JP3705335B2 - 繊維の着色方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、繊維を着色するための技術分野に属し、特に、染料を用いることなく動物繊維などを着色することのできる新規な技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
各種の繊維を着色するには、従来より、専ら染料を用いる染色が行われている。例えば、動物繊維である絹や羊毛の染色は酸性染料や直接染料などを用いて行われている。この染着機構は、動物繊維(タンパク質)を構成しているアミノ酸の側鎖(−SH基など)、またはタンパク質の末端に位置するアミノ基(−NH2)やカルボン酸基(−COOH)をイオン化させ、これらが対イオンをもつ染料とイオン結合することにより染料を固着させるものである。また、染料が繊維の中に入り込んでも生じる物理的な吸着を利用するものもある。
【0003】
これらの染料は当然ながら色を有している。すなわち、従来の繊維の染色は、色を持った化合物(染料)を何らかの化学的または物理的相互作用を利用して繊維に固着させて該繊維に色を付けることによる。そして、このような機構により染着できる様々の化学染料が開発されている。しかし、近年、染料が人体に吸収されることにより身体に悪影響を与えるものや排水から環境悪化を生じるものが幾つか報告され、それらの中には製造や輸入が禁止になっているものもある。このため、可及的に天然染料に移行する傾向が見られるが、一般的に、天然の染料は、洗濯、摩擦、汗などによる堅牢度が低く、新しい技術の開発が必要となっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、動物繊維などを着色するに当って、人体や環境に悪影響を与える可能性のある染料を用いることなく、しかも堅牢度などにおいても優れた新しい技術を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、アミノ酸の一つであるトリプトファンに着目し、その発色反応を利用する新しいタイプの繊維着色技術を案出した。
【0006】
すなわち、本発明は、先ず基本発明として、生来的にトリプトファンを含有するかまたは外部からトリプトファンが導入された繊維を酸とアルデヒド化合物で処理する工程を含むことを特徴とする繊維の着色方法を提供するものである。
【0007】
本発明は、生来的にトリプトファンを含有するタンパク質から成る繊維、特に、動物繊維を着色するのに特に適しており、動物繊維を酸とアルデヒド化合物で処理する工程を含むことを特徴とする動物繊維の着色方法として適用される。本発明の方法が適用される特に好ましい動物繊維は絹または羊毛である。
【0008】
さらに、本発明は、別の視点から、酸とアルデヒド化合物を含むことを特徴とする動物繊維の着色剤も提供する。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の着色技術は、トリプトファンの発色反応を利用して繊維自身に色をもたせるものであり、染料を繊維に固着させることに基づくこれまでの繊維染色機構とは根本的に異なる。
【0010】
トリプトファンに関しては、ホプキンス・コール反応(Hopkins-Cole Reaction)およびノイバウアー・ロード反応(Neubauer-Rhode Reaction)という発色反応がよく知られている。前者はトリプトファンの酢酸溶液にグリオキシル酸と硫酸を加えると赤紫色が呈され、また、後者はトリプトファンの濃塩酸溶液にジメチルベンズアルデヒドを加えると赤紫色〜青紫色が呈される反応であり、いずれもトリプトファンを含む検体の定量、検出に用いられている。
【0011】
しかしながら、従来より繊維類の着色に関してトリプトファンの発色反応を利用するという発想は全く無く、寧ろ、そのような呈色は欠点であり回避すべきものとみなされていた。例えば、絹や羊毛においては黄変化が問題にされるが、その一因はトリプトファンの存在にあるとも考えられている。
【0012】
