JP3702649B2 - 制動力推定装置及びブレーキ圧推定装置 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、制動力推定装置及びブレーキ圧推定装置に係り、より詳しくは、車輪速に基づいてブレーキ圧や制動力を推定する制動力推定装置及びブレーキ圧推定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
アンチロックブレーキ制御装置(以下、「ABS装置」という)のように、ブレーキ圧(ホイールシリンダ圧)を制御することにより、車両の制動力を制御している装置では、ブレーキ圧の検出は重要な課題であり、ブレーキ圧の値がわかればより高度な制御への展開が期待できる。このブレーキ圧を検出する方法として半導体などを用いた圧力センサを各輪のホイールシリンダへ取り付ける方法がある。しかし、圧力センサは比較的高価であり、この圧力センサを各輪のホイールシリンダ毎に取り付けることはコスト的に困難である。
【0003】
そこで、従来より、マスタシリンダ圧に取り付けた圧力センサの測定結果を基に、各輪のホイールシリンダ圧を推定する技術が提案されている。特開平7−186918号公報には、測定された供給圧力(マスタシリンダ圧)及びバルブ動作時間から各輪のホイールシリンダ圧を求める手法を用いたブレーキ圧力制御装置が開示されている。この手法によれば、マスタシリンダの圧力のみを1つの圧力センサにより検出するだけで済むため、コスト的に有利となる。
【0004】
しかし、一般に広く普及しているABS装置では、マスタシリンダにさえ圧力センサを取り付けたものが少なく、上記推定技術のようにマスタシリンダにのみ圧力センサを取り付ける手法でもコストアップにつながることになる。また、圧力センサのセンサフェール時の信頼性を確保するため、フェール対策を施す必要があり、この点でもコストアップが避けられない。
【0005】
そこで、圧力センサを用いずにマスタシリンダ圧を推定する手法が、特開平6−286590号公報に提案されている。
【0006】
同公報記載の技術によれば、以下の▲1▼〜▲3▼のマスタシリンダ圧推定方法が開示されている。
【0007】
▲1▼ 最初のブレーキ液圧の減圧時にマスタシリンダ圧が一定量で増加していると仮定して、マスタシリンダ圧変化ΔPm(定数)を算出する。そして、ΔPmによりマスタシリンダ圧を補正する。
【0008】
▲2▼ マスタシリンダ圧の値が大きな領域で、マスタシリンダ圧変化がスリップ率変化ΔSに応じて増大する傾向にあることを利用し、スリップ率変化に基づいてマスタシリンダ圧の変化ΔPmを算出する。従って、マスタシリンダ圧の変化が一定であると仮定した▲1▼の方法より推定精度が向上する。
【0009】
▲3▼ 車体加速度変化ΔV’w0とスリップ率変化ΔSとに基づいてマスタシリンダ圧変化ΔPmを算出する。車体加速度変化ΔV’w0を用いるため、車輪の減速スリップがまだ発生していない低いマスタシリンダ圧Pmの領域から補正を行うことができるので、▲2▼の方法と比べてさらに推定精度が向上する。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特開平6−286590号公報に記載された従来技術では、最も推定精度の高い▲3▼の方法でも、スリップ率変化ΔSを用いているため、タイヤと路面との間の摩擦係数μの変化によってスリップ率変化ΔSとマスタシリンダ圧変化ΔPmとの関係が変化し、一定の係数を用いたマスタシリンダ圧変化ΔPmの計算では、路面状況によって推定精度が低下する、という問題がある。
【0011】
本発明は、上記事実に鑑みてなされたもので、圧力センサを用いることなく、路面状況によらず安定かつ高精度に、制動力やブレーキ圧を推定できる制動力推定装置やブレーキ圧推定装置を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的達成のため請求項1記載の発明は、車両に装着された複数の車輪各々の速度を検出する検出手段と、前記複数の車輪各々のすべり易さを表す物理量を演算する演算手段と、前記複数の車輪各々に作用する力のつり合い状態を表す第1の運動方程式及び前記車両に作用する力のつり合い状態を表す第2の運動方程式と、前記検出手段により検出された複数の車輪各々の速度、前記演算手段により演算された物理量、及び前回推定した前記複数の車輪各々に作用する制動力の総和と、に基づいて、前記複数の車輪各々に作用する制動力を推定する推定手段と、を備えている。
【0013】
請求項1記載の発明に係る検出手段は、車両に装着された複数の車輪各々の速度を検出する。演算手段は、複数の車輪各々のすべり易さを表す物理量を演算する。なお、この物理量には、例えば、共振ゲイン、スリップ速度に対する路面と車輪との間の摩擦係数の勾配、スリップ速度に対する制動力の勾配、及びスリップ速度に対する制動トルクの勾配がある。なお、共振ゲインは、上記摩擦係数の勾配に対応する物理量であり、具体的には、車体と車輪と路面とから構成される振動系の共振周波数でブレーキ圧を励振させたときの、該共振周波数におけるブレーキ圧の微小振幅と車輪速度の微小振幅との比である。
【0014】
そして、推定手段は、複数の車輪各々に作用する力のつり合い状態を表す第1の運動方程式及び車両に作用する力のつり合い状態を表す第2の運動方程式と、検出手段により検出された複数の車輪各々の速度、演算手段により演算された物理量、及び前回推定した複数の車輪各々に作用する制動力の総和と、に基づいて、複数の車輪各々に作用する制動力を推定する。
【0015】
このように、請求項1記載の発明では、複数の車輪各々のすべり易さを表す物理量等に基づいて、複数の車輪各々に作用する制動力を推定しており、該物理量が零の時に摩擦係数がピークとなることということは路面状態に係わらず成り立つ事実であるので、本発明では、圧力センサを用いることなく、路面状態によらず高精度かつ安定に制動力を推定することが可能となる。
【0016】
請求項2記載の発明では、車両に装着された複数の車輪各々の速度を検出する検出手段と、前記複数の車輪各々のすべり易さを表す物理量を演算する第1の演算手段と、前記複数の車輪各々に作用する力のつり合い状態を表す第1の運動方程式及び前記車両に作用する力のつり合い状態を表す第2の運動方程式と、前記検出手段により検出された複数の車輪各々の速度、前記第1の演算手段により演算された物理量、及び前回推定した前記複数の車輪各々に作用する制動力の総和と、に基づいて、前記複数の車輪各々に作用する制動力を推定する第1の推定手段と、前記第1の運動方程式と、前記第1の推定手段により推定された前記複数の車輪各々に作用する制動力及び前記検出手段により検出された前記複数の車輪各々の速度と、に基づいて、前記複数の車輪各々のブレーキ力を演算する第2の演算手段と、前記複数の車輪各々のブレーキ力とブレーキ圧との関係式と、前記第2の演算手段により演算された前記複数の車輪各々のブレーキ力の総和及び前記複数の車輪各々毎に予め定められたマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との比と、に基づいて、ブレーキ圧を推定する第2の推定手段と、を備えている。
【0017】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明のように、複数の車輪各々のすべり易さを表す物理量等に基づいて、複数の車輪各々に作用する制動力を推定する。第2の演算手段は、複数の車輪各々に作用する力のつり合い状態を表す第1の運動方程式と、前記第1の推定手段により推定された前記複数の車輪各々に作用する制動力及び前記検出手段により検出された前記複数の車輪各々の速度と、に基づいて、前記複数の車輪各々のブレーキ力を演算する。第2の推定手段は、複数の車輪各々のブレーキ力とブレーキ圧との関係式と、前記第2の演算手段により演算された前記複数の車輪各々のブレーキ力の総和及び前記複数の車輪各々毎に予め定められたマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との比と、に基づいて、ブレーキ圧を推定する。
【0018】
第2の推定手段は、ブレーキ圧として、マスタシリンダ圧を推定してもよく、更に、このように推定したマスタシリンダ圧と上記予め定められた比とに基づいて、各車輪毎にホイールシリンダ圧を推定してもよい。
【0019】
このように、請求項2記載の発明は、複数の車輪各々のすべり易さを表す物理量を基に、ブレーキ圧を推定するので、圧力センサを用いることなく、路面状態によらず高精度かつ安定なブレーキ圧の推定が可能となる。
【0020】
ここで、前記第1の推定手段は、検出手段により検出された複数の車輪各々の速度及び上記推定されたブレーキ圧に基づいて、制動力を再度推定するようにしてもよい。
【0021】
このように、車輪の速度及び上記推定されたブレーキ圧を用いて、制動力を再度推定するので、ブレーキ圧を加味して制動力を推定できる。よって、制動力の推定精度が向上する。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
[本実施の形態による制動力の推定原理]
車両に装着された複数の車輪(本実施の形態では、4輪(4輪に限定されない))各々に作用する力のつり合い状態を表す第1の運動方程式は、
【0024】
【数1】
で表される。なお、Ti は、車輪へのブレーキ油圧によって生じるブレーキ力、Fi は、路面摩擦によって生じる制動力、Ji は、車輪慣性、ωi は、車輪速である。なお、iは、車輪を識別する変数である。
(1)式から、ブレーキ力Ti は、車両制動分(制動力Fi )と、車輪制動分((Ji )・(dωi /dt))と、の加算値に等しいことが理解できる。
【0025】
また、車両に作用する力のつり合い状態を表す第2の運動方程式は、
【0026】
【数2】
で表される。なお、Jv は、車輪軸換算の車輪慣性であり、ωv は、車体速である。なお、jは、車輪を識別する変数である。
ここで、制動力Fi の時間微分を考え、これがスリップ速度Δωの関数であると仮定すると、
【0027】
【数3】
となる。
【0028】
ここで、(dFi )/(dΔω)は、スリップ速度に対する制動力の勾配(制動力勾配)であり、これをαi と表現する。
【0029】
