JP3700115B2 - リグニンを原料とするグラファイト - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、リグニンと微量の遷移金属塩とを溶液状で混合してリグニン−遷移金属塩混合物として得られるガラス転移点を持つ熱可塑性成形材料、及び、該熱可塑性成形材料を任意形状に成型し、該成型物を、酸化安定化、不活性気流中で炭化・グラファイト化して得られる黒鉛及び該黒鉛を製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
パルプ化の工程において副生物として発生するリグニンの有効利用は、リグニンが木材、竹、わらなど木化した植物体における主成分の一つであることから、従来からこれらを原料とする技術分野、特に製紙工業において、極めて重要な課題であった。そのような中にあった、リグニンは化学薬品としては、医薬原料、セメント用配合剤製造用原料といった分野で、また、炭素製品製造においては、例えば活性炭、炭素繊維などの製造原料としての利用が検討されてきた。ただ、炭素繊維としては強度が十分得られないために利用性が良くなかった。
【0003】
また、従来から、パルプの原料として利用されてきた、針葉樹、広葉樹といった良質の樹木類の不足から、該原料として木材の育成の間に発生する間伐材、木製品の製造工程で発生する廃材などを利用するパルプ化法の開発、及び環境浄化のために植えられた多くの低質の樹木や木質を有機資源(バイオマス)として利用することの必要からのパルプ化法の開発、例えば有機溶剤を用いるパルプ化法などにおいて、該有機溶剤により抽出されてくるリグニン質の有効利用は、該パルプ化法を商業ベースのものとする上で重要な技術的課題である。
【0004】
前記パルプ原料の多様化の中で、本発明者らも、前記低質の樹木の利用を現実化するという観点から、例えばカンバなどの低質樹木を常圧酢酸蒸解によりパルプ化する方法、また、抽出溶剤として高沸点有機溶媒を主成分とする溶媒系を用いて製紙用セルロース誘導体、糖化用の各種パルプを製造する方法(溶剤パルプ化法)等を提案してきた。その開発の基本は、やはり副生物を有効に利用できる手法を確立すること及びエネルギー消費を低く押さえた手法を確立することにより、前記原料の多様化に対処する方法を確立しようというところにあった。
特に、前記有機溶剤を用いたパルプ化の工程において得られた酢酸リグニンの利用につい多くの検討をしてきた。こんな中で、前記常圧酢酸法によって単離されるリグニンは熱溶融性を示し、炭素繊維や、繊維状及びシート状の成形活性炭などの機能性炭素材料に変換できる特性を有する点で有用な原料材料である。しかし、炭素結晶の成長及び配向が不十分なために、強度が他の原料の炭素材料に比べ弱いという問題点があり、操作性、機能性および利用性といった面から見るとあまり好ましいものとはいえなかった。
リグニンはこれまで難黒鉛化材料と見なされ、一般的なグラファイト製造法である2000℃以上の高温炭素化ではグラファイト製造は不可能とされてきた。
難黒鉛化材料をグラファイト化製品とするには、特殊の方法、例えばプラズマ焼結方法が提案されているが、大規模な装置と膨大な電力が必要である。また、難黒鉛化材料に触媒を加えて黒鉛化する方法もあるが、その飽和生成量は触媒の添加量に強く依存し、多量の触媒添加が必要であり、炭素化後多量に残存する触媒の問題があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、前記リグニンをより利用性の高いものとすること(リグニンを高性能炭素材料の原料化すること)と、及びそれにより利用性の高い最終製品を製造できるようにすること、更に該利用性の高い製品を得る方法や利用性の高い最終炭素製品を得る方法を提供することである。
そこで、本発明者らは、リグニンの利用性をより高めるために、リグニンの特性をより利用性の高い特性を持つものに改質すること、そしてそれにより機能性を高めた製品を得るべく鋭意検討した。その中で、前記本発明者等が提案した酢酸リグニン(LAL)に酢酸ニッケルを加え乾燥したLAL−ニッケル混合物がガラス転移点をもち、熱成形が可能となることを発見した。すなわち、LALを熱成形が可能な材料に変性することができた。
更に、LAL−ニッケル混合物を、通常の酸化安定化及び炭素化した後製品は、通常利用されている、窒素ガスなどの不活性気流中での炭素化により高結晶の黒鉛にすることができることを発見した。更に、酢酸ニッケルのニッケルを他の多くの遷移金属に変えた場合にも、LAL−ニッケル混合物におけると同様の特性が得られることを見出した。
