JP3709123B2 - 電気泳動分析方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気泳動分析方法に係り、特に、キャピラリー電気泳動法を用いて、未知試料に標準物質を添加してそれぞれの泳動時間を変換して、未知試料の実効移動度を求めることにより、未知試料を高い精度で迅速に同定する電気泳動分析方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、各種溶液中に含まれる高分子、コロイド粒子等を同定する場合、溶液中で高分子やコロイド粒子が電位差に応じて移動(泳動)する現象、いわゆる電気泳動を利用した分析方法が普及している。高分子、コロイド粒子の溶液中での泳動速度は、溶液中の電解質の種類や濃度だけでなく、高分子、コロイド粒子自身の粒子の形及び大きさに影響される。このため、この電気泳動を利用した分析方法のひとつである、キャピラリー電気泳動(CZE、capillary zone electrophoresis)は、例えば、タンパク質等に含まれるDNA断片の長さを分析するための重要な分析方法として注目されている。
【0003】
このキャピラリー電気泳動分析方法には、溶液中の未知物質(未知試料)の定性指標として直接用いられるピークポジションの高い再現性が求められる。このキャピラリー電気泳動による分析結果を、横軸に溶液中の未知試料による泳動時間、縦軸にピークポジションをとる座標軸に基づいたフェログラムで表現する場合、再現性の良いピークポジションを得るためには、泳動電圧(電流)、分離チャンバーの温度及び電気浸透流のコントロールがそれぞれ重要なファクターとなる。
【0004】
この泳動電圧(電流)及び分離チャンバーの温度は、分析する際の条件(例えば、キャピラリーの内径、支持電解液等)を同じにすることで、コントロールすることが十分可能である。一方、電気浸透流のコントロールは、ジュール熱によるセパレーションチューブの温度上昇が避けられないため、困難となる。このため、時間軸を持つ通常のキャピラリー電気泳動フェログラムの分析再現性は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)ほど高くはない。
【0005】
溶液中の未知試料の泳動時間の再現性を妨げる要因としては、例えば、電気浸透流の変化、電位勾配の緩和効果(RPG)、高電圧の印加に伴って発生するジュール熱による温度上昇等が挙げられる。これらは複合的な要因で起こるためコントロールが難しく、異なる装置を用いて測定した場合、試料や支持電解液が同じであっても同じ泳動時間を得ることが困難となることが想定される。したがって、異なる装置を使用した場合での測定結果を正しく比較するためには、電気泳動データの標準化が必要とる。
【0006】
一方、Leeらは、電気量、すなわち、電流の積分値をキャピラリーの断面積とキャピラリー全長で割った値を用いる泳動指標(MI、Migration Index)と、さらに浸透流のMIを補正した調節泳動指標(AMI、Adjusted Migration Index)を提案した(MI、AMIの単位は、明細書中、μC/m3とした)。AMIは、支持電解液が同じであれば、かなり良い定性指標になると考えられたが、AMIのパラメータのひとつに支持電解液の伝導度が含まれているため、わずかな組成の違い(例えば、pHはほぼ同じでもカウンターイオンが異なる場合等)で測定結果が異なってしまう。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上述の事項を防止するためには、定性指標として、試料イオンと支持電解液の条件だけに依存する実効移動度を用いる電気泳動分析方法を提案すればよい。しかしながら、従来の泳動時間から実効移動度への変換法では、ジュール熱による移動度の変化や電位勾配の緩和効果が考慮されていない場合が多かった。
【0008】
ここで、本発明に関連する技術について説明する。
本発明者らは、ジュール熱による移動度の変化や電位勾配の緩和効果を補正する方法として、未知試料に標準物質を添加して、キャピラリー電気泳動を実行し、標準物質の泳動時間を求め、浸透流の速度が時間に対し直線的に変化すると仮定して、この標準物質の泳動時間から実効移動度に変換する方法を既に出願している(特願平11−251604)。
【0009】
この方法は、試料の実効移動度の温度依存性(サンプルイオン自身の温度依存性と支持電解液への温度依存性)などを、厳密な物理現象と関連させて補正するものでなく、浸透流の速度が時間に対し直線的に変化すると仮定した仮想的な浸透流速度を用いるので、この直線的変化を表す実験式中の係数にすべての現象が含まれてしまい物理的な意味合いがあいまいになってしまうことが想定される。
【0010】
そこで、本発明者らは、再現性を低下させる三つの要因(泳動速度に影響するサンプルイオン自身の温度依存性、支持電解液への温度依存性、電位勾配の緩和効果に基づく泳動時間の遅れ)を、本来の物理的な現象として捉えると共に、これらの要因を理論的に取り除く方法を模索した。
【0011】
本発明は、以上の点に鑑み、キャピラリー電気泳動法を用いて、未知試料を同定するために重要な役割を果たす実効移動度を、高い精度で迅速に求めることを目的とする。
