JP3699666B2 - X線管の熱陰極 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はX線管の熱陰極に関し、特に、熱電子エミッタを発熱体で支持する構造の熱陰極に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
X線管の熱陰極の熱電子エミッタの材料として六ホウ化ランタン(LaB6)を使うことが知られている。この六ホウ化ランタンは、この材料だけで熱陰極を構成する場合もあるし(特開平10−321119号公報の図1や図14を参照)、カーボン等の発熱体で支持して熱陰極とする場合もある(特開平10−321119号公報の図9と図10を参照)。本発明は、後者のような使い方(熱電子エミッタを発熱体で支持する構造)に適用できるものである。
六ホウ化ランタンからなる熱電子エミッタをカーボン製の発熱体で支持する構造の熱陰極を製造する方法としては、発熱体に溝を形成して、この溝の内部に六ホウ化ランタンの粉末を充填してこれを焼結する方法が知られている(特開2001−84932号公報)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように六ホウ化ランタンの粉末を焼結して細長い(例えば、10mm×0.5mmの)熱電子エミッタを作った場合、次のような問題が生じることが報告されている。このようにして製造した熱陰極を有するX線管でX線を発生させて、これを長時間使っていると、X線管のフィラメント電流(熱陰極の一端から他端に向かって流れる電流)に大きなハンチングが生じて制御不能になる(暴走現象を生じる)ことが報告されている。フィラメント電流は、通常は、例えば、1.2A±0.5Aになるように制御されているが、上述のように制御不能になると、この制御範囲を大きく逸脱して回復不可能になり、その場合は、制御回路が停止してしまう。当然、X線の発生が停止し、X線管は使用不能になる。このような現象がいったん生じると、その後は、このX線管ではフィラメント電流の制御が不可能になり、熱陰極を交換する必要がある。
【0004】
上述のように制御不能になった熱陰極を調べてみると、次のことが分かった。表面サイズが10mm×0.5mmで厚さが0.3mmの六ホウ化ランタン製の熱電子エミッタの表面を顕微鏡で観察すると、3〜5本のひび割れが生じているのが観測された。制御不能になった熱陰極のいくつかの事例のすべてで、同様なひび割れが生じている。六ホウ化ランタンの粉末の粒径を変えて実験してみても、ひび割れが生じる傾向は、程度の差はあれ、あまり変わらない。もちろん、六ホウ化ランタンの粉末を充填して焼結した直後はひび割れは見られないが、X線を発生させている途中で、何らかの物理的あるいは熱的なショックが熱電子エミッタに加わると、ランダムにひび割れが生じるものと推測される。
【0005】
本発明は上述の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、熱電子エミッタを発熱体で支持する構造のX線管の熱陰極において、熱電子エミッタにひび割れの生じない熱陰極を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
ひび割れの生じた熱陰極を観察してみると、細長い熱電子エミッタの場合、数mm間隔で複数本のひび割れが生じているのが分かる。そこで、いくつかの事例について、ひび割れ同士の間隔を測定してみると、3mmを下回ることがほとんどないことが判明した。そこで、ひとつのエミッタ領域の長さが3mm以下になるようにして、これを一直線上に配置して、全体として10mm程度の長さの熱電子エミッタを製造し、この熱陰極でX線発生負荷実験を試みた。そうすると、フィラメント電流が制御不能となるような現象は発生せず、また、実験後の熱陰極を取り出して顕微鏡で調べてみても、ひび割れが生じていないことが確認できた。このような実験結果に基づいて、エミッタ領域の長さを3mm以下にして、これを組み合わせて所望の長さの熱電子エミッタを構成すれば、ひび割れの生じない熱陰極を作ることができるという発明に至ったものである。
【0007】
したがって、本発明は、熱電子エミッタを発熱体で支持する構造のX線管の熱陰極において、前記熱電子エミッタが、互いに分離された複数のエミッタ領域からなり、各エミッタ領域の最大寸法が3mm以下であることを特徴とするものである。
【0008】
エミッタ領域の最大寸法とは、エミッタ領域の表面上の任意の1点から別の任意の1点までの距離の最大値を指す。細長いエミッタ領域であれば、その最大寸法はその長さにほぼ等しい。また、円形のエミッタ領域であれば、その最大寸法は直径に等しい。本発明は、各エミッタ領域が細長い場合に限定されるものではなく、任意の形状であってよい。いずれの形状であっても、最大寸法が3mm以下であればひび割れが生じない。
【0009】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の第1の実施形態を示す斜視図である。この熱陰極はガラス状カーボンでできた発熱体10と、この発熱体10に支持された熱電子エミッタ12からなる。熱電子エミッタ12は複数のエミッタ領域14からなり、各エミッタ領域14は六ホウ化ランタンの焼結体でできている。
【0010】
図2は熱電子エミッタの付近を拡大した斜視図であり、図2(a)は六ホウ化ランタン粉末を充填する前の発熱体の形状を示しており、図2(b)は六ホウ化ランタンを充填して焼結したあとの状態(完成状態)を示している。図2(a)において、厚さ1mmの発熱体10の熱電子放射側(図では上側)には4個の溝16が形成されている。各溝16は、長さが2.6mm、幅が0.5mm、深さが0.3mmである。したがって、その平面形状は2.6mm×0.5mmの概略矩形であり、その四隅にR(半径は0.2mm以下)が形成されている。これらの溝16が、0.2mmの間隔を隔てて、その長手方向に一直線上に形成されている。
