JP3686762B2 - 水分発生用反応炉 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として半導体製造装置に於いて利用される水分発生用反応炉の改良に係り、水素への着火や逆火、白金コーティング触媒層の剥離等の発生を完全に防止して、安全性を大幅に高めた水分発生用反応炉に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
半導体製造に於けるシリコンへの酸化膜付けには、少なくとも1000SCCM(標準状態において1000cc/min)の流量の高純度水分を必要とする。
これ等の用途に供するため、本願発明者等は先きに図5に示す様な構成の水分発生用反応炉を開発し、特願平9−109989号としてこれを公開している。
即ち、図5に於いてAは反応炉本体、1は入口側炉本体部材、1aはガス供給口、2は出口側炉本体部材、2aは水分ガス取出口、3は入口側内部空間、4は出口側内部空間、5は入口側反射体、12は出口側反射体、7は金属フィルター、8は白金コーティング触媒層であり、また、前記白金コーティング触媒層8は、図6に示すように、出口側炉本体部材2の内表面にTiN等のバリヤー皮膜8aを設け、その上に、更に白金コーティング皮膜8bを積層固着することにより形成されている。
【0003】
水分の発生に際しては、ガス供給口1aから予かじめ所定の混合率で混合されたH2 とO2 の混合ガスGを反応炉本体A内へ供給する。反応炉本体Aの入口側内部空間3内へ供給された混合ガスGは、入口側反射体5及び金属フィルター7によって拡散され、出口側内部空間4内へ流入して白金コーティング皮膜8bと接触することにより、O2 及びH2 の反応性が活性化される。
【0004】
白金コーティング皮膜8bとの接触により活性化されたH2 とO2 とは、約400℃〜500℃前後の高温下で反応をし、水分ガス(水蒸気)に転換される。また、発生した水分ガス(水蒸気)は、出口側反射体12と出口側炉本体部材2の内壁面との間隙Lを通って、水分ガス取出口2aから半導体製造用のプロセスチャンバー(図示省略)等へ供給されて行く。
尚、高温下でO2 とH2 とを反応させる水分反応炉本体Aは、その内部空間3・4内の温度をH2 又はH2 含有ガスの発火温度以下の温度に保持することにより、H2 とO2 の爆発的な燃焼反応を防止つつ適宜の速度で両者を反応させ、所要流量の水分ガスを発生する。
【0005】
上記図5の反応炉本体Aは、所望流量の高純度水分を極く小形の反応炉本体でもって連続的に、しかも高反応率の下で簡便に発生させることができ、優れた実用的効用を奏するものである。
しかし、図5のような構成の水分発生炉にも未だ解決すべき多くの問題が残されており、その中でも特に解決を急ぐ問題は、H2 への着火やガス供給口1aからの逆火をより完全に防止すると共に、局部的な温度の上昇による白金コーティング触媒層8の部分的な剥離・脱落を皆無にすると云う点である。
【0006】
上述したように、水分発生用反応炉本体Aの内部空間内の温度は、H2 又はH2 含有ガスの最低限界着火温度(約560℃、H2 とO2 の混合率に応じて限界着火温度は約560℃より上昇する)よりも相当に低い約450℃〜500℃の温度に保持されており、H2 とO2 の爆発的な燃焼反応は抑制されるようになっている。
しかし、水分発生用反応炉Aの内部空間3・4側の温度を常に完全に前記限界着火温度以下の値に保持することは、現実にはなかなか困難なことであり、入口側炉本体部材1や出口側炉本体部材2等の内壁面の温度が、何等かの原因で局部的に限界着火温度以上に上昇することがある。
【0007】
尚、万一、前記入口側炉本体部材1や出口側炉本体部材2の内壁面温度が局部的に限界着火温度以上に上昇したとしても、常にO2 とH2 との爆発的な燃焼反応が起って逆火を生ずるとは限らず、一般的には着火や逆火を生じないケースが多いが、混合ガスG内のH2 濃度が特に高い場合には、稀にH2 への着火或いは逆火を生ずることがある。
【0008】
