JP3712575B2 - ガラスゴブの製造方法及び製造装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、精密プレス成形(モールド成形)に適したガラスゴブの製造方法及び製造装置等に関する。
【0002】
【従来の技術】
レンズのような光学的面(非球面を含む)を有する光学素子(光学製品)を、機械的な研削・研磨を行うことなく、プレスによって一発で成形する方法として、精密プレス成形(モールド成形)法が知られている。この精密プレス成形においては、精密プレス成形を行う前に、溶融ガラスから精密プレス成形に適した形状等を有するガラス塊(これをゴブ:gobという)を形成し、このガラスゴブ(プリフォーム)を再加熱して軟化させ、精密プレス成形を行っている。
通常、この種のガラスゴブの成形方法及び成形装置においては、所定量の溶融ガラスを任意の受型で受けた後、受型上の溶融ガラスゴブの上面に不活性ガスあるいは圧縮空気を吹き付けて上面を冷却し、溶融ガラスゴブ上面の凹み(ヒケ)を減ずる方法(特開平10−310439号公報)や、あるいは受型(下型)上の溶融ガラスゴブを、任意の曲率に加工した上型でプレスする方法を用いて、ガラスゴブを作製していた。
なお、溶融ガラスゴブとは、溶融ガラスが流出パイプ等から流出し、受型上に受けられてから冷却され、流動性のないガラス塊となる直前までの状態、すなわち軟化点以上の状態にあるガラスをいう。また、冷却され流動性を失った状態、すなわち軟化点以下の状態にあるガラス塊をガラスゴブという。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記方法では、容量(体積)の小さい光学素子の場合は溶融ガラスゴブの上面に凹み(ヒケ)は生じない。
しかしながら、上方から溶融ガラスゴブの上面に不活性ガスあるいは圧縮空気を吹き付けて溶融ガラスゴブ上面の凹みを減ずる方法(特開平10−310439号公報)では、成形する光学素子の外径寸法と肉厚寸法とが近い場合、あるいはガラスの粘性が低い場合、さらには上面に特に小さい曲率を必要とする場合においては、図17にあるように溶融ガラスゴブ6の上面中央付近に凹み(ヒケ)6aが発生する。ヒケが発生しないまでも、平面に近い極めて大きな曲率となってしまう。このような凹みは溶融ガラスの種類によって、あるいは容量が大きくなり成形される光学素子の肉厚が大きくなるに従い、凹みは深くなり、凹みを減ずるのが難しくなり、特にガラスゴブの外径と肉厚の寸法が近いレンズ素材等を製造する場合には凹みを減ずるのは難しかった。これは容積の比較的大きなガラスゴブ、例えば800mm3以上で、比較的肉厚なガラスゴブを製造する場合は、溶融ガラスゴブ内部に熱だまりができやすく、そのため溶融ガラスゴブが冷却される間に表面がヒケて凹んでしまうからである。特に、例えば、肉厚な1000mm3程度の溶融ガラスゴブで上面が曲率半径R30mm程度の溶融ガラスゴブを上方向から冷却しても、上面中央に凹部(ヒケ)が発生しやすく、ヒケを抑えるのは難しかった。
【0004】
一方、受型(下型)上の溶融ガラスゴブを、任意の曲率に加工した上型でプレスする方法では、プレスされたガラスゴブの表面にリング状のシワ等の表面欠損が発生したり、上型の表面が転写されて光沢鏡面ではなく凹凸面となる。このような表面に表面欠損や凹凸を有するガラスゴブは、精密プレス成形用としては使用できない場合があった。
詳しくは、モールドレンズの精密プレスにおいては図18に示すように精密プレス成形用の上型21、下型22の各型の曲率半径Rに対して、それぞれ小さい曲率半径Rのガラスゴブ20(ゴブプリフォーム)が必要である。モールドレンズ用のガラスゴブは表面欠損のないものが必要とされる。プレスで表面欠損のないガラスコブの成形が可能であれば理想的であるが現在そこまでの技術には至ってはない。もしガラスゴブ20のRが型のRより大きい場合には図19のA部に示すように隙間が発生し、この状態でプレスを行なうエアートラップと呼ばれる部分的に不完全なプレスレンズとなり所望の性能が得られなくなり、不良品となる。また、ガラスゴブ上面にヒケがあった場合も勿論、上型21との間にエアートラップが発生する。特に、このヒケによって生じた凹面は起伏が激しい表面状態となっているため、精密プレス後のプレス品表面に重大な欠陥を残してしまう。