また、本発明は、分析装置の動作条件による実効移動度のばらつきをなくし、未知試料毎の標準指標としてのデータの信頼性を高めることを目的とする。また、本発明は、異なる分析装置で同じ指標を使用することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1の解決手段によると、
未知試料を含む試料に標準物質を添加すると共に、電気泳動による標準物質及び未知試料の泳動時間と、移動度0の物質の泳動時間又はシステムピークの泳動時間を測定するステップと、
前記測定するステップにより測定された、標準物質及び未知試料の泳動時間、移動度0の物質の泳動時間又はシステムピークの泳動時間と、標準物質の基準温度における既知の実効移動度に基づいて、未知試料の実効移動度を求めるステップと
を含む電気泳動分析方法を提供する。
【0013】
本発明の第2の解決手段によると、
未知試料を含む試料に標準物質を添加すると共に、電気泳動による標準物質及び未知試料の泳動時間を測定するステップと、
前記測定するステップにより測定された、標準物質及び未知試料の泳動時間と、標準物質の基準温度における既知の実効移動度に基づいて、未知試料の実効移動度を求めるステップと
を含む電気泳動分析方法を提供する。
【0014】
【発明の実施の形態】
1.概要
1−1.キャピラリー電気泳動
電気泳動を用いた分析方法としては、U字管電気泳動法、アガロース電気泳動法、キャピラリー電気泳動法等が知られている。本発明では、キャピラリー電気泳動法を用いて、未知試料を同定するために重要な役割を果たす実効移動度を求めるため、まず、キャピラリー電気泳動法についての概要を説明する。
【0015】
キャピラリー電気泳動は、水、有機溶媒を問わず、イオンの移動度の差により分離・分析する手法であり、液体クロマトグラフィー法と比べて数段分離能が高く、近年非常に注目されている分析方法である。このキャピラリー電気泳動は、何かの溶媒に溶け、電気を導通する事ができれば利用することができるので、分離する条件(溶媒、pH、添加剤等)さえ整えば、ほぼ「何でも」分析することができる。但し、このキャピラリー電気泳動は、そのままでは移動度の差がない中性物質や巨大分子などには適用されにくいため、これらの分離・分析には、他の電気泳動モードが用いられことが多い。
【0016】
他の電気泳動法としては、例えば、中性分子の場合、ミセル動電クロマトグラフィー(MEKC)と呼ばれる方法が用いられ、巨大分子の場合には、電解液にゲルを添加するキャピラリーゲル電気泳動法(CGE)が用いられる。キャピラリーゲル電気泳動法は、特に、ヒトゲノム計画のキーテクノロジーの一つで、塩基配列はこの手法を用いて決定されている。なお、本発明は、これらの電気泳動法にも適用可能な場合がある。
【0017】
また、キャピラリー電気泳動は、ゲノムプロジェクトの次の生化学研究の段階と考えられているプロテオーム(タンパクの機能・構造の特定)分析に対して有用と注目されており、特に、精密な移動度の決定ができれば、質量分析装置と組み合わせることで、タンパク質の研究に非常に有効な分析方法となることが報告されている。さらに、廃液が大変少ないため(どんなに多くても数ml)、環境への影響も考慮した分析方法といえる。
【0018】
図1は、一般的なキャピラリー電気泳動装置の概略構成図である。但し、分析対象は、試料内の陽イオンとし、この陽イオンの分析には、後述する間接吸収法を適用した。
このキャピラリー電気泳動装置1は、例えば、高圧電源部2、バイアル3、4、キャピラリー5、スリット6、光源(例えば、UVランプ)7、回折格子8及びマルチチャンネルフォトダイオード9を備える。高圧電源部2は、例えば、出力0〜30kVの高電圧電源であって、配線を介してバイアル3、4にそれぞれ接続されている。バイアル3、4は、図示しないターンテーブルや並進台上に載置されている。バイアル3、4には、UV吸収のある適宜の支持電解液が注入される。また、バイアル3には、分析するためのUV吸収のない試料が導入される。キャピラリー5は、適宜の内径及び長さを有する管であり、キャピラリー5の一端はバイアル3に挿入され、他端はバイアル4に挿入されている。
【0019】
キャピラリー5には、光源7から照射される紫外線の幅を制限するための隙間を有するスリット6が取り付けられている。このスリット6を通過した光は、回折格子8によって、適宜のスペクトルに分解される。この得られたスペクトルは、マルチチャンネルフォトダイオード9によって、UVの吸光度として数値化される。なお、高圧電源部2、バイアル3、4及びマルチチャンネルフォトダイオード9は、図示しないコンピュータにより制御されている。
【0020】
キャピラリー電気泳動装置1の動作概要を説明する。
まず、支持電解液が注入されたバイアル3と空のバイアル4とをセットする。バイアル4を密封しバイアル3に注入された支持電解液を吸引する。この吸引された支持電解液は、キャピラリー5内に満たされる。次に、例えば、落差法により、試料をキャピラリー5の一端付近に注入する。具体的には、バイアル4に支持電解液(水でもよい)、バイアル3に試料を導入する。この際、バイアル3の液面がバイアル4の液面より高くなるように設定する。このバイアル3、4の液面差によるサイフォンの原理で、試料がバイアル3からキャピラリー5の一端付近に注入される。次に、支持電解液が注入され、液面が同じ高さであるバイアル3、4をセットする。ここで、高圧電源部2からの高電圧をキャピラリー5の両端に印加する。
【0021】