【0011】
この溝16に六ホウ化ランタンを充填して、発熱体10に電流を流すと、その熱によって六ホウ化ランタンが焼結され、図2(b)に示すように、六ホウ化ランタンの焼結体からなる4個のエミッタ領域14が完成する。この4個のエミッタ領域14により、全体として、長さが11mm、幅が0.5mmの熱電子エミッタ12が構成されている。完成した熱電子エミッタの平面寸法を図4(a)に示す。熱電子エミッタ12の全体の長さL1は11mm、幅Wは0.5mmである。各エミッタ領域14の長さL2は2.6mm、幅Wは同じ0.5mmである。エミッタ領域14同士の間隔Gは0.2mmである。エミッタ領域14の四隅にはRを形成してあり、角が丸くなっている。このエミッタ領域14の最大寸法は約2.6mmである。
【0012】
上述の熱陰極について、次のような実験をした。この熱陰極をX線管に取り付けて、約16時間、管電圧が18kV、管電流が100mAの条件で連続運転をし、その安定度を測定した。その結果、フィラメント電流のハンチングは起こらなかった。その後、管球をあけて、熱陰極の表面を顕微鏡で観察した。顕微鏡観察(20倍程度の観察)によれば、熱陰極のエミッタ領域にひび割れは見られなかった。同じ熱陰極について、引き続き、14日間、40kV−60〜70mAの条件で連続運転をして、さらに安定度の観測をした。その間、数回、熱陰極を取り出して顕微鏡で観察したがひび割れは観測されず、また、フィラメント電流のハンチングも生じなかった。以上の実験結果より、この熱陰極は、従来の熱陰極と比較して、ひび割れが生じるおそれがなく、きわめて安定な熱陰極であることが確認できた。
【0013】
フィラメント電流が安定すると、その制御幅を狭くしてもハンチングが生じないので、制御幅を狭くすることができる。したがって、フィラメント電流を高精度に制御でき、X線管の出力の安定度が高まる。
【0014】
次に、六ホウ化ランタンの粉末の粒径について説明する。溝に充填する六ホウ化ランタンの粒径は、ひび割れ特性に影響を与える。例えば、粒径を1μm近辺に揃えると,ひび割れが生じやすい。これに対して、さまざまな粒径を混ぜておくと(例えば、20μm〜数μmの範囲内で)、ひび割れが生じにくい。
【0015】
次に、別の実施例を説明する。図3は本発明の第2の実施形態についての図2と同様の拡大斜視図である。図3(a)は六ホウ化ランタン粉末を充填する前の状態、図3(b)は充填して焼結したあとの状態を示している。図3(a)において、発熱体10の熱電子放射側(図では上側)には8個の溝24が形成されている。各溝24は、発熱体10の厚さ方向に貫通しており、長さが1.2mm、幅が0.5mm、深さが0.3mmである。なお、厚さ1mmの発熱体10の上端近傍では、その厚さが次第に薄くなるようにテーパがついており、発熱体の最上部での厚さは0.5mmになっている。したがって、溝24の幅(発熱体10の厚さ方向の寸法)は、その最上部では0.5mmであるが、それよりも下方では徐々に広がっている。発熱体10の最上部における溝24の平面形状は、1.2mm×0.5mmの矩形である。これらの溝24が、0.2mmの間隔を隔てて、その長手方向に一直線上に配置されている。
【0016】
この溝24に六ホウ化ランタンを充填して、発熱体10に電流を流すと、その熱によって六ホウ化ランタンが焼結され、図3(b)に示すように、六ホウ化ランタンの焼結体からなる8個のエミッタ領域26が完成する。この8個のエミッタ領域26により、全体として、長さが11mm、幅が0.5mmの熱電子エミッタ28が構成されている。完成した熱電子エミッタ28の最上部での平面寸法を図4(b)に示す。熱電子エミッタ28の全体の長さL1は11mm、幅Wは0.5mmである。各エミッタ領域26の長さL2は1.2mm、幅Wは0.5mmである。エミッタ領域26同士の間隔Gは0.2mmである。このエミッタ領域26の最大寸法は約1.2mm(厳密には矩形の対角線の長さ=1.3mm)となる。
【0017】
一般的に、六ホウ化ランタンを使った熱陰極は、通常のタングステン・フィラメントが使えないようなX線管に適用することが多い。すなわち、タングステンフィラメントの特性X線が邪魔をするような測定、例えば、EXAFS測定などに有効である。
【0018】
以上の実施例の説明では、熱電子エミッタの材料として六ホウ化ランタンを使っているが、熱電子エミッタのそのほかの材料として、CeB6、ZrC、TiCなどを使うこともできる。
【0019】
【発明の効果】
本発明の熱陰極は、互いに分離された複数のエミッタ領域によって熱電子エミッタを構成して、各エミッタ領域の最大寸法を3mm以下にしたことにより、エミッタ領域にひび割れが生じることがなくなり、フィラメント電流が安定する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態を示す斜視図である。
【図2】熱電子エミッタの付近を拡大した斜視図である。
【図3】本発明の第2の実施形態についての図2と同様の拡大斜視図である。
【図4】熱電子エミッタの平面寸法を示す平面図である。
【符号の説明】
10 発熱体
12 熱電子エミッタ
14 エミッタ領域
16 溝
Claims (3)
- 熱電子エミッタを発熱体で支持する構造のX線管の熱陰極において、前記熱電子エミッタが、互いに分離された複数のエミッタ領域からなり、各エミッタ領域の最大寸法が3mm以下であることを特徴とするX線管の熱陰極。
- 請求項1に記載の熱陰極において、前記各エミッタ領域が細長い概略矩形の形状をしており、これらのエミッタ領域がその長手方向に一直線上に配置されていて、全体として細長い熱電子エミッタを構成していることを特徴とする熱陰極。
- 請求項1または2に記載の熱陰極において、前記発熱体の材質がガラス状カーボンであり、前記熱電子エミッタの材質が六ホウ化ランタンであることを特徴とする熱陰極。
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