JP3678542B2 - 耐熱性高ニトリル系重合体組成物の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、荷重たわみ温度等で表される耐熱性の改良された高ニトリル系重合体組成物の製造方法に関する。詳しくは、乳化重合時に析出する重合体組成物の量を低位に制御すると共に、黄色度や曇り度等で表される表面外観に優れた成形品を与える耐熱性高ニトリル系重合体組成物の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ゴム変性高ニトリル系重合体組成物は、高ニトリル系重合体組成物が本来有する優れたガスバリアー性、耐薬品性、薬効成分や臭気の非吸着性等に耐衝撃性を付与した熱可塑性重合体組成物であり、食品、農医薬品、化粧品等の分野における包装材料、容器材料等として使用されている。
かかる高ニトリル系重合体組成物の代表例として、特公昭46−25005号公報には、共役ジエン系ゴムの存在下で不飽和ニトリル及びアクリル酸エステルをグラフト共重合させる高ニトリル系重合体組成物の製造方法が開示されている。かかる重合体組成物は、ガスバリアー性、耐衝撃性に優れ、公知の成形方法により任意の包装容器材料に成形できるが、荷重たわみ温度等で表される耐熱性が低いために用途が限定されていた。
【0003】
熱可塑性重合体組成物の耐熱性を向上させる方法としては、マレイミド系単量体等を共重合により導入する方法が知られている。例えば、特公昭45−14549号公報には、アクリロニトリル、N−アリール置換マレイミド及びオレフィン系不飽和炭化水素を乳化共重合させる高ニトリル系重合体組成物の製造方法が開示され、共重合に際し、これら単量体の混合物が最初に一括して重合系に添加される方法が例示されている。
【0004】
また、特開昭60−79019号公報には、不飽和ニトリル系単量体、マレイミド系単量体及びスチレン系単量体を懸濁共重合させる重合体組成物の製造方法が開示され、共重合に際し、これら単量体の混合物が最初に一括して重合系に添加される高ニトリル系重合体組成物の製造方法が例示されている。
【0005】
しかし、これらの方法は、ゴムの存在下でのグラフト共重合を採用していないため、得られる重合体組成物の耐衝撃性が劣っている。また、マレイミド系単量体及び不飽和ニトリル系単量体のどちらとも共重合性の良いオレフィン系不飽和炭化水素やスチレン系単量体が、最初に一括して重合系に添加されるため、これらが反応の比較的前半で重合反応により消費され尽くしてしまい、得られる重合体組成物に大きな組成分布が生じ、耐熱性、透明性等の改良が不十分である。また、前半の重合速度が大きいため、粒状に析出する重合体組成物の量が多く、生成したラテックスの送液や塩析による重合体組成物の回収等の後処理工程で、詰まり等のトラブルを引き起こしたり、重合による生成物がラテックスとスラリーの混合物で得られたりするという問題点があった。
【0006】
一方、重合反応中に重合体組成物が析出する量を抑制するために、使用する乳化剤量を増やし過ぎると、生成したラテックスは安定化するものの、重合反応終了後、塩析により重合体組成物を回収することが困難になるという問題点があり、且つ、得られた重合体組成物の黄色度、曇り度、耐衝撃性等が低下する問題点があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記問題を解決し、耐熱性の改良された高ニトリル系重合体組成物の製造方法を提供することにある。詳しくは、耐熱性を向上させる成分としてマレイミド系単量体を共重合により重合体組成物中に導入する、耐熱性高ニトリル系重合体組成物の製造方法であって、得られる重合体組成物の黄色度、曇り度、耐衝撃性等を高位に維持し、且つ重合時に析出する重合体組成物の量を抑制し得る耐熱性高ニトリル系重合体組成物の製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意研究した結果、共役ジエン系合成ゴムの存在下で、特定量の不飽和ニトリル系単量体、マレイミド系単量体、芳香族ビニル系単量体及びこれらと共重合可能な単量体を含む単量体混合物を乳化グラフト共重合するに際し、先ず、初期添加単量体として特定組成の単量体混合物の特定量、特定の乳化剤の特定量、及び重合開始剤を反応系に添加して重合反応を開始し、その後、後添加する残部の各単量体及び特定の乳化剤の特定量を継続的に重合系内に添加することにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明に到った。
