<<< §1.角速度および加速度検出の基本原理 >>>
まず、本発明に係る検出装置における角速度検出の基本原理を説明する。本発明に係る装置では、二軸あるいは三軸まわりの角速度を検出することが可能であるが、ここでは、はじめに、一軸の角速度検出原理を簡単に説明しておく。図1は、雑誌「発明(THE INVENTION)」、vol.90,No.3(1993年)の60頁に開示されている角速度検出装置の基本原理を示す図である。いま、角柱状の振動子110を用意し、図示するような方向にX,Y,Z軸を定義したXYZ三次元座標系を考える。このような系において、振動子110がZ軸を回転軸として角速度ωで回転運動を行っている場合、次のような現象が生じることが知られている。すなわち、この振動子110をX軸方向に往復運動させるような振動Uを与えると、Y軸方向にコリオリ力Fが発生する。別言すれば、振動子110を図のX軸に沿って振動させた状態で、この振動子110をZ軸を中心軸として回転させると、Y軸方向にコリオリ力Fが生じることになる。この現象は、フーコーの振り子として古くから知られている力学現象であり、発生するコリオリ力Fは、
F=2m・v・ω
で表される。ここで、mは振動子110の質量、vは振動子110の振動についての瞬時の速度、ωは振動子110の瞬時の角速度である。
前述の雑誌に開示された一軸の角速度検出装置は、この現象を利用して角速度ωを検出するものである。すなわち、図1に示すように、角柱状の振動子110の第1の面には第1の圧電素子111が、この第1の面と直交する第2の面には第2の圧電素子112が、それぞれ取り付けられる。圧電素子111,112としては、ピエゾエレクトリックセラミックからなる板状の素子が用いられている。そして、振動子110に対して振動Uを与えるために圧電素子111が利用され、発生したコリオリ力Fを検出するために圧電素子112が利用される。すなわち、圧電素子111に交流電圧を与えると、この圧電素子111は伸縮運動を繰り返しX軸方向に振動する。この振動Uが振動子110に伝達され、振動子110がX軸方向に振動することになる。このように、振動子110に振動Uを与えた状態で、振動子110自身がZ軸を中心軸として角速度ωで回転すると、上述した現象により、Y軸方向にコリオリ力Fが発生する。このコリオリ力Fは、圧電素子112の厚み方向に作用するため、圧電素子112の両面にはコリオリ力Fに比例した電圧Vが発生する。そこで、この電圧Vを測定することにより、角速度ωを検出することが可能になる。
上述した従来の角速度検出装置は、Z軸まわりの角速度を検出するためのものであり、X軸あるいはY軸まわりの角速度の検出を行うことはできない。本発明に係る検出装置では、図2に示すように、所定の物体120について、XYZ三次元座標系におけるX軸まわりの角速度ωx、Y軸まわりの角速度ωy、Z軸まわりの角速度ωz、のそれぞれを別個独立して検出することができる。その基本原理を、図3〜図5を参照して説明する。いま、XYZ三次元座標系の原点位置に振動子130が置かれているものとする。この振動子130のX軸まわりの角速度ωxを検出するには、図3に示すように、この振動子130にZ軸方向の振動Uzを与えたときに、Y軸方向に発生するコリオリ力Fyを測定すればよい。コリオリ力Fyは角速度ωxに比例した値となる。また、この振動子130のY軸まわりの角速度ωyを検出するには、図4に示すように、この振動子130にX軸方向の振動Uxを与えたときに、Z軸方向に発生するコリオリ力Fzを測定すればよい。コリオリ力Fzは角速度ωyに比例した値となる。更に、この振動子130のZ軸まわりの角速度ωzを検出するには、図5に示すように、この振動子130にY軸方向の振動Uyを与えたときに、X軸方向に発生するコリオリ力Fxを測定すればよい。コリオリ力Fxは角速度ωzに比例した値となる。
結局、XYZ三次元座標系におけるX軸まわりの角速度ωx、Y軸まわりの角速度ωy、Z軸まわりの角速度ωz、をそれぞれ検出するには、図6に示すように、振動子130にX軸方向の振動Uxを与えるX軸方向励振手段141、Y軸方向の振動Uyを与えるY軸方向励振手段142、Z軸方向の振動Uzを与えるZ軸方向励振手段143、のそれぞれと、振動子130に作用するX軸方向のコリオリ力Fxを検出するX軸方向力検出手段151、Y軸方向のコリオリ力Fyを検出するY軸方向力検出手段152、Z軸方向のコリオリ力Fzを検出するZ軸方向力検出手段153のそれぞれと、を用意すればよいことになる。
一方、加速度の検出原理はより単純である。すなわち、静止状態の振動子(単なる質量mをもった錘りとして機能する)に、所定方向の加速度αが作用すると、この加速度αと同じ方向に、f=m・αなる力fが作用することになる。したがって、静止状態の振動子130に作用する各軸方向の力fx,fy,fzを検出すれば、質量mを用いた演算により、各軸方向の加速度αx,αy,αzを検出することができる。
結局、XYZ三次元座標系におけるX軸方向の加速度αx、Y軸方向の加速度αy、Z軸方向の加速度αz、をそれぞれ検出するには、図7に示すように、振動子130に作用するX軸方向の力fxを検出するX軸方向力検出手段151、Y軸方向の力fyを検出するY軸方向力検出手段152、Z軸方向の力fzを検出するZ軸方向力検出手段153のそれぞれを用意すればよいことになる。
さて、図6には三次元角速度検出装置の構成要素をブロック図として示し、図7には三次元加速度検出装置の構成要素をブロック図として示したが、両者を比べてみると、前者の構成は後者の構成を含んでいることがわかる。すなわち、図7に示す加速度検出装置に、更に、各軸方向についての励振手段141,142,143を付加すれば、図6に示す角速度検出装置が得られることになり、図6に示す角速度検出装置は、図7に示す加速度検出装置としても機能するのである。
ただ、角速度も加速度も、いずれも各軸方向に作用する力という形で検出されるため、単一の検出装置により角速度と加速度との双方を検出しようとすると、検出された力に角速度成分と加速度成分との双方が含まれてしまうことになる。角速度に起因する力は、既に述べたように、振動子を所定方向に振動させた状態においてのみ生じるコリオリ力(F=2m・v・ωの大きさをもつ)であり、本明細書では、これを大文字の「F」で示すことにする。図6において各力検出手段151,152,153の検出対象となっているFx,Fy,Fzは、いずれも角速度に起因して生じるコリオリ力である。一方、加速度に起因する力は、振動子の振動とは無関係に生じる力(f=m・α)であり、本明細書では、これを小文字の「f」で示すことにする。図7において各力検出手段151,152,153の検出対象となっているfx,fy,fzは、いずれも加速度に起因して生じる力である。振動子130に角速度と加速度との双方が作用している状態においては、各力検出手段151,152,153には、角速度に起因したコリオリ力Fx,Fy,Fzと、加速度に起因した力fx,fy,fzとの合成力が検出されることになる。本発明が解決すべき課題は、このような状況において、いかにして角速度に起因するコリオリ力Fと加速度に起因する力fとを分離して検出するかという点にある。
<<< §2.本発明の実施に適した具体的な検出装置の構造 >>>
本発明に係る検出装置の基本構成は、図6のブロック図に示したとおりであり、本発明は、このような構成をもつ検出装置であれば、どのような検出装置に対しても適用可能である。この図6のブロック図に示す構成をもった検出装置の具体的な構造については、前掲の特許文献1や特許文献2に、種々の実施例が開示されている。本発明は、このような検出装置の具体的な構造についてのものではなく、このような検出装置から得られた検出信号の信号処理に関するものである。したがって、ここでは、このような検出装置の具体的な構造の一例だけを参考として述べておくことにする。もちろん、本発明の技術範囲は、ここに述べる具体的な構造に何ら制約を受けるものではない。
図8は、この具体的な検出装置を斜め上方から見た斜視図、図9は、この検出装置を斜め下方から見た斜視図である。この検出装置は、円盤状の圧電素子10の上面に12枚の上部電極A1〜A8,E1〜E4を形成するとともに、下面に1枚の下部電極Bを形成したものである。ここでは説明の便宜上、XYZ三次元座標系の原点Oを、円盤状の圧電素子10の上面の中心位置に定義し、X軸およびY軸をこの圧電素子10の上面に沿った方向に定義し、Z軸をこの上面に対して垂直上方に向かう方向に定義することにする。したがって、この圧電素子10の上面は、XY平面に含まれることになる。
