JP3707288B2 - 駐車ブレーキのワイヤ張力調整方法および装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は駐車ブレーキのワイヤ張力調整方法および装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
図5(A) に示すように、自動車の駐車ブレーキ機構、例えばセンターレバー式のものでは、センターレバー60、ブレーキケーブル61、ワイヤ張力調整機構50、ブレーキワイヤ63、64、駐車ブレーキ65、66等から構成されており、センターレバー60を所定量引くことによって、ブレーキケーブル61が引っ張られ、さらにはワイヤ張力調整機構50を介して接続される2本のブレーキワイヤ63、64が引っ張られることで、左右後輪の駐車ブレーキ65、66に制動力を発生させ、自動車を停止、即ち駐車した状態に保つことを可能にしている。
【0003】
ここで、ブレーキケーブル61と2本のブレーキワイヤ63、64とは、図5(A) の一点鎖線円内に示すように、ワイヤ張力調整機構50を介在させて接続しており、図5(B) では、その構成概要を拡大して図示している。即ち、ブレーキケーブル61の端部は軸長の長いアジャストボルト54に接続され、またブレーキワイヤ63、64はイコライザ52にそれぞれ係止されている。そして、ブレーキケーブル61が接続されたアジャストボルト54は、ブレーキワイヤ63、64と反対の方向からイコライザ52のほぼ中央を貫通し、その端部には調整ナット56が螺合されている。
【0004】
なお、ブレーキワイヤ63、64はアウタケーシング63a、64a内に挿通されており、その一端は互いに車幅方向で所定の間隔を空けてイコライザ52に接続され、他端は駐車ブレーキ65、66に接続されている。またアウタケーシング63a、64aの一端は駐車ブレーキ65、66付近において車体に固定され、他端はイコライザ52に対して車両後方に所定の間隔を空けたところで、互いに車幅方向でブレーキワイヤ63、64の他端と同じだけ間隔を空けて車体に固定されている。したがって、アウタケーシング63a、64aの他端とイコライザ52との間において、ブレーキワイヤ63、64は互いに並行に位置している。またイコライザー52はブレーキケーブル61に対して揺動可能となっており、ブレーキワイヤ63、64の張力を均等に保っている。
【0005】
このようにワイヤ張力調整機構50を介在させてブレーキケーブル61とブレーキワイヤ63、64とを接続することによって、センターレバー60によりブレーキケーブル61が引っ張られても、アジャストボルト54の端部に螺合した調整ナット56がイコライザ52からアジャストボルト54が引き抜けることを防止するとともに、この調整ナット56のねじ込み位置によってイコライザ52のアジャストボルト54軸上の位置が決定されている。
【0006】
つまり、調整ナット56のねじ込み位置によってイコライザ52とブレーキケーブル61との位置関係、ひいてはブレーキケーブル61とブレーキワイヤ63、64との接続間隔が設定されるところ、この調整ナット56のねじ込み量(図5(B) に示すL61)を調整することにより、ブレーキケーブル61と駐車ブレーキ65、66との間に張られるブレーキワイヤ63、64に、予めテンションを与え、所定の張力を設定することができる。したがって、調整ナット56のねじ込み量、換言するとアジャストボルト54の出代L61を管理することによってブレーキワイヤ63、64の張力を調整することができる。
【0007】
具体的には、図5(B) に示すように、調整ナット56を自動的にねじ込み可能なナットランナー70のボックス部72の深さL62を、調整ナット56の予定するねじ込み量L61と一致するように設定することにより、調整ナット56がL61までねじ込まれると自動的にナットランナー70が停止するように制御される。これにより、ブレーキワイヤ63、64の張力が一定量に設定される。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前述したように図5(B) に示すアジャストボルト54の出代L61によってブレーキワイヤ63、64の張力を管理しようとすると、ブレーキワイヤ63、64のワイヤ長に生ずる数mmの誤差がそのままブレーキワイヤ63、64の張力の誤差となって現れるということが分かっている。そのため、再度別の工程にてこのブレーキワイヤ63、64の張力を調整しなければならず、調整工数の増加を招くという問題に結び付いている。
【0009】