【0009】
即ち、本発明は、共役ジエン単量体単位50重量%以上を含む共役ジエン系合成ゴム1〜40重量部の存在下に、不飽和ニトリル系単量体(A)50〜80重量%、マレイミド系単量体(B)5〜25重量%、芳香族ビニル系単量体(C)5〜25重量%(但し、(B)≦(C))、及び、単量体(A)、(B)及び(C)と共重合可能な単量体(D)0〜10重量%を含む単量体混合物100重量部を乳化グラフト共重合して得られる耐熱性高ニトリル系重合体組成物の製造方法であって、
(1)先ず、初期添加単量体として単量体(A)90〜100重量%、単量体(D)0〜10重量%を含む単量体混合物15〜35重量部、及び乳化剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩0.2〜0.8重量部を添加した後、重合開始剤を反応系に添加して重合反応を開始し、(2)次いで、後添加単量体として残部の単量体65〜85重量部、後添加乳化剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩0.8〜3.2重量部を反応系に継続的に添加することを特徴とする耐熱性高ニトリル系重合体組成物の製造方法である。
【0010】
本発明の好ましい態様は、乳化剤として、一般式(1)〔化2〕
【0011】
【化2】
で表されるアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩系化合物を用いることである。
【0012】
本発明の特徴は、共役ジエン系合成ゴムへのグラフト用単量体として、特定量の不飽和ニトリル系単量体、マレイミド系単量体、芳香族ビニル系単量体及び必要に応じてこれらと共重合可能な単量体を含む単量体混合物を用い、先ず、初期添加単量体として特定組成の単量体混合物の特定量、特定の乳化剤の特定量及び重合開始剤を反応系に添加して重合反応を開始し、次いで、後添加する残部の各単量体及び特定の乳化剤の特定量を重合系へ継続的に添加して乳化グラフト重合を行うに際し、
(1)単量体(A)及び(D)に比べて重合速度の大きい単量体(B)及び(C)を初期添加単量体としては使用せず、後添加単量体として継続的に添加し、且つ、(2)使用する乳化剤の特定量を重合開始前に添加し、特定量を重合開始後に継続的に添加することにある。
【0013】
かかる方法によってゴム変性高ニトリル系重合体組成物を製造することにより、ゴム変性高ニトリル系重合体組成物の特性を維持し、耐熱性を付与し、そして、黄色度、曇り度、耐衝撃性等を高位に維持した耐熱性高ニトリル系重合体組成物が得られ、且つ重合時に析出する重合体組成物の量を抑制し得るものである。
【0014】
具体的には、得られる高ニトリル系重合体組成物は、酸素透過係数が1×10-13〜5×10-12cm3(STP)・cm/cm2・sec・cmHg、アイゾッド衝撃強度が2〜20kg・cm/cm、且つ、荷重たわみ温度が90〜125℃、成形物の黄色度が60〜90、曇り度が5〜20%の特性を有している。上記重合体組成物は射出成形、押出成形にも使用できるが、特に、ブロー成形によるボトル等の製造に適している。また、重合時に析出する重合体組成物の量を0.2重量%以下程度に抑制することができる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の製造方法は、特定の組成を有する共役ジエン系合成ゴムの存在下、特定量の不飽和ニトリル系単量体、マレイミド系単量体、芳香族ビニル系単量体及び必要に応じてこれらと共重合可能な単量体の各単量体、及び、特定の乳化剤を特定の方法で重合系に添加して乳化グラフト共重合する、耐熱性高ニトリル系重合体組成物の製造方法である。
【0016】
重合体生成物はラテックス状で得られるので、従来公知の方法、例えば、電解質または溶媒による凝集法、または凍結法等により重合体を凝固、分離、水洗の後、乾燥して重合体を得る方法が挙げられる。
【0017】
本発明に用いる共役ジエン系合成ゴムは、共役ジエン系単量体50重量%以上を含むものである。好ましくは共役ジエン系単量体50重量%以上、及びこれと共重合性の単量体、例えば、不飽和ニトリル、芳香族ビニル化合物、不飽和カルボン酸エステル等から選ばれた少なくとも一種の単量体との共重合体である。
【0018】
