JP3700500B2 - 張出し成形性に優れた高強度冷延鋼板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フード、ドア、フェンダー、サイドパネル等の主に自動車外板パネル等、張出し主体の成形が行われる高強度薄鋼板、特に、引張強度が340MPa以上440MPa未満である高強度薄鋼板であって、特に張出し成形性に優れた高強度冷延鋼板およびその亜鉛系めっき鋼板に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、安全性向上による高強度化と、部品の一体化による部品点数の削減およびプレス工程の省略化が進められており、自動車ボデイ用鋼板に対しては、極めて高いプレス成形性を有する高強度鋼板が求められている。従来、鋼板のプレス成形性は深絞り性および張出し性の向上の観点から検討されてきた。
【0003】
冷延鋼板の深絞り成形性に対しては、r値を高める技術が多く開示されている。また、張出し成形性に対しては、一般に全伸び、均一伸びと高ひずみ域のn値、例えば均一伸びが20%以上の材料では10%と20%の2点法のn値を高めることが重要とされてきた。
【0004】
例えば、特開平5−78784号公報には、Tiを添加した極低炭素鋼にMnとCrを積極的に添加して、SiやPを制御し、引張り強さが343MPa〜490MPa,平均r値と伸びが良好な技術が開示されている。しかし、成形性においては、サイドパネル等の張出し主体の成形の場合、r値と伸びのみでは十分な成形性が得られず、特に平面ひずみ張出し成形部ではひずみ伝播不足によりパンチ肩部で破断する問題が生じていた。さらに、CrやMnについては0.9%以上添加することから、コスト面で不利となっていた。
【0005】
特開平8−92656号公報では、極低炭素鋼板に対し、Ar3〜500℃で熱間潤滑圧延後、熱延板再結晶処理を行い、冷間圧延、冷延板再結晶焼鈍を行うことにより、r値を3.0以上に高める技術が開示されている。r値を高めることは、縮みフランジ変形を伴う深絞り性が要求される部位に対しては有効であるが、張出し主体の成形では、十分な成形性が得られない問題があった。
【0006】
また、該技術では冷間圧延前に焼鈍を行うことからエネルギー消費が大きいばかりでなく生産性も低く、コスト面でも不利である。張出し性に関しては、例えば「薄鋼板のプレス加工、(実教出版)、P161〜」に述べられているように、材料の延性とn値の影響が強いとされてきた。
【0007】
材料の延性は一般に全伸びで評価され、また、n値は高ひずみ域における2点法のn値で評価されてきた。しかし、材料を高強度化するに伴い、軟質材と同等の全伸びやn値を得ることは困難となる。また、高歪域でのn値を高めても効果が現れない場合が生じてきた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、フード、ドア、フェンダー、サイドパネル等張出し主体の成形において優れた耐破断性を有し、自動車外板パネル等に用いられる340MPa以上440MPa未満の高強度薄鋼板を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記のような従来のプレス成形用冷延鋼板の問題を解決すべく、フェンダー、サイドパネル等の張出し成形主体の部品の成形性を支配する諸因子について詳細に検討を行い、これらの部品のような成形では、成形品の大部分を占めるパンチ底接触部の発生ひずみ量が小さく、側壁部のパンチ肩やダイ肩近傍にひずみが集中していることを把握した。
【0010】
すなわち、パンチ底接触部の材料の広範囲の発生ひずみ量を増すことで、破断危険部である側壁部のパンチ肩やダイ肩近傍へのひずみ集中の緩和が可能である。このため、従来、張出し性の評価に用いられていた高ひずみ域のn値ではなく、パンチ底接触部における発生ひずみ量に相当する低ひずみ域のn値を向上することが有効であることを知見した。
【0011】
また、従来のIF鋼とは異なり、Cを40ppm以上添加した成分系で、炭窒化物生成元素としてNbを利用したNb−IF鋼とすることで、さらに、Nb/C(原子当量比)を適正な値に管理し、鋼板のミクロ組織、析出物の形態を制御することで、低歪域でのn値を著しく向上できることを、詳細な電子顕微鏡観察等の研究により初めて見出した。本発明はこのような知見に基づき、更に、検討を重ねた結果なされたもので、その特徴とする構成は以下の通りである。