圧電素子10の構造的な特徴は、図9に示されているように、下面に環状溝15が形成されている点である。この実施例では、環状溝15は原点Oを取り囲むような円形をしている。下部電極Bは、1枚の単一の電極層であり、この環状溝15の内部をも含めた圧電素子10の下面全面に形成されている。一方、12枚の上部電極A1〜A8,E1〜E4は、図10の上面図に明瞭に示されているように、いずれも原点Oを中心とした円弧に沿った帯状をしており、X軸あるいはY軸に関して線対称な形状をしている。
この検出装置の構造は、図11を参照すると、より明らかになる。図11は、この検出装置をXZ平面で切った側断面図である。圧電素子10の環状溝15が形成された部分は、他の部分に比べて肉厚が薄くなっており、可撓性を有する。ここでは、圧電素子10の中の環状溝15の上方に位置する部分を可撓部12と呼び、この可撓部12によって囲まれた中心の部分を中心部11と呼び、可撓部12の外周に位置する部分を周囲部13と呼ぶことにする。これら3つの部分の相対的な位置関係は、図12の下面図に明瞭に示されている。すなわち、中心部11の周囲の環状溝15が形成された部分に可撓部12が形成され、この可撓部12の周囲に周囲部13が形成されていることになる。
ここで、たとえば、周囲部13だけを検出装置筐体に固定し、検出装置筐体全体を揺らすと、中心部11にはその質量により加速度に基づく力が作用し、この力により可撓部12に撓みが生じることになる。すなわち、中心部11は、可撓性をもった可撓部12によって周囲から支持された状態になっており、X軸、Y軸、Z軸方向にある程度の変位を生じることが可能である。結局、この検出装置における中心部11は、図6に示す検出装置における質量を有する振動子130として機能するのである。図6に示す検出装置では、振動子130の他に、各軸方向の励振手段141,142,143と、各軸方向の力検出手段151,152,153が必要である。この具体的な検出装置では、励振手段141,142,143は、上部電極E1〜E4と、下部電極Bと、これらの間に挟まれている圧電素子10と、によって構成され、力検出手段151,152,153は、上部電極A1〜A8と、下部電極Bと、これらの間に挟まれている圧電素子10と、によって構成される。
このように、上下の電極と、その間に挟まれた圧電素子10とによって、励振手段や力検出手段を構成できることを説明するために、まず、圧電素子10の基本的な性質について確認しておく。一般に、圧電素子は、機械的な応力の作用により分極現象を生じる。すなわち、ある特定の方向に応力が加わると、一方には正の電荷が発生し、他方には負の電荷が発生する性質を有する。この実施例の検出装置では、圧電素子10として、図13に示すような分極特性をもった圧電セラミックスを用いている。すなわち、図13(a) に示すように、XY平面に沿って伸びる方向の力が作用した場合には、上部電極A側に正の電荷が、下部電極B側に負の電荷が、それぞれ発生し、逆に、図13(b) に示すように、XY平面に沿って縮む方向の力が作用した場合には、上部電極A側に負の電荷が、下部電極B側に正の電荷が、それぞれ発生するような分極特性をもっている。逆に、上下の電極に所定の電圧を印加すると、圧電素子10の内部には機械的な応力が作用することになる。すなわち、図13(a) に示すように、上部電極A側に正の電荷を、下部電極B側に負の電荷を、それぞれ与えるように電圧を印加すると、XY平面に沿って伸びる方向の力が発生し、図13(b) に示すように、上部電極A側に負の電荷を、下部電極B側に正の電荷を、それぞれ与えるように電圧を印加すると、XY平面に沿って縮む方向の力が発生するのである。
ここで述べる具体的な検出装置は、このような圧電素子の性質を利用して、各励振手段および各力検出手段を構成しているのである。すなわち、上下の電極に電圧を印加することにより圧電素子内部に応力を発生させることができる性質を利用して各励振手段を構成し、圧電素子内部に応力が作用した場合に上下の電極に電荷が発生する性質を利用して各力検出手段を構成している。以下、これらの各手段について、その構成と動作を説明する。
<X軸方向励振手段>
図6に示す構成要素のうち、X軸方向励振手段141は、上部電極E1,E2と、これに対向する下部電極Bの一部分と、これらに挟まれた圧電素子10の一部分と、後述する交流供給手段と、によって構成されている。いま、下部電極Bを基準電位に保ちながら、上部電極E1に正の電圧を与え、上部電極E2に負の電圧を与えた場合を考える。すると、図14の側断面図に示すように、電極E1の下の圧電素子には図の左右に伸びる方向の応力が生じ、電極E2の下の圧電素子には図の左右に縮む方向の応力が生じる(図13の分極特性を参照)。このため、圧電素子10全体としては、図14に示すように変形することになり、中心部11の重心Pは、X軸方向にDxだけ変位することになる。ここで、上部電極E1,E2に与える電圧の極性を逆転させ、上部電極E1に負の電圧を与え、上部電極E2に正の電圧を与えると、図14とは逆に、電極E1の下の圧電素子には図の左右に縮む方向の応力が生じ、電極E2の下の圧電素子には図の左右に伸びる方向の応力が生じ、結果的に、中心部11の重心Pは、X軸の方向に−Dxだけ変位することになる。
そこで、下部電極Bと上部電極E1との間に第1の交流電圧を印加するとともに、下部電極Bと上部電極E2との間には、第1の交流電圧とは逆位相になるような第2の交流電圧を印加するようにすれば、重心Pは、X軸方向に沿って、Dxなる変位と−Dxなる変位とを交互に生じるようになり、中心部11はX軸に沿って振動することになる。既に述べたように、中心部11は図6に示す構成要素における振動子130に対応するものである。したがって、上述した交流電圧の印加により、振動子130に対してX軸方向の振動Uxを与えることが可能になる。この振動Uxの周波数は、与える交流電圧の周波数によって制御可能であり、この振動Uxの振幅は、与える交流電圧の振幅値によって制御可能である。結局、上部電極E1,E2、下部電極B、圧電素子10、および図示されていない交流電圧を供給する手段、によって、図6に示すX軸方向励振手段141が構成されていることになる。
<Y軸方向励振手段>
図6に示す構成要素のうち、Y軸方向励振手段142は、上部電極E3,E4と、これに対向する下部電極Bの一部分と、これらに挟まれた圧電素子10の一部分と、図示されていない交流供給手段と、によって構成されている。その動作原理は、上述したX軸方向励振手段141の動作原理と全く同様である。すなわち、図10の上面図に示されているように、上部電極E1,E2がX軸上に配されていたのに対し、上部電極E3,E4はY軸上に配されている。したがって、上部電極E1,E2に互いに位相が逆転した交流電圧を供給することにより、中心部11(振動子)をX軸方向に振動させることができたのと同じ原理により、上部電極E3,E4に互いに位相が逆転した交流電圧を供給することにより、中心部11(振動子)をY軸方向に振動させることができる。
すなわち、上述した交流電圧の印加により、振動子130に対してY軸方向の振動Uyを与えることが可能になる。この振動Uyの周波数は、与える交流電圧の周波数によって制御可能であり、この振動Uyの振幅は、与える交流電圧の振幅値によって制御可能である。結局、上部電極E3,E4、下部電極B、圧電素子10、および図示されていない交流電圧を供給する手段、によって、図6に示すY軸方向励振手段142が構成されていることになる。
<Z軸方向励振手段>
図6に示す構成要素のうち、Z軸方向励振手段143は、上部電極E1〜E4と、これに対向する下部電極Bの一部分と、これらに挟まれた圧電素子10の一部分と、後述する交流供給手段と、によって構成されている。いま、下部電極Bを基準電位に保ちながら、上部電極E1,E2に負の電圧を与え、上部電極E3,E4に正の電圧を与えた場合を考える。すると、図15の側断面図に示すように、電極E1,E2の下の圧電素子には図の左右方向(および紙面に垂直な方向)に縮む方向の応力が生じ、電極E3,E4の下の圧電素子には図の紙面に垂直な方向(および図の左右方向)に伸びる方向の応力が生じる(図13の分極特性を参照)。ここで、図10の上面図から明らかなように、上部電極E1,E2は可撓部12の外側に位置し、上部電極E3,E4は可撓部12の内側に位置する。このため、上述のような各応力が発生すると、圧電素子10全体としては、図15に示すように変形することになり、中心部11の重心Pは、Z軸方向にDzだけ変位することになる。ここで、上部電極E1〜E4に与える電圧の極性を逆転させ、上部電極E1,E2に正の電圧を与え、上部電極E3,E4に負の電圧を与えると、図15とは逆に、電極E1,E2の下の圧電素子には伸びる方向の応力が生じ、電極E3,E4の下の圧電素子には縮む方向の応力が生じ、結果的に、中心部11の重心Pは、Z軸の方向に−Dzだけ変位することになる。
