JP3683000B2 - Spa−1蛋白質及びそれをコードする遺伝子 - Google Patents
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、細胞分裂の調節に関与する蛋白質であるSPA−1蛋白質及びその断片、それらをコードする遺伝子、並びにそれらの蛋白質に対する抗体に関する。
【0002】
【従来の技術】
リンパ系の細胞は、その細胞増殖能において他の多くの体細胞と比べユニークな特性を有している。即ちそれは、他の体細胞同様一定の前駆細胞から多くの細胞分裂を経ながら分化し成熟した細胞となり、一旦静止状態(G0/G1)に入る。その後これらが、抗原や特定の増殖因子の刺激を受けると再び細胞周期に入り一定の再分化をとげつつクローナルに増大し、やがてまた静止状態へと戻る(メモリー細胞)。生体の免疫応答においては、リンパ球の特有な機能分化や発現と並んでこの反復性細胞増殖(クローン増幅)が極めて大きな要素を成している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記の反復性細胞増殖の制御に関与すると予想される新規な蛋白質SPA−1及びその活性断片、それらをコードする遺伝子、並びにそれらの蛋白質に対する抗体を提供しようとするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、哺乳類の細胞の細胞周期において、静止状態では発現されず細胞周期進入後に核内に発現される細胞分裂機構調節蛋白質に関する。この蛋白質はSPA−1と称され、図2に示す構造を有する。
cDNAの塩基配列から推定されるSPA−1のアミノ酸配列は、配列番号:1において1位のMetから始まり、693位のAlaに終るアミノ酸配列を有する。
【0005】
しかしながら、本発明のポリペプチド又は蛋白質は、上記のものに限定されず、正確なアミノ酸配列内の小さな変更があっても本発明の活性を有する場合には本発明の範囲に含まれる。このような変更には、配列内のアミノ酸の置き換え、及び1又は複数のアミノ酸の付加と又は欠失が含まれ、そして本発明の活性が維持される限り、これらの変形もまた定義に含まれる。
【0006】
ここで、アミノ酸の付加、欠失又は置換は出願前周知技術である部位特定変異誘発(例えば、Nucleic Acid Research,Vol.10,No.20,p6487〜6500,1982を参照のこと)により実施することができ、アミノ酸の付加、欠失又は置換に関し、1又は複数のアミノ酸とは、部位特定変異誘発法により付加、欠失又は置換できる程度の数のアミノ酸を意味する。
【0007】
上記のポリペプチド又は蛋白質は、遺伝子工学的方法により、上記のポリペプチド又は蛋白質のアミノ酸配列をコードする遺伝子を発現させることにより製造することができる。上記ポリペプチドをコードする遺伝子は、cDNA、ゲノムDNA又は化学合成DNAとして得ることができる。
【0008】
SPA−1をコードするcDNAは、リンパ球の静止期(G0 /G1 期)にはほとんど発現されず、増殖期(S期)に発現される遺伝子をクローニングすることにより得られる。例えばG0 /G1 期及びS期のリンパ球から、常法に従ってcDNAを調製し、これらをハイブリダイズせしめ、S期に由来するcDNAとハイブリダイズしないG0 /G1 期由来のcDNAを選択することによりSPA−1をコードするcDNAが得られる。具体的な方法の1例を実施例1(1)に記載する。
【0009】
ゲノムDNAを得るには、例えば対象動物からゲノムDNAライブラリーを作製し、これを、前記のようにして得られたcDNA、例えば全長cDNAをプローブとして用いてスクリーニングすることにより得られる。この具体的な方法を実施例3に具体的に記載する。例えばSPA−1をコードするゲノムDNAは、ゲノムDNAの5.7kbp のBamHI断片(Spa−GC2と称する)及び6.6kbp のBamHI断片(Spa−GC9と称する)として得られる。
【0010】
図5並びに配列番号:2及び3に示すごとく5.7kbp のDNA断片(Spa−GC2)には4個のエクソン(エクソン1〜4)が含まれており、これらは5.7kbp 断片の3′−末端側の約2.5kbp 部位に存在する。また6.6kbp 断片(Spa−GC9)には12個のエクソン(エクソン5〜16)が散在している。これらのエクソン1〜16が前記のcDNAの全体を含んでいる。また、cDNAのコード領域はエクソン5の後半からエクソン16の前半に含まれている。
【0011】
本発明において、SPA−1又はその蛋白質断片をコードするDNAを得るには、上記のごときcDNA又はゲノムDNAをエクソヌクレアーゼにより処理して不要部分を除去するか、あるいは適切な制限酵素により切断した後、必要であれば不足の配列をオリゴヌクレオチドの付加により補い、又は不要部分をエクソヌクレアーゼ等により除去すればよい。また、生来のアミノ酸配列に対して、1〜複数個のアミノ酸が欠失、付加及び/又は置換されているポリペプチドをコードする遺伝子は、上記のようにして得られるcDNA又はゲノムDNAを、常法に従って、例えば部位特異的変異誘発にかけることにより得られる。
【0012】
本発明はさらに、配列番号:1〜3に記載の塩基配列とハイブリダイズするDNA又はRNAをも包含する。この様なハイブリダイズするDNA又はRNAは、好ましくはSPA−1又はその蛋白質断片の生物学的機能を保持しているものであり、例えば50%ホルムアミド、5×SSC,10%Na−デキストラン、20mM Na−ホスフェート(pH6.5)、42℃のハイブリダイゼーション条件下で前記cDNA又はゲノムDNAとハイブリダイズするものである。
【0013】
本発明のポリペプチド又は蛋白質は、常法に従って真核細胞又は原核細胞において発現させることができる。真核細胞としては、動物、例えばヒト又は他の動物の塩基細胞、例えばNIH3T3細胞、Cos−1細胞、CHO細胞等が用いられ、さらに真核性微生物、例えば酵母又は糸状菌が用いられる。酵母としてはサッカロミセス・セレビシエー(Saccharomyces cerevisiae)、等が挙げられ、糸状菌としては、アスペルギルス(Aspergillus)属、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等が挙げられる。原核生物としては細菌が挙げられる。例えばバシルス(Bacillus)、例えばバシルス・ズブチリン(Bacillus subtilis)、大腸菌(Escherichia coli)等が使用される。
【0014】
これらの宿主において前記DNAを発現させるためには、前記コード領域を含むDNAと該DNAのための発現制御領域を含んで成る発現ベクターを用いる。この発現ベクターにおいて使用する発現制御領域としては、常用のものを用いることができる。例えば、動物細胞での発現のためには、ウイルス性プロモーター、例えばLTRプロモーター、CMVプロモーター、SRαプロモーター等を用いることができ、大腸菌での発現のためにはT7プロモーター、LacZプロモーター等を用いることができ、また酵母用プロモーターとして、例えばα−接合因子プロモーターが用いられる。
【0015】
本発明のポリペプチド又は蛋白質は、前記の発現ベクターにより形質転換された宿主を培養し、培養物から目的ポリペプチドを採取することにより得られる。発現ベクターによる宿主の形質転換は、宿主の種類に応じて常法に従って行うことができる。形質転換された宿主の培養も常法に従って行うことができる。
培養物から目的とするポリペプチドを回収、精製するには、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、濃縮、凍結乾燥等、蛋白質の精製に用いられる常法により行うことができる。
【0016】
【実施例】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に記載する。
実施例1. SPA−1 cDNAのクローニング及び特性決定
(1)SPA−1 cDNAのクローニング