この問題は、ブレーキワイヤ63、64のワイヤ長を厳密に規定することによって解決するかのように考えられるが、ブレーキワイヤ63、64の長さに対する精度を向上させれば新たなる工数の増大につながる。また、実際にはワイヤ長だけを規定しても所定の張力によってブレーキワイヤ63、64自体が伸び得るため、そのようなワイヤ長の厳密な規定だけでは、解決できるものではない。
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、駐車ブレーキのワイヤ張力調整工数を削減し得る駐車ブレーキのワイヤ張力調整方法および装置を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、請求項1の駐車ブレーキのワイヤ張力調整方法では、左右両車輪の駐車ブレーキのうち、一方の駐車ブレーキに接続される第1ブレーキワイヤおよび他方の駐車ブレーキに接続される第2ブレーキワイヤの少なくとも一部分を互いに並行に位置させるとともに、両ブレーキワイヤを一つのワイヤ張力調整機構を介してブレーキ操作部に連結し、該駐車ブレーキ操作部の操作により両ブレーキワイヤが均等に引張られて、該左右両車輪の駐車ブレーキが同時に作動するようにした駐車ブレーキのワイヤ張力調整方法であって、
弛んだ状態の前記第1ブレーキワイヤと前記第2ブレーキワイヤの並行部分をその間隔が拡張する方向に一定の力で付勢しながら、前記ワイヤ張力調整機構の調整により両ブレーキワイヤを徐々に緊張させ、該両ブレーキワイヤの並行部分が所定の間隔になったところで前記ワイヤ張力調整機構の調整を終了することを技術的特徴とする。
【0012】
また、上記目的を達成するため、請求項2の駐車ブレーキのワイヤ張力調整装置では、左右両車輪の駐車ブレーキのうち、一方の駐車ブレーキに接続される第1ブレーキワイヤおよび他方の駐車ブレーキに接続される第2ブレーキワイヤの少なくとも一部分を互いに並行に位置させるとともに、両ブレーキワイヤを一つのワイヤ張力調整機構を介してブレーキ操作部に連結し、該駐車ブレーキ操作部の操作により両ブレーキワイヤが均等に引張られて、該左右両車輪の駐車ブレーキが同時に作動するようにした駐車ブレーキのワイヤ張力調整方法であって、
前記ワイヤ張力調整機構を調整可能な動力工具と、
前記両ブレーキワイヤの並行部分をその間隔が拡張する方向に一定の力で付勢する付勢手段と、
前記両ブレーキワイヤの並行部分が所定の間隔になったことを検出する検出手段と、
前記検出手段による検出信号に基づいて前記動力工具の作動を停止させる制御手段と、を備えることを技術的特徴とする。
【0013】
さらに、請求項3の駐車ブレーキのワイヤ張力調整装置では、請求項2において、前記付勢手段は、
伸縮可能な本体部と、
前記本体部に設けられ、前記本体部の伸縮に伴い互いの間隔が拡縮する第1ブレーキワイヤ係止部および第2ブレーキワイヤ係止部と、
前記本体部に伸縮力を付与する伸縮力付与部と、
前記伸縮力を制御する制御部と、
を備えることを技術的特徴とする。
【0014】
請求項1の発明では、まず弛んだ状態の第1ブレーキワイヤと第2ブレーキワイヤの並行部分をその間隔が拡張する方向に所定の力で付勢することで両ブレーキワイヤに所定の張力を付与する。次にワイヤ張力調整機構を張力が増加するほうに調整すると両ブレーキワイヤが徐々に緊張していく。このとき両ブレーキワイヤが最初に付与された張力を保つように、一定の力で拡張方向に付勢しながら両ブレーキワイヤの間隔を狭めていく。そして、両ブレーキワイヤが所定の間隔となったところでワイヤ張力調整機構の調整を終了する。つまり、両ブレーキワイヤは、その間隔が拡張する方向に所定の力で付勢したときに所定の間隔になるようにその張力が調整されることになるから、ブレーキワイヤの長さなど構成部品の寸法のバラツキは影響しない。
【0015】
請求項2の発明では、まず付勢手段により弛んだ状態の第1ブレーキワイヤと第2ブレーキワイヤの並行部分をその間隔が拡張する方向に所定の力で付勢することで両ブレーキワイヤに所定の張力を付与する。次に動力工具によりワイヤ張力調整機構を張力が増加するほうに調整すると両ブレーキワイヤが徐々に緊張していく。このとき両ブレーキワイヤが最初に付与された張力を保つように、付勢手段による付勢力を一定に保ちながら両ブレーキワイヤの間隔を狭めていく。そして、両ブレーキワイヤが所定の間隔となったときにこれが検知手段により検知され、動力工具の作動が停止される。つまり、両ブレーキワイヤは、その間隔が拡張する方向に所定の力で付勢した時に所定の間隔になるように張力が調整されることになるから、ブレーキワイヤの長さなど構成部品の寸法のバラツキは影響しない。
