JP2009155339A - 木質成分の分離方法、木質成分、工業材料及び木質成分の分離装置 - Google Patents

木質成分の分離方法、木質成分、工業材料及び木質成分の分離装置 Download PDF

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良彦 天野
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鷹久 神田
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Yoshie Akai
芳恵 赤井
Yosuke Hirata
洋介 平田
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Abstract

【課題】バイオマス資源を出発原料として、効率良くセルロース、ヘミセルロース、リグニンの成分を分離する方法と装置を提供すること。
【解決手段】バイオマス資源を出発原料として担子菌、腐朽菌類により処理し、処理物を高圧熱水で処理する。さらに高圧熱水処理工程の処理物から固形残渣を分離する。
木質成分が効率よく分離される。
【選択図】図2

Description

本発明は、農業、発酵醸造、食品加工産業などから排出される資源の循環利用と、生成素材の医薬、食品、工業材料、エネルギー資源への利用に係り、特に、木質成分の分離方法、木質成分、工業材料及び木質成分の分離装置に関する。
バイオマス資源であるセルロースやヘミセルロースを加水分解し、単糖類及び/又はオリゴ糖類に糖化することによって、バイオマス資源を食料やエネルギー資源として利用することが検討されている。
このようなバイオマス資源から単糖類及び/又はオリゴ糖類を製造する方法として、酸加水分解法と酵素加水分解法あるいは微生物分解法が知られている。また最近開発された方法として、超臨界状態や亜臨界状態の水をセルロースに作用させて加水分解処理して、単糖類を生産する方法が提案されている。
さらに、バイオマス資源の分解収率向上と実用化を狙った技術としては、セルロース粉末に240〜280℃の加圧熱水を接触させてセルロースを加水分解したのち、急冷することによりセロオリゴ糖類を生成し、さらにその加水分解生成物を酵素分解することにより高収率で単糖類を製造する方法(特許第3041380号)や、キシラン含有天然物サトウキビビスを出発原料に110〜140℃の熱水処理を行い水溶性不純物を除去した後、その不溶残渣に200℃以下の熱水を作用させてキシロースおよびキシロオリゴ糖を製造する方法(特開2000−236899号公報)も提案されている。
特許第3041380号公報 特開2000−236899号公報
しかしながら、前述した酸加水分解法で木質資源に酸触媒を作用させた場合は、酸触媒の影響がセルロース、ヘミセルロースだけではなく単糖類やリグニンにまでおよび、フルフラールなど発酵を阻害する副生成物が発生したり、リグニンが化学修飾を受けて自己重合をおこすため、生成物の産業利用がし難くなるという問題があった。
また、この方法は、酸触媒を用いるため、耐酸性プラントが必要となる上に、酸の回収などに工業コストがかかるというという問題があった。
一方、酵素による加水分解法では、発酵を阻害する副生成物の生成することなく穏やかな条件で加水分解を進めることができる利点を有する反面、セルロースのヘミセルロースやリグニンとの結合や、セルロース分子鎖間の水素結合を切断するのに時間を要し、糖化速度が極めて遅いという問題があった。
糖化速度を速めるために出発原料に対して爆砕処理や摩砕処理などの前処理を行うことも考えられるが、このような前処理と、酵素の大量生産や回収システムのために工業コストがかかるというという問題があった。
さらに、超臨界水、亜臨界水をセルロースに作用させて加水分解し単糖類を得る方法では、反応速度が速いという利点があるが、制御を誤るとフルフラールなどの副生成物が大量に発生して収率が低下するとともに生成物の産業用途が著しく制約されるという問題があった。また大型プラント化を指向した場合、水の超臨界領域(臨界点:374℃、22.1MPa)の温度、圧力、酸化力に耐えうる特殊合金で内張りした耐食性の高耐圧反応器が必要となるという問題もあった。