共役ジエン単量体としては、1,3−ブタジエンの他、イソプレン、クロロプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジエチル−1,3−ブタジエン等が例示される。入手の容易さや重合性が良い等の観点から、1,3−ブタジエン、イソプレンが好ましい。
【0019】
共役ジエンと共重合する不飽和ニトリルとしては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等が挙げられ、好ましくはアクリロニトリル、メタクリロニトリルである。
又、共役ジエンと共重合する芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレンやビニルトルエン類、ビニルキシレン類等が挙げられ、好ましいものはスチレンである。
共役ジエンと共重合する不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸又はメタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、ブチル等のアルキルエステルを挙げることができ、好ましいものはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルである。
【0020】
具体的には、共役ジエン系合成ゴムとしては、1,3−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、1,3−ブタジエン−アクリロニトリル及びメタクリロニトリル共重合体、1,3−ブタジエン−アクリロニトリル及びスチレン共重合体、1,3−ブタジエン−スチレン共重合体が好ましく挙げられる。より好ましくは1,3−ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、1,3−ブタジエン−スチレン共重合体である。
【0021】
これらの共役ジエン系合成ゴムに含まれる共役ジエンの量は、得られるゴム変性耐熱性高ニトリル系重合体組成物の耐衝撃性に関係する。かかる点を考慮すると、共役ジエンを50重量%以上含むことが好ましい。さらに好ましくは60〜90重量%である。
【0022】
また、耐熱性高ニトリル系重合体組成物全体に占める共役ジエン系合成ゴム量は、耐衝撃性、成形加工性に影響を及ぼす。共役ジエン系合成ゴムの量が少ないと耐衝撃性が低下し、逆に多いと成形加工性が低下する。かかる点を考慮すると、耐熱性高ニトリル系重合体組成物全体に占める共役ジエン系合成ゴムの量は、1〜40重量%であることが好ましい。さらに好ましくは、5〜30重量%である。本発明の具体的な製造方法は、共役ジエン系合成ゴム1〜40重量部の存在下で後述するグラフト単量体混合物100重量部を共重合する。
【0023】
共役ジエン系合成ゴムは、公知の方法によって製造できるが、乳化重合法が好適である。また、重合温度には特に制限はないが、重合速度、生産性等を考慮すると、40〜70℃の温度範囲が好ましい。
【0024】
本発明では、グラフト単量体として、特定量の不飽和ニトリル系単量体、マレイミド系単量体、芳香族ビニル系単量体及び必要に応じてこれらと共重合可能な単量体を含む単量体混合物が用いられる。
【0025】
グラフト単量体として用いる不飽和ニトリル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロロアクリロニトリル等が挙げられ、好ましくはアクリロニトリル、メタクリロニトリルである。ゴム変性高ニトリル系重合体組成物の特性は、ゴム成分を除く重合体部分(マトリックス部)に含まれる不飽和ニトリルの量に影響される。即ち、不飽和ニトリルの量が少ないと、耐薬品性、ガスバリアー性等の特性が低下する。逆に多過ぎると、成形加工性、耐衝撃性が低下する他、成形物が黄色に変色して黄色度が増加し、色調等が低下する。かかる点を考慮すると、グラフト単量体混合物中に50〜80重量%の不飽和ニトリルを含むことが好ましい。
【0026】
グラフト単量体として用いるマレイミド系単量体は、下記一般式(2)〔化3〕
【0027】
【化3】
(式中、R1、R2及びR3は各々独立に水素、ハロゲン、炭素数1〜20の置換または非置換アルキル基、アリール基を示す)で表される化合物である。
【0028】