【0016】
請求項3の発明では、動力工具によりワイヤ張力調整機構を張力が増加するほうに調整したとき、付勢手段の本体部が一定の伸張力を保ちながら縮小することにより、両ブレーキワイヤが最初に付与された張力を保ちながら間隔を狭めていく。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の駐車ブレーキのワイヤ張力調整方法および装置の実施形態について図1〜図5を参照して説明する。
まず、本発明の一実施形態による駐車ブレーキのワイヤ張力調整装置(以下「張力調整装置」という。)20の構成を図2に基づいて説明する。
図2に示すように、張力調整装置20は、主に、制御盤21、電磁弁22、一次エア供給源23、エアタンク24、精密レギュレータ25、ワイヤ付勢治具30、ナットランナー70から構成されている。
【0018】
制御盤21は、図示しない入出力装置、演算装置、記憶装置、補助記憶装置等から構成されており、後述する制御フロー(図4参照)に基づいて所定の入出力処理、演算処理等を行う。具体的には、所定の制御条件に従って演算制御等を行い、電磁弁22に開閉弁信号を出力したり、ワイヤ付勢治具30から位置検出信号を入力する。
【0019】
電磁弁22は、4ポート2位置電磁切換弁(以下「4ポート電磁弁」という。)22aと2ポート2位置電磁切換弁(以下「2ポート電磁弁」という。)22bとからなり、双方同時に作動する2連式に構成される。電磁弁22を構成するこれらの電磁切換弁22a、22bは、前述した制御盤21によってその開閉弁を制御されることから、電磁弁22と制御盤21との間には開閉弁信号をやり取りし得る所定の信号線が配線されている。そして、4ポート電磁弁22aは、後述する一次エア供給源23からワイヤ付勢治具30に供給される空気圧を制御するために用いられ、2ポート電磁弁22bは同様に一次エア供給源23からナットランナー70に供給される空気圧を制御するために用いられる。
【0020】
一次エア供給源23は、所定の圧力空気を供給し得るように構成されており、これにより一次エア供給源23から送られる圧力空気は、前述した電磁弁22等を介してワイヤ付勢治具30およびナットランナー70に供給される。つまり、一次エア供給源23からワイヤ付勢治具30に供給される圧力空気は、エアタンク24、精密レギュレータ25および電磁弁22の4ポート電磁弁22aを介して送られ、また一次エア供給源23からナットランナー70に供給される圧力空気は電磁弁22の2ポート電磁弁22bを介して送られる。
【0021】
ここで、ワイヤ付勢治具30に圧力空気が供給される経路途中にエアタンク24や精密レギュレータ25が設けられるのは、次の理由による。つまり、精密レギュレータ25の圧力空気上流側にエアタンク24を設けることにより、一次エア供給源23の供給圧に変動があっても緩衝作用のあるエアタンク24によってその圧力変動を吸収し精密レギュレータ25に安定した圧力空気を供給するためである。また、電磁弁22の圧力空気上流側に精密レギュレータ25を設けることにより、4ポート電磁弁22aの切り換えなどによる圧力変動の要因を吸収し、一定圧の空気をワイヤ付勢治具30に供給し得るためである。なお、ワイヤ付勢治具30の構成は、ナットランナー70の構成概要を説明した後に詳述する。
【0022】
ナットランナー70は、先に図5に基づいて説明したように、図1に示す調整ナット56を空気圧によって自動的にねじ込む機能を有する。つまり、所定の圧力空気が供給された状態でナットランナー70のレバー部を握ることにより開弁する手動弁によって、先端に回動自在に取付けられたボックス部73に圧力空気が供給されるため、調整ナット56の締め付け方向に回転し、ボックス部73内に収まった調整ナット56を自動的にアジャストボルト54にねじ込むというものである。なお、ボックス部73の深さは、調整ナット56の予定するねじ込み量を十分に超える程度に余裕をもつように設定されている。そのため、アジャストボルト54の出代が予定を超えた過剰な長さであっても、問題なくアジャストボルト54に調整ナット56をねじ込むことができる。
【0023】
次に、ワイヤ付勢治具30の構成を図1に基づいて詳述する。なお、図1は、ワイヤ付勢治具30をブレーキワイヤ63、64の並行部分間に位置させた様子を模式的に示すものである。
