JP3693424B2 - 反応剤用鉄粉の製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は食品や化学薬品等の脱酸素剤や発熱剤その他の反応剤として使用される反応剤用鉄粉およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鉄粉の用途には、粉末冶金用や溶接棒以外に、近年脱酸素剤や発熱剤のような、鉄の酸化反応を用いた反応剤としての利用方法が増えている。1例として、脱酸素剤について説明すると、脱酸素剤用鉄粉は近年、食品の保存剤として利用されはじめてきたものである。例えば菓子類等の包装箱の中に脱酸素剤を入れることにより、ビニール包装した中の雰囲気は脱酸素剤により無酸素状態になり、バクテリアやカビ等による菓子の腐敗が抑制され、新鮮度を保つことができる。
【0003】
この脱酸素剤として、鉄が酸素と反応して雰囲気中にある酸素を奪うことができる機能を有し、また鉄及び酸化鉄が人体に対し有害な材料ではないこと、且つ安価で手頃な材料であること等の理由から、鉄粉が用いられてきた。このような目的に使用する鉄粉として、従来からアトマイズ粉や還元鉄粉が使用されてきたが、アトマイズ粉よりも多孔質な、言い換えれば反応面積が大きくて、脱酸素性能が期待できる還元鉄粉が脱酸素剤用鉄粉として求められてきた。しかし、還元鉄粉ではアトマイズ鉄粉よりも脱酸素反応により生じる発生ガス(例えば、水素ガス)の発生量が多いという問題点があった。このように水素ガスが発生すると包装剤の袋を膨らませるために、発生するガス量を抑制し、好ましくは全くなくすることが求められてきた。しかるに、脱酸素反応により発生するガス(例えば、水素ガス)の発生量を確実に制御できる方法はなく、勘と経験で、熱処理条件等を設定し、発生水素ガス量を低減するしか方法がなく、再現性がある処理方法が見出だせない状況にあった。
【0004】
【発明が解決しようとする問題点】
従来の還元鉄粉では、脱酸素剤や使い捨てカイロとして使用する際に、脱酸素反応が進行することに伴って水素ガス等が発生し、包装袋が水素ガス等で膨らむという問題があった。脱酸素反応は還元鉄粉が雰囲気中の酸素により酸化される反応を活性化させる為に、触媒としてNaCl(塩)と空気中の水または保水剤から補給される水とを用いて行わせている。この水が還元鉄粉により触媒的に分解されているものと考えられ、水の分解を抑制する目的で還元鉄粉を表面処理剤で被覆したり、還元鉄粉の表面の粉体pHを調節したり、熱処理条件を変更したりなどして抑制方法が模索されてきたが、再現性のある適当な方法がなかった。
【0005】
【問題点を解決するための手段】
そこで、還元する鉄原料自体やその粉砕条件、還元条件等を変えて作製した種々の試料のガス発生状況を調べた結果、ガス発生が抑制された試料は常温では不安定なウスタイト相(FeO)が熱処理前に比較して激減しており、ウスタイトと鉄の存在比をX線強度比で調べた結果、ウスタイトの強度比が下がるとガス発生量も減る関係があり、ウスタイトがない試料ではガスが全く発生しないことを発見した。本発明は還元鉄粉中に含まれるウスタイトの残留量が少ないと、その少なさにしたがってガス発生量(例えば、水素ガス)が減る効果がある関係を用いて、ウスタイトの残留量を熱処理条件等で管理し、発生するガス量を低減する発明である。
【0008】
【作用】
脱酸素剤用鉄粉は、ミルスケールや鉱石等を水素、またはチャー炭、コークス等の還元剤を用いて、1200℃程度以下の温度で還元した後、還元ケーキをハンマーミルやジョークラッシャー等で粗粉砕し、ノボローター、パルペライザーや振動ボールミル等で、所定の粒径(500μm〜45μm)まで粉砕し製造してきた。この際、粗粉砕後の粉や所定の粒径まで粉砕した粉を窒素、Arガス等の不活性ガス、または、水素ガス、コークス等の還元性ガスによる還元性雰囲気で熱処理する場合もある。
