JP3747017B2 - 酸解離定数測定方法及び測定装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電気泳動により被検物質の酸解離定数を求める酸解離定数測定装置及び測定方法に係り、特に、詳しくは、キャピラリーゾーン電気泳動法における異なるpHでの被検物質の実効移動度からその解離定数を求める酸解離定数測定装置及び測定方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
酸解離を生じる酸物質の形態は、その物質がおかれた環境、特にpH(水素イオン濃度)によって変化することが知られている。例えば医薬品では、生体内pHによってその形態が変化するため、生体内pHで有効に機能する形態となるようにデザインしなければならないが、そのためには当該酸物質の酸解離定数(Ka値又はpKa値)を知る必要がある。
【0003】
酸解離定数を求める方法として従来から実施されている方法の一つである電位差滴定法は、測定すべき物質(被検物質)を含む試料に、酸又はアルカリ溶液を滴定法によって滴定し、滴定した酸又はアルカリ溶液の量に対する試料の電位変化とpH測定結果から酸解離定数を求める方法である。電位差滴定法では、原理的に純化された試料を用いなければならず、試料中に複数の被検物質が混在している場合にそれらの酸解離定数を求めることは不可能である。このため実施にあたっては高純度の試料を用いなければならないが、高純度化のための操作は煩雑で多大な時間と労力、さらには費用が必要になる。
【0004】
酸解離定数を求める方法として、従来より、吸光度法も実施されている。吸光度法は、電位差滴定法と同様の滴定操作によって試料の吸光度が変化することを利用するものである。吸光度法では、純化された試料を用いる必要はなく、試料中に複数の被検物質が混在している場合にも、各被検物質の酸解離定数を同時に求めることができる。しかしながら、吸光度法によって酸解離定数を測定可能な被検物質は、吸光度測定において各被検物質ごとに同定・測定が可能な程度離れた波長に吸光ピーク波長を有したものでなければならない等という制限があるため、吸光特性が既知の被検物質以外には適用できない。
【0005】
上述の方法の他に、従来の酸解離定数測定方法は、電気泳動を利用し、試料を異なるpHで電気泳動して各pHにおける被検物質の泳動時間から被検物質の酸解離定数を求めるものである。電気泳動を利用した酸解離定数測定法も、原理的には吸光度法と同様に純化された試料を用いる必要はなく、試料中に複数の被検物質が混在している場合にも、各被検物質の酸解離定数を同時に求めることができる。すなわち、各pHにおける被検物質の移動時間を測定し、これらのデータを蓄積し、コンピューターにデータを入力して最小二乗法等によって酸解離定数を求めることが可能であった。しかも、吸光度法とは異なり、吸光特性が未知の被検物質であっても適用することが可能であるなど、実務上も優れた特徴を有している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上述したように、電気泳動を利用した酸解離定数測定法は、原理的には試料中に複数の被検物質が混在していても、それらを電気泳動によって分離したうえで各被検物質それぞれの移動度を測定できるため、各被検物質の酸解離定数を同時に測定可能なはずである。しかしながら現実には、試料に含まれる複数の被検物質それぞれの酸解離定数を正確に測定するには大きな課題が存在していた。
【0007】
例えば、電気泳動を利用した酸解離定数測定法においては、試料を異なるpH条件下での電気泳動に供しなければならないが、電気泳動する際の移動電圧や分離チャンバーの温度等を完全に同一とすることは技術的に不可能であり、若干ではあるが変化してしまう。この結果、被検物質の見かけ上の泳動時間が変化し、バラツキが生じてしまい、信頼性の高い、適正な酸解離定数を求めることは出来ないという課題がある。もちろん、泳動電圧を極めて低く設定し、温度変化を少なくする等して前記のような測定結果に誤差を与える要因を抑えながら測定すれば、測定精度を向上し、被検物質の移動度のバラツキを最小限度に抑えることは可能である。しかしながら、このような条件で測定を行えば、泳動時間は当然に長くなり、迅速な酸解離定数の測定という測定現場からの強い要請を無視することになる。
【0008】
電気泳動を利用した酸解離定数測定法は、他の酸解離定数測定法と比較すると原理的には優れた特徴を有しているにもかかわらず、試料の純度を高めることが困難である場合や複数の被検物質が混在した試料について測定を行う必要がある場合、そしてさらにはそれら被検物質の吸光特性が知られていない場合、言い換えれば、電気泳動を利用した酸解離定数測定法以外には適当な測定法がないような場合に限り、限定的に実施されているのが現状である。
【0009】
そこで本発明は、電気泳動を利用した酸物質の酸解離定数測定法(以下、簡便に「電気泳動式酸解離定数測定法」と記載することがある)に存在した課題を解決し、従来のように泳動電圧を極めて低く設定し、温度変化を少なくする等せずとも、信頼性の高い、適正な酸解離定数を求めることのできる酸解離定数測定装置及び測定方法を提供し、もって迅速な酸解離定数の測定という測定現場からの強い要請に応えることを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1の解決手段によると、
被検物質、基準温度での電気泳動における実効移動度が既知の標準物質及び電気泳動における移動度を持たない移動度0の物質を含む試料を異なるpHでキャピラリーゾーン電気泳動(capillary zone electrophoresis;CZE)に供するステップと、
異なるpHでの被検物質、標準物質及び実効移動度0の物質の泳動時間を測定するステップと、
前記測定ステップにより測定された異なるpHでの、被検物質の泳動時間、標準物質の泳動時間、移動度0の物質の泳動時間、及び、標準物質の基準温度における既知の実効移動度に基づき、異なるpHでの被検試料の実効移動度を求めるステップと、
求められた異なるpHにおける被検物質の実効移動度から被検物質の酸解離定数を求めるステップと
を含む、酸解離定数測定方法が提供される。
【0011】
本発明の第2の解決手段によると、
被検物質及び基準温度での電気泳動における実効移動度が既知の標準物質を含む試料を異なるpHでキャピラリーゾーン電気泳動(capillary zone electrophoresis;CZE)に供するステップと、
異なるpHでの被検物質、標準物質及びシステムピークの泳動時間を測定するステップと、
前記測定ステップにより測定された異なるpHでの、被検物質の泳動時間、標準物質の泳動時間、システムピークの泳動時間、及び、標準物質の基準温度における既知の実効移動度に基づき異なるpHでの被検試料の実効移動度を求めるステップと、
求められた異なるpHにおける被検物質の実効移動度から被検物質の酸解離定数を求めるステップと
を含む、酸解離定数測定方法が提供される。
【0012】
本発明の第3の解決手段によると、
被検物質及び基準温度での電気泳動における実効移動度が既知の3種類以上の標準物質を含む試料を異なるpHでキャピラリーゾーン電気泳動(capillary zone electrophoresis;CZE)に供するステップと、
異なるpHでの被検物質及び少なくとも3種類の標準物質の泳動時間を測定するステップと、
前記測定ステップにより測定された異なるpHでの、被検物質の泳動時間、各標準物質の泳動時間、システムピークの泳動時間、そして標準物質の基準温度における既知の実効移動度に基づき、異なるpHでの被検試料の実効移動度を求めるステップと、
求められた異なるpHにおける被検物質の実効移動度から被検物質の酸解離定数を求めるステップと
を含む、酸解離定数測定方法が提供される。
【0013】
本発明の第4の解決手段によると、
被検物質を含む試料を含むバイアルと、
電解液を含むリザーバーと、
電気泳動を行うためのキャピラリーと、
試料に含まれる物質の泳動時間を検出するための検出器と、