図1に示すように、ワイヤ付勢治具30は、汎用の空気圧シリンダに棒状のポストを4本取り付けたものであり、エアシリンダ部31、ピストンロッド32、可動端部33、ガイドロッド34、入出力ポート35a、35bよりなる本体部と、ポスト37a、37b、38a、38bから構成されている。また、ワイヤ付勢治具30には、リードスイッチ36が設けられている。
【0024】
エアシリンダ部31の内部には、ピストンロッド32に取り付けられた図示しないピストンが摺動自在に設けられており、このピストンを壁にして区切られる双方の部屋には、外部との空気の流通を可能にする入出力ポート35a、35bがそれぞれ連通している。これにより、入出力ポート35aに供給される空気圧と、入出力ポート35bに供給される空気圧と大小関係により双方の部屋の内圧バランスが変動するため、この内圧バランスを制御することによって、ピストンの摺動とともにピストンロッド32の移動を制御することができる。つまり、前述した電磁弁22の4ポート電磁弁22aを制御することにより、一次エア供給源23からエアシリンダ部31に供給される圧力空気の供給と、エアシリンダ部31から外部空間に放出される圧力空気の排出とを切り換え得るため、両部屋の内圧バランスを自在に変動させ、ピストンロッド32の移動を制御することができる。
【0025】
可動端部33は、ピストンロッド32の先端に取付けられており、さらにピストンロッド32をその径方向両側から挟むように平行に位置する2本のガイドロッド34をも有している。このガイドロッド34は、ピストンロッド32の移動等に伴う可動端部33の回転を防止するためのもので、後述するポスト37a、37bとポスト38a、38bとが対向する位置関係になるようにするためのものである。
【0026】
リードスイッチ36は、磁石部36aとスイッチ部36bとが一組となって構成されており、任意位置に設定可能な磁石部36aに、ピストンロッド32とともに移動するスイッチ部36bが隣接すると、スイッチがオン状態に移行するように構成されている。つまり、所定位置に磁石部36aを予め固定しておき、ピストンロッド32の移動に伴って接近してくるスイッチ部36bが所定範囲内に隣接するとスイッチ接点を遮断(オフ状態)から導通(オン状態)に切り換え、前述した制御盤21にワイヤ付勢治具30の位置検出信号を伝達する。なお、この磁石部36aの所定位置は、次述するポスト37a、37bおよびポスト38a、38bに係止されたブレーキワイヤ63、64がその設定目標張力に達したときのピストンロッド32の位置を、事前に必要数サンプル採取し予め求めておいたものである。
【0027】
ポスト37a、37b、38a、38bは、両端部が大径に形成された鼓状の棒体であり、径方向から当接したブレーキワイヤ63、64がポスト37a、37b、38a、38bの軸方向中央に移動し易い形状に形成されている。これにより、後述するようにポスト37a、37b、38a、38bにブレーキワイヤ63、64が一旦、係止すると、ポスト37a、37b、38a、38bから外れ難くくしている。また、ポスト37a、37b、38a、38bは、エアシリンダ部31の可動端部33側端部上面に2本(ポスト37a、37b)、そして可動端部33の上面に2本(ポスト38a、38b)、矩形状の各四隅に互いに対峙するようにそれぞれ直立状態に固定されている。これにより、ピストンロッド32の移動に伴いエアシリンダ部31の離隔方向に可動端部33が移動すると、対峙関係にあるポスト37a、37bから遠ざかるようにポスト38a、38bが移動し、両者の間隔が拡がる。
【0028】
また、このようにエアシリンダ部31に2本のポスト37a、37bを設け、可動端部33にも2本のポスト38a、38bを設けていることから、ポスト37a、37b(またはポスト38a、38b)の間にブレーキワイヤ63、64の長さ方向に向かって掛けられたワイヤブレーキワイヤ63(またはブレーキワイヤ64)の長さ分、ワイヤ付勢治具30による両ブレーキワイヤ63、64の拡張後の並行部分の間隔を小さくすることができる。さらに矩形状の各四隅に互いに対峙するようにそれぞれ直立状態に固定されていることから、ブレーキワイヤ63、64の張力による反力がポスト37a、37bとポスト38a、38bとに均等に加わるため、ポストが1本の場合と比較して、あるいは矩形状の各四隅に位置していない場合と比較して、ポストに加わる反力の非均衡によってワイヤ付勢治具30自体が回転することを防止することができる。したがって、両ブレーキワイヤ63、64間を十分に拡げる余裕のないところであっても、ワイヤ付勢治具30を用いることができ、さらにワイヤ付勢治具30の回転等による作業性を損なうことを抑制することができる。
【0029】