【0005】
本発明は上述した背景の下になされたものであり、上面に凹み(ヒケ)を有しないガラスゴブを製造できる製造方法及び製造装置等の提供等を第一の目的とする。
また、得られたガラスゴブが次工程の精密プレス成形で使用される成形型の形状に合うように、ガラスゴブ上下面の曲率、外径及び表面精度等が調整されており、得られたガラスゴブをそのまま精密プレス成形用のプリフォームとして使用することができるガラスゴブの製造方法及び製造装置等の提供等を第二の目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明は、以下の構成としてある。
【0007】
(構成1)受型に受けた溶融ガラスゴブの上面に負圧を発生させ、溶融ガラスゴブの上面を盛り上げる工程を有することを特徴とするガラスゴブの製造方法。
【0008】
(構成2)溶融ガラスゴブの上面に吸引ノズルによって負圧を発生させるとともに、吸引するタイミング、吸引時間、溶融ガラスゴブと吸引ノズルとの距離、吸引による負圧力、吸引ノズルの内径、及び吸引範囲を調整して、溶融ガラスゴブの上面を盛り上げる量の調整を行うことを特徴とする構成1記載のガラスゴブの製造方法。
【0009】
(構成3)受型に受けた溶融ガラスゴブの上面に負圧を発生させ、前記溶融ガラスゴブの冷却後、得られたガラスゴブが次工程の精密プレス成形で使用される成形型の曲率半径に対応するように、前記溶融ガラスゴブの上面を盛り上げる工程を有することを特徴とする構成1又は2に記載のガラスゴブの製造方法。
【0010】
(構成4)流出パイプのフィーダーから流出した溶融ガラス流を受型で受け、その後急速に受型を降下させることにより、溶融ガラス流を切断し、所定量の溶融ガラスゴブを受型上に受けることを特徴とする構成1乃至3のいずれかに記載のガラスゴブの製造方法。
【0011】
(構成5)受型の成形面に複数設けられた細孔から気体を流すことにより、受型成形面と溶融ガラスゴブとの間に気体の層を作り、溶融ガラスゴブを受型成形面上で浮上させることを特徴とする構成1乃至4のいずれかに記載のガラスゴブの製造方法。
【0012】
(構成6)受型の成形面に複数設けられた細孔から気体を流すことにより、受型の成形面と溶融ガラスゴブとの間に気体の層を作り、溶融ガラスゴブを受型成形面上で浮上させるガラスゴブの製造方法において、細孔から流す気体の量を調整して、溶融ガラスゴブの下面の形状を制御することを特徴とするガラスゴブの製造方法。
【0013】
(構成7)受型の成形面に複数設けられた細孔から気体を流すことにより、受型の成形面と溶融ガラスゴブとの間に気体の層を作り、溶融ガラスゴブを受型成形面上で浮上させるガラスゴブの製造方法において、受型の内壁を、溶融ガラスゴブの揺動を抑えることが可能な形状とすることを特徴とするガラスゴブの製造方法。
【0014】
(構成8)容積が800mm3以上の溶融ガラスゴブを用いて、肉厚/外径が0.4以上で、長径/短径が1.05以下であって、上面に凹みを有しないガラスゴブを得ることを特徴とする構成1乃至7のいずれかに記載のガラスゴブの製造方法。
【0015】
(構成9)構成1乃至8のいずれかに記載の方法で得られたガラスゴブを、精密プレス成形することを特徴とする光学素子の製造方法。
【0016】
(構成10)受型に受けた溶融ガラスゴブの上面に負圧を発生させる負圧発生手段と、負圧に関する制御を行う制御手段と、を備えることを特徴とするガラスゴブの製造装置。
【0017】
(構成11)吸引ノズルと、吸引ノズルに接続された負圧発生装置と、吸引による負圧力を調整する装置と、
吸引ノズルの三次元位置(受型の位置(芯)との位置合わせ、吸引ノズルとの距離など)を調整する機構と、吸引ノズルを駆動する機構を有する装置と、
吸引するタイミング、吸引時間を制御する装置と、