試料は、キャピラリー5内を有効長(試料が導入されたキャピラリー5の一端付近からキャピラリー5に沿ったスリット6までの距離)だけ泳動する。この試料内の陽イオンの泳動方向は、図中矢印で示すように、バイアル3からバイアル4に向かっている。この間に、試料内の各陽イオンは、各陽イオンの泳動速度(実効移動度)の差により分離される。この泳動速度(実効移動度)の差により分離された試料は、上述した回折格子8によって、一定時間ごとのスペクトルデータとして検出される。このスペクトルデータは、上述したマルチチャンネルフォトダイオード9によって、UVの吸光度として数値化される。なお、ここでは、試料内の陽イオンを分析したが、陰イオンを分析する場合は、高圧電源部2の符号を逆にすればよい。
【0022】
また、試料をキャピラリー5の一端付近に注入する際、落差法を採用したが、これ以外の方法としては、例えば、吸引法、加圧法及び電気的加圧法が挙げられる。吸引法では、バイアル3に試料を詰め、バイアル4を空にする。つぎに、空のバイアル4を密封し吸引することにより、試料をキャピラリー5内に注入する。加圧法では、バイアル3に試料を詰め、バイアル4を空にする。つぎに、バイアル3を密封し加圧することにより、試料をキャピラリー5内に注入する。電気的注入法では、バイアル3に試料を詰め、バイアル4に電解液(水でも可)を詰める。つぎに、高電圧を印加することにより、試料をキャピラリー5内に注入する。
【0023】
1−2.泳動時間−実効移動度変換法による実効移動度の算出
キャピラリー電気泳動法における電気泳動現象と実効移動度の算出の概要を説明する。
従来の泳動時間−実効移動度変換法では、実効移動度mは以下のようにして求められる。
m=νion/E =(l/t−νeof)/(V/L) (1)
ここで、Vは印加電圧、Eは電位勾配、lは有効長、Lはキャピラリー全長、νionは未知試料の泳動速度、tは未知試料が検出器によって検出されるまでの時間(泳動時間)である。
【0024】
また、νeof(電気浸透流速度、electroosmotic flow velocity)は、移動度0の物質の泳動時間又はシステムピークの泳動時間teofを用いて以下の式から得られる。
νeof=l/teof (2)
すなわち、式(1)は次のようになる。
m=(l/t−l/teof)/(V/L) (1)’
【0025】
システムピークとは、間接吸収法を用いたとき、電気浸透流によってキャピラリー内の液体が流され、試料を導入した部分が検出器に到達した場合に出現する、あたかも何か物質があるかのようなピークをいう。したがって、システムピークの泳動時間teofは、システムピークが出現するまでの時間をいう。また、間接吸収法とは、例えば、試料にUV(紫外線)の吸収がない場合、電解液にUV吸収のある物質を用いると、試料の部分だけ電解液の物質が減少し、UVの吸光度が低下することを利用した検出方法である。
【0026】
また、電気浸透流とは、例えば、シリカキャピラリーを用いたとき、キャピラリー内壁にあるシラノール基が解離することにより内壁が負に帯電し、キャピラリー内部にある溶液が見かけ上正に帯電することにより、電場を印加すると液体全体が負電極側に流れる現象をいう。この電気浸透流は、キャピラリーに他の物質を用いても、ほとんどの場合、発生する(但し、物質や電解液の組成により流れる向きが変わることもある)。また、移動度0の泳動時間teofは、電場の印加により、上述のように、電気浸透流のためにキャピラリー内の液体全体が押し流されるため、移動度を持たないような(即ち、移動度0)物質(例えば、中性物質)でも検出器によって検出されるので、このような電場を印加してから検出されるまでの時間である。
【0027】
ここで、温度による移動度の変化を詳しく検討すると、サンプルの実効移動度mの温度依存性は、次式のように、サンプルイオン自身の項f(T)と支持電解液への温度依存性の項g(T)=ε/η(ε:誘電率,η:粘性係数)とに分けて考えられる。
m=f(T)・g(T) (3)
【0028】
この式を基準温度T0の周りでテイラー展開すると、次のようになる。
但し、ΔT=T−T0,f0=f(T0),g0=g(T0)
ここで、温度変化によるイオンサイズの変化は、溶媒の粘度や誘電率の温度依存性と比較して非常に小さいため、イオン自身への影響の温度依存性を無視すると、実効移動度mは次式で表される。
m=f0(g0+g1ΔT+g2ΔT2+…)
【0029】
=f0g0(1+g1/g0・ΔT+g2/g0・ΔT2+…) (5)
ここで、ΔTが小さいところでは2次以降の項を無視することができ、さらに、
f0g0=m0,g1/g0=αと置き換えると、物質に依らず移動度は
m=(1+αΔT)・m0 (6)
と表される。ここで、m0は基準温度におけるサンプルの実効移動度を表し、αはサンプルイオンに依存しない温度係数を表す。一般に、25℃における温度係数αの値は約0.02(例:K 0.0191、Li 0.0228)である。
【0030】
1−3.温度係数のみを考慮した変換法
次に温度係数のみを考慮した変換法について説明する。
既知標準物質(実効移動度ms)の基準温度T0における実効移動度m0,sは、式(1)’を用いて次のように求められる。
m0,s=(l/ts−l/teof)/{(1+αΔT)E}
【0031】
さらに、式(6)よりmsとm0,sの関係は次のようになっている。
1+αΔT=ms/m0,s (7)
また、試料物質(実効移動度m)の基準温度T0における実効移動度m0は式(1)’を用いて次のように求められる。
