JP3684679B2 - 内燃機関用ピストン - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、内燃機関に用いられるピストンに関し、特にその冠面形状に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の内燃機関用ピストンとして、例えば特開平5−240045号公報や特開平5−240047号公報に示されるようなものがある。
これらは、ピストンの冠面上にて、吸気側又は排気側のいずれか一方に峰部を形成し、この峰部より他方の側(排気側又は吸気側)に凹部を形成したものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記公報に記載のピストンでは、排気側又は吸気側に偏心させて凹部を設けて、筒内ガス流動をシリンダボアの片半分で形成しているため、次のような問題点があった。
▲1▼ 圧縮行程でのピストンの上昇に伴う、ガス流動の崩壊が早く、NOx低減のために点火時期を遅角側にした場合に、燃焼安定性が悪化する。
【0004】
▲2▼ ガス流動が存在しない側半分のデッドスペースで相反する渦が生じ、安定性に欠ける。
▲3▼ 排気側にガス流動が形成される場合、ガス流動が壁温の高い部位へ衝突するなど、高温側での流動となり、壁面からガスへの熱伝達が多く、ガス温度上昇により、吸入効率低下、ノック特性悪化を招く。
【0005】
▲4▼ ガス流動の存続時間が短いため、空気と燃料とが十分に混合しない。
本発明は、このような従来の問題点を解決することのできる内燃機関用ピストンを提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
このため、請求項1に係る発明では、冠面上に、その中心部を挟む形で、クランク軸線と平行な方向に一直線に延びる稜線をそれぞれ持つ2つの峰部を略対称に形成し、これらの峰部間に、クランク軸線と平行な中心軸線を持つ円筒面よりなるタンブル流生成用の凹部を形成したことを特徴とする内燃機関用ピストンを提供する。
また、各峰部の稜線は、ピストンが上死点にある時に、シリンダブロックの上端面よりも上方で、シリンダヘッド側の吸排気バルブのバルブ面に近接して位置し、各峰部の稜線より外側部分は、対面するシリンダヘッド側の吸排気バルブのバルブ面に平行な傾斜面をなし、ピストンが上死点にある時に、この傾斜面が吸排気バルブのバルブ面に近接して位置することを特徴とする。
【0007】
請求項2に係る発明では、前記凹部の円筒面の曲率半径はボア径の略1/2であることを特徴とする。
請求項3に係る発明では、前記凹部の底部に、前記円筒面の中心軸線と平行な中心軸線を持ち、前記円筒面の曲率半径より小さい曲率半径の円筒面よりなる第2凹部を形成したことを特徴とする。
【0008】
請求項4に係る発明では、冠面外周部に全周にわたって平坦な基準面を形成し、前記凹部の底部を基準面より低くしたことを特徴とする。
【0009】
請求項5に係る発明では、冠面外周部の前記各峰部より外側位置にのみ平坦な基準面を形成し、前記凹部の底部を基準面より高くしたことを特徴とする。
【0010】
【発明の効果】
請求項1に係る発明によれば、ピストン冠面の中心部に凹部を有するため、ピストンの上死点において、シリンダヘッドとピストンとの間の中心間距離を十分に確保でき、これにより上死点付近でも流動エネルギーが確保される。よって、ガス流動の崩壊を遅らせ、点火時期遅角側での燃焼安定性が向上する。
【0011】
また、凹部の円筒面に沿う形で、筒内全体を流動するため、無用なデッドボリウムがなく、安定したガス流動となる。よって、ガス流動整流効果によりサイクル変動を低減できる。
また、ガス流動が排気側に偏ることがなく、ヘッド側に衝突することもないので、ガスへの熱伝達を低減できる。よって、吸入効率やノック特性の向上を図ることができる。
【0012】
また、ガス流動が吸入〜圧縮上死点まで長い間存在するため、空気と燃料との混合時間が長くなる。よって、混合気の均質化を図ることができる。
また、各峰部の稜線より外側部分をバルブ面に平行な傾斜面としたことにより、ピストンの上死点付近でのスキッシュ効果を高めることができる。
請求項2に係る発明によれば、凹部の円筒面の曲率半径をボア径の略1/2にすることにより、上記の各効果を最大にすることができる。
