以下、添付図面を参照しながら本発明の好ましい実施の形態について説明する。
図1および図2は、本発明の実施の一形態に係る往復動ピストン式の火花点火式直噴ガソリンエンジン10の構造を示す断面略図である。また、図3は同エンジン10の模式図である。
図1および図2を参照して、図示の火花点火式直噴ガソリンエンジン10は、クランクシャフト21を回転自在に支持するシリンダブロック22と、シリンダブロック22の上部に配置されたシリンダヘッド23とを一体的に有しており、これらシリンダブロック22およびシリンダヘッド23間には、合わせ面(詳しくは、シリンダヘッド23とシリンダブロック22との間に設けられた図略のヘッドガスケットとの合わせ面)SLが形成されている。
シリンダブロック22には、シリンダボアを形成する複数の気筒24が形成されており、各気筒24には、コンロッド25を介してクランクシャフト21に連結されたピストン26と、ピストン26が気筒24内に形成する燃焼室27とが設けられている。本実施形態において、各気筒24の幾何学的圧縮比は14に設定されている。なお、シリンダブロック22の適所には、オイルジェット221が設けられている。オイルジェット221は、シリンダブロック22内の各潤滑油路と通じており、主としてピストン裏面の排気側の潤滑要部に潤滑油を供給するように当該潤滑油の噴射方向が指向されている。
図示の通り、正転時のクランクシャフト21が時計方向に回転する方向に見えるクランクシャフト21一端側から見て、すなわち、図1〜図3で見て、シリンダボア中心線CLがクランクシャフト21の回転中心Oに対して右側にオフセットしている。
図3を参照してより詳細に説明すると、クランクシャフト21の回転中心Oを通って前記合わせ面CLに対し、垂直な線をLN1とするとき、本実施形態におけるシリンダボア中心線CLは、この垂直線LN1と合わせ面CLとの交点Apを通って、垂直線LN1に対し、角度αの傾きで、下死点側が図の右側(吸気側)に傾斜している。
本実施形態においては、ピストン26が往復動するストロークSTがシリンダボア径Dよりも大きいロングストローク仕様になっているため、このオフセット量Sも比較的大きな値になっている。
コンロッド25とピストン26とを連結する連結ピン25aの回転中心(Xp,Yp)とコンロッド25とクランクシャフト21とを連結する連結ピン25bの回転中心(Xc,Yc)の距離をA1、連結ピン25bの回転中心(Xc,Yc)とクランクシャフト21の回転中心Oの距離をA2、オフセット量をS、クランクシャフト21の回転中心Oを通る垂直線LN1とシリンダボア中心線CLのなす角度をαとすると、ピストン26の仕様がロングストロークである場合、各距離A1、A2が長くなることに伴い、クランクシャフトの回転中心Oから前記合わせ面SLまでの高さYLgは、スケアストローク(ST/D=1)の高さYSや、ショートストローク(ST/D<1)の高さYShに比べて高く設定されるので、同じ傾斜角度αであったとしても、よりオフセット量Sを大きく設定することができる。そのため、ピストンの移動速度を速め、低速運転領域でのタンブル流を速めることが可能になる。また、オフセットクランク機構の効能を高めることが可能になる。
上述のようなオフセットクランク機構を構成した場合、クランク角度に対するピストン26の速度は、式(1)で表わすことが可能である。
・・・(式1)
図4は、クランク角度に対するピストンの速度を表わすグラフである。
図4を参照して、オフセット量S=0の場合、速度vは、t=0(図4において、クランク角度CA=0°のとき)のとき(式1)の第2項は0となるので、クランク角度CA=0°に対して対称な正弦波となる。
これに対して、オフセット量S>0とした場合、(式1)の第2項の値によって、ピストン26の波形は非対称となり、ピストン26が最も高速で移動する点は、左右非対称となる。この結果、仮に、ピストン26が上死点にある時の点を中心に前後同量のクランク角度ωtの移動量Y1、Y2を考えると、上死点近傍から上死点に至るまでの移動量Y1は比較的大きくなり、ピストン26は、速い速度で移動するのに対し、上死点を越えた後の移動量Y2は比較的小さくなり、ピストン26は、比較的遅い速度で移動することになる。
図1および図2を参照して、シリンダブロック22には、メインギャラリ22aから導入されたオイルを潤滑要部に潤滑できるように構成されている。また、メインギャラリ22aの上部には、サブギャラリ22bが形成されており、このサブギャラリ22bを介して、メインギャラリ22aと、シリンダヘッド23の潤滑要部とに潤滑油が供給されるようになっている。
さらにシリンダブロック22には、冷却用のウォータジャケット22c、22dが、図の左右(吸気側と排気側)とに形成されている。吸気側のウォータジャケット22cは、比較的浅く形成されており、容量が小さくなっている。これにより、図示の実施形態では、吸気側の過冷却を防止するようにしている。他方、排気側のウォータジャケット22dは、吸気側に比べて深く形成されており、吸気側よりも容量が大きくなっている。本実施形態においては、図1〜図3で見て、シリンダボア中心線CLがクランクシャフト21の回転中心Oに対して下死点側が右側にオフセットしているため、吸気側と排気側とで容量の異なるウォータジャケット22c、22dを構成するのに都合よくなっている。