前記バイアル、前記リザーバー及び前記キャピラリーを制御する制御部と、
キャピラリーゾーン電気泳動による泳動時間及びリザーバーに充填された電解液のpHから被検物質の酸解離定数を求めるための演算部と
を備え、
前記制御部は、被検物質及び基準温度での電気泳動における実効移動度が既知の標準物質を含む試料を複数の異なるpHでキャピラリーゾーン電気泳動(capillary zone electrophoresis;CZE)に供するように制御し、
前記演算部は、
複数の異なるpHでの被検物質、標準物質、及び、実効移動度0の物質若しくはシステムピークの泳動時間を測定する手段と、
前記測定ステップにより測定された複数の異なるpHでの、被検物質の泳動時間、標準物質の泳動時間、実効移動度0の物質若しくはシステムピークの泳動時間、及び、標準物質の基準温度における既知の実効移動度に基づき複数の異なるpHでの被検試料の実効移動度を求める手段と、
求められた複数の異なるpHにおける被検物質の実効移動度から被検物質の酸解離定数を求める手段と
を有する、酸解離定数測定装置が提供される。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
1.キャピラリー電気泳動(Capillary zone electrophoresis;CZE)の概説
電気泳動を用いた分析方法としては、U字管電気泳動法、アガロース電気泳動法、キャピラリー電気泳動法等が知られている。本願の発明は、キャピラリー電気泳動法を用いて、被検物質を同定するために重要な役割を果たす実効移動度を求め、これを利用して該被検物質の酸解離定数を測定するものであるため、まず、キャピラリー電気泳動法についての概要を説明する。
キャピラリー電気泳動は、水、有機溶媒を問わず、イオンの移動度の差により分離・分析する手法であり、液体クロマトグラフィー法と比べて数段分離能が高く、近年非常に注目されている分析方法である。このキャピラリー電気泳動は、被検物質が何らかの溶媒に溶解可能で、電気を導通する事ができれば利用することができるので、分離する条件(溶媒、pH、添加剤等)さえ整えば、ほぼ「何でも」分析することができる。但し、このキャピラリー電気泳動は、そのままでは移動度の差がない中性物質や巨大分子などには適用しにくいため、これらの分離・分析には、他の電気泳動モードが用いられことが多い。
【0015】
他の電気泳動法としては、例えば、中性分子の場合、ミセル動電クロマトグラフィー(MEKC)と呼ばれる方法が用いられ、巨大分子の場合には、電解液にゲルを添加するキャピラリーゲル電気泳動法(CGE)が用いられる。キャピラリーゲル電気泳動法は、特に、ヒトゲノム計画のキーテクノロジーの一つで、塩基配列はこの手法を用いて決定されている。なお、本願の発明は、これらの電気泳動法にも適用可能な場合がある。
また、キャピラリー電気泳動は、ゲノムプロジェクトの次の生化学研究の段階と考えられているプロテオーム(タンパクの機能・構造の特定)分析に対して有用と注目されており、特に、精密な移動度の決定ができれば、質量分析装置と組み合わせることで、タンパク質の研究に非常に有効な分析方法となることが報告されている。さらに、廃液が大変少ないため(どんなに多くても数ml)、環境への影響も考慮した分析方法といえる。
【0016】
2.キャピラリー電気泳動装置
図1は、一般的なキャピラリー電気泳動装置の概略構成図である。ここでは、一例として、被検物質を試料中の陽イオンとし、この陽イオンの分析に、後述する間接吸収法を適用する場合について説明するが、本願の発明ではこれに限られない。
このキャピラリー電気泳動装置101は、例えば、高圧電源部102、リザーバー103、104、キャピラリー105、スリット106、光源(例えば、UVランプ)107、回折格子108及びマルチチャンネルフォトダイオード109を備える。高圧電源部102は、例えば、出力0〜30kVの高電圧電源であって、配線を介して支持電解液(以下、単に電解液ということもある)を充填したリザーバー103、104にそれぞれ接続されている。リザーバー103、104は、図示しないターンテーブルや並進台上に載置されている。リザーバー103、104には、UV吸収のある適宜の支持電解液が注入される。また、バイアル110には、分析対象となる試料(例えばUV吸収のない試料)が導入される。キャピラリー105は、適宜の内径及び長さを有する管であり、キャピラリー105の一端はリザーバー103に挿入され、他端はリザーバー104に挿入されている。
【0017】
なお、リザーバーとは、キャピラリーの体積に対して十分大きく、電圧の印加やキャピラリー内の液が少々流れ込んできても元々あった状態が変化しない液溜めと、場合によってはリザーバー中に充填されている電解液のことを言う。一方、バイアルとは、単に液体を充填する液溜めを言い、上述の例では、バイアルには試料が充填されている。しかしながら、液体を充填するための液溜め容器そのものとしてはリザーバーとバイアルを区別する必要はない。
【0018】
キャピラリー105には、光源107から照射される紫外線の幅を制限するための隙間を有するスリット106が取り付けられている。このスリット106を通過した光は、回折格子108によって、適宜のスペクトルに分解される。この得られたスペクトルは、マルチチャンネルフォトダイオード109によって、UVの吸光度として数値化される。なお、高圧電源部102、リザーバー103、104及びマルチチャンネルフォトダイオード109は、図示しないコンピュータにより制御されている。
【0019】
キャピラリー電気泳動装置101の動作概要を説明する。
まず、支持電解液が注入されたリザーバー103と空のリザーバー104とをセットする。リザーバー104を密封しリザーバー103に注入された支持電解液を吸引する。この吸引された支持電解液は、キャピラリー105内に導入される。次に、例えば、落差法により、試料をキャピラリー105の一端付近に注入する。具体的には、キャピラリー105の一端をバイアル110に挿入して試料を導入する。この際、バイアル110の液面がリザーバー104の液面より高くなるように設定する。このバイアル110、リザーバー104の液面差によるサイフォンの原理で、試料がバイアル110からキャピラリー105の一端付近に注入される。次に、キャピラリー105の一端をリザーバー103に戻し、支持電解液が注入されたリザーバー103を、リザーバー104と液面が同じ高さとなるようにセットする。ここで、高圧電源部102からの高電圧をキャピラリー105の両端に印加する。
【0020】
試料は、キャピラリー105内を有効長(試料が導入されたキャピラリー105の一端付近からキャピラリー105に沿ったスリット106までの距離)だけ泳動する。この試料中の陽イオンの泳動方向は、図中矢印で示すように、リザーバー103からリザーバー104に向かっている。この間に、試料中の各陽イオンは、各陽イオンの泳動速度(実効移動度)の差により分離される。この泳動速度(実効移動度)の差により分離された試料は、上述した回折格子108によって、一定時間ごとのスペクトルデータとして検出される。このスペクトルデータは、上述したマルチチャンネルフォトダイオード109によって、UVの吸光度として数値化される。なお、ここでは、試料中の陽イオンを被検物質としたが、陰イオンを分析する場合は、高圧電源部102の符号を逆にすればよい。
【0021】
上述の例では、試料をキャピラリー105の一端付近に導入する際、落差法を採用したが、これ以外の方法としては、例えば、吸引法、加圧法及び電気的加圧法が挙げられる。吸引法では、バイアル110に試料を詰め、リザーバー104を空にする。つぎに、空のリザーバー104を密封し吸引することにより、試料をキャピラリー105内に導入する。加圧法では、バイアル110に試料を詰め、リザーバー104を空にする。つぎに、バイアル110を密封し加圧することにより、試料をキャピラリー105内に導入する。電気的注入法では、バイアル110に試料を詰め、リザーバー104に電解液(水でも可)を詰める。つぎに、高電圧を印加することにより、試料をキャピラリー105内に注入する。
【0022】