本発明においてはまず、リンパ球の静止期(G0 /G1 期)においてはほとんど発現されず増殖期(S期)において発現され遺伝子をクローニングするため、静止期(G0 /G1 )のリンパ系細胞株(LFD−14)から常法(Auffray,C.ら、Eur.J.Biochem.,107,303,1980)に従ってmRNAを調製し、次にこのmRNAに基いて、常法(Aruffo,A.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,8573,1987)に従ってcDNAライブラリーを調製した。
【0017】
次に、同じ細胞株(LFD−14)をIL−2(100U/ml)により増殖刺激し、約20時間後(S期)に常法に従ってmRNAを調製し、このmRNAに基いて常法によりcDNAライブラリーを調製した。次に、これらのcDNAライブラリー間でディフエレンシヤル・ハイブリダイゼーションを行い、S期の細胞においてのみ発現しているcDNAクローンを得、これをSPA−1 cDNAと命名した。また、このcDNAを含むベクターをpcSPA−1と命名した。このベクターを制限酵素XhoIで切断することによりSPA−1 cDNAを切り出すことができる。
【0018】
(2)SPA−1 cDNAの構造
SPA−1 cDNAの塩基配列を常法に従って決定した結果を配列番号:1に示す。このcDNAは全長約3.5kbから成り、その5′−末端側に多くの短いオープンリーディングフレーム(ORF)を含む長い(約1.2kb)5′−非翻訳領域を持つ。同領域はある種のがん遺伝子に共通して認められる強い翻訳抑制領域で、同遺伝子発現が翻訳レベルでも強く制御されていることを示す。
【0019】
このcDNAはさらに、約2.1kbから成る1つのオープンリーディングフレーム(配列番号:1中第1200番目の塩基A(アデノシン)から第3278番目の塩基C(シトシン)まで)を含有する。このオープンリーディングフレームによりコードされるアミノ酸配列のN−末端側190アミノ酸からなる配列(「Span−N」と称する)はヒトRap1GAP(GAP3 )と高い相同性を示していた。Span−NとGAP3 のアミノ酸配列の相同性を図1に示す。
【0020】
(3)SPA−1N末端側の各ドメインに対するモノクローナル抗体の調製
SPA−1 cDNAを制限酵素BglIおよびPstIで切断することにより、Span−NをコードするDNA断片及びそれに続く約140アミノ酸からなるポリペプチド(「Span−C」と称する)をコードするDNA断片を得、これをpGEX−1ベクター(ファルマシア)のPstI末端をT4 ポリメラーゼで平坦化し、EcoRIリンカーをつけて、ベクターのEcoRI部位に挿入することにより、Span−N又はSpan−CとGST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)との融合蛋白質をコードする配列を含む発現プラスミドpGEX−SpanN及びpGEX−SpanCを得た。この発現プラスミドを大腸菌にて発現せしめ、発現生成物を回収・精製することによりSpan−N/GST融合蛋白質及びSpan−C/GST融合蛋白質を得た。
【0021】
これらの融合蛋白質各200μgをフロイント完全アジュバントと混合したものをアルメニアハムスター(♂、5w)の皮下に免疫した。その後2週間おきに3回、融合蛋白質200μgをフロイント不完全アジュバントと混合し、ハムスター腹腔内に投与した。最終免疫から3日後にハムスター脾臓を摘出、細切し脾細胞液を調整した。これをLeo,Oらの方法(PNAS 84:1374,1987)に従い、マウスミエローマ株P3U1と細胞融合させ、ハイブリドーマを得た。
【0022】
これらハイブリドーマのうち目的とする抗体を産生するクローンは、ハムスターの免疫に用いた各々の融合蛋白を抗原としたELISA法により選別した。つまり、各々の融合蛋白(GST−SpanN,GST−SpanC)1μg/ウェルあるいはGST蛋白のみ1μg/ウェルを結合させた96ウェルプレートを用意し、これに各ハイブリドーマ上清100μlを反応させた。
【0023】
次にこれに抗ハムスターIgG−ペルオキシダーゼを反応させ、基質としてABTS(2−2′−アジノ−ジ−3−エチル−ベンゾチアノジノ−6−硫酸)を用い呈色反応を行い、GSTには反応せず各融合蛋白にのみ反応するものを陽性とした。陽性を示すウェルの細胞を限界希釈法にてクローニングし、単一細胞よりクローンを得た。Span−Nに対するモノクローナル抗体をF6、Span−Cに対するモノクローナル抗体をH10と称する。図7に各々のモノクローナル抗体と融合蛋白の反応性をウェスタンブロッティング法により解析した結果を示す。
【0024】
すなわち、図7は、各10μgの、GST−SpanNおよびGST−SpanC融合蛋白あるいは、GSTのみをSDS−PAGEで展開した後、メンブランにブロットし、これを各々F6あるいはH10抗体液(10μg/ml)にて反応させ、 125I−ProteinA(アマシャム社)で検出した結果を示す。
【0025】
なお、モノクローナル抗体F6を生産するハイブリドーマはF6と命名され寄託番号FERM BP−4839として平成6年10月18日に、そしてモノクローナル抗体H10を生産するハイブリドーマはH10と命名され寄託番号FERM BP−4840として平成6年10月18日に、工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託されている。
【0026】
(4)モノクローナル抗体によるSPA−1蛋白質の検出
リンパ球細胞株LFD14細胞(Kubota,H.et al.,J.Immunol.145:3924,1990)の培養細胞から、Harlow,E.,et al.Mol.&Cellelar Biology 6:1579,1986の方法により蛋白質を抽出し、前記モノクローナル抗体を用いるイムノブロッティング(immunoblotting)法、免疫沈降(immunoprecipitation)法、免疫染色(immunostain)法等により蛋白質の同定を行った。
【0027】
この結果、例えばモノクローナル抗体F6を用いるウエスタン・ブロット法において、リンパ球LFD14からの蛋白質は分子量約68kDa のバンドとして検出された。このことから、SPA−1遺伝子は約68kDa の核内蛋白質をコードしていることが予想される。
すなわち、本発明のSPA−1蛋白質は配列番号:1の1番目のアミノ酸メチオニンから693番目のアミノ酸アラニンまでのアミノ酸配列を有すると推定される。
【0028】
実施例2. SPA−1 cDNAの発現
(1)SPA−1蛋白の発現
インビトロ転写/翻訳法による発現
図8に様々な長さのSPA−1 cDNAを鋳型として用いたインビトロ転写/翻訳法により発現したSPA−1蛋白の解析結果を示す。鋳型としては図8に示した様に、全長のSPA−1 cDNAを含むpBluescript KS+ −Spa1プラスミド、この5′側を様々な長さで欠くクローン(#52,#35,#33,#92)あるいは、ORFを完全に含み翻訳時に負に働く5′非翻訳領域を欠く#35プラスミドをその下流の様々な位置(NcoI(1729),BalI(2231),EcoRI(2881),DraI(3038))で切断したプラスミドを用いた。
【0029】
これらの鋳型DNA10μgを用い、RNA転写キット(ストラタジーン社)により相補的mRNA(cRNA)を合成した。このcRNAをTagawaらの方法(J.Biol.Chem.,256:20021,1990)に従い、インビトロ発現翻訳キット(ストラタジーン社)により、インビトロにてウサギ網状赤血球破砕物(プロメガ社)を用い、35S−メチオニン(アマシャム社)の存在下で翻訳し、翻訳生成物を前記H10抗体とプロテインAビーズ(ファルマシア社)とにより免疫沈降したものをSDS−PAGEにより展開した。
【0030】