シリンダヘッド23には、各気筒24の燃焼室27を構成する天井面が形成されている。
図5は本実施形態に係る燃焼室を示す図2の要部拡大図であり、図6は同燃焼室の底面図である。
図5、図6を参照して、本実施形態の燃焼室27はペントルーフ型であり、図5には、ピストン26が上死点近傍にある状態を示している。燃焼室27は、シリンダブロック22の気筒24と、ピストン26の冠面260と、燃焼室27に臨むシリンダヘッド23の下面である天井部とに囲まれた空間である。燃焼室27の天井部は、吸気側天井壁27aと排気側天井壁27bとが屋根形をなすように形成されている。
気筒24の吸気側天井壁27aにおける気筒24の周縁部から燃焼室27に先端が臨設されたマルチホール型インジェクタ32(燃料噴射装置)が設けられている。マルチホール型インジェクタ32の先端には複数の噴口32a(図8参照)が設けられ、後述するようにそのうちの3個が、点火プラグ34の電極34aに指向している。また気筒24の径方向中央付近には、両天井壁27a、27bの稜線部分から燃焼室27に先端が臨設された点火プラグ34が設けられている。
吸気側天井壁27aには、これに開口する2箇所の吸気ポート28が設けられており、各吸気ポート28には所定の吸気タイミングで開く吸気バルブ30が設けられている。また排気側天井壁27bには、これに開口する2箇所の排気ポート29が設けられており、各排気ポート29には所定の排気タイミングで開く排気バルブ31が設けられている。吸気バルブ30および排気バルブ31の、燃焼室27に臨む面は、それぞれ吸気側天井壁27aおよび排気側天井壁27bの一部を形成している。
排気側天井壁27bの、点火プラグ34越しに噴口32aと対向する位置付近に、急傾斜壁面231が設けられている。急傾斜壁面231は排気側天井壁27bの一部であり、周囲よりもより傾斜が急になっている箇所である。図6に示すように、急傾斜壁面231は、平面視でシリンダボア周縁形状に略平行な円弧状の曲面に形成されている。急傾斜壁面231の下端は天井壁下端周縁部232となっている。天井壁下端周縁部232はシリンダボア周縁よりもシリンダボア中央寄りに位置している。従って天井壁下端周縁部232において急傾斜壁面231と気筒24の壁面との間に段差が形成されている。
図5に示すように、燃焼室27の主要部は、ピストン26が上死点にある状態で、マルチホール型インジェクタ32周辺から点火プラグ34周辺にかけて広がる電極エリア270と、天井壁下端周縁部232からシリンダボア周縁部にかけて広がる吸気エリア271および排気エリア272とによって形成されている。
ここで、ピストン26の形状、特に冠面260の形状について説明する。
図7は本実施形態のピストンを示すものであり、(A)は斜視図、(B)は平面図である。
図7を参照して、冠面260には、平面視で吸気側(図7(B)での右側)が切り欠かれた略円環状(以下C字状という)をなして上方に突出するとともに、クランクシャフト21の中心線O方向に対向して対をなす隆起部261が設けられている。各隆起部261の一方(図7(B)での左側)は燃焼室27内での排気側に位置するように配設され、連続部262によってC字状に連続し、冠面260の外周と略同心の円弧状となるように形成されている。隆起部261並びに連続部262の円弧半径はピストン26の平均半径の半分よりもやや大きい。
隆起部261は一定の厚みを有しており、隆起部261の正面形状は、燃焼室27の天井壁27a、27bの形状に沿って頂部がフラットになった山形に形成されており、燃焼室27の吸気側天井壁27aに対向する吸気側上面261aと、排気側天井壁27bに対向する排気側上面261bと、天井部の稜線230に対向する頂面261cとを滑らかに連続させている。
連続部262は、燃焼室27の天井壁下端周縁部232に対向する曲面形状の隆起部位である。本実施形態においては、排気側が下向きになるように気筒24のシリンダボア中心線CLを傾斜させているので、排気エリア272が吸気エリア271に対して広くなる傾向にある。そこで、この連続部262を形成することにより、後期重心型燃焼を確実に実現するための隘路274(特に隘路274d)を形成するようになっている。
隆起部261および連続部262の外側には、連続部262よりも低くなったC字形の周縁側凹部263が形成されている。
周縁側凹部263は、隆起部261および連続部262のC字形外側で、連続部262に対して相対的に没入した部分である。周縁側凹部263は略水平で冠面260よりやや低く、冠面260の外周と略同心の略円環形状となっている。周縁側凹部263は、隆起部261のC字形の開いた側の外側(吸気側部位266)に対し、斜面267を介して滑らかに接続している。