m0=(l/t−l/teof)/{(1+αΔT)E}
【0032】
さらに、mとm0の関係は、式(6)から次のようになる。
1+αΔT=m/m0
これらの式から、温度T0における試料物質(イオン)の実効移動度m0は次式のように得られる。
この式(8)によれば、E,V,l,Lといった装置に依存するパラメータが消去されることになり、装置の条件に依存しない電気泳動データの標準化が可能となる。
【0033】
したがって、本実施の形態では、以上の理論を用いて、未知試料に標準物質を添加してそれぞれの泳動時間から移動度を測定し、その移動度の値から物質を同定するキャピラリー電気泳動法において、まず、実効移動度が温度のみに影響される場合の補正方法として、移動度0の物質の泳動時間又はシステムピークの泳動時間teof、標準物質の泳動時間tsおよび標準物質の基準温度T0における実効移動度mo,sから未知物質の実効移動度m0を式(8)を用いて求める。なお、式(8)に含まれるパラメータであるmo,sは、論文・既存データから決定される。また、teofは、例えば、キャピラリー内の電解液の濃度のむら等により測定される。さらに、teof、t及びtsは、既存データ・実験値、又はだいたいの見積もり等から、どの検出ピークがどの物質に対応するのか当たりを付けることができるので、後述する実験より得られたフェログラムからそれぞれの泳動時間を決定できる。
【0034】
1−4.温度及び時間補正を考慮した変換法
次に、温度だけでなく、時間補正も考慮した変換法について説明する。
一般に、電位勾配の緩和効果によりイオンの泳動時間はすべて一定時間だけ遅れるものと考えられる。この電位勾配の緩和効果は、本発明者らがシミュレーションにより見出した現象である(J. Chromatogr.A, 898(1999)19-29)。具体的には、定電圧電源を用いてキャピラリーの両端に高電圧をかけた場合、試料を導入した部分の電位勾配の時間変化のために、キャピラリーを流れる電流がすぐには一定にならず、しばらく時間がたってから一定になる。そのため、従来電気泳動を用いて移動度を決定するときに用いられる平均電位勾配(電圧/キャピラリー全長)は、すぐには得られないため、従来の計算方法で予測される泳動時間よりも、ある一定時間遅れて検出される現象をいう(この遅延時間を、本明細書中、τと表す)。
【0035】
ここで、電気浸透流が測定中一定であるとして、この電位勾配の緩和効果を考慮に入れると、サンプルイオンの実効移動度mは次のように表される。
m=l/{(t−τ)E}−meof (9)
【0036】
ここで、meofは浸透流の移動度、νeof/Eである。すなわち、この移動度は、ジュール熱により上昇したキャピラリー内温度におけるものを表している。この式を上記式(6)に代入すると、基準温度T0における実効移動度m0を求めることのできる次式を得る。
m0={l/(t−τ)E−meof}/(1+αΔT) (10)
【0037】
しかしながら、パラメーターτ、meofおよび1+αΔTは未知数である。そこで、移動度が既知である標準試料(標準物質)A,Bおよび移動度0の物質又はシステムピークの泳動時間teofから、これらのパラメーターを決定する。標準試料A,Bおよびシステムピークの移動度は以下の式で表される。
m0,A=[l/{(tA−τ)E}−meof]/(1+αΔT) (11)
m0,B=[l/{(tB−τ)E}−meof]/(1+αΔT) (12)
meof=l/{(teof−τ)E} (13)
【0038】
ここで、tA、tBは、標準物質A、Bの泳動時間、m0,A、m0,Bは、標準物質A、Bの基準温度T0における実効移動度である。
式(11)〜(13)から、次式が得られる。
τ={m0,AtA(teof−tB)−m0,BtB(teof−tA)}/{m0,A(teof−tB)−m0,B(teof−tA)} (14)
【0039】
また、式(11)を変形して、次式が得られる。
1+αΔT=[l/{(tA−τ)E}−meof]/m0,A (15)
さらに、式(13)(15)を式(10)に代入すると
m0={(tA−τ)(teof−t)/(t−τ)(teof−tA)}・m0,A (16)
となる。この式(16)によれば、E、V、l、Lといった装置に依存するパラメーターが消去されることになり、装置の条件に依存しない電気泳動データの標準化が可能となる。
【0040】
したがって、本実施の形態では、実効移動度m0が温度に影響されるのみならず電位勾配の緩和効果による泳動時間遅れの影響も受ける場合の補正方法として、移動度0の物質の泳動時間又はシステムピークの泳動時間teof、二つ以上の標準物質の泳動時間tA、tBおよび該標準物質の基準温度T0における実効移動度m0,A、m0,Bから、未知物質の実効移動度m0を式(14)及び(16)を用いて求める。なお、式(14)及び(16)に含まれるパラメータであるm0,A、m0,Bは、論文・既存データから決定される。また、teof、t及びtA、tBは、上述のように、例えば、既存データ・実験値又はだいたいの見積もり等から当たりを付け、物質との関係を把握することができるので、後述する実験より得られたフェログラムからそれぞれの泳動時間を決定できる。
【0041】
さらに、移動度0の物質が添加できない、又は、システムピークを検出することができない(すなわち、teofを特定できない)場合を考慮した変換法について説明する。まず、移動度が既知の標準物質A、B、Cを試料に添加し、これらの泳動時間tA、tB、tCを測定することにより、必要なパラメータを決定する。