特許第3041380号公報記載の方法は、この超臨界水処理の課題を解決するために考案されたものであり、セルロースに240〜280℃の加圧熱水を作用した後、至適条件で酵素を作用させることにより副生成物の発生を抑えながら90%を越える高収率でセロオリゴ糖およびその加水分解した単糖であるグルコースを得ることができるが、この方法は工業的に精製された結晶性のセルロースを出発原料にしているため、植物細胞壁の中でセルロースがヘミセルロースを介在しリグニンに包埋される構造を持つ木質資源に応用する場合には、リグニンとヘミセルロースの存在を無視することができず、同様の収率を得ることが困難であるという問題があった。
一方、キシラン含有天然物サトウキビビスを出発原料に110〜140℃の熱水処理を行い水溶性不純物を除去した後、不溶残渣に200℃以下の熱水を作用させてキシロースおよびキシロオリゴ糖を製造する特開2000−236899号公報記載の方法は、後の精製脱色工程を容易にし純度の高いキシロ糖を精製する上で比較的効率の良い方法と言えるが、加水分解工程の加熱処理時間が、150〜160℃で60〜90分と長時間になり、同公報の実施例から推定される収率は、21〜35%程度となり、収率が低いという問題があった。
そこで本発明の目的は、バイオマス資源を出発原料として、効率良くセルロース、ヘミセルロース、リグニンの成分を分離することにより、農業、発酵醸造産業などから排出される資源を循環利用するとともに、医薬、食品、工業材料、エネルギー資源へ有効に利用できる木質成分の分離方法を提供することである。
請求項1の木質成分の分離方法は、バイオマス資源を出発原料として担子菌、腐朽菌類による菌体処理工程と、菌体処理工程の処理物を高圧熱水で処理する高圧熱水処理工程と、高圧熱水処理工程の処理物から木質成分を固形残渣として分離する分離工程と、を有することを特徴とする。
請求項2の木質成分の分離方法は、分離工程で得られた固形残渣に有機溶剤を作用させてリグニン成分を分離抽出することを特徴とする。
請求項3の木質成分の分離方法は、請求項1又は2記載の分離方法において、出発原料のバイオマス資源が、担子菌栽培に利用した後のコーンコブ廃培地であることを特徴とする。
請求項4記載の木質成分の分離方法は、請求項1又は2記載の製造方法において、出発原料のバイオマス資源が、担子菌栽培に利用した後の広葉樹・針葉樹木廃培地であることを特徴とする。
請求項5記載の木質成分の分離方法は、請求項1乃至4のいずれか1項記載の木質成分の分離方法において、前記高圧熱水処理工程が、前記菌体処理工程の処理物を160〜230℃の温度で、0.5〜10MPaの圧力下に行われることを特徴とする。
請求項6記載の木質成分は、請求項1乃至5のいずれか1項記載の木質成分の分離方法により得られたことを特徴とする。
請求項7記載の工業材料は、請求項1乃至5のいずれか1項記載の木質成分の分離方法により得られた木質成分を含有してなることを特徴とする。
請求項8記載の工業材料は、請求項7において、前記木質成分がリグニンであることを特徴とする。
請求項9記載の木質成分の分離装置は、担子菌、腐朽菌類を収容する菌体処理装置と、前記菌体処理装置の処理物を高圧熱水で処理する高圧熱水処理装置と、前記高圧熱水処理装置による処理物から固形残渣を分離する分離装置とを有することを特徴とする。
作用
請求項1の木質成分の分離方法によれば、バイオマス資源を高圧熱水処理工程に導入する前に一次的な菌体分解作用を受けるため、バイオマス資源に対しセルロース、ヘミセルロースの非晶化、リグニンの離脱、セルロース、ヘミセルロースの一次的な加水分解が行われているため、高圧熱水の処理条件を穏やかにすることができる。
請求項2の木質成分の分離方法によれば、バイオマス資源を出発原料に担子菌類による処理工程と高圧熱水処理工程からなる請求項1記載の木質成分の分離工程において、処理工程後の固形残渣に有機溶剤を作用させリグニン成分を溶解することにより化学的な修飾を受けていないリグニンを抽出する作用効果が得られる。