また、スリップ速度Δω(=車速ωv −車輪速ωi )の微分βi =(dΔω)/(dt)は、
【0030】
【数4】
となる。車体速の微分(dωv )/(dt)は、(2)式より、
【0031】
【数5】
であるので、(4)式は、
【0032】
【数6】
よって、
【0033】
【数7】
となる。(7)式から理解されるように、各車輪の制動力は、スリップ速度に対する制動力の勾配αi と、スリップ速度の時間微分βi と、に基づいて、得られる。即ち、初期値を0として、
1.前回推定された各車輪の制動力Fj の総和と、車輪速ωi より、スリップ速度の時間微分βi を演算し、
2.スリップ速度の時間微分βi とスリップ速度に対する制動力の勾配αi とを乗算し、乗算値を積分(累積)して、
各車輪の制動力FJ を求めることができる。
【0034】
ここで、スリップ速度に対する制動力の勾配αi は、スリップ速度に対する制動トルクの勾配(=車輪半径×αi )に対応する。スリップ速度に対する制動トルクの勾配は、後述するように、共振ゲインに対応する。即ち、スリップ速度に対する路面と車輪との間の摩擦係数の勾配(路面μ勾配)に対応する。これらの勾配が高ければ、車輪の周速が大きく、すべりにくい。一方、これらの勾配が低ければ、車輪の周速が小さく、すべり易い。よって、これらの物理量は、車輪のすべり易さを表すものである。
【0035】
以上より、各車輪の制動力は、車輪に作用する力のつり合い状態を表す第1の運動方程式及び車両に作用する力のつり合い状態を表す第2の運動方程式と、各車輪のすべり易さを表す物理量、前回推定された各車輪の制動力の総和、及び車輪速と、に基づいて、得られる。
【0036】
このように、各車輪のすべり易さを表す物理量等に基づいて、複数の車輪各々に作用する制動力を推定し、該物理量が零の時に摩擦係数がピークとなることということは路面状態に係わらず成り立つ事実であるので、圧力センサを用いることなく、路面状態によらず高精度かつ安定に制動力を推定することができる。
【0037】
[本実施の形態によるブレーキ圧の推定原理]
各車輪毎に、マスタシリンダ圧Pd とホイールシリンダ圧Pi との比vi 、即ち、マスタシリンダ圧Pd から各車輪に分配されるホイールシリンダ圧Pi のマスタシリンダ圧Pd に対する比vi が予め定められているとする。よって、ホイールシリンダ圧Pi は、vi Pd で与えられる。
【0038】
この場合、各車輪のブレーキ力Ti は、各車輪のホイールシリンダ圧Pi に比例するので、各車輪のブレーキ力とブレーキ圧との関係として、
Ti =kPi =kvi Pd (8)
を得ることができる。なお、kは、圧力を力の次元に換算する換算係数である。
【0039】
(8)式と、各車輪でマスタシリンダ圧は同じであることと、から、マスタシリンダ圧の平均的な値を、
【0040】
【数8】
からを導くことができる。即ち、マスタシリンダ圧の平均的な値は、最初に、各車輪毎にブレーキ力Tj を推定し、次に、推定したブレーキ力Tj の総和ΣTj と、各車輪毎に予め定められたマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との比vi の総和Σvi と、に基づいて、演算することができる。なお、ブレーキ力Tj は、前述したように制動力Fi を推定し、第1の運動方程式((1)式参照)と、推定した制動力Fi 及び車輪速と、に基づいて演算することができる。
【0041】
また、前述したように各車輪毎に、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との比vi が予め定められているので、マスタシリンダ圧の平均的な値から各車輪のホイールシリンダ圧を、
【0042】
【数9】
から得ることができる。
【0043】
このように、上記のように推定した制動力Fi を基に、マスタシリンダ圧やホイールシリンダ圧を演算するので、圧力センサを用いることなく、路面状態によらず高精度かつ安定に制動力を推定することができる。
【0044】
ここで、(10)式を(8)式に代入し、(1)式を用いると、各車輪の制動力Fi は、
【0045】
【数10】
となる。
【0046】
よって、車輪の速度及び前述したように推定したブレーキ圧(マスタシリンダ圧又はホイールシリンダ圧)を用いて、制動力を再度推定するので、ブレーキ圧を加味して制動力を推定できる。よって、制動力の推定精度が向上する。
図1には、制動力推定装置350を備えたブレーキ圧推定装置が示されている。なお、以下、各車輪毎に備えている同一の素子には、その符号にsを付して、1つの車輪に対応して備えられた素子を説明し、その他の車輪に対応して備えられた素子の説明を省略する。
【0047】
制動力推定装置350は、センサ演算部部303Sを備えている。センサ演算部部303Sは、車輪速を検出する車輪速センサ302s、及び制動力勾配を演算する制動力勾配演算部304sを備えている。
【0048】
制動力推定装置350は、車輪速センサ302sにより検出された車輪速ω1 を微分する微分器352sを備えている。微分器352sには、微分器352sによる車輪速ω1 の微分値と、後述する、前回推定した制動力の総和に車両慣性の逆数が乗算された値(即ち、車速ωv の微分値の負の値)と、を負の値にして加算して、スリップ速度の微分値βi ((6)式参照)を演算する加算器354sが接続されている。
【0049】
加算器354sには、加算器354sによる加算値βi と、制動力勾配演算部304sにより演算された制動力勾配αi と、を乗算して、車輪に作用する制動力の微分値((7)式参照)を演算する乗算器356sが接続されている。
【0050】
乗算器356sには、乗算器356sによる乗算値(制動力の微分値)を積分する積分器358sが接続されている。
【0051】
各積分器358sには、積分器358sによる積分値(制動力)を加算する加算器360が接続され、加算器360には、加算器360による加算値(各車輪の制動力の総和)に、車両慣性の逆数を乗算する乗算器362が接続されている。そして、乗算器362は、前述した各加算器354sに接続されている。
ブレーキ圧推定装置は、微分器352Sによる車輪速の微分値に各車輪の車輪慣性Jを乗算する乗算器384Sを備えている。積分器358s及び乗算器384Sには、積分器358sによる積分値(制動力)Fi から、乗算器384Sによる乗算値を減算して、ブレーキ力Ti ((1)式参照)を演算する減算器372Sが接続されている。各減算器372Sは、各車輪減算器372Sによる減算値(ブレーキ力)の総和を求める加算器374が接続されている。
【0052】
また、ブレーキ圧推定装置は、図示しないレジスタに記憶された、各車輪毎に予め定められた、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との比vi の総和を求める加算器376を備えている。加算器376には、加算器376による加算値を換算係数k倍する乗算器378が接続されている。
【0053】
加算器374及び乗算器378には、加算器374による加算値を、乗算器378による乗算値で除算して、マスタシリンダ圧の平均的な値((9)式参照)を演算する除算器380が接続されている。除算器380には、除算器380による除算値と、各車輪毎に予め定められたマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との比vi と、を乗算して、ホイールシリンダ圧Pi ((10)式参照)を演算する乗算器382sが接続されている。乗算器382sには、乗算器382sによる乗算値(ホイールシリンダ圧)を換算係数k倍する乗算器384sが接続されている。乗算器384sには、車輪速の微分値に各車輪の車輪慣性Jが乗算された乗算値と、乗算器384sによる乗算値と、を加算して、制動力FI ((11)式参照)を演算する加算器386sが接続されている。加算器386sは、積分器358sに接続されている。
【0054】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
【0055】
各車輪速センサ302sが車輪速を検出し、各制動力勾配演算部304sが制動力勾配を演算する。
【0056】
ここで、制動力勾配演算部304sは、制動トルク勾配を求め、求めた制動トルク勾配に所定の換算係数を乗算して、制動力勾配求める。なお、制動トルクの演算方法は後述する。
【0057】
車輪速センサ302sにより検出された車輪速ω1 は微分器352sに入力され、微分される。この微分値は、加算器354Sに入力される。加算器354Sには、乗算器362から、前回推定した制動力の総和に車両慣性の逆数を乗算した値(即ち、車速ωv の微分値の負の値)が入力される。加算器354Sは、車輪速ω1 の微分値と、前回推定した制動力の総和に車両慣性の逆数が乗算された値と、を負の値にして加算することにより、スリップ速度の微分値βi ((6)式参照を演算する。スリップ速度の微分値βi と、制動力勾配演算部304sにより演算された制動力勾配αi と、は乗算器356sに入力される。乗算器356sは、スリップ速度の微分値βi と制動力勾配αi とを乗算して、車輪に作用する制動力の微分値((7)式参照)を演算する。
【0058】
乗算器356sによる乗算値(制動力の微分値)は積分器358sにより、積分(累積)され、制動力が演算される。なお、積分器358sは、最初の初期値を0として、制動力を演算する。
【0059】
なお、各積分器358sによる積分値(制動力)は加算器360に入力される。各加算器360による加算値(各車輪の制動力の総和)は乗算器362に入力され、車両慣性の逆数が乗算される。そして、乗算器362による乗算値は、前述した各加算器354sに入力されて、次回の制動力の演算に用いられる。
【0060】
乗算器384Sにより車輪速の微分値に各車輪の車輪慣性Jが乗算された乗算値は、減算器372Sに入力される。積分器358sによる積分値(制動力)は、減算器372Sに入力される。減算器372Sは、積分器358sによる積分値(制動力)から車輪速の微分値に各車輪の車輪慣性Jが乗算された乗算値を減算して、ブレーキ力((1)式参照)Ti を演算する。
【0061】
各減算器372Sにより演算されたブレーキ力Ti は、加算器374に入力され、ブレーキ力の総和が演算される。
