JP3699474B2 - プラスチック成形体のガスバリア性測定方法 - Google Patents

プラスチック成形体のガスバリア性測定方法 Download PDF

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Description

【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック成形体のガスバリア性能を迅速に精度良く評価するガスバリア性測定方法に関し、さらにガスバリア性プラスチック容器を量産する際のガスバリア性の品質管理に適した測定方法に及ぶ。
【背景技術】
【0002】
ガスバリア性プラスチック容器は、例えば特開平8−53116号公報に開示がある。特開平8−53116号公報ではプラスチック容器の酸素バリア性についてはMODERN CONTROL社製OX−TRANTWINを使用して、酸素の透過量を40℃で測定している。また、炭酸ガスバリア性についてはMODERN CONTROL社製PERMATRANC−4型を使用して、炭酸ガスの透過量を25℃で測定している。
【0003】
プラスチック容器、プラスチックシート又はプラスチックフィルム等のプラスチック成形体のガスバリア性測定は、特開平8−53116号公報に開示された方法が主に使用されている。プラスチック容器の場合、肉厚が厚く、容器の形状が複雑なため測定値が安定するまで1週間程度の時間を要する。したがって、迅速にガスバリア性を評価できる方法が今までなかった。
【0004】
また大気圧イオン化質量分析によりガス濃度を高精度に測定する発明として、例えば水素のガス濃度を測定する方法が特開平11−118763号公報に技術が開示されている。
【0005】
特開平11−118763号公報の技術は、水素を直接測定するのではなく水素から水(水蒸気)を生成させ、この水を測定することで水素濃度を換算して求めている。特開平11−118763号公報の明細書第2ページ右欄第10行目に記載のように水を生成させる理由は、水素は能率的に親イオン(H 、質量2)にイオン化されないので質量分析に対する特別な問題が生じているからである。
【0006】
大気圧イオン化質量分析装置(APIMS)を用いてガスバリア性を評価する試みは未だなされていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特開平8−53116号公報のようにガス透過測定器は酸素又は二酸化炭素を別々に測定している。本発明者らの経験では、特開平8−53116号公報記載の装置を用いてガス透過性を測定する時、例えば酸素透過性を測定する場合には測定値が安定するまでに少なくとも1週間を要する。したがって、測定値の精度を高めようとすれば、1本のプラスチック容器のガスバリア性を測定するために1週間を超える時間を要することとなる。このように測定に長時間を要する理由として、発明者らは特開平8−53116号公報記載の装置では、測定精度を確保する観点から透過した測定対象ガスを運ぶキャリアガスの流量を大きくできないので、容器内でのガスの循環が悪く測定値のレスポンスが遅いから長時間を要すると推測している。
【0008】
また、プラスチック樹脂は種類によって吸湿性の大きなものがあり、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)製容器は樹脂の吸湿性が大きく、20℃での相対湿度60〜80%で樹脂100gあたり0.3〜0.5gの水分を吸湿することもある。本発明者らは、樹脂中に吸湿された水分子が存在すると検出器に影響を与え、酸素透過性の測定値が樹脂の水分含量によって大きく異なってしまうことを見出した。
【0009】
プラスチック容器成形後、容器を倉庫等に保管した場合には、容器は吸湿してしまうこととなる。プラスチック容器成形工場において、容器を成形してから時間を経てガスバリア性の品質確認する場合や、プラスチック容器のガスバリア性を飲料充填工場がプラスチック容器を受け入れる際の品質確認事項の1つとする場合には、吸湿量の違いにより検出器が影響を受けてガスバリア性の評価がばらついてしまうこととなる。
【0010】
上記のプラスチックの吸湿によりガスバリア性の評価がばらつくという課題を克服し、容器をはじめとしてプラスチック成形体のガスバリア性をその吸湿量によらず、測定値の応答が良く且つ精度良く測定することが本発明の目的である。
【0011】
すなわち本発明の目的は、プラスチック成形体を透過した測定対象ガスを測定する前にプラスチック成形体を変形又は熱劣化させない温度範囲にて加熱してプラスチック成形体を乾燥し、好ましくは吸湿した水分も加熱乾燥により除去し、水分の影響を除去したプラスチック成形体を迅速に調整することで、ガスバリア性測定の精度を向上させたガスバリア性測定方法を提供することである。さらに質量分析装置、特に大気圧イオン化質量分析装置を採用し且つ比較的多量のキャリアガスを流すことで、測定対象ガスの透過量の検出をレスポンス良く高精度で応答させて測定時間を大幅に短縮させたガスバリア性測定方法を提供することである。このとき、1つの測定対象ガスのみならず、複数の測定対象ガスを同時に精度良く測定することも目的とする。
【0012】
また本発明の目的はプラスチック成形体として、特にプラスチック容器若しくは内表面又は外表面のいずれか一方若しくはその両面にガスバリア性薄膜をコーティングしたガスバリア性プラスチック容器についてのガスバリア性測定方法を提供することである。
【0013】
本発明の目的は、プラスチック成形体の酸素ガスバリア性の測定方法、特に大気雰囲気からの酸素の透過による酸素ガスバリア性の測定方法を提供することである。
【0014】
また本発明の目的は、測定対象ガスを酸素ガス、炭酸ガス又は水素ガスのいずれか一つ或いはそれらの組み合わせとし、且つ測定対象ガス含有雰囲気を測定対象ガスが所定分圧となるように調整した測定対象ガス−アルゴンの標準ガス或いは測定対象ガス−窒素ガスの標準ガスにより作り出すことによって、酸素ガス、炭酸ガス又は水素ガスのいずれか一つ或いはそれらの組み合わせのガスバリア性を、不純物ガスの影響を排除して精度良く測定する方法を提供することである。
【0015】
さらに本発明の目的は、測定対象ガスを質量数18の酸素ガスとすることで、プラスチック樹脂の内部に測定前から存在した酸素ガス(質量数16の酸素ガスが99.762%、質量数17の酸素ガスが0.038%、質量数18の酸素ガスが0.200%であり、質量数16の酸素ガスが大半である)と測定時にプラスチック樹脂を透過する酸素ガスとを分離して測定することで、プラスチック樹脂中に測定前に存在する酸素ガスの影響を完全に排除したガスバリア性測定方法を提供することである。プラスチック樹脂中はガスの濃度勾配に応じて拡散浸透により透過するが、通常の測定方法の初期データはプラスチック樹脂中に測定前から存在する酸素ガスと拡散浸透により透過する酸素ガスの両方を測定値として検出することとなる。本発明では測定初期から拡散浸透により透過した酸素ガスのみを検出することでガスバリア性の真の測定値をいち早く検出することが期待できる。
【0016】
さらに本発明の目的は、測定対象ガスとして、質量数16の酸素ガス、炭酸ガス又は水素ガスのうち少なくともいずれか1つのガスと質量数18の酸素ガスとの組み合わせとして、複数ガス種のガスバリア性の同時測定を行なうことができる測定方法を提供することである。
【0017】