その結果、ORFおよび3′非翻訳領域を完全に含む全長のpBluescript−KS+ −SPA−1、#52および#35のプラスミドを鋳型とした時には約85kDa の特異バンドが検出されたが、ORFの一部を欠くプラスミド(#33)では、その欠いた長さに応じた翻訳物(約50kDa)が検出された。さらにORF以下の3′非翻訳領域を欠くプラスミド(#35/BalI,#35/EcoRIおよび#35/DraI)ではその長さに応じて85kDa より小さい翻訳物が検出された。
これらの結果は、SPA−1蛋白は1200番目のメチオニンから3278番目のアラニンまでの693アミノ酸からなるポリペプチドとして翻訳されていることを示している。
【0031】
安定な動物細胞トランスフェクタントによる発現
SPA−1 cDNAを制限酵素BglI−DraIにより切り出し、pSRα発現ベクター(Takebe,Y.ら、Mol.Cell Biol.,8,466−472,1988)のEcoRI部位に挿入して発現ベクターSRα−SPA−1を作製し、これをNeo遺伝子を含むプラスミドpSV2 NeOと共にNIH3T3細胞(ATCC CRL−1658)に導入したのちG418により選択し、安定なトランスフェクタントを得た(NIH/SPA−1細胞)。
【0032】
NIH/SPA−1細胞は、図9のAに示すごとく通常の培養条件下(5%血清添加)では、コントロールのSRαベクターのみを導入したNIH3T3細胞(NIH/SRα細胞)と何ら変らない増殖を示すが、同細胞を血清除去にてG1相に同調し(extented G1)、一定時間後に血清を加えて細胞周期を回転させると、S期中〜後期において急速な細胞死のおこることがわかった(図10のA)。形態学的には、細胞が丸くなり著明な核凝縮がみられ、いわゆる分裂破綻(mitotic catastrophes)によるものと推定された(図9のB)。また、このような細胞周期同調に伴いSPA−1は特有な発現の変動を示し、サイクリン群同様その発現は、細胞周期に伴う調節をうけていることも示唆された(図10のB,C)。
【0033】
図9は、SPA−1 cDNAを遺伝子導入したNIH3T3細胞(NIH/Spa−1)におけるG1 期細胞周期ブロック後の増殖刺激による細胞死の誘導を示しており、この図のAは、NIH/SPA−1細胞(●)、およびNIH3T3細胞にpSRαベクターのみを遺伝子導入したNIH/SRα細胞(○)をほぼ飽和状態になるまで5%血清存在下で培養した後、0.5%血清加培地に移し、0,24あるいは48時間培養した。その後20%血清加培地に移し細胞数を経時的に測定した結果を示す。
【0034】
図9のBは、48時間0.5%血清存在下で培養したNIH/SRα細胞およびNIH/SPA−1細胞に20%の血清を加え培養18時間後の細胞の鏡検像であり、右側はその時の細胞の核の状態をヘキスト33427(シグマ社)にて示している。NIH/SPA−1で核の萎縮が認められる。
図10において、AはNIH/SPA−1細胞における細胞周期の解析結果を示し、上段がNIH/SRα、下段がNIH/SPA−1細胞である。血清再添加後16時間の時点で、NIH/SPA−1細胞は死滅している(コントロールの細胞はS期に入っている)。Bは血清非存在下培養(G1 arrest)時のSPA−1蛋白の蓄積を示し、NIH/SPA−1細胞ではtransfectしたSPA−1mRNAは検出されているのにもかかわらず、通常の培養下(ohのレーン)では、SPA−1蛋白はウェスタンブロット法でほとんど検出されない(恐らく、常時分解されている)。しかし、一旦血清濃度を0.5%に下げ細胞周期をG1 に止めた状態(G1 arrest)にすると、SPA−1蛋白の蓄積が観察される。
【0035】
図10のCは血清添加後のSPA−1蛋白の動態を示し、48時間のG1 arrest後血清再添加により細胞周期を再び開始させ、各時間ごと生存している細胞のみを回収し、SPA−1蛋白の発現を調べた。NIH/SPA−1細胞でも血清再添加後24時間でも一部(約一割)の細胞は生き残っており、これらの細胞ではcαc2の活性化が観察される。これに対し、SPA−1蛋白はこの時点ではすでに減少している。
【0036】
組換えSPA−1の大腸菌での発現
SPA−1 cDNAを制限酵素BglI(塩基1171位を切断)及びDraI(塩基3038位を切断)により切断し、BglI−DraI切断を得、これをT4ポリメラーゼにより平滑末端化した。このDNA断片を、EcoRVにより切断されたプラスミドBS−SK(ストラタジーン社)に連結してプラスミドSK+ −SPA−1を得た。次に、このプラスミドのHindIII 部位にBamHIリンカーを付与し、これをBamHIにより消化し、得られたBamHI断片を、BglIIにより消化した発現プラスミドpET−16b(Novagen社、米国)に挿入し、発現プラスミドpET−SPA1を得た。この発現プラスミドを用いて大腸菌を形質転換した。
【0037】
この大腸菌を培養し、培養物からの発現生成物を電気泳動の後前記モノクローナル抗体F6により検出したところ、分子量85kDa の部位にバンドが検出され、組換えSPA−1(rSPA−1)が発現したことが確認された。
上記発現プラスミドの作製過程を図3に示す。
【0038】
(2)Span−Nの生理活性
Span−NがGAP3と相同性を有するので、前述のGST−SpanN融合蛋白質を用いてGAP活性を検討した。対照としてヒトGAP3(75〜663アミノ酸残基)GST融合蛋白質を用い、酵母Rsr1(1−272残基)、ヒトRap1A(Glu63)(1−184残基)、ヒトHa−Ras(1−189残基)、およびヒトRhoA(1−193残基)GST融合蛋白質(文献:Nur−E−Kamalら、Mol.Biol.Cell 31:1437−1442,1992.,Nur−E−Kamalら、J.Biol.Chem 267:1415−1418,1992)のGTPase活性に及ぼす影響について、Marutaらの方法(J.Biol.Chem.266:11661−11668,1991)に従い解析した。その結果Span−NはHa−Ras,Rac1,Rho1等には無効であるがRap1及びRsr1に対して選択的GAP活性を有することが示された。この結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
また、図4に、Span−N濃度とRsr1GTPase活性化の関係を示す。この図はSpanNのRsrGTPase活性が濃度に依存していることを示している。GAP活性の測定は先のMarutaらの方法(J.Biol.Chem.266:11661−11668,1991)に従い行った。
SPA−1は核内蛋白であり、他方Rap1が核に存在するという報告はない。そこで唯一核内に存在することが明かな低分子G蛋白Ranに対する活性を検討したところ、Span−NはRanに対して明かなGAP活性を示すことが判明した。この結果を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
また、図5に、Span−N濃度とRanGTPase活性化との関係を示す。
【0043】
実施例3. ゲノム遺伝子のクローニング
(1)マウスゲノムライブラリー(EMBL3−Adult DBA/2J肝DNA;CLONTECH,ML 1009d)1.0×106 をHybond−N+ 膜(アマシャム、RPN303B)にブロッティングした。SPA−1 cDNAを挿入したベクターSPA−1 cDNA/pBluescriptをXhoI(ToYoBo,XHO−101)で切断することにより全長のSPA−1 cDNAを切り出し、このDNA断片を、Nick Translation Kit(アマシャム、N5000)によりα32P−dCTP(アマシャムPB(0205)により標識した。
【0044】
このプローブをRapid Hybridization Buffer(アマシャム RPN1636)の存在下で前記ゲノムライブラリーと反応せしめた。一次スクリーニングの結果、陽性、疑陽性あわせて15個のシグナルを得た。さらに二次スクリーニングの結果、9個の陽性クローンを得た。これらをさらに三次スクリーニングにかけることにより、得られた9株がクローン化されていることを確認した。これらのクローン中のゲノムDNAを、それぞれGC1〜GC9と称する。
