JP3685282B2 - 最大透磁率に優れた軟磁性ステンレス鋼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気シールド用途に用いられる軟磁性ステンレス鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、磁気シールド用材にはパーマロイBとして知られるFe−46%Ni合金が広く用いられている。パーマロイBは、高透磁率を有する材料であり、磁気シールド特性は、素材の有する最大透磁率に依存することは良く知られている。このパーマロイBは、磁気シールド性を付与するために部品加工後1100℃程度の高い温度で磁気焼鈍が施された後、使用されている。
【0003】
しかし、パーマロイBはNiを多量に含み高価であるために、これに代わる安価な材料としてSUYP(電磁軟鉄)が用いられる場合もある。SUYPは、部品加工後、800〜850℃というパーマロイBに比較すると低い温度範囲にて磁気焼鈍が施されている。ところで、SUYPはパーマロイBに比べて耐食性が劣るために、耐食性が要求される用途においては、磁気焼鈍後にNiめっきなどのめっき処理により、耐食性を補って磁気シールド材として使用されている。
【0004】
また、高い最大透磁率を有し、耐食性に優れている軟磁性材料としては、Fe−Cr系合金が知られており、特開平8−120420号公報、特公昭54−14569号公報、特開平3−150313号公報および特開平2−54738号公報などに開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
パーマロイBは、高い最大透磁率を有し、各種の磁気シールド用途に使用される優れた合金であるが、Niを多量に含有するために高価である。また、バッチ式にて磁気焼鈍する際には加工部品が、互いに重なり合ったり密着していることから、パーマロイBのごとく磁気焼鈍温度が高いと部品が軟化変形したり、拡散接合してしまうことが往々にして生じる。部品が変形した場合には、磁気焼鈍の後部品を形状矯正しているが、機械的に形状矯正することにより部品にひずみが加わり磁気特性が劣化するという問題がある。また、部品相互の拡散接合を防止するために、磁気焼鈍前にアルミナ粉末を部品間に散布するという方法などが採られている。しかし、これらの方法は、成品化までの工程数をいたずらに増大し、生産性を阻害するばかりでなく、コストアップの要因となっている。
【0006】
また、特開平3−150313号公報などに開示されているFe−Cr系軟磁性合金も磁気焼鈍温度が高いため、パーマロイBと同様の問題がある。ところで、特開平8−120420号公報において開示されている合金では、950℃というパーマロイBに比べると低い温度にて磁気焼鈍がなされているが、焼鈍時間が1hr以上と極めて長いため、生産性の観点からは実用性に乏しいという問題がある。
【0007】
一方、パーマロイBと比べて安価なSUYPは、施される磁気焼鈍温度がパーマロイBに比べると低いため、前述のような変形や密着の問題は少ないが、耐食性を補う意味からNiめっきやユニクロめっきが施されるため、めっき処理によりコストが高くなるばかりでなく、めっき処理に起因する磁気特性の劣化や、めっき厚さのばらつきによる磁気特性のばらつきが生ずるなどの問題もある。
【0008】
本発明は、これらの問題点を解決するべくなされたものであり、低温短時間の磁気焼鈍という生産性の高い手段にて優れた最大透磁率を発揮し、かつ耐食性に優れた軟磁性ステンレス鋼を提供するものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の課題は、重量%で、Cが0.005%未満、Si:0.1〜1.5%、Mn:1.0%以下、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Cr:9.0〜17.0%、N:0.02%以下、Ni:1.0%以下、Al:1.0%以下、Ti:1.0%以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である鋼であって、これに温度範囲が800〜850℃および均熱時間が0〜10minの磁気焼鈍を施すことにより、最大透磁率μmを10000以上としたことを特徴とする軟磁性ステンレス鋼により達成される。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の主たる要素であるCの磁気特性に対する作用について説明する。図1には、温度850℃、均熱時間0minにて磁気焼鈍を施したFe−16%Cr鋼の最大透磁率に及ぼすC含有量の影響を示す。図1に示すごとく、C含有量の減少に伴って最大透磁率は増加し、とくにC含有量を0.005%未満とした場合には、10000以上の優れた最大透磁率を示すことがわかる。