【0012】
1.質量%で、C:0.0040〜0.01%、Si:≦0.05%、Mn:0.1〜1.0%、P:0.01〜0.05%、S:≦0.02%、sol.Al:0.01〜0.1%、N:≦0.004%、Nb:0.01〜0.14%を含有し、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物からなり、単軸引張り試験による公称ひずみ1%と10%の2点法のn値が0.21以上であることを特徴とする張出し性成形性に優れた高強度冷延鋼板。
【0014】
2 .質量%でさらに、Tiを0.05%以下含有していることを特徴とする1に記載の張出し成形性に優れた高強度冷延鋼板。
【0015】
3 .質量%でさらに、Bを0.002%以下含有していることを特徴とする1または2のいずれかに記載の張出し成形性に優れた高強度冷延鋼板。
【0016】
4.鋼板表面に亜鉛系めっき皮膜を付与したことを特徴とする1乃至3のいずれかに記載の張出し成形性に優れた高強度冷延鋼板。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明鋼板で規定する引張り特性、成分組成について詳細に説明する。
【0018】
1.引張り特性
公称ひずみ1%と10%の2点法のn値:0.21以上
図1は図2に示す実部品スケールのフロントフェンダモデル成形品の破断危険部位近傍の相当ひずみ分布の一例を示すもので、破断危険部は側壁部となっているが、パンチ底部の発生ひずみは0.10以下となっている。
【0019】
材料の低ひずみ域の歪伝播を大きくすることで、パンチ底に接する材料において広範囲でのひずみ発生量が増加し、張出し成形性が向上する。本発明では、単軸引張りの公称ひずみ1%と10%の2点法のn値を0.21以上とし、張出し成形性を著しく向上させる。
【0020】
さらに張出し性の改善のために、望ましくは、公称歪1%と10%の2点法のn値を0.214以上とすることが好ましい。なお、単軸引張りはJIS5号試験による。
【0021】
2.成分組成範囲
C:0.0040〜0.01%
Nbと形成する炭化物が素材強度およびパネル成形時における低ひずみ域での歪伝播に影響を及ぼし、強度上昇と成形性を向上させる。0.0040%未満では効果が得られず、0.01%を超えると強度および低ひずみ域での十分な歪伝播は得られるものの、延性が低下し、成形性が劣化するため、0.0040〜0.01%とする。析出物の形態および分散状態を適正に制御し、より優れた成形性およびより好ましい総合性能を引き出すには、C添加量を0.0050〜0.0080%、さらに望ましくは0.0050〜0.0074%の範囲に規制することが好ましい。
【0022】
Si:≦0.05%
Siは過剰に添加されると冷延鋼板の場合には化成処理性が劣化し、溶融亜鉛めっき鋼板の場合にはめっき密着性が劣化するため、0.05%以下とする。
【0023】
Mn:0.1〜1.0%
Mnは鋼中のSをMnSとして析出させることによってスラブの熱間割れを防止する作用を有するため、鋼には不可欠な元素である。またMnはめっき密着性を劣化させることなく鋼を固溶強化できる元素でもあるが、過剰な添加は降伏強度の過度の上昇による低ひずみ域でのn値の低下を招くため、好ましくない。したがって、Sを析出固定するために必要な0.1%以上とし、降伏強度の上昇による低ひずみ域でのn値の低下の限界として1.0%を上限とする。
【0024】
P:0.01〜0.05%
Pは鋼の強化に有効な元素であり、0.01%以上添加する。0.05%以上添加すると亜鉛めっきの際の合金化処理を劣化させ、めっき密着不良およびそれに起因したうねりによるパネル外観不良を生じるため、0.05%未満とする。
【0025】
S:≦0.02%
SはMnSとして鋼中に存在し、過剰に含まれると延性の劣化を招きプレス成形性が低下する。したがって、実用上、成形性に不都合が生じない0.02%以下とする。
【0026】
sol.Al:0.01〜0.1%
Alは鋼中NをAlNとして析出させ、固溶Cを残さないようにするため、0.01%以上添加する。sol.Alが0.01%未満では上記の効果が十分でなく、0.1%を超えて添加した場合、固溶Alが延性低下を招くので、添加量を0.01〜0.1%の範囲に規制する。
【0027】
N:≦0.004%
