JP3712546B2 - 澱粉糊 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は例えば洗濯糊、事務用糊、紙袋、紙箱などの紙工用接着剤、壁紙施工用糊等に使用される澱粉糊に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、澱粉糊は次の2つの製造方法が取られている。第一の方法は、古くから行われて来た加熱による糊化方法である。澱粉を水に懸濁し、撹拌しながら熱を加えるもので煮糊とも言われている。第2の方法は、近年製造されるようになったアルカリ糊化の方法である。熱を加える代わりにアルカリを加える代わりにアルカリを加えることで糊化するため、冷糊法と言われている。
【0003】
原料としての澱粉は何れの方法でも、米澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ポテトスターチ、タピオカスターチ、甘藷澱粉などの天然澱粉とそれらを化学的、物理的に処理した加工澱粉が単独であるいは混合して使用される。
【0004】
前記2つの製造方法を比較検討すると、加熱による製造方法については、比較的、小資本で製造でき、製造コストが安価であり、特殊な薬剤及び技術を要しない。また、特殊な製造設備がいらない等の長所を有しているが、一定の品質の製品を製造しようとすると高度の熟練が必要となり、1バッチあたりの製造量が少なく、多くすると昇温及び冷却に時間がかかる問題があり、現在では、工業的に有利なアルカリ糊化による澱粉糊が主流となっている。
【0005】
ここで一般的なアルカリ糊化による澱粉糊の製造方法を述べると、先ず、澱粉を水に懸濁し、次に10〜50%のアルカリ水溶液を撹拌しながら加え、糊化し、糊化後中和剤として無機酸を加え、pH5〜8に調整し、次に防腐剤、防黴剤その他公知の添加剤を加えて製造する。
【0006】
アルカリとしては、一般的にはカセイソーダが使用される。中和に使用する無機酸としては、塩酸、硝酸、硫酸などが使用されているが、安定性の点から硝酸が一般的に使用される。このため製品中には、硝酸ソーダが1〜数%含まれているのが一般的である。
【0007】
アルカリ糊化(冷糊法)により、製造された澱粉糊は、酸に硝酸を使用した場合、接着剤がハミ出た皮膜の表面が経年し、紫外線により劣化着色する欠点を有している。特に近年壁紙施工用として澱粉糊が使用されているが、この欠点から施工後1〜2年して問題が発生している。
【0008】
これに対して加熱糊は薬品を使用しないため、施工後のハミ出し部分が劣化して着色するということはないが、施工中及び施工後の接着性能が低いためと一定の品質のものを大規模に製造できないため、使用されることが少ない。
【0009】
また、硝酸に換えて、塩酸、硫酸等を中和剤として使用した場合には前記の施工後、ハミ出した部分が劣化着色することはないが、糊の安定性が著しく悪くなり、実際の製品にはなり難い。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
このために本発明者らは、中和剤について、各種無機酸及び有機酸を鋭意検討したところ、カルボン酸、特に脂肪族オキシ酸又は脂肪族ジカルボン酸を用いることが優れた澱粉糊を作るのに効果があることを突き止め、本発明に至った。
【0011】
本発明は、上記従来の問題点を解決するものであり、アルカリ糊化による製造で得られる澱粉糊であり、特別な設備を必要とせず、一定した品質のものを容易に安定的に供給でき、1バッチ当たりの製造量が多く、製造時間に多くを必要とせず、凍結安定性、貯蔵安定性が良好であり、接着性能が良く、製品の被膜が紫外線に当っても劣化着色しない澱粉糊を得ることを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本請求項1に記載された発明に係る澱粉糊は、澱粉を水に懸濁させ、アルカリを加えて糊化させた後、中和剤で中和させてなる澱粉糊において、
前記澱粉糊に脂肪族ジカルボン酸、又は脂肪族ジカルボン酸塩を添加してなるものである。
【0013】
本請求項2に記載された発明に係る澱粉糊は、請求項1に記載された脂肪族ジカルボン酸又は脂肪族ジカルボン酸塩が、1分子中の炭素数が2〜6の脂肪族ジカルボン酸又は脂肪族ジカルボン酸塩であるものである。
【0014】
本請求項3に記載された発明に係る澱粉糊は、請求項1又は2に記載された脂肪族ジカルボン酸、又は脂肪族ジカルボン酸が、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、シュウ酸、マロン酸及びそれらの塩から選ばれた1つ以上のものである。
【0015】
