JP3712697B2 - スラグ温度計測装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は灰溶融スラグの温度を計測するスラグ温度計測装置に関する。本計測装置を用いてスラグ以外の高温物体の表面温度を計測できることはいうまでもない。
【0002】
【従来の技術】
下水汚泥、都市ゴミ、産業廃棄物等の焼却灰(粉体無機物)は、その資源化、減容化、および無害化等のために、さらに、灰溶融炉で溶融されスラグとして取り出されている。そこでその灰溶融炉内の温度管理が必要である。
ところが、灰溶融炉内の温度は非常に高く、熱電対をスラグ内に浸漬する方法では耐久性が悪い。そこで、特開2001−249049号公報に記載されているような放射温度計測装置がある。
【0003】
この温度計測装置はスラグの表面から発する赤外光をチョッパで光路を開閉しながら任意に選択したそれぞれ互いに異なる複数の波長域毎に別個の焦電素子に導き各焦電素子の出力電圧からエネルギ比を出しスラグの温度を計測するものである。
【0004】
しかしながら、上記の温度計測装置には、検出電圧が不安定、速い温度変化に追従できない、光量の調整が困難である、スラグ上方のガスの影響を受ける、焦電素子に間欠的に入光せしめるチョッパの影響を受ける、異なる場所で計測すると温度が異なる、等の問題があり、安定して計測をおこなうことができなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記問題に鑑み、スラグの表面から発する赤外光をチョッパで光路を開閉しながら任意に選択したそれぞれ互いに異なる複数の波長域毎に別個の焦電素子に導き各焦電素子の出力電圧からエネルギ比を出しスラグの温度を計測するスラグ温度計測装置において、安定してスラグの温度を計測できるようにすることを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明では、スラグの表面から発する赤外光の波長域毎のエネルギ積分値の比から温度を計測するスラグ温度計測手法を用いて、スラグの表面から発する赤外光をチョッパで光路を開閉しながら任意に選択したそれぞれ互いに異なる複数の波長域毎に焦電素子に導き焦電素子の出力電圧からエネルギ比を出すスラグ温度計測装置において、以下のように改善されている。
【0007】
請求項1の発明では、チョッパが扇形の切り欠きを有する円板を回転させて成り、複数の焦電素子が円板の回転中心から半径方向に延伸する直線上に直列に配設され各焦電素子に同時に入光せしめるようにされており、各焦電素子に異なる周波数域の光が同時に導入されるので精度がよく、測定もやりやすい。
請求項2の発明では、チョッパが光路を開く開時間と光路を閉じる閉時間が同じになるように形成されており、焦電素子の波形を安定させることができる。
【0008】
請求項の発明では、光路上に、開口径可変の絞りを配設し、絞りとチョッパの開閉周波数で焦電素子の出力を調整するようにされており、出力調整がやりやすい。そして、絞りの方が調整幅が大きいので、請求項の発明では、焦電素子の出力を絞りで粗調整し、チョッパの開閉周波数で微調整をするようにされている。
【0009】
請求項の発明では、チョッパの回転周波数が0.05Hz以上にされているが、その結果、焦電素子の出力波形が+のピークと−のピークへ略直線的につながる正弦波状となり測定がしやすいためである。逆に、回転周波数が0.05Hz以下では、+のピークと−のピークが途中で折れ曲がってつながり、測定がしにくい。
【0010】
請求項の発明では、複数の波長域が3〜5μmと7〜15μmの一つまたは両方内に設定される。このような領域では、スラグの上方に存在する水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、メタン等のガスによる光の吸収が少なく、安定して測定ができる。
請求項の発明では、複数の波長域が3.7〜4.2μmと8〜14μmの一つまたは両方内に設定される。このような領域では、スラグの上方に存在する水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、メタン等のガスによる光の吸収がさらに少なく、さらに安定して測定ができる。