前記H2 への着火や逆火を生ずる原因、即ち両炉本体部材1・2や金属フィルター7等の局部的で且つ急激な温度上昇を生ずる原因は、不明であって未だ十分にその原因は特定されていない。
しかし、本願発明者等はこれまでの水分発生用反応炉の製造並びに使用の経験からして、反応炉本体Aを構成する入口側炉本体部材1の内壁面(ガス供給口1a側の炉本体部材の内壁面)や入口側反射体5、出口側反射体12、金属フィルター7等の外表面の金属触媒作用により、混合ガスG内のH2 とO2 が活性化され、前記内壁面等に局部的で且つ急激な温度上昇を生じたことが、H2 への着火の第1原因であると想定している。
【0009】
即ち、入口側炉本体部材1や両反射体5・12、金属フィルター7等は全てステンレス鋼(SUS316L)により形成されている。そして、これ等各部材の外表面は、通常自然に形成された各種金属の酸化物皮膜や不働態皮膜によって覆われており、これによってステンレス鋼外表面が本来保持している所謂触媒活性は、抑制されている。
ところが、約450℃〜500℃程度の高温下でH2 濃度の高い混合ガスG中に、前記酸化物皮膜や不働態皮膜が長時間晒されると、酸化物皮膜等がステンレス鋼表面から剥離脱落あるいは還元されて金属外表面が局部的に露出される。その結果、ステンレス鋼外表面の金属触媒活性が発揮され、O2 とH2 との反応が局部的に急速且つ高密度で進行し、これによって反応炉本体Aの内部空間3・4内の白金コーティング触媒層8を設けた部分以外の局部の表面温度が、H2 (又はH2 含有ガス)の着火限界温度以上に上昇したものと想定される。
【0010】
一方、一般的に出口側反応炉本体2の白金コーティング触媒層8を設けた内壁面の温度は、本体2の中心部ほど高温になり易く、特に、N2 希釈等により混合ガスGの流速及び流量を増して使用する場合には、出口側反射体12の外周から中心寄りの部分の温度が一層上昇することが判っている。
従って、もしも着火又は逆火を生ずる原因が白金コーティング触媒層8を設けた出口側炉本体部材2の内壁面側にあるとすれば、それは、出口側反射体12の外周縁部と対向する白金コーティング触媒層8の部分に於いて、隙間L内への混合ガスGの流入量が急増することによりH2 とO2 との反応がより活発となり、これによって内壁面の温度が局部的に急上昇して限界着火温度に達し、H2 への着火や或いは白金コーティング触媒層8の部分的な剥離を生じたものと想定される。
【0011】
尚、前記反応炉本体Aの内部空間3・4内の局部的な温度上昇を防止するためには、反応炉本体A自体を大形化してその熱容量を増大させると共に、放熱又は冷却装置を設けて反応炉本体Aの冷却性能の強化を図るのが通常の方策である。
しかし、半導体製造装置は一般にクリーンルーム内に設置されるものであり、その設置スペースを大きく取ることは困難である。そのため、半導体製造装置に付随する水分発生用反応炉もその小型化に対する要求が特に厳しく、反応炉本体Aの大型化や冷却装置の増強を以って、上述の如き水分発生用反応炉の内部に於ける局部的な温度上昇や温度上昇による白金コーティング触媒層8の剥離を防止しようとする方策は、現実的に採用が不可能な状態にある。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、従前の水分発生用反応炉に於ける上述のような問題、即ち反応炉本体Aを構成する入口側及び出口側炉本体部材1・2の内部空間内の温度をH2 又はH2 含有ガスの限界着火温度よりも相当に低い温度に保持していても、H2 濃度の高い混合ガスを使用している場合には、水分の発生中にH2 への着火又は逆火や白金コーティング触媒層8の部分的な剥離を生ずることがあると云う問題を解決せんとするものであり、反応炉本体Aを大形化してその熱容量の増大を図ったり、或いは反応炉本体Aの冷却装置を大形化してその冷能力を大幅に高めるような方策によらず、極く小形の水分発生用反応炉でもって反応炉内の構造を改変することにより、水分発生用反応炉の運転中に於けるH2 への着火や逆火、白金コーティング触媒層8の剥離の発生を完全に防止できるようにした、水分発生用反応炉を提供するものである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本願発明者等は、従前の水分発生用反応炉に於けるH2 