本発明の電気泳動式酸解離定数測定方法を実施するための装置は、例えば上述したような、通常のキャピラリー電気泳動装置でも良いが、以下に概要を示したような、異なるpHでの被検物質の実効移動度を自動的に測定することが可能な電気泳動装置が特に好ましい。
【0023】
図2に、電気泳動式酸解離定数測定装置の構成図を示す。この測定装置は、高圧電源部(例えば、出力0から30kVの高電圧電源等)201、電解液を充填するリザーバー202及び202’、被検物質を含む試料(以下単に試料ということがある)を充填するバイアル203、電気泳動を発生させるためのキャピラリー204、検出器(例えば、マルチチャンネルフォトダイオード等)205、リザーバー等を載置するターンテーブル206及び206’、吸引ポンプ207、pHを測定するpHメーター208、酸及び/又はアルカリ溶液を充填するバイアル209、液体吸引吐出手段210、前記ターンテーブルを図中に矢印で示したように上下・回転駆動させ、更に図中の左側のターンテーブルを上下左右・回転駆動させる駆動部211及び211’、演算部212、そして前記各部、手段等を制御する制御部213を備える。なお、演算部212と制御部213は、例えばマイクロコンピューター等により、兼用することができる。検出器205は、具体的には、図1に示したように、スリット、光源、回折格子及びマルチチャンネルフォトダイオード等を備える。図示してはいないが、演算部212には、必要に応じてモニター等の表示手段やプリンター等の出力手段を接続しても良い。なお、バイアル203やリザーバー202及び202’を載置するターンテーブル206及び206’を上下、左右及び回転動させる駆動部211及び211’は、キャピラリー204に充填する電解液等を切り替えるための切り替え手段である。
【0024】
図2の電気泳動式酸解離定数測定装置を用いての測定操作について、予め異なるpHに調整した2種類以上の電解液を用いる場合を例に、その概略を述べる。まず、左側のターンテーブル206のリザーバー202に任意のpHに調整した電解液を充填し、右側のターンテーブル206’には空のリザーバー202’をセットする。次に駆動部211及び211’を制御して、キャピラリー204の両端の直下にこれらリザーバー202及び202’が位置するように、両ターンテーブル206を回転させた後、上昇させ、キャピラリー204の両端をリザーバー202及び202’中に挿入し、左側端を電解液中に浸らせる。次に、右側のリザーバー202’を密閉し、吸引ポンプ207を作動させ、キャピラリー204内に電解液を導入する。
【0025】
続いて、バイアル203内の被検物質をキャピラリー204に導入する。このためには、まず、駆動部211を制御して左側のターンテーブル206を下降させ、キャピラリー204の左側端をリザーバー202の外に出し、再度駆動部211を制御して、左側のターンテーブル204を左右方向に移動させ、導入する試料を充填したバイアル203をキャピラリー204の左側端の直下に移動する。この後、左側のターンテーブル206を駆動部211を制御して上昇させ、キャピラリー204の左側端をバイアル203内に挿入し、左側端を試料に浸らせる。
バイアル203の試料のキャピラリー204への導入には、以下のように3種類の方法がある。
【0026】
第1は、キャピラリー204の右側端を空のリザーバー202’に挿入し、リザーバー202’を密閉後、吸引ポンプ207を作動させて試料203をキャピラリー204に導入する。第2は、キャピラリー204の右側端を電解液(キャピラリー内に充填したのと組成及びpHが同一の電解液)を充填したリザーバー202’に挿入し、右側端を電解液に浸らせ、バイアル203とリザーバー202’内の液面の高さに差を付けて、サイフォンの原理により試料203をキャピラリー204に導入する。第3は、キャピラリー204の右側端を電解液(キャピラリー内に充填したのと組成及びpHが同一の電解液)を充填したリザーバー202’に挿入し、右側端を電解液に浸らせ、電圧を印加して、電気泳動によりバイアル203の被検試料をキャピラリー204に導入する。
【0027】
上述のようにしてキャピラリー204にバイアル203の試料を導入した後に、左側のターンテーブル206を適宜下降、回転、上昇させ、キャピラリー204に充填したのと組成及びpHが同一の電解液を充填したリザーバー202にキャピラリー204の左側端を挿入する。また、必要に応じて、右側のターンテーブル206’も適宜下降、回転、上昇させ、キャピラリー204の右側端を電解液(キャピラリー内に充填したのと組成及びpHが同一の電解液)を充填したリザーバー202’に挿入する。キャピラリー204の左右の端がリザーバー202及び202’に充填された電解液に挿入された後に高圧電源201によって電圧を印加し、電気泳動を開始する。
【0028】
検出器205は、バイアル203内の被検物質等を検出し、演算部212に出力する。検出器からの出力を受けた演算部212は、電気泳動を開始してから検出器が出力を発信するまでに要した時間を、被検物質の泳動時間として把握し、後述するTCDT方法によって任意のpHにおける被検物質の実効移動度を計算し、記録する。そして、同一被検物質に関する異なるpHでの実効移動度を計算によって得た後、記録した数値を呼び出し、当該被検物質の酸解離定数を計算する。
【0029】
演算部212におけるバイアル203の被検物質の実効移動度の計算に当たっては、図に示していない入力手段によって予め電気泳動に用いる電解液202のpHを演算部212に入力するようにしても良いし、図2に示したように、pHメーター208を用いて電解液202のpHを測定して自動的に演算部212に出力するようにしたり、リザーバー202に、当該リザーバーに充填されている電解液のpHを表示するバーコード等のラベルを添付しておき、このラベルを読み取って演算部212に出力する読み取り手段を付加しても良い。
【0030】
上述した操作は、1回の測定操作の概要を示すものであるが、同一被検物質について、異なるpHでキャピラリー電気泳動するためには、本質的にはこのような操作を繰り返し行えば良い。すなわち、左側のターンテーブル206に、予め異なるpHに調整した電解液202を複数準備しておき、測定ごとにこれらを切り替え、以前の操作で用いたpHの電解液とは異なるpHの電解液をキャピラリー204に導入して、同様の操作を繰り返すことが例示できる。この他に、例えば、ターンテーブル206及び206’上にリザーバーに充填した電解液202のpHを調整するための酸及び/又はアルカリ溶液を充填したバイアル209を載置しておき、一回の測定操作を終えた後に液体吸引吐出手段210を用いてこの酸又はアルカリ溶液をリザーバー202に添加し、リザーバーに充填された電解液のpHを変化させてから再度上述と同様の操作を行うことも例示できる。後者のように、酸又はアルカリ溶液を添加して電解液のpHを調整する場合にも、図2に例示した装置のようにpHメーター208を装備している場合には、電解液のpHを自動的に測定することができる。
【0031】
上述した図2に例示した装置において、演算部212に、酸解離定数(又は実効移動度)が既知の物質について、その酸解離定数(又は実効移動度)と物質名を記憶した記憶手段(例えば、ハードディスク等)を接続しておき、本発明に従う被検物質の酸解離定数の測定に際し、結果について前記記憶情報を検索するようなプログラムを実行すれば、被検物質を迅速に同定することも可能になる。むろん、かかる方法による同定以外にも、測定を実施する過程で電気泳動によって各被検物質は分画されるため、キャピラリーに例えば質量分析装置を接続しておけば、質量分析によって各被検物質を同定することも可能である。
【0032】
3.キャピラリー電気泳動のフローチャート
図3は、酸解離定数を測定するためのフローチャートの一例について、その概要を示すものである。