請求項の発明では、複数の波長域が3.8〜4.0μmと9〜11μmの一つまたは両方内に設定される。このような領域では、スラグの上方に存在する水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、メタン等のガスによる光の吸収が、より一層少なく、より一層安定して測定ができる。
【0011】
請求項の発明では複数のチョッパを光路にそって直列配置しており、その結果、焦電素子に近い側のチョッパの温度を安定化させている。
請求項10の発明では、チョッパの少なくとも焦電素子側が黒色にされているので、余分な反射光が焦電素子に入光することが防止され、精度が向上する。
【0012】
請求項11の発明では、異なる波長域を設定するためのバンドパスフィルタが配設されているので、交換がしやすく、準備が簡単であり、波長域の選択もやりやすい。
【0013】
請求項12の発明では、測定場所毎にある温度での理論値に対する補正比を求めておき、各測定場所での焦電素子の出力電圧の比にこの比に基づく補正比を乗算したもので出力電圧の比をもとめるようにされており、測定場所を変更しても精度よく測定できる。
【0014】
請求項13の発明では、異常値を検出して警報を発する警報手段を有するので、異常値がでた場合に作業者はこれを察知できる。
【0015】
請求項14の発明では、窓曇り異常を検出して警報を発する警報手段を有するので、異常値がでた場合に作業者はこれを察知できる。
【0016】
請求項15の発明では、焦電素子に赤外光を導くためのレンズが、スラグ上方のガスから発光している赤外光をも焦電素子上に集められるレンズ可変機構を有し、焦電素子の位置を変更せずにスラグとガスの温度を計測することができる。
【0017】
請求項16の発明ではレンズ可変機構は異なる焦点距離を有する複数のレンズを取り付けたレンズ取り付け板を回転可能に配設して形成され、請求項17の発明ではレンズ可変機構は1つのレンズの焦電素子との距離を可変にするレンズ距離変更装置とされる。請求項18の発明では、レンズ距離変更装置は、固定配置される固定筒体に対する相対位置可変に配設可能な可動筒体にレンズを取り付けて形成され、請求項19の発明では、さらに、可動筒体に、焦電素子と発光点の距離を示す目盛りが設けられている。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、添付の図面を参照して本発明のスラグ温度計測装置の実施の形態について説明する。
初めに、図1が本発明の第1の実施の形態のスラグ温度計測装置10の構造を概略的に説明する図であるが、初めに、このスラグ温度計測装置10が取り付けられるプラズマ灰溶融炉1について図2を参照して簡単に説明する。
【0019】
プラズマ灰溶融炉1はレンガ等の耐火材によって有底円筒状に形成された炉本体3と上蓋部材4を有し、炉本体3の図中左側の側壁には下水汚泥、都市ゴミ、産業廃棄物等の焼却灰を投入する投入口5がまた図中右側の側壁の下部には溶融したスラグおよびガスを抜き出す排出口6が設けられている。上蓋部材4の中央には図示しない直流電源装置に接続された主電極7が配設され、炉本体3の底部中央には炉底電極8が配設されている。主電極7には図示しない窒素ガス供給装置から窒素ガスが供給され、主電極7と炉底電極8の間でプラズマ放電がおこなわれ、炉本体3の内部に投入された灰が溶融される。
そして、図1に示されるスラグ温度計測装置10は上蓋部材4に設けられた光取り出し通路9に取り付けられている。
【0020】
図1に戻って、スラグ温度計測装置10の詳細について説明する。
スラグ温度計測装置10は全体が筐体100内に収納されている。筐体100は、入光窓110に近い方から第1部分100a、第2部分100b、第3部分100cを有し、図中最上部には上蓋部材100dが設けられていて内面は黒色にされている。
【0021】
筐体100の第1部分100aの下端にはフランジ101aが形成され、光取り出し通路9の上端に形成されているフランジ101bと協働して入光窓110を挟持している。入光窓110は耐熱性に優れ、赤外光を透過するセレン化亜鉛(ZnSe)またはゲルマニウム(Ge)で形成されている。入光窓110はスラグ上方のガスで汚れるので容易に取り換え、または清掃ができる構造とすることが好ましい。