への着火や逆火の発生原因を究明する過程を通して、前記着火や逆火を生ずる原因が「反応炉本体の内部空間側の金属外表面に形成されていた酸化物皮膜等の剥離脱落により、金属表面の触媒活性が発揮され、この金属表面の触媒活性によってO2 とH2 の反応が局部的に急激にしかも高密度で進行し、金属表面の温度が部分的にH2 含有ガスの限界着火温度以上に上昇したことによるか、又は出口側反射体12の外周縁部近傍と対向する位置の白金コーティング触媒層8の温度が、局部的に限界着火温度以上に上昇したことによる。」ことを、知得した。
【0014】
本発明は、本願発明者等の上記知見に基づいて創作されたものであり、請求項1の発明は、ガス供給口を有する入口側炉本体部材と、水分ガス取出口を有する出口側炉本体部材と、前記入口側炉本体部材と出口側炉本体部材とを対向状に組合せ溶接して形成した反応炉本体の内部空間内にガス供給口と対向状に配設した入口側反射体と、前記内部空間内に水分ガス取出口と対向状に配設した出口側反射体と、前記出口側炉本体部材の内壁面に形成した白金コーティング触媒層とから形成され、ガス供給口から反応炉本体の内部空間内へ供給した水素と酸素を前記白金コーティング皮膜に接触させてその反応性を活性化させることにより、水素と酸素を非燃焼の状態下で反応させて水を発生させるようにした水分発生用反応炉において、入口側炉本体部材及び出口側炉本体部材の内壁面に底面が平面状の窪部を形成すると共に、前記入口側反射体及び出口側反射体を、前記炉本体部材の窪部の内径よりも小径で且つその外周端縁部の炉本体部材の底面と対向する側にテーパー部を形成した構成とし、当該入口側反射体及び出口側反射体を入口側炉本体部材及び出口側炉本体部材へ夫々の底面と隙間を保持した状態で対称状に固定したことを発明の基本構成とするものである。
【0015】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記入口側炉本体部材と入口側反射体と出口側反射体とを、水素及び酸素に対して触媒活性を有しない鉄−クロム−アルミ合金又はアルミ合金から形成するようにしたものである。
【0016】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2の発明において、反応炉本体の内部空間内の白金コーティング触媒層を設けた部分を除くその他の全部の部分に、水素及び酸素に対して触媒活性を有しないTiN、TiC、TiCN、TiAlN、Al 2 3 、Cr 2 3 、SiO 2 、CrNの中の何れかから成る非触媒性のバリヤー皮膜を形成するようにしたものである。
【0017】
請求項4の発明は、ガス供給口を有する入口側炉本体部材と、水分ガス取出口を有する出口側炉本体部材と、前記入口側炉本体部材と出口側炉本体部材とを対向状に組合せ溶接して形成した反応炉本体の内部空間内に水分ガス取出口と対向状に配設した1枚の反射体と、前記出口側炉本体部材の内壁面に形成した白金コーティング触媒層とから形成され、ガス供給口から反応炉本体の内部空間内へ供給した水素と酸素を前記白金コーティング皮膜に接触させてその反応性を活性化させることにより、水素と酸素を非燃焼の状態下で反応させて水を発生させるようにした水分発生用反応炉において、入口側炉本体部材及び出口側炉本体部材の内壁面に底面が平面状の窪部を形成し、また、前記反射体の外径を窪部の内径より小さく形成すると共に、当該反射体の外周端縁部の出口側炉本体部材へその底面と対向する側にテーパー部を形成し、更に、当該反射体を出口側炉本体部材へその底面と隙間を保持した状態で固定したことを発明の基本構成とするものである。
【0018】
請求項5の発明は、請求項4の発明において、前記入口側炉本体部材と出口側炉本体部材と反射体とを水素及び酸素に対して触媒活性を有しない鉄−クロム−アルミ合金又はアルミ合金から形成するようにしたものである。
【0019】