を備えることを特徴とする構成10記載のガラスゴブの製造装置。
【0018】
(構成12)吸引ノズルを取り外し可能にして、内径あるいは形状の異なる吸引ノズルに変更可能としたことを特徴とする構成11記載のガラスゴブの製造装置。
【0019】
【作用】
構成1によれば、受型に受けた溶融ガラスゴブの上面に負圧を発生させ、溶融ガラスゴブの上面を任意の量盛り上げることによって、上面(受型に接触していない側の面)に凹み(ヒケ)を有しないガラスゴブの製造が可能となる。
この成形方法を用いることにより、モールドレンズの精密プレスでエアトラップの発生しない、上面が凸状のガラスゴブを成形することが可能となった。
本発明は、上方から冷却してヒケの量を減らす従来の方法とは全く逆の方法にてヒケをなくす成形方法を完成したものである。
溶融ガラスゴブの上面に負圧を発生させる方法は特に制限されないが、例えば、吸引ノズルを溶融ガラスゴブが吸着されない程度にセットし、溶融ガラスゴブの中央部のみを吸引すればよい。この場合、吸引されていく時の空気が上面の表面を冷却する。
【0020】
構成2によれば、構成1の効果に加え、溶融ガラスゴブの上面に吸引ノズルによって負圧を発生させるとともに、吸引するタイミング、吸引時間、溶融ガラスゴブと吸引ノズルとの距離、吸引による負圧力、吸引ノズルの内径、及び吸引範囲等を調整することによって、溶融ガラスゴブの上面を盛り上げる量の調整を厳密に行うことができ、より形状精度の高いガラスゴブを製造できる。
【0021】
構成3によれば、受型に受けた溶融ガラスゴブの上面に負圧を発生させ、前記溶融ガラスゴブの冷却後、得られたガラスゴブが次工程の精密プレス成形で使用される成形型の曲率半径に対応するように、前記溶融ガラスゴブの上面を盛り上げる工程を有することによって、ガラスゴブの上面の曲率半径が精密プレス成形用成形型の上型の曲率半径より小さく、かつ、ガラスゴブの上面の曲率半径が精密プレス成形用成形型の上型の曲率半径に対応する所定の値を有するガラスゴブが得られ、この得られたガラスゴブをそのまま精密プレス成形用のプリフォームとして使用することができる。
なお、溶融ガラスゴブの上面を盛り上げる量を調整することで、溶融ガラスゴブの上面に負圧を発生させる前の溶融ガラスゴブ上面の曲率半径と、負圧発生後の溶融ガラスゴブ上面の曲率半径との間で、ガラスゴブの上面の曲率半径が精密プレス成形用成形型の上型の曲率半径に対応する所定の値を有するガラスゴブが得られる。
この場合、溶融ガラスゴブの上面を盛り上げる量は、溶融ガラスゴブの冷却後、冷却したガラスゴブの上面に凹部が生じない量以上であることが好ましい。また、溶融ガラスゴブの上面を盛り上げる量は、盛り上げた際、溶融ガラスゴブの上面に変曲点(屈曲点)ができ、溶融ガラスゴブの冷却後、変曲点が消失する量であることが好ましい。このように、溶融ガラスゴブの上面を盛り上げる量の基準を設定することで、過不足のない盛り上げ量を規定できる。すなわち、溶融ガラスゴブ上面の盛り上げ量が少なく、ガラスゴブ冷却後、ガラスゴブ上面がヒケてしまってはゴブ上面に凹部が発生してしまい、また、盛り上げすぎてガラスゴブ冷却後もガラスゴブ上面に変曲点が残存していると、その部分でやはり上型との間にエアートラップを生じてしまう。なお、ここでいう変曲点(屈曲点)とは、図7(h)に示すように、溶融ガラスゴブ上面が目玉焼き状に盛り上がった付け根の部分Pのことを指す。
【0022】
構成4によれば、流出パイプのフィーダーから流出した溶融ガラス流を受型で受け、その後急速に受型を降下させることにより、溶融ガラス流を切断し、所定量の溶融ガラスゴブを受型上に受けることによって、所定量の溶融ガラスゴブを連続的かつ高効率で得られる。また、得られた溶融ガラスゴブには切断痕などの欠陥がない。
【0023】
構成5によれば、受型の成形面に複数設けられた細孔から気体(不活性ガスなど)を流すことにより、受型成形面と溶融ガラスゴブとの間に気体の層を作り、溶融ガラスゴブを受型成形面上で浮上させることによって、下面に凹凸や瑕疵のない、鏡面に近い滑らかな表面を有しているガラスゴブを製造できる。