請求項3に係る発明によれば、凹部の底部に、曲率半径のより小さい円筒面よりなる第2凹部を形成することにより、要求される圧縮比が高い等の理由で、ピストンの上死点位置でのシリンダヘッドとピストンとの間の中心間距離を十分にとれない場合に、第2凹部の深さ分、中心間距離を大きくし、これによりガス流動の崩壊を遅らせる効果を確保することができる。
【0013】
請求項4に係る発明によれば、冠面外周部に全周にわたって平坦な基準面を形成して、凹部の底部を基準面より低くしたことにより、冠面外周部の全部を加工上の基準面とすることができる。
【0014】
請求項5に係る発明によれば、冠面外周部の各峰部より外側位置にのみ平坦な基準面を形成して、凹部の底部を基準面より高くしたことにより、要求される圧縮比との関係で、凹部の底部を高くせざるを得ない場合にも、冠面外周部の一部を加工上の基準面とすることができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を図面により説明する。
図1〜図3は第1の実施例を示している。
図中1はシリンダヘッド、2は吸気ポート、3は吸気バルブ、4は排気ポート、5は排気バルブ、6はシリンダブロック、7はピストンである。尚、吸気バルブ3及び排気バルブ5は1気筒に2個ずつ備えられる。
【0016】
ここで、ピストン7の冠面上には、その中心部を挟む形で、クランク軸線(紙面と垂直方向)と平行な方向に延びる稜線L1,L2をそれぞれ持つ2つの峰部11,12を略対称に形成してある。
そして、これらの峰部11,12間(稜線L1,L2間)に、クランク軸線と平行な中心軸線Cを持つ円筒面よりなる凹部13を形成してある。この凹部13の円筒面の曲率半径Rはボア径Bの1/2とする(R=B/2)。
【0017】
また、峰部11,12(稜線L1,L2)より外側部分は、対面するシリンダヘッド1側の吸気バルブ3又は排気バルブ5のバルブ面に略平行な傾斜面14をなしている。
また、傾斜面14に連なって最も外側に平坦な基準面15を形成してあるが、この基準面15は冠面外周部に全周にわたって形成してある。そして、凹部13の底部は基準面15より低くしてある。
【0018】
次に作用を説明する。
2つの峰部11,12間に、ボア径Bの1/2の曲率半径Rを持つ円筒面よりなる凹部13を形成したことにより、次のような作用が得られる。
▲1▼ ピストン7の冠面の中心部に凹部13を有するため、ピストン7の上死点において、シリンダヘッド1とピストン7との間の中心間距離H(図2参照)を十分に確保でき、これにより上死点付近でも、図2のG2のごとく、流動エネルギーが確保される。よって、ガス流動の崩壊を遅らせ、点火時期遅角側での燃焼安定性が向上する。
【0019】
尚、図4は、本発明と従来例とについて、横軸に点火時期、縦軸に燃焼安定性(燃焼変動)をとって比較したもので、本発明によれば、NOx低減のために点火時期を遅角側に設定しても、燃焼安定性の悪化を従来例に比べて抑制できることがわかる。
▲2▼ 凹部13の円筒面に沿う形で、図1のG1のごとく、筒内全体を流動するため、無用なデッドボリウムがなく、安定したガス流動となる。よって、筒内流動整流効果によりサイクル変動を低減できる。
【0020】
▲3▼ ガス流動が排気側に偏ることがなく、ヘッド側に衝突することもない。すなわち、筒内流動をボア中心回りにして、壁面からガスへの熱伝達を低減できる。よって、吸入効率やノック特性の向上を図ることができる。
▲4▼ ガス流動が吸入〜圧縮上死点まで長い間存在するため、空気と燃料との混合時間が長くなる。よって、混合気の均質化を図ることができる。
【0021】
次に、凹部13の円筒面の曲率半径Rを、ボア径Bに対し、R= 0.8B、R= 0.5B、R= 0.3Bとして、筒内ガス流動場の可視化実験を行った結果について、図5により、説明する。
R= 0.8Bの場合、吸気行程前半でガス流動が見え始め、吸気行程後半のBDC付近で渦の中心がはっきりしたガス流動が見えた。圧縮行程前半ではガス流動場ではあるが、渦の中心が複数見えた。圧縮行程後半ではガス流動がピストン冠面に潰され、圧縮上死点ではガス流動場は崩壊し、小さな渦が見えた。
【0022】
R= 0.5Bの場合、吸気行程前半でガス流動が見え始め、吸気行程後半で渦の中心が明確なガス流動が見えた。圧縮行程前半では圧縮行程が始まってもガス流動場は維持され、圧縮行程後半でもピストン、燃焼室形状に沿ったガス流動が見えた。圧縮上死点でもガス流動場はR= 0.8Bの場合より大きな渦として維持されていた。
【0023】