冠面260のうち、隆起部261によってC字形に囲繞された部位の吸気側には、浅く没入した卵形凹部264が設けられている。卵形凹部264は平面視で卵形、つまり吸気側から排気側に延びる略長円で、吸気側の径が排気側の径より大なる形状となっている。卵形凹部264の側壁264aは緩やかな環状の傾斜面となっている。
次に、図5を参照して再び燃焼室27の詳細構造について説明する。電極エリア270は、ピストン26の冠面260、卵形凹部264および吸気側部位266と天井部との間に形成されている。従って電極エリア270は、マルチホール型インジェクタ32から点火プラグ34にかけて一体的に連続する空間となっている。また吸気エリア271および排気エリア272は、隆起部261および連続部262の外側の領域であって、且つピストン26の周縁側凹部263と天井部との間に略環状(平面視でC字状)に形成されている。
そして電極エリア270と吸気エリア271および排気エリア272とを連通する隘路274は、ピストン26の隆起部261および連続部262と天井部との間に平面視でC字状(冠面260に隆起部261が形成されている箇所)に形成されている。
隆起部261および連続部262が呈する円弧部の半径は、ピストン26の平均半径の半分よりもやや大きいので、隘路274は、気筒24の径方向における、点火プラグ34からシリンダボア周縁との中間点よりもシリンダボア周縁寄りに形成されている。その最適位置は、エンジンの特性等によって異なるが、概ね点火プラグ34からシリンダボア周縁までの距離の60〜85%の範囲内にある。
隘路274は、詳細には隘路274a、隘路274b、隘路274c、および最隘路274dからなる。隘路274aは、ピストン26の吸気側上面261aおよび連続部262と、これに対向する吸気側天井壁27aとの間の間隙である。隘路274bは、ピストン26の排気側上面261bと、これに対向する排気側天井壁27bとの間の間隙である。隘路274cは、ピストン26の隆起部261の頂面261cと、これに対向する稜線部230付近との間の間隙である。隘路274は、電極エリア270と吸気エリア271および排気エリア272との間に形成される狭い間隙であるが、特に隘路274bのうち、連続部262と、これに対向する天井壁下端周縁部232付近との間の間隙である最隘路274dは、他の隘路274a〜274cに対して最も狭い間隙となっている。
次に、マルチホール型インジェクタ32について説明する。
図8は本実施形態に係るマルチホール型インジェクタ32の先端部の拡大断面図である。また、図9は同マルチホール型インジェクタ32から噴射される燃料噴霧の方向を示す図であり、マルチホール型インジェクタ32の軸芯から燃料の噴射方向を見たとき、マルチホール型インジェクタ32の噴口が向けられている角度を示す図である。
図8および図9を参照して、マルチホール型インジェクタ32の先端部は、円筒状の本体320と、その中で往復移動するニードル321とを有する。本体320の先端は、端壁322で閉塞されている。端壁322の中央部には、半球状のドーム323が形成されている。このドーム323には、本体320の内部と連通する6つの微少な噴口32aが形成されている。ニードル321は、ソレノイド型のアクチュエータ(図示せず)によって往復移動され、ニードル321が前進すると、本体320内の通路が閉鎖されて燃料噴霧は停止され、後退すると燃料の通路が開放されて、マルチホール型インジェクタ32内部の燃料が、噴口32aを通して燃焼室27内に噴射されるようになっている。なお、本実施形態においては、マルチホール型インジェクタ32の各噴口32aの直径は約0.3mm〜約0.5mmであり、本体320内には、約20MPaに加圧された燃料が供給されるようになっている。
これら6つの噴口32aにより、マルチホール型インジェクタ32は、図9に示すように、点火プラグ34の電極34a(図1、図5参照)の両側に噴射される噴霧Fa、Fbと、前記電極34aの直下に噴射される噴霧Fcと、噴霧Fcよりもさらに電極34aの下方に噴射される噴霧Fdと、噴霧Fdの両側に噴射される噴霧Fd、Ffとを出力できるように構成されている。
マルチホール型インジェクタ32による燃料噴射タイミングは、図略のコントロールユニットによって制御されるように構成されている。このコントロールユニットは、CPU、ROM、RAM等で構成されており、図略のセンサ(クランク角度センサ、エンジン温度センサ、吸気圧センサ、スロットル開度センサ、アクセルセンサ、ブレーキセンサ等)の入力要素並びにマルチホール型インジェクタ32、点火プラグ34の点火回路を初めとする種々の出力要素と接続されることにより、エンジン10の運転状態を検出する運転状態検出手段、燃料噴射タイミングと燃料噴射量(或いはペネトレーション)を制御する燃料噴射制御手段、並びに点火タイミングを制御する点火制御手段等を機能的に構成している。
図10は本実施形態に係るエンジン10の運転領域を示す特性図である。
