JP3689730B2 - 窒化ケイ素セラミックス及びサイアロンセラミックスの研磨材料 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、窒化ケイ素セラミックス及びサイアロンセラミックスの研磨材料に関するものであり、更に詳しくは、被研磨材である窒化ケイ素セラミックス及びサイアロンセラミックスのトライボケミカル反応による研磨を高能率で行うことを可能とする新しい研磨材料及びその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、摩擦し合う表面は、その摩擦熱で化学反応が著しく促進される現象、即ち、トライボケミカル反応が起こるが、この現象をセラミックスの研磨に利用する技術として、水中にてセラミックス同士を摩擦させて、一方の摩擦面を研磨する技術が知られている。
【0003】
例えば、窒化ケイ素セラミックスを、砥粒番手#400程度で研削し、その研削面同士を水中で摩擦させると、研削表面粗さの突起部分は、トライボケミカル反応(窒化ケイ素セラミックスは水と反応して水和物となる)によって溶解するため、その突起高さは非常に小さくなり、その結果、滑らかな表面が得られる。
【0004】
特に、トライボケミカル反応による研磨は、従来の研磨粒子(ダイヤモンド、シリカ等)を使わない研磨方法であるために、高面圧下でも、研磨粒子による傷を残さずに滑らかな表面を得ることができる。その結果、この研磨方法は、従来よりも短時間(従来の1/5〜1/10)で研磨を完了することが可能であることを特徴としている。
これらの先行技術を示す文献として、S. R. Hah and T. E. Fischer, "Tribochemical Polishing of Silicon Nitride", J. Electrochem. Soc., 145, 5 (1998) 1708 、H. Tomizawa and T. E. Fischer, "Friction and Wear of Silicon Nitride and Silicon Carbide in water", ASLE Trans., 30, 1 (1987) 41. 等が挙げられる。
【0005】
しかし、この種の研磨方法の問題点は、研磨材である窒化ケイ素セラミックスも同時に摩耗してしまうことである。そのため、いかに研磨能率(被研磨材の研磨量/研磨材の摩耗量)を向上させるかが当該技術分野における課題であり、それを解決することを可能にする新しい技術を開発することが当該技術分野において強く要請されていた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、上記研磨能率(被研磨材の研磨量/研磨材の摩耗量)を向上させることができる新しい方法を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、セラミックス焼結体で構成される研磨材料において、その焼結体の粒界、粒内、気孔の1種以上の部分に被研磨セラミックスを溶解反応させる元素を含むセラミックス焼結体を研磨材として使用することにより所期の目的を達成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、トライボケミカル反応による窒化ケイ素セラミックス及びサイアロンセラミックスの研磨を高能率に行うことを可能とする新しい研磨用セラミックス材料を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、上記新規研磨材料を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明は以下の技術的手段から構成される。
(1)被研磨材である窒化ケイ素セラミックスあるいはサイアロンセラミックスのトライボケミカル反応により被研磨材を溶解反応させることで研磨を行うための研磨材料であって、当該研磨材料は、セラミックス焼結体で構成されており、その焼結体の粒界、粒内、気孔の1種類以上の部分に上記被研磨セラミックスを溶解反応させる元素を含むことを特徴とする上記研磨材料。
(2)前記セラミックス焼結体の母相が、α型窒化ケイ素、β型窒化ケイ素、α型サイアロン、β型サイアロンの内から選択される1種類以上で構成されている前記(1)に記載の研磨材料。
(3)上記被研磨セラミックスを溶解反応させる元素が、セリウム、鉄、クロム、チタン、マンガン、ジルコニウムの内から選択される1種類以上である前記(1)に記載の研磨材料。
