JP3681589B2 - 無端状金属ベルトの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、無段変速機等に用いられる無端状金属ベルトの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、無段変速機等に用いられる無端状金属ベルトは次のような製造方法により製造されている。まず、超強力鋼であるマルエージング鋼の薄板の端部同士を溶接して円筒状のドラムを形成し、該ドラムに対して第1の溶体化処理を行う。次に、溶体化されたドラムを所定幅に裁断してリングを形成し、該リングを圧延した後、圧延されたリングに対して第2の溶体化処理を行う。そして、溶体化されたリングを所定の周長に補正したのち時効及び窒化処理して硬度を向上させた後、複数のリングを相互に積層して無端状金属ベルトを形成する。
【0003】
前記製造方法において、前記溶接後のドラムに対する第1の溶体化は、前記溶接時の熱により部分的に大きくなった硬度を均質化するために行うものであり、該溶体化を行うことにより、前記ドラムを所定幅に裁断する処理をしてリングを形成した後の圧延を容易に行うことができる。前記溶体化は、一般に前記マルエージング鋼の再結晶温度付近の温度にて加熱することにより行われるが、このとき前記マルエージング鋼は、時効析出強化元素としてTi,Al,Mo等を含んでおり、これらの元素、特にTiが酸化されると、後続の時効処理によって所定の硬度が得られないことがある。そこで、前記溶体化処理は、前記時効析出強化元素の酸化を避けるために、真空炉内で行われる。
【0004】
一方、前記圧延されたリングは、前記圧延により金属結晶が潰された圧延組織が形成されており、そのままでは後続の窒化処理において窒素が浸透しにくく、窒化が均一に行われないことがある。そこで、前記圧延化後のリングに対して、変形された金属結晶の粒子形状を復元し、窒化処理を容易にするために、第2の溶体化を行う。
【0005】
前記第2の溶体化も、一般に前記マルエージング鋼の再結晶温度付近の温度にて加熱することにより行われ、前記時効析出強化元素が酸化されないことが望ましい。しかし、真空炉は高価であるので、前記第2の溶体化は炉内を還元雰囲気とした加熱炉を用いて行われる。前記還元雰囲気としては、例えば1〜10%の水素を含む窒素雰囲気が用いられる。前記窒素雰囲気中には、僅かながら酸素が含まれているが、前記水素を酸素と反応させて水を生成させることにより、該酸素を除去し、前記時効析出強化元素の酸化を防止することができる。前記従来の製造方法によれば、前記2つの溶体化のうち第2の溶体化を加熱炉を用い還元雰囲気下で行うことにより真空炉の数を低減して、製造コストの低減を図ることができる。
【0006】
しかしながら、前記第1及び第2の溶体化にそれぞれ別の炉を用いると、製造コストの増大が避けられないとの不都合がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる不都合を解消して、製造コストを低減することができる無端状金属ベルトの製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するために、本発明者らは溶接後のドラムと圧延後のリングとの溶体化の条件について検討を重ねた結果、従来の圧延後のリングに対する溶体化において、条件をさらに厳格にすることにより、溶接後のドラムに対する溶体化にも該条件を適用することが可能であることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
【課題を解決するための手段】
そこで本発明の製造方法は、マルエージング鋼の薄板の端部同士を溶接してリング状のドラムを形成する工程と、溶接後のドラムに対する第1の溶体化を行う工程と、溶体化されたドラムを所定幅に裁断してリングを形成し、該リングを圧延する工程と、圧延されたリングに対する第2の溶体化を行う工程と、体化されたリングを所定の周長に補正したのち時効及び窒化処理する工程と、時効及び窒化処理された複数のリングを相互に積層して無端状金属ベルトを形成する工程とを備える無端状金属ベルトの製造方法において、