第1回目の測定では、まず、制御部213は、駆動部211等を制御して、例えば高pH(pH11程度)に調整された電解液を、図2における左右両方のリザーバー202及び202’とキャピラリー204に充填する(S301)。上述のようにして試料がキャピラリー204に導入された後、演算部212は検出器205で、キャピラリー電気泳動(CZE)により、被検物質の泳動時間を測定する(S302)。こうして測定された被検物質の泳動時間に基づいて、演算部212は、後述するTCDT法を実行して被検物質の移動度mT0を求める(S303)。演算部212は、求められた被検物質の移動度mT0を記憶部に記憶するとともに、横軸にpH、縦軸に移動度とするグラフにプロットして表示部に表示する(S304)。
【0033】
つぎに、演算部212は、求められた被検物質の移動度と先の測定で求められた移動度を比較(S305)する。移動度の比較(S305)の結果、移動度が十分に変化していない場合には、pHがさらに異なる(例えば、0.25ないし0.5程度低い)電解液をキャピラリー204に導入し(S307)、同一の被検物質について、異なるpHの電解液で第2回目以降の測定(上述のS302からS305の操作)を繰り返す。一方、ステップS305で、移動度が十分に変化している場合には、次に従うように、酸解離定数(pKa)等の値を非線形の最小二乗法により求める(S306)。
【0034】
【数3】
上式の導出については後述する。
【0035】
なお、上記例では、第1回目の操作において、pHが11程度の高pHに調整された電解液を用い、以後の操作では(例えば、0.25ないし0.5程度)低いpHの電解液を用いる例を説明したが、これとは逆に、例えば第1回目の操作においてpHが2程度の低pHに調整された電解液を用い、以後の操作では(例えば、0.25ないし0.5程度)高いpHの電解液を用いることも可能である。
本発明の電気泳動式酸解離定数の測定では、pHが(例えば、0.25ないし0.5程度)異なった2種類以上の電解液を使用するが、より精度よく被検物質の酸解離定数を測定するためには、より多くの異なるpH条件下で被検物質を電気泳動して測定するとよい。例えば、pHを0.25ないし0.5ずつ、広い範囲に渡って変化させることができる。pHを変化させるべき範囲は一概にはいえないが、被検物質のpKaプラスマイナス1程度、より好ましくはpKaプラスマイナス2程度であるが、測定前に被検物質のpKaについて予備的情報がない場合には、例えば後の実施例に示すように、pH3程度からpH7程度までの範囲で変化させることが例示できるが、被検物質や電解液等に応じて適宜定めることができる。
【0036】
4.酸解離定数の関係式の導出
本発明が測定しようとする酸解離定数Kaは、次式で表される物質固有の値であり、通常はpKa=−logKaなる形式で表現されることが多い。
【0037】
【数4】
上式から、pHとpKaが同一(pH=pKa)となるとき、そのpHでは解離した酸物質の濃度C(n+1)−(M)と未解離の酸物質の濃度Cn−(M)が同一(Cn−=C(n+1)−)となり、存在する酸物質の半分が解離していることになる。またこの酸物質は、pHがpKaより大きい場合(pH>pKa)には未解離状態であり、逆にpHがpKaより小さい場合(pH<pKa)には解離状態であることになる。
【0038】
また溶液中の酸物質に関しては、解離したものと未解離のものの総和モル数に変化はないので、次式が成立する。なお、酸又はアルカリの添加によって希釈される影響は、別途考慮を要する。
Cn−+C(n+1)−=C0
ここに、C0:酸物質の総イオン濃度(M)
そして酸解離定数、酸物質の解離前後の物質濃度、及び後述するTCDT法によって求めた実効移動度との間には、前記式(a−1)の関係が成立するのである。
前記式(a−1)は、以下のようにして導出することができる。まず、次式のような酸解離平衡を考えると、酸解離定数は前記式(a−2)と定義される。
【0039】
【数5】
前述したように、溶液中の酸物質に関しては、解離したものと未解離のものの総和モル数に変化はない、すなわち解離したもののイオン濃度C(n+1)−(M)と未解離のもののイオン濃度Cn−(M)の和は酸物質の総イオン濃度C0(M)に等しい。
Cn−+C(n+1)−=C0
ここに、C0:酸物質の総イオン濃度(M)
このことから、解離度αを導入すると、解離度αは次式のようになる。
α=C(n+1)−/C0 (a−3)
この時の実効移動度(mT0)は次式のように表される。
mT0=(1−α)mn−+αm(n+1)− (a−4)
従って、この式におけるαを求めることができれば、実効移動度を求めることが可能となる。そこでαを使って前記式(a−2)を表すと、次式となる。
【0040】
【数6】
従ってαは次式となる。
【0041】
【数7】
前記式(a−6)を前記式(a−5)に代入すると、次のように前記式(a−1)が得られる。
【0042】
【数8】
【0043】
5.電気泳動を用いた酸解離定数測定方法
電気泳動は、被検物質の同定を主な目的として使用されている。すなわち、泳動時間の良くわかっている二つ以上の標準物質と被検物質(未知物質)を混合した混合試料を電気泳動させると、泳動時間の差によって標準物質と被検物質はそれぞれ分離されるが、泳動時間の差から被検物質の泳動時間を計測し、その泳動時間から被検物質が如何なる物質かを推定するのである。従ってこのためには、種々の物質について泳動時間を測定しておき、物質対泳動時間の対応表を充実させている必要がある。しかし、泳動時間の絶対値は、測定の都度、種々の条件、例えば移動電圧や分離チャンバーの温度等の測定条件に影響され、異なってくる。そこで、これらの条件変化をも考慮し一般化した泳動時間に換算することが検討され、MI(Migration Index)法やAMI(Adjusted Migration Index)法が提案されているが、いずれの方法も十分な再現性を示すとは限らず、測定精度に課題を有している。そのため現状では、常に適切な標準物質を選択し、その標準物質との比較において泳動時間を推定して被検物質を同定する方法が主流であるが、測定データは酸解離定数を求めるほどの精度を有しているとは言い難い。このような状況では、原理的に優れているとはいっても、実際上は電気泳動を酸解離定数測定に利用する優位性はほとんどないと言っても過言ではない。
【0044】
本発明者は、先に、種々の条件下で見かけ上変動する泳動時間を種々の条件を考慮して還元泳動時間に換算する方法を見いだし、提案した(特開2002−5886号公報、以下この方法を「TCDT法」と記載することがある)。TCDT法では、泳動電圧を高くして泳動時間が短くなるようにしても、移動度に影響する因子をすべて考慮して補正するために、移動電圧や分離チャンバーの温度等の測定条件に左右されることのない正確な還元移動時間を測定することが可能である。従ってTCDT法によれば、上述したように、従来は限られた場合にのみ、極度に低い泳動電圧で長時間をかけて実施していた電気泳動を利用した酸解離定数の測定を、高泳動電圧を使用して短時間で測定できる可能性がある。しかし、TCDT法における還元泳動時間の概念は、本来、上述したような物質対泳動時間の対応表を充実させることを主たる目的としており、直ちに酸解離定数の測定に応用することはできない。
【0045】
そこで本発明者は、TCDT法によって求めた還元泳動時間から得られる実効移動度、被検物質に由来する解離物質濃度及び未解離物質との関係が酸解離定数を介して関係付けられることに着目し、鋭意検討を行った結果、酸解離定数、酸物質の解離前後の物質濃度、及び後述するTCDT法によって求めた実効移動度との間には、前記式4の関係が成立することを見い出した。そして、酸解離定数(Ka)を測定すべき酸物質(被検物質)について、異なるpH条件下でキャピラリーゾーン電気泳動を実施して泳動時間を測定し、その泳動時間からTCDT法によって実効移動度を求め、次に、非線形の最小二乗法を用いて、前記式4から最も適切な又は最も確からしい被検物質の酸解離定数(pKa)を求めることを可能にしたのである。このようにして求めたpKaは、キャピラリーゾーン電気泳動における泳動電圧、分離チャンバーの温度等の影響を考慮して補正された実効移動度から算出したものであるため、精度及び信頼性が高いという特徴を有する。
【0046】