【0042】
標準物質A、B、Cの移動度は、上述したように次のように表される。
m0,A=[l/{(tA−τ)E}−meof]/(1+αΔT) (11)
m0,B=[l/{(tB−τ)E}−meof]/(1+αΔT) (12)
m0,C=[l/{(tC−τ)E}−meof]/(1+αΔT) (17)
式(11)(12)(17)から、次式が得られる。
ただし、i、jはA、B、Cのいずれかであり、かつ、i≠j
meof=l/{(ti−τ)E}−m0,i(1+αΔT) (20)
ただし、iはA、B、Cのいずれかである。
【0043】
このようにして得られたτ、1+αΔT、meofを式(10)に代入すると次式が得られる。
m0={(ti−t)(tj−τ)(m0,j−m0,i)}/{(t−τ)(ti−tj)}+m0,i (21)
ただし、i、jは、A、B、Cのいずれかであって、かつ、i≠j
ここで、m0,C=0、tC=teof、i=C、j=Aとすると、式(14)〜(16)が得られる。
導出過程を以下に示す。
式(11)(12)(17)から、次式が得られる。
meof=l/{(tA−τ)}−m0,A(1+αΔT) (11)’
meof=l/{(tB−τ)}−m0,B(1+αΔT) (12)’
meof=l/{(tC−τ)}−m0,C(1+αΔT) (17)’
【0044】
また、式(11)’から式(12)’および式(17)’を引いて整理すると、次式が得られる。
(tA−τ)(tB−τ)={l(tB−tA)}/{E(1+αΔT)(m0,A−m0,B)} (a)
(tA−τ)(tC−τ)={l(tC−tA)}/{E(1+αΔT)(m0,A−m0,C)} (b)
さらに、(a)/(b)から
(tB−τ)/(tc−τ)={(tB−tA)(m0,A−m0,C)}/{(tC−tA)(m0,A−m0,B)}=K (c)
とすると、次式が得られる。
τ=(tB−KtC)/(1−K) (c)’
【0045】
ここで、τの分子及び分母をそれぞれ整理すると、
τの分子=tB−{(tB−tA)(m0,A−m0,C)tC}/{(tC−tA)(m0,A−m0,B)}
={m0,AtA(tC−tB)+m0,BtB(tA−tC)+m0,CtC(tB−tA)}/{(tC−tA)(m0,A−m0,B)}
τの分母=1−{(tB−tA)(m0,A−m0,C)}/{(tC−tA)(m0,A−m0,B)}
={m0,A(tC−tB)+m0,B(tA−tC)+m0,C(tB−tA)}/{(tC−tA)(m0,A−m0,B)}
となり、さらに、次式が得られる。
【0046】
また、式(a)もしくは(b)から、次式が得られる。
1+αΔT={l(ti−tj)}/{E(ti−τ)(tj−τ)(m0,i−m0,j)} (19)
また、式(11)’(12)’(17)’のいずれかを使うことで、次式が得られる。
meof=l/{(ti−τ)}−m0,i(1+αΔT) (20)
【0047】
これにより、移動度0の物質の泳動時間又はシステムピークの泳動時間teofを特定できない場合であっても、三つ以上の標準物質の泳動時間tA、tB、tCおよび該標準物質の基準温度T0における実効移動度m0,A、m0,B、m0,Cから、未知物質の実効移動度m0を式(18)及び(21)を用いて求めることができる。但し、m0,C=0、tC=teof、i=C、j=Aとすると、式(14)と(18)、式(16)と(21)は、それぞれ同等の式となるので、移動度0の物質の泳動時間又はシステムピークの泳動時間teofを特定できない場合での実験は、省略する。なお、式(18)及び(21)に含まれるパラメータであるm0,A、m0,B、m0,Cは、論文・既存データから決定される。また、tA、tB、tC及びtは、上述のように、例えば、既存データ・実験値又はだいたいの見積もり等から当たりを付け、物質との関係を把握することができるので、実験より得られたフェログラムからそれぞれの泳動時間を決定できる。
【0048】
1−5.本発明による電気泳動分析方法の処理手順
図2は、本発明による電気泳動分析方法のフローチャートである。なお、説明の便宜上、ここでのフローチャートの説明は、概略的なものとし、具体的な実験結果は後述する。
【0049】
まず、未知物質(未知試料)を含む試料に標準物質を添加する(S101)。この標準物質を添加された未知試料を、キャピラリー内に導入すると共に、上述したキャピラリー電気泳動を実行する(S103)。つぎに、このキャピラリー電気泳動を実行することにより、上述1−3で説明したように、実効移動度を求める際、温度による影響のみを考慮した場合、移動度0の物質の泳動時間又はシステムピークの泳動時間teof、標準物質の泳動時間ts及び未知試料の泳動時間tが得られ、さらに、標準物質の基準温度T0における既知の実効移動度mo,sを得る(S105)。これらのパラメータ値と式(8)に基づいて、未知試料の実効移動度m0を算出する(S107)。なお、この算出された未知試料の実効移動度m0に基づいて、未知試料の物質の同定を行ってもよい(S109)。
【0050】