前記溶接後のドラムに対する第1の溶体化と、前記圧延後のリングに対する第2の溶体化とを、同一加熱炉を用いて、1〜10%の水素を含み、雰囲気露点−7〜0℃の窒素雰囲気下、前記マルエージング鋼の再結晶温度以上、850℃以下の範囲の温度にて行うことを特徴とする。
【0010】
本発明の製造方法は、まず、マルエージング鋼の薄板の端部同士を溶接して円筒状のドラムを形成し、該ドラムを加熱炉内に収容して第1の溶体化を施す。次に、溶体化されたドラムを所定幅に裁断してリングを形成し、該リングを圧延する。圧延されたリングは、前記第1の溶体化に用いたものと同一の加熱炉内に収容し、前記第1の溶体化と同一条件で第2の溶体化を行う。そして、溶体化されたリングを所定の周長に補正したのち時効及び窒化処理し、時効及び窒化処理された複数のリングを相互に積層して無端状金属ベルトを形成する。
【0011】
本発明の製造方法によれば、前記溶接後のドラムに対する第1の溶体化と、前記圧延後のリングに対する第2の溶体化とを、同一加熱炉を用いて同一条件で行うことができ、両方の溶体化にそれぞれ別の炉を用いる必要が無いので、製造コストを低減することができる。
【0012】
本発明の製造方法において、前記溶接後のドラムに対する第1の溶体化と、前記圧延後のリングに対する第2の溶体化とは、1〜10%の水素を含み、雰囲気露点−7〜0℃の窒素雰囲気下、前記マルエージング鋼の再結晶温度以上、850℃以下の範囲の温度にて行う。
【0013】
前記窒素雰囲気は、微量の酸素を含んでいるが、前記範囲の水素を含むことにより、該酸素を該水素と化合せしめて水を生成させる。このとき、前記雰囲気露点が前記範囲となっていることにより、前記水の大部分は水蒸気となって系外に排出される。従って、前記マルエージング鋼に含まれる時効析出強化元素であるTi,Al,Mo等、特にTiの酸化を抑制することができる。
【0014】
本発明の製造方法において、水素の含有量が雰囲気全体の1%未満であると、前記微量の酸素を水蒸気として排出する効果が十分に得られない。また、水素は窒素に比較して高価であるので、水素の含有量が雰囲気全体の10%を超えると、製造コストが増大する。
【0015】
また、雰囲気露点は−7℃未満ではTiが選択的に酸化され、0℃を超えると前記マルエージング鋼の主成分であるFe自体が酸化され、時効析出元素の1つであるMoも酸化される。
【0016】
また、溶体化の温度は前記マルエージング鋼の再結晶温度未満では溶体化自体が難しく、850℃を超えると再結晶された金属結晶の粒子が粗大化するため、無端状金属ベルトを形成した後の切欠靭性が低下する。
【0017】
前記ドラムは、前記溶接で接合された部分の両側に、溶接時の熱による時効のために硬度が高くなった部分が形成されているが、前記条件で第1の溶体化を行うことにより前記硬度の高い部分が無くなり、ドラム全体の硬度が均質化される。前記第1の溶体化が施されたドラムは、次に、所定幅に裁断してリングに形成されるが、前記ドラムは前記のように全体の硬度が均質化されているので、前記裁断を容易にし、リングの圧延をも容易に行うことができる。
【0018】
前記圧延後のリングに対する第2の溶体化は、従来の製造方法における前記リングの溶体化に用いられる還元雰囲気において前記雰囲気露点を限定したに過ぎないので、従来と同様に何ら問題なく行うことができる。この結果、前記リングは、前記圧延により変形された金属結晶の粒子形状が前記圧延前の状態に復元される。
【0019】
前記溶体化処理が施されたリングは、次に所定の周長に補正された後、時効及び窒化処理される。前記リングは、前記第1の溶体化においてTi等の時効析出強化元素の酸化が抑制されているので、前記時効処理を均一に行うことができる。また、前記リングは、前記第2の溶体化において金属結晶の粒子形状が圧延前の状態に復元されているので、窒素が浸透しやすく、前記窒化処理を容易に行うことができる。
【0020】
また、本発明の製造方法において、前記圧延後のリングに対する第2の溶体化は、該リングの前工程で溶接して形成されたドラムに対する第1の溶体化と独立に行ってもよく、同時に行ってもよい。同時に行うときには、前記第2の溶体化は前記リングの金属結晶の粒子形状を圧延前の状態に復元するために、前記第1の溶体化より長時間を要するので、前記ドラムに対する第1の溶体化は前記リングに対する第2の溶体化と同一の時間で行う。
