JP3697922B2 - ねじり疲労特性に優れた高強度駆動軸とその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、回転の不釣り合いを調整するバランスウェイトが取付けられた動力伝達用駆動軸とその製造方法に関する。さらに詳述すれば、本発明は、乗用車・トラックのようなエンジン推進車両のエンジン推進力を各車輪に伝える駆動軸、例えばプロペラシャフト、ドライブシャフトといった駆動軸とその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車や産業機械などにおいてエンジンからの動力伝達用に長尺の駆動軸が使用されている。この駆動軸は高速回転するため、回転バランスが悪ければ振動が発生し、騒音や故障の原因となる。このため駆動軸では、回転時の不釣り合いを調整する必要がある。その方法には種々あるが、駆動軸の一部にバランスウェイトをプロジェクション溶接で接合する方法が一般に多用されている。
【0003】
プロジェクション溶接ではバランスウェイトの湾曲面の内側に1個あるいは数個のプロジェクション (突起) を設け、この突起を中空軸に押し付けながら通電し、そのときの抵抗発熱を利用して溶接を行うものである。
【0004】
ところで、近年、環境問題などから自動車の低燃費化が求められ、駆動軸については軽量化が求められている。そのため駆動軸の素材である鋼板にも高強度・薄肉化が進められている。現在、目標とされているのは50kgf/mm2 以上の引張強度、厚さ3.0mm 以下の薄板から駆動軸を製造することである。
また、従来の仕様のものであっても、駆動軸という最重要部品の信頼性の改善のために、更なる疲労寿命の改善が求められている。
【0005】
このような高強度薄板材料で制作した駆動軸に、従来の電気抵抗を利用したプロジェクション溶接でバランスウェイトを取り付けると、バランスウェイトの接合部には、駆動中のねじり荷重の繰り返しによる疲労亀裂が発生する可能性がある。この現象は、従来の仕様の駆動軸においても見られたが、材料が高強度化され、また薄肉化されると特に顕著になってくる。
【0006】
このような疲労強度の低下に対する改善策は従来にあってもいくつか提案されている。
例えば、特開平7−317844号公報では、バランスウェイトの接合部におけるプロジェクションの径Dに対する接合部の径dの比(d/D) が0.6 〜1.0 となるような溶接を行って接合部の応力集中を緩和し、さらに材料を低炭素鋼化することにより溶接による熱影響部の硬化度を小さくすることで疲労に対する切り欠き感受性を小さくし、疲労強度を向上させる方法が提案されている。
【0007】
また、特開平9−291974号公報ではバランスウェイトのプロジェクション (突起) の直径を1.5 〜4.0 mmとすることにより接合部の幾何学形状を改善して疲労寿命を向上させる方法が提案されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特開平7−317844号公報の開示する方法は、バランスウェイトの接合部に対する応力集中を緩和することでバランスウェイトの溶接部の疲労寿命向上に効果はあるものの、更なる疲労寿命の改善が求められ、特に引張強さが50kgf/mm2 以上で、厚さ2.0mm 以下というような薄肉高強度鋼管の場合には決定的な方法とは言えない。
【0009】
一方、特開平9−291974号公報の開示する方法では、応力集中が生じることには変わりなく、溶接時の急熱急冷による金属組織の変化による影響が解決されていないので、大きな疲労寿命の改善は望めない。
【0010】
本発明の目的は、疲労寿命をさらに改善して信頼性をさらに高めた駆動軸、特に引張強さが50kgf/mm2 以上の高強度材料の薄肉の鋼管で製作された駆動軸であっても疲労寿命の長い駆動軸、およびこのような駆動軸を製造する方法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
従来の知見では、バランスウェイトを接合した引張強さが50kgf/mm2 以上の高強度材料で製造した駆動軸をねじり疲労試験にかけた場合に、バランスウェイト接合部が優先的に破損する。そこで、駆動軸のねじり疲労寿命の向上のためには、バランスウェイト接合部の疲労寿命のさらなる向上が必要となる。