そこで、下部電極Bと上部電極E1,E2との間に第1の交流電圧を印加するとともに、下部電極Bと上部電極E3,E4との間には、第1の交流電圧とは逆位相になるような第2の交流電圧を印加するようにすれば、重心Pは、Z軸方向に沿って、Dzなる変位と−Dzなる変位とを交互に生じるようになり、中心部11はZ軸に沿って振動することになる。既に述べたように、中心部11は図6に示す構成要素における振動子130に対応するものである。したがって、上述した交流電圧の印加により、振動子130に対してZ軸方向の振動Uzを与えることが可能になる。この振動Uzの周波数は、与える交流電圧の周波数によって制御可能であり、この振動Uzの振幅は、与える交流電圧の振幅値によって制御可能である。結局、上部電極E1〜E4、下部電極B、圧電素子10、および図示されていない交流電圧を供給する手段、によって、図6に示すZ軸方向励振手段143が構成されていることになる。
<X軸方向力検出手段>
図6に示す構成要素のうち、X軸方向力検出手段151は、上部電極A1,A2と、これに対向する下部電極Bの一部分と、これらに挟まれた圧電素子10の一部分と、後述する検出回路と、によって構成されている。いま、この検出装置の周囲部13を筐体に固定した状態において、中心部11(振動子130)の重心Pに加速度に基く力fxが作用した場合に、どのような現象が起こるかを説明する。まず、重心PにX軸方向の加速度αxが加えられた結果、図16に示すように、重心Pに対してX軸方向の力fxが作用した場合を考える。このような力fxの作用により、可撓部12に撓みが生じ、図16に示すような変形が起こる。この結果、X軸に沿って配置された上部電極A1,A6はX軸方向に伸び、同じくX軸に沿って配置された上部電極A5,A2はX軸方向に縮むことになる。これらの上部電極の下方に位置する圧電素子は、図13に示すような分極特性を有するので、各上部電極には、図16に示すような極性の電荷が発生する。このとき、下部電極Bは単一の共通電極となっているので、部分的に「+」または「−」の極性の電荷が発生しても相殺され、トータルでの電荷の発生はない。
そこで、上部電極A1に発生した電荷と上部電極A2に発生した電荷との差を求めれば、X軸方向に作用した力fxが得られることになる。もちろん、上部電極A5に発生した電荷と上部電極A6に発生した電荷との差によっても、X軸方向に作用した力fxを求めることはできるが、後述するように、上部電極A5,A6はZ軸方向に作用した力fzの検出に利用されるため、X軸方向の力fxの検出には用いていない。なお、上述の説明では、加速度に起因して作用した力fxを検出する場合を例にとったが、角速度に起因して作用するコリオリ力Fxも、全く同様にして検出可能である。実際には、重心Pに作用したX軸方向の力としては、加速度に起因する力fxも角速度に起因するコリオリ力Fxも同等であり、瞬時瞬時に検出される力としては区別できない。
<Y軸方向力検出手段>
図6に示す構成要素のうち、Y軸方向力検出手段152は、上部電極A3,A4と、これに対向する下部電極Bの一部分と、これらに挟まれた圧電素子10の一部分と、後述する検出回路と、によって構成されている。その検出原理は、上述したX軸方向力検出手段151の検出原理と同様である。すなわち、この検出装置の周囲部13を筐体に固定した状態において、中心部11(振動子130)の重心Pに加速度に基く力fyが作用した場合に、どのような現象が起こるかを考えればよい。重心PにY軸方向の加速度αyが加えられた結果、Y軸方向の力fyが作用すると、上部電極A3には負の電荷が生じ、上部電極A4には正の電荷が生じることになる。そこで、上部電極A3に発生した電荷と上部電極A4に発生した電荷との差を求めれば、Y軸方向に作用した力fyが得られることになる。角速度に起因して作用するコリオリ力Fyの検出も全く同様である。
<Z軸方向力検出手段>
図6に示す構成要素のうち、Z軸方向力検出手段153は、上部電極A5〜A8と、これに対向する下部電極Bの一部分と、これらに挟まれた圧電素子10の一部分と、後述する検出回路と、によって構成されている。いま、この検出装置の周囲部13を筐体に固定した状態において、中心部11(振動子130)の重心Pに加速度に基く力fzが作用した場合に、どのような現象が起こるかを説明する。まず、重心PにZ軸方向の加速度αzが加えられた結果、図17に示すように、重心Pに対してZ軸方向の力fzが作用した場合を考える。このような力fzの作用により、可撓部12に撓みが生じ、図17に示すような変形が起こる。この結果、外側環状領域に配置された上部電極A1,A8,A2,A7は縮むために上部電極側に「−」の電荷が発生し、内側環状領域に配置された上部電極A5,A4,A6,A3は伸びるために上部電極側に「+」の電荷が発生することになる。このとき、下部電極Bは単一の共通電極となっているので、部分的に「+」または「−」の極性の電荷が発生しても相殺され、トータルでの電荷の発生はない。
そこで、上部電極A5,A6に発生した電荷の和と、上部電極A7,A8に発生した電荷の和と、の差を求めれば、Z軸方向に作用した力fzが得られることになる。もちろん、角速度に起因して作用するコリオリ力Fzも、全く同様にして検出可能である。
ここで、力fx,fy,fzのそれぞれが作用した場合に、各上部電極に発生する電荷の極性をまとめると、図18に示す表が得られる。表中「0」と記されているのは、圧電素子が部分的には伸びるが部分的には縮むため、正負が相殺されてトータルとして電荷は発生しないことを示す。前述したように、各上部電極は、X軸またはY軸に関して線対称な形状をしているため、力fxの作用により電荷を発生する上部電極には、力fyが作用しても電荷は発生せず、逆に、力fyの作用により電荷を発生する上部電極には、力fxが作用しても電荷は発生しないのである。このように、他軸干渉を避ける上では、電極形状を線対称にしておくことが重要である。なお、図18の表は、いずれも各軸の正方向の力+fx,+fy,+fzが作用した場合の極性を示すものであるが、各軸の負方向の力−fx,−fy,−fzが作用したときは、それぞれこの表とは逆の極性の電荷が現われることになる。このような表が得られることは、図16および図17に示す変形状態と、図10に示す各上部電極の配置とを参照すれば、容易に理解できよう。また、作用した力の大きさは、発生した電荷量として検出することが可能である。
このような原理に基いて、力fx,fy,fz(あるいはコリオリ力Fx,Fy,Fz)の検出を行うためには、たとえば図19に示すような検出回路を用意すればよい。この検出回路において、Q/V変換回路31〜38は、各上部電極A1〜A8に発生する電荷量を、下部電極Bの電位を基準電位としたときの電圧値に変換する回路である。この回路からは、たとえば、上部電極に「+」の電荷が発生した場合には、発生した電荷量に応じた正の電圧(基準電位に対して)が出力され、逆に、上部電極に「−」の電荷が発生した場合には、発生した電荷量に応じた負の電圧(基準電位に対して)が出力される。こうして出力された電圧V1〜V8は、演算器41〜43に与えられ、これら演算器41〜43の出力が端子Tx,Ty,Tzに得られる。ここで、端子Txの基準電位に対する電圧値が力fx(またはコリオリ力Fx)の検出値となり、端子Tyの基準電位に対する電圧値が力fy(またはコリオリ力Fy)の検出値となり、端子Tzの基準電位に対する電圧値が力fz(またはコリオリ力Fz)の検出値となる。