【0022】
筐体100の第1部分100aには、スラグ側に絞り120が取り付けられ、絞り120よりも反スラグ側にはレンズ130が配設されている。
絞り120は、中央の開口面積を変更することができる。図3は絞り120の開口面積と出力電圧の関係を示す図であって、出力電圧は開口面積にリニアに比例する。
レンズ130は入光窓110と同じセレン化亜鉛またはゲルマニウム(Ge)製であって、図示されるように凸または平凸レンズであって、スラグの表面から発した赤外光を後述の焦電素子160上に集める。
【0023】
筐体100の第2部分100bは単なる光路とされており何も配設されていない。
筐体100の第3部分100cには、光の進行方向に沿って、スラグ側から、チョッパ140、光学的なバンドパスフィルタ150、焦電素子160、が配設されている。さらに、その後方には焦電素子160の出力電圧を増幅するアンプ170、演算回路180が内蔵されている。
【0024】
チョッパ140は光路に対して直列に配置された第1チョッパ141と第2チョッパ142から成り、スラグに近い側の第1チョッパ141と遠い側の第2チョッパ142は共にモータ147の回転軸148に取り付けられており、同時に回転するようにされている。第1チョッパ141と第2チョパ142は全く同じ構造であるので第1チョッパ141についてのみ説明する。
【0025】
図4がチョッパ140を筐体100の第2部分100b側から見た図であり、第1チョッパ141が示されている。図示のように、第1チョッパ141は円板に扇形の切り欠部143を2つ設けて形成されている。各切り欠き部143の開角αは90度であり、2つの切り欠き143の間の閉じられた非切り欠き部145の角度すなわち閉角βも90度である。すなわち、360度が、90度開、90度閉、90度開、90度閉に分割されている。
【0026】
また、焦電素子160の出力は第2チョッパ142の温度とスラグの温度の差により決定されるので第2チョッパ142の温度を安定化させるために少なくとも第2チョッパ142の焦電素子側の面は黒色にされ、スラグ側の面は反射しやすい色にされている。第1チョッパ141も全く同様な切り欠き、色を有し、その切り欠きは軸方向から見て第2チョッパ142全く同じ角度位置に配されている。
【0027】
焦電素子160は、周知の通り、遮光状態から入光状態への変化時に+(プラス)の出力をし、入光状態から遮光状態への変化時に−(マイナス)の出力をし、変化のない状態では出力をしないものである。したがって、上記のようなチョッパ140を回転させて間欠的に焦電素子160に入光せしめるのである。
【0028】
図4において実線の丸印で示されているのは第1、第2焦電素子161、162であって、点線の丸印で示されているのが第1、第2焦電素子161,162に入光する波長域を決定する第1、第2バンドパスフィルタ151、152である。
そして、図示されるように、第1、第2焦電素子161、162はチョッパ140の半径方向に直列に配列されているので第1、第2焦電素子161、162に入光する光は完全に同期している。
【0029】
この実施の形態では、後述するように、2つの波長域の出力の差によって、スラグ温度を測定するので、このように2つの波長域の光が互いに同期するように入光することによって2つの波長域の光が同じタイミングで測定されるので、測定が容易であり、精度が良い。
【0030】
さらに、測定を容易にするには、焦電素子160の入光から遮光への移行時のプラスにおける凸の出力と遮光から入光へのマイナスにおける凸の出力の始点と終点が連続する正弦曲線的な出力にすることが好ましい。
そこで、チョッパ140の回転周波数を変化させたときに出力電圧の変化を測定した。図5がその測定結果を示す図であって、ある2つの波長の光に対してチョッパ140の回転周波数を変化させた時の出力電圧の変化を示している。
その結果、上記のように、正弦波形の出力を得るには回転周波数が0.05Hz以下では、正弦曲線的な出力を得ることはできないことが判明した。そこで、本発明では、チョッパ140を0.05Hz以上の回転周波数で回転させて測定をおこなった。
【0031】