ガスバリア性プラスチック容器を量産する場合には、ガスバリア性薄膜を容器にコーティングするためのコーティングチャンバが1つのみでは対応できず、複数のコーティングチャンバを同時に稼動させるか若しくは順次交代して稼動させることが現実的である。そこで本発明の別の目的は、プラスチック容器について複数のコーティングチャンバを用いてガスバリア性薄膜を量産状態でコーティングする際に、各容器のガスバリア性の評価を行なうとともに、コーティングチャンバごとに成膜された容器のガスバリア性を比較することでコーティングチャンバの稼動状態を把握しうるガスバリア性測定方法を提供することである。成膜したガスバリア薄膜の品質はコーティングチャンバが正常に作動しているか否かに依存することが多いからである。特に本発明はガスバリア性を迅速に測定しうるので、本測定法の結果により製造ライン上での容器のガスバリア性の品質評価を判断することができると期待される。従来のように1週間以上の評価時間を要する測定方法では、製造ライン上での評価方法としては時間がかかりすぎる。
【0018】
本発明の目的は、雰囲気調整工程及び測定対象ガス測定工程において、アルゴン雰囲気側若しくは窒素雰囲気側に供給するアルゴンガス若しくは窒素ガスの流量を所定以上とすることで、ガス置換を迅速に行なって測定開始が可能となる定常状態に早く到達させることである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の課題を鑑み、本発明者らはプラスチック成形体について、水分子による測定データのバラツキを抑えて測定の高精度化を図り且つ測定のために要求されるガス置換を効率的に行なって測定の高速化を図るために鋭意開発したところ、(1)プラスチック成形体をガス透過度の測定前に加熱乾燥すること、(2)プラスチック成形体の加熱乾燥を前提とすれば種々のガス測定手法を使用しても高精度化と高速化を実現できるが、好ましくは質量分析法、特に大気圧イオン化質量分析法を採用すること、により上記課題が効果的に解決されることを見出して本発明を完成させた。
【0020】
すなわち、本発明に係るプラスチック成形体のガスバリア性測定方法は、プラスチック容器、プラスチックシート又はプラスチックフィルム等のプラスチック成形体を透過する測定対象ガスの透過量をガス分析装置により測定するガスバリア性測定方法において、前記プラスチック成形体を変形又は熱劣化させない温度範囲にて加熱して乾燥させる加熱乾燥工程を有し、該加熱乾燥工程が終了した後に測定を開始することを特徴とする。本発明に係るプラスチック成形体のガスバリア性測定方法は、前記プラスチック成形体の壁面の一方側を測定対象ガス含有雰囲気とし、且つ前記壁面の表裏関係となる他方側を、透過後の前記測定対象ガスを前記ガス分析装置まで運ぶキャリアガス雰囲気とする雰囲気調整工程をさらに有する場合を含む。ここで、キャリアガス雰囲気は、アルゴン雰囲気若しくは窒素ガス雰囲気とすることが好ましい。ここで、測定必要時間の短縮化のため、前記雰囲気調整工程において、前記加熱乾燥工程を同時に行なうことが好ましい。さらに本発明に係るプラスチック成形体のガスバリア性測定方法は、前記測定対象ガスが前記壁面の一方側から他方側に向かって前記プラスチック成形体を透過して前記測定対象ガスの透過量がほぼ定常状態となったときに前記ガス分析装置により前記透過量を測定する測定対象ガス測定工程をさらに有する場合を含む。
【0021】
本発明に係るプラスチック成形体のガスバリア性測定方法では、前記加熱乾燥工程は、前記プラスチック成形体が吸湿した水分を除去する工程を含む。さらに前記加熱乾燥工程は、前記プラスチック成形体の壁面の一方側に吸着された吸着ガスを前記測定対象ガス含有雰囲気のガスに置換し、且つ前記プラスチック成形体の壁面の表裏関係となる他方側に吸着された吸着ガスを前記キャリアガス雰囲気のガスに置換する工程を含む。
【0022】
また本発明に係るプラスチック成形体のガスバリア性測定方法では、ガス分析装置は好ましくは質量分析装置であり、より好ましくは大気圧イオン化質量分析装置である。
【0023】
本発明に係るプラスチック成形体のガスバリア性測定方法において、前記プラスチック成形体がプラスチック容器であるか、或いは内表面又は外表面のいずれか一方若しくはその両面にガスバリア性薄膜をコーティングしたガスバリア性プラスチック容器であるとき、前記雰囲気調整工程において、容器外部を測定対象ガス含有雰囲気とし且つ容器内部を前記キャリアガス雰囲気とすることが好ましい。
【0024】
ここで本発明に係るプラスチック成形体のガスバリア性測定方法では、前記測定対象ガスを酸素ガスとし、前記測定対象ガス含有雰囲気は大気雰囲気であることが好ましい。
【0025】
或いは、前記測定対象ガスを酸素ガス、炭酸ガス又は水素ガスのいずれか一つ或いはそれらの組み合わせとし、前記測定対象ガス含有雰囲気は、前記測定対象ガスが所定分圧となるように調整した測定対象ガス−アルゴン雰囲気であるか或いは測定対象ガス−窒素ガス雰囲気であることが好ましい。
【0026】
或いは、前記測定対象ガスを質量数18の酸素ガスとし、前記測定対象ガス含有雰囲気は、質量数18の酸素ガスが所定分圧となるように調整した質量数18の酸素ガス−アルゴン雰囲気であるか或いは質量数18の酸素ガス−窒素ガス雰囲気であることが好ましい。
【0027】
或いは、前記測定対象ガスを質量数16の酸素ガス、炭酸ガス又は水素ガスのうち少なくともいずれか1つのガスと質量数18の酸素ガスとの混合ガスとし、前記測定対象ガス含有雰囲気は、前記測定対象ガスが所定分圧となるように調整した測定対象ガス−アルゴン雰囲気であるか或いは測定対象ガス−窒素ガス雰囲気であることが好ましい。
【0028】
また、本発明に係るプラスチック成形体のガスバリア性測定方法では、前記プラスチック容器は、プラスチック容器の内表面又は外表面のいずれか一方若しくはその両面にガスバリア性薄膜をコーティングするためのコーティングチャンバを複数配置して該コーティングチャンバを同時若しくは順次稼動させて量産したガスバリア性プラスチック容器であり、前記コーティングチャンバごとに所定本数の成膜を行なう度に前記加熱乾燥工程、雰囲気調整工程及び前記測定対象ガス測定工程を行ない、次いで前記コーティングチャンバ別に前記ガスバリア性プラスチック容器のガスバリア性を比較してコーティングチャンバの稼動不良を判定するチャンバ稼動判定工程を行なうことが好ましい。
【0029】
また、本発明に係るプラスチック成形体のガスバリア性測定方法では、前記雰囲気調整工程及び前記測定対象ガス測定工程において、前記キャリアガス雰囲気側に供給する1分間あたりのアルゴン流量或いは1分間あたりの窒素流量は、前記プラスチック容器の容量の2倍以上とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、プラスチックの吸湿によりガスバリア性の評価がばらつくという課題を克服し、容器をはじめとしてプラスチック成形体のガスバリア性をその吸湿量によらず、測定値の応答が良く且つ精度良く測定することできた。すなわち水分の影響を除去したプラスチック成形体を迅速に調整してガスバリア性測定の精度を上げることができる。さらにガス分析装置、好ましくは質量分析装置、より好ましくは大気圧イオン化質量分析装置を採用し且つ比較的多量のキャリアガスを流すことで、測定対象ガスの透過量の検出値をレスポンス良く高精度で応答させて測定時間を大幅に短縮させたガスバリア性測定方法を提供することができた。また、プラスチック容器若しくは内表面又は外表面のいずれか一方若しくはその両面にガスバリア性薄膜をコーティングしたガスバリア性プラスチック容器のような複雑な形状を有するプラスチック成形体においても数時間で評価可能であった。このとき1つの測定対象ガスのみならず、複数の測定対象ガスを同時に精度良く測定することも可能である。測定対象ガスは酸素ガス、炭酸ガス、水素ガス及びこれらの組み合わせである。さらに測定対象ガスを質量数18の酸素ガスとすることで、プラスチック樹脂中に測定前に存在する酸素ガスの影響を完全に排除したガスバリア性測定方法を提供することができた。また、プラスチック容器について複数のコーティングチャンバを用いてガスバリア性薄膜を量産状態でコーティングする際に、各容器のガスバリア性の評価を行なうとともに、コーティングチャンバごとに成膜された容器のガスバリア性を比較することでコーティングチャンバの稼動状態を把握しうるガスバリア性測定方法を提供できた。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1は、量産機のコーティング装置の一形態を示す概念構成図である。