また、上述1−4で説明したように、実効移動度を求める際、温度だけでなく電位勾配の緩和効果による泳動時間遅れの影響も考慮した場合、移動度0の物質の泳動時間又はシステムピークの泳動時間teof、二つ以上の標準物質の泳動時間tA、tB及び未知試料の泳動時間tが得られ、さらに、該標準物質の基準温度T0における既知の実効移動度m0,A、m0,Bを得る(S105)。これらのパラメータ値と式(14)及び(16)に基づいて、未知試料の実効移動度m0を算出する(S107)。なお、この算出された未知試料の実効移動度m0に基づいて、未知試料の物質の同定を行ってもよい(S109)。
【0051】
2.実験および比較
2−1.実験方法
ここで、発明した方法の有効性を検証するために利用したキャピラリー電気泳動装置には、内径(I.D.)75μmおよび50μm、全長40cm(有効長27.5cm)とする、キャピラリーが備えられている。このキャピラリーは、設定温度25℃であり、15kVおよび30kVの電圧が印加される。さらに、波長を検出するために(座標軸上に測定結果を載せるために)、265nmの3,5‐ルチジンの吸収を測定する間接吸収法を採用した。
【0052】
試料は、KCl,LiCl,TRIS(トリヒドロキシメチルアミノメタン、Hydroxymethyl Aminomethan),ε−アミノカプロン酸とオクチルスルホン酸ナトリウム30mMおよび0.3mMの等モル混合試料を用いた。この30mM,0.3mMの等モル試料は、それぞれ上述した落差法(2cm 15s),(2cm 75s)を用いて注入した。支持電解液は、20mM3,5ルチジンにHClを加えてpH6.0に調節した溶液(支持電解液A:SE20mM)と、40mM3,5‐ルチジンに酢酸を用いてpH6.0に調節した溶液(支持電解液B:SE40mM)を用いた。
【0053】
2−2.本発明による泳動時間−実効移動度変換を適用しない状態での実験
図3は、本発明による泳動時間−実効移動度変換を適用しない実験により得られたフェログラムを示す。フェログラムは、上から順に
(A)sample 30mM,SE20mM(支持電解液A),I.D.75μm,V=30kV
(B)sample 30mM,SE40mM(支持電解液B),I.D.75μm,V=30kV
(C)sample 30mM,SE40mM(支持電解液B),I.D.50μm,V=30kV
(D)sample 30mM,SE40mM(支持電解液B),I.D.50μm,V=15kV
(E)sample 30mM,SE40mM(支持電解液B),I.D.75μm,V=15kV
(F)sample 0.3mM,SE40mM(支持電解液B),I.D.75μm,V=15kV
の条件で測定して得られた。また、(C)では新しいキャピラリーを内壁の処理なしで用い、それ以外の実験では、何度か測定に用いたキャピラリーを用いた。
表1に泳動時間の測定結果(単位:秒)を示す。
【0054】
【表1】
【0055】
したがって、ピークは、左から順にK+,Na+,Li+,TRIS,ε−アミノカプロン酸,システムピーク,オクチルスルホン酸である。同じ試料・電解液でも、このように実験条件を変化させることにより様々なフェログラムが得られることがわかる。したがって、上述したように、異なる装置を使えば、このように泳動時間の異なるフェログラムしか得られないことになる。このため、多数の未知試料を同時に測定するには、上述したような同じ物質が同じ定性指標を示すような標準化法が有効となる。
【0056】
2−3.本発明による式(8)を用いた泳動時間−実効移動度変換の実験
図4は、式(8)を用いて移動度を算出(S101〜S107を実行)した際のフェログラムである。
ピークは、左から順にK+,Na+,Li+,TRISである。また、図中の実線は標準試料として用いたLiの25℃での既報値34.9(式(8)のmo,s)である。点線は左からK、Na、TRISの25℃での既報値であり、それぞれ69.9、46.3、24.4である。この実験により、データのばらつきが大きく改善され、Na、Li、Trisの移動度のそれぞれの平均(相対標準偏差)は、66.6(3.60%)、45.7(1.16%)、22.6(8.07%)であった。また、これの平均(相対標準偏差)は、既報値の値から4.74%、1.37%、7.49%のずれであった。特に、最も電力が小さく、内径が細く印加電圧の低いサンプル(D)では、K,Naの移動度は、既報値と0.93%、0.08%のずれしか生じなかった。しかしながら、他のデータは、Kの移動度が既報値より小さく見積もられた。
【0057】
すなわち、これは電位勾配の緩和効果による遅延時間τを考慮に入れていないため、泳動時間の小さなKの誤差が相対的にやや大きくなったと考えられる。例えば、移動度の小さなNaでは、その影響が小さくなった。
【0058】
2−4.本発明による式(16)を用いた泳動時間−実効移動度変換の実験
図5は、式(14)及び(16)を用いて移動度を算出(S101〜S107を実行)した際のフェログラムである。
ピークは、左から順にK+,Na+,Li+,TRISである。また、図中の実線は、標準試料として用いたK、Liの25℃での既報値であり、それぞれ69.9(式(14)および(16)中のm0,A)、34.9(式(14)および(16)中のm0,B)である。図中の点線は、左からNa、Trisの25℃での既報値であり、それぞれ46.3、24.4である。この実験によりデータのばらつきが顕著に改善された。Na、TRISの移動度の平均(相対標準偏差)は46.4(0.30%)、22.2(7.68%)であった。また、これらは既報値の値から0.29%、9.17%のずれであった。なお、TRISの大きなずれは、テーリングを起こしているためである。一方、Naについては、移動度のばらつきを0.3%以下にすることが可能であることが示された。