図6は上記のようにチョッパ140の回転周波数を選択した時の第1焦電素子161の出力EV1と第2焦電素子162の出力EV2の例を示す図である。この図は、図4に示すように第1、第2焦電素子161,162を半径方向に直列に配列することと、図5に示すようにチョッパ140の回転周波数を選択することにより得られるものである。
【0032】
次にバンドパスフィルタ150について説明する。
プラズマ灰溶融炉1のスラグ表面と入射窓の間には色々なガスが存在する。これらのガスはスラッグ表面から入射窓に達する赤外光のある波長域の光を吸収し透過しない。したがって、これらのガスが吸収しない波長域の光を使用することが望ましい。
【0033】
上記のガスとしては、水蒸気(HO)、メタン(CH)、一酸化炭素(CO)、二酸化炭素(CO)等がある。そこで、これらのガスで吸収される波長域を除いた波長域の光を選択することが好ましい。
【0034】
図7は上記を説明する図であって、最上段の横向き棒グラフで示されているのが水蒸気が吸収する波長域であり、上から2段目の横向き棒グラフで示されているのが二酸化炭素が吸収する波長域であり、上から3段目の横向き棒グラフで示されているのが一酸化炭素が吸収する波長域であり、最下段の横向き棒グラフで島されているのがメタンが吸収する波長域である。
【0035】
そこで、本実施の形態においては、これらの4つの吸収域を避けて、左下がりのハッチングを付して示される3.7〜4.2μmの波長域、あるいは、右下がりのハッチングを付して示される8〜14μmの波長域の、一方または両方に、測定用の2つの波長域を設定する。なお、現在ではバンドパスフィルタは0.1μmのレベルで設定可能である。
【0036】
図1にもどって、アンプ170、演算回路180について説明する。アンプ170は電気回路であり増幅率を変更することは容易であり、可変とされているが、増幅率が大きいと誤差が大きいので頻繁に変更はせず略固定した値にされる。
演算回路180は、アンプ170で増幅された第1焦電素子161と第2焦電素子162の出力差からスラグ温度を演算し、筐体100の外部に設けられた温度表示器200に信号を送り、温度表示器200がスラグ温度を表示する。
【0037】
また、プラズマ灰溶融炉1の燃焼条件が同じで、調節パラメータが同じで、同じ温度となるべき時に、同じ温度とならない場合は、窓110の曇り等の異常が発生したものと考えられるので、このような場合にアラーム信号を発するアラーム回路が演算回路に含まれており、アラーム信号は警報器210に送られ、警報器210は警報を発する。
【0038】
以下、上記のように構成された装置を使用した測定方法について説明する。
その基本的原理は、プランクのエネルギ放射則において、2つの波長域のエネルギ強度比は温度毎に一定であることを利用し、選択した2つの波長のエネルギ比から温度を推定するものである。
【0039】
測定に使用する2つ波長域は、図7のグラフで吸収されない波長域から選択する。例えば、前述したようにスラグ上方のガスにより吸収されない3.7〜4.2μmの間から3.8〜4.1μmの波長域を第1波長域として選択し、8〜14μmの間から9〜10μmの波長域を第2波長域として選択する。このように選択したら、第1バンドパスフィルタ161を3.8〜4.1μmの波長域を通過させるものに設定し、第2バンドパスフィルタ162を9〜10μmの波長域を通過させるものに設定する。
【0040】
なお、3.7〜4.2μmの間に第1、第2の波長域を選択することも、あるいは、逆に、8〜14μmの間に、第1、第2の波長域を選択することも可能である。
定性的には、2つの波長域を近接して設定すれば、ガスによる吸収率の違いの影響が似たものとなりガス等の影響を受けにくいが、出力差が大きくなく演算誤差が出やすい。逆に上述のように2つの波長域を離して設定すれば、ガスによる吸収率の違いの影響が出やすいが、出力差が大きく演算誤差が出にくいという傾向がある。
【0041】
チョッパ140を通過するまでは第1波長域の光も第2波長域の光も同じ条件であり、第1、第2焦電素子161、162は同じ受光面積を有するように設定されている。したがって、第1焦電素子161と第2焦電素子162の発生電圧の比は第1波長域のエネルギと第2波長域のエネルギに比例する。
【0042】