【0012】
ところで、前述の特開平7−317844号公報に記載の方法において必ずしも疲労寿命が十分でない原因を検討した結果、次のような知見を得た。
すなわち、上記公報では、バランスウェイトをプロジェクション溶接で鋼管に接合する場合、接合部のコーナの位置がプロジェクション溶接による熱影響部の端部にほぼ一致している。そのため、応力集中が生じる部分と熱影響による硬度急変部が一致しているので破損し易い状態となるのである。
【0013】
そこで、種々検討の結果、疲労寿命を改善するには、バランスウェイトの接合部のコーナの位置とプロジェクション溶接による熱影響部の端部との重なりを防止すること、例えば接合部のコーナを熱影響部の端部から内側に0.5 mm以上の位置にくるようにすればよいことが判明した。
【0014】
このように接合部のコーナの応力集中が生じる部分と、硬度が急変することによる疲労に対する切り欠き感受性の大きい部分とが相対的に離れた位置にくることになり、したがって、バランスウェイトの接合部全体としての疲労寿命は向上することになる。
【0015】
ここに、本発明の要旨とするところは次の通りである。
(1)駆動軸を構成する中空軸の一部にバランスウェイトがプロジェクション溶接によって接合されている動力伝達用駆動軸であって、前記中空軸は、引張強さが50kgf/mm2以上、厚さ 2.0mm 以下の鋼板から構成される鋼管であり、この鋼管とバランスウェイトとの接合部のコーナの位置がプロジェクション溶接による熱影響部の端部から0.5 mm以上離れた位置にあることを特徴とするねじり疲労特性に優れた高強度駆動軸。
【0016】
(2) 前記鋼板の炭素含有量が0.05〜0.12重量%である上記(1) 記載の高強度駆動軸。
(3) 前記接合部の最大ビッカース硬さと前記鋼管のビッカース硬さとの差 (δHv) が150 以下である上記(1) または(2) 記載の高強度駆動軸。
(4) 前記バランスウェイトが、引張強さが50kgf/mm2 以上の鉄鋼材料から成る上記(1) ないし(3) のいずれかに記載の高強度駆動軸。
【0017】
(5) 駆動軸を構成する中空軸の一部にバランスウェイトをプロジェクション溶接によって接合することから成り、バランスウェイトの溶接する面に設けたプロジェクションを、その1個当たりの圧力を100 〜500kgfとして前記中空軸に押圧し、プロジェクション1個当たりの電流を7〜30kA として100 〜300ms の時間で前記プロジェクション溶接を行うことを特徴とする、上記(1) ないし(4) のいずれかに記載の高強度駆動軸の製造方法。
(6) 前記プロジェクション溶接が、直流電流による電気抵抗溶接である上記(5) に記載の高強度駆動軸の製造方法。
【0018】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明におけるバランスウェイトの駆動軸への接合の様子を説明する模式図である。
【0019】
図中、その一部を断面で示す駆動軸10の表面には予めプロジェクション11が設けられたバランスウェイト12がプロジェクション溶接によって接合されており、バランスウェイト12と駆動軸10との接合部14のコーナ16は、プロジェクション溶接によって駆動軸側に形成された熱影響部20の端部22より0.5 mm以上内側にきており、両者が重なることはない。
【0020】
プロジェクション溶接によるバランスウェイトの駆動軸への接合はすでに公知であって、本発明にあっても、上述の形態での接合が実現される限り、そのような公知の手段、条件によって行えばよく、それによって本発明が制限されることはない。例えば、バランスウェイト12に設けられるプロジェクション11は1もしくは複数であてもよく、その形状も、その断面が図示例のように半円球硬形であっても、あるいは円錐台形、円柱形であってもよい。
【0021】
本発明によれば、溶接時に溶接熱の影響を受けて硬化する領域、つまり熱影響部は母材部分より高硬度となり、硬度変化は中心部から周囲に向かって硬度の低減がみられ、そのとき母材と等しい硬度となる境界面を熱影響部の端部という。
【0022】
図2はこの熱影響部20における円周方向への板厚部における硬度変化を示すグラフである。図中、3種類の鋼管 (○印、□印、△印) について、熱影響の受けていない母材側から溶接部に向けて順次硬度測定した結果を示し、硬度の急変がみられる領域を熱影響部の端部と称する。