各出力端子Tx,Ty,Tzに得られる電圧値が、力fx,fy,fzの検出値になることは、図18の表を参照すればわかる。たとえば、力fxが作用した場合、上部電極A1には「+」の電荷が発生し、上部電極A2には「−」の電荷が発生する。したがって、V1は正、V2は負の電圧となる。そこで、演算器41によって、V1−V2なる演算を行うことにより、電圧V1,V2の絶対値の和が求まり、これが力fxの検出値として端子Txに出力されることになる。同様に、力fyが作用した場合は、上部電極A3には「−」の電荷が発生し、上部電極A4には「+」の電荷が発生する。したがって、V3は負、V4は正の電圧となる。そこで、演算器42によって、V4−V3なる演算を行うことにより、電圧V3,V4の絶対値の和が求まり、これが力fyの検出値として端子Tyに出力されることになる。また、力fzが作用した場合は、上部電極A5,A6には「+」の電荷が発生し、上部電極A7,A8には「−」の電荷が発生する。したがって、V5,V6は正、V7,V8は負の電圧となる。そこで、演算器43によって、V5+V6−V7−V8なる演算を行うことにより、電圧V5〜V8の絶対値の和が求まり、これが力fzの検出値として端子Tzに出力されることになる。
ここで注目すべき点は、各出力端子Tx,Ty,Tzに得られる検出値は、他軸成分を含まないということである。たとえば、図18の表に示されているように、力fxだけが作用した場合、力fy検出用の上部電極A3,A4には電荷の発生はなく、端子Tyには検出電圧は得られない。このとき、力fz検出用の上部電極A5,A6にはそれぞれ電荷(互いに逆極性)が発生するが、演算器43において電圧V5およびV6は互いに加算されるため相殺されてしまい、やはり端子Tzには検出電圧は得られない。力fyだけが作用した場合も同様に、端子Ty以外には検出電圧は得られない。また、力fzだけが作用した場合も同様に、端子Tz以外には検出電圧は得られない。こうして、XYZの3軸方向成分が独立して検出できる。
以上、図6に示す検出装置の具体的な一構成例を説明したが、この他にも種々の構成例が可能である。要するに、振動子130を所定軸方向に機械的に振動させる励振手段と、この振動子130に作用する各軸方向の力を検出することができる検出手段と、が実現できれば、どのような構成を採ってもかまわない。
<<< §3.従来提案されている検出動作 >>>
図6に示すような検出装置により、各軸方向の加速度αx,αy,αzと、角軸まわりの角速度ωx,ωy,ωzと、を検出するための従来の検出動作を、「基本的な検出動作」として、図20の流れ図に示す。この検出動作は、前掲の特許文献1に開示されている方法である。
まず、ステップS11において、振動子130に振動を与えない状態(すなわち、各励振手段141,142,143を駆動しない状態)で、各力検出手段151,152,153の検出値を得る。これは、図6に示す検出装置を、図7に示す加速度検出装置として動作させたものであり、各力検出手段151,152,153の検出値は、加速度に起因した力fx,fy,fzとなる。振動子130は振動していないので、角速度に起因したコリオリ力Fx,Fy,Fzは検出されないことになる。加速度に起因した力fと加速度αとの間には、振動子130の質量mに基づいて、f=m・αの関係があるので、得られた力fx,fy,fzに基づき、各軸方向の加速度αx,αy,αzを検出することができる。
続いて、ステップS12において、振動子130に振動Uzを与えた状態(すなわち、Z軸方向励振手段143を駆動した状態)で、Y軸方向力検出手段152の検出値Fyを得る。そして、Fy=2m・vz・ωxなる式に基づいて、X軸まわりの角速度ωxを検出する。ここで、mは振動子130の質量であり、vzは振動子130のZ軸方向の瞬間速度である。この検出方法は、図3に示す原理に基づいたものである。なお、瞬間速度vzは、Z軸方向励振手段143の動作状態から推定することができる。たとえば、前述した§2に示す具体的な構成例では、Z軸方向励振手段143は、上部電極E1〜E4に所定の交流電圧を供給することによって駆動することになるので、この交流電圧の振幅、周波数、そして瞬時瞬時における位相から、瞬間速度vzを推定することが可能である。
次の、ステップS13では、振動子130に振動Uxを与えた状態(すなわち、X軸方向励振手段141を駆動した状態)で、Z軸方向力検出手段153の検出値Fzを得る。そして、Fz=2m・vx・ωyなる式に基づいて、Y軸まわりの角速度ωyを検出する。ここで、vxは振動子130のX軸方向の瞬間速度であり、X軸方向励振手段141の動作状態から推定することができる。この検出方法は、図4に示す原理に基づいたものである。
続く、ステップS14では、振動子130に振動Uyを与えた状態(すなわち、Y軸方向励振手段142を駆動した状態)で、X軸方向力検出手段151の検出値Fxを得る。そして、Fx=2m・vy・ωzなる式に基づいて、Z軸まわりの角速度ωzを検出する。ここで、vyは振動子130のY軸方向の瞬間速度であり、Y軸方向励振手段142の動作状態から推定することができる。この検出方法は、図5に示す原理に基づいたものである。
最後に、ステップS15を経て、検出動作を継続する限り、ステップS11からの処理が繰り返し実行される。このように、振動子130を振動させない状態で各軸方向の加速度αx,αy,αzを検出する段階(ステップS11)と、振動子130を所定方向に振動させた状態で各軸まわりの各速度ωx,ωy,ωzを検出する段階(ステップS12〜S14)と、を別個に実施することにより、加速度と角速度との双方を得ることになる。なお、加速度と角速度とが常時作用している環境下では、ステップS12〜S14の角速度検出過程において、加速度に起因する力fx,fy,fzが、コリオリ力Fx,Fy,Fzに混入して検出されることになるので、ステップS11において検出したfx,fy,fzの値を用いた減算を行い、コリオリ力Fx,Fy,Fzの成分のみを取り出す必要がある。
さて、この「基本的な検出動作」の問題点は、加速度や角速度の値を継続的に測定するような用途に用いたときに、応答性が悪くなるという点である。自動車や産業機械などでは、時々刻々と変化してゆく加速度や角速度の値を、一定時間周期で継続的に得ることが要求される場合が多い。ところが、図20に示す流れ図に基づく検出動作を行う場合、ステップS11において静止していた振動子を、ステップS12ではZ軸方向に振動させ、ステップS13ではX軸方向に振動させ、ステップS14ではY軸方向に振動させ、再びステップS11において静止させる必要がある。振動子に対してこのような機械的な振動条件を高速に変化させることは非常に困難であり、現実的には、図20の検出動作において次のステップに進むためには、安定した振動状態を得るまでに、ある程度の時間が必要になる。このため、どうしても応答性が悪くならざるを得ない。
<<< §4.加速度に起因する力と角速度に起因する力との分離 >>>
本発明に係る検出動作の特徴は、加速度の検出と角速度の検出とを同時に行うことにある。そのためには、各力検出手段151,152,153によって検出された力を、加速度に起因する力と、角速度に起因するコリオリ力と、に分離する必要がある。ここでは、この分離の方法を具体例に即して説明する。
ここでは、図3に示すモデルを例にとった具体例を説明することにする。図3は、X軸まわりの角速度ωxの検出原理を説明する図である。すなわち、振動子130に対してZ軸方向の振動Uzを与えた状態において、Y軸方向に生じるコリオリ力Fyを検出すれば、Fy=2m・vz・ωxなる関係式から、X軸まわりの角速度ωxが求まることになる。そこで、いま、振動子130に図21(a) に示すようなZ軸方向の振動Uzを与えた状態において、同図(b) に示すようなX軸まわりの角速度ωxが作用した場合を考える。いずれも横軸は時間tである。振動Uzは、振動子130の物理的な位置の変動を示しており、この例では、上下に正弦運動を行っていることになる。また、この場合に作用した角速度ωxは、X軸の正の方向まわり(たとえば、時計まわり)の角速度であり、時間とともに緩やかに増加し緩やかに減少している。このときにY軸方向に生じるコリオリ力Fyは、Fy=2m・vz・ωxなる関係式で求まるが、ここで、振動子130のZ軸方向の瞬間速度vzは、振動Uzの位相を(π/2)だけずらしたものになる。なぜなら、上下に正弦運動している物体の瞬間速度は、中心位置を通過する瞬間に最大になり、最上点および最下点では0になるからである(なお、ここでは、図21(a) に示す振動において、下に向かう方向の速度を正とし、上へ向かう方向の速度を負とする)。振動子130の質量mは一定であるから、コリオリ力Fyは、瞬間速度vzと角速度ωxとの積によって定まり、図21(c) のようなものになる。結局、図3のモデルにおいて、振動子130に、図21(a) に示すような振動Uzを与えた状態で、図21(b) に示すような角速度ωxが作用した場合には、図21(c) に示すようなコリオリ力Fyが生じることになる。