請求項3の木質成分の分離方法によれば、請求項1、2の菌類による処理工程と同等の作用が得られ高圧熱水処理工程が軽減され廃材の有効利用が可能となる。
また、請求項4の木質成分の分離方法によれば、出発のバイオマス資源に担子菌栽培に利用後の広葉樹・針葉樹木廃培地を利用することにより、請求項1、2の菌類による処理工程と同等の作用が得られるとともに、請求項3と同様に高圧熱水処理工程が軽減され廃材の有効利用が可能となる。
請求項5の木質成分の分離方法によれば、請求項1および請求項2記載の高圧熱水処理工程に160〜230℃、0.5〜10MPaの穏やかな処理条件を与えることにより分解効率を落とすことなく生成物を回収できる作用効果が得られる。
請求項6の木質成分によれば、省エネルギー条件下でセルロース、ヘミセルロース、リグニン成分を高収率で分離されたものであるため、従来未利用であった廃培地を資源化するゼロエミッションの農業プラントのデザインができる作用効果が得られる。
請求項7の工業材料によれば、省エネルギー条件下でセルロース、ヘミセルロース、リグニン成分を高収率で分離でき、従来未利用であった廃培地を資源化するゼロエミッションの農業プラントのデザインができる作用効果が得られる。
請求項8の工業材料によれば、分離に水もしくは酵素の作用しか与えていないため従来のリグニンの分離法である硫酸分解とは異なりスルホン化や縮合のような化学修飾を受けていないリグニンを得ることができ、化学修飾を受けていない反応性の高いリグニンは接着剤など天然工業材料として幅広く利用することができる作用効果が得られる。
請求項9の木質成分の分離装置によれば、バイオマス資源を高圧熱水処理工程に導入する前に一次的な菌体分解作用を受けるため、バイオマス資源に対しセルロース、ヘミセルロースの非晶化、リグニンの離脱、セルロース、ヘミセルロースの一次的な加水分解が行われているため、高圧熱水の処理条件を穏やかにすることができる。
以上本発明によれば、特殊プラントや強酸などの化学薬品を使用することなく、バイオマス資源を出発原料に穏やかなエネルギー条件下でセルロース、ヘミセルロース、リグニン成分の分離が可能になり、フルフラールなど発酵阻害副生成物や発生することなく、グルコース、キシロースなどの単糖類、セロオリゴ糖、キシロオリゴ糖、非化学修飾リグニンを効率良く分離生成することができる。これにより農業、発酵醸造産業などから排出される資源の循環利用と、得られる素材の医薬、食品、工業材料、エネルギー資源への利用が可能となる。
本発明の構成を表す図。 本発明の装置の構造図。 本発明で得られる分解生成物の組成を表す図。 本発明で得られるキシロオリゴ糖の構造式。 本発明で得られるセロオリゴ糖の構造式。 本発明で得られた高圧熱水反応残渣に対する酵素分解作用を表す図。
(実施例の構成)
以下本発明の実施例の構成について図面を参照して説明する。
図1は本発明の実施例の工程フローを示したものである。
なお、実施例1,2では、バイオマス資源としてコーンコブを出発原料に、担子菌としてエノキタケを選択して菌体処理工程と高圧熱水処理工程を実施し、菌体処理工程と高圧熱水処理工程の後にさらに回分式の酵素処理工程を構成し水溶成分に酵素ドリセラーゼを作用させた。このとき、コーンコブに担子菌の菌体処理と高圧熱水処理工程、高圧熱水処理工程の後さらに酵素処理工程を行う構成に対して、バイオマス資源の菌体処理工程の代替にエノキタケ栽培に利用した後の廃培地を利用し、高圧熱水処理工程に直接導入した。高圧熱水処理工程は160〜230℃、0.1〜10MPaの温度圧力条件で行った。実施例2では、酵素処理工程に出発原料の担子菌栽培と同種のエノキタケから分離抽出した酵素成分を使用し、エノキダケ廃培地を高圧熱水で処理した後の固形残渣にセルラーゼ、キシラナーゼ活性を持つドリセラーゼ酵素画分を至適温度と至適pHで作用させた。
次に実際の実施例について図面を参照して説明する。
(実施例1)
図2は本実施例の装置を表したものである。