本発明者は、前記のようなトリプトファンの発色反応(呈色反応)を基礎に研究を進めた結果、トリプトファンを有する繊維類を酸とアルデヒド化合物で処理すると、染料を全く用いることなく繊維の着色が可能となり、これらの酸およびアルデヒド化合物の種類と組合せを変えることにより様々の色が得られ且つこれらの酸および/またはアルデヒド化合物の量を調整することにより色の濃度も調整することのできる新しい繊維着色方法を導き出した。
【0013】
本発明の原理は、生来的にまたは外来的にトリプトファンを有する繊維を着色するのに適用されるが、特に、生来的にトリプトファンを有する繊維、すなわち、タンパク質繊維を着色するのに好適である。適用されるタンパク質繊維としては動物繊維、特に、羊毛または絹が一般的である。タンパク質繊維としては動物繊維の他に、カゼイン、ツェイン、落花生タンパク質等を原料とする再生タンパク質繊維も挙げられ、これらの繊維の着色にも本発明は適用できる。
【0014】
本発明の方法は、如上の動物性繊維(タンパク質繊維)のような生来的にトリプトファンを含有する繊維に加えて、外来的にトリプトファンを有する繊維、すなわち、外部からトリプトファンが導入された繊維を着色するのにも適用できる。例えば、綿を構成するセルロースの水酸基にカップリング反応によりトリプトファンを導入、結合させることにより、本発明に従い綿繊維を着色することもできる。
【0015】
本発明において用いられる酸は、強酸に属するものではあるが、繊維を溶解するものであってはならない。この点、4−ジメチルアミノベンズアルデヒドを用いるノイバウアー・ロード反応、グリオキシル酸を用いるホプキンス・コール反応で用いる酸は、それぞれ、濃塩酸、氷酢酸と濃硫酸の混合物であるが、これらは繊維の耐久性をなくしてしまう(繊維が溶解してしまう)ので好ましくない。かくして、本発明においては、強酸(有機酸または無機酸を問わない)、例えば、トリフルオロ酢酸、ジクロロ酢酸、塩酸などを水または弱酸(例えば酢酸)で稀釈して使用するのが好ましい。
【0016】
また、本発明において用いるアルデヒド化合物は、所望する色に応じて酸と組み合わせて選択されるが、一般に、芳香族系アルデヒド化合物が好ましく、中でも基本骨格としてベンズアルデヒドから成るアルデヒド化合物が特に好ましい。この点、ホプキンス・コール反応で用いられている脂肪族系アルデヒド化合物であるグリオキシル酸を用いると、絹や羊毛を殆ど着色できないことが見出されている。
【0017】
本発明に従えば、以上のようなアルデヒド化合物と酸の組合せを変えることにより様々の色を得ることができる。例えば、絹の着色において、酸としてトリフルオロ酢酸を用いた場合、アルデヒド化合物として、ベンズアルデヒド、4−ヒドロキシベンズアルデヒド、3,4−ジヒドロキシベンズアルデヒド(プロトカテキュアルデヒド)または9−アントラアルデヒドを用いると、それぞれ、緑色、赤紫色、紫色、または黄色系の色に絹を着色することができる。また、アルデヒド化合物として4−ヒドロキシベンズアルデヒドを用いて絹の着色を行う場合、酸としてトリフルオロ酢酸、ジクロロ酢酸またはHBr/酢酸を用いることにより、それぞれ、赤紫色、赤褐色またはピンク色を得ることができる。
【0018】
本発明に従えば、上述したような酸とアルデヒド化合物の混合溶液中に、トリプトファンを有する繊維を浸漬するだけで該繊維を着色することができ、この着色は洗濯、摩擦、汗などによっても殆ど変化せず高い堅牢度を有することが確認されている。
【0019】
着色処理に際しては、前述したように、一般に、強酸を酢酸などで稀釈して調製したア酸溶液に所定のアルデヒド化合物を加えて酸/アルデヒド化合物混合溶液を調製する。酸とアルデヒド化合物の比率は、特に限定されるものではなく所望の色の濃淡の程度に応じて定められる。
【0020】
このようにして得られた酸とアルデヒド化合物の混合溶液に、所定の繊維を好ましくは振盪しながら、一般に1日〜2日程度浸漬させる。浸漬により所望の着色が達成されたら、後処理として適当な洗浄剤(一般に、水または水/メタノール混合液)で洗浄した後、常温で空気乾燥すればよい。
【0021】
【実施例】
以下、本発明の特徴をさらに明かにするため、本発明に従い動物繊維を着色し、その堅牢度を測定した実施例を示すが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
なお、各実施例において得られる着色は、肉眼観察によるもの、およびL*a*b*ダイアグラムにより表示しており、後者は日本電子工業(株)のSpectro Color Meter SE 2000により測定した。
