐震補強するときに用いて好適な躯体補強構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、既設のビル等の建物の耐震性を高めるため、柱梁間に鉄骨製の補強ユニットを配設したり、柱梁に沿って鉄骨製の補強フレームを配したり、柱と梁とで囲まれた部分に新たに壁体を設けたり、またコンクリート壁が既にある場合にはその一面側あるいは両面側にコンクリートを増打ちしたりする等して、躯体を補強する構造が多種多様に提案され、実用化されている。
【0003】
これら従来の躯体補強構造で、柱や梁、壁等を補強するときには、地震発生時に作用する応力を、特定の階の床を介して分散させたりあるいは特定の耐震要素に集中して流すことがある。このような場合に、既設の床板が、応力を伝達するのに必要とされるせん断伝達能力を有していない場合には、床板についても補強を図る必要がある。
【0004】
従来、床板を補強するには、既設の床板を撤去し、ここに必要な厚さを有した床板を新たに設けたり、また床板の上面や下面にコンクリートを増し打ちする等することによって、床板を厚くしていた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述したような従来の耐震補強構造には、以下のような問題が存在する。
まず、既設の床板を撤去して床板を新設する工法では、既設の床板の撤去時に大きな騒音や振動が発生するため、作業環境も悪く、さらには施工中も建物を供用し続ける(いわゆる居抜き工事を行う)のが困難であるという問題がある。
また、既設の床板の上面にコンクリートを増し打ちする工法は、階高に余裕がない限り実現が困難である。
さらに、既設の床板の下面にコンクリートを増し打ちする工法は、図6に示すように、増し打ちしたコンクリートCを既設の躯体1側に確実に一体化するため、床板2の周囲の梁3にアンカー4やスタッド等を後施工で打ち込み、さらには既設の床板2の下面にもアンカー5等を打ち込まなければならない。ところが、これらアンカー4,5等の打込作業時や床板2の斫り作業時には騒音や振動、粉塵等が発生するため、これによっても作業環境が悪化するとともに、施工中も建物を供用し続けることが困難となることもある。加えて、既設躯体内の鉄骨や鉄筋、配管などのために、アンカー4,5等の打込箇所が限定されてしまい、施工性が悪く、また場合によっては配管等に損傷を与えてしまうことも考えられる。
【0006】
加えて、これら従来の工法では、いずれも補強後の床板の重量が重くなるため、これによってさらに躯体の補強を図る必要も生じ、効率よく躯体補強を図るのが難しかった。
【0007】
本発明は、以上のような点を考慮してなされたもので、施工時には騒音や振動の発生を抑え、施工後には、より高い耐震性能を得ることのできる躯体補強構造を提供することを課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明は、既設建物の躯体を補強する構造であって、前記躯体の床が、応力伝達に必要とされるせん断伝達能力を有していない場合に、前記躯体の床の下面と離間して、プレキャストコンクリートパネルからなる床補強体がその周囲側面を前記躯体に接合することによって配設され、前記床補強体と前記躯体との接合部には、せん断力を伝達するためコッターが前記躯体側に接着されることによって介装され、さらに前記床補強体が、脱落防止のために、前記躯体の床に固定された吊り下げ部材によって吊り下げられていることを特徴としている。
このようにコッターを躯体に接着することによって、施工時における騒音や振動の発生を抑えることができる。
【0010】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の躯体補強構造において、前記床補強体が外枠とブレースとを有した鋼製の補強フレームであることを特徴としている。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る躯体補強構造の第一及び第二の実施の形態について、図1ないし図5を参照して説明する。
【0013】
[第一の実施の形態]
まず、ここでは、床補強体として、例えばプレキャストコンクリートパネルを用いる場合の例を用いて説明する。
図1および図2において、符号10は例えば鉄筋コンクリート造のラーメン構造からなる既設建物の躯体、11は柱、12は大梁、13は小梁、14はスラブ(床)、Pは増設した補強パネル(床補強体、プレキャストコンクリートパネル)である。
【0014】
図1に示すように、増設した補強パネルPは、平面視略矩形で、例えば超軽量プレキャストコンクリートから形成されている。この超軽量プレキャストコンクリートとは、例えば比重1.2以下で構造材としての強度特性を有するものであり、例えば本出願人が既に出願した特願平4−55694号に記載された技術がある。図1および図2に示すように、補強パネルPの外周側面には、略台形状をなした外周凸部15が所定間隔ごとに多数連設されている。
【0015】
一方、この補強パネルPの周囲に位置する大梁12や小梁13の側面には、補強パネルPの外周側面と対向する位置に多数のコッター17が所定間隔ごとに配設されている。
図2に示したように、各コッター17は、例えば、プレキャストコンクリート製で、平板状の基部18と、この基部18の一面側に突出形成された略台形状の凸部19とから構成されている。基部18の取付面18a側は平面状で、この取付面18aを大梁12や小梁13の側面に接着することによって、各コッター17が既設の躯体10に取り付けられている。