ここで、第1焦電素子161と第2焦電素子162の発生電圧を調整する必要がある。発生電圧を調整するには入光量を調整する方法とアンプ170の増幅率を変更する方法があるがアンプ170の増幅率を大きくすると誤差が増大するのでできるだけアンプ170の増幅率は低く抑え、かつ、頻繁には調整しない準固定状態にし、入光量を調整する方法を選択することが望ましい。
入光量は、絞り120とチョッパ140の回転周波数で調整することができるが、絞り120の方が調整幅が大きいので、絞り120で粗調整し、チョッパ140の回転周波数で微調整をおこなう。
【0043】
図3に示したように、絞り120の開口面積に対して、出力電圧は略リニアに比例し、例えば、開口面積を4倍にすれば、出力電圧は4倍になる。そこで、このグラフを参照しながら、絞り120の開口面積を大まかに選択する。
開口面積の選択が終了したら、次に、図5のグラフを参照しながら、チョッパ140の回転周波数を0.05Hz以上の範囲で微調整し、アンプ170の増幅率を含めた出力電圧が所望のレベルになるようにする。
このように調整パラメータを設定しておき、それぞれ、図6に示されるように出力(+のピークから−のピークまでの幅)する第1焦電素子161の出力EV1と第2焦電素子162の出力EV2の比REV=EV1/EV2をもとめる。
【0044】
一方、図8に示されるような波長に対するエネルギ放射強度を示すプランクのエネルギ放射則のグラフの各温度の前記選択した第1、第2波長域におけるエネルギの積分値Σe1、Σe2を求め、図9のようなマップを作成する。次に図10に示すような各温度におけるΣe1/Σe2の比のマップを作成する。
【0045】
そして、この図9のマップ上で、先にもとめた第1焦電素子161の出力EV1と第2焦電素子162の出力EV2の比REV=EV1/EV2となる温度温度が求めるスラグ温度である。これらの演算は全て演算回路170でおこない、その結果が表示装置200に送られて表示される。
【0046】
本実施の形態においては上記のようにしてスラグの温度が計測されるが、窓110が曇ったりすると、同じ条件で運転し当然同じ温度になるべきところが、異なる温度を示す可能性がある、そこで、警報装置210は、最終的に求めた温度、あるいは、焦電素子140の出力が変動範囲を超えて異常な値になった場合に、警報を発する。
【0047】
一方、計測場所を変更すると光路途中の状況により焦電素子140の出力が変わる可能性がある。
そこで、ある温度における、各場所における出力比をもとめて、理論値と比較し、理論値にあわせるための補正係数をもとめておく。そして、各場所に応じた補正値を乗じて、温度をもとめる。
例えば、ある1300Kの理論的な出力比が1.8であった場合に、その温度であることが確実でありながらある場所で計測した時に、その温度に対して出力比が1.5しかしない場合には、その場所の補正値として1.2を与える。そして、その場所での測定した出力比には、すべて、1.2を乗じてから、図9のマップにもとづき温度を計算するのである。
【0048】
上記のようにして、スラグ温度の計測がおこなわれるので、計測が安定し、かつ、効率よくおこなわれ、精度も良い。
なお、この温度計測装置はスラグの温度計測のみならず、同様な高温物体の温度計測に使用することができる。
【0049】
上述のように第1の実施の形態の温度計測装置はスラグの温度計測のみならず同様な高温物体の温度計測に使用できる。例えば、スラグの上方にあるガスが発光している場合にその温度を計測することができる。
しかし、スラグとその上方にあるガスでは焦電素子160に赤外光を集めるレンズと発光点の距離が異なるのでスラグ用に設定されたレンズのままではガスから発光している赤外光を焦電素子160に集めることはできない。
【0050】
そこで、以下、スラグの上方に存在するガスが発光している場合にガスの温度を容易に測れるようなレンズ可変機構を備えた第2の実施の形態について説明する。図11がこの第2の実施の形態のレンズ可変機構を示す図であって、例えば、4つの焦点距離の異なるレンズ130a〜130dが上下一対の穴あき円板301と302から成るレンズ取り付け板300に取り付けられている。但し、図11では、その内のレンズ130aと130bのみ示されている。
【0051】