図10を参照して、上記コントロールユニットには、同図に基づく制御マップが記憶されており、この制御マップに基づいて、低速低負荷側の成層燃焼運転領域とそれ以外の均質燃焼運転領域とを判定し、これら運転領域毎に異なるタイミングで燃料噴射タイミングや点火タイミング等を制御できるように構成されている。
次に、本実施形態の動作について説明する。
以下の説明では、低負荷、低回転時、すなわち、図10で示す成層燃焼運転領域での例を説明する。
まず吸気行程において吸気バルブ30が開くとともに、ピストン26が降下する。それに伴って吸気ポート28から燃焼室27内に空気が負圧吸引される。
続く圧縮行程において吸気バルブ30が閉じるとともに、ピストン26が上昇する。それに伴って、燃焼室27内の空気が圧縮され、温度と圧力が上昇する。
低負荷、低回転でエンジン10を運転する場合には、マルチホール型インジェクタ32から燃焼室27内に噴霧される燃料の総量が少ないため、燃料の噴霧は、圧縮行程後期におけるピストン26の上死点前35°ないし25°付近で開始される。本実施形態においては、マルチホール型インジェクタ32は、6つの噴口32aを有するので、6つの噴霧Fa〜Ffが燃焼室27内に噴射される。
図11は本実施形態における燃焼室内の流れをシミュレーションした結果を示すグラフである。
図11を参照して、一般に、空気中に燃料が噴射されると、噴射された燃料の流れによって噴霧の周囲に空気の流れが生じる。この噴霧の周囲に生成される空気の流れは、燃料の流れに沿う方向の渦流となる。例えば、図11に示すような方向に燃料が噴射された場合には、噴霧の下側には、反時計回りの渦流が生成され、噴霧の上側には、時計回りの渦流が生成される。
しかしながら、上述したマルチホール型インジェクタ32によるように、上下方向に近接する燃料噴霧Fa〜Ffによって形成される渦流は、回転方向が逆であるため、互いに打ち消しあって大きな渦流には成長しない。例えば、電極側の噴霧Fa〜Fcの下側に生成される反時計回りの渦流と、ピストン側の噴霧Fd〜Ffの上側に生成される時計回りの渦流は、互いに打ち消し合い、それらの燃料噴霧Fa〜Ffの間に大きな渦流が生成されることはない。このような渦流の生成および相殺によって、燃焼室27内には、最終的に、図11に示す3つの大きな渦流V1〜V3が成長する。
渦流V1は、ピストン側の噴霧Fd〜Ffの下側、すなわち、吸気エリア271の周縁側に生成される反時計回りの渦流であり、ピストン側の噴霧Fd〜Ffと卵形凹部264との間で旋回する流れである。
渦流V2は、電極34aへの噴霧Fa〜Fcの上側に形成された時計回りの渦流が、空気の流れとともに燃焼室27の中央付近に移動しながら成長した流れである。
渦流V3は、電極34aへの噴霧Fa〜Fcの下側に形成された反時計回りの渦流が、渦流V2によって排気エリア272へ弾き出されるように移動しながら成長した流れである。このように、燃焼室27内に生成される各渦流は、互いに複雑に影響を及ぼし合いながら燃焼室27内全体の流れを形成している。その他の渦流は、他の燃料噴霧によって生成された渦流と互いに相殺され、大きな渦流には成長しない。
電極34aに向かって噴射された燃料(噴霧Fa〜Fc)の多くは、気化しながら点火プラグ34の点火点SPの回りに滞留する。一方、ピストン26に向けて噴射された燃料(噴霧Fd〜Ff)は、気化しながら下方に向かう。その混合気は、ピストン26の冠面260に形成された卵形凹部264の排気側の底面に沿って上昇し、さらに渦流V2と渦流V3の間に挟まれるように流れて点火点SPの回りに滞留する。
このような渦流V2、V3による噴霧の流れは、両渦流V2、V3の運動エネルギーが等しい場合、或いは、排気側の渦流V3の運動エネルギーが幾分大きい方が好ましい。しかし、燃料が吸気側から噴射される場合、渦流V2が渦流V3よりも運動エネルギーが高まる傾向にあった。ここで本実施形態では、ピストン26がオフセットクランク機構を構成して吸気エリア271が狭くなっているとともに、卵形凹部264が吸気側に寄せられた状態で形成されているので、渦流V1が相当大きな運動エネルギーを伴って成長する。このため、渦流V1と逆向きに回転する渦流V2の運動エネルギーが渦流V1によって相殺され、渦流V2は、渦流V3と等しいか、或いは若干弱くなる傾向を有する。このように本実施形態では、ピストン26のオフセットクランク機構と卵形凹部264とによって、長期にわたり、混合気を点火点SPの周囲に滞留させることが可能になっている。
図12は、本実施形態に係る成層ロバスト性の向上を示す特性図であり、(A)は本実施形態によるもの、(B)は従来技術によるものである。図12の条件としては、エンジン回転速度が1200rpm、筒内圧力が100KPaの低回転低負荷運転領域での状態を示している。
各図において、実線RLで示す六角形は、燃料噴射目標値となるセット点TGを中心に噴射終了タイミング、点火タイミングが好適な目標とされる範囲(以下、「目標範囲RL」という)を示したものであり、目標範囲RLの外側にある範囲ALは、その許容範囲である。許容範囲ALの両外側領域Zは、燃焼不安定ゾーンを示している。