キャピラリーゾーン電気泳動は、水、有機溶媒を問わず、イオンの移動度の差により被検物質を分離・分析する手法であり、液体クロマトグラフィー法と比べて数段分離能が高く、近年非常に注目されている分析方法である。このキャピラリーゾーン電気泳動は、何らかの溶媒で溶解でき、電気を導通することができる試料であれば使用することができるので、分離する条件(溶媒、pH、添加剤等)さえ整えば、本発明はいかなる被検物質の酸解離定数の測定に対しても適用可能である。
【0047】
5−1.TCDT法による実効移動度の測定
TCDT法による実効移動度の測定について概要を以下に説明する(特開2002−5886号公報参照)。
泳動時間から実効移動度を求める通常の方法では、実効移動度(m)は下記式(1)のようにして求められる。
m=νion/E=(l/t−νeof)/(V/L) (1)
ここで、Vは印加電圧、Eは電位勾配、lは有効長、Lはキャピラリー全長、νionは被検物質の泳動速度、tは被検物質が検出器によって検出されるまでの時間(泳動時間)である。また、νeof(電気浸透流速度、electroosmotic flow velocity)は、移動度0の物質の泳動時間又はシステムピークの泳動時間(teof)を用いて下記式(2)から得られる。
νeof=l/teof (2)
従って、式(1)は下記式(1)’のようになる。
m=(l/t−l/teof)/(V/L) (1)’
【0048】
なお、システムピークとは、間接吸収法を用いたとき、電気浸透流によってキャピラリー内の液体が流され、試料を導入した部分が検出器に到達した場合に出現する、あたかも何か物質が検出されたかのようなピークをいう。従ってシステムピークの泳動時間(teof)は、システムピークが出現するまでの時間を意味する。ここで間接吸収法とは、例えば、被検物質にUV(紫外線)の吸収がない場合、電解液にUV吸収のある物質を用いると、被検物質の部分だけ電解液が減少し、UVの吸光度が低下することを利用した検出方法である。電気浸透流とは、例えば、シリカキャピラリーを用いたとき、キャピラリー内壁にあるシラノール基が解離することにより内壁が負に帯電し、キャピラリー内部にある溶液が見かけ上正に帯電することにより、電場を印加すると液体全体が負電極側に流れる現象をいう。なおこの電気浸透流は、キャピラリーに他の物質を用いても、ほとんどの場合、発生する(ただし、物質や電解液の組成により流れる向きが変わることもある)。
【0049】
前記移動度0の物質の泳動時間(teof)とは、電場の印加により、上述のように、電気浸透流のためにキャピラリー内の液体全体が押し流されるため、移動度を持たないような(即ち、移動度0)物質(例えば、中性物質)でも検出器によって検出されるので、このような電場を印加してから検出されるまでの時間を意味する。なお移動度0の物質としては、例えばベンジルアルコールを例示することができる。
【0050】
上記において、温度による移動度の変化を詳しく検討すると、被検物質の実効移動度(m)の温度依存性は、下記式(3)のように、被検物質イオン自身の項(f(T))と支持電解液への温度依存性の項(g(T)=ε/η(ε:誘電率,η:粘性係数))とに分けて考えられる。
m=f(T)・g(T) (3)
【0051】
前記式(3)を基準温度T0の周りでテイラー展開すると、下記式(4)のようになる(ただし、ΔT=T−T0、f0=f(T0)、g0=g(T0)である)。なお本発明において基準温度T0は任意であるが、一例として、物理化学定数の標準に用いられる25℃が多く用いられる。
m=(f0+f1ΔT+f2ΔT2+・・・)(g0+g1ΔT+g2ΔT2+・・・) (4)
【0052】
前記式(4)において、温度変化によるイオンサイズの変化は、溶媒の粘度や誘電率の温度依存性と比較して非常に小さいため、イオン自身への影響の温度依存性を無視すると、実効移動度(m)は下記式(5)で表される。
【0053】
前記式(5)において、ΔTが小さいところでは二次以降の項を無視することができ、さらに、f0g0=mT0,g1/g0=αと置き換えると、物質に依らず移動度は下記式(6)で表されることになる。
m=(1+αΔT)・mT0 (6)
ここで、mT0は基準温度における被検物質の実効移動度を表し、αは被検物質イオンに依存しない温度係数を表す。一般に、25℃における温度係数αの値は約0.02(例:K 0.0191、Li 0.0228)である。
【0054】
5−2.温度係数のみを考慮したTCDT法
TCDT法における、温度係数を考慮した泳動時間からの実効移動度の測定法を以下に説明する。
標準物質の基準温度(T0)での実効移動度(m0,s)は、電気泳動における既知の実効移動度(ms)から前記式(1)’を用いて次のように求められる。
m0,s=(l/ts−l/teof)/{(1+αΔT)E}
さらに、前記式(6)よりmsとm0,sの関係は下記式(7)のようになる。
1+αΔT=ms/m0,s (7)
【0055】
また、被検物質の基準温度T0における実効移動度(mT0)は、前記式(1)’を用いてその実効移動度(m)から次のように求められる。
mT0=(l/t−l/teof)/{(1+αΔT)E}
ここで、前記mとmT0の間には、前記式(6)から次のような関係が成立する。
1+αΔT=m/mT0
以上の式から、基準温度T0における被検物質(イオン)の実効移動度(mT0)は下記式(8)のようにして得られる。
mT0=m/(1+αΔT)=(l/t−l/teof)/{(1+αΔT)E}={(teof/t−1)/(teof/ts−1)}・m0,s (8)
前記式(8)によれば、前記したような、E、V、I、Lといった、キャピラリーゾーン電気泳動装置に依存するパラメータが消去されることになり、装置の条件に依存しない電気泳動データの標準化が可能となる。ここで、前記式(8)は、上述した式1である。
【0056】
キャピラリーゾーン電気泳動の結果から被検物質の実効移動度を求めるために採用し得るTCDT法の第一の態様は、上述した理論を用いて、被検物質及び少なくとも標準物質を含む試料について、任意の異なるpHでキャピラリーゾーン電気泳動を実施し、実効移動度が温度のみに影響されるとして補正を行うものであり、電気泳動における移動度を持たない移動度0の物質の泳動時間又はシステムピークの泳動時間(teof)、被検物質の泳動時間(t)、標準物質の泳動時間(ts)及び標準物質の基準温度T0における実効移動度(m0,s)から前記式1(式(8))を用いて被検物質の実効移動度(mT0)を求めるものである。
上述した式1(前記式(8))に含まれるパラメータであるm0,sは、論文や既存データ、更には実施者にける予備実験の結果(フェログラム)等から決定することができる。またteofは、例えば、キャピラリー内の電解液の濃度のむら等により測定される。さらに、teof、t及びtsは、既存データや実験値、更にはだいたいの見積もり等から、どの検出ピークがどの物質に対応するのか当たりを付けることができるので、実験より得られたフェログラムからそれぞれの泳動時間を決定できる。
【0057】
5−3.温度係数及び時間補正を考慮したTCDT法
次に、TCDT法において、温度係数のみならず、時間補正をも考慮した泳動時間からの実効移動度の測定法を以下に説明する。一般に、電位勾配の緩和効果によりイオンの泳動時間はすべて一定時間だけ遅れるものと考えられる。この電位勾配の緩和効果は、本願の発明者らがシミュレーションにより見出した現象である(J. Chromatogr.A,898(1999)19-29)。この現象は、具体的には、定電圧電源を用いてキャピラリーの両端に高電圧をかけた場合、試料を導入した部分の電位勾配の時間変化のために、キャピラリーを流れる電流がすぐには一定にならず、しばらく時間がたってから一定になる。そのため、従来電気泳動を用いて移動度を決定するときに用いられる平均電位勾配(電圧/キャピラリー全長)は、すぐには得られないため、従来の計算方法で予測される泳動時間よりも、被検物質がある一定時間遅れて検出される現象である(この遅延時間を、本明細書中、τと表す)。
【0058】
ここで、電気浸透流が測定中一定であるとして、この電位勾配の緩和効果を考慮に入れると、被検物質イオンの実効移動度(m)は下記式(9)のように表される。
m=l/{(t−τ)E}−meof (9)