レンズ取り付け板300は拡大された筐体100の第3部分100c内に収容され、軸303に固定されている。軸303は筐体100の第3部分100cに回転可能に支持されて外側まで延伸し、その先端部分がギヤ列320を介してモータ310の軸311に係合されている。モータ310を回転することによりによりレンズ取り付け板300を回転してガスの計測に最適なレンズを選択することができる。あるいは、モータ310のかわりに手動ハンドルをつけて手動で回転してもよい。
【0052】
図12はレンズ取り付け板300に取り付けられたレンズ130a〜130dを単体で示したものである。なお、レンズ130a〜130dの内の一つはスラグ表面から発した赤外光を焦電素子160に集められるような焦点距離とされるがその他はよりレンズに近いガス内で発光した赤外光を焦電素子160に集められるように、より焦点距離の短いレンズとされる。
第2の実施の形態は上記のように構成され、レンズ取り付け板300を回転するだけでスラグの上方のガス内で発光した赤外光の温度を容易に計測することができる。
【0053】
次に、第3の実施の形態を説明する。この第3の実施の形態もスラグの上方に存在するガスが発光している場合にガスの温度を容易に測れるようにレンズ可変機構を備えたものであるが、第2の実施の形態とは異なり1個のレンズ130を動かすようにしたものである。図13がこの第3の実施の形態の構成を示す図である。
【0054】
図3を参照すると、筐体100の第1部分100aが第1の実施の形態に対して上方に延長されその内部に固定筒体410が固定されている。固定筒体410の内側には可動筒体420が配設されていて可動筒体420は所望の位置でネジ430により固定筒体に固定される。ネジ430で可動筒体420を固定筒体410に固定できるように筐体100の第1部分100aには切り欠き100dが設けられている。
【0055】
さらに、切り欠き100dを通して視認できる可動筒体420の表面部分421に焦電素子160と発光点の距離を示す目盛り440が設けられている。図14は目盛りが設けられた部分の拡大図である。
発光点とレンズ130の距離をa、レンズ130と焦電素子160との距離をb、レンズ130の焦点距離をfとすればb=a×f/(a−f)である。
各目盛りの位置におけるbの値は予め知ることができ、fの値も予め知ることができる。これを上記の式に代入すればaが求まる。aが求められれば発光点と焦電素子160との距離はa+bで求まる。
したがって、目盛り440には上記のように計算される距離をそのまま刻印してもよいし、あるいは、スペース的に無理であれば、単なる番号を刻印しておいて、別途設けた計算表で距離をもとめるようにしてもよい。
【0056】
第3の実施の形態は上記のように構成され、レンズ130を取り付けた可動筐体420を移動するだけでスラグの上方のガス内で発光した赤外光の温度を容易に計測することができる。
【0057】
【発明の効果】
各請求項に記載の発明は、スラグの表面から発する赤外光の波長域毎のエネルギ積分値の比から温度を計測するスラグ温度計測手法を用いて、スラグの表面から発する赤外光をチョッパで光路を開閉しながら任意に選択したそれぞれ互いに異なる複数の波長域毎に焦電素子に導き焦電素子の出力電圧からエネルギ比を出すスラグ温度計測装置であるが、チョッパが扇形の切り欠きを有する円板を回転させて成り、複数の焦電素子が円板の回転中心から半径方向に延伸する直線上に直列に配設され各焦電素子に同時に入光せしめるようにされており、各焦電素子に異なる周波数域の光が同時に導入されるので精度がよく、測定もやりやすい。
請求項2の発明のように、チョッパが光路を開く開時間と光路を閉じる閉時間が同じになるように形成することにより、焦電素子の波形を安定させることができる。
【0058】
請求項の発明のように、光路上に、開口径可変の絞りを配設し、絞りとチョッパの開閉周波数で焦電素子の出力を調整するようにすることにより、出力調整がやりやすくなる。そして、絞りの方が調整幅が大きいので請求項の発明のように焦電素子の出力を絞りで粗調整し、チョッパの開閉周波数で微調整をすれば調整がしやすい。
【0059】
請求項の発明のように、チョッパの回転周波数が0.05Hz以上にすることにより、焦電素子の出力波形が+のピークと−のピークへ略直線的につながる正弦波状となり測定がしやすい。