請求項6の発明は、請求項4又は請求項5の発明において、反応炉本体の内部空間内の白金コーティング触媒層を設けた部分を除くその他の全部の部分に、水素及び酸素に対して触媒活性を有しないTiN、TiC、TiCN、TiAN、Al2 3 、Cr2 3 、SiO2 、CrNの中の何れかから成る非触媒性のバリヤー皮膜を形成するようにしたものである。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態を説明する。
図1は本発明の第1実施形態に係る水分発生用反応炉の断面図である。図1に於いてAは反応炉本体、Vは内部空間、Lは隙間、1は入口側炉本体部材、1aはガス供給口、2は出口側炉本体部材、2aは水分ガス取出口、5は入口側反射体、12は出口側反射体、8は白金コーティング触媒層、8aはバリヤー皮膜、8bは白金コーティング皮膜、9・10・11はバリヤー皮膜である。尚、図では省略されているが、固定ボルト13・14及びスペーサー13a・14aの外表面にもバリヤー皮膜が形成されている。
【0025】
本発明に係る水分発生用反応炉本体Aはステンレス鋼(SUS316L)製の入口側炉本体部材1と出口側炉本体部材2とを気密状に連結することにより、円形の中空デスク状に形成されている。
前記入口側炉本体部材1には、その内部に底面が平面状の窪部が設けられており、ガス供給口1aが窪部内へ連通されている。また、出口側炉本体部材2には、内部に底面が平面状の窪部が設けられており、水分ガス取出口2aが窪部内へ連通されている。更に、両本体部材1・2の内側外周端面にはフランジ体が夫々形成されており、両フランジ体を気密状に溶接15することにより、水分発生用反応炉本体Aが構成されている。
尚、本実施形態では、両炉本体部材1・2の窪部の底面を平面状としているが、これを球面状の底面としてもよいことは勿論である。
【0026】
前記入口側反射体5は円形の盤状体であり、その中心点を入口側炉本体部材1のガス供給口1aと対向するように位置せしめ、炉本体部材1の底面との間に隙間Lをおいて固定用ボルト14により炉本体部材1へ固定されている。尚、当該入口側反射体5はステンレス鋼(SUS316L)製であり、その直径は窪部の内径よりもやや小径に設定されている。
同様に、前記出口側反射体12は、入口側反射体5とほぼ同形状に形成されており、その中心点を出口側炉本体部材2の水分ガス取出口2aと対向するように位置せしめ炉本体部材2との間に隙間Lをおいて固定用ボルト13により炉本体部材2へ固定されている。
【0027】
尚、入口側反射体5及び出口側反射体12の各炉本体部材1・2と対向する側の外周縁部は、図1に示すように適宜の傾斜角αのテーパー面に仕上げられている。入口側反射体5にあっては、当該傾斜角αを設けることにより、ガス供給口1aより流入した混合ガスGが円滑に内部空間V内へ拡散された状態で放出されるからであり、また出口側反射体12にあっては、反射体12と白金コーティング触媒層8との距離が一定である場合には、反射体の外周端と対向する部分の白金コーティング触媒層8の近傍に発熱が集中するため、隙間Lを徐々に狭まくなる形態とすることにより前記局部的に集中する発熱が防止されるからである。
又、本実施形態では両反射体5・12を固定ボルト13・14により固定するようにしているが、適宜の支持片(図示省略)を介設して炉本体部材側へ夫々溶接により固定するようにしてもよい。尚、本実施形態では、固定ボルト13・14の頭部が締め込み後にスポット溶接され、所謂緩み止め処理が行なわれている。
【0028】
ガス供給口1aを通して入口側反射体5へ向けて噴射されたガスは、反射体5の表面へ衝突したあと、隙間Lを通して矢印方向に噴射され、内部空間V内で拡散される。また、内部空間V内へ噴射されたガスは、白金コーティング触媒層8へ衝突接触し、これにより所謂触媒活性化されると共に、出口側反射体12と白金コーティング触媒層8との隙間Lを通して水分ガス取出口2aの方向に流入する。
更に、前記白金コーティング触媒層8への衝突接触や隙間Lを通過する間にこれと接触することにより活性化されたH2 とO2 とは、所謂非燃焼の状態下で反応をし、水が生成される。
そして、生成された水分ガスは、出口側反射体12と白金コーティング触媒層8との隙間Lを通して水分ガス取出口2aへ導出されて行く。