本請求項4に記載された発明に係る澱粉糊は、請求項1に記載された澱粉に加えるアルカリは、 NaOH , KOH , Ca(OH) 2 などのアルカリ金属又はアルカリ土類金属に属する水酸化アルカリの水溶液、または水溶液がアルカリ性を呈する化合物を単独或いは混合して使用するものである。
【0016】
本請求項5に記載された発明に係る澱粉糊は、請求項1に記載された澱粉糊に防腐剤、防黴剤或いはその他公知の添加剤を添加したものである。
【0017】
本請求項6に記載された発明に係る澱粉糊は、澱粉を水に懸濁させ、アルカリを加えて糊化させた後、中和剤で中和させてなる澱粉糊において、
前記澱粉糊に、酒石酸、グルコン酸、乳酸及びそれらの塩から選ばれた1つ以上のものを添加してなるものである。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の一つの例としては、澱紛を水に懸濁させ、アルカリを加えて糊化させた後、中和剤で中和させてなる澱粉糊において、前記中和剤としてオキシ酸又はジカルボン酸を使用してなるものである。このため、特別な設備を必要とせず、一定した品質のものを容易に安定的に供給でき、凍結安定性、貯蔵安定性が良好であり、接着性能が良く、製品の被膜が紫外線に当っても劣化着色しない特徴を持つアルカリ糊化による製造で得られる澱粉糊を得ることができる。
【0019】
即ち、本発明に係る澱粉糊の一つの例では、澱粉を水に懸濁させ、アルカリを加えて糊化させた後、オキシ酸又はジカルボン酸を用いて中和させてなる澱粉糊である。本発明における澱粉糊は、澱粉を水に懸濁し、攪拌しながらアルカリを加え、オキシ酸又はジカルボン酸を中和剤として使用することによって目的が達成される。
【0020】
本発明の一つの例におけるオキシ酸としては、脂肪族オキシ酸が住環境の観点から芳香族オキシ酸よりも好適である。更に、グリコール酸、ヒドロアクリル酸、オキシ酪酸、グリセリン酸、タルトロン酸、リンゴ酸、クエン酸等よりも、乳酸、酒石酸又はグルコン酸、より好適には乳酸が粘着性、凍結安定性、貯蔵安定性の点で良好である。
【0021】
本発明の一つの例におけるジカルボン酸としては、脂肪族(飽和、不飽和)ジカルボン酸が住環境の観点から芳香族ジカルボン酸よりも好適である。更に、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸等の脂肪族ジカルボン酸のうち、1分子中の炭素数が2〜6の脂肪族ジカルボン酸が粘着性、凍結安定性、貯蔵安定性の点で良好である。
【0022】
本発明の一つの例は、中和剤としてオキシ酸又はジカルボン酸を使用するのであって、常温で加えられたオキシ酸又はジカルボン酸は、単に先に添加されたアルカリの中和剤として働いており、系中では、オキシ酸塩又はジカルボン酸塩となって存在する。
【0023】
従って、本発明の別の例として、中和剤として他の酸を用いた上で、脂肪族オキシ酸塩又は脂肪族ジカルボン酸塩を添加することを行った。その結果、脂肪族オキシ酸塩又は脂肪族ジカルボン酸塩が澱粉糊中に添加された場合に、凍結安定性、貯蔵安定性が良好であり、接着性能が良く、製品の被膜が紫外線に当っても劣化着色しないことが確認された。尚、中和剤として用いる酸は、酸性を呈する化合物でよく、例えば、硫酸、塩酸、酢酸、有機酸等が挙げられる。
【0024】
従って、本発明は、澱粉を水に懸濁させ、アルカリを加えて糊化させた後、中和剤で中和させてなる澱粉糊において、前記澱粉糊に脂肪族オキシ酸、脂肪族オキシ酸塩、脂肪族ジカルボン酸、又は脂肪族ジカルボン酸塩を添加してなるものである。
【0025】
このようにして得られた澱粉糊は、塩酸、硫酸他のみならず、現在一般的に安定性が良い糊を供給する目的で使用されている硝酸と同等の優れた安定性を有することは全く新規なことである。オキシ酸塩又はジカルボン酸塩が澱粉糊の安定性を良くする理由としては、まだ明確ではないが、糊化した澱粉粒子の水和を増大させているためであると思われる。
【0026】
脂肪族オキシ酸、脂肪族オキシ酸塩、脂肪族ジカルボン酸、又は脂肪族ジカルボン酸塩を添加してなる澱粉糊は次のような特徴がある。
(1)凍結安定性及び貯蔵安定性に優れている。
(2)接着剤の被膜が紫外線により劣化着色しない。
(3)接着性能に優れている。
以上のように、本発明の澱粉糊は、従来工業的に製造されていた澱粉糊の問題を一挙に解決した全く新しい澱粉糊といえる。
【0027】
尚、使用する澱粉は、米澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ポテトスターチ、タピオカスターチ、甘藷澱粉などの澱粉であれば何を用いても良い。更に、各種天然澱粉を化学的に処理した加工澱粉、例えばエーテル化澱粉、エステル化澱粉、酸処理澱粉、酸化澱粉、加水分解された澱粉等も、ここでいう澱粉の定義に包合される。