図2は、コーティング装置のコーティングチャンバ配置の一形態を示す概念図である。
図3は、プラスチック容器のガスバリア性測定装置の一形態を示す概略構成図である。
図4は、実施例1及び2について測定経過時間による酸素ガス濃度及び水素ガス濃度の変化を示す図である。
図5は、実施例1及び2についてガスバリア性測定方法の操作手順(1)のバックグラウンド測定時の質量数とイオン強度との関係を示す図である。
図6は、実施例1の酸素ガス濃度測定時の質量数とイオン強度との関係を示す図である。
図7は、実施例2の水素ガス濃度測定時の質量数とイオン強度との関係を示す図である。
図8は、実施例3及び4について測定経過時間による酸素ガス濃度及び水素ガス濃度の変化を示す図である。
図9は、実施例3及び4についてガスバリア性測定方法の操作手順(1)のバックグラウンド測定時の質量数とイオン強度との関係を示す図である。
図10は、実施例3の酸素ガス濃度測定時の質量数とイオン強度との関係を示す図である。
図11は、実施例4の水素ガス濃度測定時の質量数とイオン強度との関係を示す図である。
図12は、DLC膜の膜厚と酸素ガス透過量との関係を示す図である。
図13は、DLC膜の膜厚と水素ガス透過量との関係を示す図である。
図14は、比較例4〜8について測定日数とそのときの酸素ガス透過量との関係を示す図である。
図15は、PET容器内に通流されるキャリアガス中の酸素濃度の変化を示すグラフであり、加熱乾燥処理が有の場合と無の場合を示す。
図16は、ポリエチレン容器内に通流されるキャリアガス中の酸素濃度の変化を示すグラフであり、加熱乾燥処理が有の場合と無の場合を示す。
【0032】
符号の意味は次の通りである。1は液体アルゴンタンク、2は液体アルゴンの蒸発器、3,22は減圧弁、4はゲッター、5はバイパスライン、6,9,23はマスフローコントローラー、7,10,14は純化器、8はペットボトルライン、11はペットボトル、12はバルブB、13はバルブA、15はAPIMS、16はガス供給配管、17はガス排出配管、21は標準ガスボンベ、24はペットボトル封入手段、31はペットボトル外部雰囲気調整手段、である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明について実施形態及び実施例を示しながら詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。
【0034】
本発明に係るプラスチック成形体は、プラスチック容器、プラスチックシート又はプラスチックフィルムが例示できる。本実施形態ではプラスチック容器、特に飲料用容器を例に挙げて説明する。プラスチックフィルムのように数十μmのフィルム厚さのガスバリア性を測定するような場合では、フィルム厚さが薄いために比較的短時間で済むこともある。プラスチック容器を測定対象とする場合には樹脂肉厚が0.3〜1mmであるため、フィルムの場合と比較して迅速測定が要求される。さらに飲料用容器は立体的形状であり、容器内部の形状が複雑で、キャリアガスを流してガス置換を完全に行なうためには長時間を要する。したがって、高速且つ高精度でガスバリア性を評価することが難しい対象である。本発明は容器の形状に左右されず、また容器の用途はビール等の炭酸飲料、果汁飲料、栄養ドリンク剤、医薬品が例示できる。
【0035】
本発明のプラスチック容器を成形する際に使用する樹脂は、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)、ポリエチレンテレフタレート系コポリエステル樹脂(ポリエステルのアルコール成分にエチレングリコールの代わりに、シクロヘキサンディメタノールを使用したコポリマーをPETGと呼んでいる、イーストマンケミカル製)、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリプロピレン樹脂(PP)、シクロオレフィンコポリマー樹脂(COC、環状オレフィン共重合)、アイオノマ樹脂、ポリ−4−メチルペンテン−1樹脂、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリスチレン樹脂(PS)、エチレン−ビニルアルコール共重合樹脂、アクリロニトリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂(PVDC)、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリスルホン樹脂、又は、4弗化エチレン樹脂、アクリロニトリル−スチレン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂、を例示することができる。この中で、PETが特に好ましい。本発明ではプラスチック容器としてPETボトルを例にして説明する。
【0036】
プラスチックの吸水率(24時間、23℃)は、3つに分別される。
(1)吸水しにくいものとして、PE:<0.01%、PP:<0.005%、PS:0.04〜0.06%、PVDC:僅小。
(2)中間的なものとして、PET:0.3〜0.5%、PC:0.35%、ポリエーテルスルフォン:0.3〜0.4%。
(3)吸水率の高いものとして、ポリイミド:2.9%、ナイロン6:9.5%、セルローズアセテート:5〜9%。
【0037】
本実施形態に係るプラスチック成形体は内表面又は外表面のいずれか一方若しくはその両面にガスバリア性薄膜をコーティングしたガスバリア性プラスチック容器であっても良い。プラスチック容器の壁面にコーティングするガスバリア性薄膜として、SiOx、DLC(ダイヤモンドライクカーボン)、Si含有DLC、ポリマーライクカーボン、酸化アルミニウム、ポリマーライク窒化珪素、アクリル酸系樹脂コートが例示できる。この中でDLCは、酸素バリア性及び水蒸気バリア性に優れ、化学的に不活性であり、炭素及び水素を主成分とする為、プラスチックと同様の処分が可能であること、柔軟であるのでプラスチックの伸縮に追随性があることから特に好ましい。本発明でいうDLC膜とは、iカーボン膜又は水素化アモルファスカーボン膜(a−C:H)と呼ばれる膜のことであり、硬質炭素膜も含まれる。またDLC膜はアモルファス状の炭素膜であり、SP結合も有する。このDLC膜を成膜する原料ガスとしては炭化水素系ガス、例えばアセチレンガスを用い、Si含有DLC膜を成膜する原料ガスとしてはSi含有炭化水素系ガスを用いる。このようなDLC膜をプラスチック容器の内表面又は外表面のいずれか一方若しくはその両面に形成することにより、炭酸飲料や発泡飲料等の容器としてワンウェイ、又はリターナブルに使用可能な容器を得る。
【0038】
なお、ガスバリア性薄膜は、プラスチック容器の内表面或は外表面又はその両方にコーティングすることが可能であるが、ガスバリア性を確保して且つプラスチックへの充填物の収着若しくはプラスチック中に含まれる微量成分の充填物への溶出をそれぞれ防止すること且つ経済的であることを考慮すると、ガスバリア性薄膜を内表面に成膜することが特に好ましい。またDLC膜の成膜方法としては、例えば特開平8−53116号公報に記載された成膜方法である。
【0039】
本実施形態に係るプラスチック成形体のガスバリア性測定方法は、プラスチック成形体を透過する測定対象ガスの透過量をガス分析装置により測定する方法であり、(1)プラスチック成形体を変形又は熱劣化させない温度範囲にて加熱して乾燥させる加熱乾燥工程、を少なくとも有する。この加熱乾燥工程は、プラスチック成形体が吸湿した水分を除去する工程を含んでも良い。さらに加熱乾燥工程は、プラスチック成形体の壁面の一方側に吸着された吸着ガスを測定対象ガス含有雰囲気のガスに置換し、且つプラスチック成形体の壁面の表裏関係となる他方側に吸着された吸着ガスをアルゴン、窒素ガス等のキャリアガス雰囲気のガスに置換する工程を含んでも良い。