【0021】
【発明の実施の形態】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。図1は本実施形態の製造方法の工程図、図2は図1示の工程の要部を模式的に示す説明図、図3は溶接後のドラムに対して本発明の製造方法に従う溶体化を施す前後の硬度を示すグラフ、図4は溶接後のドラムと圧延後のリングとに対して本発明の製造方法に従う溶体化を施した後の硬度を示すグラフである。
【0022】
本実施形態の製造方法は、まず、図1及び図2示のように前記組成を有するマルエージング鋼の薄板1をベンディングしてループ化したのち、端部同士を溶接して円筒状のドラム2を形成する。このとき、前記マルエージング鋼は溶接の熱により時効硬化を示し、ドラム2の溶接の中心2aから両側に1mm前後の部分に硬度の高い部分が出現する。
【0023】
そこで、次に、ドラム2を還元性雰囲気の加熱炉3に収容して、前記マルエージング鋼の再結晶温度以上、850℃以下の温度で、第1の溶体化処理を行う。前記還元性雰囲気は、1〜10%、例えば4%の水素を含み、雰囲気露点−7〜0℃の窒素雰囲気である。
【0024】
前記第1の溶体化が終了したならば、ドラム2を加熱炉3から搬出し、所定幅に裁断して、リング4を形成する。ドラム2は、前記第1の溶体化処理の結果、全体の硬度が均質化されているので、前記裁断を容易に行うことができ、圧延も容易となる。リング4は、次いで圧下率40〜50%で圧延される。
【0025】
前記圧延の結果、リング4には金属結晶が潰された圧延組織が形成されていて、このままでは後続の窒化処理において金属組織に窒素が浸透しにくい。そこで、次に、リング4を再び還元性雰囲気の加熱炉3に収容して、前記第1の溶体化処理と同一条件下に第2の溶体化処理を行う。
【0026】
前記第2の溶体化が終了したならば、リング4を加熱炉3から搬出し、所定の周長に補正する。前記周長の補正は、例えば前記リング4を図示しない駆動ローラ及び従動ローラに掛け回し、回転駆動させながら、前記リング4の走行方向と直交する方向に荷重を掛けることにより行う。
【0027】
次に、図1示のように、前記周長が補正されたリングに時効処理及び窒化処理を施す。前記時効処理は、例えば前記リングを図示しない加熱炉内で450〜530℃の範囲の温度に90〜240分保持することにより行う。また、前記窒化処理は、ガス窒化、ガス軟窒化、塩浴窒化等の方法により行う。
【0028】
そして、前記時効・窒化処理により所定の硬度とされた複数のリング4を相互に積層することにより、無段変速機の動力伝達ベルトとして好適な無端状金属ベルト(図示せず)を形成する。
【0029】
前記ドラム2では、マルエージング鋼の薄板1の端部同士を溶接するときに、該溶接の熱による時効硬化のために、図3に示すように、溶接の中心2aから両側に1mm前後の部分に硬度の高い部分が出現する。そこで、本実施形態では、このようなドラム2を加熱炉3内に収容し、前記条件で第1の溶体化を行うことにより硬度の高い部分が無くなり、図3に示すように、全体の硬度を均質化することができる。
【0030】
ここで、前記マルエージング鋼は、Cが0.03%以下、Siが0.10%以下、Mnが0.10%以下、Pが0.01%以下、Sが0.01%以下の低炭素鋼であり、18〜19%のNi、4.7〜5.2%のMo、0.05〜0.15%のAl、0.50〜0.70%のTi、8.5〜9.5%のCoを含む18%のNi鋼である。前記マルエージング鋼の組成のうち、Ti,Al,Moの3元素は時効析出強化元素であり、該元素が酸化されると、後続の時効処理において均一な時効硬度が得られなくなる。
【0031】
加熱炉3において、前記窒素雰囲気は微量の酸素を含むが、該酸素は前記水素と化合して水を生成する。このとき、前記窒素雰囲気は、雰囲気露点が前記範囲にあるので、前記水の大部分は水蒸気となって系外に排出される。従って、前記マルエージング鋼の組成に含まれる時効析出強化元素であるTi,Al,Moの酸化を抑制することができる。
【0032】