図12(A)(B)を参照して、上述のようなオフセットクランク機構と卵形凹部264による渦流V1〜V3の生成により、本実施形態では、目標範囲RLがTDC噴射タイミング、点火タイミングとも従来技術に比べてTDC側に拡がっており、点火タイミングでは、約20°CA、燃料噴射終了タイミングでは、2°CA進角できるようになっている。このように、低回転低負荷運転領域、すなわち成層燃焼運転領域において、燃料噴射(終了)タイミング、点火タイミングをTDCよりにしても安定した燃焼特性を得ることができ、成層ロバスト性は大幅に向上するのである。
上述したように、本実施形態では、図12(A)で示した目標範囲RLで点火プラグ34の電極34aから火花が飛ばされる。電極34aから飛ばされた火花によって電極34a付近の混合気が着火し、火炎核が形成される。
続く膨張行程では、火炎核の火炎面が略球状に拡がりながら燃焼が進行する。この燃焼は、本明細書で後期重心型燃焼と呼ぶ燃焼形態を呈する。後期重心型燃焼は、端的に表現すれば前期主燃焼期間(燃焼質量の10%以上50%未満が燃焼する期間)での燃焼速度が比較的低く、後期主燃焼期間(燃焼質量の50%以上90%未満が燃焼する期間)での燃焼速度が比較的高い燃焼形態である。後期重心型燃焼は、本実施形態の燃焼室構造と密接な関係があり、この燃焼室構造によってなし得る燃焼形態である。
後期重心型燃焼について、燃焼室構造と関連付けながら説明する。
図5を参照して、点火プラグ34の電極34aから火花が飛ばされると、その周囲の混合気(特に噴霧Fa、Fb、Fc)が着火し、火炎核が形成される。そしてその火炎面(火炎伝播の最前線)が点火点SPを中心に略同心球状に拡がりながら伝播する。つまり電極エリア270において燃焼が行われる。その際、火炎面は未燃ガスを押し出すようにして拡がって行く。
ところが、電極エリア270の外側には、隆起部261および連続部262によって隘路274が設けられている。従って、火炎面に押し出された未燃ガスが隘路274を通過する際、一種の絞り作用を受ける。その影響を受けて火炎伝播が抑制される。この結果、前期主燃焼期間では、電極エリア270における燃焼速度が比較的低く抑えられる。
他方、後期主燃焼期間では、火炎面が隘路274を経て吸気エリア271および排気エリア272に達し、もはや隘路274による絞り作用の影響を受けなくなる。このため、速やかに火炎伝播が進行する。つまり吸気エリア271および排気エリア272における燃焼速度が比較的高くなる。
こうして、主として電極エリア270での前期主燃焼期間には比較的低速の燃焼が行われ、主として吸気エリア271および排気エリア272での後期主燃焼期間には比較的高速の燃焼が行われるという、後期重心型燃焼が行われることになる。
ところで、上述したように、火炎面は点火プラグ34の電極34a付近に形成された火炎核を中心とする略同心球状に拡がって行くが、より厳密には、排気側への伝播速度が吸気側への伝播速度よりもやや高くなっている。高温の排気側では、より燃焼反応が促進されるからである。本実施形態では、シリンダボア中心線CLが図3で示したように傾斜したオフセットクランク機構並びにピストン26の冠面260に形成された連続部262が燃焼室27の天井面と区画する最隘路274dによって、排気側へのガス流を他よりも強く絞っているので、高くなりがちな排気側への火炎伝播速度が比較的強く抑制される。これにより、全体的にはより均等な火炎伝播速度を得ることができ、円滑な燃焼を図ることができる。また火炎面の電極エリア270から吸気エリア271および排気エリア272への移行を、より均等に行わせることができる。
図13は、本実施形態の後期重心型燃焼における燃焼特性を示す特性図である。横軸にクランク角(°CA)、縦軸に燃焼質量割合(%)を示す。燃焼質量割合とは、燃焼した燃料の質量全体を100%とし(無次元化)、当該クランク角時点までに燃焼した燃料の積算値を示したものである。
図示のように、燃焼質量割合が10%未満の領域を初期燃焼領域81といい、その期間を初期燃焼期間θ0という。また燃焼質量割合が10%以上90%未満の領域を主燃焼領域80という。主燃焼領域80は50%を境にして前期と後期に分けられ、燃焼質量割合が10%以上50%未満の領域を前期主燃焼領域80aといい、50%以上90%未満の領域を後期主燃焼領域80bという。そして前期主燃焼領域80aの期間を前期主燃焼期間θ1といい、後期主燃焼領域80bの期間を後期主燃焼期間θ2という。
図13には、本実施形態の燃焼特性T1を示すとともに、比較のために従来の一般的な燃焼特性T1’を併記している。
本実施形態の燃焼特性T1では、初期燃焼期間θ0は点火時期〜約3°CA、前期主燃焼期間θ1は約3〜約13°CA、後期主燃焼期間θ2は約13〜約20°CAとなっている。一方、従来の燃焼特性T1’では、初期燃焼期間θ0’は点火時期〜約4°CA、前期主燃焼期間θ1’は約4〜約13°CA、後期主燃焼期間θ2’は約13〜約21°CAとなっている。