なお、本実施形態では、片側に2本づつのポスト37a、37b(またはポスト38a、38b)を設けてブレーキワイヤ63、64をその長さ方向に向かって掛けたが、例えばポスト37a、37bの間隔にこれらの直径を加えた長さを、直径とする大径のポストを1本、エアシリンダ部31に設けても良い。これによりポストが大径であることによって、2本のポスト間にブレーキワイヤ63、64を掛けたものと同様の作用をし得るため、前述と同様の効果を得ることができる。
【0030】
続いて、張力調整装置20の作動を図1〜図4に基づいて説明する。
まず、ブレーキワイヤ63、64の並行部分間にワイヤ付勢治具30を位置させる前に、ワイヤ張力調整機構50の調整ナット56を十分に緩めて、ブレーキワイヤ63、64を弛んだ状態にしておく。これは、調整前から両ブレーキワイヤ63、64が緊張していると、両ブレーキワイヤ63、64間にワイヤ付勢治具30をセットし難いためである。
【0031】
ブレーキワイヤ63、64の並行部分間にワイヤ付勢治具30をセットした後、制御盤21にスタート指示を与えると、図4に示す制御フローに従って張力調整装置20の制御が順次行われる。
図4に示すように、まずステップ101では、制御盤21を構成する入出力装置、記憶装置等の一連の初期化処理による初期設定を行う。つまり、電磁弁22には閉弁信号を伝達し、また記憶装置の作業領域をクリアしてワイヤ付勢治具30からの位置検出信号等を初期化する。これにより、4ポート電磁弁22aおよび2ポート電磁弁22bはともにオフ状態に移行するため、一次エア供給源23からワイヤ付勢治具30の入出力ポート35aに圧力空気が供給され、入出力ポート35bからは圧力空気が排出されるとともに、一次エア供給源23からナットランナー70への圧力空気の供給が断たれる。したがって、ピストンロッド32が引込みワイヤ付勢治具30は収縮するとともに、ナットランナー70が回転不能の状態になる。
【0032】
次にステップ103により、ピストンロッド32を突出させてワイヤ付勢治具30を伸張させる処理が行われる。つまり、制御盤21から電磁弁22に開弁信号を伝達してオフ状態からオン状態に移行するため、4ポート電磁弁22aによって一次エア供給源23からワイヤ付勢治具30の入出力ポート35bに圧力空気が供給され、入出力ポート35aからは圧力空気が排出される。これにより、ワイヤ付勢治具30は伸張する。このとき一次エア供給源23からは精密レギュレータ25を介してワイヤ付勢治具30に圧力空気が供給されていることから、ピストンロッド32およびその端部に設けられる可動端部33は、一定の力で伸張方向に付勢されている。
【0033】
ステップ103に続くステップ105では、ナットランナー70を起動させる処理が行われる。前ステップ103の処理により電磁弁22がオフ状態からオン状態に移行するため、4ポート電磁弁22aとほぼ同時に2ポート電磁弁22bによって一次エア供給源23からナットランナー70に圧力空気が供給される。これにより、ナットランナー70が回転可能の状態になるため、作業者がナットランナー70のレバー部を握ることにより、先端のボックス部73に圧力空気が供給され、調整ナット56の締め付けが可能になる。したがって、図1に示す如く一点鎖線矢印方向にナットランナー70を操作し、調整ナット56にボックス部73を嵌合させることで、調整ナット56のねじ込みが自動的に行われる。
【0034】
ここで、作業者によるナットランナー70の操作によって調整ナット56の締め付けが進むと、アジャストボルト54上をブレーキケーブル61方向に調整ナット56が移動することから、調整ナット56に押されてイコライザ52もブレーキケーブル61方向に移動する。すると、それまで弛んでいたブレーキワイヤ63、64がイコライザ52のブレーキケーブル61方向の移動に伴って緊張し始めるため張力T1 が付勢される。このため、ブレーキワイヤ63およびブレーキワイヤ64がワイヤ付勢治具30の伸張力Fとつり合う反力T3 でポスト37a、37bおよびポスト38a、38bをブレーキワイヤ63、64の閉じる方向に付勢する(図3(A) 参照)。
【0035】
つまり、図3(A) に示すように、ワイヤ付勢治具30が最大に伸張したときのブレーキワイヤ63、64の間隔は、W1 であり、またこのときの調整ナット56のねじ込み量、即ちアジャストボルト54の出代はL1 、リードスイッチ36の磁石部36aとスイッチ部36bの間隔は、d1 ≠0である。なお、ワイヤ付勢治具30は前述したように、ブレーキワイヤ63、64の張力に関わらず、一定の力Fで伸張している。また、リードスイッチ36の磁石部36aは、前述の如く予め与えられる所定位置に合わせされている。