【0045】
(2)マウス全DNAの調製
4週令のBalb/cマウスの尾を2cm切り取り、1.5mlのエッペンドルフチューブに入れた。次にこれをはさみにより切り刻んだ。これに、500μlの混合溶液(439μlの1×SSC、5μlの1M Tris−HCl(pH7.5)、1μl 0.5M EDTA(pH8.0)、50μlの10%SDS、及び5μlの20mg/mlプロティナーゼK)を加え、37℃にて12時間インキュベートした。
【0046】
次に、これに500μlの緩衝化フェノールを加え、5分間穏和に混合した。この混合物を10,000rpm にて5分間室温で遠心分離した。液相を新たなチューブに移し、これに700μlのイソプロパノールを加え、そしてチューブを数回反転し、線状の沈澱を生じさせた。
この沈澱を、500μlの70%エタノールを入れた新たなチューブに移し、次に70%のエタノールを除去し、100%エタノールにより沈澱を洗浄した。沈澱を空気乾燥し次に100μlのTE緩衝液を加えて全DNAを調製した。
【0047】
(3)SPA−1をコードするゲノムDNAのスクリーニング
前記(2)において調製した全DNAをBamHI(ToYoBo,BHA−102)又はEcoRI(ToYoBo,ECO−101)により切断し、次にこれをHybond−N+膜にブロッティングし、前記(1)において調製したSPA−1cDNA全長プローブとのハイブリダイゼーションによりスクリーニングを行った。ハイブリダイゼーションは、前記(1)と同様Rapid Hybridization Buffer中で行った。
【0048】
この結果、5.7kb及び6.6kbのBamHI断片、並びに9.2kb,5.2kb及び1.4kbのEcoRI断片が陽性であった。5.7kb及び6.6kbのBamHI断片にはSPA−1 cDNAの全長が含まれていた。また、これらの断片は、それぞれ前記ゲノム断片Spa−GC2及びSpa−GC9に対応した。これらが挿入されたファージベクターをそれぞれSpa−GC2/EMBL−3及びSpa−GC9/EMBL−3と命名した。
【0049】
(4)配列決定
これらのファージベクターを調製し、BamHIにより切断し、Gene Clean Kit(フナコシ)によりSpa−GC2/EMBL−3からの5.7kb BamHI断片、及びSpa−GC9/EMBL−3からの6.6kb BamHI断片を調製した。
【0050】
次に、これらを、pBluescript II SK(+)(ToYoBo,SC212205)のBamHI部位に、DNA Ligation Kit(Takara 6021)により挿入し、サブクローニングした。次に、Kilo−Sequence Deletion Kit(Takara,6030)により欠失変異体を作製し、7−deaza Sequenase(ToYoBo,US70777)により配列決定を行った。その結果、Spa−GC2にはその3′側半分にエクソン1〜4が、Spa−GC9にはエクソン5〜16が散在していることがわかった。
【0051】
Spa−GC2の塩基配列を配列番号:2に示し、そしてSpa−GC9の塩基配列を配列番号:3に示す。Spa−GC9中、エクソン5の後半からエクソン16の前半に、cDNA中のアミノ酸コード領域が含まれている。
なお、Spa−GC2及びSpa−GC9を含めて、ゲノム断片の相互位置を図6に示す。
【0052】
【発明の効果】
SPA−1蛋白は、正常リンパ球細胞周期のS期以降に強く発現することから、DNA複製や細胞分裂に関与している可能性が示唆された。他方、同蛋白のN末には、RanGAP活性ドメインの存在することが示された。Ranは、唯一核内に存在する低分子G蛋白で、RCC−1遺伝子と会合している。RCC−1は、酵母から哺乳類に至るすべての細胞によく保存されている核内蛋白で、G2 /M移行のチェック機構(即ち、DNA複製完了前の細胞分裂の防止)に関与する遺伝子として有名であるが、近年他にもDNA複製開始やRNAの核外輸送など、細胞核の機能の多くの局面に関与していることがわかっている。
【0053】
さらにRCC−1はRanに対して、GTP exchangerとして作用する。このRCC−1/Ran系はしかし、共に細胞周期に関係なく構成的に発現されており、従って、周期とRCC−1/Ranをつなぐ因子として、周期依存性因子、とりわけGAP分子の介在が長らく推定されてきているがその本体は不明であった。今回の一連の結果は、SPA−1が正しくこの介在分子であることを強く示唆するものである。さらに、SPA−1過剰発現により有糸分裂破綻(mitotic catastrophes)がおこるという今回の知見は、SPA−1が、周期依存性にこのRCC−1/Ran系の機能制御にあたる中枢的分子であることを示唆しよう。
【0054】
DNA合成と細胞分裂を促進するエンジンに相当するcyclin/cdc2系に対して、ブレーキにあたるRCC1/Ran系がSPA−1を介していかに微調整の役割を果たすかの詳細は今後の重要な検討課題である。とりわけSPA−1が、ユニークな細胞増殖特性を有するリンパ系細胞に高発現される事実は、それが、同細胞系の増殖調節とそのチェック機構において重要な機能を果たしていることを示唆するものである。
従って、本発明の蛋白質はリンパ球の分化調節剤等としての有用性が期待される。さらに、本発明の蛋白質を腫瘍細胞で発現させれば、細胞周期のS期で細胞死を誘導することができるため、抗腫瘍剤としても有用である。
【0055】
【配列表】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1はSpan−Nのアミノ酸配列とGAP3m蛋白質のアミノ酸配列とを比較した図である。
【図2】図2はSPA−1蛋白質の構造の模式図である。
【図3】図3はSPA−1蛋白質の組換え発現用プラスミドの作製過程を示す図である。
【図4】図4はSpan−Nが濃度依存的にRsr1GTPaseを活性化することを示すグラフである。
【図5】図5はSpan−Nが濃度依存的にRan1GTPaseを活性化することを示すグラフである。
【図6】図6は本発明のSPA−1をコードするゲノムDNAの制限酵素地図を示す。
【図7】図7は、モノクローナル抗体F6及びH10のGST及びGST/SpanN融合蛋白質への反応性を示す電気泳動図であり、図面に代る写真である。
【図8】図8は、種々の領域を欠失させたSPA遺伝子からの発現生成物の様子を示す電気泳動図であり、図面に代る写真である。
【図9】図9は、動物細胞を血清飢餓と血清の再添加により同調培養した場合に、その動物細胞に導入されたSPA−1遺伝子がその細胞に与える影響を示すものであり、生物の形態を表わす図面に代る写真である。
【図10】図10は、動物細胞を血清飢餓と血清の再添加により同調培養した場合に、その動物細胞に導入されたSPA−1遺伝子がその細胞に与える影響を示す電気泳動図であり、図面に代る写真である。
【産業上の利用分野】
本発明は、細胞分裂の調節に関与する蛋白質であるSPA−1蛋白質及びその断片、それらをコードする遺伝子、並びにそれらの蛋白質に対する抗体に関する。
【0002】
【従来の技術】
リンパ系の細胞は、その細胞増殖能において他の多くの体細胞と比べユニークな特性を有している。即ちそれは、他の体細胞同様一定の前駆細胞から多くの細胞分裂を経ながら分化し成熟した細胞となり、一旦静止状態(G0/G1)に入る。その後これらが、抗原や特定の増殖因子の刺激を受けると再び細胞周期に入り一定の再分化をとげつつクローナルに増大し、やがてまた静止状態へと戻る(メモリー細胞)。生体の免疫応答においては、リンパ球の特有な機能分化や発現と並んでこの反復性細胞増殖(クローン増幅)が極めて大きな要素を成している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記の反復性細胞増殖の制御に関与すると予想される新規な蛋白質SPA−1及びその活性断片、それらをコードする遺伝子、並びにそれらの蛋白質に対する抗体を提供しようとするものである。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は、哺乳類の細胞の細胞周期において、静止状態では発現されず細胞周期進入後に核内に発現される細胞分裂機構調節蛋白質に関する。この蛋白質はSPA−1と称され、図2に示す構造を有する。