つまり本実施形態の燃焼特性T1は、従来の燃焼特性T1’に比べ、初期燃焼期間θ0が約1°CA短縮され、前期主燃焼期間θ1が約1°CA延ばされ、後期主燃焼期間θ2が約1°CA短縮されている。これは、主として電極エリア270で燃焼が行われる前期主燃焼期間θ1では燃焼速度が相対的に低く、主として吸気エリア271および排気エリア272で燃焼が行われる後期主燃焼期間θ2では燃焼速度が相対的に高くなっていることを示している。つまり後期重心型燃焼となっていることがわかる。
また初期燃焼期間θ0および前期主燃焼期間θ1での燃焼は、ともに主として電極エリア270での燃焼であるが、初期燃焼期間θ0はむしろ短縮されている。これは、隘路274が、点火プラグ34に近すぎない適所(詳しくは点火プラグ34からシリンダボア周縁までの距離の60〜85%の範囲内の適所)に設けられていることによって、隘路274による絞り作用の影響が初期燃焼期間θ0にまでは及んでいないことを示している。
図14は、図13に示す燃焼特性を別の視点から表した特性図である。横軸にクランク角CA(Deg.)、縦軸に熱発生率(%)を示す。ここで熱発生率とは、図13の熱発生割合の微分値であり、燃焼による全体の熱発生量を100%とし(無次元化)、当該クランク角時点における熱発生量の割合を示したものである。
図14には、本実施形態の燃焼特性T2を示すとともに、比較のために従来の一般的な燃焼特性T2’を併記している。特性T2’と比較して、特性T2の顕著な特徴として、前期主燃焼期間θ1において傾きの緩やかな棚部T2aを有している点、および後期主燃焼期間θ2において最大熱発生率の極大値が大きくなっている点である。この二点が後期重心型燃焼を特徴づけるものとなっている。これらの特徴によって、横軸と特性T2とで囲まれる略三角形の図形の重心が、特性T2’のものよりも後期寄り(クランク角の大きい側)にある。これが「後期重心型燃焼」の名称の由来となっている。
棚部T2aについて説明すると、これは、初期燃焼期間θ0から前期主燃焼期間θ1に移行後、熱発生率の増大率が一時的に低下していることを示している。これは隘路274による絞り効果によって、前期主燃焼期間θ1での燃焼速度が比較的低くなったからであると考えられる。
その後、後期主燃焼期間θ2において最大熱発生率の極大値が大きくなっている点については、比較的多く残留した未燃燃料が、充分な容積が確保された吸気エリア271および排気エリア272で高速で燃焼したためであると考えられる。
このように、本実施形態の燃焼室構造によれば、簡単な構造で後期重心型燃焼を容易に行わせることができる。そして上述のように、後期重心型燃焼を行わせることにより、
耐ノッキング性能を向上させ、実用上有効に圧縮比を高めることができる。本願発明者は、例えば従来構造と同程度の耐ノッキング性能を確保した場合、圧縮比を0.5以上高めることができることを確認した。そして圧縮比を高めることにより燃焼効率を高め、燃費を向上させることができる。
後期重心型燃焼によって筒内圧力が急速に高められるので、ピストン26は、大きな力で押し下げられる。しかも、本実施形態においては、ピストン26がオフセットクランク機構を構成しているので、ピストン26を押し下げる力が大きく高められた状態でコンロッド25等を介してクランクシャフト21を回転させる。
続く排気行程では、排気バルブ31が開くとともにピストン26が上昇に転じる。ピストン26の上昇によって既燃ガス(排ガス)が排気ポート29から押し出され、排出される。
以上の説明で明らかなように、本実施形態の燃焼室構造は、オイル希釈を効果的に抑制するとともに、後期重心型燃焼を行わせることによって実用上有効に圧縮比を高めることができる。特に急傾斜壁面231や、その下端部である天井壁下端周縁部232は、何れの作用効果を得るためにも重要な役割を果たす構成要素となっている。換言すれば、急傾斜壁面231や天井壁下端周縁部232という簡単な構造を用いることにより、オイル希釈の抑制と圧縮比の向上とを同時に可能にしている。
以上説明したように、本実施形態においては、燃焼室27を形成するシリンダヘッド23と、このシリンダヘッド23の下面に上面を接合させて合わせ面SLとし、且つ前記燃焼室27と連通する気筒(シリンダボア)24を形成するシリンダブロック22と、この気筒24内を往復動するピストン26と、このピストン26に連結されたクランクシャフト21とを備え、正転時の前記クランクシャフト21が時計方向に回転する方向に見えるクランクシャフト21の一端側から見て、前記シリンダボア中心線CLがクランクシャフト21の中心Oに対して右側にオフセットしたエンジン10であって、前記シリンダボア中心線CLが、前記合わせ面SLと垂直な垂直線LN1に対して上端側が左側に傾斜するように前記気筒24を前記シリンダブロック22に形成し、前記ピストン26が往復動するストロークSTが前記気筒24径よりも大きいロングストローク(ST/D>1)に設定している。