【0059】
また、参照温度での実効移動度に変換することが可能なため、例えば、伝導度法のような他の方法で求められた実効移動度と比較することが可能になり、データの汎用性を向上させることができる。
【0060】
3.従来との比較
3−1.泳動指標(MI、Migration Index)を用いた実験
図6は、MIを横軸としたフェログラムである。
上述のように、Leeらが提案した電気量、すなわち電流の積分値をキャピラリーの断面積とキャピラリー全長で割った値を用いる、MIを用いた場合、図3で示したフェログラムで、全く異なった泳動時間でピークが出ていた(B)(D)(E)(F)がMIで整理することにより、比較的良い一致を示した(ピークは、図3と同様に、左から順にK+,Na+,Li+,TRISである)。しかしながら、支持電解液が異なる(A)や浸透流の速度が大きく異なる(C)では、大きく異なるMIにピークが現れた。
【0061】
すなわち、このMIを用いたフェログラムは、MIでは温度の影響を除去することができるが、電解液の性質や浸透流の影響までは十分に除去できないことを示している。
【0062】
3−2.調節泳動指標(AMI、Adjusted Migration Index)を用いた実験
図7は、AMIを横軸としたフェログラムである。
MIに対して、さらに浸透流の影響を考慮したAMIを用いた場合では、同じ支持電解液を用いた(B)〜(F)では、比較的良い一致を示している。図中の点線は、(B)〜(F)のそれぞれの物質のピーク位置の平均値を示している。この点線を指標にAMIの値を詳しく調べてみると、相対標準偏差(RSD)は4.83%(K),3.77%(Na),4.70%(Li),7.08%(Tris)とばらついている。さらに、移動度がほぼ同じであるにもかかわらず、(A)では全く異なるフェログラムであった。この差は、支持電解液の伝導度が異なるために生じたものである。
【0063】
すなわち、このAMIを用いたフェログラムは、温度と浸透流の影響を除去することができるが、電解液の性質やまでは十分に除去できないことを示している。
【0064】
3−3.実効移動度を横軸とした従来の分析方法による実験
図8は、実効移動度を横軸とした従来の分析方法によるフェログラムを示す。この従来の分析方法では、泳動時間から速度を求め、その速度から浸透流の速度との差を求め、その差を印加した電圧で割り、さらに、キャピラリーの全長をかけることで、実効移動度を算出する。この実効移動度を横軸としたフェログラムでは、ピークは、左から順にK+,Na+,Li+,TRISである。また、図中の点線は左からK、Na、Li、Tris、の25℃での既報値であり、それぞれ69.9、46.3、34.9、24.4である。それぞれのピークの移動度は大きくばらついており、K、Na、Li、Tris、の移動度の平均(相対標準偏差)は、90.7(17.5%)、62.5(19.9%)、47.8(21.0%)、31.1(26.0%)であった。
【0065】
さらに詳しく考察すると、印加電圧30kVの(A)〜(C)は、15kVの(D)〜(F)と比較して実効移動度が大きく見積もられている。これは系内で発生する電力が大きく、内部の温度が上昇しているため、実効移動度が大きくなったことによる。特に、内径が太く濃い支持電解液を用いた(B)では、その傾向が顕著であった。さらに、既報値と比較してもすべての物質の移動度が大きく見積もられた。
【0066】
このように、高電圧を印加するキャピラリー電気泳動を用いて、再現性のあるデータを得るためには、上述の本実施の形態ような、内部温度の上昇を補正するためのデータ処理方法が有効となる。
【0067】
3−4.実効移動度を横軸とした本発明者らが既に出願した分析方法による実験図9は、実効移動度を横軸とした本発明者らが既に出願した分析方法(特願平11−251604)によるフェログラムを示す。
【0068】
この分析方法によって算出した実効移動度を横軸としたフェログラムでは、ピークは、左から順にK+,Na+,Li+,TRISである。また、図中の実線は標準試料として用いたK、Li、の25℃での既報値であり、それぞれ69.9、34.9である。図中の点線は左からNa、Trisの25℃での既報値であり、それぞれ46.3、24.4である。この実験によれば、データのばらつきが大きく改善され、Na,Trisの移動度の平均(相対標準偏差)は、46.9(1.05%)、21.8(8.11%)であった。また、これらは既報値の値から0.64%、10.7%のずれであった。なお、TRISの泳動時間の評価は、テールを引いているために困難であるとMikkersらが報告しているとおり、Trisの移動度は既報値と大きくずれたが、Naは、既報値とほぼ一致した。
【0069】
これにより、この方法は、非常に有用な方法であるが、上述のように物理的な意味合いがあいまいなとなってしまう場合が想定される。
以上、本実施の形態による式(8)、(14)及び(16)を用いた泳動時間−実効移動度変換の実験と、従来の方法である、MI及びAMIを用いた実験、実効移動度を横軸とした従来の分析方法による実験及び本発明者らが既に出願した分析方法による実験とを、比較することにより、キャピラリー電気泳動により測定したデータを、本実施の形態による処理を施せば、混合物中の未知試料のある参照温度での実効移動度が迅速かつ正確に求めることができる。