【0062】
一方、加算器376は、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との比vi の総和が演算される。この総和は、乗算器378で換算係数k倍される。
除算器380は、加算器374により加算値を、乗算器378による乗算値で除算して、マスタシリンダ圧の平均的な値((9)式参照)を演算する。除算器380により演算されたマスタシリンダ圧の平均的な値は、乗算器382sにより、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との比vi が乗算されて、各車輪のホイールシリンダ圧Pi が演算される。このホイールシリンダ圧Pi は、乗算器384sにより、換算係数k倍されて加算器386Sに入力される。加算器386Sには、乗算器384sにより車輪速の微分値に各車輪の車輪慣性Jが乗算された乗算値が入力される。加算器386Sは、ホイールシリンダ圧Pi が換算係数k倍された値と、車輪速の微分値に各車輪の車輪慣性Jが乗算された乗算値と、を加算して、制動力を演算する。この制動力は、積分器358sに入力され、初期値として利用される。
【0063】
以上のブレーキ圧推定装置の実験結果を、図2〜図4に示す。この実験は、車両に装着された右輪が中μの路面を、左輪が低μの路面をまたぎ走行したときの実験結果である。なお、これらのグラフで、時刻0は制動が開始されたときである。
【0064】
右輪が中μの路面を、左輪が低μの路面をまたぎ走行しているので、図2に示すように、右前輪(図2(a))、右後輪(図2(b))の車輪速は、左前輪(図2(c))、左後輪(図2(c))の車輪速より、大きく減少している。この結果、右前輪(図3(a))、右後輪(図3(b))の制動トルク勾配(制動力勾配に所定の換算係数を乗算して求めた)は、左前輪(図3(c))、左後輪(図3(c))の制動トルク勾配より、大きくなる。
【0065】
そして、図4(a)〜図4(d)に示すように、各車輪のホイールシリンダ圧の推定Eは、各車輪のホイールシリンダ圧の実測値Dに、精度よく一致している。なお、各車輪のホイールシリンダ圧の実測値は、各車輪のホイールシリンダ圧を検出する圧力センサにより実際に測定した結果である。
【0066】
以上のように、本実施の形態に係るブレーキ圧推定装置は、車輪速及び制動力勾配から、ホイールシリンダ圧を測定しているので、圧力センサを用いず、かつ、路面状況によらず安定かつ高精度にホイールシリンダ圧を測定することができる。
【0067】
次に、制動トルク勾配の演算方法を説明する。
【0068】
各車輪の車輪運動及び車体運動は、(12)式、(13)式の運動方程式によって記述される。
【0069】
【数11】
【0070】
【数12】
ただし、Fi ’は、第i輪に発生した制動力、Tbiは踏力に対応して第i輪に加えられたブレーキトルク、Mは車両質量、Rc は車輪の有効半径、Jは車輪慣性、vは車体速度である。なお、・は時間に関する微分を示す。(12)式、(13)式において、Fi ’はスリップ速度(v/Rc −ωi )の関数として示されている。
【0071】
ここで、車体速度を等価的な車体の角速度ωv で表す((14)式)と共に、制動トルクRc Fi ’をスリップ速度の1次関数(傾きki 、y切片Ti )として記述する((15)式)。
v = Rc ωv ・・・(14)
Rc Fi ’(ωv −ωi )=ki ×(ωv −ωi )+Ti (15)
さらに、(14)式、(15)式を、(12)式、(13)式へ代入し、車輪速度ωi 及び車体速度ωv をサンプル時間τ毎に離散化された時系列データωi [k] 、ωv [k] (kはサンプル時間τを単位とするサンプル時刻、k=1,2,.....)として表すと、(16)式、(17)式を得る。
【0072】
【数13】
【0073】
【数14】
ここで、(16)式、(17)式を連立し、車体の等価角速度ωv を消去すると、
【0074】
【数15】
を得る。
【0075】
ところで、スリップ速度3rad/s という条件下でRc Mg/4(gは重力加速度)の最大制動トルクの発生を仮定すると、
【0076】
【数16】
を得る。ここで、具体的な定数として、τ=0.005 (sec) 、Rc =0.3 (m) 、M=1000(kg)を考慮すると、
【0077】
【数17】
となり、(18)式は次式のように近似することができる。
【0078】
【数18】
ただし、
【0079】
【数19】
である。
【0080】
このように整理することにより、(22)式は未知係数ki 、fi に関し、線形の形で記述することが可能となり、(22)式にオンラインのパラメータ同定手法を適用することにより、スリップ速度に対する制動トルク勾配ki を推定することができる。
【0081】
すなわち、以下のステップ1及びステップ2を繰り返すことにより、検出された車輪速度の時系列データωi [k] から制動トルク勾配の時系列データを推定することができる(最小自乗推定法)。
【0082】
ステップ1:
φi [k] T ・θi =yi [k] (23)
但し、
【0083】
【数20】
【0084】
【数21】
yi [k] =−ωi [k] + 2ωi [k−1]−ωi [k−2] (26)
とおく。なお、(24)式の行列φi [k] の第1要素は、1サンプル時間での車輪速度の変化に関する物理量であり、(26)式は、1サンプル時間の車輪速度の変化の1サンプル時間での変化に関する物理量である。
【0085】
ステップ2:
【0086】
【数22】
【0087】
【数23】
【0088】
【数24】
という漸化式から、
【0089】
【数25】
の推定値を演算し、該推定値の行列の第一要素を推定された制動トルクの勾配として抽出する。ただし、λは過去のデータを取り除く度合いを示す忘却係数(例えばλ=0.98)であり、”T ”は行列の転置を示す。
【0090】
なお、(60)式の左辺は、車輪速度の変化に関する物理量の履歴及び車輪速度の変化の変化に関する物理量の履歴を表す物理量である。
【0091】
以上説明した実施の形態では、制動力勾配(制動トルク勾配)を演算しているが、本発明はこれに限定されず、制動力勾配等に代えて、制動トルク勾配に対応する、共振ゲイン、即ち、スリップ速度に対する路面と車輪との間の摩擦係数の勾配(路面μ勾配)を演算して、同様に処理するようにしてもよい。以下、共振ゲインと制動トルク勾配とが等価な物理量であることを説明する。
【0092】
重量Wの車体を備えた車両が速度ωu で走行している時の車輪での振動現象、すなわち車体と車輪と路面とによって構成される振動系の振動現象を、車輪回転軸で等価的にモデル化した図5に示すモデルを参照して考察する。
【0093】
図5のモデルにおいて、ブレーキ力は、路面と接するタイヤのトレッド115の表面を介して路面に作用する。しかし、このブレーキ力は実際には路面からの反作用(制動力)として車体に作用する。このため、車体重量の回転軸換算の等価モデル117は、タイヤのトレッドと路面との間の摩擦要素116(路面μ)を介して車輪113と反対側に連結したものとなる。これは、シャシーダイナモ装置のように、車輪下の大きな慣性、すなわち車輪と反対側の質量で車体の重量を模擬することができることと同様である。
【0094】
図5でタイヤリムを含んだ車輪113の慣性をJw 、リムとトレッド115との間のばね要素114のばね定数をK、車輪半径をR、トレッド115の慣性をJt 、トレッド115と路面との間の摩擦要素116の摩擦係数をμ、車体の重量の回転軸換算の等価モデル117の慣性をJV とすると、ホイールシリンダ圧により生じるブレーキトルクTb ’から車輪速ωw までの伝達特性は、
【0095】
【数26】
となる。なお、sはラプラス変換の演算子である。
また、スリップ速度Δωと路面の摩擦係数μとの間には、図6に示すように、あるスリップ率で摩擦係数μがピークをとる関数関係が成立することが知られている。ここで、図6の関数関係において、あるスリップ率の回りで微小振動したときの摩擦係数μのスリップ速度Δωに対する変化を考えると、路面の摩擦係数μは、
μ = μ0 +αRΔω (31)
と近似できる。すなわち、微小振動によるスリップ速度の変化が小さいため、傾きαRの直線で近似できる。
【0096】
ここで、タイヤと路面間の摩擦係数μにより生じる制動トルクTb =μWに(31)式を代入すると、
Tb = μW = μ0 W+αRΔωW (32)
となる。(32)式の両辺をΔωで1階微分すると、
【0097】
【数27】
となる。
【0098】
ここで、タイヤが路面にグリップしている時は、トレッド115と車体等価モデル117とが直結されていると考える。この場合、車体等価モデル117とトレッド115との和の慣性と、車輪113の慣性とが共振する。即ち、この振動系は、車輪と車体と路面とから構成された車輪共振系とみなすことができる。このときの車輪共振系の共振周波数ω∞は、(30)式の伝達特性において、
【0099】
【数28】
となる。
【0100】
ここで、図6において(34)式が成立する摩擦状態は、ピークμに達する前の領域A1に対応する。
【0101】
逆に、タイヤの摩擦係数μがピークμに近づく場合には、タイヤ表面の摩擦係数μがスリップ率に対して変化し難くなる。即ち、トレッド115の慣性の振動に伴う成分は車体等価モデル117に影響しなくなる。つまり等価的にトレッド115と車体等価モデル117とが分離され、トレッド115と車輪113とが共振を起こすことになる。このときの車輪共振系は、車輪と路面とから構成されているとみなすことができる。その共振周波数ω∞’は、(34)式において、車体等価慣性Jv を0とおいたものと等しくなる。すなわち、
【0102】
【数29】
となる。この状態は、図6では、ピークμ近傍の領域A2に対応する。なお、ピークμを越えてブレーキ制動されると、領域A3に瞬時に移行し、タイヤがロックされる。
【0103】
車体等価慣性Jv が車輪慣性Jw 、トレッド慣性Jt より大きいと仮定する。この場合、(35)式の場合の車輪共振系の共振周波数ω∞’は(34)式のω∞よりも高周波数側にシフトすることになる。
【0104】