【0009】
脱酸素剤用鉄粉としては、酸素吸収量が大きいこと、初期の酸素吸収速度が大きいこと、ガス発生量が少ないこと、鉄粉の見掛け密度が大きいこと等が要求される。酸素吸収量は鉄粉の鉄品位が100%に近いものが良い。酸素吸収速度を大きくするためには、還元温度を低めに設定し、細孔をもった比表面積の大きな鉄粉とすることが必要であり、例えば0.1m2以上の比表面積を持つものであることが好ましい。また、鉄粉の見掛け密度は2.0g/cc以上のものが好ましい。
【0010】
ガス発生量は、基本的に0が望ましいが、従来、このガス発生量を抑制する方法として、熱処理や添加剤の使用等が検討されてきたが、ガス発生を効果的に抑制する方法が見いだせなかった。
【0011】
ところが、ガス発生量に違いのある種々の試料の相違点を鋭意調べた結果、ウスタイトの量に違いのあることが分かった。そこで、ウスタイトの量とガス発生量の関係を調べるために鉄原料にミルスケール、または鉄鉱石を用いて、1300℃程度以下の温度で還元して、鉄品位が50〜95%の還元ケーキを作製し、その還元ケーキを粉砕して、平均粒径を200μm〜40μm程度範囲の鉄粉を作製した。この粉のガス発生量とウスタイトの関係を調べた結果、ガス発生に直接関係するウスタイト相は、鉄粉の還元工程、または粉砕工程で生成され存在していることが分かった。
【0012】
ウスタイト相のX線解析は理学電機株式会杜のX線解析装置(RINT)を用いて評価を行い、ウスタイトの量を鉄の110面のピークの積分強度とウスタイトの220面のピークの積分強度の比として評価した(図1)。
【0013】
逆にこのことから、ウスタイト量を管理すれば、鉄粉が発生するガス量を管理できることが分かった。すなわち、ウスタイトの量を鉄とのX線ピーク強度比として5%以下にするとガス発生量は1ml/g以下となり、この強度比以下に管理することにより、発生ガス量を1ml/g以下に管理できるし、またガス発生量を0に近づける場合にはウスタイトの強度比を0に近づければ良い。本来、鉄粉原料は還元工程や粉砕工程で形成されるウスタイト量の違いを持つものであるが、従来はこのウスタイトの量に合った熱処理条件を設定していなかった為に再現性が全く得られなかったのに対し、本発明では、発生するガスの量を決めるウスタイトを除去するための熱処理条件を設定することで、発生するガスの量を再現性良く低減することができた
このウスタイト相を低減するための製造方法として熱処理条件を検討した結果、200〜500℃の温度範囲で、ウスタイトの強度比に応じて熱処理時間を設定し、且つ脱酸素性雰囲気中で熱処理することが有効であることが分った。あるいは熱処理雰囲気の酸素濃度を例えば、10%以下にすることが好ましいと分った。酸素濃度が高いと熱処理中に鉄粉の酸化反応が進行し、脱酸素性能が低下するので、鉄のメタル品位がある程度維持できるように雰囲気や酸素濃度を管理する必要がある。
【0014】
次に粉砕を繰り返すことにより、ガスの発生量が増える現象を鋭意調べた結果、粉砕を繰り返すことで鉄粉の結晶歪みが大きくなることがX線解析によって判明し、この結晶歪みが大きいとガス発生量が多くなることが分かった。そこて、結晶歪みを小さくするために、熱処理を行うとガス発生量が少なくなることを確認した。この際、この熱処理条件としては、非酸化性雰囲気中で900℃以下が適当であることが分かった。酸化性雰囲気でも熱処理はできるが、酸化反応か進行するので好ましくない。
【0015】
X線解析による結晶歪みの定量化はシェラーの式より求めた。