【0036】
再び図4に戻ると、続くステップ107では、ワイヤ付勢治具30が所定位置まで収縮したか否かを判断する処理を行う。つまり、リードスイッチ36による位置検出信号の有無により、ブレーキワイヤ63、64の閉じる方向に作用する反力によってピストンロッド32が予定する位置まで収縮したか否かを判断する。ここでは、前述したように、所定位置に合わせられた磁石部36aとリードスイッチ36のスイッチ部36bとの間隔はd1 ≠0で離れていることから、当該ステップ107の判断はNoになる。したがって、先に説明したステップ103に処理を移行し、前述と同様の処理を行う。
【0037】
そして、作業者によるナットランナー70の操作によって調整ナット56の締め付けがさらに進むと調整ナット56がブレーキケーブル61方向にさらに移動することから、調整ナット56に押されたイコライザ52もブレーキケーブル61方向に移動を重ねる。すると、ポスト37a、37bおよびポスト38a、38bに当接していたブレーキワイヤ63、64がイコライザ52のさらなる移動に伴って緊張を増すため(張力T2 )、その増加したブレーキワイヤ63、64の張力分(T2 −T1 )だけ反力T3 も増し(反力T4 )、ワイヤ付勢治具30を収縮させる(図3(B) 参照)。このワイヤ付勢治具30の収縮により、ブレーキワイヤ63、64の張力は最初に付与された張力T1 に減少し、反力もT3 に減少する。
【0038】
このときのブレーキワイヤ63、64の間隔は、W2 (<W1 )であり、またアジャストボルト54の出代はL2 (>L1 )、リードスイッチ36の磁石部36aとスイッチ部36bの間隔は、d2 (<d1 )≠0である。そのため、図4に示すように、制御盤21の処理がステップ107に移行しても、リードスイッチ36の磁石部36aとスイッチ部36bとの間隔はd2 ≠0で離れていることから、この判断はNoになる。したがって、先に説明したステップ103に処理を移行し、前述と同様の処理を再度行う。なお、ピストンロッド32は、ブレーキワイヤ63、64の張力に関わらず、一定の力Fで伸張している。
【0039】
さらに、作業者によるナットランナー70の操作によって調整ナット56の締め付けがより進むと、調整ナット56がブレーキケーブル61方向にまたさらに移動することから、調整ナット56に押されたイコライザ52もブレーキケーブル61方向の移動量を積算する。すると、ポスト37a、37bおよびポスト38a、38bに当接していたブレーキワイヤ63、64がイコライザ52のさらなる移動に伴って緊張を増すため(張力T2 )、その増加したブレーキワイヤ63、64の張力分(T2 −T1 )だけ、ワイヤ付勢治具30を収縮させる(図3(C) 参照)。このワイヤ付勢治具30の収縮により、ブレーキワイヤ63、64の張力は最初に付与された張力T1 に減少し、反力もT3 に減少する。このときのブレーキワイヤ63、64の間隔は、W3 (<W2 <W1 )であり、アジャストボルト54の出代はL3 (>L2 >L1 )、リードスイッチ36の磁石部36aとスイッチ部36bの間隔は、d3 (<d2 <d1 )=0(またはほぼ零)である。そのため、図4に示すように、制御盤21の処理がステップ107に移行すると、リードスイッチ36の磁石部36aとスイッチ部36bとの間隔はd3 =0(またはほぼ零)で隣接していることから、この判断はYesになる。したがって、次ステップ109に処理を移行する。なお、ここでもワイヤ付勢治具30はブレーキワイヤ63、64の張力に関わらず、一定の力Fで伸張している。
【0040】
ステップ109では、ナットランナー70を停止させる処理が行われる。つまり、前ステップ107の処理により、予め固定されたリードスイッチ36の磁石部36aにスイッチ部36bが隣接したことを判断したことから、ポスト37a、37bおよびポスト38a、38bに係止されたブレーキワイヤ63、64がその設定目標の間隔に達したことになる。そのため、制御盤21から電磁弁22に閉弁信号を伝達してオン状態からオフ状態に移行させ、2ポート電磁弁22bによって一次エア供給源23からナットランナー70への圧力空気が供給を遮断する。これにより、ナットランナー70には、圧力空気が供給されなくなり先端のボックス部73が回転不能の状態になるため、作業者がナットランナー70のレバー部を握っても、ボックス部73に圧力空気が供給されず、調整ナット56の締め付けが停止する。
【0041】