ここで、ブレーキ圧Pb に対する車輪速ωw の比(ωw /Pb )の共振周波数ω∞の振動成分((ωw /Pb )|s=jω∞)を共振ゲインGd とする。なお、以下では、ABSアクチュエータにより平均ブレーキ力の回りに共振周波数ω∞の微小励振を印加しているものとする。
【0105】
ホイールシリンダ圧により生じるトルクTb ’はブレーキ圧Pb と比例関係にあることから、共振ゲインGd は、(ωw /Tb ’)の共振周波数ω∞の振動成分と比例関係にあり、共振ゲインGd は次式によって表される。
【0106】
【数30】
一般に、
|A| = 0.012 << |B| = 0.1 (39)
となることから、(33)式、(36)式より、
【0107】
【数31】
を得る。すなわち、スリップ速度Δωに対する制動トルクTb の勾配は共振ゲインGd に比例する。
【0108】
よって、各制動力勾配演算部に代えて共振ゲイン演算部36(図7参照)を備え、共振ゲインGd を求め、求めた共振ゲインGd に基づいて、上記と同様に処理すればよい。
【0109】
次に、各共振ゲイン演算部36による共振ゲインGd の演算方法を説明する。
【0110】
ここで、車輪と車体と路面とからなる振動系の共振周波数ω∞((34)式) でブレーキ力を微小励振すると(ここでは、ブレーキ圧Pb を微小励振するとする)、車輪速度ωw も平均的な車輪速度の回りに共振周波数ω∞で微小振動する。ここで、このときのブレーキ圧Pb の共振周波数ω∞の微小振幅をPv 、車輪速度の共振周波数ω∞の微小振幅をωwvとした場合、共振ゲインGd を
Gd =ωwv/Pv (41)
となる。
【0111】
この共振ゲインGd は、前述したように(ωw /Pb )の共振周波数ω∞の振動成分でもあるので、摩擦状態がピークμ近傍の領域に至ったとき、共振周波数がω∞’にシフトするため急激に減少する。すなわち、共振ゲインGd は、路面μ特性を規定する物理量であるといえる。
【0112】
そして、共振ゲイン演算部36は、図7に示すように、振動系の共振周波数ω∞((34)式)でブレーキ圧を微小励振したときの、車輪速度Vw の共振周波数ω∞の微小振幅(車輪速微小振幅ωwv)を検出する車輪速微小振幅検出部40と、共振周波数ω∞のブレーキ圧の微小振幅Pv を検出するブレーキ圧微小振幅検出部42と、検出された車輪速微小振幅ωwvをブレーキ圧微小振幅Pv で除算することにより共振ゲインGd を出力する除算器44と、から構成される。
【0113】
ここで、車輪速微小振幅検出部40は、共振周波数ω∞の振動成分を抽出するフィルタ処理を行う図8のような演算部として実現できる。例えば、この振動系の共振周波数ω∞が40[Hz]程度であるので、制御性を考慮して1周期を24[ms]、約41.7[Hz]に取り、この周波数を中心周波数とする帯域通過フィルタ75を設ける。このフィルタにより、車輪速度信号ωi から約41.7[Hz]近傍の周波数成分のみが抽出される。さらに、このフィルタ出力を全波整流器76により全波整流、直流平滑化し、この直流平滑化信号から低域通過フィルタ77によって低域振動成分のみを通過させることにより、車輪速微小振幅ωwvを出力する。
【0114】
なお、周期の整数倍、例えば1周期の24[ms]、2周期の48[ms]の時系列データを連続的に取り込み、41.7[Hz]の単位正弦波、単位余弦波との相関を求めることによっても車輪速微小振幅検出部40を実現できる。
【0115】
ここで、平均ブレーキ圧Pm の回りに共振周波数のブレーキ圧微小振幅Pv を印加する微小励振手段について説明する。まず、平均ブレーキ圧指令及び微小励振指令を実際の車輪への制動トルクに変換する部分(バルブ制御系)は、図9に示すように、マスタシリンダ48、制御バルブ52、ホイールシリンダ56、リザーバー58及びオイルポンプ60を備えている。
【0116】
ブレーキペダル46は、ブレーキペダル46の踏力に応じて増圧するマスタシリンダ48を介して制御バルブ52の増圧バルブ50へ接続されている。また、制御バルブ52は、減圧バルブ54を介して低圧源としてのリザーバー58へ接続されている。さらに、制御バルブ52には、該制御バルブによって供給されたブレーキ圧をブレーキディスクに加えるためのホイールシリンダ56が接続されている。この制御バルブ52は、入力されたバルブ動作指令に基づいて増圧バルブ50及び減圧バルブ54の開閉を制御する。
【0117】
なお、この制御バルブ52が増圧バルブ50のみを開くように制御されると、ホイールシリンダ56の油圧(ホイールシリンダ圧)は、ドライバがブレーキペダル46を踏み込むことによって得られる圧力に比例したマスタシリンダ48の油圧(マスタシリンダ圧)まで上昇する。逆に減圧バルブ54のみを開くように制御されると、ホイールシリンダ圧は、ほぼ大気圧のリザーバ58の圧力(リザーバ圧)まで減少する。また、両方のバルブを閉じるように制御されると、ホイールシリンダ圧は保持される。
【0118】
ホイールシリンダ56によりブレーキディスクに加えられるブレーキ力(ホイールシリンダ圧に相当)は、マスタシリンダ48の高油圧が供給される増圧時間、リザーバー58の低油圧が供給される減圧時間、及び供給油圧が保持される保持時間の比率と、圧力センサ等により検出されたマスタシリンダ圧及びリザーバー圧とから求められる。
【0119】
従って、制御バルブ52の増減圧時間をマスタシリンダ圧に応じて制御することにより、所望のブレーキトルクを実現することができる。そして、ブレーキ圧の微小励振は、平均ブレーキ力を実現する制御バルブ52の増減圧制御と同時に共振周波数に対応した周期で増圧減圧制御を行うことにより可能となる。
【0120】
具体的な制御の内容として、図10に示すように、微小励振の周期(例えば24[ms])の半周期T/2毎に増圧と減圧のそれぞれのモードを切り替え、バルブへの増減圧指令は、モード切り替えの瞬間から増圧時間ti 、減圧時間tr のそれぞれの時間分だけ増圧・減圧指令を出力し、残りの時間は、保持指令を出力する。平均ブレーキ力は、マスタシリンダ圧に応じた増圧時間ti と減圧時間tr との比によって定まると共に、共振周波数に対応した半周期T/2毎の増圧・減圧モードの切り替えによって、平均ブレーキ力の回りに微小振動が印加される。
【0121】
なお、ブレーキ圧微小振幅Pv は、マスタシリンダ圧、図10に示したバルブの増圧時間ti の長さ、及び減圧時間tr の長さによって所定の関係で定まるので、図6のブレーキ圧微小振幅検出部42は、上記のように推定した前回のマスタシリンダ圧PI (P1 〜P4 (図1参照))、増圧時間ti 及び減圧時間tr からブレーキ圧微小振幅Pv を出力するテーブルとして構成することができる。
【0122】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、複数の車輪各々のすべり易さを表す物理量等に基づいて、複数の車輪各々に作用する制動力を推定しており、該物理量が零の時に摩擦係数がピークとなることということは路面状態に係わらず成り立つ事実であるので、圧力センサを用いることなく、路面状態によらず高精度かつ安定に制動力を推定することが可能となる。
【0123】
また、本発明は、複数の車輪各々のすべり易さを表す物理量を基に、ブレーキ圧を推定するので、圧力センサを用いることなく、路面状態によらず高精度かつ安定なブレーキ圧の推定が可能となる。
【0124】
更に、本発明は、車輪の速度及び上記推定されたブレーキ圧を用いて、制動力を再度推定するので、ブレーキ圧を加味して制動力を推定でき、制動力の推定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係るブレーキ圧推定装置のブロック図である。
【図2】右輪が中μの路面を、左輪が低μの路面をまたぎ走行したときの各車輪速のグラフである。
【図3】右輪が中μの路面を、左輪が低μの路面をまたぎ走行したときの各車輪速の制動トルク勾配のグラフである。
【図4】右輪が中μの路面を、左輪が低μの路面をまたぎ走行したときの各車輪速のホイールシリンダ圧のグラフである。
【図5】本発明の実施の形態に係る車体と車輪と路面とから構成される振動系の等価モデルを示す図である。
【図6】スリップ速度Δωと摩擦係数μとの関係、及びスリップ速度Δωに対する摩擦係数μの傾きを示す図である。
【図7】共振ゲイン演算部のブロック図である。
【図8】車輪速微小振幅検出部のブロック図である。
【図9】ブレーキ圧微小振幅検出部のブロック図である。
【図10】ブレーキ圧の微小励振と平均ブレーキ力の制御を同時に行う場合の制御バルブへの指令を示す図である。
【符号の説明】
350 制動力推定装置
302s 車輪速センサ
304s 制動力勾配演算部
【発明の属する技術分野】
本発明は、制動力推定装置及びブレーキ圧推定装置に係り、より詳しくは、車輪速に基づいてブレーキ圧や制動力を推定する制動力推定装置及びブレーキ圧推定装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
アンチロックブレーキ制御装置(以下、「ABS装置」という)のように、ブレーキ圧(ホイールシリンダ圧)を制御することにより、車両の制動力を制御している装置では、ブレーキ圧の検出は重要な課題であり、ブレーキ圧の値がわかればより高度な制御への展開が期待できる。このブレーキ圧を検出する方法として半導体などを用いた圧力センサを各輪のホイールシリンダへ取り付ける方法がある。しかし、圧力センサは比較的高価であり、この圧力センサを各輪のホイールシリンダ毎に取り付けることはコスト的に困難である。
【0003】
そこで、従来より、マスタシリンダ圧に取り付けた圧力センサの測定結果を基に、各輪のホイールシリンダ圧を推定する技術が提案されている。特開平7−186918号公報には、測定された供給圧力(マスタシリンダ圧)及びバルブ動作時間から各輪のホイールシリンダ圧を求める手法を用いたブレーキ圧力制御装置が開示されている。この手法によれば、マスタシリンダの圧力のみを1つの圧力センサにより検出するだけで済むため、コスト的に有利となる。
【0004】
しかし、一般に広く普及しているABS装置では、マスタシリンダにさえ圧力センサを取り付けたものが少なく、上記推定技術のようにマスタシリンダにのみ圧力センサを取り付ける手法でもコストアップにつながることになる。また、圧力センサのセンサフェール時の信頼性を確保するため、フェール対策を施す必要があり、この点でもコストアップが避けられない。