【0024】
構成6によれば、細孔から流す気体(不活性ガスなど)の量を調整して、溶融ガラスゴブの下面の形状を制御することによって、下面の形状精度に優れたガラスゴブを製造できる。
なお、構成6の方法は、上記構成1〜5の方法と組み合わせることにより、より形状精度に優れたガラスゴブを製造できる。
また、構成6の方法は、容積が大きく、肉厚が厚いガラスゴブを製造する場合等に限らず適用できる。
【0025】
構成7によれば、受型の内壁を、溶融ガラスゴブの揺動(振動)を抑えることが可能な形状とすること、具体的には例えば、図8に示すように、溶融ガラスゴブの下面を成形する面(溶融ガラスゴブの下面に対応する面)より上側の受型5の内壁5aが立ち上がる形状とすることにより、上面からみた場合のガラスゴブの外周縁は真円に近くなり、真円度の高いガラスゴブを製造できる。これに対し、図20に示すように、受型5を、溶融ガラスゴブ6の揺動を抑えることができない形状とすると、上面からみた場合のガラスゴブの外周縁はでこぼこになり、真円度の低いガラスゴブしか得られない。
なお、構成7の方法は、上記構成1〜6の方法と組み合わせることにより、より形状精度に優れたガラスゴブを製造できる。
また、構成7の方法は、容積が大きく、肉厚が厚いガラスゴブを製造する場合等に限らず適用できる。
【0026】
構成8によれば、容積が800mm3以上と大きく、肉厚/外径が0.4以上と厚肉のガラスゴブであっても、長径/短径が1.05以下と真円度が高く、上面に凹みを有しないガラスゴブが得られる。
なお本発明では、容積が1000mm3以上、さらには1100mm3以上の溶融ガラスゴブを用いた場合であっても、肉厚/外径が0.45以上、さらには0.5以上であって、長径/短径が1.04以下、さらには1.03以下と真円度が高く、上面に凹みを有しないガラスゴブが得られる。
【0027】
構成9によれば、上記構成1乃至8のいずれかに記載の方法で得られたガラスゴブを、精密プレス成形することによって、エアトラップが発生せず、非常に高い形状精度を有する光学素子が得られる。
なお、精密プレス成形は、軟化状態の溶融ガラスゴブに成形型の形状、及び表面精度を転写する成形方法であり、プレス品は基本的に研削、研磨の必要がない。この成形方法においては成形型の形状精度を再現するためプレス時の粘性は106〜9dPa・Sと比較的高いところでプレス成形する。この精密プレス法はプレス成形品が研磨フリーにできるため、非球面レンズのように研磨が困難な形状のレンズを製造するのに適している。
【0028】
構成10によれば、受型に受けた溶融ガラスゴブの上面に負圧を発生させる負圧発生手段と、負圧に関する制御を行う制御手段と、を備えるガラスゴブの製造装置によって、上面に凹み(ヒケ)を有しないガラスゴブを製造でき、さらには上面の曲率半径が精密プレス成形型の上型の曲率半径に対応したガラスゴブを製造できる。
【0029】
構成11によれば、高精度に各種調整及び制御を行う装置を備えているため、ガラス材の種類(硝種)に拘束されることなく対応できる。
【0030】
構成12によれば、吸引ノズル(吸い込み治具)が取り外し可能にしてあるため、吸引ノズルの内径あるいは内径先端部の形状などのノズル形状を変更することで、溶融ガラスゴブの容量、形状や受型のサイズに拘わらず本発明装置を使用できる。また、吸引ノズルの内径や内径先端部の形状などを変更することで溶融ガラスゴブの上面の吸引範囲を変更でき、盛り上げる部分も同時に変更可能としてある。
【0031】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施の形態にかかるガラスゴブ製造装置の概略図である。
図2は、ガラスゴブ製造装置を上方向から見た部分平面図である。図3は、ガラスゴブ製造装置に溶融(熔融)ガラスを供給する熔解炉の断面図である。図4は、ガラスゴブ製造装置のブロック図である。