出発原料としてエノキタケの栽培により菌体処理を受けたコーンコブ廃培地2(乾燥重量200g)を耐圧タンク6に投入し総容量2リットルになるよう純水を加え試料濃度が一定になるよう攪拌を加えた。次に導入用圧力ポンプ4と調整用圧力ポンプ5により純水1で試料をヒータ9通電により任意の温度とした反応器7及び8に20.0cc/minの流量で試料を送った。反応器8を通過した試料は空冷式冷却器10と水冷式冷却器11によって40℃以下に急冷し、中空糸フィルター12によって固相と液相に分離した。液相成分は減圧弁13と気液分離器14を通した後、酵素反応槽15に導入し酵素反応槽15に試料が集まったところで、セルロース分解酵素と酢酸緩衝溶液16を投入し、至適温度、至適pHにて試料に酵素反応を行わせた。
出発原料は長野県農村工業研究所製のコーンコブミール培地でトウモロコシの芯を粉砕したものをベースに担子菌育成に必要な米ぬかやふすまなどの栄養源が与えられたもので、滅菌・植菌後約40日の栽培期間を経てエノキタケの1次収穫に利用したものを用いた。このコーンコブ廃培地は各種分析により、図3に示す組成となった。すなわち、セルロース19 23%、ヘミセルロース20 36%、リグニン18 19%、その他の灰分、脂質、タンパク質など熱水可溶性成分21 22%である。
図2の処理装置における反応器および制御装置は株式会社東芝製のものである。
水の超臨界状態を発生させることも可能な反応器8は、内径10mmのチタン合金で構成されている。本実施例では、温度100〜250℃、圧力は0.1〜10MPaになるよう設定し、試料の反応器8における滞留通過時間は10分になるよう流量を制御した。
酵素反応槽15に使用した酵素は、担子菌Irpex lacteus由来の協和発酵社製酵素製剤ドリセラーゼで、0.02M,pH=5.0の酢酸ナトリウム緩衝溶液に溶解したものを除菌・脱塩・濃縮し、セルラーゼおよびキシラナーゼ活性を持つ分子量10000以上の画分を使用し、酵素濃度0.1%w/v、pH=5.0、30℃の条件下で最大24時間反応を行わせた。
またドリセラーゼに代えて、コーンコブ廃培地を緩衝溶液で処理し溶出したエノキタケ菌体由来の酵素を硫安沈殿法で分離した素酵素を同条件にて作用させた。
次に本実施例の処理装置におけるフィルター12で分離回収された残渣17に前述のドリセラーゼ画分を酵素濃度0.1%w/v、基質濃度5.0mg/mlとなるようにpH=5.0、30℃の条件下で最大60時間の反応を行わせ、酵素反応可溶分と不溶分を分離した。また残渣17を過剰のn−ヘキサンに溶解し溶解成分を分離した。
次に実施例によって得られた結果について説明する。
図2の処理装置の反応容器7,8を通過後冷却器10,11を経てフィルターで分離される成分を高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィーで分析した。高圧熱水処理条件180〜220℃でのコーンコブ廃培地の可溶化率は60%を越えた。可溶化した溶液は図4に示したヘミセルロース由来のキシロースとキシロオリゴ糖が主成分で、溶液組成の60%を占めた。また、図5に示すセルロース由来のグルコースとセロオリゴ糖、そしてトレハロース、アラビノースが検出された。高圧熱水処理の温度条件については160℃を下回ると可溶化率の低下が見られた。また230℃以上の条件を与えると可溶化率は1〜5%程度向上するが生成物の中にフルフラールなどの副生成物が検出された。高圧熱水の圧力条件については、従来の方法とは異なり、180〜220℃において飽和蒸気圧を超えていればを可溶化率に大きな変化はなかった。図3に各種温度圧力条件に於ける可溶化画分の比率を表した。
また、高圧熱水処理の温度圧力条件は可溶化する糖の成分に影響を与え、高温高圧側に行くほどオリゴ糖の加水分解が進み単糖の生成が促進されることを確認された。薄層クロマトグラフィー分析によると180℃−1.5MPaの処理条件では可溶化成分には少量のグルコース(G)、セロビオース(G2)の他に少量のトレハロース、アラビノース、キシロース(X1)、キシロビオース(X2)、キシロトライオース(X3)、キシロテトラオース(X4)、キシロペンタオース(X5)、キシロヘキサオース(X6)が検出され、その殆どがキシロヘプタオース(X7)以上の分子量を持つキシロオリゴ糖であった。190℃−1.8MPaの条件では180℃の条件で得られるX7以上のキシロオリゴ糖が加水分解しX1〜X7の生成量が増加し広い分子量分布のオリゴ糖類が得られた。200℃,2.1MPaはX5以上のキシロオリゴ糖の生成量が減少しX1〜X4の生成量が増加した。さらに210℃,2.6MPaの条件ではX5以上キシロオリゴ糖の生成量が更に減少し、220℃,3.2MPaはX5以上キシロオリゴ糖の殆どが加水分解して、X1〜X4のキシロオリゴ糖となった。以上のことから、菌体処理がされたコーンコブ培地は、穏やかな高圧熱水処理条件で主にヘミセルロース成分が分離、加水分解されることが分かった。