【0011】
Cは、結晶格子間隙に侵入して固溶するため、結晶格子にひずみを生じさせ透磁率を低下させると考えられる。また、CはCrと結合して炭化物を生成し易く、この生成析出したCr炭化物は、磁化の際における磁壁移動を拘束ないし凍結して透磁率を低下させるだけでなく、結晶粒成長を阻害して透磁率を低下させる。このようにCは、固溶ないし析出物のいずれの状態においても透磁率に対して悪影響を及ぼす。
【0012】
したがって、このようなCの悪影響を低減するべく従来磁気焼鈍においては、脱炭も一つの目的としていた。そのため、磁気焼鈍は水素雰囲気中で長時間施されている例が多い。たとえば、特公昭54−14569号公報では、水素雰囲気中で1150℃、2時間の磁気焼鈍が施されているが、C含有量はおおよそ0.04ないし0.06%から0.005%ないし0.006%にまで低減されているにすぎず、磁気焼鈍によりCを0.005%未満の極低Cにすることは、困難であることがわかる。
【0013】
また、従来の磁気焼鈍温度を高くしている理由の一つとして、結晶粒成長を促進するべく、粒成長阻害要因である炭化物の固溶を図るということもあり、脱炭および結晶粒成長に基づく高透磁率を得るための磁気焼鈍条件は、水素雰囲気中で高温長時間を強いられていた。したがって、従来の素材による磁気焼鈍では、生産能率、コストの点に問題があるばかりでなく、脱炭能は温度、時間、雰囲気、露点、時間などの要因によって変動するために、必ずしも所望の脱炭効果を得ることのできない場合もあった。
したがって、素材の溶製段階においてC含有量を極力低減することが、優れた透磁率を安定して発揮させるうえで有利であるといえる。
【0014】
一方、ステンレス鋼の溶製において、従来CやNを極めて低い水準にすることは、実験室レベルや多大な施設費を要する真空溶解炉による溶製を除けば困難なことであった。ところが、近年のステンレス鋼精錬技術の進歩により、マスプロダクションにおける極低C,Nステンレス鋼の実現が可能となってきた。
本発明は、このような技術的背景をもとに、ステンレス鋼の最大透磁率に及ぼすC含有量の影響を定量的に明らかにするとともに、近年躍進の著しいステンレス鋼の精錬技術との結び付きにより、C:0.005%未満のフェライト系ステンレス鋼の工業的規模における製造を実現し、低温短時間かつ真空雰囲気での磁気焼鈍という極めて生産性の高い方法にて製造可能な最大透磁率と耐食性に優れた軟磁性ステンレス鋼の提供を可能とした。
【0015】
次に、本発明鋼の化学組成および製造上の条件限定理由について説明する。
C:0.005重量%未満
本発明鋼における最重要な元素であり、前述のごとく極低とすることで炭化物の生成量が少なく結晶粒成長を円滑にし、固溶によるひずみの影響を抑止して高透磁率を発揮させるためには、0.005重量%未満であることを必要とする。
【0016】
Si:0.1重量%以上、1.5重量%以下
透磁率向上のために有効な元素である。その効果を得るためには、0.1重量%以上を含有する必要がある。しかし、多量の含有は硬さを増し、打ち抜きやプレスなどの部品加工を困難にするため、上限を1.5重量%とした。
【0017】
Mn:1.0重量%以下
脱酸剤として製鋼時に必要な元素であるが、透磁率にとっては好ましくない元素であるため、上限を1.0重量%とした。
P:0.04重量%以下
その含有は透磁率にとって好ましくない元素であるため、上限を0.04重量%とした。
【0018】
S:0.01重量%以下
透磁率にとって著しい悪影響を及ぼす元素であるため、上限を0.01重量%と厳しく制限した。
N:0.02重量%以下
その含有は透磁率にとって好ましくない元素であるため、上限を0.02重量%とした。
【0019】
Cr:9.0重量%〜17.0重量%
ステンレス鋼の耐食性発揮のために必須の元素であり、本発明鋼の磁気シールド用途に必要な耐食性を確保するためには少なくとも9.0重量%以上を必要とするが、Cr含有量の増加に伴い透磁率は漸減するため、透磁率性能確保のために上限を17.0重量%とした。
Ni:1.0重量%以下(0を含む)
その含有は透磁率にとって好ましくない元素であるため、上限を1.0重量%とした。
【0020】
Al:1.0重量%以下(0を含まない)
脱酸剤として有効な元素であり、添加に伴う脱酸作用により不純物が低減されるため透磁率向上に寄与する。しかし、過剰に添加すると介在物や析出物の成因となり、粒成長を阻害しかえって透磁率に悪影響を及ぼすようになるため、上限を1.0重量%とした。