上記式(9)において、meofは浸透流の移動度、νeof/Eである。すなわち、この移動度は、ジュール熱により上昇したキャピラリー内温度におけるものを表している。この式を前記式(6)に代入すると、基準温度(T0)における実効移動度(mT0)を求めることのできる下記式(10)を得ることができる。
mT0={l/(t−τ)E−meof}/(1+αΔT) (10)
【0059】
しかしながら、τ、meof及び1+αΔTというパラメーターは未知数である。そこで、2種類の標準物質(A、B)と、電気泳動における移動度を持たない移動度0の物質又はシステムピークの泳動時間(teof)から、これらのパラメーターを決定する。標準物質A、B及びシステムピークの移動度は下記式(11)、(12)及び(13)で表される。
m0,A=[l/{(tA−τ)E}−meof]/(1+αΔT) (11)
m0,B=[l/{(tB−τ)E}−meof]/(1+αΔT) (12)
meof=l/{(teof−τ)E} (13)
【0060】
上記式において、tA及びtBは標準物質A及びBの泳動時間であり、m0,A及びm0,Bは標準物質A及びBの基準温度(T0)における実効移動度である。上記式(11)、(12)及び(13)から、下記式(14)が得られる。
τ={m0,AtA(teof−tB)−m0,BtB(teof−tA)}/{m0,A(teof−tB)−m0,B(teof−tA)} (14)
また、前記式(11)を変形することにより下記式(15)が得られる。
1+αΔT=[l/{(tA−τ)E}−meof]/m0,A (15)
さらに前記式(13)及び(15)を前記式(10)に代入することで下記式(16)が得られる(ただし、式(16)において、τは式(14)に示したように{m0,AtA(teof−tB)−m0,BtB(teof−tA)}/{m0,A(teof−tB)−m0,B(teof−tA)}である)。
mT0={(tA−τ)(teof−t)/(t−τ)(teof−tA)}・m0,A (16)
前記式(16)によれば、E、V、I、Lといった、キャピラリーゾーン電気泳動装置に依存するパラメータが消去されることになり、装置の条件に依存しない電気泳動データの標準化が可能となる。ここで、前記式(16)は、上述した式2である。
【0061】
キャピラリーゾーン電気泳動の結果から被検物質の実効移動度を求めるために採用し得るTCDT法の第二の態様は、上述した理論を用いて、被検物質及び少なくとも2種類以上の標準物質含む試料について、任意の異なるpHでキャピラリーゾーン電気泳動を実施し、実効移動度が温度に影響されるのみならず、電位勾配の緩和効果によって泳動時間が影響され、遅れを生じる場合の補正をも行うものであり、電気泳動における移動度を持たない移動度0の物質の泳動時間又はシステムピークの泳動時間(teof)、被検物質の泳動時間(t)、2種類以上の標準物質から選択した2種類の標準物質の泳動時間(tA、tB)及び前記選択した2種類の標準物質の基準温度T0における実効移動度(m0,A、m0,B)から上述した式2(前記式(14)及び(16))を用いて被検物質の実効移動度(mT0)を求めるものである。なお、前記式2(式(14)及び(16))に含まれるパラメータであるm0,A、m0,Bは、論文や既存データ、更には実施者における予備実験の結果(フェログラム)などから決定することができる。またteof、t及びtA、tBは、既存データや実験値、更にはだいたいの見積もり等から、どの検出ピークがどの物質に対応するのか当たりを付けることができるので、実験より得られたフェログラムからそれぞれの泳動時間を決定できる。
【0062】
5−4.teofを特定できない場合のTCDT法
上述したような、移動度0の物質を利用することができない場合やシステムピークを検出することができない(すなわち、teofを特定できない)場合において採用し得るTCDT法について、以下に説明する。
まず、基準温度での電気泳動における実効移動度が既知の、3種類以上の標準物質(以下、説明を容易にするため3種類の標準物質A、B及びCを用いる場合について記載する)と被検物質を含む試料を準備する。試料を任意の異なるpHで電気泳動し、これら標準物質A、B及びCの泳動時間(それぞれtA、tB、tC)を測定することにより、必要なパラメータを決定する。
【0063】
標準物質A、B及びCの実効移動度は、上述した式(11)、(12)及び下記式(17)のように表される。
m0,A=[l/{(tA−τ)E}−meof]/(1+αΔT) (11)
m0,B=[l/{(tB−τ)E}−meof]/(1+αΔT) (12)
m0,C=[l/{(tC−τ)E}−meof]/(1+αΔT) (17)
前記式(11)、(12)及び(17)から、下記式(18)及び(19)が得られる。
τ={m0,A・tA(tC−tB)+m0,B・tB(tA−tC)+m0,C・tC(tB−tA)}/{m0,A(tC−tB)+m0,B(tA−tC)+m0,C(tB−tA)} (18)
1+αΔT={l(ti−tj)}/{E(ti−τ)(tj−τ)(m0,i−m0,j)} (19)
【0064】
ただし、上記式(19)において、i、jはA、B又はCのいずれかであり、かつ、下記式(20)を満たすものである(ただし、iはA、B、Cのいずれかであり、i≠jである)。
meof=l/{(ti−τ)E}−m0,i(1+αΔT) (20)
以上のようにして得られたτ、1+αΔT、meofを前記式(10)に代入すると、下記式(21)が得られる(ただし、i、jは、A、B又はCのいずれかであって、かつ、i≠jである)。
mT0={(ti−t)(tj−τ)(m0,j−m0,i)}/{(t−τ)
(ti−tj)}+m0,i (21)
ここで、m0,C=0、tC=teof、i=C、j=Aとすると、前記式(14)、(15)及び(16)が得られる。その導出過程を以下に示す。
まず前記式(11)(12)(17)から、下記式(11)’、(12)’及び(17)’が得られる。
meof=l/{(tA−τ)}−m0,A(1+αΔT) (11)’
meof=l/{(tB−τ)}−m0,B(1+αΔT) (12)’
meof=l/{(tC−τ)}−m0,C(1+αΔT) (17)’
【0065】
次に、前記式(11)’から式(12)’および式(17)’を引いて整理すると、下記式(a)及び(b)が得られる。
(tA−τ)(tB−τ)={l(tB−tA)}/{E(1+αΔT)(m0,A−m0,B)} (a)
(tA−τ)(tC−τ)={l(tC−tA)}/{E(1+αΔT)(m0,A−m0,C)} (b)
さらに、(a)/(b)から(tB−τ)/(tC−τ)={(tB−tA)(m0,A−m0,C)}/{(tC−tA)(m0,A−m0,B)}=K(式(c))とすると、下記式(c)’が得られる。
τ=(tB−KtC)/(1−K) (c)’
【0066】
ここで、τの分子及び分母をそれぞれ整理すると、
τの分子=tB−{(tB−tA)(m0,A−m0,C)tC}/{(tC−tA)(m0,A−m0,B)}
={m0,AtA(tC−tB)+m0,BtB(tA−tC)+m0,CtC(tB−tA)}/{(tC−tA)(m0,A−m0,B)}
となり、
τの分母=1−{(tB−tA)(m0,A−m0,C)}/{(tC−tA)(m0,A−m0,B)}
={m0,A(tC−tB)+m0,B(tA−tC)+m0,C(tB−tA)}/{(tC−tA)(m0,A−m0,B)}
となり、更に下記式(18)が得られる。
τ={m0,AtA(tC−tB)+m0,BtB(tA−tC)+m0,CtC(tB−tA)}/{m0,A(tC−tB)+m0,B(tA−tC)+m0,C(tB−tA)} (18)
【0067】
また、前記式(a)又は(b)から、下記式(19)が得られる。
1+αΔT={l(ti−tj)}/{E(ti−τ)(tj−τ)(m0,i−m0,j)} (19)
また前記式(11)’(12)’又は(17)’のいずれかを使うことで、下記式(20)が得られる。
meof=l/{(ti−τ)}−m0,i(1+αΔT) (20)
【0068】