【0016】
そして、図1および図2に示したように、補強パネルPは、周囲の大梁12や小梁13との間に、モルタル等の自硬性の充填材20が充填されることによって、既設の躯体10に一体化されている。このとき、補強パネルPと躯体10との間には、躯体10側にコッター17が設けられ、補強パネルP側にも外周凸部15が設けられており、これにより双方の間でのせん断応力の伝達が有効になされるようになっている。
【0017】
また、大梁12や小梁13によって囲まれた空間に、複数枚(図1においては例えば2枚)の補強パネルPを配設する場合、互いに隣接する補強パネルP,P間においては、双方の補強パネルP,P間に充填材20が充填され、この部分においても双方の補強パネルP,Pの外周凸部15,15により、せん断応力の伝達が有効になされるようになっている。
【0018】
ところで、補強パネルPは、その外周部が躯体10に接合されるだけではなく、床板14の下面に吊り下げられた構成となっている。すなわち、図2(a)に示したように、床板14の下面には、吊りボルト(吊り下げ部材)22が固定されている。そして、この吊りボルト22が補強パネルPの所定位置に予め形成された孔(図示なし)に挿通され、さらに吊りボルト22の下端部に孔(図示なし)よりも大径のナットやプレート等の吊り金具24が螺着されることによって、補強パネルPが床板14の下面に吊り下げられた構成となっている。
【0019】
上述した躯体10の補強構造では、既設のスラブ14の下面に、超軽量プレキャストコンクリートからなる補強パネルPが、その周囲側面を躯体10の大梁12,小梁13に接合することによって配設されてなり、補強パネルPと躯体10の接合部にはコッター17が躯体10側に接着されて介装された構成となっている。これにより、スラブ14を有効に補強して、せん断伝達能力を高めることができる。したがって、既設の躯体10の柱11や大梁12、壁等を補強したときに、地震発生時に作用する応力を、補強パネルPで補強したスラブ14を介して分散させたりあるいは特定の耐震要素に集中して流すことが可能となり、躯体10の耐震補強を効果的なものとすることが可能となる。しかも、コッター17は躯体10側に接着するようになっており、従来の既設の床を撤去する工法や、アンカーやスタッド等を打ち込む工法に比較して、施工時の騒音や振動を大幅に低減することができる。したがって、建物を供用したままで居抜き工事を行うことが可能となり、また既設の配筋や埋設配管等を傷めることもないので、施工を確実かつ低コストで行うことができる。
【0020】
また、補強パネルPをプレキャストコンクリート製とすることにより、現場でのコンクリート打設等の作業を省略して、施工工期の短縮化を図ることができる。さらに、補強パネルPに超軽量プレキャストコンクリートを用いることによって躯体10への負担を軽減することができ、補強効果をより効果的なものとすることができる。
【0021】
さらには、補強パネルPを、吊り金具24を用いてスラブ14の下面に吊り下げた構成となっている。これにより、施工中および施工後に脱落の心配が無く、万が一強大な地震により補強パネルPと周囲の躯体10との接合部が破損しても、補強パネルPの脱落を防止することができる。
【0022】
なお、上記第一の実施の形態において、大梁12と小梁13とによって囲まれた空間内に補強パネルPを2枚配設する構成としたが、その枚数については何ら限定する意図はなく、1枚でも良いし、また3枚以上としても良い。
【0023】
また、補強パネルP側に外周凸部15を設ける構成としたが、その形状や数については何ら限定するものではなく、さらには外周凸部15に代えて、例えばスタッド等を工場等で一体に設けておいても良い。
【0024】
[第二の実施の形態]
次に、床補強体として、例えばブレースを備えた鋼製の補強フレームを用いる場合の例を用いて説明する。以下に説明する第二の実施の形態において、前記第一の実施の形態と共通する構成については同符号を付し、その説明を省略する。
【0025】
図3に示すように、既設の躯体10を補強するため、大梁12と小梁13とによって囲まれた空間に増設された補強フレーム(床補強体)Fは、平面視略矩形の外枠31と、この外枠31の内側に例えば略X字状に組まれたブレース材32とから構成されている。図4に示すように、この補強フレームFは、外枠31やブレース材32を構成する例えば断面H型の鉄骨33のウェブ33aに、床板14の下面に固定された吊りボルト22が挿通され、さらに吊りボルト22の下端部に、ナットやプレート等の吊り金具24が螺着されることによって、床板14の下面に吊り下げられた構成となっている。
【0026】
一方、この補強フレームFの周囲に位置する大梁12や小梁13の側面には、補強フレームFの外周側面を構成するフランジ33bと対向する位置に、多数のコッター17が所定間隔ごとに配設されている。
【0027】
そして、図3および図4に示したように、補強フレームFは、周囲の大梁12や小梁13との間に、モルタル等の自硬性の充填材20が充填されることによって、既設の躯体10に一体化されている。このとき、補強フレームFと躯体10との間には、躯体10側にコッター17が設けられており、これによりせん断応力の伝達が有効になされるようになっている。
【0028】