以上のように得られた可溶化液に図2の処理装置の酵素反応槽15で酵素ドリセラーゼ画分を酵素濃度0.1%w/v、pH=5.0、30℃の条件下で作用させた。可溶化成分のキシロオリゴ糖はドリセラーゼ中のキシラナーゼによって速やかに加水分解し、3時間の反応で単糖に分解した。収率は予めコーンコブ廃培地の分析値であるヘミセルロース36%に一致し、理論収率は100%となりコーンコブのヘミセルロース成分を完全に分離する作用が得られた。
一方、次に本実施例の処理装置におけるフィルター12で分離回収された残渣17に前述のドリセラーゼ酵素画分を酵素濃度0.1%w/v、基質濃度5.0mg/mlとなるようにpH=5.0、30℃の条件下で反応を与えた。
残渣17はセルロースとリグニン由来の物質で構成され、セルロース成分はドリセラーゼ中のセルラーゼによって分解を受ける。図6はコーンコブ廃培地を高圧熱水処理条件190℃,1.8MPaで処理した残渣に酵素を作用させた時の反応経過を示すもので、反応液中の還元糖量をSomogyi−Nelson法により以下の式により酵素分解率27を求めた。
酵素分解率(%)=(生成還元糖量mg/ml/基質濃度mg/ml)×(162/180)×100
反応時間12〜24時間で酵素分解率は残渣に対して40%を越え、60時間後の最終分解率は46%であった。
比較のため高圧熱水処理を加えていないコーンコブ培地に直接酵素を作用させた場合の反応経過28を図中に示した。図6によると高圧熱水処理によって酵素反応による分解率および分解速度は5倍以上になることが観察され、コーンコブに対して行ったエノキタケ菌体処理と高圧熱水処理の組合せが相乗作用を生み酵素処理工程の実効酵素活性が上昇した。微生物処理とした。以上のコーンコブ廃培地に対する高圧熱水および残渣の酵素処理によって得られた分解生成物の組成を図3に示した。
高圧熱水処理条件190℃,1.8MPaにおいては高圧熱水可溶化画分24は61%、高圧熱水処理残渣17の酵素分解糖化画分23が19%、最終残渣22は22%であった。最終残渣22はコーンコブ廃培地組成に於けるリグニン量19%とほぼ一致しており、構成物はリグニンであることが分かった。
残渣17および最終残渣22に過剰のn−ヘキサンを加え溶解したところリグニンの有機溶剤溶解成分が溶出し蒸留によってリグニンの溶剤可容化画分を得ることができた。
(実施例1の効果)
本実施例によって、出発原料コーンコブに担子菌による菌体処理を行うことにより、担子菌の産生する酵素により予め、コーンコブ植物細胞壁のリグニンバリアーの切断、結晶セルロースの非晶化、基質表面積増加が進むため、次の高圧熱水条件に穏やかな条件設定が可能になり、特殊プラントや強酸などの化学薬品を使用することなく、省エネルギー条件下でセルロース、ヘミセルロース、リグニン成分を高収率で分離することができる。高圧熱水処理条件が穏やかになったことから、単糖及びオリゴ糖を含む処理溶液にはフルフラールなど発酵阻害副生成物や酵素反応阻害物質の発生が抑制され、後の酵素処理や、得られた糖素材の食品、医薬品、アルコール製造などの発酵産業への利用が容易になる。コーンコブの担子菌による菌体処理は実際のキノコ栽培プロセスとして併用することが可能で、従来未利用であった廃培地を資源化するゼロエミッションの農業プラントのデザインができるようになった。
本実施例で得られたリグニンは、分離に水もしくは酵素の作用しか与えていないため従来のリグニンの分離法である硫酸分解とは異なりスルホン化や縮合のような化学修飾を受けていないことに特徴がある。化学修飾を受けていない反応性の高いリグニンは接着剤などのバインダーなど天然工業材料として幅広く利用することができる。
(実施例2)