(4)上記被研磨セラミックスを溶解反応させる元素の量が、酸化物量換算で上記セラミックス焼結体の50vol%未満である前記(1)に記載の研磨材料。
(5)上記セラミックス焼結体の気孔率が、50vol%未満である前記(1)に記載の研磨材料。
(6)上記セラミックス焼結体の平均気孔径が、100μm以下である前記(1)に記載の研磨材料。
(7)前記(1)に記載の研磨材料を製造する方法であって、窒化ケイ素セラミックスあるいはサイアロンセラミックス粉末に、上記被研磨セラミックスを溶解反応させる元素の酸化物の粉末を添加し、混合、成型した後、1500〜1900℃で焼結して、その焼結体の粒界、粒内、気孔の1種類以上の部分に上記被研磨セラミックスを溶解反応させる元素を含有させることで、セラミックス焼結体を作製することを特徴とする上記研磨材料の製造方法。
(8)上記酸化物が、酸化セリウム、酸化鉄、酸化クロム、酸化チタン、酸化マンガン、酸化ジルコニウムの内から選択された1種類以上である前記(7)に記載の研磨材の製造方法。
(9)上記酸化物の粉末を、セラミックスの粉末に対し50vol%未満添加する前記(7)に記載の研磨材の製造方法。
【0008】
【発明の実施の形態】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
窒化ケイ素セラミックスあるいはサイアロンセラミックスを研磨する場合、水中におけるトライボケミカル反応による研磨では、被研磨材である窒化ケイ素セラミックスあるいはサイアロンセラミックスの表面は、水と反応して研磨中は常にケイ素系酸化物で覆われている。そのため、上記被研磨材を高能率で研磨するためには、その酸化物を高能率に除去することが必要である。
【0009】
本発明者らは、ケイ素系酸化物を高能率に除去する方法として、ケイ素系ガラスの研磨方法に着目し、それを参考として新しい方法の開発について、種々検討を積み重ねた。一般に、ケイ素系ガラスの研磨には、酸化ジルコニウム、酸化セリウム、酸化クロム、酸化鉄等の酸化物粉末粒子に水を加えたスラリーが用いられている。例えば、酸化セリウム粉末のスラリーによる研磨メカニズムは、以下の通りである。即ち、研磨中に、ケイ素系ガラスの表面のSi−OH結合と酸化セリウム粒子表面のM−OH(Mはセリウム元素)が反応して、Si−O−M結合ができる。この時、酸化セリウム粒子はケイ素系ガラスに対して相対運動しているために、Si−O−M結合中のSi−O結合が切れてケイ素系ガラスの研磨が進行する。特に、上記した酸化物粉末粒子は、その表面にM−OH結合の数が多く、また、Si−O−M結合において、Si−O結合力よりもO−M結合力が強いために、Si−O結合が切れて研磨が能率良く進行する。
【0010】
そこで、本発明者らは、被研磨材である窒化ケイ素セラミックスあるいはサイアロンセラミックスのトライボケミカル反応による研磨において、上記酸化物を利用した研磨の高能率化について、種々検討を重ねた結果、本発明の研磨材料を開発するに至った。本発明は、研磨材料である窒化ケイ素セラミックス等のセラミックス焼結体に上記酸化物を含有させることを特徴とするものである。研磨材料に上記酸化物を含有させる1つの方法として、例えば、研磨材料である窒化ケイ素セラミックス等のセラミックス焼結体を作る際に、その焼結助剤として上記酸化物を利用することが例示される。
本発明において、被研磨セラミックスを溶解反応させる元素を含むセラミックス焼結体を作製する方法について説明すると、研磨材料として、α型窒化ケイ素、β型窒化ケイ素、α型サイアロン、β型サイアロンの粉末を出発原料として使用し、これらの出発原料に、被研磨セラミックスを溶解反応させる元素を酸化物として添加して、1500〜1900℃の高温で焼結し、その焼結体の粒界、粒内、気孔の1種類以上の部分に上記元素を含有させて作製するか、あるいは、予めα型窒化ケイ素やβ型窒化ケイ素等の粉末を出発原料とした多孔質セラミックスを作り、その後、この多孔質セラミックスの孔の部分に上記酸化物を含浸させて、その後、これを焼結して作製する方法が用いられる。
【0011】
また、本発明において、酸化物としては、酸化セリウム、酸化鉄、酸化クロム、酸化チタン、酸化マンガン、酸化ジルコニウムの内から選択される1種類以上が用いられる。
好適には、これらの酸化物の粉末を窒化ケイ素セラミックスあるいはサイアロンセラミックス粉末に対し50vol%未満程度添加し、これを1500〜1900℃で焼結した焼結体が研磨材として用いられる。この場合、焼結処理は、ガス圧焼結、ホットプレス、通電加熱焼結、熱間加圧焼結等で行われる。