NはAlNとして析出し無害化されるが、sol.Al下限量でも全てのNをAlNとして析出させるには、0.004%以下にする必要がある。
【0028】
Nb:0.01〜0.14%
NbはCと結合して微細炭化物を形成し、素材強度およびパネル成形時の低ひずみ域での歪伝播に影響し、成形性、耐面ひずみ性を向上させる。しかし、0.01%未満では効果がなく、0.14%を超えると、降伏強度が上昇し、低ひずみ域での十分な歪伝播が得られず、延性が低下し、成形性が劣化するため、0.01〜0.14%を添加する。低歪域におけるn値をより向上するには、Nb添加量をNb>0.035%とすることが望ましく、さらに成形性および総合性能を改善するには、Nb≧0.080%とすることが望ましい。但し、コスト等を考慮した場合、上限をNb≦0.140%とするのが好ましい。
【0029】
Nbにより低歪域でn値が向上する理由は、必ずしも明確でないが、電子顕微鏡を用いて詳細に組織観察したところ、Nb,C量が適切に制御された場合、結晶粒内に多量のNbCが析出し、粒界近傍に析出物の存在しない析出物枯渇帯(以下、PFZ)が形成されており、このPFZは析出物が枯渇しているため、粒内に比べ強度が低く、低い応力レベルで塑性変形できるので、低歪域で高いn値が得られると推察される。さらに、鋭意検討を進めた結果、本発明において、このような望ましい析出形態を得るには、Nb/C(原子当量比)を1.7〜2.5の範囲に規制することが好ましいことを見い出した。
【0030】
なお、Nb添加により結晶粒が微細化されるので、溶接性や耐二次加工脆性も改善される。また、本発明の高強度亜鉛めっき鋼板では、Si,P量が極力低く抑えられているので、優れた表面品質が得られる。このように、本発明の高強度冷延鋼板は、Cr等の特殊元素が多量に添加されておらず、また、後述するように通常の製造プロセスで製造できるので、安価である。
【0031】
本発明の効果は、上述した規程により十分に達成されるが、さらに品質改善および耐二次加工脆性の向上などの目的のため、Ti,Bをそれぞれ、Ti≦0.05%、B≦0.002%の範囲で添加することが可能である。
【0032】
Ti:≦0.05%
炭窒化物を形成し、熱延板の組織を微細化することにより、成形性を改善する。しかしながら、0.05%を超えて添加した場合、析出物が粗大化し、十分な効果が得られない。より望ましくは、特に溶融亜鉛めっきの表面性状の観点から、上限を0.02%未満とし、必要な細粒化効果を得るために、下限を0.005%とするのが好ましい。
【0033】
B:≦0.002%
結晶粒界を強化し、耐二次加工脆性を改善するために添加するが、0.002%を超えて添加した場合、成形性を著しく損なうので、上限を0.002%とする。本発明鋼は、結晶粒が微細化されており、B無添加であっても優れた耐二次加工脆性を示すので、望ましくは成形性の低下を極力抑えるために、B添加量を0.0001〜0.001%の範囲に規制するのが好ましい。
【0034】
つぎに本発明鋼板の製造方法について説明する。本発明鋼板はスラブの熱間圧延,酸洗、冷間圧延、焼鈍などの一連の工程を経て製造され、必要に応じてめっき処理がなされる。本発明鋼を製造する場合、外板適性として優れた表面品質と材質の均一性を確保するため、熱間圧延時の仕上温度をAr3点以上とすることが好ましい。
【0035】
また、熱延プロセスはスラブ加熱後圧延する方法、連続鋳造後短時間の加熱処理を施してあるいは該加熱工程を省略して直ちに圧延する方法のいずれでもよいが、優れた外板適性を付与するためには、一次スケールのみならず、熱間圧延時に生成する二次スケールについても十分除去するのが好ましい。
【0036】
なお、薄物製造時の仕上圧延温度確保等の目的のために、熱間圧延中、バーヒータにより加熱を行ってもよい。また、熱延鋼板は酸洗による脱スケール性と材質の安定性の観点から巻取り温度を680℃以下とするのが好ましい。また、巻取り温度の下限は、連続焼鈍に供される場合は600℃、箱焼鈍に供される場合は540℃とするのが好ましい。
【0037】
熱延鋼板を脱スケール後冷間圧延するにあたり、外板として必要な深絞り性を付与するためには冷間圧延率を50%以上とすることが好ましい。また、冷延鋼板の焼鈍を連続焼鈍で実施する場合には、焼鈍温度を780〜880℃とすることが好ましい。
【0038】