【0016】
鉄粉の原料として用いるミルスケールや鉱石に炭酸カルシウムを添加し、それを水素、またはチャー炭、コークス等の還元剤を用いて、1300℃程度以下の温度で還元した後、還元ケーキをハンマーミルやジョークラッシャー等で粗粉砕し、ノボローター、パルペライザーや振動ボールで微粉砕したものを未熱処理で、脱酸素剤用鉄粉として評価した結果、炭酸カルシウムを添加することで、水素ガスの発生量を抑制する効果があることが分かった。炭酸カルシウムの添加量としては0.1wt% 以上であることが好ましく、また酸化カルシウムや塩化カルシウムでも同様な結果が得られており、カルシウム化合物であれば同様な効果があるものと思われる。
【0017】
本発明は、還元鉄粉だけではなく、例えばアトマイズ法のような他の製法で作製した鉄粉でも同様な効果がある。
【0018】
【実施例1】
径が10mm程度の鉄鉱石に、コークスを10wt% の量で混合し、更に炭酸カルシウムの量を0.01〜1wt% の範囲で加え混合を行った。この混合物2kgを鉄の片側端閉の円筒容器に入れ、鉄製の蓋で密閉した。この容器をマッフル炉に入れ、大気中で600℃/hr で昇温し、1180℃で3時間保持後、自然放冷を行った。冷却後、還元ケーキをハンマーミルで粗粉砕し、5mm以下の粗粉にした後、パルペライザーで微粉にし、180μm以下の粉を作製した。この粉を食塩水を含ませた脱脂綿で包み、ガスバリヤー性の袋に入れ密閉しガスを排気する。これを100℃以下の温度で保持し、容器のガスによる膨脹を測定した。鉱石に添加した炭酸カルシウムによる残存カルシウム量と水素ガス発生量の関係の測定結果を図2に示す。残存するカルシウム量が増えるとガスの発生量が少なくなっていることが分かる。この図より還元鉄粉中に含まれるCa量が0.02wt% 以上あれば、ガス発生量が半減することが分かる。比較として炭酸カルシウムを添加しない場合には、ガス発生量は7ml/gとなっていた。
【0019】
上記の試験で、炭酸カルシウムを酸化カルシウムとして試験を同様に行った結果、炭酸カルシウムと同様な結果が得られた。
【0020】
【実施例2】
径が10mm程度の鉄鉱石に、コークスを10wt% の量で混合を行った。また、数mm以下のミルスケールを同様にコークスを混合した。各混合物2kgを鉄製の片側端閉の円筒容器に入れ、鉄製の蓋で密閉した。この容器をマッフル炉に入れ、大気中で600℃/hr で昇温し、1000〜1250℃で1〜5時間保持後、自然放冷を行った。冷却後、還元ケーキをハンマーミルで粗粉砕し、5mm以下の粗粉にした後、パルペライザーで微粉にし、180μm以下の粉を作製した。この粉を食塩水を含ませた脱脂綿で包み、ガスバリヤー性の袋に入れ密閉しガスを排気する。これを100℃以下の温度で保持し、容器のガスによる膨脹を測定した。各条件で作製した還元鉄粉のガス発生量を調べ、更に理学電機株式会社のX線解析装置(RINT)を用いて鉄の110面のピークの積分強度とウスタイトの220面のピークの積分強度の比からウスタイトの量を評価した。その結果を図3に示す。この図より、ウスタイトの量がなくなるとガス発生がなくなることが分かり、5%以下がガス発生量として、適当であることが分かった。
【0021】
ウスタイト相を減少させるために、以下の試験を行った。
【0022】