前記Ti,Al等はP型元素であるので、金属組織中で外方に向かって拡散していく性質があり、金属の表面で酸化されやすい。そこで、前記第1の溶体化処理後のドラム2の表面をX線微小分析(EPMA)により解析した。EPMAによれば、Ti濃度の高い部分は赤くなり、Ti濃度の低い部分は黄色くなる。
【0033】
この結果、本実施形態のドラム2では赤い部分は不連続であり、Tiの酸化は、従来の真空炉における溶体化処理を行ったドラムと同程度であることが確認された。
【0034】
前記圧延後のリング4は、前記圧延の結果、金属結晶が潰された圧延組織が形成されている。そこで、本実施形態では、このようなドラム2を加熱炉3内に収容し、前記第1の溶体化と同一条件で第2の溶体化を行うことにより、前記圧延組織の金属結晶の粒子形状を圧延前の状態に復元する。
【0035】
前記第2の溶体化後のリング4は、図4に示すように全体の硬度が均質化されており、金属結晶の粒子形状が圧延前の状態に復元されていることが明らかである。また、図4から、前記第2の溶体化後のリング4の硬度は、前記第1の溶体化処理後のドラム2の硬度と略同等となっており、両方の溶体化を同一条件で行うことにより同等の効果が得られることが明らかである。尚、前記第1の溶体化処理後のドラム2の硬度は図3示のものと同一データであるが、比較のために再掲したものである。
【0036】
本実施形態の製造方法において、リング4に対する第2の溶体化は、該リング4の後で溶接されたドラム2に対する第1の溶体化と独立に行ってもよく、同時に行ってもよい。リング4に対する第2の溶体化と、ドラム2に対する第1の溶体化とを同時に行う場合、リング4は圧延組織を復元するために時間がかかるので、ドラム2に対する第1の溶体化はリング4に対する第2の溶体化と同一の時間で行う。また、加熱炉3に図示しない隔壁を設けて炉内を2区画に分割し、それぞれの区画でリング4に対する第2の溶体化と、ドラム2に対する第1の溶体化とを独立に行うようにしてもよい。
【0037】
本実施形態の製造方法によれば、前記第1の溶体化において、時効析出強化元素の酸化が抑制されているので、前記周長補正されたリングの時効処理を均一に行うことができる。また、前記第2の溶体化において、前記圧延組織の金属結晶の粒子形状が圧延前の状態に復元されているので、窒素が金属組織に浸透しやすく、前記窒化処理を容易に行うことができる。
【0038】
本実施形態では、前記第1の溶体化と第2の溶体化とを同一の加熱炉3を用いて同一条件で行うことにより設備を共通化でき、製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の製造方法の工程図。
【図2】図1示の工程の要部を模式的に示す説明図。
【図3】溶接後のドラムに対して本発明の製造方法に従う溶体化を施す前後の硬度を示すグラフ。
【図4】溶接後のドラムと圧延後のリングとに対して本発明の製造方法に従う溶体化を施した後の硬度を示すグラフ。
【符号の説明】
1…マルエージング鋼、 2…ドラム、 3…加熱炉、 4…リング。
Claims (2)
- マルエージング鋼の薄板の端部同士を溶接してリング状のドラムを形成する工程と、溶接後のドラムに対する第1の溶体化を行う工程と、溶体化されたドラムを所定幅に裁断してリングを形成し、該リングを圧延する工程と、圧延されたリングに対する第2の溶体化を行う工程と、体化されたリングを所定の周長に補正したのち時効及び窒化処理する工程と、時効及び窒化処理された複数のリングを相互に積層して無端状金属ベルトを形成する工程とを備える無端状金属ベルトの製造方法において、
前記溶接後のドラムに対する第1の溶体化と、前記圧延後のリングに対する第2の溶体化とを、同一加熱炉を用いて、1〜10%の水素を含み、雰囲気露点−7〜0℃の窒素雰囲気下、前記マルエージング鋼の再結晶温度以上、850℃以下の範囲の温度にて行うことを特徴とする無端状金属ベルトの製造方法。 - 前記圧延後のリングに対する第2の溶体化は、該リングの前工程で溶接して形成されたドラムに対する第1の溶体化と同時に行うと共に、該ドラムに対する第1の溶体化は該リングに対する第2の溶体化と同一の時間で行うことを特徴とする請求項1記載の無端状金属ベルトの製造方法。
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