一方、振動子130にY軸方向の加速度が作用した場合には、Y軸方向にどのような力が生じるであろうか。Y軸方向の加速度αyによって生じるY軸方向の力fyは、fy=m・αyなる関係式で与えられるので、与えられた加速度αyに比例した力fyが生じることになる。そこで、いま、振動子130に線形増加する加速度αyが与えられたとすると、図21(d) に示すようなY軸方向の力fyが生じることになる。
それでは、図3のモデルにおいて、振動子130に、図21(a) に示すようなZ軸方向の振動Uzを与えた状態で、図21(b) に示すようなX軸まわりの角速度ωxが作用し、かつ、線形に増加するY軸方向の加速度αyが作用した場合には、Y軸方向にはどのような力が観測されるであろうか。この場合は、当然ながら、図21(c) に示すようなコリオリ力Fyと、図21(d) に示すような加速度に基づく力fyの和に相当する合成力が観測されることになる。図22に、このような合成力fy+Fyを示す。
さて、このような合成力fy+Fyを、力fyとコリオリ力Fyとに分離することができれば、前者からはY軸方向の加速度αyを求めることができ、後者からはX軸まわりの角速度ωxを求めることができる。すなわち、加速度と角速度との同時検出が可能になる。本願発明者は、次のような点に着目することにより、この分離を行うことができることを見出だした。すなわち、図22に示す合成力fy+Fyのうち、バイアス成分のみを抽出すれば、図21(d) に示す力fyだけを取り出すことができ、振幅成分のみを抽出すれば、図21(c) に示すコリオリ力Fyだけを取り出すことができるのである。そもそも図21(c) に示すコリオリ力Fyは、図21(a) に示す振動Uzを搬送波として、図21(b) に示す角速度ωxを振幅変調したものである。したがって、角速度ωxの情報は、合成力の中においても、振幅成分としてのみ含まれていることになる。一方、図21(d) に示す力fyは、振動Uzの周波数成分を含まないため、その情報は、合成力の中においても、単なるバイアス成分としてのみ含まれていることになる。このような点に着目すれば、合成力fy+Fyのうち、バイアス成分のみを抽出すれば力fyを取り出すことができ、振幅成分のみを抽出すればコリオリ力Fyを取り出すことができることが理解できよう。
なお、このような原理に基づいて、加速度に基づく力fと角速度に基づくコリオリ力Fとを分離するためには、振動Uの周波数が、検出対象となる加速度や角速度のもつ周波数に対して識別可能な十分に高い周波数でなければならない。別言すれば、本発明に係る検出装置では、検出対象となる加速度や角速度のうち、振動Uの周波数に比べて十分に低い周波数成分しか検出できないことになる。もっとも、このような制約は、自動車や産業機械に搭載する検出装置としては、実用上、全く問題にならない。具体的には、§2で述べたような圧電素子を利用した振動子を振動させる場合、20kHz程度の共振周波数で振動させるのが最も効率的である。この場合、数百Hz以下の周波数成分をもった加速度や角速度を検出することは十分に可能であり、このような性能は、一般的な自動車や産業機械に搭載する検出装置に要求される性能を十分に満足させるものである。
さて、前述のような原理に基づき、合成力をバイアス成分と振幅成分とに分離する方法としては、たとえば、周波数フィルタを用いる方法を利用することができる。ただ、近年はコンピュータの普及により、得られた電気信号をA/D変換し、デジタル処理を行うのが一般的になってきている。本願発明者は、このようなデジタル処理を利用した次のような分離方法を見出だした。
まず、図22のような合成力fy+Fyの検出信号について、図23に示すように、変極点P1〜P9を抽出する。そして、図24に示すように、各変極点P1〜P9の時間軸t上の位置を示す区画線Q1〜Q9を定義し、隣接する各区画線の中間位置を通る参照線Q12〜Q89(図24では破線で示す)を定義する。そして、各参照線上に、その両側にある変極点の信号値の平均値をもった参照点mをプロットするのである。図25は、こうしてプロットされた参照点m1〜m8を示している。たとえば、参照点m1は、変極点P1の信号値と変極点P2の信号値との平均値をもった参照線Q12上の点ということになる。このように、参照点m1〜m8が得られたら、図26に示すように、これらを順に結んだ信号波形を求める。こうして得られた信号波形は、もとの合成力fy+Fyのうちのバイアス成分に対応するものになり、結局、加速度αyに基づく力fyに対応するものになる。バイアス成分が求まれば、これをもとの合成力から差し引くことにより、振幅成分に対応する信号波形を得ることができ、結局、コリオリ力Fyに対応した信号波形を得ることができる。なお、角速度ωxの大きさは、図27に示すように、コリオリ力Fyに対応した信号波形の包絡線Eを抽出することにより得られる。また、角速度ωxの向きは、得られたコリオリ力Fyと図21(a) に示す振動Uzとの位相差により得ることができる。たとえば、図21(b) に示すような正の向きの角速度ωxが加わった場合には、図21(a) に示す振動Uzの波形に対して、得られるコリオリ力Fyの波形は、図21(c) に示すように、(π/2)だけ位相を右方へシフトさせたものになるが、負の向きの角速度−ωxが加わった場合には、同じ図21(a) に示す振動Uzの波形に対して、図21(c) の正負を反転させたコリオリ力波形が得られ、このコリオリ力波形は、振動Uzの波形の位相を(π/2)だけ左方へシフトさせたものになる。
<<< §5.本発明に係る検出装置の第1の実施例 >>>
本発明に係る検出装置は、上述の§4で述べた基本原理に基いて、合成力を加速度に基く力f(バイアス成分)と角速度に基くコリオリ力F(振幅成分)とに分離する信号分離手段を用い、加速度と角速度とを同時に検出できるようにしたものである。図28は、本発明の第1の実施例に係る検出装置の基本構成を示すブロック図である。この検出装置は、図6に示した検出装置の各構成要素に、X軸方向信号分離手段161、Y軸方向信号分離手段162、Z軸方向信号分離手段163を付加し、更に、加速度演算手段171〜173と、角速度演算手段181〜183と、を付加したものである。
各信号分離手段161〜163は、いずれも§4で述べた基本原理に基いて、各力検出手段151〜153から得られた合成力fx+Fx,fy+Fy,fz+Fzを、それぞれfxとFx,fyとFy,fzとFzに分離する装置である。また、各加速度演算手段171〜173は、振動子130の質量mを用いて、f=m・αなる関係式に基いて、各軸方向の加速度αx,αy,αzを演算して出力する装置である。振動子130に作用する加速度は、振動子130の振動とは無関係に力fとして検出されるので、各加速度演算手段171〜173は、各励振手段141〜143の動作とは無関係に、各軸方向の加速度αx,αy,αzを出力することになる。
一方、各角速度演算手段181〜183は、図3〜図5に示す原理に基いて、各軸まわりの角速度ωx,ωy,ωzを演算して出力する装置である。ただ、角速度ωx,ωy,ωzの検出は、図3〜図5の原理図にも示されているように、振動子130の振動と密接に関係がある。別言すれば、各角速度演算手段181〜183は、各励振手段141〜143の動作状態を考慮した上でなければ、角速度を演算することはできないのである。これを個々の場合ごとに説明しておく。
まず、図3に示す原理に基いて、X軸まわりの角速度ωxを検出するには、Z軸方向励振手段143を駆動して振動子130にZ軸方向の振動Uzを与えた状態において、Y軸方向信号分離手段162によって分離されたY軸方向のコリオリ力Fyを角速度演算手段182に与える。角速度演算手段182は、Fy=2m・vz・ωxなる演算式に基いて、X軸まわりの角速度ωxを演算し、これを出力する。このとき、振動子130のZ軸方向についての瞬間速度vzは、Z軸方向励振手段143の動作態様に基いて推定する。たとえば、§2で述べた具体的な構造をもった検出装置では、上部電極E1〜E4に所定の交流電圧を供給して振動Uzを与えることになるが、振動子130の瞬間速度は、その時点に供給する交流電圧の振幅、周波数、位相に基いて決定することができる(理論的な演算式によって、供給する交流電圧と振動子の瞬間速度との関係を求めることもできるし、供給する交流電圧の一周期分について振動子の瞬間速度を実測したテーブルを用意しておくこともできる)。なお、図28の角速度演算手段182の出力に、「図3:ωx(Uz)」と記したのは、「図3に示す原理に基いて、振動子130に振動Uzを与えるという条件において、角速度ωxが出力される」ことを示したものである。