【0005】
そこで、圧力センサを用いずにマスタシリンダ圧を推定する手法が、特開平6−286590号公報に提案されている。
【0006】
同公報記載の技術によれば、以下の▲1▼〜▲3▼のマスタシリンダ圧推定方法が開示されている。
【0007】
▲1▼ 最初のブレーキ液圧の減圧時にマスタシリンダ圧が一定量で増加していると仮定して、マスタシリンダ圧変化ΔPm(定数)を算出する。そして、ΔPmによりマスタシリンダ圧を補正する。
【0008】
▲2▼ マスタシリンダ圧の値が大きな領域で、マスタシリンダ圧変化がスリップ率変化ΔSに応じて増大する傾向にあることを利用し、スリップ率変化に基づいてマスタシリンダ圧の変化ΔPmを算出する。従って、マスタシリンダ圧の変化が一定であると仮定した▲1▼の方法より推定精度が向上する。
【0009】
▲3▼ 車体加速度変化ΔV’w0とスリップ率変化ΔSとに基づいてマスタシリンダ圧変化ΔPmを算出する。車体加速度変化ΔV’w0を用いるため、車輪の減速スリップがまだ発生していない低いマスタシリンダ圧Pmの領域から補正を行うことができるので、▲2▼の方法と比べてさらに推定精度が向上する。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特開平6−286590号公報に記載された従来技術では、最も推定精度の高い▲3▼の方法でも、スリップ率変化ΔSを用いているため、タイヤと路面との間の摩擦係数μの変化によってスリップ率変化ΔSとマスタシリンダ圧変化ΔPmとの関係が変化し、一定の係数を用いたマスタシリンダ圧変化ΔPmの計算では、路面状況によって推定精度が低下する、という問題がある。
【0011】
本発明は、上記事実に鑑みてなされたもので、圧力センサを用いることなく、路面状況によらず安定かつ高精度に、制動力やブレーキ圧を推定できる制動力推定装置やブレーキ圧推定装置を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記目的達成のため請求項1記載の発明は、車両に装着された複数の車輪各々の速度を検出する検出手段と、前記複数の車輪各々のすべり易さを表す物理量を演算する演算手段と、前記複数の車輪各々に作用する力のつり合い状態を表す第1の運動方程式及び前記車両に作用する力のつり合い状態を表す第2の運動方程式と、前記検出手段により検出された複数の車輪各々の速度、前記演算手段により演算された物理量、及び前回推定した前記複数の車輪各々に作用する制動力の総和と、に基づいて、前記複数の車輪各々に作用する制動力を推定する推定手段と、を備えている。
【0013】
請求項1記載の発明に係る検出手段は、車両に装着された複数の車輪各々の速度を検出する。演算手段は、複数の車輪各々のすべり易さを表す物理量を演算する。なお、この物理量には、例えば、共振ゲイン、スリップ速度に対する路面と車輪との間の摩擦係数の勾配、スリップ速度に対する制動力の勾配、及びスリップ速度に対する制動トルクの勾配がある。なお、共振ゲインは、上記摩擦係数の勾配に対応する物理量であり、具体的には、車体と車輪と路面とから構成される振動系の共振周波数でブレーキ圧を励振させたときの、該共振周波数におけるブレーキ圧の微小振幅と車輪速度の微小振幅との比である。
【0014】
そして、推定手段は、複数の車輪各々に作用する力のつり合い状態を表す第1の運動方程式及び車両に作用する力のつり合い状態を表す第2の運動方程式と、検出手段により検出された複数の車輪各々の速度、演算手段により演算された物理量、及び前回推定した複数の車輪各々に作用する制動力の総和と、に基づいて、複数の車輪各々に作用する制動力を推定する。
【0015】
このように、請求項1記載の発明では、複数の車輪各々のすべり易さを表す物理量等に基づいて、複数の車輪各々に作用する制動力を推定しており、該物理量が零の時に摩擦係数がピークとなることということは路面状態に係わらず成り立つ事実であるので、本発明では、圧力センサを用いることなく、路面状態によらず高精度かつ安定に制動力を推定することが可能となる。
【0016】
請求項2記載の発明では、車両に装着された複数の車輪各々の速度を検出する検出手段と、前記複数の車輪各々のすべり易さを表す物理量を演算する第1の演算手段と、前記複数の車輪各々に作用する力のつり合い状態を表す第1の運動方程式及び前記車両に作用する力のつり合い状態を表す第2の運動方程式と、前記検出手段により検出された複数の車輪各々の速度、前記第1の演算手段により演算された物理量、及び前回推定した前記複数の車輪各々に作用する制動力の総和と、に基づいて、前記複数の車輪各々に作用する制動力を推定する第1の推定手段と、前記第1の運動方程式と、前記第1の推定手段により推定された前記複数の車輪各々に作用する制動力及び前記検出手段により検出された前記複数の車輪各々の速度と、に基づいて、前記複数の車輪各々のブレーキ力を演算する第2の演算手段と、前記複数の車輪各々のブレーキ力とブレーキ圧との関係式と、前記第2の演算手段により演算された前記複数の車輪各々のブレーキ力の総和及び前記複数の車輪各々毎に予め定められたマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との比と、に基づいて、ブレーキ圧を推定する第2の推定手段と、を備えている。
【0017】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明のように、複数の車輪各々のすべり易さを表す物理量等に基づいて、複数の車輪各々に作用する制動力を推定する。第2の演算手段は、複数の車輪各々に作用する力のつり合い状態を表す第1の運動方程式と、前記第1の推定手段により推定された前記複数の車輪各々に作用する制動力及び前記検出手段により検出された前記複数の車輪各々の速度と、に基づいて、前記複数の車輪各々のブレーキ力を演算する。第2の推定手段は、複数の車輪各々のブレーキ力とブレーキ圧との関係式と、前記第2の演算手段により演算された前記複数の車輪各々のブレーキ力の総和及び前記複数の車輪各々毎に予め定められたマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との比と、に基づいて、ブレーキ圧を推定する。
【0018】
第2の推定手段は、ブレーキ圧として、マスタシリンダ圧を推定してもよく、更に、このように推定したマスタシリンダ圧と上記予め定められた比とに基づいて、各車輪毎にホイールシリンダ圧を推定してもよい。
【0019】
このように、請求項2記載の発明は、複数の車輪各々のすべり易さを表す物理量を基に、ブレーキ圧を推定するので、圧力センサを用いることなく、路面状態によらず高精度かつ安定なブレーキ圧の推定が可能となる。
【0020】
ここで、前記第1の推定手段は、検出手段により検出された複数の車輪各々の速度及び上記推定されたブレーキ圧に基づいて、制動力を再度推定するようにしてもよい。
【0021】
このように、車輪の速度及び上記推定されたブレーキ圧を用いて、制動力を再度推定するので、ブレーキ圧を加味して制動力を推定できる。よって、制動力の推定精度が向上する。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0023】
[本実施の形態による制動力の推定原理]
車両に装着された複数の車輪(本実施の形態では、4輪(4輪に限定されない))各々に作用する力のつり合い状態を表す第1の運動方程式は、
【0024】
【数1】
で表される。なお、Ti は、車輪へのブレーキ油圧によって生じるブレーキ力、Fi は、路面摩擦によって生じる制動力、Ji は、車輪慣性、ωi は、車輪速である。なお、iは、車輪を識別する変数である。
(1)式から、ブレーキ力Ti は、車両制動分(制動力Fi )と、車輪制動分((Ji )・(dωi /dt))と、の加算値に等しいことが理解できる。
【0025】
また、車両に作用する力のつり合い状態を表す第2の運動方程式は、
【0026】
【数2】
で表される。なお、Jv は、車輪軸換算の車輪慣性であり、ωv は、車体速である。なお、jは、車輪を識別する変数である。
ここで、制動力Fi の時間微分を考え、これがスリップ速度Δωの関数であると仮定すると、
【0027】
【数3】
となる。
【0028】
ここで、(dFi )/(dΔω)は、スリップ速度に対する制動力の勾配(制動力勾配)であり、これをαi と表現する。
【0029】
また、スリップ速度Δω(=車速ωv −車輪速ωi )の微分βi =(dΔω)/(dt)は、
【0030】
【数4】
となる。車体速の微分(dωv )/(dt)は、(2)式より、
【0031】
【数5】
であるので、(4)式は、
【0032】
【数6】
よって、
【0033】
【数7】
となる。(7)式から理解されるように、各車輪の制動力は、スリップ速度に対する制動力の勾配αi と、スリップ速度の時間微分βi と、に基づいて、得られる。即ち、初期値を0として、
1.前回推定された各車輪の制動力Fj の総和と、車輪速ωi より、スリップ速度の時間微分βi を演算し、
2.スリップ速度の時間微分βi とスリップ速度に対する制動力の勾配αi とを乗算し、乗算値を積分(累積)して、
各車輪の制動力FJ を求めることができる。
【0034】
ここで、スリップ速度に対する制動力の勾配αi は、スリップ速度に対する制動トルクの勾配(=車輪半径×αi )に対応する。スリップ速度に対する制動トルクの勾配は、後述するように、共振ゲインに対応する。即ち、スリップ速度に対する路面と車輪との間の摩擦係数の勾配(路面μ勾配)に対応する。これらの勾配が高ければ、車輪の周速が大きく、すべりにくい。一方、これらの勾配が低ければ、車輪の周速が小さく、すべり易い。よって、これらの物理量は、車輪のすべり易さを表すものである。
【0035】
以上より、各車輪の制動力は、車輪に作用する力のつり合い状態を表す第1の運動方程式及び車両に作用する力のつり合い状態を表す第2の運動方程式と、各車輪のすべり易さを表す物理量、前回推定された各車輪の制動力の総和、及び車輪速と、に基づいて、得られる。
【0036】
このように、各車輪のすべり易さを表す物理量等に基づいて、複数の車輪各々に作用する制動力を推定し、該物理量が零の時に摩擦係数がピークとなることということは路面状態に係わらず成り立つ事実であるので、圧力センサを用いることなく、路面状態によらず高精度かつ安定に制動力を推定することができる。
