JP3686625B2 - グラウト侵入防止キャップ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アンボンドケーブルの端部に装着されるグラウト侵入防止キャップに関するものである。特に、地盤の安定維持のために、法面や擁壁の補強に使用されるアンカー用ケーブルに装着するグラウト侵入防止キャップに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
法面などにアンカーを施工する場合の一般的な工程を図5に基づいて説明する。
▲1▼地盤にボーリング機械で削孔する。
▲2▼削孔に際して孔壁のくずれを防止するために、ケーシングパイプ300を回転しながら削孔に押し込む。
▲3▼ケーシングパイプ内にアンカーケーブル310を挿入する。
▲4▼ケーシングパイプ内の削孔水とグラウトとを置換するため、削孔320の底部よりグラウトを注入し、削孔水と置き換える作業を行う(図5A)。
▲5▼グラウトを置換注入後は、ケーシングパイプ300を加圧所定位置まで引き上げ、ケーシングパイプ300がアンカー定着長部の部分からなくなるようにする(図5B)。
▲6▼削孔出口側のケーシングパイプ300の端部に加圧キャップ330を取り付け(図5B)、定着長部分へグラウトを加圧注入する(図5C)。
【0003】
ここで用いられるアンカーケーブルには、アンボンドストランドを使用することが多い。このアンボンドストランドには、(A)裸のストランド(緊張材)にグリースを塗布し、その上にポリエチレンパイプを被覆したものとか、(B)裸のストランドに合成樹脂を被覆したものにポリエチレンパイプを被覆したもの等がある。ストランドを緊張するときストランドが拘束されないで伸びるために、ストランドとポリエチレンパイプの間には所定の隙間を設けている。
【0004】
ここで、定着長部分へグラウトを加圧注入する際、ストランドとポリエチレンパイプとの隙間からグラウトが侵入すると、ケーブルを緊張するときストランドの伸びが拘束されることがある。ストランドが拘束されると地盤に所定の荷重が伝わらないことになる。そこで、前記隙間へのグラウトの侵入を防止するため、グラウト侵入防止キャップを用いている。
【0005】
このキャップ400は、図6(A)に示すように、一端が開口部、他端が閉口部で、軸方向に一様な内径を持った筒状体である。アンボンドストランド500の端部にこのキャップをはめ込む。そして、キャップ外周から開口部を経てポリエチレンパイプ外周に至る範囲に止水テープ410を巻き付けてグラウトの侵入を防止していた。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記のグラウト侵入防止技術では、グラウトの侵入を十分に阻止できない場合があった。
【0007】
パイプを構成するポリエチレンはストランドを構成する鋼に比べて熱膨張係数が約10倍のため、アンカーケーブルを施工現場で加工してから削孔内に挿入するまでの間に周囲の温度変化があると、鋼以上に伸縮する。キャップをアンカーケーブル端部に装着した後、温度が下がるとポリエチレンパイプが収縮するが、このときキャップが短いとポリエチレンパイプから外れる(図6B)。また、ポリエチレンパイプの収縮に応じてキャップを長くしても、キャップとポリエチレンパイプの境界に施している止水テープがずれることがある(図6C)。いずれの場合も、加圧注入時にグラウトがストランドとポリエチレンパイプとの隙間に侵入することになる。
【0008】
従って、本発明の主目的は、アンボンドケーブルのパイプと緊張材との間にグラウトが侵入することを効果的に防止できるグラウト侵入防止キャップを提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、アンボンドケーブルのグラウト侵入防止キャップの形態や材質を限定することで上記の目的を達成する。
【0010】
すなわち、本発明グラウト侵入防止キャップは、緊張材の外周をパイプで覆ったアンボンドケーブルの端部に装着されるグラウト侵入防止キャップであって、このキャップは、一端に開口部を、他端に閉口部を、内周に小径部を有する筒状体で、前記小径部の内径は前記パイプの外径と同等以下であり、前記小径部は変形することでパイプの外面を圧接する弾性材で構成されることを特徴とする。
【0011】