これらの図面に示すガラスゴブ製造装置においては、ターンテーブル4に受型(胴型、下型)5が等間隔で複数個セットされている。6は受型5上の溶融ガラスゴブである。7は吸引ノズルであり、この吸引ノズル7には配管(図示せず)を介して負圧発生装置8が接続されている。吸引ノズル7は支持板9を介して上下可動のロッド付きシリンダ10に接続されている。下側へのロッド13の突出量を変更できるように調整機構(ねじ)12を設けている。11はこれらを保持する固定板である。
図3に示す溶融ガラス1の流出パイプ2のフィーダー(図示せず)は、図2に示すターンテーブル4における位置bにセットされ、この位置bにある受型5に溶融ガラスゴブ6を供給し、ターンテーブル4を駆動モーターで反時計方向に回転し、複数個セットされた受型5に溶融ガラスゴブ6を順次供給する。
また、吸引ノズル7は、受型5の位置(芯)(及び溶融ガラスゴブ6の位置(芯))と吸引ノズル7の位置(芯)とを合わせて、aあるいはa’の位置にセットする。吸引ノズル7の位置は、溶融ガラスの種類、あるいは粘性により吸引の効果を最適にするため、適宜調整する。
入力されたタイミングおよび吸引時間で吸引することにより受型内に受けた溶融ガラスゴブの上面を盛り上げる。盛り上がりの量を調整するため溶融ガラスゴブと吸引ノズルの距離は調整ねじ12で行なう。上下可動(空圧)シリンダ10には電磁弁14が接続されており、シリンダ10の上下動のタイミングが制御され、これに合わせて吸引ノズル7も所定のタイミングで下降及び上昇する。負圧発生装置8には電磁弁15が接続されており、吸引開始タイミング、吸引時間が制御される。これらの制御は、専用の制御装置(シーケンサ)16により、ターンテーブル4の回転制御等も含め高精度に制御される。
なお、負圧発生装置8は、エア供給装置(図示せず)、レギュレーター17、切り替え弁(図示せず)からなり、エア流路18を流れるエアの勢いで吸引ノズルに接続された配管内に負圧を発生させ吸引するものであるが、吸引ポンプ(サクションポンプ)、や真空ポンプ(バキュームポンプ)などによって負圧を発生させることもできる。
ガラスゴブは、溶融ガラスゴブ6がガラス転移点以下となるターンテーブル4上の任意の位置で、ロボットによる吸い上げ等によって回収(ゴブアウト)される。
【0032】
次に、上記ガラスゴブ製造装置を用いたガラスゴブ製造方法を説明する。
まず図5(a)に示すようにターンテーブル4の位置bにある受型5で流出パイプ2のフィーダー2’から流出する溶融ガラス流3を所定の時間受け、図5(b)で所定の容量になった時点で急速に受型5を降下させることにより、溶融ガラス流を切断刃を使わずに切断し、図5(c)に示すように所定量の溶融ガラスゴブを受型5上に受ける。切断後ターンテーブル4は次の受型が溶融ガラスを受けるため、次の受型をbの位置まで回転移動し、同様の切断を行う。
【0033】
切断され受型に受けた溶融ガラスは粘性によりあるいはその容量により図6(d)に示すように上面にヒケと呼ばれる凹み6aが発生する場合がある。溶融ガラスゴブ6を受けた受型5が、ターンテーブル4におけるaあるいはa’の位置に移動し吸引ノズル7上に来た時点で(図6(e))、入力されたタイミングにより図6(f)に示すように調整ねじ12で設定した高さまで吸引ノズル7が下がり、また入力されたタイミング、吸引時間だけ負圧を発生させ、溶融ガラスゴブの上面を盛り上げる。この際、吸引されていく時の空気が上面の表面を冷却する。なお、図6(f)では、吸引ノズル7は、溶融ガラスゴブ6が吸着されない程度に調整ねじ12で高さを調整した。また、吸引ノズル7は受型5の位置(芯)(及び溶融ガラスゴブ6の位置(芯))と吸引ノズル7の位置(芯)を合わせて、溶融ガラスゴブ中央部のみを吸引するようにした。
溶融ガラスゴブの上面を盛り上がらせる量は、吸引するタイミング、吸引時間、溶融ガラスゴブと吸引ノズルとの距離、吸引による負圧力、吸引ノズルの内径、吸引範囲等の変更により調整できる。
溶融ガラスゴブの上面を吸引するときの溶融ガラスゴブの粘性は、20〜1000d・PaS(ポアズ)、好ましい範囲で50〜500d・PaS、さらに好ましい範囲で200〜300d・PaSである。
【0034】