【0022】
また、洗濯、摩擦および汗に対する堅牢度試験は、それぞれ、日本規格協会のJIS L 0844、JIS L 0849およびJIS L 0848に従って行った。各試験方法の詳細はJISに規定のとおりであるが、略述すれば次のとおりである。
【0023】
洗濯試験(JIS L 0844)では、2種類の添付白布(試料と同じ種類と綿)を試料に縫い付けて試験片を作製し、これを規定された石けん液とともに試験瓶に入れ、規定の洗濯機を用いて30分間50℃で洗濯する。
【0024】
摩擦試験(JIS L 0849)は、摩擦試験機を用いて試験片と摩擦用白綿布を互いに一定の速度で100回摩擦する。この試験では、白綿布が乾燥状態と湿潤状態の二通り行う。
【0025】
汗試験(JIS L 0848)は、2種類の添付白布(試料と同じ種類と綿)を試料に縫い付けて試験片を作製し、これを規定の方法により作製した酸とアルカリの2種類の人工汗液に30分間、常温で浸漬する。次に試料を硬質プラスチック板に挟み、一定の圧力をかけて37℃の乾燥機で4時間保持する。
【0026】
これらの堅牢度試験における汚染結果は、標準の光のもと汚染用グレースケール(L 0805)にて判定した。汚染用グレースケールは白布に生じた汚染の程度を視感によって判定する基準となるものであり、規定の色差で1から5級まで分かれている。ここでは、1級、1−2級、2級、2−3級などの9つの色票で示し、1級が最も汚染されており、級数が増加するごとに汚染されていないことを表わす。
【0027】
実施例1:トリフルオロ酢酸と4−ヒドロキシベンズアルデヒドを用いた動物繊維の着色
動物繊維の試料は、財団法人日本規格協会のJIS染色堅牢度試験用添付白布(JIS L 0803準拠)の絹(2−2)と羊毛を25×22cmとして用いた。110mlサンプル管中、トリフルオロ酢酸(渡辺化学工業(株))20mlを酢酸(キシダ化学工業(株)の特級)40mlで稀釈し、4−ヒドロキシベンズアルデヒド(和光純薬工業(株)の特級)1gを加えた。この混合溶液に絹の添付白布を入れて振盪機で40℃、2日間振盪した。後処理は、水とメタノールを用いて洗浄し、室温空気中で乾燥した。この結果、表1に示すように絹の添付白布は赤紫色(L*a*b*=66.03、18.15、2.36)に着色した。また、羊毛についても同様に行ったところ濃赤紫色(L*a*b*=61.58、14.51、2.69)に着色した。
【0028】
繊維の着色の濃色化は以下のように酸とアルデヒド化合物の量を増やすことにより行った。まず、酸であるトリフルオロ酢酸は上記と同様に20mlとし、アルデヒド化合物である4−ヒドロキシベンズアルデヒドを2gに増やして絹を着色した。その後の条件と処理は上記と同様に行った。この結果、絹のL*a*b*は62.79、18.27、−1.44となり、濃淡を表わすL*が3.24減少し、濃色化できることを確認した(表1)。また、4−ヒドロキシベンズアルデヒドを1g、トリフルオロ酢酸の量を30mlと増やして着色を行ったところ、絹のL*a*b*が57.37、16.50、−5.11となり、L*が8.66減少、また羊毛が60.89、17.86、4.98で0.69減少し、酸とアルデヒド化合物の量を増やすことで濃色化できることを確認した(表1)。
【0029】
また、これらの洗濯、摩擦、汗堅牢度試験の汚染に関する試験を行った。この結果、全てにおいて4級以上が得られ、堅牢度が高いことが明らかとなった。この堅牢度試験の結果は表2に示す。
【0030】
実施例2:トリフルオロ酢酸とベンズアルデヒドを用いた動物繊維の着色
動物繊維の試料は、実施例1と同様である。110mlサンプル管中、トリフルオロ酢酸20mlを酢酸40mlで稀釈し、ベンズアルデヒド(和光純薬工業(株)の特級)1mlを加えた。この混合溶液に絹の添付白布を入れて振盪機で40℃、2日間振盪した。後処理は、水とメタノールを用いて洗浄し、室温空気中で乾燥した。この結果、表1に示すように絹の添付白布は緑色(L*a*b*=81.57、−4.36、17.18)に着色した。羊毛についても同様に行ったところ黄褐色(L*a*b*=88.27、−3.77、20.34)に着色した。また、この濃色化はベンズアルデヒドを1mlでトリフルオロ酢酸の量を30mlに増やして行った。この結果、絹のL*a*b*が71.26、−6.76、19.36となり、L*が10.31減少、また羊毛が86.38、−2.15、22.64で1.89減少し、ここでも濃色できることを確認した。また、洗濯、摩擦、汗堅牢度試験の汚染に関する試験においても、全て4級以上の結果となった(表2)。