【0037】
[本実施の形態によるブレーキ圧の推定原理]
各車輪毎に、マスタシリンダ圧Pd とホイールシリンダ圧Pi との比vi 、即ち、マスタシリンダ圧Pd から各車輪に分配されるホイールシリンダ圧Pi のマスタシリンダ圧Pd に対する比vi が予め定められているとする。よって、ホイールシリンダ圧Pi は、vi Pd で与えられる。
【0038】
この場合、各車輪のブレーキ力Ti は、各車輪のホイールシリンダ圧Pi に比例するので、各車輪のブレーキ力とブレーキ圧との関係として、
Ti =kPi =kvi Pd (8)
を得ることができる。なお、kは、圧力を力の次元に換算する換算係数である。
【0039】
(8)式と、各車輪でマスタシリンダ圧は同じであることと、から、マスタシリンダ圧の平均的な値を、
【0040】
【数8】
からを導くことができる。即ち、マスタシリンダ圧の平均的な値は、最初に、各車輪毎にブレーキ力Tj を推定し、次に、推定したブレーキ力Tj の総和ΣTj と、各車輪毎に予め定められたマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との比vi の総和Σvi と、に基づいて、演算することができる。なお、ブレーキ力Tj は、前述したように制動力Fi を推定し、第1の運動方程式((1)式参照)と、推定した制動力Fi 及び車輪速と、に基づいて演算することができる。
【0041】
また、前述したように各車輪毎に、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との比vi が予め定められているので、マスタシリンダ圧の平均的な値から各車輪のホイールシリンダ圧を、
【0042】
【数9】
から得ることができる。
【0043】
このように、上記のように推定した制動力Fi を基に、マスタシリンダ圧やホイールシリンダ圧を演算するので、圧力センサを用いることなく、路面状態によらず高精度かつ安定に制動力を推定することができる。
【0044】
ここで、(10)式を(8)式に代入し、(1)式を用いると、各車輪の制動力Fi は、
【0045】
【数10】
となる。
【0046】
よって、車輪の速度及び前述したように推定したブレーキ圧(マスタシリンダ圧又はホイールシリンダ圧)を用いて、制動力を再度推定するので、ブレーキ圧を加味して制動力を推定できる。よって、制動力の推定精度が向上する。
図1には、制動力推定装置350を備えたブレーキ圧推定装置が示されている。なお、以下、各車輪毎に備えている同一の素子には、その符号にsを付して、1つの車輪に対応して備えられた素子を説明し、その他の車輪に対応して備えられた素子の説明を省略する。
【0047】
制動力推定装置350は、センサ演算部部303Sを備えている。センサ演算部部303Sは、車輪速を検出する車輪速センサ302s、及び制動力勾配を演算する制動力勾配演算部304sを備えている。
【0048】
制動力推定装置350は、車輪速センサ302sにより検出された車輪速ω1 を微分する微分器352sを備えている。微分器352sには、微分器352sによる車輪速ω1 の微分値と、後述する、前回推定した制動力の総和に車両慣性の逆数が乗算された値(即ち、車速ωv の微分値の負の値)と、を負の値にして加算して、スリップ速度の微分値βi ((6)式参照)を演算する加算器354sが接続されている。
【0049】
加算器354sには、加算器354sによる加算値βi と、制動力勾配演算部304sにより演算された制動力勾配αi と、を乗算して、車輪に作用する制動力の微分値((7)式参照)を演算する乗算器356sが接続されている。
【0050】
乗算器356sには、乗算器356sによる乗算値(制動力の微分値)を積分する積分器358sが接続されている。
【0051】
各積分器358sには、積分器358sによる積分値(制動力)を加算する加算器360が接続され、加算器360には、加算器360による加算値(各車輪の制動力の総和)に、車両慣性の逆数を乗算する乗算器362が接続されている。そして、乗算器362は、前述した各加算器354sに接続されている。
ブレーキ圧推定装置は、微分器352Sによる車輪速の微分値に各車輪の車輪慣性Jを乗算する乗算器384Sを備えている。積分器358s及び乗算器384Sには、積分器358sによる積分値(制動力)Fi から、乗算器384Sによる乗算値を減算して、ブレーキ力Ti ((1)式参照)を演算する減算器372Sが接続されている。各減算器372Sは、各車輪減算器372Sによる減算値(ブレーキ力)の総和を求める加算器374が接続されている。
【0052】
また、ブレーキ圧推定装置は、図示しないレジスタに記憶された、各車輪毎に予め定められた、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との比vi の総和を求める加算器376を備えている。加算器376には、加算器376による加算値を換算係数k倍する乗算器378が接続されている。
【0053】
加算器374及び乗算器378には、加算器374による加算値を、乗算器378による乗算値で除算して、マスタシリンダ圧の平均的な値((9)式参照)を演算する除算器380が接続されている。除算器380には、除算器380による除算値と、各車輪毎に予め定められたマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との比vi と、を乗算して、ホイールシリンダ圧Pi ((10)式参照)を演算する乗算器382sが接続されている。乗算器382sには、乗算器382sによる乗算値(ホイールシリンダ圧)を換算係数k倍する乗算器384sが接続されている。乗算器384sには、車輪速の微分値に各車輪の車輪慣性Jが乗算された乗算値と、乗算器384sによる乗算値と、を加算して、制動力FI ((11)式参照)を演算する加算器386sが接続されている。加算器386sは、積分器358sに接続されている。
【0054】
次に、本実施の形態の作用を説明する。
【0055】
各車輪速センサ302sが車輪速を検出し、各制動力勾配演算部304sが制動力勾配を演算する。
【0056】
ここで、制動力勾配演算部304sは、制動トルク勾配を求め、求めた制動トルク勾配に所定の換算係数を乗算して、制動力勾配求める。なお、制動トルクの演算方法は後述する。
【0057】
車輪速センサ302sにより検出された車輪速ω1 は微分器352sに入力され、微分される。この微分値は、加算器354Sに入力される。加算器354Sには、乗算器362から、前回推定した制動力の総和に車両慣性の逆数を乗算した値(即ち、車速ωv の微分値の負の値)が入力される。加算器354Sは、車輪速ω1 の微分値と、前回推定した制動力の総和に車両慣性の逆数が乗算された値と、を負の値にして加算することにより、スリップ速度の微分値βi ((6)式参照を演算する。スリップ速度の微分値βi と、制動力勾配演算部304sにより演算された制動力勾配αi と、は乗算器356sに入力される。乗算器356sは、スリップ速度の微分値βi と制動力勾配αi とを乗算して、車輪に作用する制動力の微分値((7)式参照)を演算する。
【0058】
乗算器356sによる乗算値(制動力の微分値)は積分器358sにより、積分(累積)され、制動力が演算される。なお、積分器358sは、最初の初期値を0として、制動力を演算する。
【0059】
なお、各積分器358sによる積分値(制動力)は加算器360に入力される。各加算器360による加算値(各車輪の制動力の総和)は乗算器362に入力され、車両慣性の逆数が乗算される。そして、乗算器362による乗算値は、前述した各加算器354sに入力されて、次回の制動力の演算に用いられる。
【0060】
乗算器384Sにより車輪速の微分値に各車輪の車輪慣性Jが乗算された乗算値は、減算器372Sに入力される。積分器358sによる積分値(制動力)は、減算器372Sに入力される。減算器372Sは、積分器358sによる積分値(制動力)から車輪速の微分値に各車輪の車輪慣性Jが乗算された乗算値を減算して、ブレーキ力((1)式参照)Ti を演算する。
【0061】
各減算器372Sにより演算されたブレーキ力Ti は、加算器374に入力され、ブレーキ力の総和が演算される。
【0062】
一方、加算器376は、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との比vi の総和が演算される。この総和は、乗算器378で換算係数k倍される。
除算器380は、加算器374により加算値を、乗算器378による乗算値で除算して、マスタシリンダ圧の平均的な値((9)式参照)を演算する。除算器380により演算されたマスタシリンダ圧の平均的な値は、乗算器382sにより、マスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との比vi が乗算されて、各車輪のホイールシリンダ圧Pi が演算される。このホイールシリンダ圧Pi は、乗算器384sにより、換算係数k倍されて加算器386Sに入力される。加算器386Sには、乗算器384sにより車輪速の微分値に各車輪の車輪慣性Jが乗算された乗算値が入力される。加算器386Sは、ホイールシリンダ圧Pi が換算係数k倍された値と、車輪速の微分値に各車輪の車輪慣性Jが乗算された乗算値と、を加算して、制動力を演算する。この制動力は、積分器358sに入力され、初期値として利用される。
【0063】
以上のブレーキ圧推定装置の実験結果を、図2〜図4に示す。この実験は、車両に装着された右輪が中μの路面を、左輪が低μの路面をまたぎ走行したときの実験結果である。なお、これらのグラフで、時刻0は制動が開始されたときである。
【0064】
右輪が中μの路面を、左輪が低μの路面をまたぎ走行しているので、図2に示すように、右前輪(図2(a))、右後輪(図2(b))の車輪速は、左前輪(図2(c))、左後輪(図2(c))の車輪速より、大きく減少している。この結果、右前輪(図3(a))、右後輪(図3(b))の制動トルク勾配(制動力勾配に所定の換算係数を乗算して求めた)は、左前輪(図3(c))、左後輪(図3(c))の制動トルク勾配より、大きくなる。
【0065】