このため本実施形態では、既存の燃焼室27やクランクシャフト21の構造に変更を加えることなく、専らシリンダブロック22の仕様を僅かに変更するだけで容易にオフセットクランク機構を実現することが可能になるので、シリンダボア径Dに対してピストン26ストロークST量が長く設定されたいわゆるロングストローク(ST/D>1)仕様のオフセットクランク機構を廉価に製造することが可能になる。また、同じ傾斜角度αであっても、スケアストローク(ST/D=1)やショートストローク(ST/D<1)に設定された構成に比べ、オフセット量Sも大きくなるので、上死点付近の燃焼を有効に運動エネルギーとしてピストン26に作用させることができ、より大きな運動エネルギーを得ることが可能になる。
また本実施形態では、前記シリンダボア中心線CLは、当該合わせ面SLとクランクシャフト21の中心Oを通る垂直線LN1との交点Apを通過するものである。このため本実施形態では、気筒24の傾斜角度αを少なくしつつ、クランクシャフト21の中心Oに対する右方向へのオフセット量Sを大きくすることができ、シリンダブロック22の周辺形状の変更を最小限に留めつつ、所望のオフセット量Sを確保することが可能になる。
また本実施形態では、前記クランクシャフト21の一端側から見て、燃焼室27の天井部の左側に排気ポート29が開口する排気エリア272と、燃焼室27の天井部の右側に吸気ポート28が開口する吸気エリア271とをそれぞれ設け、前記気筒24の両側に排気側と吸気側のウォータジャケット22cを形成し、排気側のウォータジャケット22dは、吸気側よりも水量が多くなるように容量が設定されている。このため本実施形態では、排気側のウォータジャケット22dの容量が多い分だけ、排気側の放熱性を向上させることができるとともに、吸気側においては、容量が少ないので、過冷却を防止することが可能になる。
また本実施形態では、前記排気側のウォータジャケット22dは、吸気側のウォータジャケット22cよりも、シリンダブロック22上端からの深さが深く設定されている。このため本実施形態では、気筒24の傾斜態様を利用して、容量の異なるウォータジャケット22c、22dを容易に構成することが可能になる。
本実施形態は、シリンダボア中心線CLが、当該合わせ面SLとクランクシャフト21の中心Oを通る垂直線LN1との交点Apを通過した状態で前記垂直線LN1に対して上端側が左側に傾斜するように前記気筒24を前記シリンダブロック22に形成し、前記クランクシャフト21の一端側から見て、燃焼室27の天井部の左側に排気ポート29が開口する排気エリア272と、燃焼室27の天井部の右側に吸気ポート28が開口する吸気エリア271とをそれぞれ設け、前記気筒24の両側に排気側と吸気側のウォータジャケット22c、22dを形成し、排気側のウォータジャケット22dは、シリンダブロック上端からの深さが深く設定されている。このため本実施形態では、気筒24の傾斜態様を利用して、容量の異なるウォータジャケット22c、22dを容易に構成することが可能になるので、排気側のウォータジャケット22dの容量が多い分だけ、排気側の放熱性を向上させることができるとともに、吸気側においては、容量が少ないので、過冷却を防止することが可能になる。
また本実施形態では、ピストン26裏面の排気側に噴射方向が指向するオイルジェット221を備えている。このため本実施形態では、排気側の放熱性が一層向上する。
また本実施形態は、シリンダボア中心線CLが、前記合わせ面SLと垂直な垂直線LN1に対して上端側が左側に傾斜するように前記気筒24を前記シリンダブロック22に形成し、前記クランクシャフト21の一端側から見て、ペントルーフ状の燃焼室27の天井部の左側に排気ポート29が開口する排気エリア272と、ペントルーフ状の燃焼室27の天井部の右側に吸気ポート28が開口する吸気エリア271と、燃焼室27の中央部分に点火プラグ34の電極34aが開口する電極エリア270とをそれぞれ設け、前記ピストン26の冠面260には、当該ピストン26が上死点にあるときに前記電極エリア270と吸気エリア271および排気エリア272との間に環状の隘路274を形成する隆起部261、連続部262が形成されている。このため本実施形態では、シリンダボア中心線CLが、前記合わせ面SLと垂直な垂直線LN1に対して上端側が左側に傾斜するように前記気筒24を前記シリンダブロック22に形成しているとともに、ピストン26が上死点にあるときに前記電極エリア270と吸気エリア271および排気エリア272との間に環状の隘路274を形成する隆起部261、連続部262がピストン26の冠面260に形成されているので、前期主燃焼期間においては、点火プラグ34の電極34a付近に生成された火炎面が隘路274によってピストン26周縁へ肥大することが抑制される結果、未燃燃料の過早着火が効果的に抑制されることになる。このため筒内圧力や温度の上昇も抑制されて、高い耐ノッキング性能を得ることが可能になる。他方、後期主燃焼期間においては、火炎面が隘路274を経て吸気エリア271および排気エリア272に達するので、火炎伝播が速やかに進行し、吸気エリア271並びに排気エリア272において火炎が成長する結果、燃焼速度が高くなる。この結果、燃え残りを核とする自着火を抑制することができるので、やはり耐ノッキング性能を高めることができ、燃焼全体としての主燃焼期間を殆ど延ばすことなく、効果的にノッキングを抑制することができる。このように前期主燃焼期間では比較的低速の燃焼が行われ、後期主燃焼期間では比較的高速の燃焼が行われるので、オフセットクランク機構を構成しつつ、後期重心型燃焼を容易に実現することが可能になり、ペントルーフ形状の燃焼室27天井面を採用していることと相俟って、極めて高い圧縮比の燃焼室27構造を実用化可能になっている。