cDNAの塩基配列から推定されるSPA−1のアミノ酸配列は、配列番号:1において1位のMetから始まり、693位のAlaに終るアミノ酸配列を有する。
【0005】
しかしながら、本発明のポリペプチド又は蛋白質は、上記のものに限定されず、正確なアミノ酸配列内の小さな変更があっても本発明の活性を有する場合には本発明の範囲に含まれる。このような変更には、配列内のアミノ酸の置き換え、及び1又は複数のアミノ酸の付加と又は欠失が含まれ、そして本発明の活性が維持される限り、これらの変形もまた定義に含まれる。
【0006】
ここで、アミノ酸の付加、欠失又は置換は出願前周知技術である部位特定変異誘発(例えば、Nucleic Acid Research,Vol.10,No.20,p6487〜6500,1982を参照のこと)により実施することができ、アミノ酸の付加、欠失又は置換に関し、1又は複数のアミノ酸とは、部位特定変異誘発法により付加、欠失又は置換できる程度の数のアミノ酸を意味する。
【0007】
上記のポリペプチド又は蛋白質は、遺伝子工学的方法により、上記のポリペプチド又は蛋白質のアミノ酸配列をコードする遺伝子を発現させることにより製造することができる。上記ポリペプチドをコードする遺伝子は、cDNA、ゲノムDNA又は化学合成DNAとして得ることができる。
【0008】
SPA−1をコードするcDNAは、リンパ球の静止期(G0 /G1 期)にはほとんど発現されず、増殖期(S期)に発現される遺伝子をクローニングすることにより得られる。例えばG0 /G1 期及びS期のリンパ球から、常法に従ってcDNAを調製し、これらをハイブリダイズせしめ、S期に由来するcDNAとハイブリダイズしないG0 /G1 期由来のcDNAを選択することによりSPA−1をコードするcDNAが得られる。具体的な方法の1例を実施例1(1)に記載する。
【0009】
ゲノムDNAを得るには、例えば対象動物からゲノムDNAライブラリーを作製し、これを、前記のようにして得られたcDNA、例えば全長cDNAをプローブとして用いてスクリーニングすることにより得られる。この具体的な方法を実施例3に具体的に記載する。例えばSPA−1をコードするゲノムDNAは、ゲノムDNAの5.7kbp のBamHI断片(Spa−GC2と称する)及び6.6kbp のBamHI断片(Spa−GC9と称する)として得られる。
【0010】
図5並びに配列番号:2及び3に示すごとく5.7kbp のDNA断片(Spa−GC2)には4個のエクソン(エクソン1〜4)が含まれており、これらは5.7kbp 断片の3′−末端側の約2.5kbp 部位に存在する。また6.6kbp 断片(Spa−GC9)には12個のエクソン(エクソン5〜16)が散在している。これらのエクソン1〜16が前記のcDNAの全体を含んでいる。また、cDNAのコード領域はエクソン5の後半からエクソン16の前半に含まれている。
【0011】
本発明において、SPA−1又はその蛋白質断片をコードするDNAを得るには、上記のごときcDNA又はゲノムDNAをエクソヌクレアーゼにより処理して不要部分を除去するか、あるいは適切な制限酵素により切断した後、必要であれば不足の配列をオリゴヌクレオチドの付加により補い、又は不要部分をエクソヌクレアーゼ等により除去すればよい。また、生来のアミノ酸配列に対して、1〜複数個のアミノ酸が欠失、付加及び/又は置換されているポリペプチドをコードする遺伝子は、上記のようにして得られるcDNA又はゲノムDNAを、常法に従って、例えば部位特異的変異誘発にかけることにより得られる。
【0012】
本発明はさらに、配列番号:1〜3に記載の塩基配列とハイブリダイズするDNA又はRNAをも包含する。この様なハイブリダイズするDNA又はRNAは、好ましくはSPA−1又はその蛋白質断片の生物学的機能を保持しているものであり、例えば50%ホルムアミド、5×SSC,10%Na−デキストラン、20mM Na−ホスフェート(pH6.5)、42℃のハイブリダイゼーション条件下で前記cDNA又はゲノムDNAとハイブリダイズするものである。
【0013】
本発明のポリペプチド又は蛋白質は、常法に従って真核細胞又は原核細胞において発現させることができる。真核細胞としては、動物、例えばヒト又は他の動物の塩基細胞、例えばNIH3T3細胞、Cos−1細胞、CHO細胞等が用いられ、さらに真核性微生物、例えば酵母又は糸状菌が用いられる。酵母としてはサッカロミセス・セレビシエー(Saccharomyces cerevisiae)、等が挙げられ、糸状菌としては、アスペルギルス(Aspergillus)属、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)等が挙げられる。原核生物としては細菌が挙げられる。例えばバシルス(Bacillus)、例えばバシルス・ズブチリン(Bacillus subtilis)、大腸菌(Escherichia coli)等が使用される。
【0014】
これらの宿主において前記DNAを発現させるためには、前記コード領域を含むDNAと該DNAのための発現制御領域を含んで成る発現ベクターを用いる。この発現ベクターにおいて使用する発現制御領域としては、常用のものを用いることができる。例えば、動物細胞での発現のためには、ウイルス性プロモーター、例えばLTRプロモーター、CMVプロモーター、SRαプロモーター等を用いることができ、大腸菌での発現のためにはT7プロモーター、LacZプロモーター等を用いることができ、また酵母用プロモーターとして、例えばα−接合因子プロモーターが用いられる。
【0015】
本発明のポリペプチド又は蛋白質は、前記の発現ベクターにより形質転換された宿主を培養し、培養物から目的ポリペプチドを採取することにより得られる。発現ベクターによる宿主の形質転換は、宿主の種類に応じて常法に従って行うことができる。形質転換された宿主の培養も常法に従って行うことができる。
培養物から目的とするポリペプチドを回収、精製するには、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、濃縮、凍結乾燥等、蛋白質の精製に用いられる常法により行うことができる。
【0016】
【実施例】
次に、本発明を実施例によりさらに具体的に記載する。
実施例1. SPA−1 cDNAのクローニング及び特性決定
(1)SPA−1 cDNAのクローニング
本発明においてはまず、リンパ球の静止期(G0 /G1 期)においてはほとんど発現されず増殖期(S期)において発現され遺伝子をクローニングするため、静止期(G0 /G1 )のリンパ系細胞株(LFD−14)から常法(Auffray,C.ら、Eur.J.Biochem.,107,303,1980)に従ってmRNAを調製し、次にこのmRNAに基いて、常法(Aruffo,A.ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,84,8573,1987)に従ってcDNAライブラリーを調製した。
【0017】
次に、同じ細胞株(LFD−14)をIL−2(100U/ml)により増殖刺激し、約20時間後(S期)に常法に従ってmRNAを調製し、このmRNAに基いて常法によりcDNAライブラリーを調製した。次に、これらのcDNAライブラリー間でディフエレンシヤル・ハイブリダイゼーションを行い、S期の細胞においてのみ発現しているcDNAクローンを得、これをSPA−1 cDNAと命名した。また、このcDNAを含むベクターをpcSPA−1と命名した。このベクターを制限酵素XhoIで切断することによりSPA−1 cDNAを切り出すことができる。
【0018】
(2)SPA−1 cDNAの構造