その後、図7(g)に示すように受型5あるいは溶融ガラスゴブ6上面などとの干渉を避けるため再び所定のタイミングで吸引ノズル7を元の位置まで上昇させる。
図7(h)に示すように、盛り上げられた溶融ガラスゴブの上面は、吸引直後は一時的に変曲点(屈曲点)Pを持つ目玉焼き状となるが(点線で示す)、溶融ガラスゴブが徐々に冷却されるに従って、aあるいはa’の位置で盛り上がった部分は徐々に緩やかな曲率に戻り(実線で示す)、変曲点(屈曲点)が消失してガラスゴブ20が得られる(図7(i))。
【0035】
なお、上記工程において、受型5上に受けた溶融ガラスゴブ6は、常時、受型5と接触しないように、図8及び図9に示すように、受型5の成形面に複数設けられた細孔(細径穴)から不活性ガスを流すことにより、受型成形面と溶融ガラスゴブとの間に気体の層を作り、溶融ガラスゴブを受型成形面上で浮上させることが好ましい。この時、不活性ガスの流量が少なすぎると溶融ガラスゴブの浮上が不完全となり、溶融ガラスゴブが受型成形面と接触してしまい、溶融ガラスゴブの表面に瑕疵が生じる。また、流量が多すぎると、流出した不活性ガスが溶融ガラスゴブの下面に凹部を形成してしまい、ゴブの下面が凸凹になってしまう、といった問題が生じる。本実施の形態により製造されるガラスゴブは精密プレス成形用なので、ガラスゴブ表面の瑕疵はそのまま精密プレス後の成形品の瑕疵になってしまう。従って、製造されたガラスゴブは、凹凸や瑕疵のない、鏡面に近い滑らかな表面を有している必要がある。このため、不活性ガスの流量はガラスゴブの重量、形状、外径に応じて適宜調節する。ガラスゴブの表面に凹凸や瑕疵が生じない程度の流量範囲内で、更に細かく流量調節をすることにより、数mm単位のR調整(例えばR25mmとR26mm)も可能である。
【0036】
【実施例】
実施例1〜4
表1の実施例1〜4に示すガラス系(硝種)、容積(体積)の溶融ガラスゴブを、受型に受けた(コブイン)。なお、図2に示すゴブインからゴブアウトまでの間、図8及び図9に示すように常時浮上ガスを流した。
図2のaの位置で吸引ノズル7が入力されたタイミングで下がる。そして、入力された時間とタイミングで、負圧発生装置により上方向に溶融ガラスゴブ6の上面を吸引する。この際のガラスの粘性は200〜300ポアズぐらいとした。
吸引により溶融ガラスゴブの上面が盛り上がると同時に、吸引される空気の流れが溶融ガラスゴブの表面を冷却する。
なお、実施例1では、図15に示すように、受型が吸引位置に到着してから、所定のシリンダ下降タイミング(0.10秒)でシリンダが下降し、シリンダ下降から吸引開始タイミング(0.5秒)経過後、吸引時間(10.0秒)だけ吸引を行う。これら一連の工程のサイクルタイムは10.6秒であり、シリンダが下降している時間は10.5秒である。実施例4のダイアグラムを、図16に示す。
【0037】
上記で得られたガラスゴブの形状精度を表1に示す。また、図10(a)(平面図)に長径、短径の定義を示し、図10(b)(正面図)に外径、肉厚の定義を示す。
実施例1〜4で得られたガラスゴブは、表1に示すように容積が大きく(850〜1000mm3程度以上)、上面のRが小さく、肉厚が厚い(内径/外径が0.4以上)場合であっても、吸引によって、図11に示すように上面にヒケがなく、精密プレスでエアトラップの発生しない上面を有していた。実施例4で得られたガラスゴブの上面の頂部にRゲージ(R25mm)を当てたときの両者の接触状況を示す写真を図13に示す。
また、実施例1〜4で得られたガラスゴブは、図10(b)におけるBの位置(外径部分)にプレス痕(跡)がなく、この部分が自由曲面となっていた。
さらに、実施例1〜4で得られたガラスゴブは、浮上によって、凹凸や瑕疵のない、鏡面に近い滑らかな表面の下面を有していた。
また、実施例1〜4で得られたガラスゴブは、受型における成形面のRを、所望のガラスゴブ下面のRが得られるように調整し、浮上の際に溶融ガラスゴブが揺動しないように受型(胴型)で溶融ガラスゴブの外径を規定しているので、表1に示すように、長短径差や長径/短径が小さく、真円からのずれやずれ%が小さく、したがって、真円度が非常に良かった。なお、表1における長径、短径は、任意の長径方向において、それぞれ最大、最小となる直径の値とした。