すなわち、LALを少量の遷移金属塩により変性した混合物とすることによって、前記本発明の課題を解決したものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1は、リグニンに遷移金属塩を添加してリグニン−遷移金属混合物として得られたガラス転移点を持つ熱可塑性成型材料である。好ましくは、リグニンが酢酸リグニンであり、遷移金属塩が酢酸ニッケルであることを特徴とする前記熱可塑性成型材料であり、より好ましくは、リグニンと遷移金属塩を均一な溶液とし調製し、該溶液から溶媒を留去し、次いで減圧乾燥することに得られるものであることを特徴とする前記熱可塑性成型材料であり、更に好ましくは、前記各熱可塑性成型材料において遷移金属の濃度を0.1〜5重量%未満の範囲にあるようにすることを特徴とする熱可塑性成型材料である。
本発明の第2は、前記各ガラス転移点を持つ熱可塑性成型材料を加熱成型した成型物を酸化安定化後、不活性ガス中で炭素・黒鉛化して得られる黒鉛材料である。
【0007】
【本発明の実施の態様】
本発明のをより詳細に説明する。
A.本発明において使用されるリグニンとしては、従来のパルプ化工程で発生するいずれのものでも使用することができが、前記本発明者等が提案している常圧酢酸法など(特開平11−12971号公報、特願平11−265319号など)によって単離されるリグニンを使用するのが有利である。
【0008】
B.本発明のガラス転移点を持つ熱可塑性成型材料の調製
1.基本的には前記リグニン原料を有機溶媒に溶解させ、これに遷移金属の塩の溶液を、得られる前記熱可塑性成型材料中に、該遷移金属の濃度が0.1〜5重量%未満の範囲で含まれるように添加し、撹拌して均一な溶液を調製し、該溶液から、溶媒を留去し、次いで減圧下で乾燥することによって得られる。
2.リグニンを酢酸リグニンとして用いるのは、常圧パルプ化工程との組み合わせにおいて有利であからである。
3.該有機溶剤としては、アセトン、酢酸などを使用きるが、特に酢酸を有利な溶媒として挙げることができる。
4.遷移金属としては、Ni、Co、Feなどが有利であり、塩としては塩化物などの塩でも良いが、酢酸塩とすること、該酢酸塩の酢酸溶液として添加するのが好ましい。
5.前記方法で得られる熱可塑性成型材料について、熱機械分析(Thermomechanical Analysis:TMA、TMA4000S、MAC SCIENCE)のチャートにおいて、横軸に温度、縦軸に体積変化を取り、その温度−体積変化の特性を調べた(図1参照)。
【0009】
C.本発明のリグニンからの製品の黒鉛化は、次の工程で行なわれる。
(1)前記B.によって得られた熱可塑性成型材料を、シート状などに熱成形する。
(2)該成型物を、形状安定化(後の炭素化工程において溶融変形、揮発分の急激な発生による収縮のない状態)を図るために、空気中で約200〜300℃の範囲、例えば250℃まで加熱し、1〜5時間、例えば1時間の熱処理を行う。この際成型物に張力を加えると、より形状が安定化する。
(3)前記熱処理物を不活性ガス、例えば窒素気流下において、850℃以上2500℃未満、例えば1000℃で1時間加熱して炭素化・グラファイト化を行う。この際多少の張力を加えるのが配向性を良くする意味で好ましい。
なお、工程(2)以降は、通常の炭素を含む原料からグラファイトを製造するのに用いられている条件であるから、公知の装置を利用できることは勿論であるが、本発明のリグニン原料を用いることにより低い温度において黒鉛化が可能であり、より簡易な設備を利用できる。
本発明のリグニン−遷移金属混合物(Ni濃度0.5重量%)を用いた場合の、炭化温度とグラファイトの生成との関係を図2に示す。
(4)前記工程で得られた炭化物を、紛体用X線回折装置を用いてX線回折を測定した。
黒鉛の網面構造の積層構造を示す大きなピーク(002 面)が2θ=26.1゜に観察され、黒鉛化度が非常に高いことが分かった(図3a.及びb.参照)。
図3a.及びb.から、Niを用いた場合、0.2重量%の添加によりグラファイト化の触媒効果が現れ、0.4〜1重量%においてその効果が非常に大きいことが理解される。
また、図4に、Ni添加量を変えた本発明の1態様である酢酸リグニン(LAL)−酢酸ニッケル混合物のDTA(示差熱量計)のデータを示す。
このデータから、850℃近傍において、触媒黒鉛化と見られる熱的変化を観察することができ、前記図3a.及びb.の黒鉛化のデータと符合している。
【0010】
【実施例】
実施例1