【0040】
本実施形態に係るプラスチック成形体のガスバリア性測定方法は、(2)プラスチック成形体の壁面の一方側を測定対象ガス含有雰囲気とし且つ壁面の表裏関係となる他方側をアルゴン、窒素ガス等のキャリアガス雰囲気とする雰囲気調整工程、をさらに有する。このキャリアガスは透過後の前記測定対象ガスを前記ガス分析装置まで運ぶガスであり、不純物酸素除去用の水素ガスを0.5〜3.0%含有させて良い。不純物酸素除去用の水素ガスは、プラスチック成形体に触れる前にキャリアガス中の不純物酸素と触媒によって反応する。一方、触媒と触れた以降は酸素と反応しないため、透過してきた酸素とは反応させない。
【0041】
本実施形態に係るプラスチック成形体のガスバリア性測定方法は、(3)測定対象ガスが壁面の一方側から他方側に向かってプラスチック成形体を透過して測定対象ガスの透過量がほぼ定常状態となったとき、すなわち測定対象ガスの濃度が検出器の値で一定値をとったときに種々のガス分析装置、好ましくは質量分析装置、より好ましくは大気圧イオン化質量分析装置により透過量を測定する測定対象ガス測定工程、をさらに有する。
【0042】
本発明者らは、測定対象であるプラスチック成形体の分子構造の中に吸湿等による水分子が存在すると、水分子が検出器に影響を与え、酸素、炭酸ガス等の測定値が不安定になる一方で、プラスチック成形体に吸湿された水分子を除去することで水分子の悪影響を受けなくすることができることを見出した。例えば、PET樹脂は、100gあたり0.3〜0.5gの水分を吸湿し得る。ガスバリア性薄膜をコーティングしたプラスチック容器を飲料充填工場等が受け入れる場合に、規定通りのガスバリア性を有するか否かの品質検査を行なうことは通常の作業である。ここで、ガスバリア性薄膜をコーティングしたプラスチック容器は、吸湿を生じている場合が多い。この容器のガスバリア性能をそのまま測定すれば容器の吸湿状態に応じて測定誤差が含まれることとなる。本発明では、ガスバリア性を測定する前に加熱乾燥工程を設けることが好ましい。加熱乾燥工程は、プラスチック成形体に吸湿された水分子を除去し、検出器に対しての水分子の悪影響を排除し、プラスチック成形体の表面に吸着された吸着ガスの影響も小さくする目的で行なうものである。また、プラスチック成形体に吸湿された水分子を除去する手段としては、乾燥アルゴンや乾燥窒素ガスをプラスチック容器内部に多量に流し続けるという手段も考えられる。しかし、水分子の拡散速度は温度に依存するので樹脂からほぼ水分子を除去するためには1週間程度を要することがわかった。これと比較して、加熱乾燥により水分子の除去を高速で行なうことができる。このとき、加熱乾燥と同時に乾燥アルゴンや乾燥窒素ガスでプラスチック容器内部をガス置換し続けることが好ましい。これは乾燥アルゴンや乾燥窒素ガスで樹脂を乾燥させる目的ではなく、樹脂内部から樹脂外部に拡散して放出された水分子について乾燥アルゴンや乾燥窒素ガスをキャリアガスとして排出することが目的であるため、多量の乾燥アルゴンや乾燥窒素ガスを流す必要はない。なお、本発明で使用する検出器であるAPIMSは、水分子の影響を受けやすいので加熱乾燥工程は必要である。
【0043】
加熱乾燥工程において、プラスチック成形体を変形又は熱劣化させない温度範囲にて加熱する。乾燥を早期に行なう為には乾燥アルゴンや乾燥窒素ガスの熱風を容器に吹き付けると効果的であるが、プラスチックのガラス転移点付近より高温に加熱すると容器が収縮、変形を生してしまうこととなる。したがって本発明では、形状劣化及びガスバリア性薄膜の剥離、ひび割れ等の薄膜劣化を生じない程度の温度以下で乾燥させることが好ましい。例えばPETボトルでは60〜80℃で乾燥させることが好ましい。
【0044】
雰囲気調整工程は、プラスチック成形体の表裏関係にある壁面近傍において表面と裏面とで測定対象ガスの濃度差を設け、高濃度側から低濃度側へガスの拡散を行なうために設ける。ここで雰囲気調整工程において、加熱乾燥工程を同時に行なっても良い。雰囲気調整工程は安定するまで多少の時間がかかり、加熱乾燥工程は加熱と冷却に多少の時間がかかるが、これらを同時に行なうことは可能であり、測定必要時間の短縮につながる。
【0045】
プラスック容器を例にとるとプラスチック容器の外部を測定対象ガス含有雰囲気とし且つプラスチック容器の内部をアルゴン雰囲気や窒素ガス雰囲気等のキャリアガス雰囲気とすることが好ましい。この場合、容器外部の測定対象ガス濃度が高濃度であり、容器内部の測定対象ガス濃度が低濃度となり、容器外表面から容器内表面に向かって測定対象ガスが樹脂中を拡散浸透する。なお、プラスチック容器は内表面又は外表面のいずれか一方若しくはその両面にガスバリア性薄膜をコーティングしたガスバリア性プラスチック容器であっても良い。
【0046】
酸素ガスバリア性を測定する一形態は、測定対象ガスを酸素ガスとし、測定対象ガス含有雰囲気は大気雰囲気とする。透過した酸素ガスを検出器に運搬するためにキャリアガスとしてアルゴンガス若しくは窒素ガスを例えば500〜2000ml/分の流量で流す。アルゴンガス若しくは窒素ガスは、定常状態となるまでは置換ガスとなる。
【0047】
本実施形態において、測定経路において水分子が存在すると測定精度の低下をもたらすので水分子は極力除去することが好ましい。すなわち、キャリアガスとして高純度アルゴン若しくは高純度窒素ガスを用い、且つ純化器をアルゴン供給源若しくは窒素ガス供給源の直後に設置して水分子の除去を行なうことが好ましい。
【0048】
酸素ガスバリア性、炭酸ガスバリア性、又は水素ガスバリア性をそれぞれ単独で若しくはこれらを組み合わせてガスバリア性を同時に測定する形態では、測定対象ガスを酸素ガス、炭酸ガス又は水素ガスのいずれか一つ或いはそれらの組み合わせとする。そして、測定対象ガス含有雰囲気は、測定対象ガスが所定分圧となるように調整した測定対象ガス−アルゴン雰囲気若しくは測定対象ガス−窒素ガス雰囲気とする。この場合、測定対象ガス−アルゴン雰囲気を作るために、酸素ガス−アルゴンガス、炭酸ガス−アルゴンガス、水素ガス−アルゴンガス、酸素ガス−炭酸ガス−アルゴンガス、酸素ガス−水素ガス−アルゴンガス、水素ガス−炭酸ガス−アルゴンガス又は酸素ガス−炭酸ガス−水素ガス−アルゴンガスをそれぞれ所定分圧に調整して標準ガスとして準備し、ガス経路に流すこととなる。或いは、測定対象ガス−窒素ガス雰囲気を作るために、酸素ガス−窒素ガス、炭酸ガス−窒素ガス、水素ガス−窒素ガス、酸素ガス−炭酸ガス−窒素ガス、酸素ガス−水素ガス−窒素ガス、水素ガス−炭酸ガス−窒素ガス又は酸素ガス−炭酸ガス−水素ガス−窒素ガスをそれぞれ所定分圧に調整して標準ガスとして準備し、ガス経路に流すこととなる。酸素ガスのガスバリア性を測定するときの測定対象ガス含有雰囲気を大気雰囲気とした場合と比較して、不純物ガス、特に水蒸気の影響が排除されるので測定精度の向上が見込める。
【0049】
酸素ガスバリア性を測定する別形態は、測定対象ガスを質量数18の酸素ガスとし、測定対象ガス含有雰囲気を質量数18の酸素ガスが所定分圧となるように調整した質量数18の酸素ガス−アルゴン雰囲気とするか或いは質量数18の酸素ガスが所定分圧となるように調整した質量数18の酸素ガス−窒素ガス雰囲気とする。質量数18の酸素ガスを用いる理由は次の通りである。通常の酸素ガスは質量数が16であり、大気圧イオン化分析法の検出器であるAPIMSは質量数の違いを検出できる。一方、ガス透過などの分子的性質は同位体元素であるため同一である。プラスチック樹脂中に質量数18の酸素ガスが当初から存在する割合は0.200%ときわめて低いため、測定対象ガスとして質量数18の酸素ガスを測定することでプラスチック樹脂中に当初から存在する酸素ガス(質量数16)の拡散浸透による検出誤差を分離できる。すなわち、質量数18の酸素ガスを測定すればプラスチック成形体を透過し始める様子がリアルタイムでわかる。