このように、キャップ内周に小径部を設けることで、この小径部でアンボンドケーブルのパイプを押さえ付け、グラウトの侵入を阻止することができる。従って、本発明キャップを用いれば、キャップとアンボンドケーブルのパイプとの境界部に止水テープを巻き付けなくても確実なグラウトの侵入阻止が可能となる。
【0012】
以下、本発明キャップの構成についてより詳細に説明する。
<形状>
キャップ全体としては、一端側が開口して、他端側が閉口した筒状体であれば良い。グラウトの侵入口となる開口部側に小径部を設けることが好適である。小径部を設けた箇所は、キャップ内径のみ径が小さくなってキャップ外径は軸方向に均一な径の形状でも良いし、キャップ内径とキャップ外径の両方が小さくなった形状でも良い。閉口部側は、その端部まで小径部が設けられていても良いが、直管状の形状でも構わない。
【0013】
一方、小径部は、アンボンドケーブルのパイプ表面に接してグラウトの侵入を阻止するため、キャップ内面の全周におよぶ形状であれば良い。例えば、キャップ内周の全周におよぶリング状の突起が挙げられる。このリング状突起の断面形状は特に限定されず、矩形でもよいが、半円状など円弧面を有する形状とすれば、パイプとの接触が面接触ではなく線接触に近づけることができ、キャップ挿入時の挿入抵抗を低減することができる。このような小径部は、キャップ軸方向に連続的または断続的に配置することができる。
【0014】
<サイズ>
キャップ全体のサイズとしては、パイプが環境温度の低下により収縮したとき、1箇所以上の小径部がパイプ外周と接しているような長さとすることが好ましい。このような長さとすることで、アンボンドケーブルの緊張材とパイプとの収縮差が生じた場合でも、キャップがずれたり外れたりしてグラウトが侵入してくることを防止できる。より具体的には、アンボンドケーブルの長さを基に予想される環境温度差から緊張材(通常鋼材)とパイプ(ポリエチレンなど)との収縮差を求め、この収縮差が生じても1箇所以上の小径部がパイプ外周と確実に接することができる長さを選択すればよい。
【0015】
キャップの厚さは、使用時に求められる機械的特性を十分に満たす程度の厚さを選択すればよい。周壁および閉口部端面のいずれもほぼ一様な厚さとしても良いが、閉口部側の厚さを他の部分よりも厚くして補強することが好ましい。ケーシングパイプを加圧所定位置まで引き上げる際(図5B参照)、アンカーケーブルも共上がりすることがある。その場合、ケーブルを押し込むために機械などで押え付けることがあり、そのときにキャップが損傷することがあるためである。
【0016】
小径部の内径は、アンボンドケーブルのパイプの外径と同等か若干小さい程度にする。これにより、キャップをアンボンドケーブル端部に装着した際、小径部がパイプ外周面を押え付けてグラウトの侵入を効果的に抑制する。より具体的には小径部の内径とパイプの外径との差が0.1〜1.0mm程度が好ましい。
【0017】
小径部以外の箇所の内径は、アンボンドケーブルのパイプ外径よりも大きくても構わない。小径部のみがパイプ外周面に接することで、キャップの装着容易性を高めることができる。
【0018】
<材質>
キャップの材質はアンボンドケーブルの外周に装着した際に小径部が外周に広がって変形し、この変形によりパイプ外周を押え付けることができる程度の弾性を有する材質が好ましい。また、ケーシングパイプを回転させながら引き上げる際、グラウト侵入防止キャップの外周を擦るため、この摩擦によって損傷・摩耗しない程度の硬さを具える材質が好適である。具体的には、ポリエチレンなどのプラスチックが挙げられる。
【0019】
キャップの材質は、キャップの全体にわたって同一の場合はもちろん、部分的に異なる材質で構成される場合も考えられる。例えば、弾性変形が要求される小径部をプラスチックで構成し、小径部以外の箇所を金属管で構成することなども挙げられる。また、グラウトの侵入口となる開口部側を変形しやすいプラスチックで構成し、閉口部側を鋼などの金属で構成することも考えられる。閉口部側を金属製とすることで、ケーシングパイプを加圧所定位置まで引き上げる際のアンカーケーブルの共上がりを修正するためにケーブルを機械などで押し込む際などのキャップの損傷を抑制できる。
【0020】
<小径部の数>
小径部の数は単数でも複数でも良い。グラウトの侵入を効果的に抑制できるのに十分な数を適宜選択すればよい。ただし、あまり多くの径部を設けると、キャップをアンボンドケーブルのパイプ外周にはめ込む際の挿入抵抗が大きくなるため、装着容易性も考慮して小径部の数を決定すれば良い。