一方、焼鈍を箱焼鈍で実施する場合、箱焼鈍は均熱時間が長いため680℃以上の焼鈍温度で均一な再結晶組織をえることができるが、焼鈍温度の上限は750℃とするのが好ましい。焼鈍後の冷延鋼板は溶融亜鉛めっきもしくは電気めっきによって亜鉛系めっきをほどこすことができる。さらに、めっき後に有機皮膜処理を施してもよい。
【0039】
【実施例】
(実施例1)
表1に示す鋼番No.1〜10の鋼を溶製後、連続鋳造によりスラブを製造した。このスラブを1200℃に加熱後、仕上温度880〜940℃、巻取り温度540〜560℃(箱焼鈍向け)、600〜660℃(連続焼鈍、連続焼鈍・溶融亜鉛めっき向け)で熱間圧延して板厚2.8mmの熱延鋼板とし、酸洗後50〜85%の冷間圧延を施した後、連続焼鈍(焼鈍温度800〜860℃)、箱焼鈍(焼鈍温度680℃〜740℃)また、連続焼鈍・溶融亜鉛めっき(焼鈍温度800〜860℃)のいずれかを実施した。
【0040】
連続焼鈍・溶融亜鉛めっきでは、焼鈍後460℃で溶融亜鉛めっき処理を行い、直ちにインライン合金化処理炉で500℃でめっき層の合金化処理を行った。また、焼鈍または焼鈍・溶融亜鉛めっき後の鋼板には圧下率0.7%の調質圧延を行った。これらの鋼板の機械特性を調査した。なお、引張試験は、L方向より採取したJIS5号引張試験片によって実施した。
【0041】
また、上記の鋼板でフロントフェンダーのプレス成形を行い破断限界クッション力を調査した。
【0042】
本発明の鋼板No.1〜8は破断限界クッション力が65TON以上と高く、優れた張出し性を示した。一方、比較材No.9〜12は、低歪域でのn値が小さく、50ton以下の低いクッション力で破断が発生した。また、No.10,11材は、TiもしくはSiが過剰に添加されているので、溶融亜鉛めっき後の表面性状が劣り、不適である。
【0043】
本発明例No.1〜8は、細粒でかつ、析出物形態が最適に制御された組織を有するので、いずれも極めて優れた耐二次加工脆性を示す。また、本発明鋼は、優れた成形性に加えて、良好なテーラードプランク性、耐二次加工脆性を有し、さらに亜鉛めっき材においては、非常に良好な表面性状を有することが確認され、特に自動車外板用鋼板として極めて優れた総合性能を有することが実証された。
【0044】
【表1】
【0045】
(実施例2)
図3に表2中のNo.3材(本発明例)とNo.10材(比較例)をクッション力40TONの条件で、図2のフロントフェンダーモデルに成形した場合の破断危険部近傍のひずみ分布を示す。No.3材ではパンチ底部での発生ひずみ量が大きく、側壁部のひずみ発生が抑制されており破断に対し有利となっている。
【0046】
【表2】
【0047】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の鋼板は、自動車のフェンダー、サイドパネル等の張出し主体の成形において優れた張出し成形性のみならず、その他優れた総合性能を有するので、特に自動車外板用鋼板として有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】実部品スケールのフロントフェンダーモデル成形品の破断危険部近傍の相当ひずみ分布の一例を示す図
【図2】実部品スケールのフロントフェンダーモデル成形品を示す図
【図3】フロントフェンダモデルに成形した場合の破断危険部近傍のひずみ分布を示す図
Claims (4)
- 質量%で、C:0.0040〜0.01%、Si:≦0.05%、Mn:0.1〜1.0%、P:0.01〜0.05%、S:≦0.02%、sol.Al:0.01〜0.1%、N:≦0.004%、Nb:0.01〜0.14%を含有し、残部が実質的にFeおよび不可避的不純物からなり、単軸引張り試験による公称ひずみ1%と10%の2点法のn値が0.21以上であることを特徴とする張出し成形性に優れた高強度冷延鋼板。
- 質量%で、さらに、Tiを0.05%以下含有していることを特徴とする請求項1に記載の張出し成形性に優れた高強度冷延鋼板。
- 質量%で、さらに、Bを0.002%以下含有していることを特徴とする請求項1または2のいずれか1項記載の張出し成形性に優れた高強度冷延鋼板。
- 鋼板表面に亜鉛系めっき皮膜を付与したことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の張出し成形性に優れた高強度冷延鋼板。
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