【0050】
質量数18の酸素ガスを測定対象ガスとして用いる場合の応用形態は、測定対象ガスを質量数16の酸素ガス、炭酸ガス又は水素ガスのうち少なくともいずれか1つのガスと質量数18の酸素ガスとの組み合わせとし、測定対象ガス含有雰囲気は、測定対象ガスが所定分圧となるように調整した測定対象ガス−アルゴン雰囲気の標準ガス、或いは測定対象ガスが所定分圧となるように調整した測定対象ガス−窒素ガス雰囲気の標準ガスを準備して当該雰囲気を作る。この場合、プラスチック樹脂中に当初から存在する酸素ガス(質量数16)の拡散浸透による検出誤差を分離できる他、炭酸ガス、酸素ガス、水素ガス又はこれらのガスを組み合わせた同時分析が可能となる。標準ガスを用いることで不純物ガスの影響を排除できる。
【0051】
測定対象ガス−アルゴンガスの標準ガスの組成及び測定対象ガス−窒素ガスの標準ガスの組成を表1に例示する。
【0052】
【表1】
Figure 0003699474
【0053】
測定対象ガス測定工程は、測定対象ガスが壁面の一方側から他方側に向かってプラスチック成形体を透過し、アルゴンガス若しくは窒素ガスをキャリアガスとして透過した測定対象ガスをガス検出器まで輸送して、検出される測定対象ガスの透過量が定常状態となったときに測定対象ガスのガス濃度を測定することで測定対象ガスの透過量を求める。例えばプラスチック容器を測定対象とした場合において、容器外部は測定対象ガスが所望の一定分圧含まれる雰囲気とする。一方容器内部は、アルゴンガス若しくは窒素ガスをキャリアガスとして透過した測定対象ガスを順次検出器まで輸送するので測定対象ガス濃度(分圧)は、ほぼゼロに近い。
【0054】
ここで、プラスチックのガス透過係数Pは、プラスチック中のガス拡散速度Dとプラスチックへのガス溶解度係数Sを用いて式1で示される。
(式1)P=D×S
プラスチックの気体透過量Qは、ガス透過係数P、透過面積A、透過時間t及び圧力pを用いて式2で示される。
(式2)Q=P×A×t×p
プラスチックの気体透過量Qは、式2で表すことができるが、実際の測定では、プラスチック容器の外部の測定対象ガス濃度(所定濃度である)と容器内部の測定対象ガス濃度(上記の通り測定対象ガス濃度はほぼゼロである)との濃度勾配が一定となる定常状態でなければ測定誤差を生じてしまう。プラスチック中を気体分子が拡散していき、プラスチック中の気体分子の濃度勾配が定常状態になるまでの時間を「遅れ時間」という。遅れ時間は、式3に示す如く、プラスチックの厚みの二乗に比例し、拡散係数に反比例する。
(式3)遅れ時間=(プラスチックの厚み)/(6×拡散係数D)
ここで、非特許文献1に示されたデータである表2を示す。
【0055】
【表2】
Figure 0003699474
【0056】
式3から明らかなように測定対象ガスの種類によって拡散係数Dは異なり遅れ時間も異なるが、各々の測定対象ガスが樹脂中を拡散浸透して透過し終えたときをもって測定対象ガスの透過が定常状態となったということができる。ただし、プラスチック成形体は複雑な形状であることもあり、全ての部位において透過が定常状態となっている必要があるため、測定対象ガスが透過したとの検出がされてから所定時間経過後にガス透過が定常状態となったと判断することが好ましい。さらに、容器の各部位において定常的に透過がなされる状態であっても、測定対象ガスが検出器に運搬されるまでに容器内部で滞留する。容器内部のガス(この場合、キャリアガスであるアルゴンガス若しくは窒素ガスと測定対象ガス)が一定濃度となってこのガス滞留の影響が消失してようやく定常状態となる。したがって、測定対象ガスの透過量が定常状態となるまでには、測定対象ガスの透過が定常状態となり且つ容器内部でのガス濃度が一定とならなければならない。
【0057】
測定対象ガスの検出はガス分析装置で行なう。好ましくは4重極型質量分析計や飛行時間差型質量分析計等の非偏向型質量分析計、若しくは磁場偏向型質量分析器、トロコイド型質量分析器、オメガトロン等の偏向型質量分析装置で行なう。さらに好ましくは大気圧イオン化質量分析装置を用いる。大気イオン化法(API、Atomospheric Pressure Ionization)による大気圧イオン化質量分析(APIMS、Atomospheric Pressure Ionization Mass Spectrum)は、微量な不純物でも分析できる手法であり、高感度かつリアルタイムで計測できる点に特徴がある。これはAPIMSのガス導入部が大気圧で動作できることによる。質量計で高感度化を図るためには検出目的成分のイオン化量を増大させる(高能率イオン化)ことが必要であるが、APIMSでは二段階イオン化により高能率イオン化を達成している。まず、はじめにイオン化部で微量の不純物を含んだ試料ガス(主成分:C、不純物:X)がコロナ放電により一次イオン化される。一次イオン化では、多くのイオン化法と同様に試料のほんの一部しかイオン化されない。生成されたイオンの組成は試料とほぼ同じで、大部分の主成分イオンCと、わずかの不純物イオンXよりなる。通常の減圧下で行われる電子衝撃イオン化法(EI)では、この一次イオン化に対応する一段階イオン化のみで生成されたイオンが検出されるので、目的の不純物イオンXの量が少なく、高感度検出が困難である。一方、大気圧イオン化法では、次の二次イオン化を利用してXの増大を図かる。すなわち、一次イオン化で生成されたイオンのうちCは分析目的に対し不用のイオンである。この不用のイオンCが、まだイオン化せずに残っている不純物Xをほとんど見つけだして、電荷交換反応により電荷を移動させる方法である。このイオン分子反応はイオン化ポテンシャルの高いものから低いものへ電荷が移動する反応である。キャリアガス(窒素、アルゴン、水素等)は、不純物分子(HO、O、CO、有機物など)より、イオン化ポテンシャルが高いので、不純物の高感度分析が可能となる。
【0058】
APIMSは、キャリアガスであるアルゴン若しくは窒素ガスを多量に流しても影響を受けにくい。したがって、キャリアガスを多く流すことでプラスチック容器内部でのガス滞留を抑制して、透過した測定対象ガスを直ちに検出器まで運搬することが可能となる。これにより検出の応答速度を高くすることができ、ほぼリアルタイムでの検出が可能となる。加えて容器内部のガス濃度が定常状態になるまでの待ち時間を短縮できる。また、キャリアガスを多くすれば必然的に透過した測定対象ガスの濃度(分圧)が低下するため、微量分析可能な検出法が要求される。以上の理由により、APIMSのようなキャリアガスを多く流しても検出精度が低下せず且つ微量分析できる手法が求められる。
【0059】
以上説明したとおり、加熱乾燥と大気圧イオン化分析装置の採用の組み合わせにより、容器をはじめとしたプラスチック成形体のガスバリア性を高精度且つ高速で測定することができる。
【0060】
特開平8−53116号公報で示されているMODERN CONTROL社製OX−TRANTWINを代表とする酸素バリア性測定装置は、キャリアガスを多く流すと測定精度が低下する。キャリアガス流量は最大50ml/分まで可能であるが、10ml/分程度で測定することが多い。一方、本実施形態に係る測定方法では、雰囲気調整工程及び測定対象ガス測定工程においてアルゴン雰囲気側に供給するアルゴンガスの1分間あたりの流量は、プラスチック容器の容量の2倍以上とすることが好ましく、例えば容量350mlの容器でキャリアガス流量を最大2000ml/分とすることができ、500〜1000ml/分程度で測定する。このように、特開平8−53116号公報で使用されている測定方法と比較して本実施形態に係る測定方法ではキャリアガス(パージガス)を50〜100倍程度多く流すことができるので、早期に定常状態にすることができる。特に内部が複雑な立体形状であるプラスチック容器のガスバリア性を評価するときに容器内部でのガス滞留を抑制してガス置換を速く行なうことができる。特開平8−53116号公報記載の上記酸素バリア性測定装置においても加熱乾燥工程を設けることで、水分の影響を除去して、早期に安定状態まで到達させることは可能である。