粒径が180μm以下の還元鉄粉の中から、鉄品位が約90%のものでガス発生量が5ml/gの鉄粉を用いて、窒素ガス中にて100〜600℃の範囲で5分間熱処理を行い、ウスタイト相の回折ピークの面積強度比、ガス発生量と熱処理温度の関係を調べた。その結果を図4に示す。この結果から、熱処理温度が200℃以上になるとウスタイト相の回折ピークの面積強度比、ガス発生量が低減し、好ましくは300〜500℃の範囲の熱処理温度が良いことが分かった。更に粒径が180μm以下の還元鉄粉の中から、鉄品位が約90%のもので、ウスタイトの強度比が3〜7%程度の範囲で変わり、且つガス発生量が1〜2ml/g程度のものを用いて、ガス発生量が0.2ml/g以下となる熱処理温度400℃での熱処理時間を調べた結果、下記の表のようになった。熱処理中の酸素濃度は5%以下であった。
【0023】
【表1】
【0024】
この結果から、ガス発生量の多い、またはウスタイトの強度比が大きいものでは、熱処理時間を増やさないとガス発生量を低減できないことが分かる。
【0025】
同様に、粒径が180μm以下の還元鉄粉の中から、鉄品位が約90%のもので、ガス発生量が1〜2ml/g程度のものを用いて、ガス発生量が0.3ml/g以下となる熱処理温度200℃での熱処理時間を調べた結果、下記の表のようになった。酸素濃度は1%以下であった。
【0026】
【表2】
【0027】
この結果から、ガス発生量の多い、またはウスタイトの強度比が大きいものでは、熱処理時間を増やさないとガス発生量を低減できないことが分かる。
【0028】
また、上記の表でウスタイトの強度比が11.5%のものを400℃、熱処理時間30分で熱処理する際の酸素濃度と、熱処理後のメタル鉄品位の関係を表にして示す。
【0029】
【表3】
【0030】
この結果から、熱処理の酸素濃度として10%以下が望ましいことが分かる。
【0031】
【実施例3】
実施例2で作製した還元鉄粉の中から、鉄品位90%程度で、ウスタイト相の回折ピークの面積強度比が3%前後の鉄粉を、理学電機株式会社のX線解析装置(RINT)を用いて、鉄の110面と211面から求められる結晶歪み量の評価を行った。その結果を図5に示す。この結果から、鉄粉の結晶歪みが大きいとガス発生量が多くなることが分かり、結晶歪み量としては10-3rad 以下が良いことが分かった。
【0032】
結晶歪みを減少させるために、以下の試験を行った。
【0033】
評価した鉄粉で、最も結晶歪みの大きいものを窒素雰囲気中1000℃〜500℃の範囲で2時間熱処理し、その後ウスタイト相の除去を目的に400℃で2時間熱処理した結果を、図6に示す。図中の横軸の温度は結晶歪みを取るための熱処理を取っている。この結果から、高い温度の方が好ましく、結晶歪みの除去する温度としては500℃以上が良いことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【図1】ウスタイトと鉄のピーク強度を示すX線解析図。
【図2】鉱石に添加した炭酸カルシウムによる残存カルシウム量と水素ガス発生量の関係を示す図である。
【図3】鉄とのX線ピーク強度比で表わしたウスタイトの量とガス発生量との関係を示す図である。
【図4】ウスタイト相の回折ピークの面積強度比と熱処理時間との関係を示す図である。
【図5】X線解析装置を用いて測定した鉄の110面と211面から求めた結晶歪み量とガス発生量との関係を示す図である。
【図6】結晶歪みを取るために行った熱処理の温度と結晶歪みとの関係を示す図である。
Claims (2)
- 還元した後に所定のサイズになった還元鉄粉を酸素濃度10%以下の不活性雰囲気で200〜500℃の温度範囲で熱処理することを特徴とするウスタイトの量が鉄とのX線ピーク強度比で5%以下の反応剤用鉄粉の製造方法。
- 前記鉄粉がミルスケールまたは鉱石を1300℃以下で還元した後、還元ケーキを粗砕および微粉砕して製造した還元鉄粉であることを特徴とする請求項1記載の反応剤用鉄粉の製造方法。
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