そして、図4(a)〜図4(d)に示すように、各車輪のホイールシリンダ圧の推定Eは、各車輪のホイールシリンダ圧の実測値Dに、精度よく一致している。なお、各車輪のホイールシリンダ圧の実測値は、各車輪のホイールシリンダ圧を検出する圧力センサにより実際に測定した結果である。
【0066】
以上のように、本実施の形態に係るブレーキ圧推定装置は、車輪速及び制動力勾配から、ホイールシリンダ圧を測定しているので、圧力センサを用いず、かつ、路面状況によらず安定かつ高精度にホイールシリンダ圧を測定することができる。
【0067】
次に、制動トルク勾配の演算方法を説明する。
【0068】
各車輪の車輪運動及び車体運動は、(12)式、(13)式の運動方程式によって記述される。
【0069】
【数11】
【0070】
【数12】
ただし、Fi ’は、第i輪に発生した制動力、Tbiは踏力に対応して第i輪に加えられたブレーキトルク、Mは車両質量、Rc は車輪の有効半径、Jは車輪慣性、vは車体速度である。なお、・は時間に関する微分を示す。(12)式、(13)式において、Fi ’はスリップ速度(v/Rc −ωi )の関数として示されている。
【0071】
ここで、車体速度を等価的な車体の角速度ωv で表す((14)式)と共に、制動トルクRc Fi ’をスリップ速度の1次関数(傾きki 、y切片Ti )として記述する((15)式)。
v = Rc ωv ・・・(14)
Rc Fi ’(ωv −ωi )=ki ×(ωv −ωi )+Ti (15)
さらに、(14)式、(15)式を、(12)式、(13)式へ代入し、車輪速度ωi 及び車体速度ωv をサンプル時間τ毎に離散化された時系列データωi [k] 、ωv [k] (kはサンプル時間τを単位とするサンプル時刻、k=1,2,.....)として表すと、(16)式、(17)式を得る。
【0072】
【数13】
【0073】
【数14】
ここで、(16)式、(17)式を連立し、車体の等価角速度ωv を消去すると、
【0074】
【数15】
を得る。
【0075】
ところで、スリップ速度3rad/s という条件下でRc Mg/4(gは重力加速度)の最大制動トルクの発生を仮定すると、
【0076】
【数16】
を得る。ここで、具体的な定数として、τ=0.005 (sec) 、Rc =0.3 (m) 、M=1000(kg)を考慮すると、
【0077】
【数17】
となり、(18)式は次式のように近似することができる。
【0078】
【数18】
ただし、
【0079】
【数19】
である。
【0080】
このように整理することにより、(22)式は未知係数ki 、fi に関し、線形の形で記述することが可能となり、(22)式にオンラインのパラメータ同定手法を適用することにより、スリップ速度に対する制動トルク勾配ki を推定することができる。
【0081】
すなわち、以下のステップ1及びステップ2を繰り返すことにより、検出された車輪速度の時系列データωi [k] から制動トルク勾配の時系列データを推定することができる(最小自乗推定法)。
【0082】
ステップ1:
φi [k] T ・θi =yi [k] (23)
但し、
【0083】
【数20】
【0084】
【数21】
yi [k] =−ωi [k] + 2ωi [k−1]−ωi [k−2] (26)
とおく。なお、(24)式の行列φi [k] の第1要素は、1サンプル時間での車輪速度の変化に関する物理量であり、(26)式は、1サンプル時間の車輪速度の変化の1サンプル時間での変化に関する物理量である。
【0085】
ステップ2:
【0086】
【数22】
【0087】
【数23】
【0088】
【数24】
という漸化式から、
【0089】
【数25】
の推定値を演算し、該推定値の行列の第一要素を推定された制動トルクの勾配として抽出する。ただし、λは過去のデータを取り除く度合いを示す忘却係数(例えばλ=0.98)であり、”T ”は行列の転置を示す。
【0090】
なお、(60)式の左辺は、車輪速度の変化に関する物理量の履歴及び車輪速度の変化の変化に関する物理量の履歴を表す物理量である。
【0091】
以上説明した実施の形態では、制動力勾配(制動トルク勾配)を演算しているが、本発明はこれに限定されず、制動力勾配等に代えて、制動トルク勾配に対応する、共振ゲイン、即ち、スリップ速度に対する路面と車輪との間の摩擦係数の勾配(路面μ勾配)を演算して、同様に処理するようにしてもよい。以下、共振ゲインと制動トルク勾配とが等価な物理量であることを説明する。
【0092】
重量Wの車体を備えた車両が速度ωu で走行している時の車輪での振動現象、すなわち車体と車輪と路面とによって構成される振動系の振動現象を、車輪回転軸で等価的にモデル化した図5に示すモデルを参照して考察する。
【0093】
図5のモデルにおいて、ブレーキ力は、路面と接するタイヤのトレッド115の表面を介して路面に作用する。しかし、このブレーキ力は実際には路面からの反作用(制動力)として車体に作用する。このため、車体重量の回転軸換算の等価モデル117は、タイヤのトレッドと路面との間の摩擦要素116(路面μ)を介して車輪113と反対側に連結したものとなる。これは、シャシーダイナモ装置のように、車輪下の大きな慣性、すなわち車輪と反対側の質量で車体の重量を模擬することができることと同様である。
【0094】
図5でタイヤリムを含んだ車輪113の慣性をJw 、リムとトレッド115との間のばね要素114のばね定数をK、車輪半径をR、トレッド115の慣性をJt 、トレッド115と路面との間の摩擦要素116の摩擦係数をμ、車体の重量の回転軸換算の等価モデル117の慣性をJV とすると、ホイールシリンダ圧により生じるブレーキトルクTb ’から車輪速ωw までの伝達特性は、
【0095】
【数26】
となる。なお、sはラプラス変換の演算子である。
また、スリップ速度Δωと路面の摩擦係数μとの間には、図6に示すように、あるスリップ率で摩擦係数μがピークをとる関数関係が成立することが知られている。ここで、図6の関数関係において、あるスリップ率の回りで微小振動したときの摩擦係数μのスリップ速度Δωに対する変化を考えると、路面の摩擦係数μは、
μ = μ0 +αRΔω (31)
と近似できる。すなわち、微小振動によるスリップ速度の変化が小さいため、傾きαRの直線で近似できる。
【0096】
ここで、タイヤと路面間の摩擦係数μにより生じる制動トルクTb =μWに(31)式を代入すると、
Tb = μW = μ0 W+αRΔωW (32)
となる。(32)式の両辺をΔωで1階微分すると、
【0097】
【数27】
となる。
【0098】
ここで、タイヤが路面にグリップしている時は、トレッド115と車体等価モデル117とが直結されていると考える。この場合、車体等価モデル117とトレッド115との和の慣性と、車輪113の慣性とが共振する。即ち、この振動系は、車輪と車体と路面とから構成された車輪共振系とみなすことができる。このときの車輪共振系の共振周波数ω∞は、(30)式の伝達特性において、
【0099】
【数28】
となる。
【0100】
ここで、図6において(34)式が成立する摩擦状態は、ピークμに達する前の領域A1に対応する。
【0101】
逆に、タイヤの摩擦係数μがピークμに近づく場合には、タイヤ表面の摩擦係数μがスリップ率に対して変化し難くなる。即ち、トレッド115の慣性の振動に伴う成分は車体等価モデル117に影響しなくなる。つまり等価的にトレッド115と車体等価モデル117とが分離され、トレッド115と車輪113とが共振を起こすことになる。このときの車輪共振系は、車輪と路面とから構成されているとみなすことができる。その共振周波数ω∞’は、(34)式において、車体等価慣性Jv を0とおいたものと等しくなる。すなわち、
【0102】
【数29】
となる。この状態は、図6では、ピークμ近傍の領域A2に対応する。なお、ピークμを越えてブレーキ制動されると、領域A3に瞬時に移行し、タイヤがロックされる。
【0103】
車体等価慣性Jv が車輪慣性Jw 、トレッド慣性Jt より大きいと仮定する。この場合、(35)式の場合の車輪共振系の共振周波数ω∞’は(34)式のω∞よりも高周波数側にシフトすることになる。
【0104】
ここで、ブレーキ圧Pb に対する車輪速ωw の比(ωw /Pb )の共振周波数ω∞の振動成分((ωw /Pb )|s=jω∞)を共振ゲインGd とする。なお、以下では、ABSアクチュエータにより平均ブレーキ力の回りに共振周波数ω∞の微小励振を印加しているものとする。
【0105】
ホイールシリンダ圧により生じるトルクTb ’はブレーキ圧Pb と比例関係にあることから、共振ゲインGd は、(ωw /Tb ’)の共振周波数ω∞の振動成分と比例関係にあり、共振ゲインGd は次式によって表される。
【0106】
【数30】
一般に、
|A| = 0.012 << |B| = 0.1 (39)
となることから、(33)式、(36)式より、
【0107】
【数31】
を得る。すなわち、スリップ速度Δωに対する制動トルクTb の勾配は共振ゲインGd に比例する。
【0108】
よって、各制動力勾配演算部に代えて共振ゲイン演算部36(図7参照)を備え、共振ゲインGd を求め、求めた共振ゲインGd に基づいて、上記と同様に処理すればよい。
【0109】
次に、各共振ゲイン演算部36による共振ゲインGd の演算方法を説明する。
【0110】
ここで、車輪と車体と路面とからなる振動系の共振周波数ω∞((34)式) でブレーキ力を微小励振すると(ここでは、ブレーキ圧Pb を微小励振するとする)、車輪速度ωw も平均的な車輪速度の回りに共振周波数ω∞で微小振動する。ここで、このときのブレーキ圧Pb の共振周波数ω∞の微小振幅をPv 、車輪速度の共振周波数ω∞の微小振幅をωwvとした場合、共振ゲインGd を
Gd =ωwv/Pv (41)
となる。
【0111】
この共振ゲインGd は、前述したように(ωw /Pb )の共振周波数ω∞の振動成分でもあるので、摩擦状態がピークμ近傍の領域に至ったとき、共振周波数がω∞’にシフトするため急激に減少する。すなわち、共振ゲインGd は、路面μ特性を規定する物理量であるといえる。
【0112】