前記常圧酢酸パルプ化法において、廃液及び洗浄液を濃縮し、濃縮物を水を加えて、水可溶部と水不溶部に分離し、水不溶部から回収された酢酸リグニンの凍結乾燥物を原料とした。
該酢酸リグニンを酢酸に溶解させた。該溶液に酢酸ニッケルを溶解させた酢酸溶液を加え、最終生成物である熱可塑性成型材料中に0.5重量%のNiが含まれるようにし、該溶液が均一になるように十分撹拌した。
得られた溶液を、加熱して溶媒を溜去し固形物を得る。得られた固形物を減圧下に乾燥し、定量的に、本発明のガラス転移点を持つ熱可塑性成型材料を得た。
外観は茶黒色の無定型粉末である。
更に、Niの濃度を、0.1、0.2、0.3、0.4、1、5及び10重量%になるように変えた熱可塑性成型材料も同様に生産した。
これらについて、TMAにより、温度変化に対する、体積変化を測定し、その値を横軸に温度(℃)、縦軸を容積変化とするチャート上にプロットした。
温度を上げていった場合の始めの体積上昇点、例えばNi濃度0.5%の場合、温度151℃の点、がガラス転移点を示す。Ni濃度0.3%の場合、約200℃に熱流動(thermal flow)を表す軟化点も示す。
Ni濃度とカラス転移温度及び熱流動温度(thermal flow temperature)との関係を図5に示す。
【0011】
実施例2
前記実施例1で得られた、各ガラス転移点を持つ熱可塑性成型材料を、前記ガラス転移点以上で加熱成型し、シート状物を得た。
これを(あるいは、前記実施例1の乾燥物をそのまま)減圧下160℃で1時間加熱して揮発物を除去後、再度室温から昇温速度50℃/時間で250℃とし、該温度の加熱空気中で約1時間酸化して形状安定化したシート物を得た。
次いで、該形状安定化したシート物を、窒素気流下において昇温速度180℃/時間で約1000℃とし、該温度で約1時間炭素化(グラファイト化まで)した。
得られた、炭化物をX線回折により結晶性を観察した。
2θ=26.1゜(002面)のピークを見ると、0.5%のNi濃度においてグラファイト化が最も進んでいることが分かる。すなわち、少ないNiの添加で黒鉛化が促進されることが分かる。
他の遷移金属、例えば鉄を用いた場合にもほぼ同様の結果が得られる。
【0012】
熱可塑性を示すので、高配向したフイルム状物の成形も可能と考えられ、好ましい黒鉛フイルムが得られる可能性がある。
従って、高機能性材料を供給できる可能性を持つ点で、極めて有用性が大きいものと考える。
【0013】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明は、リグニンの成形性が良く、得られる成型物の炭化物が高度に配向し、且つ結晶化が進んだグラファイト構造の成型物を形成できる点で、機能性の良い炭素材料を提供することができ、設計できる炭素製品の多様化を図れる点で、優れた効果がもたらすものと考える。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のガラス転移点を持つリグニン−遷移金属混合物の熱可塑性の評価を示す温度−体積変化の関係特性
【図2】 本発明のリグニン−遷移金属混合物の炭化温度とグラファイトの生成との関係
【図3】 本発明のリグニン−遷移金属混合物のNi濃度とグラファイト化特性
【図4】 酢酸リグニン−酢酸ニッケル混合物のDTA(示差熱量計)
【図5】 酢酸リグニン−酢酸ニッケル混合物のNi濃度とカラス転移温度及び熱流動温度との関係

Claims (5)

  1. リグニンに遷移金属塩を添加してリグニン−遷移金属混合物として得られるガラス転移点を持つ熱可塑性成型材料。
  2. リグニンが酢酸リグニンであり、遷移金属塩が酢酸ニッケルであることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性成型材料。
  3. リグニンと遷移金属塩を均一な溶液として調製し、該溶液から溶媒を留去し、次いで減圧乾燥することに得られるものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱可塑性成型材料。
  4. 請求項1、2又は3の熱可塑性成型材料において遷移金属の濃度が0.1〜5重量%未満の範囲にあることを特徴とする熱可塑性成型材料。
  5. 請求項1、2、3又は4に記載のガラス転移点を持つ熱可塑性成型材料を加熱成型した成形物を、酸化安定化、及び不活性ガス中での炭化・黒鉛化して得られる黒鉛材料。
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