SPA−1 cDNAの塩基配列を常法に従って決定した結果を配列番号:1に示す。このcDNAは全長約3.5kbから成り、その5′−末端側に多くの短いオープンリーディングフレーム(ORF)を含む長い(約1.2kb)5′−非翻訳領域を持つ。同領域はある種のがん遺伝子に共通して認められる強い翻訳抑制領域で、同遺伝子発現が翻訳レベルでも強く制御されていることを示す。
【0019】
このcDNAはさらに、約2.1kbから成る1つのオープンリーディングフレーム(配列番号:1中第1200番目の塩基A(アデノシン)から第3278番目の塩基C(シトシン)まで)を含有する。このオープンリーディングフレームによりコードされるアミノ酸配列のN−末端側190アミノ酸からなる配列(「Span−N」と称する)はヒトRap1GAP(GAP3 )と高い相同性を示していた。Span−NとGAP3 のアミノ酸配列の相同性を図1に示す。
【0020】
(3)SPA−1N末端側の各ドメインに対するモノクローナル抗体の調製
SPA−1 cDNAを制限酵素BglIおよびPstIで切断することにより、Span−NをコードするDNA断片及びそれに続く約140アミノ酸からなるポリペプチド(「Span−C」と称する)をコードするDNA断片を得、これをpGEX−1ベクター(ファルマシア)のPstI末端をT4 ポリメラーゼで平坦化し、EcoRIリンカーをつけて、ベクターのEcoRI部位に挿入することにより、Span−N又はSpan−CとGST(グルタチオン−S−トランスフェラーゼ)との融合蛋白質をコードする配列を含む発現プラスミドpGEX−SpanN及びpGEX−SpanCを得た。この発現プラスミドを大腸菌にて発現せしめ、発現生成物を回収・精製することによりSpan−N/GST融合蛋白質及びSpan−C/GST融合蛋白質を得た。
【0021】
これらの融合蛋白質各200μgをフロイント完全アジュバントと混合したものをアルメニアハムスター(♂、5w)の皮下に免疫した。その後2週間おきに3回、融合蛋白質200μgをフロイント不完全アジュバントと混合し、ハムスター腹腔内に投与した。最終免疫から3日後にハムスター脾臓を摘出、細切し脾細胞液を調整した。これをLeo,Oらの方法(PNAS 84:1374,1987)に従い、マウスミエローマ株P3U1と細胞融合させ、ハイブリドーマを得た。
【0022】
これらハイブリドーマのうち目的とする抗体を産生するクローンは、ハムスターの免疫に用いた各々の融合蛋白を抗原としたELISA法により選別した。つまり、各々の融合蛋白(GST−SpanN,GST−SpanC)1μg/ウェルあるいはGST蛋白のみ1μg/ウェルを結合させた96ウェルプレートを用意し、これに各ハイブリドーマ上清100μlを反応させた。
【0023】
次にこれに抗ハムスターIgG−ペルオキシダーゼを反応させ、基質としてABTS(2−2′−アジノ−ジ−3−エチル−ベンゾチアノジノ−6−硫酸)を用い呈色反応を行い、GSTには反応せず各融合蛋白にのみ反応するものを陽性とした。陽性を示すウェルの細胞を限界希釈法にてクローニングし、単一細胞よりクローンを得た。Span−Nに対するモノクローナル抗体をF6、Span−Cに対するモノクローナル抗体をH10と称する。図7に各々のモノクローナル抗体と融合蛋白の反応性をウェスタンブロッティング法により解析した結果を示す。
【0024】
すなわち、図7は、各10μgの、GST−SpanNおよびGST−SpanC融合蛋白あるいは、GSTのみをSDS−PAGEで展開した後、メンブランにブロットし、これを各々F6あるいはH10抗体液(10μg/ml)にて反応させ、 125I−ProteinA(アマシャム社)で検出した結果を示す。
【0025】
なお、モノクローナル抗体F6を生産するハイブリドーマはF6と命名され寄託番号FERM BP−4839として平成6年10月18日に、そしてモノクローナル抗体H10を生産するハイブリドーマはH10と命名され寄託番号FERM BP−4840として平成6年10月18日に、工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託されている。
【0026】
(4)モノクローナル抗体によるSPA−1蛋白質の検出
リンパ球細胞株LFD14細胞(Kubota,H.et al.,J.Immunol.145:3924,1990)の培養細胞から、Harlow,E.,et al.Mol.&Cellelar Biology 6:1579,1986の方法により蛋白質を抽出し、前記モノクローナル抗体を用いるイムノブロッティング(immunoblotting)法、免疫沈降(immunoprecipitation)法、免疫染色(immunostain)法等により蛋白質の同定を行った。
【0027】
この結果、例えばモノクローナル抗体F6を用いるウエスタン・ブロット法において、リンパ球LFD14からの蛋白質は分子量約68kDa のバンドとして検出された。このことから、SPA−1遺伝子は約68kDa の核内蛋白質をコードしていることが予想される。
すなわち、本発明のSPA−1蛋白質は配列番号:1の1番目のアミノ酸メチオニンから693番目のアミノ酸アラニンまでのアミノ酸配列を有すると推定される。
【0028】
実施例2. SPA−1 cDNAの発現
(1)SPA−1蛋白の発現
インビトロ転写/翻訳法による発現
図8に様々な長さのSPA−1 cDNAを鋳型として用いたインビトロ転写/翻訳法により発現したSPA−1蛋白の解析結果を示す。鋳型としては図8に示した様に、全長のSPA−1 cDNAを含むpBluescript KS+ −Spa1プラスミド、この5′側を様々な長さで欠くクローン(#52,#35,#33,#92)あるいは、ORFを完全に含み翻訳時に負に働く5′非翻訳領域を欠く#35プラスミドをその下流の様々な位置(NcoI(1729),BalI(2231),EcoRI(2881),DraI(3038))で切断したプラスミドを用いた。
【0029】
これらの鋳型DNA10μgを用い、RNA転写キット(ストラタジーン社)により相補的mRNA(cRNA)を合成した。このcRNAをTagawaらの方法(J.Biol.Chem.,256:20021,1990)に従い、インビトロ発現翻訳キット(ストラタジーン社)により、インビトロにてウサギ網状赤血球破砕物(プロメガ社)を用い、35S−メチオニン(アマシャム社)の存在下で翻訳し、翻訳生成物を前記H10抗体とプロテインAビーズ(ファルマシア社)とにより免疫沈降したものをSDS−PAGEにより展開した。
【0030】
その結果、ORFおよび3′非翻訳領域を完全に含む全長のpBluescript−KS+ −SPA−1、#52および#35のプラスミドを鋳型とした時には約85kDa の特異バンドが検出されたが、ORFの一部を欠くプラスミド(#33)では、その欠いた長さに応じた翻訳物(約50kDa)が検出された。さらにORF以下の3′非翻訳領域を欠くプラスミド(#35/BalI,#35/EcoRIおよび#35/DraI)ではその長さに応じて85kDa より小さい翻訳物が検出された。
これらの結果は、SPA−1蛋白は1200番目のメチオニンから3278番目のアラニンまでの693アミノ酸からなるポリペプチドとして翻訳されていることを示している。
【0031】
安定な動物細胞トランスフェクタントによる発現
SPA−1 cDNAを制限酵素BglI−DraIにより切り出し、pSRα発現ベクター(Takebe,Y.ら、Mol.Cell Biol.,8,466−472,1988)のEcoRI部位に挿入して発現ベクターSRα−SPA−1を作製し、これをNeo遺伝子を含むプラスミドpSV2 NeOと共にNIH3T3細胞(ATCC CRL−1658)に導入したのちG418により選択し、安定なトランスフェクタントを得た(NIH/SPA−1細胞)。
【0032】