以上に説明したように、本発明では、移動度0の物質を利用することができない場合やシステムピークを検出することができない(すなわちteofを特定できない)場合であっても、TCDT法の第三の態様を採用し、3種類以上の標準物質から選択した3種類の標準物質の泳動時間(tA、tB及びtC)、被検物質の泳動時間(t)及び前記選択した3種類の標準物質の基準温度T0における実効移動度(m0,A、m0,B及びm0,C)から上述した式3(前記式(18)及び(21))を用いて被検物質の実効移動度(mT0)を求めることができる。なお、m0,C=0、tC=teof、i=C、j=Aとすると、前記式(14)と(18)、前記式(16)と(21)はそれぞれ同等の式となる。また、上述した式3(前記式(18)及び(21))に含まれるパラメータであるm0,A、m0,B及びm0,Cは、論文や既存データ、更には実施者における予備実験の結果(フェログラム)などから決定することができる。またtA、tB、tC及びtは、既存データや実験値、更にはだいたいの見積もり等から、どの検出ピークがどの物質に対応するのか当たりを付けることができるので、実験より得られたフェログラムからそれぞれの泳動時間を決定できる。
【0069】
以上に説明した、温度係数を考慮した泳動時間からの実効移動度の測定(前記TCDT法の第一態様)、又は、温度係数のみならず、時間補正をも考慮した泳動時間からの実効移動度の測定(前記TCDT法の第二及び第三態様)のいずれも採用し得るが、より精度の高い酸解離定数の測定のためには第二又は第三の態様が好ましい。
【0070】
6.測定例
以下に、本発明を更に詳細に説明するため、測定例を記載するが、これらは本発明を限定するものではない。
測定例
ギ酸、酢酸、酪酸及びカプロン酸のそれぞれを被検物質とし、図2に示した装置を用いて、これらを混合した試料について本発明の電気泳動式酸解離定数測定を実施した。
まず、前期被検物質と標準物質(塩化物イオン(基準温度T0における実効移動度79.1×10−5)および塩素酸イオン(基準温度T0における実効移動度69.8×10−5)を水に溶解し、試料としてバイアル203に充填した。電気泳動を任意のpH条件下で行うための電解液として、以下の組成の電解液(pHを7.25)を作製し、リザーバー202に充填するとともに、キャピラリー204に導入した。
【0071】
(電解液の組成)
本実施例では20kVの高電圧を印加して測定を行ったが、温度変化がきわめて小さくなると思われる3kV以下の電圧で測定を行った場合に比べて1/6の分析時間で正確な移動度を求めることができた。
次に、前回の操作で使用した電解液に比較してpHが約0.25低い電解液をリザーバー202に充填し、上述と同様の操作を行ってこのpHで試料を電気泳動し、各被検物質の実効移動度を求める、という操作を、電解液のpHが2.75となるまで繰り返し実施した。なお使用した電解液は、pHを調整するための緩衝剤以外は上述した電解液と同一の組成である。
【0072】
前記操作の終了後、最小二乗法を用いて前記式4(ただし、式4において、pKa=−log(Ka)から被検物質の酸解離定数を求めた。もともと最小二乗法は線形の式を仮定して、暫定的に定めた係数によって計算される従属変数と、測定値から得られる従属変数の残渣の二乗和を最小にするように最も確からしい係数を決定する方法である。しかるに、本測定例の場合には、非線形の式が仮定されているので、線形式における最小二乗法は使用できないように思われるが、Kaを仮定して計算上得られるある物理量(例えば前記式4を用いて計算上得られる実効移動度)と実測される物理量(例えば泳動時間測定値から得られる実効移動度)との差を残渣として、最小二乗法を使用すれば非線形式の場合でも最も確からしいpKa値を求めることは可能である。これは例えば、表計算プログラムのソルバー機能などを使用することによって容易に計算することが可能である。
一般に、非線形関数の場合には第一近似解の値によってその解が左右されることがあるが、酸解離定数を求める場合には、測定結果をpH−実効移動度の関係で図示出力できるので、適切な第一近似解を与えることが可能である。
【0073】
図4、図5に、本測定例により得られたpH−実効移動度の関係を示す。これら図には、各被検物質について、本実施例で得られた値を丸で示すとともに、電気伝導度測定など多くの方法によって得られた、確度の高い25℃における絶対移動度及びpKaから計算して得られた値を実線で、そして電気浸透流のみを補正する方法で得た値を三角で示す。三角で表した、電気浸透流のみを補正する方法は、温度係数及び時間補正を考慮せず、次式に基づいて実効移動度を計算するもので、この場合にはキャピラリーに高圧を印加した結果、ジュール熱によりキャピラリー内の温度が上昇してしまい、移動度が大きくなる。
【0074】
【数9】
また、電解液の濃度の違いなどによりジュール熱の発生量が異なるため、この方法で計算したpKa値はTCDT法で計算したpKa値と比較して不正確になる。なおTCDT法では、25℃での実効移動度を求めることができるため、25℃における絶対移動度及びpKaから計算して得られた値とほぼ一致する。
【0075】
また図6に、前記のようにして求められた、各被検物質のpKa値の図を示す。この図からは、本発明の電気泳動式酸解離定数測定方法によって測定した各被検物質の絶対移動度及びpKa値は、表中のかっこ内に示した、文献(R.A.Robinson,R.H.Stokes,Electrolyte Solutions,Butterw orths,London,2nd ed.1959年)で報告された値と比較してみても妥当な値であることが明らかである。以上のとおり、本実施例の結果から、TCDT法によって求めた実効移動度から求められた各被検物質のpKa値は正確なもので、信頼性が高いこと、従って本発明の電気泳動式酸解離定数測定方法は、従来の電気泳動を利用する酸解離定数の測定方法と比較して、圧倒的に短時間で実施できる、精度の高い測定方法であることが理解できる。
【0076】
【発明の効果】
本発明では、キャピラリーゾーン電気泳動で測定された泳動時間を、測定条件の変化などをすべて考慮して補正するTCDT法によって実効移動度に変換するため、泳動電圧を極めて低く設定し、温度変化を少なくする等しなくとも、精度の高い酸解離定数の測定が可能になるという優れた効果を有するものである。従来は電気泳動の条件変動を極限まで小さくするため、キャピラリー温度を上昇させないように低泳動電圧を使用し、そのため操作に長い時間を要していたが、本発明の方法は高泳動電圧を使用することが出来るので泳動時間を短縮することができる(使用する電圧にもよるが、例えば、泳動時間を20分の1程度にまで短縮できる)。
【0077】
本発明は、キャピラリーゾーン電気泳動を利用するものであるから、従来から実施されている電位差滴定法では測定できなかった、複数の被検物質を含む試料についても、各被検物質のpKaを同時に測定することが可能である。また、従来から実施されている吸光度法等では測定が不可能であった混合物に対しても電気泳動による分離を伴うため同時測定が可能になった。また、吸光度法のような同時測定可能な方法で、測定不可能であった物質に対しても測定が可能となった。
上述した本発明の電気泳動式酸解離定数測定方法は、本発明の装置を用いることにより、電解液や試料を準備してリザーバーやバイアルに充填すれば、測定操作を全自動で実施することが可能である。この結果、被検物質について、迅速かつ精度の良い酸解離定数の測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】一般的なキャピラリー電気泳動装置を説明するための、概略構成図である。
【図2】本発明の装置構成の一例を説明するための、概略構成図である。
【図3】本発明における酸解離定数方法の実施手順を示すフローチャートである。
【図4】ギ酸、酢酸について電気泳動の実効移動度を測定した結果を示す図である。
【図5】酪酸、カプロン酸について電気泳動の実効移動度を測定した結果を示す図である。
【図6】各被検物質のpKa値の図である。
【符号の説明】