【0029】
前記白金コーティング触媒層8はSUS316L製の出口側炉本体部材2の内表面の全域に形成されており、図2に示す如く炉本体部材2の内表面にTiN製のバリヤー皮膜8aを形成したあと、当該バリヤー皮膜8aの上に白金コーティング皮膜8bが形成されており、前記バリヤー皮膜8aと白金コーティング皮膜8bとによって本発明に係る白金コーティング触媒層8が構成されている。
前記白金コーティング皮膜8bの厚さは0.1μm〜3μm位いが適当であり、本実施態様に於いては約1μmの厚さの白金コーティング皮膜8bが形成されている。また、バリヤー皮膜8aの厚さは0.1μm〜5μm程度が最適であり、本実施態様では約2μmの厚さのTiN製のバリヤー皮膜が形成されている。
【0030】
本発明の実施形態に於いては、白金コーティング触媒層8を形成する出口側炉本体部材2だけでなく、入口側炉本体部材1の内表面や両反射体5・12の外表面にもTiN製のバリヤー皮膜9・10・11が形成されている。図3は入口側炉本体部材1の内表面のバリヤー皮膜9の形成状態を示すものである。
即ち、各バリヤー皮膜8a・9・10・11の形成に際しては、先ず、出口側炉本体部材2等の内表面に適宜の表面処理を施し、ステンレス鋼表面に自然形成されている各種金属の酸化膜や不働態膜を除去する。次に各部材にTiNによるバリヤー皮膜8a・9・10・11の形成を行なう。本実施態様に於いてはイオンプレーティング工法により厚さ約2μmのTiN製バリヤー皮膜8a・9・10・11を形成している。
【0031】
前記バリヤー皮膜8a・9・10・11の材質としてはTiNの外にTiC、TiCN、TiAlN等を使用することが可能である。非触媒性であり、しかも耐還元性及び酸化性に優れているからである。
また、バリヤー皮膜8a・9・10・11の厚さは前述の通り0.1μm〜5μm程度が適当である。何故なら、厚さが0.1μm以下であると、バリヤー機能が十分に発揮されず、また逆に、厚さが5μmを越えるとバリヤー皮膜そのものの形成に手数がかかるうえ、加熱時の膨張差等が原因となってバリヤー皮膜の剥離等を生ずる虞れがあるからである。
更に、バリヤー皮膜の形成方法としては、前記イオンプレーティング工法以外に、イオンスパッタリング法や真空蒸着法等のPVD法や化学蒸着法(CVD法)、ホットプレス法、溶射法等を用いることも可能である。
【0032】
前記出口側炉本体部材2の方は、バリヤー皮膜8aの形成が終わると、引き続きその上に白金コーティング皮膜8bを形成する。本実施態様に於いては、イオンプレーティング工法により厚さ約1μmの白金コーティング皮膜8bを形成している。
前記白金コーティング皮膜8bの厚さは0.1μm〜3μm程度が適当である。何故なら、厚さが0.1μm以下の場合には、長期に亘って触媒活性を発揮することが困難となり、また逆に、厚さが3μm以上になると、白金コーティング皮膜8bの形成費が高騰するうえ、3μm以上の厚さにしても触媒活性度やその保持期間にほとんど差がなく、しかも加熱時に膨張差等によって剥離を生ずる虞れがあるからである。
また、白金コーティング皮膜8bの形成方法は、イオンプレーティング工法以外にイオンスパッタリング法、真空蒸着法、化学蒸着法、ホットプレス法等が使用可能であり、更に、バリヤー皮膜8aがTiN等の導電性のある物質の時にはメッキ法も使用可能である。
【0033】
上記図1乃至図3に示した本発明の第1実施形態に於いて、入口側炉本体部材1の内表面や入口側反射体5の外表面、出口側反射体12の外表面に夫々バリヤー皮膜9・10・11を形成するのは、前述の通り、各部材1・5・12の金属外表面が触媒作用の機能を果さないようにするためである。
このよううな観点からすれば、入口側炉本体部材1、入口側反射体5及び出口側反射体12等を非触媒性で且つ耐還元性を有する材質で形成するようにしてもよい。
【0034】
次に、本発明の第2実施形態に係る水分発生用反応炉を説明する。