次に、図4に示す原理に基いて、Y軸まわりの角速度ωyを検出するには、X軸方向励振手段141を駆動して振動子130にX軸方向の振動Uxを与えた状態において、Z軸方向信号分離手段163によって分離されたZ軸方向のコリオリ力Fzを角速度演算手段183に与える。角速度演算手段183は、Fz=2m・vx・ωyなる演算式に基いて、Y軸まわりの角速度ωyを演算し、これを出力する。このとき、振動子130のX軸方向についての瞬間速度vxは、X軸方向励振手段141の動作態様に基いて推定する。なお、図28の角速度演算手段183の出力に、「図4:ωy(Ux)」と記したのは、「図4に示す原理に基いて、振動子130に振動Uxを与えるという条件において、角速度ωyが出力される」ことを示したものである。
更に、図5に示す原理に基いて、Z軸まわりの角速度ωzを検出するには、Y軸方向励振手段142を駆動して振動子130にY軸方向の振動Uyを与えた状態において、X軸方向信号分離手段161によって分離されたX軸方向のコリオリ力Fxを角速度演算手段181に与える。角速度演算手段181は、Fx=2m・vy・ωzなる演算式に基いて、Z軸まわりの角速度ωzを演算し、これを出力する。このとき、振動子130のY軸方向についての瞬間速度vyは、Y軸方向励振手段142の動作態様に基いて推定する。なお、図28の角速度演算手段181の出力に、「図5:ωz(Uy)」と記したのは、「図5に示す原理に基いて、振動子130に振動Uyを与えるという条件において、角速度ωzが出力される」ことを示したものである。
こうして、図28に示す検出装置によれば、最終的に、加速度演算手段171からX軸方向の加速度αxが、加速度演算手段172からY軸方向の加速度αyが、加速度演算手段173からZ軸方向の加速度αzが、それぞれ出力されることになり、更に、角速度演算手段182からX軸まわりの角速度ωxが、角速度演算手段183からY軸まわりの角速度ωyが、角速度演算手段181からZ軸まわりの角速度ωzが、それぞれ出力されることになる。なお、図28に示す各角速度演算手段181〜183からは、「図31:ωy(Uz)」、「図32:ωz(Ux)」、「図30:ωx(Uy)」なる出力も得られる旨が示されているが、これについては、§6において説明する。
この図28に示す検出装置により、各軸方向の加速度αx,αy,αzと、各軸まわりの角速度ωx,ωy,ωzと、を検出するための検出動作を、「第1の実施例による検出動作」として、図29の流れ図に示す。
まず、ステップS21において、振動子130に振動Uzを与えた状態(すなわち、Z軸方向励振手段143を駆動した状態)で、Y軸方向力検出手段152から合成力fy+Fyを取り出し、Y軸方向信号分離手段162により、力fyとコリオリ力Fyとに分離する。そして、加速度演算手段172において、力fyに基いて加速度αyを演算してこれを出力し、角速度演算手段182において、コリオリ力Fyに基いて角速度ωxを演算してこれを出力するのである。こうして、ステップS21では、加速度αyと角速度ωxとが検出できる。
次に、ステップS22において、振動子130に振動Uxを与えた状態(すなわち、X軸方向励振手段141を駆動した状態)で、Z軸方向力検出手段153から合成力fz+Fzを取り出し、Z軸方向信号分離手段163により、力fzとコリオリ力Fzとに分離する。そして、加速度演算手段173において、力fzに基いて加速度αzを演算してこれを出力し、角速度演算手段183において、コリオリ力Fzに基いて角速度ωyを演算してこれを出力するのである。こうして、ステップS21では、加速度αzと角速度ωyとが検出できる。
続く、ステップS23において、振動子130に振動Uyを与えた状態(すなわち、Y軸方向励振手段142を駆動した状態)で、X軸方向力検出手段151から合成力fx+Fxを取り出し、X軸方向信号分離手段161により、力fxとコリオリ力Fxとに分離する。そして、加速度演算手段171において、力fxに基いて加速度αxを演算してこれを出力し、角速度演算手段181において、コリオリ力Fxに基いて角速度ωzを演算してこれを出力するのである。こうして、ステップS21では、加速度αxと角速度ωzとが検出できる。
最後に、ステップS24を経て、検出動作を継続する限り、ステップS21からの処理が繰り返し実行される。この図29に示す「第1の実施例による検出動作」は、図20に示した「基本的な検出動作」に比べて、1ステップ分が省略されている。すなわち、「基本的な検出動作」では、加速度検出を行うために、ステップS11において、振動子を静止状態に保った検出を行っていたのに対し、ここで述べた「第1の実施例による検出動作」では、振動子を振動させた状態でも加速度検出を行うことができるので、振動子を静止させる必要はないのである。このため、図28に示す検出装置では、従来提案されている検出装置に比べて応答性が改善されることになる。
<<< §6.本発明に係る検出装置の第2の実施例 >>>
さて、§5では、図28に示す基本構成をもった検出装置とその動作を説明した。その動作によれば、角速度に関しては、X軸まわりの角速度ωxが図3の原理に基いて角速度演算手段182から出力され、Y軸まわりの角速度ωyが図4の原理に基いて角速度演算手段183から出力され、Z軸まわりの角速度ωzが図5の原理に基いて角速度演算手段181から出力されることになる。ただ、図28には、各角速度演算手段181〜183の出力について、「図30:ωy(Uz)」、「図31:ωz(Ux)」、「図29:ωx(Uy)」なる別な出力も得られる旨の記載がある。これは、各角速度の検出原理として、図3〜図5の組み合わせの他に、図30〜図32の組み合わせも存在することを示すものである。すなわち、コリオリ力を利用した角速度の検出は、「第1の座標軸方向に振動を与えたときに、第2の座標軸方向に発生するコリオリ力を検出すれば、第3の座標軸まわりの角速度が得られる」という基本原理に基くものであり、この基本原理における第1,第2,第3の各座標軸を、XYZ三次元座標系におけるX軸,Y軸,Z軸の各座標軸に、どのように対応させてもかまわないのである。
同じX軸まわりの角速度ωxを検出する方法であっても、図3では、Z軸方向の振動Uzを与えたときにY軸方向に発生するコリオリ力Fyを検出しているのに対し、図30では、Y軸方向の振動Uyを与えたときにZ軸方向に発生するコリオリ力Fzを検出しているのである。また、同じY軸まわりの角速度ωyを検出する方法であっても、図4では、X軸方向の振動Uxを与えたときにZ軸方向に発生するコリオリ力Fzを検出しているのに対し、図31では、Z軸方向の振動Uzを与えたときにX軸方向に発生するコリオリ力Fxを検出しているのである。同様に、同じZ軸まわりの角速度ωzを検出する方法であっても、図5では、Y軸方向の振動Uyを与えたときにX軸方向に発生するコリオリ力Fxを検出しているのに対し、図32では、X軸方向の振動Uxを与えたときにY軸方向に発生するコリオリ力Fyを検出しているのである。
したがって、図28に示す検出装置を、図30〜図32に示す原理に基いて動作させることも可能である。これを個々の場合ごとに説明しておく。
まず、図30に示す原理に基いて、X軸まわりの角速度ωxを検出するには、Y軸方向励振手段142を駆動して振動子130にY軸方向の振動Uyを与えた状態において、Z軸方向信号分離手段163によって分離されたZ軸方向のコリオリ力Fzを角速度演算手段183に与える。角速度演算手段183は、Fz=2m・vy・ωxなる演算式に基いて、X軸まわりの角速度ωxを演算し、これを出力する。このとき、振動子130のY軸方向についての瞬間速度vyは、Y軸方向励振手段142の動作態様に基いて推定する。角速度演算手段183の出力に、「図30:ωx(Uy)」と記したのは、「図30に示す原理に基いて、振動子130に振動Uyを与えるという条件において、角速度ωxが出力される」ことを示したものである。