【0031】
実施例3:トリフルオロ酢酸と9−アントラアルデヒドを用いた動物繊維の着色
動物繊維の試料は、実施例1と同様である。110mlサンプル管中、トリフルオロ酢酸20mlを酢酸40mlで稀釈し、9−アントラアルデヒド(東京化成工業(株))1gを加えた。この混合溶液に添付白布を入れて振盪機で40℃、2日間振盪した。後処理は、水とメタノールを用いて洗浄し、室温空気中で乾燥した。この結果、表1に示すように絹の添付白布は淡黄色、羊毛は黄色に着色した。また、実施例1と同様に行った洗濯、摩擦、汗堅牢度試験の汚染に関する試験の結果を表2に示す。
【0032】
実施例4:トリフルオロ酢酸とプロトカテキュアルデヒドを用いた動物繊維の着色
動物繊維の試料は、実施例1と同様である。110mlサンプル管中、トリフルオロ酢酸20mlを酢酸40mlで稀釈し、プロトカテキュアルデヒド(3,4−ジヒドロキシベンズアルデヒド)(和光純薬工業(株)の特級)1gを加えた。この混合溶液に添付白布を入れて振盪機で40℃、2日間振盪した。後処理は、水とメタノールを用いて洗浄し、室温空気中で乾燥した。この結果、表1に示すように絹の添付白布は紫色、羊毛は濃紫色に着色した。また、洗濯、摩擦、汗堅牢度の汚染に関する試験においても、全て4級以上の結果となった(表2)。
【0033】
以上、実施例1から4の結果から、同じ酸を用いてもアルデヒド化合物の種類を変化させることで色を変化できることが明らかとなった(表1参照)。
【0034】
実施例5:30%HBr/酢酸と4−ヒドロキシベンズアルデヒドを用いた動物繊維の着色
動物繊維の試料は、実施例1と同様である。110mlサンプル管中、30%HBr/酢酸(渡辺化学工業(株))20mlを酢酸60mlで稀釈し、4−ヒドロキシベンズアルデヒド1gを加えた。この混合溶液に添付白布を入れて振盪機で室温中2日間振盪した。この結果、表1に示すように絹の添付白布はピンク色、羊毛は茶色に着色した。また、洗濯、摩擦、汗堅牢度試験の汚染に関する試験も、全て4級以上の結果が得られた(表2)。
【0035】
実施例6:ジクロロ酢酸と4−ヒドロキシベンズアルデヒドを用いた動物繊維の着色
動物繊維の試料は、実施例1と同様である。110mlサンプル管中、ジクロロ酢酸(東京化成工業(株))40mlを酢酸30mlで稀釈し、4−ヒドロキシベンズアルデヒド1gを加えた。この混合溶液に添付白布を入れて振盪機で40℃、2日間振盪した。この結果、表1に示すように絹は赤褐色、羊毛は茶色に着色した。洗濯、摩擦、汗堅牢度試験の汚染に関する試験は、全て4級以上であった(表2)。
【0036】
以上の実施例1、5、6の結果から、同じアルデヒド化合物を用いても酸の種類を変えることで色を変化させることができた(表1)。
【0037】
実施例7:ジクロロ酢酸とベンズアルデヒドを用いた動物繊維の着色
動物繊維の試料は、実施例1と同様である。110mlサンプル管中、ジクロロ酢酸40mlを酢酸30mlで稀釈し、ベンズアルデヒド1mlを加えた。この混合溶液に添付白布を入れて振盪機で40℃、2日間振盪した。この結果、表1に示すように絹は黄緑色、羊毛は黄色に着色した。洗濯、摩擦、汗堅牢度試験の汚染に関する試験においても、全て4級以上の結果となった(表2)。
【0038】
以上の実施例2、7の結果からも、同じアルデヒド化合物を用いても酸の種類を変えることで変化させることができた(表1)。
【0039】
実施例8:ジクロロ酢酸とプロトカテキュアルデヒドを用いた動物繊維の着色
動物繊維の試料は、実施例1と同様である。110mlサンプル管中、ジクロロ酢酸40mlを酢酸30mlで稀釈し、プロトカテキュアルデヒド1gを加えた。この混合溶液に添付白布を入れて振盪機で40℃、2日間振盪した。この結果、表1に示すように絹は紫色、羊毛は茶色に着色した。洗濯、摩擦、汗堅牢度試験の汚染に関する試験においても、全て4級以上の結果となった(表2)。
【0040】
実施例9:塩酸とプロトカテキュアルデヒドを用いた動物繊維の着色