当該第2実施形態に於いては、図1に示した第1実施形態における入口側炉本体1と両反射体5・12を形成する素材に、例えば鉄−クロム−アルミ合金やアルミ合金等のH2 やO2 に対して所謂触媒活性を有しない材質の素材が使用されている。従って、白金コーティング触媒層8を設けた部分以外では、H2 やO2 が水分の発生中に活性化されることは無く、O2 とH2 の反応による局部的な温度上昇も起らない。
【0035】
尚、当該第2実施形態の一例として、入口側及び出口側反射体5・12は、厚さ約2mmの鉄−クロム−アルミ合金を用いて円形に形成されている。
また、入口側反射体5及び出口側反射体12は、入口側炉本体部材1のガス供給口1a及び出口側炉本体部材2の水分ガス取出口2aを中心としてこれに対向状に配置され、約1mmの隙間Lを保持した状態で取付ボルト13・14により、各炉本体部材1・2の内側面へ固定されている。
【0036】
入口側炉本体部材1や両反射体5・12、にステンレス鋼やニッケル合金鋼、ニッケル鋼以外の金属表面の触媒活性を有しない金属(例えば鉄−クロム−アルミ合金)を使用した場合には、これ等の外表面に内部ガスや内部金属組成材の外部への放出を防止するための適宜の表面処理を施す方が望ましい。
また、前記表面処理としては、例えば図1の第1実施形態に於いて使用したTiN等の非触媒性であり且つ耐食性、耐還元性及び耐酸化性に優れたバリヤー皮膜を形成するようにしてもよい。
【0037】
図4は本発明の第3実施形態に係る水分発生用反応炉の縦断面図を示すものである。当該第2実施態様に於いては、反応炉本体Aの内部空間V内に厚板状の1枚の反射体17が、ボルト13・14によって出口側炉本体部材2側に固定されており、1枚の反射体17を用いた点を除いて、その他の構成は図1に示した第1実施態様の場合とほぼ同一である。
【0038】
当該図4に於いて、18はシース型温度計の取付用孔であり、入口側炉本体部材1内へシース型温度計(図示省略)が挿入されている。
また、図4に於いて8は白金コーティング触媒層であり、出口側炉本体部材2の内壁面に形成されている。
更に、入口側炉本体部材1及び反射体17等の外表面には、TiN等のバリヤー皮膜9・19が形成されている。尚、図4では、入口側炉本体部材1の内壁面をTiN等のバリヤー皮膜9でコーティングしているが、その上に白金コーティング皮膜8bを形成して、白金コーティング触媒層8にすることも可能である。
【0039】
前記反射体17は比較的厚さの大きな材料でもって、内部空間Vの内径より僅かに小さな外形を有する円盤形に形成されており、その外周端部の出口側炉本体部材2の内壁面に対向する側面は、角度αのテーパー面に形成されている。
尚、図4に於いては炉本体部材1・2及び反射体17をステンレス鋼により形成し、入口側炉本体部材1の内壁面と反射体17の外表面にバリヤー皮膜9・19を形成するようにしているが、入口側炉本体部材1及び反射体17を非触媒性で耐還元性の素材でもって形成してもよいことは、前記第2実施形態の場合と同じである。
【0040】
当該第3実施形態の発応炉本体Aでは、H2 ガスへの着火や逆火を完全に防止することができるだけでなく、反射体17の熱容量が大きくなることにより、白金コーティング触媒層8の中央部分の過度な温度上昇をより有効に防止することができるうえ、反応炉本体Aの内部空間の容積(即ち、デッドゾーン)の減少を図ることができ好都合である。
【0041】
【実施例1】
図1の第1実施形態に於いて、反応炉本体Aの外径114mmφ、厚さ34mmφ、内部空間Vの厚さ14mm、内部空間Vの内径108mmφ、入口側反射体5及び出口側反射体12の外径80mmφ、厚さ2mm、隙間Lの大きさ1mm、テーパ面の長さ10mm、白金コーティング触媒層8(TiNバリヤー皮膜5μm+ptコーティング皮膜0.3μm)、入口側炉本体部材1及び両反射体5・12のバリヤー皮膜9・19をTiN(5μm)と夫々した。
2 20%リッチの混合ガスGを原料とし、且つシース型温度計(図示省略)の温度(合計4ケ所)が450℃〜500℃の条件下で100時間以上の連続水分発生(水分発生量1000sccm)を行ったが、H2 ガスへの着火や逆火は及び白金コーティング触媒層8の剥離等は皆無であった。
【0042】
【実施例2】