次に、図31に示す原理に基いて、Y軸まわりの角速度ωyを検出するには、Z軸方向励振手段143を駆動して振動子130にZ軸方向の振動Uzを与えた状態において、X軸方向信号分離手段161によって分離されたX軸方向のコリオリ力Fxを角速度演算手段181に与える。角速度演算手段181は、Fx=2m・vz・ωyなる演算式に基いて、Y軸まわりの角速度ωyを演算し、これを出力する。このとき、振動子130のZ軸方向についての瞬間速度vzは、Z軸方向励振手段143の動作態様に基いて推定する。角速度演算手段181の出力に、「図31:ωy(Uz)」と記したのは、「図31に示す原理に基いて、振動子130に振動Uzを与えるという条件において、角速度ωyが出力される」ことを示したものである。
更に、図32に示す原理に基いて、Z軸まわりの角速度ωzを検出するには、X軸方向励振手段141を駆動して振動子130にX軸方向の振動Uxを与えた状態において、Y軸方向信号分離手段162によって分離されたY軸方向のコリオリ力Fyを角速度演算手段182に与える。角速度演算手段182は、Fy=2m・vx・ωzなる演算式に基いて、Z軸まわりの角速度ωzを演算し、これを出力する。このとき、振動子130のX軸方向についての瞬間速度vxは、X軸方向励振手段141の動作態様に基いて推定する。角速度演算手段182の出力に、「図32:ωz(Ux)」と記したのは、「図32に示す原理に基いて、振動子130に振動Uxを与えるという条件において、角速度ωzが出力される」ことを示したものである。
このように、図28に示す検出装置には、図3〜図5の3とおりの原理に基く検出方法と、図30〜図32の3とおりの原理に基く検出方法と、のいずれをも適用することができるが、本願発明者は、この合計6とおりの原理のうちから、3とおりの原理をうまく選択してやることにより、検出動作および装置構成をより単純化することができることに気が付いた。ここで述べる第2の実施例は、このような基本思想に基き、§5で述べた第1の実施例を更に単純化したものである。
いま、図28に示す第1の実施例に係る装置において、角速度の検出原理として、図3によるωxの検出、図31によるωyの検出、図32によるωzの検出、の3とおりの原理を選択したとする。すると、図28に示す第1の実施例に係る検出装置は、図33に示すような第2の実施例に係る検出装置に単純化される。図33の検出装置は、図28の検出装置において、Y軸方向励振手段142と角速度演算手段183とを削除したものである。選択した図3,図31,図32の3とおりの検出原理を採用する限りは、Y軸方向の振動Uyを与える必要はなく、Z軸方向のコリオリ力Fzを用いた角速度演算は必要ないのである。
この図33に示す検出装置により、各軸方向の加速度αx,αy,αzと、各軸まわりの角速度ωx,ωy,ωzと、を検出するための検出動作を、「第2の実施例による検出動作」として、図34の流れ図に示す。
まず、ステップS31において、振動子130に振動Uzを与えた状態(すなわち、Z軸方向励振手段143を駆動した状態)で、次の2とおりの検出を行う。第1の検出としては、Y軸方向力検出手段152から合成力fy+Fyを取り出し、Y軸方向信号分離手段162により、力fyとコリオリ力Fyとに分離する。そして、加速度演算手段172において、力fyに基いて加速度αyを演算してこれを出力し、角速度演算手段182において、コリオリ力Fyに基いて角速度ωxを演算してこれを出力するのである。これは図3の原理に基く検出である。同時に、次のような第2の検出を行う。すなわち、X軸方向力検出手段151から合成力fx+Fxを取り出し、X軸方向信号分離手段161により、力fxとコリオリ力Fxとに分離する。そして、加速度演算手段171において、力fxに基いて加速度αxを演算してこれを出力し、角速度演算手段181において、コリオリ力Fxに基いて角速度ωyを演算してこれを出力するのである。これは図31の原理に基く検出である。こうして、ステップS31では、加速度αy,αyと角速度ωx,ωyとが検出できる。
次に、ステップS32において、振動子130に振動Uxを与えた状態(すなわち、X軸方向励振手段141を駆動した状態)で、次の2とおりの検出を行う。第1の検出としては、Z軸方向力検出手段153から合成力fz+Fzを取り出し、Z軸方向信号分離手段163により、力fzとコリオリ力Fzとに分離する。そして、加速度演算手段173において、力fzに基いて加速度αzを演算してこれを出力する。この第1の検出では、加速度の検出だけを行えばよい(図4の原理を利用すれば、コリオリ力Fzに基いて、角速度ωyを求めることも可能であるが、角速度ωyは既にステップS31で求められている)。同時に、次のような第2の検出を行う。すなわち、Y軸方向力検出手段152から合成力fy+Fyを取り出し、Y軸方向信号分離手段162により、力fyとコリオリ力Fyとに分離する。そして、角速度演算手段182において、コリオリ力Fyに基いて角速度ωzを演算してこれを出力するのである。これは図32の原理に基く検出である。こうして、ステップS32では、加速度αzと角速度ωzとが検出できる。
最後に、ステップS33を経て、検出動作を継続する限り、ステップS31からの処理が繰り返し実行される。この図34に示す「第2の実施例による検出動作」は、図29に示した「第1の実施例による検出動作」に比べて、更に1ステップ分が省略されている。すなわち、「第1の実施例による検出動作」では、振動子をX軸,Y軸,Z軸の3軸方向に振動させた状態での検出を行っていたのに対し、ここで述べた「第2の実施例による検出動作」では、X軸とZ軸との2軸方向に振動させた状態だけですべての検出を行うことができる。このため、図33に示す検出装置では、応答性が更に改善されることになる。
<<< §7.本発明に係る検出装置の第3の実施例 >>>
これまで、X軸,Y軸,Z軸の各軸方向の加速度αx,αy,αzと、各軸まわりの角速度ωx,ωy,ωzと、の6つの成分を検出する三次元の加速度/角速度検出装置の例を述べてきた。しかし、用途によっては、X軸およびY軸の2軸方向の加速度αx,αyと、2軸まわりの角速度ωx,ωyのみが得られればよい二次元の加速度/角速度検出装置の需要も十分に考えられる。このような二次元の検出装置に本発明を適用した第3の実施例は、更に構成が単純化される。
図35は、この第3の実施例の基本構成を示すブロック図である。図33に示す第2の実施例と比較すると、更に、X軸方向励振手段141、Z軸方向力検出手段153、加速度演算手段173が削除されている。このような構成でも、必要な加速度および角速度は支障なく検出することが可能である。すなわち、加速度αxは加速度演算手段171により得られ、加速度αyは加速度演算手段172により得られる。また、角速度ωxは、Z軸方向励振手段143によって振動Uzを与えた状態において、角速度演算手段182により得られ(図3の原理)、角速度ωyは、Z軸方向励振手段143によって振動Uzを与えた状態において、角速度演算手段181により得られる(図31の原理)。
この図35に示す検出装置により、二軸方向の加速度αx,αyと、二軸まわりの角速度ωx,ωyと、を検出するための検出動作は、図34に示した「第2の実施例による検出動作」の中のステップS31のみで足りる。別言すれば、「第3の実施例による検出動作」は、図34のステップS31のみからなる動作になる。これは、振動子130を常にZ軸方向にだけ振動させておけば、すべての検出値が得られることを意味する。このように、振動子の振動態様を変える必要がないので、非常に効率的な検出動作が可能になり、応答性は極めて良好なものになる。
<<< §8.二次元の検出に適した具体的な検出装置の構造 >>>
上述の§7で述べたように、X軸およびY軸の2軸方向の加速度αx,αyと、2軸まわりの角速度ωx,ωyのみを得ることを目的とした二次元の検出装置では、図35のブロック図に示されているように、励振手段としては、Z軸方向励振手段143のみを設ければよいし、力検出手段としては、X軸方向力検出手段151およびY軸方向力検出手段152のみを設ければよい。したがって、このような二次元の検出装置では、三次元の検出装置に比べて、圧電素子上に設ける上部電極の数を削減することができる。たとえば、図10に示す三次元の検出装置では、圧電素子10上に、励振手段として機能する4枚の上部電極E1〜E4と、力検出手段として機能する8枚の上部電極A1〜A8と、を設け、3軸すべての方向についての励振と力検出とを実現している。しかし、二次元の検出装置は、より少ない上部電極をもった構造で実現が可能である。