続くステップ111では、ワイヤ付勢治具30を収縮させる処理が行われる。つまり、前ステップ109の処理により電磁弁22がオン状態からオフ状態に移行するため、2ポート電磁弁22bとほぼ同時に4ポート電磁弁22aによって一次エア供給源23からワイヤ付勢治具30の入出力ポート35aに圧力空気が供給され、入出力ポート35bからは圧力空気が排出される。これにより、ワイヤ付勢治具30は収縮し、設定目標の間隔に達したブレーキワイヤ63、64の並行部分間からワイヤ付勢治具30の開放が可能になる。
【0042】
なお、上述した張力調整装置20では、4ポート電磁弁22aと2ポート電磁弁22bとを一つの電磁弁22で構成するものを例示したが、両者をそれぞれ別個の4ポート電磁弁と2ポート電磁弁とに分離して構成しても良い。
【0043】
以上説明したように、本実施形態によると、弛んだ状態のブレーキワイヤ63、64の並行部分において、ブレーキワイヤ63、64の間にセットされたブレーキワイヤ付勢治具30により、その間隔が拡張する方向に所定の力Fで付勢することによりブレーキワイヤ63、64に所定の張力を付与する。次にワイヤ張力調整機構50を張力が増加するほうに調整するとブレーキワイヤ63、64が徐々に緊張していく。このときブレーキワイヤ63、64が最初に付与された張力を保つように、一定の力Fで拡張方向に付勢しながら間隔を狭めていく。そして、両ブレーキワイヤ63、64が所定の間隔W3となったところでワイヤ張力調整機構30の調整を終了する。つまり、ブレーキワイヤ63、64は、その間隔が拡張する方向に所定の力Fで付勢した時に所定の間隔W3になるように張力が調整されることになるから、ブレーキワイヤ63、64の長さなど構成部品の寸法のバラツキは影響しない。
【0044】
また、本実施形態では、エアシリンダ部31に2本のポスト37a、37bを設け、可動端部33にも2本のポスト38a、38bを設けていることから、ポスト37a、37b(またはポスト38a、38b)の間にブレーキワイヤ63、64の長さ方向に向かって掛けられたブレーキワイヤ63(またはブレーキワイヤ64)の長さ分、ワイヤ付勢治具30による両ブレーキワイヤ63、64の拡張後の間隔を小さくすることができ、さらには矩形状の各四隅に互いに対峙するようにそれぞれ直立状態に固定されていることから、ポスト37a、37bとポスト38a、38bとに均等に張力が加わるため、ポストが1本の場合等と比較して、ポストに加わる張力の非均衡によってワイヤ付勢治具30自体が回転することを防止することができる。したがって、両ブレーキワイヤ63、64間を十分に拡げる余裕のないところであっても、ワイヤ付勢治具30を用いることができ、さらにワイヤ付勢治具30の回転等による作業性を損なわずに駐車ブレーキ65、66の調整工数を削減し得る効果がある。
【0045】
【発明の効果】
請求項1の発明では、まず弛んだ状態の第1ブレーキワイヤと第2ブレーキワイヤの並行部分をその間隔が拡張する方向に所定の力で付勢することで両ブレーキワイヤに所定の張力を付与する。次にワイヤ張力調整機構を張力が増加するほうに調整すると両ブレーキワイヤが徐々に緊張していく。このとき両ブレーキワイヤが最初に付与された張力を保つように、一定の力で拡張方向に付勢しながら両ブレーキワイヤの間隔を狭めていく。そして、両ブレーキワイヤが所定の間隔となったところでワイヤ張力調整機構の調整を終了する。つまり、両ブレーキワイヤは、その間隔が拡張する方向に所定の力で付勢したときに所定の間隔になるようにその張力が調整されることになるから、ブレーキワイヤの長さなど構成部品の寸法のバラツキは影響しない。したがって、駐車ブレーキのワイヤ張力調整工数を削減し得る効果がある。
【0046】
請求項2の発明では、まず付勢手段により弛んだ状態の第1ブレーキワイヤと第2ブレーキワイヤの並行部分をその間隔が拡張する方向に所定の力で付勢することで両ブレーキワイヤに所定の張力を付与する。次に動力工具によりワイヤ張力調整機構を張力が増加するほうに調整すると両ブレーキワイヤが徐々に緊張していく。このとき両ブレーキワイヤが最初に付与された張力を保つように、付勢手段による付勢力を一定に保ちながら両ブレーキワイヤの間隔を狭めていく。そして、両ブレーキワイヤが所定の間隔となったときにこれが検知手段により検知され、動力工具の作動が停止される。つまり、両ブレーキワイヤは、その間隔が拡張する方向に所定の力で付勢した時に所定の間隔になるように張力が調整されることになるから、ブレーキワイヤの長さなど構成部品の寸法のバラツキは影響しない。したがって、駐車ブレーキのワイヤ張力調整工数を削減し得る効果がある。