請求項の発明のように、複数の波長域を3〜5μmと7〜15μmの一つまたは両方内に設定することにより、スラグの上方に存在する水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、メタン等のガスによる光の吸収が少なく安定して測定ができる。
請求項の発明のように、複数の波長域を3.7〜4.2μmと8〜14μmの一つまたは両方内に設定すれば、スラグの上方に存在する水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、メタン等のガスによる光の吸収がさらに少なく、さらに安定して測定ができる。
請求項の発明のように、複数の波長域を3.8〜4.0μmと9〜11μmの一つまたは両方内に設定すれば、スラグの上方に存在する水蒸気、一酸化炭素、二酸化炭素、メタン等のガスによる光の吸収がより一層少なく、より一層安定して測定ができる。
【0060】
請求項の発明のように、複数のチョッパを光路にそって直列配置され焦電素子に近い側のチョッパの温度を安定化させれば、チョッパを冷却することなく出力を安定させることができる。
請求項10の発明のように、チョッパの少なくとも焦電素子側が黒色にすることにより、余分な反射光が焦電素子に入光せず精度が向上する。
【0061】
請求項11の発明のように、異なる波長域を設定するためのバンドパスフィルタが配設することにより波長域の選択もやりやすい。
請求項12の発明のように、測定場所毎にある温度での理論値に対する補正比を求めておき、各測定場所での焦電素子の出力電圧の比にこの比に基づく補正比を乗算したもので出力電圧の比をもとめるようにすることにより、測定場所を変更しても精度よく測定できる。
請求項13の発明のように、異常値を検出して警報を発する警報手段を有するようにすれば、異常値がでた場合に作業者はこれを察知できる。
請求項14の発明のように、窓曇り異常を検出して警報を発する警報手段を有すれば、異常値がでた場合に作業者はこれを察知できる。
【0062】
請求項15の発明のように、焦電素子に赤外光を導くためのレンズが、スラグ上方のガスから発光している赤外光をも焦電素子上に集められるレンズ可変機構を有していれば、焦電素子の位置を変更せずにスラグとスラグ上方のガスの温度を計測することができる。そして、請求項16の発明のようにレンズ可変機構を異なる焦点距離を有する複数のレンズを取り付けたレンズ取り付け板を回転可能に配設して形成すればレンズ取り付け板を回転するだけでスラグとスラグ上方のガス温度も計測できる。また、請求項17の発明のようにレンズ可変機構を1つのレンズの焦電素子との距離を可変にするレンズ距離変更装置とすればレンズの焦電素子との距離を変更するだけでスラグとスラグ上方のガスの温度を計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態のスラグ温度計測装置の構成を概略的に説明する図である。
【図2】本発明のスラグ温度計測装置が取り付けられるプラズマ灰溶融炉の全体の構造を示す図である。
【図3】絞りの開口面積と焦電素子の出力の関係を示す図である。
【図4】チョッパと焦電素子の位置関係を示す図である。
【図5】チョッパの回転周波数と焦電素子の出力の関係を示す図である。
【図6】焦電素子の出力波形を示す図である。
【図7】各種ガスの吸収率が高い波長域を示す図である。
【図8】プランクの放射強度側グラフ上に示した第1波長域と第2波長域の例。
【図9】温度に対する第1波長域と第2波長域の出力の変化を示す図(理論値)。
【図10】温度に対する第1波長域と第2波長域の出力の比(理論値)と、そこに測定された出力比をプロットして温度を求める様子を示す図である。
【図11】第2の実施の形態のスラグ温度計測装置の構成を概略的に説明する図である。
【図12】第2の実施の形態におけるレンズ取り付け板に取り付けられた複数のレンズを示す図である。
【図13】第3の実施の形態のスラグ温度計測装置の構成を概略的に説明する図である。
【図14】第3の実施の形態において可動筐体に設けられた目盛りを示す図である。
【符号の説明】
110…入光窓
120…絞り
130…レンズ
140…チョッパ
141…第1チョッパ
142…第2チョッパ
150…バンドパスフィルタ