101 キャピラリー電気泳動装置、102 高圧電源部、103 リザーバー、104 リザーバー、105 キャピラリー、106 スリット、107 光源、108 回折格子、109 マルチチャンネルフォトダイオード、110バイアル、201 高圧電源、202 電解液を充填するリザーバー、203試料を充填するバイアル、204 電気泳動を発生させるためのキャピラリー、205 検出器、206 リザーバーを載置するターンテーブル、207 吸引ポンプ、208 pHを測定するpHメーター、209 酸及び/又はアルカリ溶液を充填するバイアル、210 液体吸引吐出手段、211 駆動部、212 演算部、213 制御部
Claims (14)
- 被検物質、基準温度での電気泳動における実効移動度が既知の標準物質及び電気泳動における移動度を持たない移動度0の物質を含む試料を複数の異なるpHでキャピラリーゾーン電気泳動(capillary zone electrophoresis;CZE)に供するステップと、
複数の異なるpHでの被検物質、標準物質及び実効移動度0の物質の泳動時間を測定するステップと、
前記測定ステップにより測定された複数の異なるpHでの、被検物質の泳動時間、標準物質の泳動時間、移動度0の物質の泳動時間、及び、標準物質の基準温度における既知の実効移動度に基づき、複数の異なるpHでの被検試料の実効移動度を求めるステップと、
求められた複数の異なるpHにおける被検物質の実効移動度から被検物質の酸解離定数を求めるステップと
を含む、酸解離定数測定方法。 - 被検物質及び基準温度での電気泳動における実効移動度が既知の標準物質を含む試料を複数の異なるpHでキャピラリーゾーン電気泳動(capillary zone electrophoresis;CZE)に供するステップと、
複数の異なるpHでの被検物質、標準物質及びシステムピークの泳動時間を測定するステップと、
前記測定ステップにより測定された複数の異なるpHでの、被検物質の泳動時間、標準物質の泳動時間、システムピークの泳動時間、及び、標準物質の基準温度における既知の実効移動度に基づき複数の異なるpHでの被検試料の実効移動度を求めるステップと、
求められた複数の異なるpHにおける被検物質の実効移動度から被検物質の酸解離定数を求めるステップと
を含む、酸解離定数測定方法。 - 被検物質及び基準温度での電気泳動における実効移動度が既知の3種類以上の標準物質を含む試料を複数の異なるpHでキャピラリーゾーン電気泳動(capillary zone electrophoresis;CZE)に供するステップと、
複数の異なるpHでの被検物質及び少なくとも3種類の標準物質の泳動時間を測定するステップと、
前記測定ステップにより測定された複数の異なるpHでの、被検物質の泳動時間、各標準物質の泳動時間、システムピークの泳動時間、そして標準物質の基準温度における既知の実効移動度に基づき、複数の異なるpHでの被検試料の実効移動度を求めるステップと、
求められた複数の異なるpHにおける被検物質の実効移動度から被検物質の酸解離定数を求めるステップと
を含む、酸解離定数測定方法。 - 前記被検物質の実効移動度を求めるステップは、被検物質の実効移動度(mT0)を、標準物質の泳動時間(ts)、被検物質の泳動時間(t)、移動度0の物質の泳動時間又はシステムピークの泳動時間(teof)及び標準物質の基準温度における実効移動度(m0,s)に基づき、次式を用いて求めることを特徴とする、請求項1又は2に記載の酸解離定数測定方法。
mT0={(teof/t−1)/(teof/ts−1)}・m0,s - 標準物質として2種類以上の標準物質を使用するとともに、前記被検物質の実効移動度を求めるステップは、被検物質の実効移動度(mT0)を、2種類以上の標準物質から任意に選択した2種類の標準物質の泳動時間(tA、tB)、被検物質の泳動時間(t)、移動度0の物質の泳動時間又はシステムピークの泳動時間(teof)及び前記選択した2種類の標準物質の基準温度における実効移動度(m0,A、m0,B)に基づき、次式を用いて求めることを特徴とする、請求項1又は2に記載の酸解離定数測定方法。
mT0={(tA−τ)(teof−t)/(t−τ)(teof−tA)}・m0,A
(ただし、τ={m0,A・tA(teof−tB)−m0,B・tB(teof−tA)}/{m0,A(teof−tB)−m0,B(teof−tA)}である。) - 前記被検物質の実効移動度を求めるステップは、被検物質の実効移動度(mT0)を、3種類以上の標準物質から任意に選択した3種類の標準物質の泳動時間(tA、tB、tC)、被検物質の泳動時間(t)、及び前記選択した3種類の標準物質の基準温度における実効移動度(m0,A、m0,B、m0,C)に基づき、次式を用いて求めることを特徴とする、請求項3に記載の酸解離定数測定方法。
mT0={(ti−t)(tj−τ)(m0,j−m0,i)}/{(t−τ)(ti−tj)}+m0,i
(ただし、i及びjは選択した標準物質(A、B及びC)のいずれかであって、かつ、i≠jであり、τ={m0,A・tA(tC−tB)+m0,B・tB(tA−tC)+m0,C・tC(tB−tA)}/{m0,A(tC−tB)+m0,B(tA−tC)+m0,C(tB−tA)}である。) - 被検物質を含む試料を含むバイアルと、
電解液を含むリザーバーと、
電気泳動を行うためのキャピラリーと、
試料に含まれる物質の泳動時間を検出するための検出器と、
前記バイアル、前記リザーバー及び前記キャピラリーを制御する制御部と、
キャピラリーゾーン電気泳動による泳動時間及びリザーバーに充填された電解液のpHから被検物質の酸解離定数を求めるための演算部と
を備え、
前記制御部は、被検物質及び基準温度での電気泳動における実効移動度が既知の標準物質を含む試料を複数の異なるpHでキャピラリーゾーン電気泳動(capillary zone electrophoresis;CZE)に供するように制御し、
前記演算部は、
複数の異なるpHでの被検物質、標準物質、及び、実効移動度0の物質若しくはシステムピークの泳動時間を測定する手段と、
前記測定する手段により測定された複数の異なるpHでの、被検物質の泳動時間、標準物質の泳動時間、実効移動度0の物質若しくはシステムピークの泳動時間、及び、標準物質の基準温度における既知の実効移動度に基づき複数の異なるpHでの被検試料の実効移動度を求める手段と、
求められた複数の異なるpHにおける被検物質の実効移動度から被検物質の酸解離定数を求める手段と
を有する、酸解離定数測定装置。 - 予め複数の異なるpHに調整した2種類以上の電解液を充填する複数の前記リザーバーを備えるとともに、前記制御部の制御によりキャピラリーに供される電解液を切り替えるための駆動部をさらに具備することを特徴とする、請求項8に記載の酸解離定数測定装置。
- 第1のリザーバー及びバイアルを載置する第1のターンテーブルと、
第2のリザーバーを載置する第2のターンテーブルと、
前記第1及び第2のターンテーブルを移動するための第1及び第2の駆動部と、
をさらに備え、
前記制御部は、前記駆動部により前記第1及び第2のターンテーブルを移動させて、試料を前記キャピラリーに供するように制御することを特徴とする請求項8に記載の酸解離定数測定装置。 - リザーバーに充填した電解液のpHを調整するための酸及び/又はアルカリ溶液を充填する1又は2以上の容器と、
前記容器に充填された酸又はアルカリ溶液を前記リザーバーに添加するための液体吸引吐出手段と、
前記リザーバーに充填された電解液のpHを測定するためのpH測定手段と
をさらに具備することを特徴とする、請求項8に記載の酸解離定数測定装置。 - 複数の異なるpHに対する実効移動度をプロットしたグラフを表示する表示部をさらに備えた請求項8乃至12のいずれかに記載の酸解離定数測定装置。
- 前記制御部は、複数の異なるpHにおいて実効移動度が所定以上に変化しない場合、さらにpHを変化させた電解液で試料をキャピラリー電気泳動に供することを特徴とする、請求項11乃至13のいずれかに記載の酸解離定数測定装置。
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