【0023】
ここで、本発明において上述のような各限定を行う理由を説明する。
まず、鋼管とバランスウェイトとの接合部のコーナの位置がプロジェクション溶接による熱影響部の端部から0.5 mm以上離れた位置にあるとした理由は、熱影響部からの距離が0.5 mm未満では応力集中部と硬度の変化の大きい部分が干渉し合うので疲労寿命向上の効果がなくなるからである。好ましくはその距離は、1.0mm 以上である。
【0024】
このような形態の溶接を実現するには、例えば、溶接入熱量を大きくした長時間の溶接を行うことで実現できる。ただし、必要以上に溶接入熱を上げると鋼管には溶融・凝固に伴い体積収縮が生じることによる引張残留応力が広範囲にわたり生じるため、疲労強度が低下する原因となるため、注意が必要である。
【0025】
また、鋼管の材料をC含有量が0.05〜0.12重量%の低炭素高強度鋼管とすることによりさらに疲労寿命の向上を図ることができるが、それは、低炭素鋼化することにより、接合部のプロジェクション溶接による熱影響部の硬化度δHv (鋼管の母材部と熱影響部との硬度の差) が通常はHv200 を越えるところを200 以下とすることができるからである。この効果は硬化度(δHv)をHv150 以下とすることでさらに顕著になる。
【0026】
さらに、バランスウェイトの材料を引張強さが50kgf/mm2 以上、さらには、70kgf/mm2 以上の高強度鉄鋼材料とすることにより、プロジェクション溶接によりバランスウェイト側に生じた引張残留応力値が増加し、その分だけ鋼管側の残留応力値が低下するので、疲労寿命は向上する。
【0027】
本発明にかかる高強度駆動軸の製造に際しては、バランスウェイトの溶接面に設けたプロジェクションを、その1個当たりの加圧力を100 〜500kgfとして中空軸に押圧し、上記プロジェクション1個当たりの電流を7〜30kAとして100 〜300ms の時間で溶接を行う。好適加圧力は 150〜350kgf、好適電流は8〜15kAである。
【0028】
この方法により、バランスウェイトの接合部のコーナの位置がプロジェクション溶接による熱影響部の端部から0.5 mm以上の位置にあるように接合することができる。
【0029】
本発明の場合、プロジェクションの大きさ、つまり直径は問題にならず、いずれの大きさのプロジェクションであっても、上述のように溶接条件を変更することで、接合部のコーナを溶接熱影響部の端部から0.5mm 以上離れたものとすることができる。
上記溶接電源には、交流、直流のいずれを使用してもよいが、接合部形状安定のため直流電流を用いるのが望ましい。
【0030】
このように本発明の駆動軸の特徴は、鋼管とバランスウェイトとの接合部において、接合部のコーナと熱影響部の端部との距離が0.5 mm以上であり、そして鋼管として高強度鋼管を用いることであり、その好適態様によれば、低炭素鋼高強度鋼鋼管を用いることであり、さらに好ましくは熱影響部の最大ビッカース硬度と母材である鋼管のビッカース硬度との差、すなわち硬化度がHv150 以下であること、あるいはバランスウェイトの材質を50kgf/mm2 以上の引張強さを有する鉄鋼材料とすることである。
【0031】
図3は、従来の駆動軸の例を示すもので、駆動軸10の表面にはバランスウェイト12がプロジェクション溶接によって両者の接合部を介して接合され、その周囲には熱影響部が形成されている。
【0032】
図示のように、従来の接合部の形状では、応力集中するコーナの位置と溶接時の熱影響による駆動軸の硬度急変部、つまり熱影響部の端部の位置が一致するので、繰り返し荷重を受けた場合に薄肉の材料では疲労亀裂が発生し易くなる。一方、本発明によれば接合部のコーナの位置が熱影響部の内側にあり、硬度急変部の位置から離れているため、応力集中が生じてもコーナからは割れにくい。さらに材料を低炭素鋼としたことにより母材部と熱影響部に見られる硬化部との硬度差が小さいので硬度急変部においても割れにくくなる。
【0033】
かくして、本発明によれば、疲労寿命は従来例の駆動軸と比較して、ほぼ100 %増加することになり、駆動軸としての信頼性はさらに改善され、また駆動軸を構成する鋼管の板厚をほぼ 1.6〜1.8 mmとしても従来と同等の疲労寿命が得られるなど、実用上の利益は大きい。