【0061】
なお、プラスチック中のガス透過係数は温度依存性及び湿度依存性があるので、恒温状態で測定を行なうことが必要である。
【0062】
例えば図1及び図2に示すような、プラスチック容器の内表面又は外表面のいずれか一方若しくはその両面にガスバリア性薄膜をコーティングするためのコーティングチャンバを複数配置して該コーティングチャンバを同時若しくは順次稼動させて量産的にコーティングを行なう量産機で製造したガスバリア性プラスチック容器について、本実施形態に係るプラスチック成形体のガスバリア性測定方法を応用することができる。すなわち、コーティングチャンバごとに所定本数の成膜を行なう度に加熱乾燥工程、雰囲気調整工程及び測定対象ガス測定工程を行ない、次いでコーティングチャンバ別にガスバリア性プラスチック容器のガスバリア性を比較してコーティングチャンバの稼動不良を判定するチャンバ稼動判定工程を行なう。
【0063】
図1は、コーティングチャンバ(成膜チャンバ)をサークル状に複数配列して、サークルが1回転する間にプラスチック容器の内表面又は外表面のいずれか一方若しくはその両面にガスバリア性薄膜をコーティングするコーティング装置の構成を示す概念図である。図2は、コーティングチャンバの配列と、回転位置に対応した各工程を示す概念図である。なお、コーティングチャンバに付したA,Bの記号は、高周波電源の種類を示しており、高周波電源A(不図示)と高周波電源B(不図示)が順次コーティングチャンバに高周波を供給する。
【0064】
ここでコーティングチャンバごとに所定本数の成膜を行なう度に加熱乾燥工程、雰囲気調整工程及び測定対象ガス測定工程を行なう。サークル状に整列した、ある1つのコーティングチャンバに着目する。例えば、図1の成膜装置はサークルが1回転するごとにガスバリア性薄膜を成膜するが、100回成膜するごと(サークルが100回転するごと)に成膜したプラスチック容器を抜き取り、当該プラスチック容器のガスバリア性を上記した本実施形態に係る測定方法にて測定する。別のコーティングチャンバについても同様とする。抜き取りの割合は量産機の製造速度に応じて適宜決定する。次いでコーティングチャンバ別にガスバリア性プラスチック容器のガスバリア性を比較する。各容器のガスバリア性の平均値と比較してガスバリア性が低い容器があれば、当該容器に対応するコーティングチャンバは稼動不良であることが推測され、コーティングチャンバの稼動不良との判定を行なう。このような場合、稼動不良のコーティングチャンバで成膜が行われたガスバリア性薄膜コーティングプラスチック容器はガスバリア性に品質不良である可能性が強いので、量産されたガスバリア性薄膜コーティングプラスチック容器から抽出して別途ガスバリア測定を行なうなどの品質確認を行なっても良い。なお、各コーティングチャンバの稼動の良否を判定するだけであれば、ガス透過量が完全に安定する状態の前にガス透過量を測定しても良く、この場合、測定条件を統一することが好ましい。
【0065】
次に本実施形態の具体的なガスバリア性測定手順を説明する前に、本測定方法を行なうためのガスバリア性測定装置の一形態について説明する。この装置は、測定方法を説明するために示すものであって、この装置構成に測定方法は限定されない。
【0066】
図3に、プラスチック容器のガスバリア性測定装置の一形態を示す概略構成図を示した。本装置の配管構成は、液体アルゴンタンク1、液体アルゴンの蒸発器2、減圧弁3及び水分子等の不純物を除去するゲッター4(日本API製、GT100)の順に配管で接続し、続いてゲッター4の川下で並列に分岐して設けたバイパスライン5及びペットボトル(PETボトル)ライン8と、バイパスライン5とペットボトルライン8が再び合流した後、再び純化器(日本API社製、MS−10J)14を通過して不純物を除去し、APIMS15(日立東京エレクトロニクス社製UG−240PN)により測定対象ガスを検出する構成とした。
【0067】
バイパスライン5は、マスフローコントローラー6、純化器7の順に配管で接続されており、ペットボトルライン8はマスフローコントローラー9、純化器10、ペットボトル11の内部空間、バルブB12、バルブA13の順に配管で接続されている。ペットボトル11には口部からガスを導入し再び口部からガスが排出されるようにガス供給配管16とガス排出配管17が口部に挿入されている。
【0068】
さらに、ペットボトル(PETボトル)11の外部の雰囲気を調整するために、標準ガスボンベ21(例えばAr(99%)−H(1%))、減圧弁22、マスフローコントローラー23、ポリプロピレン製袋等のペットボトル封入手段24の順に配管で接続したペットボトル外部雰囲気調整手段31を準備する。
【0069】
ポリプロピレン製袋等のペットボトル封入手段24でPETボトルを覆ってペットボトル外部雰囲気調整手段31を作動させてペットボトルの外部雰囲気を例えばAr(99%)−H(1%)にすると、測定対象ガスである水素がペットボトルの外表面から内表面に向かって拡散浸透して透過する。続いてペットボトルライン8を流れるアルゴンをキャリアガスとしてプラスチック容器の内部まで透過した水素が容器外に搬出され、APIMS15を用いてアルゴン中の水素濃度を検出する。
【0070】
加熱乾燥工程において、プラスチック成形体を加熱する手段は、成形体を加熱室に入れて熱風を吹き付ける装置(不図示)、プラスチック成形体にヒーターを巻き、アルミ箔等の熱伝導体で包んで成形体全体を加熱する装置(不図示)などが例示できる。プラスチック成形体を熱劣化、変形させない程度に全体的に加熱できる装置であればいずれでも良い。
【0071】
図3に示した装置を基にして、本実施形態に係るガスバリア性測定方法の操作手順について説明する。
【0072】
(1)バックグランド測定
マスフローコントローラー6にて、アルゴンガスを毎分1リットル流し(バイパスライン5に流す)バックグランドデータを測定する。この時、バルブA13を閉としておく。
【0073】
(2)ペットボトルのベーキング
(1)の間に、ペットボトル11のベーキングを行なう。例えば、アルミ箔等の熱伝導体で包んで容器全体を加熱する。マスフローコントローラー9にてペットボトル11にアルゴンガスを毎分1リットル流し、耐熱用のPETボトルの場合80℃で30分間ベーキングする。この時、バルブB12を開けてガスを排気しておく。なお、ペットボトル11ヘガスを流す際は、必ずバルブA13、バルブB12のどちらかのバルブを開けておく。また、加熱乾燥は、作用の欄で述べた通り、形状劣化及びガスバリア性薄膜の剥離、ひび割れ等の薄膜劣化を生じない程度の温度以下で、乾燥窒素ガス、乾燥アルゴンガス等の熱風を容器に吹き付けながら乾燥させることが好ましい。
【0074】
(3)ペットボトルラインでの分析(室内雰囲気)
加熱乾燥工程を終了するために、ペットボトル11に取り付けてあるヒーター及びアルミ箔を取り除く。バルブB12を閉め、バルブA13を開き、マスフローコントローラー6(バイパスライン5)のガスを止めペットボトルライン8での分析を開始する。この時、ペットボトルの周辺は大気(室内雰囲気)であり、この状態にて、所定時間、例えば1時間の分析を行なう。
【0075】
(4)ペットボトルラインでの分析(標準ガス:Ar(99%)−H(1%)雰囲気)
ペットボトル11にポリプロピレン製袋24を被せ、マスフローコントローラー23にて、Ar(99%)―H(1%)を毎分500cc流し、所定時間例えば1時間分析する。
【0076】
上記説明は測定手順を説明するためのものであり、標準ガスとして表1に示した組み合わせを用いても良い。