NIH/SPA−1細胞は、図9のAに示すごとく通常の培養条件下(5%血清添加)では、コントロールのSRαベクターのみを導入したNIH3T3細胞(NIH/SRα細胞)と何ら変らない増殖を示すが、同細胞を血清除去にてG1相に同調し(extented G1)、一定時間後に血清を加えて細胞周期を回転させると、S期中〜後期において急速な細胞死のおこることがわかった(図10のA)。形態学的には、細胞が丸くなり著明な核凝縮がみられ、いわゆる分裂破綻(mitotic catastrophes)によるものと推定された(図9のB)。また、このような細胞周期同調に伴いSPA−1は特有な発現の変動を示し、サイクリン群同様その発現は、細胞周期に伴う調節をうけていることも示唆された(図10のB,C)。
【0033】
図9は、SPA−1 cDNAを遺伝子導入したNIH3T3細胞(NIH/Spa−1)におけるG1 期細胞周期ブロック後の増殖刺激による細胞死の誘導を示しており、この図のAは、NIH/SPA−1細胞(●)、およびNIH3T3細胞にpSRαベクターのみを遺伝子導入したNIH/SRα細胞(○)をほぼ飽和状態になるまで5%血清存在下で培養した後、0.5%血清加培地に移し、0,24あるいは48時間培養した。その後20%血清加培地に移し細胞数を経時的に測定した結果を示す。
【0034】
図9のBは、48時間0.5%血清存在下で培養したNIH/SRα細胞およびNIH/SPA−1細胞に20%の血清を加え培養18時間後の細胞の鏡検像であり、右側はその時の細胞の核の状態をヘキスト33427(シグマ社)にて示している。NIH/SPA−1で核の萎縮が認められる。
図10において、AはNIH/SPA−1細胞における細胞周期の解析結果を示し、上段がNIH/SRα、下段がNIH/SPA−1細胞である。血清再添加後16時間の時点で、NIH/SPA−1細胞は死滅している(コントロールの細胞はS期に入っている)。Bは血清非存在下培養(G1 arrest)時のSPA−1蛋白の蓄積を示し、NIH/SPA−1細胞ではtransfectしたSPA−1mRNAは検出されているのにもかかわらず、通常の培養下(ohのレーン)では、SPA−1蛋白はウェスタンブロット法でほとんど検出されない(恐らく、常時分解されている)。しかし、一旦血清濃度を0.5%に下げ細胞周期をG1 に止めた状態(G1 arrest)にすると、SPA−1蛋白の蓄積が観察される。
【0035】
図10のCは血清添加後のSPA−1蛋白の動態を示し、48時間のG1 arrest後血清再添加により細胞周期を再び開始させ、各時間ごと生存している細胞のみを回収し、SPA−1蛋白の発現を調べた。NIH/SPA−1細胞でも血清再添加後24時間でも一部(約一割)の細胞は生き残っており、これらの細胞ではcαc2の活性化が観察される。これに対し、SPA−1蛋白はこの時点ではすでに減少している。
【0036】
組換えSPA−1の大腸菌での発現
SPA−1 cDNAを制限酵素BglI(塩基1171位を切断)及びDraI(塩基3038位を切断)により切断し、BglI−DraI切断を得、これをT4ポリメラーゼにより平滑末端化した。このDNA断片を、EcoRVにより切断されたプラスミドBS−SK(ストラタジーン社)に連結してプラスミドSK+ −SPA−1を得た。次に、このプラスミドのHindIII 部位にBamHIリンカーを付与し、これをBamHIにより消化し、得られたBamHI断片を、BglIIにより消化した発現プラスミドpET−16b(Novagen社、米国)に挿入し、発現プラスミドpET−SPA1を得た。この発現プラスミドを用いて大腸菌を形質転換した。
【0037】
この大腸菌を培養し、培養物からの発現生成物を電気泳動の後前記モノクローナル抗体F6により検出したところ、分子量85kDa の部位にバンドが検出され、組換えSPA−1(rSPA−1)が発現したことが確認された。
上記発現プラスミドの作製過程を図3に示す。
【0038】
(2)Span−Nの生理活性
Span−NがGAP3と相同性を有するので、前述のGST−SpanN融合蛋白質を用いてGAP活性を検討した。対照としてヒトGAP3(75〜663アミノ酸残基)GST融合蛋白質を用い、酵母Rsr1(1−272残基)、ヒトRap1A(Glu63)(1−184残基)、ヒトHa−Ras(1−189残基)、およびヒトRhoA(1−193残基)GST融合蛋白質(文献:Nur−E−Kamalら、Mol.Biol.Cell 31:1437−1442,1992.,Nur−E−Kamalら、J.Biol.Chem 267:1415−1418,1992)のGTPase活性に及ぼす影響について、Marutaらの方法(J.Biol.Chem.266:11661−11668,1991)に従い解析した。その結果Span−NはHa−Ras,Rac1,Rho1等には無効であるがRap1及びRsr1に対して選択的GAP活性を有することが示された。この結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
また、図4に、Span−N濃度とRsr1GTPase活性化の関係を示す。この図はSpanNのRsrGTPase活性が濃度に依存していることを示している。GAP活性の測定は先のMarutaらの方法(J.Biol.Chem.266:11661−11668,1991)に従い行った。
SPA−1は核内蛋白であり、他方Rap1が核に存在するという報告はない。そこで唯一核内に存在することが明かな低分子G蛋白Ranに対する活性を検討したところ、Span−NはRanに対して明かなGAP活性を示すことが判明した。この結果を表2に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
また、図5に、Span−N濃度とRanGTPase活性化との関係を示す。
【0043】
実施例3. ゲノム遺伝子のクローニング
(1)マウスゲノムライブラリー(EMBL3−Adult DBA/2J肝DNA;CLONTECH,ML 1009d)1.0×106 をHybond−N+ 膜(アマシャム、RPN303B)にブロッティングした。SPA−1 cDNAを挿入したベクターSPA−1 cDNA/pBluescriptをXhoI(ToYoBo,XHO−101)で切断することにより全長のSPA−1 cDNAを切り出し、このDNA断片を、Nick Translation Kit(アマシャム、N5000)によりα32P−dCTP(アマシャムPB(0205)により標識した。
【0044】
このプローブをRapid Hybridization Buffer(アマシャム RPN1636)の存在下で前記ゲノムライブラリーと反応せしめた。一次スクリーニングの結果、陽性、疑陽性あわせて15個のシグナルを得た。さらに二次スクリーニングの結果、9個の陽性クローンを得た。これらをさらに三次スクリーニングにかけることにより、得られた9株がクローン化されていることを確認した。これらのクローン中のゲノムDNAを、それぞれGC1〜GC9と称する。
【0045】
(2)マウス全DNAの調製
4週令のBalb/cマウスの尾を2cm切り取り、1.5mlのエッペンドルフチューブに入れた。次にこれをはさみにより切り刻んだ。これに、500μlの混合溶液(439μlの1×SSC、5μlの1M Tris−HCl(pH7.5)、1μl 0.5M EDTA(pH8.0)、50μlの10%SDS、及び5μlの20mg/mlプロティナーゼK)を加え、37℃にて12時間インキュベートした。
【0046】
次に、これに500μlの緩衝化フェノールを加え、5分間穏和に混合した。この混合物を10,000rpm にて5分間室温で遠心分離した。液相を新たなチューブに移し、これに700μlのイソプロパノールを加え、そしてチューブを数回反転し、線状の沈澱を生じさせた。
この沈澱を、500μlの70%エタノールを入れた新たなチューブに移し、次に70%のエタノールを除去し、100%エタノールにより沈澱を洗浄した。沈澱を空気乾燥し次に100μlのTE緩衝液を加えて全DNAを調製した。
【0047】
(3)SPA−1をコードするゲノムDNAのスクリーニング
前記(2)において調製した全DNAをBamHI(ToYoBo,BHA−102)又はEcoRI(ToYoBo,ECO−101)により切断し、次にこれをHybond−N+膜にブロッティングし、前記(1)において調製したSPA−1cDNA全長プローブとのハイブリダイゼーションによりスクリーニングを行った。ハイブリダイゼーションは、前記(1)と同様Rapid Hybridization Buffer中で行った。