以上のように、実施例で得られたガラスゴブは、非常に高い形状精度を有していた。
【0038】
【表1】
【0039】
比較例1
実施例1〜4と同じ溶融ガラスゴブを用い、実施例と同じ受型を用いて同様に浮上させ、上面からエアーを吹き付けて冷却した結果、いずれの場合も図12に示すように上面がヒケた。上面とRゲージ(R25mm)との接触状況を示す写真を図14に示す。
【0040】
比較例2
図20に示すように、溶融ガラスゴブ6の揺動を抑えることができない形状の受型5を用いたこと以外は比較例1と同様としてガラスゴブを製造した結果、上面からみた場合のガラスゴブの外周縁はでこぼこ(じゃがいも状)になり、真円度の低いガラスゴブしか得られなかった。これらの原因は、実施例では溶融ガラスゴブ上面の中心部分を均一に盛り上げることができ、受型の真円度が正確に反映されるが、比較例2では、上面からエアーを吹き付けて冷却しており、溶融ガラスゴブ6が揺動するので真円度が悪くなったと考えられる。
【0041】
精密プレス成形
上記実施例1〜4で得られたガラスゴブを、精密プレス成形して、光学素子(モールドレンズ等)を製造した。その結果、いずれも、エアトラップが発生せず、非常に高い形状精度を有する光学素子が得られた。
【0042】
以上実施例等をあげて本発明を説明したが、本発明は上記実施例等により制限されるものではない。
【0043】
例えば、上記では、精密プレス成形によって両凸レンズを製造する場合について説明したが、成形型の上型が下向きに凸状になっているメニスカスレンズを製造する場合においても、本発明方法によって作製された両凸でヒケのないガラスゴブの使用は有効である。
また、ガラスゴブの製造装置は、実施の態様で示した装置に限定されない。
さらに、硝種、容積、各寸法等は、実施例の範囲に制限されない。
【0044】
本発明のガラスゴブの製造方法及び製造装置は、ガラスレンズ、プリズム、光通信用ファイバーガイドブロック等の光学ガラス素子や、光学ガラス製品の製造に適用できる。
【0045】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のガラスゴブの製造方法及び製造装置によれば、上面に凹み(ヒケ)を有しないガラスゴブを製造できる。
また、本発明のガラスゴブの製造方法及び製造装置によれば、得られたガラスゴブが次工程の精密プレス成形で使用される成形型の形状に合うように、ガラスゴブ上下面の曲率、外径及び表面精度等が調整されており、得られたガラスゴブをそのまま精密プレス成形用のプリフォームとして使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態にかかるガラスゴブ製造装置の概略図である。
【図2】本発明の一実施の形態にかかるガラスゴブ製造装置を上方向から見た部分平面図である。
【図3】本発明の一実施の形態にかかるガラスゴブ製造装置に溶融(熔融)ガラスを供給する熔解炉の断面図である。
【図4】本発明の一実施の形態にかかるガラスゴブ製造装置のブロック図である。
【図5】本発明の一実施の形態にかかるガラスゴブ製造方法(手順)を説明するための部分断面図である(その1)。
【図6】本発明の一実施の形態にかかるガラスゴブ製造方法(手順)を説明するための部分断面図である(その2)。
【図7】本発明の一実施の形態にかかるガラスゴブ製造方法(手順)を説明するための部分断面図である(その3)。
【図8】溶融ガラスゴブを受型成形面上で浮上させる様子を説明するための部分断面図である。
【図9】溶融ガラスゴブを受型成形面上で浮上させつつ、溶融ガラスゴブ上面を吸引する様子を説明するための部分断面図である。
【図10】実施例で得られたガラスゴブの長径、短径、外径、肉厚を説明するための平面図である。
【図11】実施例で得られたガラスゴブの上面とRゲージとの接触状況を説明するための模式図である。
【図12】比較例で得られたガラスゴブの上面とRゲージとの接触状況を説明するための模式図である。