R= 0.3Bの場合、吸気行程前半でガス流動が見え始め、吸気行程後半でピストン冠面に沿ったガス流動が見えた。圧縮行程前半では峰部外側の空間が大きいため、ここにも別の渦ができ、圧縮行程後半ではこの2つの場により全体が弱い場となった。圧縮上死点でピストンが更に上昇すると、再度ピストン凹部でガス流動が整流されたが、流動は弱い状態であった。
【0024】
以上より総合評価すれば、R=B/2において、最も良好な結果が得られた。また、峰部11,12(稜線L1,L2)より外側部分を吸気バルブ3又は排気バルブ5のバルブ面に平行な傾斜面14としたことにより、ピストン7の上死点付近でのスキッシュ効果を高めることができる。
また、冠面外周部に全周にわたって平坦な基準面15を形成して、凹部13の底部を基準面15より低くしたことにより、冠面外周部の全部を加工上の基準面とすることができるので、加工性を向上する。
【0025】
但し、図6に変形態様に示すように、要求される圧縮比との関係(高圧縮比化の要請)で、凹部13の底部を冠面外周部(15)より高くする場合は、冠面外周部の傾斜面14に連なる部分のみを平坦な基準面15として、円筒面の両端部側の部位は基準面を持たない形状とする。
図7及び図8は第2の実施例を示している。
【0026】
この第2の実施例では、第1の実施例の構成に加え、前記凹部13の底部に、前記円筒面の中心軸線Cと平行な中心軸線C’を持ち、前記円筒面の曲率半径Rより小さい曲率半径R’の円筒面よりなる第2凹部20を形成している。
要求される圧縮比が高い場合、峰部11,12の高さを高くする必要があり、これにボア径Bの1/2の曲率半径Rを持つ円筒面の凹部13を形成すると、ピストン7の上死点位置でのシリンダヘッド1とピストン7との中心間距離を十分にとれない場合がある。
【0027】
かかる場合は、凹部13の底部に、ボア径Bの1/2の曲率半径Rより小さな曲率半径R’の円筒面の第2凹部20を形成することで、第2凹部20の深さ分、中心間距離を大きくすることができ、これによってガス流動の崩壊を遅らせる効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1の実施例を示す内燃機関の概略断面図
【図2】 同上のピストン上死点位置での内燃機関の概略断面図
【図3】 同上のピストン冠面の斜視図
【図4】 点火時期と燃焼安定性との関係を示す図
【図5】 円筒面の曲率半径によるガス流動場を比較する図
【図6】 変形態様を示す内燃機関の概略断面図
【図7】 本発明の第2の実施例を示す内燃機関の概略断面図
【図8】 同上のピストン冠面の斜視図
【符号の説明】
1 シリンダヘッド
3 吸気バルブ
5 排気バルブ
7 ピストン
11,12 峰部
13 凹部
14 傾斜面
15 基準面
20 第2凹部
Claims (5)
- 冠面上に、その中心部を挟む形で、クランク軸線と平行な方向に一直線に延びる稜線をそれぞれ持つ2つの峰部を略対称に形成し、これらの峰部間に、クランク軸線と平行な中心軸線を持つ円筒面よりなるタンブル流生成用の凹部を形成してなり、
各峰部の稜線は、ピストンが上死点にある時に、シリンダブロックの上端面よりも上方で、シリンダヘッド側の吸排気バルブのバルブ面に近接して位置し、
各峰部の稜線より外側部分は、対面するシリンダヘッド側の吸排気バルブのバルブ面に平行な傾斜面をなし、ピストンが上死点にある時に、この傾斜面が吸排気バルブのバルブ面に近接して位置することを特徴とする内燃機関用ピストン。 - 前記凹部の円筒面の曲率半径はボア径の略1/2であることを特徴とする請求項1記載の内燃機関用ピストン。
- 前記凹部の底部に、前記円筒面の中心軸線と平行な中心軸線を持ち、前記円筒面の曲率半径より小さい曲率半径の円筒面よりなる第2凹部を形成したことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の内燃機関用ピストン。
- 冠面外周部に全周にわたって平坦な基準面を形成し、前記凹部の底部を基準面より低くしたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の内燃機関用ピストン。
- 冠面外周部の前記各峰部より外側位置にのみ平坦な基準面を形成し、前記凹部の底部を基準面より高くしたことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1つに記載の内燃機関用ピストン。
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