【0021】
<潤滑剤>
キャップの内側に潤滑剤を塗布しておくことが好ましい。潤滑剤を塗布しておくことで、アンボンドケーブルの先端に円滑にキャップを装着することができ、さらにはグラウトの侵入をより確実に防止できる。潤滑剤にはグリースなどが挙げられる。
【0022】
また、本発明グラウトの注入方法は、上記の本発明グラウト侵入防止キャップをアンボンドケーブル端部に装着して定着長部へグラウトを加圧注入することを特徴とする。この構成により、アンボンドケーブルのパイプと緊張材との間にグラウトが侵入することを防止できる。グラウトの加圧注入自体は、図5に説明した方法と同様に行えばよい。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
(実施例1)
図1は本発明グラウト侵入防止キャップの縦断面図である。
このキャップ100は、一端に開口部10、他端に閉口部20を有する筒状体である。本例では、このキャップをポリエチレンで構成した。キャップの全長は約500mm、外径は28.5mm、厚さは0.8mmである。
【0024】
このようなキャップの開口部側から約350mmの範囲には断続的に形成された複数の小径部30を具えている。小径部30はキャップ内径が小さくなった箇所である。本例では、キャップの縦断面において、軸方向に円弧状片と直線片を交互につなぎ合わせて波型を形成し、波型の谷の部分を小径部30とした。小径部30は内径が23.3mmで、合計4箇所設けている。また、小径部30の隣に位置する円弧状片部の内径は24.0mmとした。つまり、内径23.3mmの部分と、内径24.0mmの部分が交互に設けられている。この波型を構成する円弧状片のキャップ軸方向の長さは30mm、円弧状片をつなぐ直線片の長さは5mmである。
【0025】
一方、閉口端側は直管状に形成されている。この部分の外径は28.5mm、長さは約130mmである。
【0026】
このようなキャップの利用状態を図2に示す。
ここでは、アンボンドPC鋼より線200の端部に前記キャップを装着している。このアンボンドPC鋼より線200は、PC鋼より線の表面にエポキシ樹脂を粉体塗装により防食処理した緊張材210と、この緊張材の外周を間隔をあけて覆ったポリエチレンパイプ220とから構成されている。PC鋼より線の外径はφ15.2mm、ポリエチレンパイプ220の外径は23.8mmである。
【0027】
ここで、アンボンドPC鋼より線200の長さを35m、自由長部の長さを30mとした場合の緊張材210とポリエチレンパイプ220の収縮差を求める。夏季、直射日光が当たる昼間と冷え込んだ夜間を想定すると、環境温度差は40℃程度と考えられる。この温度差と鋼およびポリエチレンの熱膨張係数を基に収縮差を求めると、約18cmとなる。そこで、18cmの収縮差が生じてもキャップの小径部が外れない十分な長さを考慮して全長を約500mmとした。
【0028】
キャップ100の装着は、アンボンドPC鋼より線200の端部にキャップ開口部をはめ込むことで行う。その際、小径部30が軸方向に断続的に設けられているため、キャップ100とパイプ220の接触は小径部30のみとなり、キャップ100の挿入をスムースに行うことができる。特に、キャップ内面にグリースなどの潤滑剤を塗布しておけば、一層容易にキャップのはめ込みを行うことができる。
【0029】
このキャップは、アンボンドPC鋼より線200の緊張材210とポリエチレンパイプ220とに収縮差が生じても、アンボンドPC鋼より線200から外れることがなく、少なくとも1箇所の小径部30がポリエチレンパイプ220の外周に密接しているため、確実にグラウトの侵入を防止することができる。従って、キャップ100とアンボンドPC鋼より線200との境界部に止水テープを巻きつける必要もない。
【0030】
(実施例2)
図3は閉口部の厚みを大きくして補強した本発明キャップの使用状態を示す縦断面図である。
【0031】
図5Bに示すように、ケーシングパイプを加圧所定位置まで引き上げる際、アンカーケーブル(アンボンドPC鋼より線)も共上がりすることがある。その場合、アンボンドPC鋼より線を押し込むために機械などで押え付けることがあり、そのときにキャップが損傷することがある。閉口部20の端面の厚みを大きくしておけば、アンボンドPC鋼より線200の押え付けを行ってもキャップ100が損傷することを防止できる。