【0034】
【実施例】
実施例1
表1に示す成分組成を有する鋼を溶製し、鋼片に鋳造したのち熱間圧延して板厚1.6 mmの熱延鋼板を製造し、これを使って外径60.5mmの電縫鋼管を作成した。得られた電縫鋼管を長さ450 mmに切断し、両端にヨークを摩擦圧接にて取り付けた。さらに、鋼板を加工して作成したバランスウェイトをプロジェクション溶接にて取り付けて試験片とした。
【0035】
作成した試験片を用いて、トルク振幅1.80kN・m の繰り返しねじり荷重を負荷する疲労試験を行い、ねじり疲労寿命を調査した。
結果を表2にまとめて示す。
【0036】
表2の結果からも分かるように、本発明例のバランスウェイトの接合部のコーナと熱影響部の端部との距離が0.5 mm以上あるものは、疲労寿命が長く、バランスウェイト溶接部から破損することもなかった。また、炭素量が0.12%以下の鋼管A、Bは、同じく炭素量が0.12%を越える鋼管C、Dの場合よりも疲労寿命は長くなる。鋼管の熱影響部の硬度化δHvもHv150 以下となる場合の方が長寿命となることが分かる。
【0037】
実施例2
鋼管A、BにおいてバランスウェイトをTS80キロ級とした場合についても実施例1を繰り返し同様に疲労試験を行った。結果は表3にまとめて示す。
表3からも分かるように、バランスウェイトの引張強度を50kgf/mm2 以上とすることによってさらに疲労寿命は向上する。
【0038】
実施例3
鋼管A、Bを用い、溶接条件を種々変更してバランスウェイトを溶接し、得られた試験片について実施例1と同様に疲労試験を行った。
結果は表4にまとめて示すが、これからも分かるように、バランスウェイトを規定外の溶接条件で取り付けると疲労寿命も短くなる。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
【表4】
【0043】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明によれば、引張強度50kgf/mm2 以上の高強度材料からの高強度駆動軸の疲労強度の改善効果が特に顕著であって、特に近年の低燃費自動車用としての実用上の利益は大きく、本発明の斯界における貢献は大である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明におけるバランスウェイトの駆動軸への接合の様子を説明する模式図である。
【図2】熱影響部における硬度変化を示すグラフである。
【図3】従来例によるバランスウェイトを接合した駆動軸の疲労亀裂の発生の様子を説明する模式図である。
Claims (6)
- 駆動軸を構成する中空軸の一部にバランスウェイトがプロジェクション溶接によって接合されている動力伝達用駆動軸であって、前記中空軸は、引張強さが50kgf/mm2以上、厚さ 2.0mm 以下の鋼板から構成される鋼管であり、この鋼管とバランスウェイトとの接合部のコーナの位置がプロジェクション溶接による熱影響部の端部から0.5 mm以上離れた位置にあることを特徴とするねじり疲労特性に優れた高強度駆動軸。
- 前記鋼板の炭素含有量が0.05〜0.12重量%である請求項1記載の高強度駆動軸。
- 前記接合部の最大ビッカース硬さと前記鋼管のビッカース硬さとの差(δHv) が150 以下である請求項1または2記載の高強度駆動軸。
- 前記バランスウェイトが、引張強さが50kgf/mm2以上の鉄鋼材料から成る請求項1ないし3のいずれかに記載の高強度駆動軸。
- 駆動軸を構成する中空軸の一部にバランスウェイトをプロジェクション溶接によって接合することから成り、バランスウェイトの溶接する面に設けたプロジェクションを、その1個当たりの圧力を100 〜500kgfとして前記中空軸に押圧し、プロジェクション1個当たりの電流を7〜30kA として100 〜300ms の時間で前記プロジェクション溶接を行うことを特徴とする、請求項1ないし4のいずれかに記載の高強度駆動軸の製造方法。
- 前記プロジェクション溶接が、直流電流による電気抵抗溶接である請求項5に記載の高強度駆動軸の製造方法。
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