151…第1バンドパスフィルタ
152…第2バンドパスフィルタ
160…焦電素子
161…第1焦電素子
162…第2焦電素子
147…モータ
170…アンプ
180…演算回路
200…表示装置
210…警報装置
300…レンズ取り付け板
410…固定筒体
420…可動筒体

Claims (19)

  1. スラグの表面から発する赤外光の波長域毎のエネルギ積分値の比から温度を計測するスラグ温度計測手法を用いて、スラグの表面から発する赤外光をチョッパで光路を開閉しながら任意に選択したそれぞれ互いに異なる複数の波長域毎に別個の焦電素子に導き各焦電素子の出力電圧からエネルギ比を出すスラグ温度計測装置において、
    チョッパが扇形の切り欠きを有する板を回転させて成り、複数の焦電素子を板の回転中心から半径方向に延伸する直線上に直列に配設して、複数の焦電素子に同時に入光せしめることを特徴とするスラグ温度計測装置。
  2. チョッパが光路を開く開時間と光路を閉じる閉時間が同じになるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスラグ温度計測装置。
  3. 光路上に、開口径可変の絞りを配設し、絞りとチョッパの開閉周波数で焦電素子の出力を調整することを特徴とする請求項1に記載のスラグ温度計測置。
  4. 焦電素子の出力を絞りで粗調整し、チョッパの開閉周波数で微調整をすることを特徴とする請求項3に記載のスラグ温度計測装置
  5. チョッパの回転周波数が0.05Hz以上にされていることを特徴とする請求項1に記載のスラグ温度計測装置。
  6. 複数の波長域を3〜5μmと7〜15μmの一つまたは両方内に設定することを特徴とする請求項1に記載のスラグ温度計測装置。
  7. 複数の波長域を3.7〜4.2μmと8〜14μmの一つまたは両方内に設定することを特徴とする請求項6に記載のスラグ温度計測装置。
  8. 複数の波長域を3.8〜4.0μmと9〜11μmの一つまたは両方内に設定することを特徴とする請求項7に記載のスラグ温度計測装置。
  9. チョッパの温度を安定化させるチョッパ温度安定手段を有し、チョッパ温度安定手段は、複数のチョッパを光路にそって直列配置して成ることを特徴とする請求項1に記載のスラグ温度計測装置。
  10. チョッパの少なくとも焦電素子側が黒色にされていることを特徴とする請求項1に記載のスラグ温度計測装置。
  11. 異なる波長域を設定するためのバンドパスフィルタを配設したことを特徴とする請求項1に記載のスラグ温度計測装置。
  12. 測定条件毎にある温度での理論値に対する補正比を求めておき、各測定条件での焦電素子の電圧に基づくエネルギの比にこの比に基づく補正比を乗算したものでエネルギの比をもとめることを特徴とする請求項1に記載のスラグ温度計測装置。
  13. 異常値を検出して警報を発する警報手段を有することを特徴とする請求項1に記載のスラグ温度計測装置。
  14. 焦電素子のエネルギを同じスラグ温度で窓曇りのない状態において予め計測した焦電電子のエネルギと比較し、それがある値以下であるなら窓曇り異常を検出して警報を発する警報手段を有することを特徴とする請求項13に記載のスラグ温度計測装置。
  15. 焦電素子に赤外光を導くためのレンズが、スラグ上方のガスから発光している赤外光をも焦電素子上に集められるレンズ可変機構を有することを特徴とする請求項1に記載のスラグ温度計測装置。
  16. レンズ可変機構は、異なる焦点距離を有する複数のレンズを取り付けたレンズ取り付け板を回転可能に配設して成ることを特徴とする請求項15に記載のスラグ温度計測装置。
  17. レンズ可変機構は、1つのレンズの焦電素子との距離を可変にするレンズ距離変更装置であることを特徴とする請求項15に記載のスラグ温度計測装置。
  18. レンズ距離変更装置は、固定配置される固定筒体に対する相対位置可変に配設可能な可動筒体にレンズを取り付けられて成ることを特徴とする請求項17に記載のスラグ温度計測装置。
  19. 可動筒体に、焦電素子と発光点の距離を示す目盛りが設けられていることを特徴とする請求項18に記載のスラグ温度計測装置。
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