【0048】
この結果、5.7kb及び6.6kbのBamHI断片、並びに9.2kb,5.2kb及び1.4kbのEcoRI断片が陽性であった。5.7kb及び6.6kbのBamHI断片にはSPA−1 cDNAの全長が含まれていた。また、これらの断片は、それぞれ前記ゲノム断片Spa−GC2及びSpa−GC9に対応した。これらが挿入されたファージベクターをそれぞれSpa−GC2/EMBL−3及びSpa−GC9/EMBL−3と命名した。
【0049】
(4)配列決定
これらのファージベクターを調製し、BamHIにより切断し、Gene Clean Kit(フナコシ)によりSpa−GC2/EMBL−3からの5.7kb BamHI断片、及びSpa−GC9/EMBL−3からの6.6kb BamHI断片を調製した。
【0050】
次に、これらを、pBluescript II SK(+)(ToYoBo,SC212205)のBamHI部位に、DNA Ligation Kit(Takara 6021)により挿入し、サブクローニングした。次に、Kilo−Sequence Deletion Kit(Takara,6030)により欠失変異体を作製し、7−deaza Sequenase(ToYoBo,US70777)により配列決定を行った。その結果、Spa−GC2にはその3′側半分にエクソン1〜4が、Spa−GC9にはエクソン5〜16が散在していることがわかった。
【0051】
Spa−GC2の塩基配列を配列番号:2に示し、そしてSpa−GC9の塩基配列を配列番号:3に示す。Spa−GC9中、エクソン5の後半からエクソン16の前半に、cDNA中のアミノ酸コード領域が含まれている。
なお、Spa−GC2及びSpa−GC9を含めて、ゲノム断片の相互位置を図6に示す。
【0052】
【発明の効果】
SPA−1蛋白は、正常リンパ球細胞周期のS期以降に強く発現することから、DNA複製や細胞分裂に関与している可能性が示唆された。他方、同蛋白のN末には、RanGAP活性ドメインの存在することが示された。Ranは、唯一核内に存在する低分子G蛋白で、RCC−1遺伝子と会合している。RCC−1は、酵母から哺乳類に至るすべての細胞によく保存されている核内蛋白で、G2 /M移行のチェック機構(即ち、DNA複製完了前の細胞分裂の防止)に関与する遺伝子として有名であるが、近年他にもDNA複製開始やRNAの核外輸送など、細胞核の機能の多くの局面に関与していることがわかっている。
【0053】
さらにRCC−1はRanに対して、GTP exchangerとして作用する。このRCC−1/Ran系はしかし、共に細胞周期に関係なく構成的に発現されており、従って、周期とRCC−1/Ranをつなぐ因子として、周期依存性因子、とりわけGAP分子の介在が長らく推定されてきているがその本体は不明であった。今回の一連の結果は、SPA−1が正しくこの介在分子であることを強く示唆するものである。さらに、SPA−1過剰発現により有糸分裂破綻(mitotic catastrophes)がおこるという今回の知見は、SPA−1が、周期依存性にこのRCC−1/Ran系の機能制御にあたる中枢的分子であることを示唆しよう。
【0054】
DNA合成と細胞分裂を促進するエンジンに相当するcyclin/cdc2系に対して、ブレーキにあたるRCC1/Ran系がSPA−1を介していかに微調整の役割を果たすかの詳細は今後の重要な検討課題である。とりわけSPA−1が、ユニークな細胞増殖特性を有するリンパ系細胞に高発現される事実は、それが、同細胞系の増殖調節とそのチェック機構において重要な機能を果たしていることを示唆するものである。
従って、本発明の蛋白質はリンパ球の分化調節剤等としての有用性が期待される。さらに、本発明の蛋白質を腫瘍細胞で発現させれば、細胞周期のS期で細胞死を誘導することができるため、抗腫瘍剤としても有用である。
【0055】
【配列表】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
【図面の簡単な説明】
【図1】図1はSpan−Nのアミノ酸配列とGAP3m蛋白質のアミノ酸配列とを比較した図である。
【図2】図2はSPA−1蛋白質の構造の模式図である。
【図3】図3はSPA−1蛋白質の組換え発現用プラスミドの作製過程を示す図である。
【図4】図4はSpan−Nが濃度依存的にRsr1GTPaseを活性化することを示すグラフである。
【図5】図5はSpan−Nが濃度依存的にRan1GTPaseを活性化することを示すグラフである。
【図6】図6は本発明のSPA−1をコードするゲノムDNAの制限酵素地図を示す。
【図7】図7は、モノクローナル抗体F6及びH10のGST及びGST/SpanN融合蛋白質への反応性を示す電気泳動図であり、図面に代る写真である。
【図8】図8は、種々の領域を欠失させたSPA遺伝子からの発現生成物の様子を示す電気泳動図であり、図面に代る写真である。
【図9】図9は、動物細胞を血清飢餓と血清の再添加により同調培養した場合に、その動物細胞に導入されたSPA−1遺伝子がその細胞に与える影響を示すものであり、生物の形態を表わす図面に代る写真である。
【図10】図10は、動物細胞を血清飢餓と血清の再添加により同調培養した場合に、その動物細胞に導入されたSPA−1遺伝子がその細胞に与える影響を示す電気泳動図であり、図面に代る写真である。
Claims (18)
- 配列番号:1に示す1番目のメチオニンから693番目のアラニンまでのアミノ酸配列を有する SPA-1蛋白質。
- 配列番号:1に示す1番目のメチオニンから693番目のアラニンまでのアミノ酸配列において、該アミノ酸配列における1又は2個以上のアミノ酸が付加、欠失又は置換により修飾されているアミノ酸配列を有する、細胞分裂機構調節蛋白質。
- 配列番号:1に示す 1200 番目のA(アデノシン)から 3278 番目のC(シトシン)までの塩基配列を有する核酸に、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸によりコードされている、細胞分裂機構調節蛋白質。
- 配列番号:1に示す1番目のメチオニンから190番目のロイシンまでのアミノ酸配列を有する Span-N 蛋白質。
- 配列番号:1に示す 191番目のアラニンから327番目のロイシンまでのアミノ酸配列を有する Span-C 蛋白質。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の蛋白質をコードする遺伝子。
- 配列番号:1に示す1200番目のA(アデノシン)から3278番目のC(シトシン)までの塩基配列を有する、請求項6に記載の遺伝子。
- 遺伝子が cDNA である、請求項7に記載の遺伝子。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の蛋白質に対する抗体。
- モノクローナル抗体である、請求項9に記載の抗体。
- 配列番号:2に示す配列中のエクソン1〜4を含んで成るゲノムDNA。
- 配列番号:3に示す配列中のエクソン5〜16を含んで成るゲノムDNA。
- 配列番号:3に示す配列中のオープンリーディングフレームによりコードされているアミノ酸配列をコードするゲノムDNA。
- 配列番号:3に示すオープンリーディングフレームを含んで成るゲノムDNA。
- 配列番号:1又は3中のコード領域の発現により得られるポリペプチド。
- 請求項6〜8のいずれか1項に記載の遺伝子を含んで成る発現ベクター。
- 請求項 16 に記載の発現ベクターにより形質転換された宿主細胞。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の蛋白質の製造方法であって、請求項 17 に記載の宿主細胞を培養し、培養物から当該蛋白質を採取することを特徴とする方法。
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