そして、共振ゲイン演算部36は、図7に示すように、振動系の共振周波数ω∞((34)式)でブレーキ圧を微小励振したときの、車輪速度Vw の共振周波数ω∞の微小振幅(車輪速微小振幅ωwv)を検出する車輪速微小振幅検出部40と、共振周波数ω∞のブレーキ圧の微小振幅Pv を検出するブレーキ圧微小振幅検出部42と、検出された車輪速微小振幅ωwvをブレーキ圧微小振幅Pv で除算することにより共振ゲインGd を出力する除算器44と、から構成される。
【0113】
ここで、車輪速微小振幅検出部40は、共振周波数ω∞の振動成分を抽出するフィルタ処理を行う図8のような演算部として実現できる。例えば、この振動系の共振周波数ω∞が40[Hz]程度であるので、制御性を考慮して1周期を24[ms]、約41.7[Hz]に取り、この周波数を中心周波数とする帯域通過フィルタ75を設ける。このフィルタにより、車輪速度信号ωi から約41.7[Hz]近傍の周波数成分のみが抽出される。さらに、このフィルタ出力を全波整流器76により全波整流、直流平滑化し、この直流平滑化信号から低域通過フィルタ77によって低域振動成分のみを通過させることにより、車輪速微小振幅ωwvを出力する。
【0114】
なお、周期の整数倍、例えば1周期の24[ms]、2周期の48[ms]の時系列データを連続的に取り込み、41.7[Hz]の単位正弦波、単位余弦波との相関を求めることによっても車輪速微小振幅検出部40を実現できる。
【0115】
ここで、平均ブレーキ圧Pm の回りに共振周波数のブレーキ圧微小振幅Pv を印加する微小励振手段について説明する。まず、平均ブレーキ圧指令及び微小励振指令を実際の車輪への制動トルクに変換する部分(バルブ制御系)は、図9に示すように、マスタシリンダ48、制御バルブ52、ホイールシリンダ56、リザーバー58及びオイルポンプ60を備えている。
【0116】
ブレーキペダル46は、ブレーキペダル46の踏力に応じて増圧するマスタシリンダ48を介して制御バルブ52の増圧バルブ50へ接続されている。また、制御バルブ52は、減圧バルブ54を介して低圧源としてのリザーバー58へ接続されている。さらに、制御バルブ52には、該制御バルブによって供給されたブレーキ圧をブレーキディスクに加えるためのホイールシリンダ56が接続されている。この制御バルブ52は、入力されたバルブ動作指令に基づいて増圧バルブ50及び減圧バルブ54の開閉を制御する。
【0117】
なお、この制御バルブ52が増圧バルブ50のみを開くように制御されると、ホイールシリンダ56の油圧(ホイールシリンダ圧)は、ドライバがブレーキペダル46を踏み込むことによって得られる圧力に比例したマスタシリンダ48の油圧(マスタシリンダ圧)まで上昇する。逆に減圧バルブ54のみを開くように制御されると、ホイールシリンダ圧は、ほぼ大気圧のリザーバ58の圧力(リザーバ圧)まで減少する。また、両方のバルブを閉じるように制御されると、ホイールシリンダ圧は保持される。
【0118】
ホイールシリンダ56によりブレーキディスクに加えられるブレーキ力(ホイールシリンダ圧に相当)は、マスタシリンダ48の高油圧が供給される増圧時間、リザーバー58の低油圧が供給される減圧時間、及び供給油圧が保持される保持時間の比率と、圧力センサ等により検出されたマスタシリンダ圧及びリザーバー圧とから求められる。
【0119】
従って、制御バルブ52の増減圧時間をマスタシリンダ圧に応じて制御することにより、所望のブレーキトルクを実現することができる。そして、ブレーキ圧の微小励振は、平均ブレーキ力を実現する制御バルブ52の増減圧制御と同時に共振周波数に対応した周期で増圧減圧制御を行うことにより可能となる。
【0120】
具体的な制御の内容として、図10に示すように、微小励振の周期(例えば24[ms])の半周期T/2毎に増圧と減圧のそれぞれのモードを切り替え、バルブへの増減圧指令は、モード切り替えの瞬間から増圧時間ti 、減圧時間tr のそれぞれの時間分だけ増圧・減圧指令を出力し、残りの時間は、保持指令を出力する。平均ブレーキ力は、マスタシリンダ圧に応じた増圧時間ti と減圧時間tr との比によって定まると共に、共振周波数に対応した半周期T/2毎の増圧・減圧モードの切り替えによって、平均ブレーキ力の回りに微小振動が印加される。
【0121】
なお、ブレーキ圧微小振幅Pv は、マスタシリンダ圧、図10に示したバルブの増圧時間ti の長さ、及び減圧時間tr の長さによって所定の関係で定まるので、図6のブレーキ圧微小振幅検出部42は、上記のように推定した前回のマスタシリンダ圧PI (P1 〜P4 (図1参照))、増圧時間ti 及び減圧時間tr からブレーキ圧微小振幅Pv を出力するテーブルとして構成することができる。
【0122】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、複数の車輪各々のすべり易さを表す物理量等に基づいて、複数の車輪各々に作用する制動力を推定しており、該物理量が零の時に摩擦係数がピークとなることということは路面状態に係わらず成り立つ事実であるので、圧力センサを用いることなく、路面状態によらず高精度かつ安定に制動力を推定することが可能となる。
【0123】
また、本発明は、複数の車輪各々のすべり易さを表す物理量を基に、ブレーキ圧を推定するので、圧力センサを用いることなく、路面状態によらず高精度かつ安定なブレーキ圧の推定が可能となる。
【0124】
更に、本発明は、車輪の速度及び上記推定されたブレーキ圧を用いて、制動力を再度推定するので、ブレーキ圧を加味して制動力を推定でき、制動力の推定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態に係るブレーキ圧推定装置のブロック図である。
【図2】右輪が中μの路面を、左輪が低μの路面をまたぎ走行したときの各車輪速のグラフである。
【図3】右輪が中μの路面を、左輪が低μの路面をまたぎ走行したときの各車輪速の制動トルク勾配のグラフである。
【図4】右輪が中μの路面を、左輪が低μの路面をまたぎ走行したときの各車輪速のホイールシリンダ圧のグラフである。
【図5】本発明の実施の形態に係る車体と車輪と路面とから構成される振動系の等価モデルを示す図である。
【図6】スリップ速度Δωと摩擦係数μとの関係、及びスリップ速度Δωに対する摩擦係数μの傾きを示す図である。
【図7】共振ゲイン演算部のブロック図である。
【図8】車輪速微小振幅検出部のブロック図である。
【図9】ブレーキ圧微小振幅検出部のブロック図である。
【図10】ブレーキ圧の微小励振と平均ブレーキ力の制御を同時に行う場合の制御バルブへの指令を示す図である。
【符号の説明】
350 制動力推定装置
302s 車輪速センサ
304s 制動力勾配演算部
Claims (7)
- 車両に装着された複数の車輪各々の速度を検出する検出手段と、
前記複数の車輪各々のすべり易さを表す物理量を演算する演算手段と、
前記複数の車輪各々に作用する力のつり合い状態を表す第1の運動方程式及び前記車両に作用する力のつり合い状態を表す第2の運動方程式と、前記検出手段により検出された複数の車輪各々の速度、前記演算手段により演算された物理量、及び前回推定した前記複数の車輪各々に作用する制動力の総和と、に基づいて、前記複数の車輪各々に作用する制動力を推定する推定手段と、
を備えた制動力推定装置。 - 前記物理量は、共振ゲイン、スリップ速度に対する制動力の勾配、スリップ速度に対する制動トルクの勾配、スリップ速度に対する路面と車輪との間の摩擦係数の勾配の何れかである請求項1記載の制動力推定装置。
- 車両に装着された複数の車輪各々の速度を検出する検出手段と、
前記複数の車輪各々のすべり易さを表す物理量を演算する第1の演算手段と、
前記複数の車輪各々に作用する力のつり合い状態を表す第1の運動方程式及び前記車両に作用する力のつり合い状態を表す第2の運動方程式と、前記検出手段により検出された複数の車輪各々の速度、前記第1の演算手段により演算された物理量、及び前回推定した前記複数の車輪各々に作用する制動力の総和と、に基づいて、前記複数の車輪各々に作用する制動力を推定する第1の推定手段と、
前記第1運動方程式と、前記第1の推定手段により推定された前記複数の車輪各々に作用する制動力及び前記検出手段により検出された前記複数の車輪各々の速度と、に基づいて、前記複数の車輪各々のブレーキ力を演算する第2の演算手段と、
前記複数の車輪各々のブレーキ力とブレーキ圧との関係式と、前記第2の演算手段により演算された前記複数の車輪各々のブレーキ力の総和及び前記複数の車輪各々毎に予め定められたマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との比と、に基づいて、ブレーキ圧を推定する第2の推定手段と、
を備えたブレーキ圧推定装置。 - 前記第2の推定手段は、前記関係式と、前記複数の車輪各々のブレーキ力の総和及び前記複数の車輪各々毎に予め定められたマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との比の総和と、に基づいて、前記ブレーキ圧として、マスタシリンダ圧を推定する請求項3記載のブレーキ圧推定装置。
- 前記第2の推定手段は、前記推定したマスタシリンダ圧と、前記複数の車輪各々のブレーキ力の総和及び前記複数の車輪各々毎に予め定められたマスタシリンダ圧とホイールシリンダ圧との比とに基づいて、前記複数の車輪各々のホイールシリンダ圧を更に推定する請求項4記載のブレーキ圧推定装置。
- 前記物理量は、共振ゲイン、スリップ速度に対する制動力の勾配、スリップ速度に対する制動トルクの勾配、スリップ速度に対する路面と車輪との間の摩擦係数の勾配の何れかである請求項3乃至請求項5の何れか1項に記載のブレーキ圧推定装置。
- 前記第1の推定手段は、前記検出手段により検出された複数の車輪各々の速度及び前記第2の推定手段により推定されたブレーキ圧を用いて、前記制動力を再度推定することを特徴とする請求項3乃至請求項6の何れか1項に記載のブレーキ圧推定装置。
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JP14756498A JP3702649B2 (ja) | 1998-05-28 | 1998-05-28 | 制動力推定装置及びブレーキ圧推定装置 |
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