上述したような躯体10の補強構造では、既設のスラブ14の下面に、補強フレームFが、その周囲側面を躯体10の大梁12,小梁13に接合することによって配設されてなり、補強フレームFと躯体10の接合部にはコッター17が躯体10側に接着されて介装された構成となっている。これにより、前記第一の実施の形態と同様の効果を得ることができ、施工時には騒音や振動の発生を抑え、施工後にはスラブ14を有効に補強してせん断伝達能力を高め、より高い耐震性能を得ることができる。
【0029】
なお、上記第二の実施の形態において、補強フレームFに略X字状のブレース材32を備える構成としたが、ブレース形態はいかなるものであっても良く、例えば略菱形、ハ字状、K型等、適宜他の形態のものとしても良い。
また、補強フレームFの外枠31の外周側面を構成する鉄骨33に、せん断力の伝達能力を高めるため、図5(a)に示すように、例えばフランジ33bにリブ36を一体に形成するようにしても良いし、また図5(b)に示すように、フランジ33bにコンクリート等でコッター37を取り付けるようにしてもよい。
【0030】
さらに、上記第一及び第二の実施の形態において、補強パネルPや補強フレームFを用いた躯体10の補強構造において、その施工方法は何ら問うものではない。
【0031】
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない範囲内であれば、いかなる構成を採用しても良く、また上記したような構成を適宜選択的に組み合わせたものとしても良いのは言うまでもない。
【0032】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1に係る躯体補強構造によれば、躯体の床の下面と離間して、プレキャストコンクリートパネルからなる床補強体がその周囲側面を躯体に接合することによって配設され、床補強体と躯体との接合部にはコッターが躯体側に接着されて介装された構成となっている。これにより、床を有効に補強して、せん断伝達能力を高めることができる。したがって、柱や梁、壁等を補強したときに地震発生時に作用する応力を、このようにして補強した床を介して、分散させたりあるいは特定の耐震要素に集中して流すことが可能となり、躯体の耐震補強を効果的なものとすることが可能となる。しかも、床補強体と躯体との間に設けたコッターは、躯体に接着するようになっており、従来の既設の床を撤去する工法や、アンカーやスタッド等を打ち込む工法に比較して、騒音や振動を大幅に低減することができる。したがって、建物を供用したままで居抜き工事を行うことが可能となり、また既設の配筋や埋設配管等を傷めることもないので、施工を確実かつ低コストで行うことができる。
【0033】
また、請求項1に係る躯体補強構造によれば、床補強体を、プレキャストコンクリートパネルとする構成とし、請求項2に係る躯体補強構造によれば、床補強体を、外枠とブレースとを有した鋼製の補強フレームとする構成とした。このように床補強体をプレキャストコンクリートパネルや補強フレームとすることによって、現場でのコンクリートの打設等の作業を省略して、施工工期の短縮化を図ることができ、しかも超軽量のプレキャストコンクリートパネルを用いたり、また鋼製のフレームを用いることによって、躯体への負担を軽減することができ、補強効果をより効果的なものとすることができる。
【0034】
さらに、請求項1に係る躯体補強構造によれば、床補強体を躯体の床に吊り下げ部材で吊り下げた構成となっている。これにより、施工中および施工後に脱落の心配がなく、万が一強大な地震により床補強体と周囲の躯体との接合部が破損しても、床補強体の脱落を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る躯体補強構造の第一の実施の形態を示す図であって、補強前と補強後の床を下方から見上げた状態を示す図である。
【図2】 同、床補強体と躯体との接合部を示す立断面図および平断面図である。
【図3】 本発明に係る躯体補強構造の第二の実施の形態を示す図であって、補強前と補強後の床を下方から見上げた状態を示す図である。
【図4】 同、床補強体と躯体との接合部を示す立断面図である。
【図5】 同、補強フレームの他の例を示す図である。
【図6】 従来の躯体補強構造の一例を示す立断面図である。
【符号の説明】
10 躯体
14 スラブ(床)
17 コッター
22 吊りボルト(吊り下げ部材)
31 外枠
32 ブレース
F 補強フレーム(床補強体)
P 補強パネル(床補強体、プレキャストコンクリートパネル)
Claims (2)
- 既設建物の躯体を補強する構造であって、前記躯体の床が、応力伝達に必要とされるせん断伝達能力を有していない場合に、前記躯体の床の下面と離間して、プレキャストコンクリートパネルからなる床補強体がその周囲側面を前記躯体に接合することによって配設され、前記床補強体と前記躯体との接合部には、せん断力を伝達するためコッターが前記躯体側に接着されることによって介装され、さらに前記床補強体が、脱落防止のために、前記躯体の床に固定された吊り下げ部材によって吊り下げられていることを特徴とする躯体補強構造。
- 請求項1記載の躯体補強構造において、前記床補強体が外枠とブレースとを有した鋼製の補強フレームであることを特徴とする躯体補強構造。
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JPH11182059A JPH11182059A (ja) | 1999-07-06 |
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