【0047】
請求項3の発明では、動力工具によりワイヤ張力調整機構を張力が増加するほうに調整したとき、付勢手段の本体部が一定の伸張力を保ちながら縮小することにより、両ブレーキワイヤが最初に付与された張力を保ちながら間隔を狭めていく。これにより、両ブレーキワイヤは、その間隔が拡張する方向に所定の力で付勢した時に所定の間隔になるように張力が調整されることになるから、ブレーキワイヤの長さなど構成部品の寸法のバラツキは影響しない。したがって、駐車ブレーキのワイヤ張力調整工数を削減し得る効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態による張力調整装置のワイヤ付勢治具をブレーキワイヤの並行部分間に位置させた様子を示す模式的な斜視図である。
【図2】本実施形態による張力調整装置のシステム構成を示す模式的な構成図である。
【図3】本実施形態による張力調整装置のワイヤ付勢治具の作動を示す模式図であり、図3(A) は調整開始時の状態、図3(B) は調整途中の状態、図3(C) は調整が終了した状態をそれぞれ示すものである。
【図4】本実施形態による張力調整装置の制御概要を示すフローチャートである。
【図5】図5(A) は、センタレバー式の駐車ブレーキの操作機構を示す模式図で、図5(B) は、図5(A) の一点鎖線円内に示すワイヤ張力調整機構を従来の調整方法により調整する様子を表した模式的説明図である。
【符号の説明】
20 張力調整装置
21 制御盤 (制御手段、制御部)
22 電磁弁 (付勢手段、伸縮力付与部)
23 一次エア供給源 (付勢手段、伸縮力付与部)
24 エアタンク (付勢手段、伸縮力付与部)
25 精密レギュレータ(付勢手段、伸縮力付与部)
30 ワイヤ付勢治具 (付勢手段)
37a、b ポスト (付勢手段、第1ブレーキワイヤ係止部)
38a、b ポスト (付勢手段、第2ブレーキワイヤ係止部)
50 ワイヤ張力調整機構
52 イコライザ
54 アジャストボルト
56 調整ナット
60 センターレバー (ブレーキ操作部)
63 ブレーキワイヤ (第1ブレーキワイヤ)
64 ブレーキワイヤ (第2ブレーキワイヤ)
70 ナットランナー (動力工具)
Claims (3)
- 左右両車輪の駐車ブレーキのうち、一方の駐車ブレーキに接続される第1ブレーキワイヤおよび他方の駐車ブレーキに接続される第2ブレーキワイヤの少なくとも一部分を互いに並行に位置させるとともに、両ブレーキワイヤを一つのワイヤ張力調整機構を介してブレーキ操作部に連結し、該駐車ブレーキ操作部の操作により両ブレーキワイヤが均等に引張られて、該左右両車輪の駐車ブレーキが同時に作動するようにした駐車ブレーキのワイヤ張力調整方法であって、
弛んだ状態の前記第1ブレーキワイヤと前記第2ブレーキワイヤの並行部分をその間隔が拡張する方向に一定の力で付勢しながら、前記ワイヤ張力調整機構の調整により両ブレーキワイヤを徐々に緊張させ、該両ブレーキワイヤの並行部分が所定の間隔になったところで前記ワイヤ張力調整機構の調整を終了することを特徴とする駐車ブレーキのワイヤ張力調整方法。 - 左右両車輪の駐車ブレーキのうち、一方の駐車ブレーキに接続される第1ブレーキワイヤおよび他方の駐車ブレーキに接続される第2ブレーキワイヤの少なくとも一部分を互いに並行に位置させるとともに、両ブレーキワイヤを一つのワイヤ張力調整機構を介してブレーキ操作部に連結し、該駐車ブレーキ操作部の操作により両ブレーキワイヤが均等に引張られて、該左右両車輪の駐車ブレーキが同時に作動するようにした駐車ブレーキのワイヤ張力調整方法であって、
前記ワイヤ張力調整機構を調整可能な動力工具と、
前記両ブレーキワイヤの並行部分をその間隔が拡張する方向に一定の力で付勢する付勢手段と、
前記両ブレーキワイヤの並行部分が所定の間隔になったことを検出する検出手段と、
前記検出手段による検出信号に基づいて前記動力工具の作動を停止させる制御手段と、を備えることを特徴とする駐車ブレーキのワイヤ張力調整装置。 - 前記付勢手段は、
伸縮可能な本体部と、
前記本体部に設けられ、前記本体部の伸縮に伴い互いの間隔が拡縮する第1ブレーキワイヤ係止部および第2ブレーキワイヤ係止部と、
前記本体部に伸縮力を付与する伸縮力付与部と、
前記伸縮力を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする請求項2記載の駐車ブレーキのワイヤ張力調整装置。
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