【実施例】
【0077】
(実施例1)
実施例では高さ157mm、胴径68mm、口径28mm、肉厚0.35mm、容量350ml、表面積320cmの耐熱丸型PETボトルを測定用容器とした。測定機器としては、図3に示したガス系統を有する装置を自作した。測定対象ガスの検出器として、APIMS(日立東京エレクトロニクス社製UG−240PN)を使用した。本実施形態に係るガスバリア性測定方法の操作手順(1)(2)(3)に従って測定を行なった。容器外部の雰囲気を室内雰囲気(大気雰囲気)としたときを実施例1とした。
【0078】
(実施例2)
実施例1に引き続き本実施形態に係るガスバリア性測定方法の操作手順(4)を行ない、容器外部の雰囲気を標準ガス:Ar(99%)―H(1%)雰囲気としたときを実施例2とした。
【0079】
実施例1及び2について、測定経過時間による酸素濃度及び水素濃度の変化を図4に示した。また、ガスバリア性測定方法の操作手順(1)のバックグラウンド測定時の質量数とイオン強度との関係を図5に示した。実施例1の酸素濃度測定時の質量数とイオン強度との関係を図6に示した。実施例2の水素濃度測定時の質量数とイオン強度との関係を図7に示した。
【0080】
(実施例3及び4)
実施例1と同じ耐熱丸型PETボトルの内表面にDLC膜を9nmの厚さで均一に成膜(成膜時間0.9秒)したものを測定対象容器とした。このとき、特開平8−53116号公報と同様の高周波プラズマCVD装置において成膜に供給する高周波電力の出力は500Wとした。測定は実施例1及び2と同様に行ない、容器外部の雰囲気を室内雰囲気(大気雰囲気)としたときを実施例3とし、容器外部の雰囲気を標準ガス:Ar(99%)―H(1%)雰囲気としたときを実施例4とした。
【0081】
実施例3及び4について、測定経過時間による酸素濃度及び水素濃度の変化を図8に示した。また、ガスバリア性測定方法の操作手順(1)のバックグラウンド測定時の質量数とイオン強度との関係を図9に示した。実施例3の酸素濃度測定時の質量数とイオン強度との関係を図10に示した。実施例4の水素濃度測定時の質量数とイオン強度との関係を図11に示した。
【0082】
(実施例5及び6)
実施例1と同じ耐熱丸型PETボトルの内表面にDLC膜を14nmの厚さで均一に成膜(成膜時間1.4秒)したものを測定対象容器とした。成膜条件は実施例3及び4の場合と同じとした。測定は実施例1及び2と同様に行ない、容器外部の雰囲気を室内雰囲気(大気雰囲気)としたときを実施例5とし、容器外部の雰囲気を標準ガス:Ar(99%)―H(1%)雰囲気としたときを実施例6とした。
【0083】
(実施例7及び8)
実施例1と同じ耐熱丸型PETボトルの内表面にDLC膜を19nmの厚さで均一に成膜(成膜時間1.9秒)したものを測定対象容器とした。成膜条件は実施例3及び4の場合と同じとした。測定は実施例1及び2と同様に行ない、容器外部の雰囲気を室内雰囲気(大気雰囲気)としたときを実施例7とし、容器外部の雰囲気を標準ガス:Ar(99%)―H(1%)雰囲気としたときを実施例8とした。
【0084】
(実施例9及び10)
実施例1と耐熱丸型PETボトルの内表面にDLC膜を24nmの厚さで均一に成膜(成膜時間2.4秒)したものを測定対象容器とした。成膜条件は実施例3及び4の場合と同じとした。測定は実施例1及び2と同様に行ない、容器外部の雰囲気を室内雰囲気(大気雰囲気)としたときを実施例9とし、容器外部の雰囲気を標準ガス:Ar(99%)―H(1%)雰囲気としたときを実施例10とした。
【0085】
実施例1〜10について酸素及び水素の透過量を測定した結果を表3に示す。透過量は安定後、13分間における透過量(ng)を定量した。この定量値をもとに各容器1本当たりの透過量(cc/day/pkg)を算出した。また、DLC膜の膜厚と酸素透過量との関係を図12に示し、DLC膜の膜厚と水素透過量との関係を図13に示した。なお、pkgはPackageの略である。
【0086】
【表3】
Figure 0003699474
【0087】
表3、図12及び図13の結果からわかるように、膜厚が大きくなるにつれてガス透過量が低下するという関係が明らかになり、酸素バリア性及び水素バリア性を評価することができた。このとき、図4を例として参照すると加熱乾燥工程から酸素バリア性測定が終了するまで約1.5時間、続けて水素バリア性測定を行ない終了するまで全測定時間として2.5時間と非常に短時間で測定可能であった。実施例1〜10では、例えば図4又は図8を参照すれば明らかなように、酸素ガス透過量又は水素ガス透過量は1.5時間程度で測定可能であり、酸素ガス透過量及び水素ガス透過量を続けて測定する場合には、加熱乾燥工程を1回省略できるので2.5時間で評価ができる。
【0088】
実施例1〜10では酸素ガスと水素ガスを測定する方法を示したが、表1に示した標準ガスを用いて容器外部の雰囲気を調整することで、炭酸ガスや酸素ガス(質量数18)のガス透過量について実施例と同様に短時間での測定ができる。
【0089】
(実施例11、比較例1)
加熱乾燥を行なった場合と、行なわない場合についてPET容器内に通流されるキャリアガス中の酸素濃度の変化を調べることで、酸素濃度が安定するまでの時間を比較する。PET容器は吸湿性が多い容器である。実施例1と同様の容器を用いて評価した。プラスチック容器を55℃3時間加熱乾燥した場合を実施例11とし、加熱乾燥しない場合を比較例1とした。なお、実施例11では加熱乾燥中にアルゴンガスを容器内部に1000ml/分の流量で流した。容器の外側は大気雰囲気とした。結果を図15に示す。図15は、PET容器内に通流されるキャリアガス中の酸素濃度の変化を示すグラフであり、加熱乾燥処理が有の場合と無の場合を示す。図15を参照すれば明らかなように、実施例11では、測定開始時(図中の経過時間4時間のとき)から、酸素濃度がほぼ40ppbで一定であり、加熱乾燥工程後は、直ぐに酸素透過度の評価を行なうことが可能である。一方、比較例1は酸素濃度が時間の経過とともに徐々に低下してゆき、図中の経過時間が38時間となるときにようやく酸素濃度がほぼ40ppbとなる。したがって、測定開始までの要する時間は、加熱乾燥工程を経た実施例11が明らかに短い。したがって、加熱乾燥工程を有する効果が明らかとなった。
【0090】
(実施例12、比較例2)
加熱乾燥を行なった場合と、行なわない場合についてポリエチレン容器内に通流されるキャリアガス中の酸素濃度の変化を調べることで、酸素濃度が安定するまでの時間を比較する。ポリエチレン容器は吸湿性が少ない容器である。実施例1と同じサイズの容器で評価した。プラスチック容器を70℃20分間加熱乾燥した場合を実施例12とし、加熱乾燥しない場合を比較例2とした。なお、実施例12では加熱乾燥中にアルゴンガスを容器内部に1000ml/分の流量で流した。容器の外側は大気雰囲気とした。結果を図16に示す。図16は、ポリエチレン容器内に通流されるキャリアガス中の酸素濃度の変化を示すグラフであり、加熱乾燥処理が有の場合と無の場合を示す。図16を参照すると、実施例12は測定開始時(図中の経過時間26分間のとき)から、酸素濃度が時間の経過とともに徐々に低下してゆく。一方、比較例2は測定開始時(図中の経過時間6分間のとき)から、酸素濃度が時間の経過とともに徐々に低下してゆく。しかし、実施例12のほうが比較例10よりも酸素濃度が低く、早期に酸素透過度が安定する。したがって、吸湿性が少ない容器とされるポリエチレン容器においても加熱乾燥工程を設けることによって、測定開始までの要する時間を短縮できる。したがって、加熱乾燥工程を有する効果が明らかとなった。
【0091】
(比較例3)
実施例1と同様の耐熱丸型PETボトル(無コーティングボトル)を測定用容器とした。本実施形態に係るガスバリア性測定方法の操作手順(2)の加熱乾燥工程を行なう代わりに、加熱せずにアルゴンを1リットル/分の流量で10時間流した後、酸素の濃度測定を行ない、これを比較例3とした。