【図13】実施例4で得られたガラスゴブの上面とRゲージ(R25mm)との接触状況を示す写真である。
【図14】比較例で得られたガラスゴブの上面とRゲージ(R25mm)との接触状況を示す写真である。
【図15】実施例における吸引時間、タイミング等を説明するための図である。
【図16】他の実施例における吸引時間、タイミング等を説明するための図である。
【図17】従来法による溶融ガラスゴブの上面中央付近に生じる凹み(ヒケ)を説明するための部分断面図である。
【図18】精密プレス成形に適したガラスゴブの形状を説明するための部分断面図である。
【図19】精密プレス成形に適さないガラスゴブの形状を説明するための部分断面図である。
【図20】従来の受型を示す断面図である。
【符号の説明】
1 溶融ガラス
2 流出パイプ
2’フィーダー
3 溶融ガラス流
4 ターンテーブル
5 受型
6 溶融ガラスゴブ
6a凹み(ヒケ)
7 吸引ノズル
8 負圧発生装置
9 支持板
10 シリンダ
11 固定板
12 調整機構(ねじ)
13 ロッド
14 電磁弁
15 電磁弁
16 制御装置(シーケンサ)
17 レギュレーター
18 エア流路
20 ガラスゴブ
Claims (10)
- 受型に受けた溶融ガラスゴブの上面に負圧を発生させ、溶融ガラスゴブの上面を盛り上げる工程を有することを特徴とするガラスゴブの製造方法。
- 溶融ガラスゴブの上面に吸引ノズルによって負圧を発生させるとともに、吸引するタイミング、吸引時間、溶融ガラスゴブと吸引ノズルとの距離、吸引による負圧力、吸引ノズルの内径、及び吸引範囲を調整して、溶融ガラスゴブの上面を盛り上げる量の調整を行うことを特徴とする請求項1記載のガラスゴブの製造方法。
- 受型に受けた溶融ガラスゴブの上面に負圧を発生させ、前記溶融ガラスゴブの冷却後、得られたガラスゴブが次工程の精密プレス成形で使用される成形型の曲率半径に対応するように、前記溶融ガラスゴブの上面を盛り上げる工程を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のガラスゴブの製造方法。
- 流出パイプのフィーダーから流出した溶融ガラス流を受型で受け、その後急速に受型を降下させることにより、溶融ガラス流を切断し、所定量の溶融ガラスゴブを受型上に受けることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のガラスゴブの製造方法。
- 受型の成形面に複数設けられた細孔から気体を流すことにより、受型成形面と溶融ガラスゴブとの間に気体の層を作り、溶融ガラスゴブを受型成形面上で浮上させることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載のガラスゴブの製造方法。
- 容積が800mm3以上の溶融ガラスゴブを用いて、肉厚/外径が0.4以上で、長径/短径が1.05以下であって、上面に凹みを有しないガラスゴブを得ることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のガラスゴブの製造方法。
- 請求項1乃至6のいずれかに記載の方法で得られたガラスゴブを、精密プレス成形することを特徴とする光学素子の製造方法。
- 受型に受けた溶融ガラスゴブの上面に負圧を発生させる負圧発生手段と、負圧に関する制御を行う制御手段と、を備えることを特徴とするガラスゴブの製造装置。
- 吸引ノズルと、吸引ノズルに接続された負圧発生装置と、吸引による負圧力を調整する装置と、
吸引ノズルの三次元位置を調整する機構と、吸引ノズルを駆動する機構を有する装置と、
吸引するタイミング、吸引時間を制御する装置と、
を備えることを特徴とする請求項8記載のガラスゴブの製造装置。 - 吸引ノズルを取り外し可能にして、内径あるいは形状の異なる吸引ノズルに変更可能としたことを特徴とする請求項9記載のガラスゴブの製造装置。
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