動物繊維の試料は、実施例1と同様である。110mlサンプル管中、2N塩酸(キシダ化学工業(株)の特級)50mlを酢酸10mlで稀釈し、プロトカテキュアルデヒド1gを加えた。この混合溶液に添付白布を入れて振盪機で室温、2日間振盪した。この結果、表1に示すように絹はピンク色、羊毛は赤褐色に着色した。洗濯、摩擦、汗堅牢度試験の汚染に関する試験においても、全て4級以上の結果となった(表2)。
【0041】
以上の実施例4、8、9の結果からも、同じアルデヒド化合物を用いても酸の種類を変えることで色を変化することができた(表1)。
【0042】
実施例10:トリフルオロ酢酸と4−ジメチルアミノベンズアルデヒドを用いた動物繊維の着色
動物繊維の試料は実施例1と同様である。110mlサンプル管中、トリフルオロ酢酸(渡辺化学工業(株))20mlを酢酸(キシダ化学工業(株)の特級)40mlで稀釈し、4−ジメチルアミノベンズアルデヒド(キシダ化学工業(株)の特級)1gを加えた。この混合溶液に絹の添付白布を入れて振盪機で40℃、2日間振盪した。後処理は、水とメタノールを用いて洗浄し、室温空気中で乾燥した。この結果、表1に示すように絹の添付白布は淡褐色(L*a*b*=86.86、−1.45、14.43)となり、僅かに着色したにすぎなかった。また、羊毛についても同様に行ったところ、こちらは緑色(L*a*b*=57.49、−3.64、5.42)に着色した。これらについても洗濯、摩擦、汗堅牢度試験の汚染に関する試験を行った。羊毛の堅牢度は上記の各実施例よりも低くなっていた。絹の堅牢度は高いが、これはもともと着色が殆ど生じなかったためであろう。
【0043】
実施例11:トリフルオロ酢酸とグリオキシル酸を用いた動物繊維の着色
動物繊維の試料は実施例1と同様である。110mlサンプル管中、トリフルオロ酢酸20mlを酢酸40mlで稀釈し、グリオキシル酸(キシダ化学工業(株)の特級)1gを加えた。この混合溶液に添付白布を入れて振盪機で40℃、2日間振盪した。後処理は、水とメタノールを用いて洗浄し、室温空気中で乾燥した。この結果、表1に示すように絹はほとんど着色しなかった(L*a*b*=96.30、−2.86、7.65)。羊毛は僅かに着色し、淡黄色(L*a*b*=92.44、−4.50、24.03)となった。堅牢度試験の汚染に関する結果を表2に示す。堅牢度は高いが、これは着色が殆ど生じないためであろう。
【0044】
【発明の効果】
本発明の着色方法または着色剤を用いれば、染料を全く使用することなく絹や羊毛などの繊維に色を付けることができるので、身体の悪影響を与えることはなく排液による環境汚染の問題も生じない。本発明に従えば、酸とアルデヒド化合物の組合せや量(濃度)を変えるだけで常温または常温近傍の低温下の処理により多種の着色を行うことができ、トリプトファンが原因と考えられている絹や羊毛の黄変もおさえられ、操作が簡単でありコスト的にも低廉で済む。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
Claims (5)
- 生来的にトリプトファンを含有するかまたは外部からトリプトファンが導入された繊維を染料を用いることなく酸とアルデヒド化合物で処理する工程を含み、前記酸が前記繊維を溶解しない強酸であること(但し、アルデヒド化合物としてベンズアルデヒドのヒドロキシル誘導体とともに酸としてクエン酸を用いる場合を除く)を特徴とする繊維の着色方法。
- タンパク質繊維を染料を用いることなく酸とアルデヒド化合物で処理する工程を含み、前記酸が前記繊維を溶解しない強酸であること(但し、アルデヒド化合物としてベンズアルデヒドのヒドロキシル誘導体とともに酸としてクエン酸を用いる場合を除く)を特徴とするタンパク質繊維の着色方法。
- タンパク質繊維が動物繊維である請求項2の着色方法。
- 動物繊維が絹または羊毛である請求項3の着色方法。
- 酸とアルデヒド化合物を含むが染料を含まない動物繊維の着色剤であって、前記酸が前記繊維を溶解しない強酸であること(但し、アルデヒド化合物としてベンズアルデヒドのヒドロキシル誘導体とともに酸としてクエン酸を用いる場合を除く)を特徴とする動物繊維の着色剤。
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