Ti:1.0重量%以下(0を含まない)
Cと結合して炭化物を形成し、固溶Cを低減させるため透磁率向上に寄与する。しかし、過剰の添加は炭窒化物などの析出物の生成量を増大させ、結晶粒成長を阻害しかえって透磁率に悪影響を及ぼすようになるため、上限を1.0重量%とした。
(以下余白)
【0021】
磁気焼鈍条件:焼鈍温度800〜850℃、焼鈍時間0〜10min
磁気焼鈍温度が800℃に達しない場合、素材のひずみが十分に除去されず、10000以上の最大透磁率を得ることができない。一方、850℃を超えても温度上昇に見合う焼鈍効果の向上は見られず、焼鈍炉の消費電力が増加する、すなわち、コストを増すばかりであるため、磁気焼鈍温度は、800〜850℃とした。また、本発明鋼は、この温度範囲においては、焼鈍の均熱時間が0minで所望の最大透磁率を得ることができるが、結晶粒成長を促進させ、さらに高い最大透磁率を得るためにはより長時間の焼鈍を施すことが望ましい。しかし、均熱時間が10minを超えると、消費電力の増加によるコスト増大を招くばかりでなく、作業能率も低下するという問題を生じる。したがって、磁気焼鈍時間は、0〜10minとした。なお、焼鈍雰囲気は特に規制しないが、本発明鋼は脱炭を行う必要がないため、コストの高い水素ガス雰囲気による焼鈍の必要がない。真空雰囲気による焼鈍の方が、水素雰囲気による焼鈍よりもコスト面で優位であることから、本発明鋼では真空雰囲気焼鈍を行うことが望ましい。
【0022】
【実施例】
以下、実施例により本発明の具体例を説明する。
表1には、供試鋼の化学組成を示す。表1中に示す供試鋼A1〜A3は、本発明に規定する化学組成範囲内の鋼である。一方、供試鋼B1〜B2は、CないしCrが本発明範囲から外れる比較例である。表1中に示す供試鋼は、いずれもVOD精錬法にて70ton を溶製し、連続鋳造によりスラブとした後、熱間圧延にて厚さ4mmのホットコイルとした。その後、表2に示す冷間圧延と焼鈍の繰返しを経て、厚さ0.4mmの鋼板を得た。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
厚さ0.4mmの各供試鋼板から、外径が45mm、内径が33mmのリング状の試験片を切り出した。これらの試験片に対して、真空雰囲気中で表3に示す温度800〜850℃と時間1〜10minの組み合わせの磁気焼鈍を施した。磁気焼鈍後の各試験片について、最大透磁率μmを測定した結果も合わせて表3に示す。さらに、厚さ0.4mmの各供試鋼板をリング状に加工することなく、表3に示した条件にて磁気焼鈍を施し、JIS−Z2371に準拠した24時間の塩水噴霧試験により、耐食性を調査した。耐食性の評価は、目視判定により、ほとんど発錆の無いものを○、点錆が軽く分布しているものを△、面積率で10%以上の錆発生の認められたものを×にて表示した。
【0026】
表3には、最大透磁率μmの測定結果と、塩水噴霧試験結果を合わせて示す。本発明例の供試鋼A1〜A3は、低温短時間の磁気焼鈍であるにもかかわらず10000以上のμmを示し、耐食性も良好である。一方、比較例である供試鋼B1は、耐食性は良好であるが、C含有量が本発明で規定する範囲を超えて高いため、μmが5600と低い。また、供試鋼B2は、C含有量が低いためμmは10900と高いが、Cr含有量が低いため耐食性が劣る。
【0027】
【表3】
【0028】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明によれば、低温短時間かつ真空雰囲気での磁気焼鈍という極めて生産性の高い方法にて、磁気シールド特性と耐食性に優れた軟磁性ステンレス鋼を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 最大透磁率に及ぼすC含有量の影響を示す図。
Claims (1)
- 重量%で、Cが0.005%未満、Si:0.1〜1.5%、Mn:1.0%以下、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Cr:9.0〜17.0%、N:0.02%以下、Ni:1.0%以下(0を含む)、Al:1.0%以下(0を含まない)、Ti:1.0%以下(0を含まない)を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物である鋼であって、これに温度範囲が800〜850℃および均熱時間が0〜10minの磁気焼鈍を施すことにより、最大透磁率μmを10000以上としたことを特徴とする軟磁性ステンレス鋼。
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