また本実施形態では、前記燃焼室27の天井部は、傾斜の等しいペントルーフ形状に形成されている。このため本実施形態では、球状に拡がった火炎面を全周にわたって均等に伝播させることができるので、前期主燃焼期間においては隘路274による過燃焼抑制効果を、後期燃焼期間においては、環状面に形成される外周燃焼エリアでの急速燃焼効果を均等に奏することができる。
また本実施形態では、前記ピストン26の冠面260は、シリンダボア中心線CLに直交している。このため本実施形態では、燃焼室27の天井面からピストン26の冠面260までの距離は、排気側が大きくなるので、より、後期重心型燃焼を促進することが可能になる。
また、本実施形態においては、燃焼室27周縁部における吸気側に、複数の噴口32aを有するマルチホール型インジェクタ32を設け、このマルチホール型インジェクタ32の一部の噴口32aは前記吸気エリア271に近いピストン26の冠面260に向けて燃料を噴射し、別の噴口32aは前記点火プラグ34の電極34a付近に向けて燃料を噴射するように噴射方向を設定し、少なくとも低負荷運転領域において前記マルチホール型インジェクタ32から圧縮行程後半に燃料を噴射するように燃料噴射時期を設定されている。このため本実施形態では、噴射された燃料の噴霧は、ピストン26の上昇に伴ってタンブルとしての渦流V1〜V3を形成する。この渦流V1〜V3は、電極34aを境にして、吸気側と排気側との両側に生成され、クランクシャフト21と平行な軸回りで対称形に燃焼室27内の混合気を電極34aに指向させる一対の主渦流V2、V3と、容積が狭くなった吸気エリア271で生成される反時計回り(正転時の前記クランクシャフト21が時計方向に回転する方向に見えるクランクシャフト21の一端側から見て反時計回り)の副渦流V1である。ここで、両主渦流V2、V3の運動エネルギーが等しい場合には、ピストン26の冠面260に向けて噴射された噴霧が効率よく点火プラグ34の電極34aに滞留する。しかし、マルチホール型インジェクタ32は、吸気側に配置されていることから、両主渦流V2、V3のうち、排気側は弱く、吸気側は強くなる傾向がある。ここで、本実施形態では、気筒24が斜めに形成されたオフセットクランク機構を採用しているとともに、ピストン26の冠面260がシリンダボア中心線CLに直交しているので、吸気エリア271に生成された副渦流V1は、吸気側の主渦流V2、V3を相殺する作用を奏する結果、排気側の主渦流V2、V3と吸気側の主渦流V2、V3とが概ね均衡した運動エネルギーで噴霧を点火プラグ34回りに集めることになる。この結果、両主渦流V2、V3が互いに反対方向に流れて互いの運動エネルギーを相殺することと相俟って、比較的弱く均等な運動エネルギーでピストン26側の噴霧Fd〜Ffが点火プラグ34に集められる結果、点火プラグ34回りには、リッチな混合気が滞留し続けることとなり、図12で説明したように、点火タイミングを相当リタードさせたとしても、良好な成層燃焼特性を得ることが可能になる。従って、成層ロバスト性も大幅に上昇する。
また本実施形態では、前記ピストン26の冠面260を略平坦面に形成している。このため本実施形態では、圧縮比を高めることが可能になる。
また本実施形態では、前記ピストン26の冠面260の、前記吸気ポート28が開口する吸気エリア271に近い部分に、浅い卵形凹部264を設けている。このため本実施形態では、少なくとも低負荷運転領域において生成される副渦流V1の運動エネルギーをこの卵形凹部264によって一層高めることが可能になるので、排気側の主渦流V2、V3の運動エネルギーを相対的に高くし、点火時のピストン26への燃料噴霧Fd〜Ffをより効率よく電極34aに滞留させることが可能になる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこの実施形態に限定するものではなく、特許請求の範囲内で種々の変形を行ってもよい。
例えば上記各実施形態は、本発明を4サイクルエンジンに適用した場合を示しているが、それ以外の、例えば2サイクルエンジンに適用してもよい。
噴口32aの数は、6個に限定するものではない。電極34a方向に指向する少なくとも1個の噴口32aがあれば良く、6個以外の複数個、或いは1個であってもよい。
その他、本発明の特許請求の範囲内で種々の変更が可能であることはいうまでもない。