図4の第3実施形態に於いて反応炉本体Aの外径114mmφ、厚さ30mm、内部空間Vの厚さ10mm、内部空間Vの内径108mmφ、反射体17の厚さ6mm、外径102mmφ、出口側炉本体部材2との隙間L1mm、入口側炉本体部材1との間隔3mm、テーパー面の長さ約21mm(テーパー角α=8°)、白金コーティング触媒層8(TiNバリヤー皮膜8a5μm+ptコーティング皮膜8b0.3μm)、入口側炉本体部材1の内壁面及び反射体17の外表面のバリヤー皮膜9・19をTiN(5μm)と夫々した。
前記実施例1の場合とほぼ同一条件下で連続水分発生試験を行ったが、H2 ガスへの着火や逆火、白金コーティング触媒層8の剥離等は第1実施例の場合と同様に皆無であった。
【0043】
【発明の効果】
請求項1の発明においては、入口側反射体及び出口側反射体の各炉本体部材と対向する側の外径寸法を炉本体部材の窪部(即ち、炉本体の内部空間)の内径寸法よりやや小さくすると共に、各炉本体部材と対向する側の外周縁部をテーパー面に形成する構成としている。
その結果、ガス供給口より流入した混合ガスが円滑に炉本体の内部空間内へ拡散されると共に、出口側炉本体部材の白金コーティング触媒層においても、混合ガスが流入する出口側反射体の外周縁部近傍における集中的な発熱が有効に防止されることになり、従前のような局部的な発熱による白金コーティング層の劣化や剥離及び局部的な温度の上昇によるH2 ガスの着火等の危険を有効に防止することができる。
また、反応炉本体Aの内部空間内には二枚の反射体のみを配設し、従前の如き金属フィルターを除く構成としているため、前記入口側及び出口側の反射体の外径及び厚みを比較的大きくすることができる。その結果、触媒中心部の温度上昇を有効に防止することができ、白金コーティング触媒層の局部的な剥離を皆無にすることができる。
【0044】
請求項2の発明に於いては、反応炉本体を形成する部材を酸素及び水素に対して触媒活性を有しない鉄−クロム−アルミ合金等の非触媒性で且つ耐還元性及び耐酸化性に優れた材質の素材でもって形成するようにしているため、白金コーティング触媒層以外の部分の金属表面の触媒作用が起因となってH2 への着火や逆火が発生することが皆無となり、水分発生用反応炉の安全性が大幅に向上する。
【0045】
請求項3の発明においては、反応炉本体の内部空間内の白金コーティング触媒層を形成した以外の部分を、非触媒性で且つ耐還元性、耐酸化性に優れたバリヤー皮膜で覆う構成としているため、水分発生炉の運転中に触媒作用を有する生の金属表面が露出することがない。その結果、H2 濃度の高い混合ガスを用いて、長期に亘って水分発生を行っても、前記白金コーティング触媒層以外の部分の金属表面の触媒作用によってO2 とH2 が局部的に激しく反応することが皆無となり、これによって従前のようなH2 への着火や逆火の発生がより完全に防止される。
【0046】
請求項4の発明に於いては、反応炉本体Aの内部空間内に、外径が内部空間の内径より僅かに小さく、且つ厚みの比較的大きな一枚の反射体のみを配設するようにしているため、第1実施形態や第2実施形態の場合と同様にH2 ガスへの着火や逆火が防止できるだけでなく、反射体の熱容量が大きくなることにより、白金コーティング触媒層の中心部分の温度上昇を有効に防止することができる。また、反応炉本体Aの内部空間のデッドスペースをより少なくでき、反応炉のガス置換性が容易となるので希釈ガスを用いた少流量の水分発生が可能となると共に、反応炉本体Aの一層の小形化が可能となる。
本発明は上述の通り優れた実用的効用を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1実施形態に係る水分発生用反応炉本体の縦断面図である。
【図2】白金コーティング皮膜の形成状態を示す部分縦断面図である。
【図3】バリヤー皮膜の形成状態を示す部分縦断面図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係る水分発生用反応炉本体の縦断面図である。
【図5】従前の水分発生用反応炉本体の縦断面図である。
【図6】図5の白金コーティング皮膜層の形成状態を示す縦断面図である。
【符号の説明】