実施例1では酵素ドリセラーゼを使用したが、これに限定するものではなく他のセルラーゼ、キシラナーゼ活性の酵素を利用しても同様の作用効果が得られる。また、図2の処理装置の酵素反応槽15はバッチ式の酵素反応槽であるが、酵素を固定化し連続式で流しても同様の作用効果が得られる。酵素の選択によって生成糖類の分子量分布をより精密に制御することが可能で、新たに基質を加え酵素の転移反応を利用すると様々なオリゴ糖類を生合成することが可能である。
また実施例では乾燥重量の濃度換算で10重量%濃度のコーンコブ廃培地を反応器に導入したが、この濃度は導入装置と反応器の性能が許せばより高い濃度を選択することも可能である。
エノキタケから抽出したセルラーゼ、キシラナーゼ酵素画分を抽出し、図2の処理装置の酵素反応槽15で作用させた。このような栽培用担子菌由来の酵素を利用する場合は、市販の酵素製剤より酵素活性が弱いケースが多いが、その担子菌が成長するため必要な糖組成を生合成するのに適している。酵素処理液は農業用の担子菌栽培促進剤や水耕栽培用培地として再利用が可能となる。
次にブナシメジ栽培に使用した広葉樹、針葉樹混合の廃培地の系でも同様の構成で実施した。この場合についても先の実施例と同様の作用効果を得ることができた。広葉樹、針葉樹培地の場合はコーンコブ培地とは構成成分が異なるため、本発明の装置の高圧熱水処理によってセルロース由来のグルコースおよびセロオリゴ糖と、ヘミセルロース由来のグルコース、キシロース、マンノース、ガラクトース、アラビノースとこれらのオリゴマーなどが生成し、(1→4)−β−以外に(1→3)−β−グルカンも検出された。このように担子菌栽培などで排出される農業廃材の他に醸造産業や食品産業で排出されるバイオマス資源の処理や間伐材と腐朽菌を組み合わせた廃材処理などについても広く応用が可能である。また、菌体処理をほどこしたバイオマスは菌体由来のタンパク質などを多量に含むため、装置導入の前処理として100℃以下の水洗処理や蒸気脱脂などの工程を加えると後の精製工程を容易にすることが可能である。
4,5…圧力ポンプ、6…耐圧タンク、7,8…反応器、9…ヒータ、10…空冷器、11…水冷器、12…フィルター、13…減圧弁、14…気液分離器、15…酵素反応槽、16…気液分離器。

Claims (9)

  1. バイオマス資源を出発原料として担子菌、腐朽菌類による菌体処理工程と、
    前記菌体処理工程の処理物を高圧熱水で処理する高圧熱水処理工程と、
    前記高圧熱水処理工程の処理物から木質成分を固形残渣として分離する分離工程と、
    を有することを特徴とする木質成分の分離方法。
  2. 前記分離工程で得られた固形残渣に有機溶剤を作用させてリグニン成分を分離抽出することを特徴とする木質成分の分離方法。
  3. 出発原料のバイオマス資源が、担子菌栽培に利用した後のコーンコブ廃培地であることを特徴とする請求項1又は2記載の木質成分の分離方法。
  4. 出発原料のバイオマス資源が、担子菌栽培に利用した後の広葉樹・針葉樹木廃培地であることを特徴とする請求項1又は2記載の木質成分の分離方法。
  5. 前記高圧熱水処理工程が、前記菌体処理工程の処理物を160〜230℃の温度で、0.5〜10MPaの圧力下に行われることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の木質成分の分離方法。
  6. 請求項1乃至5のいずれか1項記載の木質成分の分離方法により得られたことを特徴とする木質成分。
  7. 請求項1乃至5のいずれか1項記載の木質成分の分離方法により得られた木質成分を含有してなることを特徴とする工業材料。
  8. 前記木質成分が化学修飾を受けていないリグニンであることを特徴とする請求項7記載の工業材料。
  9. 担子菌、腐朽菌類を収容する菌体処理装置と、
    前記菌体処理装置の処理物を高圧熱水で処理する高圧熱水処理装置と、
    前記高圧熱水処理装置による処理物から固形残渣を分離する分離装置と、
    を有することを特徴とする木質成分の分離装置。
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