また、添加する酸化物量は50vol%未満が望ましいが、その理由は、酸化物量が50vol%以上では、母相自体の強度が低下するからであり、その結果、研磨中に母相である高硬度な窒化ケイ素セラミックスあるいはサイアロンセラミックス粒子が脱落してしまい、その脱落粒子が研磨面に傷をつけてしまうからである。
一方、酸化物量が100%の焼結体も考えられるが、この焼結体は研磨面を傷つけることは無いものの、研磨材自体の摩耗量も多いため、研磨能率(被研磨材の研磨量/研磨材の摩耗量)は低い。
【0012】
なお、上述の酸化物をセラミックス焼結体の粒界、粒内、気孔の1種以上の部分に含ませる方法は、上記方法に限らず、適宜の方法を用いることが可能であり、本発明においては、上述のように、例えば、上記酸化物を多孔質窒化ケイ素セラミックス焼結体へ含浸法により含浸させる方法などの方法を使用することが可能である。本発明において、上記酸化物をセラミックス焼結体の粒界、粒内、気孔の1種以上の部分に含ませるとは、その酸化物が粒界及び気孔にガラス相あるいは結晶相として存在し、また、粒内にはその酸化物の金属元素が固溶体として存在することを意味する。
【0013】
また、研磨中の被研磨材の溶解物を研磨面外に効率よく排出するために、研磨材に気孔部を残すことも可能であり、その方法として、例えば、母相70vol%、酸化物10vol%、気孔20vol%のようにすることが例示される。ただし、その気孔径は100μm以下、かつ気孔率は50vol%未満が望ましい。その理由は、上記範囲外では母相の強度が低下して、母相からの脱落粒子が研磨面を傷つけるからである。
【0014】
また、前述のように、本発明の研磨材料に用いるセラミックス材質としては、研磨表面に被研磨材との反応物を生成させないために、被研磨材と同等の母相組成の窒化ケイ素セラミックスあるいはサイアロンセラミックス焼結体が好適であるが、それらと同効のものであれば同様に使用することができる。
【0015】
【作用】
本発明は、研磨材料である窒化ケイ素セラミックスあるいはサイアロンセラミックス焼結体に上記酸化物を含有させることを特徴とするものであり、この研磨材料を用いることにより、トライボケミカル反応による被研磨材の窒化ケイ素セラミックス及びサイアロンセラミックスの研磨を高い研磨能率で行うことができる。その研磨メカニズムは、以下の通りである。水中にて研磨を行うと、例えば、被研磨材である窒化ケイ素セラミックス(Si−N)の研磨表面は、研磨中、常に研磨材料に擦られていることから、その表面では酸化(Si−O)及び水和反応(Si−OH)が起こる。この時、本発明の研磨材料を用いると、被研磨セラミックスを溶解させる元素(M)が含まれているために、元素(M)とSi−OH結合とが反応してSi−O−M結合を作る。そして、被研磨セラミックスと研磨材料は相対運動しているために、Si−O−M結合中のSi−O結合が切れて研磨が効率良く進むと考えられる。もし、被研磨セラミックスを溶解させる元素(M)が研磨材料に含まれていなければ、そのSi−O−M結合を作る反応が起こらないために、研磨効率は悪い。
本発明によって、従来と同じ研磨条件(研磨圧力、速度条件)においても研磨量は従来の4倍であり、同時に、研磨材料であるセラミックス焼結体の摩耗量も従来の1/6となり、その結果、研磨能率は24倍に大幅に向上する。
【0016】
【実施例】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
実施例
(1)窒化ケイ素セラミックス製研磨材の作製
α−窒化ケイ素原料粉末に、酸化セリウムを3.8vol%及び酸化マグネシウムを1.9vol%添加し、メタノールを分散媒として、窒化ケイ素製ボールとポットを用い、遊星ミルを用いて30分間混合を行った。次に、真空エバポレーターを用いてメタノールを除去後、100℃で乾燥し、125メッシュの篩を用いて造粒粉末とした。造粒粉末はφ30mmカーボン型に充填し、通電加熱焼結法にて1700℃で焼結を行った。焼結条件は、窒素雰囲気中(0.1MPa)、プレス圧力は30MPaとした。得られた焼結体は、研削後、砥粒サイズ0.25μmダイアモンドでラッピングを行い、φ30mm、厚さ5mm形状の研磨材を完成させた。また、比較材として、市販の窒化ケイ素セラミックス焼結体を用いた。
【0017】
(2)窒化ケイ素セラミックスの研磨
トライボケミカル反応による窒化ケイ素セラミックスの研磨は、図1に示すボールオンディスク方式の摩擦摩耗試験方法を用い、蒸留水中にて負荷15N、周速0.18m/secで1時間行った。