【0092】
比較例3ではアルゴンを1000cc/分で10時間流してようやく値が安定した。実施例1と比較すると、水分子除去のための乾燥に要する時間がかかり迅速測定が不可能であった。
【0093】
(比較例4、5、6、7及び8)
実施例1、2で測定した無コーティングプラスチック容器、実施例3、4で測定した成膜時間0.9秒のコーティングプラスチック容器、実施例5、6で測定した成膜時間1.4秒のコーティングプラスチック容器、実施例7、8で測定した成膜時間1.9秒のコーティングプラスチック容器、実施例9、10で測定した成膜時間2.4秒のコーティングプラスチック容器について、Mocon社製、OX−TRAN2/21を用いて、容器内部を23℃−55%RH,容器外部23℃−100%RH、酸素分圧21%として酸素透過量(cc/day/pkg)の測定を行なった。これを表4に示すように順に比較例4、比較例5、比較例6、比較例7、比較例8とした。測定時間は、1日後、2日後、3日後、4日後、5日後及び6日後をそれぞれ測定した。この結果を表5に示した。
【0094】
【表4】
Figure 0003699474
【0095】
【表5】
Figure 0003699474
【0096】
比較例4〜8について、測定経過時間と酸素透過量との関係を図14に示した。
【0097】
比較例4〜8では、加熱乾燥工程を設けず且つキャリアガスであるアルゴンガスを多量に流すことができない。このとき、測定データが安定するまでは長時間を要する。この長時間の間に水分子が除去され、且つ容器内部がガス置換されると推測している。図14を参照すると明らかなように酸素透過量が安定するまでおおよそ5〜6日間要する。実施例1、3、5、7及び9において測定開始後1.5時間で酸素透過量を測定終了できたことと比較して非常に評価時間がかかることがわかる。

Claims (16)

  1. プラスチック容器、プラスチックシート又はプラスチックフィルム等のプラスチック成形体を透過する測定対象ガスの透過量をガス分析装置により測定するガスバリア性測定方法において、前記プラスチック成形体を変形又は熱劣化させない温度範囲にて加熱して乾燥させる加熱乾燥工程を有し、該加熱乾燥工程が終了した後に測定を開始することを特徴とするプラスチック成形体のガスバリア性測定方法。
  2. 前記プラスチック成形体の壁面の一方側を測定対象ガス含有雰囲気とし、且つ前記壁面の表裏関係となる他方側を、透過後の前記測定対象ガスを前記ガス分析装置まで運ぶキャリアガス雰囲気とする雰囲気調整工程をさらに有することを特徴とする請求項1記載のプラスチック成形体のガスバリア性測定方法。
  3. 前記キャリアガス雰囲気は、アルゴン雰囲気若しくは窒素ガス雰囲気であることを特徴とする請求項2記載のプラスチック成形体のガスバリア性測定方法。
  4. 前記雰囲気調整工程において、前記加熱乾燥工程を同時に行なうことを特徴とする請求項2又は3記載のプラスチック成形体のガスバリア性測定方法。
  5. 前記測定対象ガスが前記壁面の一方側から他方側に向かって前記プラスチック成形体を透過して前記測定対象ガスの透過量がほぼ定常状態となったときに前記ガス分析装置により前記透過量を測定する測定対象ガス測定工程をさらに有することを特徴とする請求項2、3又は4記載のプラスチック成形体のガスバリア性測定方法。
  6. 前記加熱乾燥工程は、前記プラスチック成形体が吸湿した水分を除去する工程を含むことを特徴とする請求項1、2、3、4又は5記載のプラスチック成形体のガスバリア性測定方法。
  7. 前記加熱乾燥工程は、前記プラスチック成形体の壁面の一方側に吸着された吸着ガスを前記測定対象ガス含有雰囲気のガスに置換し、且つ前記プラスチック成形体の壁面の表裏関係となる他方側に吸着された吸着ガスを前記キャリアガス雰囲気のガスに置換する工程を含むことを特徴とする請求項2、3、4、5又は6記載のプラスチック成形体のガスバリア性測定方法。
  8. 前記ガス分析装置は質量分析装置であることを特徴とする請求項1、2、3、4、5、6又は7記載のプラスチック成形体のガスバリア性測定方法。
  9. 前記質量分析装置は大気圧イオン化質量分析装置(APIMS)であることを特徴とする請求項8記載のプラスチック成形体のガスバリア性測定方法。
  10. 前記プラスチック成形体はプラスチック容器であるか、或いは内表面又は外表面のいずれか一方若しくはその両面にガスバリア性薄膜をコーティングしたガスバリア性プラスチック容器であり、前記雰囲気調整工程において、容器外部を測定対象ガス含有雰囲気とし且つ容器内部を前記キャリアガス雰囲気としたことを特徴とする請求項2、3、4、5、6、7、8又は9記載のプラスチック成形体のガスバリア性測定方法。
  11. 前記測定対象ガスを酸素ガスとし、前記測定対象ガス含有雰囲気は大気雰囲気であることを特徴とする請求項2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載のプラスチック成形体のガスバリア性測定方法。
  12. 前記測定対象ガスを酸素ガス、炭酸ガス又は水素ガスのいずれか一つ或いはそれらの組み合わせとし、前記測定対象ガス含有雰囲気は、前記測定対象ガスが所定分圧となるように調整した測定対象ガス−アルゴン雰囲気であるか或いは測定対象ガス−窒素ガス雰囲気であることを特徴とする請求項2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載のプラスチック成形体のガスバリア性測定方法。
  13. 前記測定対象ガスを質量数18の酸素ガスとし、前記測定対象ガス含有雰囲気は、質量数18の酸素ガスが所定分圧となるように調整した質量数18の酸素ガス−アルゴン雰囲気であるか或いは質量数18の酸素ガス−窒素ガス雰囲気であることを特徴とする請求項2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載のプラスチック成形体のガスバリア性測定方法。
  14. 前記測定対象ガスを質量数16の酸素ガス、炭酸ガス又は水素ガスのうち少なくともいずれか1つのガスと質量数18の酸素ガスとの混合ガスとし、前記測定対象ガス含有雰囲気は、前記測定対象ガスが所定分圧となるように調整した測定対象ガス−アルゴン雰囲気であるか或いは測定対象ガス−窒素ガス雰囲気であることを特徴とする請求項2、3、4、5、6、7、8、9又は10記載のプラスチック成形体のガスバリア性測定方法。
  15. 前記プラスチック容器は、プラスチック容器の内表面又は外表面のいずれか一方若しくはその両面にガスバリア性薄膜をコーティングするためのコーティングチャンバを複数配置して該コーティングチャンバを同時若しくは順次稼動させて量産したガスバリア性プラスチック容器であり、前記コーティングチャンバごとに所定本数の成膜を行なう度に前記加熱乾燥工程、雰囲気調整工程及び前記測定対象ガス測定工程を行ない、次いで前記コーティングチャンバ別に前記ガスバリア性プラスチック容器のガスバリア性を比較してコーティングチャンバの稼動不良を判定するチャンバ稼動判定工程を行なうことを特徴とする請求項5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14記載のプラスチック成形体のガスバリア性測定方法。
  16. 前記雰囲気調整工程及び前記測定対象ガス測定工程において、前記キャリアガス雰囲気側に供給する1分間あたりのアルゴン流量或いは1分間あたりの窒素流量は、前記プラスチック容器の容量の2倍以上とすることを特徴とする請求項5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15記載のプラスチック成形体のガスバリア性測定方法。
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