Aは反応炉本体、H2 は水素ガス、O2 は酸素ガス、Gは混合ガス、Lは隙間、Vは内部空間、αは反射体外周縁部のテーパー角、1は入口側炉本体部材、1aはガス供給口、1bは接続用金具、2は出口側炉本体部材、2aは水分ガス取出口、2bは接続用金具、5は入口側反射体、12は出口側反射体、8は白金コーティング触媒層、8aはバリヤー皮膜、8bは白金コーティング皮膜、9は入口側炉本体部材内壁面のバリヤー皮膜、10は入口側反射体外表面のバリヤー皮膜、11は出口側反射体外表面のバリヤー皮膜、13・14は固定ボルト、15は溶接部、16は取付用ボルト孔、17は反射体、18はシース型温度計の取付孔、19は反射体外表面のバリヤー皮膜。

Claims (6)

  1. ガス供給口を有する入口側炉本体部材と、水分ガス取出口を有する出口側炉本体部材と、前記入口側炉本体部材と出口側炉本体部材とを対向状に組合せ溶接して形成した反応炉本体の内部空間内にガス供給口と対向状に配設した入口側反射体と、前記内部空間内に水分ガス取出口と対向状に配設した出口側反射体と、前記出口側炉本体部材の内壁面に形成した白金コーティング触媒層とから形成され、ガス供給口から反応炉本体の内部空間内へ供給した水素と酸素を前記白金コーティング皮膜に接触させてその反応性を活性化させることにより、水素と酸素を非燃焼の状態下で反応させて水を発生させるようにした水分発生用反応炉において、入口側炉本体部材及び出口側炉本体部材の内壁面に底面が平面状の窪部を形成すると共に、前記入口側反射体及び出口側反射体を、前記炉本体部材の窪部の内径よりも小径で且つその外周端縁部の炉本体部材の底面と対向する側にテーパー部を形成した構成とし、当該入口側反射体及び出口側反射体を入口側炉本体部材及び出口側炉本体部材へ夫々の底面と隙間を保持した状態で対称状に固定したことを特徴とする水分発生用反応炉。
  2. 前記入口側炉本体部材と入口側反射体と出口側反射体とを、水素及び酸素に対して触媒活性を有しない鉄−クロム−アルミ合金又はアルミ合金から形成するようにした請求項1に記載の水分発生用反応炉。
  3. 反応炉本体の内部空間内の白金コーティング触媒層を設けた部分を除くその他の全部の部分に、水素及び酸素に対して触媒活性を有しないTiN、TiC、TiCN、TiAlN、Al2 3 、Cr2 3 、SiO2 、CrNの中の何れかから成る非触媒性のバリヤー皮膜を形成するようにした請求項1又は請求項2に記載の水分発生用反応炉。
  4. ガス供給口を有する入口側炉本体部材と、水分ガス取出口を有する出口側炉本体部材と、前記入口側炉本体部材と出口側炉本体部材とを対向状に組合せ溶接して形成した反応炉本体の内部空間内に水分ガス取出口と対向状に配設した1枚の反射体と、前記出口側炉本体部材の内壁面に形成した白金コーティング触媒層とから形成され、ガス供給口から反応炉本体の内部空間内へ供給した水素と酸素を前記白金コーティング皮膜に接触させてその反応性を活性化させることにより、水素と酸素を非燃焼の状態下で反応させて水を発生させるようにした水分発生用反応炉において、入口側炉本体部材及び出口側炉本体部材の内壁面に底面が平面状の窪部を形成し、また、前記反射体の外径を窪部の内径より小さく形成すると共に、当該反射体の外周端縁部の出口側炉本体部材へその底面と対向する側にテーパー部を形成し、更に、当該反射体を出口側炉本体部材へその底面と隙間を保持した状態で固定したことを特徴とする水分発生用反応炉。
  5. 前記入口側炉本体部材と出口側炉本体部材と反射体とを水素及び酸素に対して触媒活性を有しない鉄−クロム−アルミ合金又はアルミ合金から形成するようにした請求項4に記載の水分発生用反応炉。
  6. 反応炉本体の内部空間内の白金コーティング触媒層を設けた部分を除くその他の全部の部分に、水素及び酸素に対して触媒活性を有しないTiN、TiC、TiCN、TiAN、Al2 3 、Cr2 3 、SiO2 、CrNの中の何れかから成る非触媒性のバリヤー皮膜を形成するようにした請求項4又は請求項5に記載の水分発生用反応炉。
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