【0032】
(実施例3)
図4は開口部側をポリエチレンで構成し、閉口部側を鋼で構成した本発明キャップの使用状態を示す縦断面図である。
【0033】
ここでは、ポリエチレンで構成した箇所を波型管とし、鋼で構成した箇所を直管として、両者を連結している。この連結は、両者が確実に接合できればどのような手段でも構わない。ここでは、鋼管部40の開口側外周に雄ねじを形成し、この雄ねじに波型樹脂部50にねじ込んで連結している。
【0034】
この構成でも、閉口部側は強度の高い鋼で構成されているため、ケーシングパイプを加圧所定位置まで引き上げる際のアンカーケーブルの共上がりを修正するためにケーブルを機械などで押し込む際などのキャップの損傷を抑制できる。
【0035】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明グラウト侵入防止キャップは、アンボンドケーブルを押え付ける小径部を設けることで、単にはめ込むだけで確実なグラウトの侵入防止を実現することができる。
【0036】
また、アンボンドケーブルの緊張材とパイプとの収縮差が生じても小径部がパイプから外れない十分な長さを有することで、環境温度の変化に関わらずグラウトの侵入を防止することができる。
【0037】
また、キャップの内周に潤滑剤を塗布することで、アンボンドケーブルへの装着を容易に行うことができる。
【0038】
さらに、閉口部側の厚みを大きくしたり、金属製とすることで、閉口部側の補強を行い、使用時にキャップが損傷することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明キャップの縦断面図である。
【図2】本発明キャップの使用状態を示す縦断面図である。
【図3】閉口部の厚みを大きくして補強した本発明キャップの使用状態を示す縦断面図である。
【図4】開口部側をポリエチレンで構成し、閉口部側を鋼で構成した本発明キャップの使用状態を示す縦断面図である。
【図5】アンカーの施工工程を示す説明図で、(A)はケーシングパイプ内の削孔水とグラウトの置換工程、(B)はケーシングパイプの引き上げ工程、(C)はグラウトの加圧注入工程を示す。
【図6】従来のキャップの使用状態を示す説明図で、(A)は正常な装着状態を、(B)はキャップが抜けた状態を、(C)は止水テープがずれた状態を示している。
【符号の説明】
10 開口部
20 閉口部
30 小径部
40 鋼管部
50 波型樹脂部
100 キャップ
200 アンボンドPC鋼より線
210 緊張材
220 ポリエチレンパイプ
300 ケーシングパイプ
310 アンカーケーブル
320 削孔
330 加圧キャップ
400 キャップ
410 止水テープ
500 アンボンドストランド
510 ポリエチレンパイプ
Claims (6)
- 緊張材の外周をパイプで覆ったアンボンドケーブルの端部に装着されるグラウト侵入防止キャップであって、
このキャップは、一端に開口部を、他端に閉口部を、内周に小径部を有する筒状体で、
前記小径部の内径は前記パイプの外径と同等以下であり、
前記小径部は変形することでパイプの外面を圧接する弾性材で構成されることを特徴とするグラウト侵入防止キャップ。 - 前記パイプが環境温度の低下により収縮したとき、1箇所以上の小径部がパイプと接しているような長さを有することを特徴とする請求項1に記載のグラウト侵入防止キャップ。
- 前記キャップの内側に潤滑剤を塗布したことを特徴とする請求項1に記載のグラウト侵入防止キャップ。
- 前記キャップ他端側が他の部分に比較して肉厚に構成されたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のグラウト侵入防止キャップ。
- 前記キャップ他端側を金属製としたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のグラウト侵入防止キャップ。
- 前記請求項1〜5のいずれかに記載のグラウト侵入防止キャップをアンボンドケーブル端部に装着して定着長部へグラウトを加圧注入することを特徴とするグラウト注入方法。
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