図36は、二次元の検出に適した具体的な検出装置の構造例を示す上面図であり、図37は、この検出装置をXZ平面に沿って切った側断面図である。この検出装置における各上部電極と、図35に示すブロック要素との対応関係は次のようになる。まず、上部電極E10は、Z軸方向励振手段143として機能し、上部電極E10と下部電極Bとの間に所定の交流電圧を印加することにより、中心部11をZ軸方向に振動させることができる。また、上部電極A11,A12は、X軸方向力検出手段151として機能し、ここに発生する電荷に基づいて、中心部11のX軸方向に関する変位を検出することができる。更に、上部電極A13,A14は、Y軸方向力検出手段152として機能し、ここに発生する電荷に基づいて、中心部11のY軸方向に関する変位を検出することができる。結局、圧電素子10上には、この5枚の上部電極E10,A11〜A14を設けるだけで、図35に示す二次元の検出装置を実現できることになる。
図38は、二次元の検出に適した具体的な検出装置のまた別な構造例を示す上面図であり、図39は、この検出装置をXZ平面に沿って切った側断面図である。この図38に示す検出装置と、図36に示す検出装置との相違は、励振用の上部電極と力検出用の上部電極との位置関係を内外逆にした点だけである。この検出装置における各上部電極と、図35に示すブロック要素との対応関係は次のようになる。まず、上部電極E20は、Z軸方向励振手段143として機能し、上部電極E20と下部電極Bとの間に所定の交流電圧を印加することにより、中心部11をZ軸方向に振動させることができる。また、上部電極A21,A22は、X軸方向力検出手段151として機能し、ここに発生する電荷に基づいて、中心部11のX軸方向に関する変位を検出することができる。更に、上部電極A23,A24は、Y軸方向力検出手段152として機能し、ここに発生する電荷に基づいて、中心部11のY軸方向に関する変位を検出することができる。
このように、二次元の検出だけが必要な検出装置では、上部電極を最小限の数で構成することによって、全体的な製造コストの削減を図ることができる。
<<< §9.本発明の適用対象となる容量式の検出装置 >>>
本発明の適用対象となる検出装置の一例として、§2においては、圧電素子10を用いた装置を説明した。既に述べたように、本発明は、図6のブロック図に示すような構成をもつ検出装置であれば、どのような検出装置に対しても適用可能であるが、ここでは、参考のために、本発明の適用対象となる容量式の検出装置の一例を簡単に説明しておく。この検出装置は、前掲の特許文献1に開示されているものである。
図40は、この容量式の検出装置200の側断面図である。この検出装置の主たる構成要素は、起歪体210、振動子220、台座230、ベース基板240、蓋板250である。起歪体210の上面図を図41に示す。この図41に示されているように、起歪体210は正方形状の金属板であり、その下面には、図41に破線で示すような円環状の溝が形成されている。図40の側断面図に明瞭に示されているように、この溝の形成部分において、起歪体210の厚みは小さくなっており、この部分が可撓性を有する構造になっている。ここでは、起歪体210を、円環状の溝部よりも内側に存在する中心部211と、円環状の溝部上方に存在する肉厚の薄い可撓部212と、円環状の溝部よりも外側に存在する周囲部213と、の3つの部分に分けて考えることにする。中心部211の底面には、振動子220が接合されている。この振動子220は、ある程度の質量をもった盤状の金属塊であり、この振動子220に作用する加速度に基づく力やコリオリ力によって、加速度や角速度の検出が行われることになる。一方、周囲部213の底面には、振動子220の周囲を囲うように台座230が接合されており、この台座230の底面は、ベース基板240に接合されている。結局、振動子220は、台座230で囲まれた空間内に宙吊りの状態になっている。また、起歪体210の上面には、蓋板250が接合されているが、この蓋板250は、図のように内部に空間を確保できる構造をもっている。
起歪体210の上面と蓋板250の下面との間に形成された空間内には、上部電極E0と下部電極F1〜F5とが配置されている。下部電極F1〜F5は、図41に示すような形状をした電極であり、起歪体210上面の図示のような位置に固着されている。一方、上部電極E0は、5枚の下部電極F1〜F5のすべてに対向する共通電極として機能できる円盤状の電極であり、蓋板250の下面に固着されている。結局、個々の下部電極F1〜F5と共通の上部電極E0とによって、5組の容量素子が形成されていることになる。
上述したように、振動子220は、台座230で囲まれた空間内に宙吊りになっており、可撓部212が可撓性を有するため、この振動子220は図に示すXYZの3軸方向にある程度の自由度をもって移動することができる。そこで、各電極間に所定の交流電圧を与えれば、振動子220を所望の方向に振動させることができる。たとえば、下部電極F1と上部電極E0との間に同じ極性の電荷を与えれば、クーロン力による斥力が作用し、両電極間隔は広がることになる。このとき同時に、下部電極F2と上部電極E0との間に異なる極性の電荷を与えれば、クーロン力による引力が作用し、両電極間隔は狭まることになる。その結果、振動子220はX軸の正の方向に変位を生じることになる。斥力と引力との関係を逆転すれば、振動子220は今度はX軸の負の方向に変位を生じることになる。こうして、X軸に沿った正負の変位が交番して行われるようにすれば、振動子220がX軸に沿って振動することになる。また、下部電極F3,F4を用いて同様のことを行えば、振動子220をY軸に沿って振動させることも可能になる。更に、下部電極F5を用いれば、Z軸方向に沿った振動も可能である。すなわち、下部電極F5と上部電極E0とに同じ極性の電荷を与えれば斥力の作用により両電極間隔は広がり、異なる極性の電荷を与えれば引力の作用により両電極間隔は狭まるので、これを交番して行えば、振動子220はZ軸方向に沿って振動することになる。このように、この装置は、図6に示す各軸方向の励振手段141〜143を備えていることになる。
一方、この装置は、図6に示す各軸方向の力検出手段151〜153をも備えた装置である。いま、振動子220に、加速度に基づく力やコリオリ力が作用した場合を考える。たとえば、X軸方向の力が作用した場合、振動子220はX軸に変位を生じることになるので、下部電極F1と上部電極E0との距離、および下部電極F2と上部電極E0との距離、にそれぞれ変化が生じることになる。また、Y軸方向の力が作用した場合、振動子220はY軸方向に変位を生じることになるので、下部電極F3と上部電極E0との距離、および下部電極F4と上部電極E0との距離、にそれぞれ変化が生じることになる。更に、Z軸方向の力が作用した場合、振動子220はZ軸方向に変位を生じることになるので、下部電極F5と上部電極E0との距離に変化が生じることになる。このような対向する一対の電極間の距離変化は、この一対の電極によって形成される容量素子の静電容量値に変化を及ぼす。したがって、各容量素子の静電容量値の変化を電気的に検出することができれば、振動子220の変位を検出することが可能になり、結果的に、振動子220に作用した各軸方向の力を検出することができるようになる。
以上のように、この容量式の検出装置200は、図6に示す各軸方向の励振手段141〜143と、各軸方向の力検出手段151〜153を備えた装置であり、§2で述べた圧電式の検出装置と同様に、本発明を適用することが可能である。なお、図示した容量式の検出装置200では、各下部電極F1〜F5が、励振手段と力検出手段との双方の機能を担うことになるが、本発明を適用する場合には、必要に応じて、励振手段として機能する部分と力検出手段として機能する部分とを、物理的に分離した構造にするのが好ましい。
<<< §10.各手段の選択的採用 >>>
前述したとおり、本発明は、加速度1軸成分と角速度2軸成分とを同時に検出できる装置に係るものである。したがって、これまで、加速度の3軸方向成分αx,αy,αzおよび角速度の3軸方向成分ωx,ωy,ωzを検出可能な例をいくつか述べてきたが、本発明を実施するにあたっては、これまで述べた実施例を構成する各手段のすべてを設ける必要はない。すなわち、「課題を解決するための手段」に記載されているとおり、これまでの実施例で述べた各手段のうち、検出する必要がある加速度成分および角速度成分に応じて、必要な手段を選択的に採用すればよい。