即ち、セラミックス製被研磨ボール3をセラミックス製被研磨ボールの保持器2で保持し、研磨面圧の負荷方向1に負荷し、一方、セラミックス製研磨材5をセラミックス製研磨材保持器6にセットし、この保持器を所定の保持器回転方向7に回転させ、蒸留水4中にて研磨を行った。蒸留水の温度は15℃であり、30mL/minの水量で連続的に流し続けた。被研磨材はφ10mmの研磨された窒化ケイ素セラミック製ボールとした。
【0018】
(3)研磨面の摩耗特性の評価方法
研磨量の評価方法として、ボール表面の研磨されたボール体積摩耗量を研磨量とした。また、同時に、研磨材の体積摩耗量を研磨時の磨耗量とした。その結果を図2〜4に示す。図2に示すように、本発明のセラミックス研磨材は、市販のセラミックスに比べて研磨量は4倍である。また、図3に示すように、研磨材自体の摩耗量は従来材の1/6まで大幅に減少している。その結果、図4に示すように、研磨能率(研磨量/摩耗量)は、従来材の24倍という高能率化を達成した。
【0019】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明は、窒化ケイ素セラミックス及びサイアロンセラミックスの研磨材料に係るものであり、本発明により、1)被研磨材である窒化ケイ素セラミックス及びサイアロンセラミックスのトライボケミカル反応による研磨を高い研磨能率で行うことができる新しい研磨材料を提供することができる、2)従来材と同じ研磨条件において、研磨量が4倍、研磨材であるセラミックス焼結体の磨耗量が1/6、研磨能率が24倍となる、3)研磨に要する時間を大幅に短縮することができる、4)滑らかな研磨表面が得られる、5)ダイヤモンド等を使わないので、研磨コストを低減できる、という格別の効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例における、窒化ケイ素セラミックス焼結体の研磨方法を示す説明図である。
【図2】各研磨材における被研磨ボールの研磨量を示す説明図である。
【図3】ボールの研磨時における各研磨材の磨耗量を示す説明図である。
【図4】各研磨材における研磨能率を示す説明図である。
【符号の説明】
1 研磨面圧の負荷方向
2 セラミックス製被研磨ボールの保持器
3 セラミックス製被研磨ボール
4 水
5 セラミックス製研磨材
6 セラミックス製研磨材保持器
7 保持器回転方向

Claims (9)

  1. 被研磨材である窒化ケイ素セラミックスあるいはサイアロンセラミックスのトライボケミカル反応により被研磨材を溶解反応させることで研磨を行うための研磨材料であって、当該研磨材料は、セラミックス焼結体で構成されており、その焼結体の粒界、粒内、気孔の1種類以上の部分に上記被研磨セラミックスを溶解反応させる元素を含むことを特徴とする上記研磨材料。
  2. 前記セラミックス焼結体の母相が、α型窒化ケイ素、β型窒化ケイ素、α型サイアロン、β型サイアロンの内から選択される1種類以上で構成されている請求項1に記載の研磨材料。
  3. 上記被研磨セラミックスを溶解反応させる元素が、セリウム、鉄、クロム、チタン、マンガン、ジルコニウムの内から選択される1種類以上である請求項1に記載の研磨材料。
  4. 上記被研磨セラミックスを溶解反応させる元素の量が、酸化物量換算で上記セラミックス焼結体の50vol%未満である請求項1に記載の研磨材料。
  5. 上記セラミックス焼結体の気孔率が、50vol%未満である請求項1に記載の研磨材料。
  6. 上記セラミックス焼結体の平均気孔径が、100μm以下である請求項1に記載の研磨材料。
  7. 請求項1に記載の研磨材料を製造する方法であって、窒化ケイ素セラミックスあるいはサイアロンセラミックス粉末に、上記被研磨セラミックスを溶解反応させる元素の酸化物の粉末を添加し、混合、成型した後、1500〜1900℃で焼結して、その焼結体の粒界、粒内、気孔の1種類以上の部分に上記被研磨セラミックスを溶解反応させる元素を含有させることで、セラミックス焼結体を作製することを特徴とする上記研磨材料の製造方法。
  8. 上記酸化物が、酸化セリウム、酸化鉄、酸化クロム、酸化チタン、酸化マンガン、酸化ジルコニウムの内から選択された1種類以上である請求項7に記載の研磨材の製造方法。
  9. 上記酸化物の粉末を、セラミックスの粉末に対し50vol%未満添加する請求項7に記載の研磨材の製造方法。
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