【0028】
アルカリとしては、実用的には、カセイソーダの10〜50%濃度のものが用いられる。もちろんこの濃度は、一般的なものであって、この範囲を越えたとしても何等問題はなく単に工業的な取扱い上の点から入っているにすぎない。アルカリの添加量は、固形分として1〜5%であり、これも一般的な範囲であり、澱粉の濃度、種類によっては、この範囲を越えたとしても本発明に対して影響は無い。
【0029】
【実施例】
実施例1
コンスターチ(三和澱粉工業株式会社製)200gに水750g入れ、充分撹拌し、懸濁させる。これにカセイソーダ50%水溶液を20gを撹拌しながら室温で添加し糊化させた。添加終了後、引続き撹拌して充分に糊化を促し、次にオキシ酸又はジカルボン酸を添加して、中和し、pH6〜7に調整した。中和終了後、ホルマリン及び防黴剤を添加した。
【0030】
用いたオキシ酸及びジカルボン酸は、乳酸、酒石酸、グルコン酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、シュウ酸、マロン酸を使用した。また、比較例として、硝酸、塩酸、硫酸、酢酸を使用し、中和する酸以外はすべて実施例と同様にして製造した。結果を次の表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
表1に示した通り、脂肪族オキシ酸又は脂肪族ジカルボン酸によって中和された澱粉糊は、従来のアルカリ糊化による澱粉糊寄りも接着性能の優れた、貯蔵安定性の良い、被膜が紫外線の暴露により劣化変色しない澱粉糊が得られた。
【0033】
実施例2
実施例1で良好な結果が得られた乳酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸について、予め水酸化ナトリウムで中和したナトリウム塩を作製し、各塩を硫酸で中和した澱粉糊に添加して、貯蔵安定性、凍結安定性を比較検討した。その結果、全ての澱粉糊について、硫酸で中和したのみの澱粉糊よりも高い貯蔵安定性、凍結安定性が得られた。
【0034】
このように、オキシ酸塩又はジカルボン酸塩が澱粉糊の安定性を良くする理由としては、まだ明確ではないが、糊化した澱粉粒子の水和を増大させているためではないかと思われた。
【0035】
以上のように、脂肪族オキシ酸、脂肪族オキシ酸塩、脂肪族ジカルボン酸、又は脂肪族ジカルボン酸塩を添加してなる澱粉糊は、凍結安定性及び貯蔵安定性に優れ、接着剤の被膜が紫外線により劣化着色せず、接着性能に優れた等の特徴を有し、しかも工業的に大規模に一定の品質を容易に供給でき、製造工程が簡便・容易であり、製造コストも大幅なアップにはならない澱粉糊を得ることが出来る。
【0036】
【発明の効果】
本発明は以上説明した通り、アルカリ糊化による製造で得られる澱粉糊であり、特別な設備を必要とせず、一定した品質のものを容易に安定的に供給でき、1バッチ当たりの製造量が多く、製造時間に多くを必要とせず、凍結安定性、貯蔵安定性が良好であり、接着性能が良く、製品の被膜が紫外線に当っても劣化着色しない澱粉糊を得ることができるという効果がある。
Claims (6)
- 澱粉を水に懸濁させ、アルカリを加えて糊化させた後、中和剤で中和させてなる澱粉糊において、
前記澱粉糊に脂肪族ジカルボン酸、又は脂肪族ジカルボン酸塩を添加してなることを特徴とする澱粉糊。 - 前記脂肪族ジカルボン酸又は脂肪族ジカルボン酸塩が、1分子中の炭素数が2〜6の脂肪族ジカルボン酸又は脂肪族ジカルボン酸塩であることを特徴とする請求項1に記載の澱粉糊。
- 前記脂肪族ジカルボン酸、又は脂肪族ジカルボン酸が、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、シュウ酸、マロン酸及びそれらの塩から選ばれた1つ以上のものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の澱粉糊。
- 前記澱粉に加えるアルカリは、NaOH,KOH,Ca(OH)2などのアルカリ金属又はアルカリ土類金属に属する水酸化アルカリの水溶液、または水溶液がアルカリ性を呈する化合物を単独或いは混合して使用することを特徴とする請求項1に記載の澱粉糊。
- 前記澱粉糊に防腐剤、防黴剤或いはその他公知の添加剤を添加したことを特徴とする請求項1に記載の澱粉糊。
- 澱粉を水に懸濁させ、アルカリを加えて糊化させた後、中和剤で中和させてなる澱粉糊において、
前記澱粉糊に、酒石酸、グルコン酸、乳酸及びそれらの塩から選ばれた1つ以上のものを添加してなることを特徴とする澱粉糊。
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