【0070】
また、本実施の形態では、一つの装置でもその動作条件によって異なっていた実効移動度のばらつきをなくし、物質毎に標準指標としてのデータの蓄積ができる。また、異なる装置で同じ指標が使用できるため、これらのデータベースの蓄積が進めば、将来未知物質を同定する際、非常に迅速かつ正確な分析が期待される。
【0071】
【発明の効果】
本発明によると、以上説明した通り、キャピラリー電気泳動法を用いて、未知試料を同定するために重要な役割を果たす実効移動度を、高い精度で迅速に求めることができる。また、本発明によれば、分析装置の動作条件による実効移動度のばらつきをなくし、未知試料毎の標準指標としてのデータの信頼性を高めることができる。また、本発明によれば、異なる分析装置で同じ指標を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】一般的なキャピラリー電気泳動装置の概略構成図。
【図2】本発明による電気泳動分析方法のフローチャート。
【図3】本発明による泳動時間−実効移動度変換を適用しない実験により得られたフェログラム。
【図4】式(8)を用いて移動度を算出した際のフェログラム。
【図5】式(14)及び(16)を用いて移動度を算出した際のフェログラム。
【図6】MIを横軸としたフェログラム。
【図7】AMIを横軸としたフェログラム。
【図8】実効移動度を横軸とした従来の分析方法によるフェログラム。
【図9】実効移動度を横軸とした本発明者らが既に出願した分析方法によるフェログラム。
【符号の説明】
1 キャピラリー電気泳動装置
2 高圧電源部
3、4 バイアル
5 キャピラリー
6 スリット
7 光源
8 回折格子
9 マルチチャンネルフォトダイオード
Claims (4)
- 未知試料を含む試料に標準物質を添加すると共に、電気泳動による標準物質及び未知試料の泳動時間と、移動度0の物質の泳動時間又はシステムピークの泳動時間を測定するステップと、
前記測定するステップにより測定された、標準物質及び未知試料の泳動時間、移動度0の物質の泳動時間又はシステムピークの泳動時間と、標準物質の基準温度における既知の実効移動度に基づいて、未知試料の実効移動度を求めるステップと
を含み、
前記未知試料の実効移動度を求めるステップは、
未知試料の実効移動度m 0 を、標準物質の泳動時間t s 、未知試料の泳動時間t、移動度0の物質の泳動時間又はシステムピークの泳動時間t eof 、及び、標準物質の基準温度における実効移動度m o,s に基づいて、次式、
m 0 ={(t eof /t−1)/(t eof /t s −1)}・m o,s
を用いて求めるようにした電気泳動分析方法。 - 未知試料を含む試料に標準物質を添加すると共に、電気泳動による標準物質及び未知試料の泳動時間と、移動度0の物質の泳動時間又はシステムピークの泳動時間を測定するステップと、
前記測定するステップにより測定された、2つ以上の標準物質の泳動時間、未知試料の泳動時間、移動度0の物質の泳動時間又はシステムピークの泳動時間、及び、該標準物質の基準温度における既知の実効移動度に基づいて、未知試料の実効移動度を求めるステップと
を含み、
前記未知試料の実効移動度を求めるステップは、
未知試料の実効移動度m 0 を、2つ以上の標準物質のうち任意の2つの物質の泳動時間t A ,t B 、未知試料の泳動時間t、移動度0の物質の泳動時間又はシステムピークの泳動時間t eof 、及び、該標準物質の基準温度における実効移動度m 0,A ,m 0,B に基づいて、次式、
m 0 ={(t A −τ)(t eof −t)/(t−τ)(t eof −t A )}・m 0,A τ={m 0,A t A (t eof −t B )−m 0,B t B (t eof −t A )}/{m 0,A (t eof −t B )−m 0,B (t eof −t A )}
を用いて求めるようにした電気泳動分析方法。 - 未知試料の実効移動度から未知試料の物質を同定するステップをさらに含む請求項1又は2に記載の電気泳動分析方法。
- 未知試料を含む試料に標準物質を添加すると共に、電気泳動による標準物質及び未知試料の泳動時間を測定するステップと、
前記測定するステップにより測定された、標準物質及び未知試料の泳動時間と、標準物質の基準温度における既知の実効移動度に基づいて、未知試料の実効移動度を求めるステップと
を含み、
前記未知試料の実効移動度を求めるステップは、
未知試料の実効移動度m 0 を、3つ以上の標準物質のうち任意の3つの物質の泳動時間t A 、t B 、t C 、未知試料の泳動時間t、及び、該標準物質の基準温度における実効移動度m 0,A 、m 0,B 、m 0,C に基づいて、次式、
m 0 ={(t i −t)(t j −τ)(m 0,j −m 0,i )}/{(t−τ)(t i −t j )}+m 0,i
ただし、i、jは、標準物質A、B、Cのいずれかであって、かつ、i≠j
τ={m 0,A t A (t C −t B )+m 0,B t B (t A −t C )+m 0,C t C (t B −t A )}/{m 0,A (t C −t B )+m 0,B (t A −t C )+m 0,C (t B −t A )}
を用いて求めるようにした電気泳動分析方法。
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