マレイミド系単量体の例としては、マレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、N−o−メチルフェニルマレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−ブチルマレイミド等のN−置換マレイミドが挙げられ、好ましくはN−フェニルマレイミド及びN−シクロヘキシルマレイミドである。
マレイミド系単量体の使用量は、5〜25重量%が好ましい。更に好ましくは5〜20重量%である。25重量%を超えると、重合時に析出する重合体組成物の量が多くなる他、得られる重合体組成物のメルトインデックスが低下して加工性が悪くなり、着色が濃くなる。また、5重量%未満であると耐熱性の向上度が低下する。
【0029】
グラフト単量体として用いる芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン類、ビニルキシレン類等が挙げられ、好ましくはスチレン、α−メチルスチレンである。芳香族ビニル系単量体の使用量は、得られる耐熱性高ニトリル系重合体組成物の耐熱性、ガスバリアー性、重合時に析出する重合体組成物の量等に影響を及ぼす。
【0030】
これは、不飽和ニトリル系単量体とマレイミド系単量体の共重合性が悪く、これら両単量体のどちらとも共重合性が良い芳香族ビニル系単量体が介在する形で重合が進行するため、芳香族ビニル系単量体の量が少ないと、マレイミド系単量体の転化率が十分に上がらず、耐熱性向上効果が不十分で残留濃度が高くなる。逆に多過ぎると、相対的に不飽和ニトリル系単量体の量が低下するため、ガスバリアー性等の特性が低下する他、重合速度が増大してラテックスが不安定になり易く、析出する重合体組成物の量が増加する。かかる点を考慮すると、グラフト単量体混合物中に5〜25重量%、好ましくは10〜25重量%であって、且つ、マレイミド系単量体と同量またはそれ以上の芳香族ビニル系単量体を含むことが好ましい。
【0031】
得られるグラフト共重合体の内部可塑化を促進するため、必要に応じて不飽和ニトリル系単量体、マレイミド系単量体及び芳香族ビニル系単量体と共重合可能な単量体を使用してもよいが、その場合の単量体としては、不飽和カルボン酸エステル、α−オレフィン、ビニルエステル、ビニルエーテル等が挙げられ、特に、不飽和カルボン酸エステル、ビニルエステルが好ましい。
【0032】
不飽和カルボン酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル類、アクリル酸ブチル類、アクリル酸アミル類、アクリル酸ヘキシル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル類、メタクリル酸ブチル類、メタクリル酸アミル類、メタクリル酸ヘキシル類、α−クロロアクリル酸メチル、α−クロロアクリル酸エチル等が挙げられる。好ましくはアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチルである。ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル等が挙げられる。好ましくは酢酸ビニルである。
【0033】
α−オレフィンとしては、イソブチレン、2−メチル−1−ブテン、2−メチル−1−ペンテン、2−メチル−1−ヘキセン、2−メチル−1−ヘプテン、2−メチル−1−オクテン、2−エチル−1−ブテン、2−プロピル−1−ペンテン等が挙げられる。好ましくはイソブチレンである。
【0034】
ビニルエーテルとしては、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル類、ブチルビニルエーテル類、メチルイソプロペニルエーテル、エチルイソプロペニルエーテル等が挙げられる。好ましくはメチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル類、ブチルビニルエーテル類である。
【0035】
上記共重合可能な単量体の使用量は、得られる共重合体組成物の成形加工性、耐熱性等に影響を及ぼす。その使用量が多過ぎると、共重合体組成物のガラス転移点が低下し、成形加工性は向上するが耐熱性は低下する。これらの点を考慮すると、上記共重合可能な単量体の使用量は0〜10重量%が好ましい。
【0036】
本発明に用いる、乳化剤としては、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩等の1分子内に2個のスルホン酸塩部分を有するものである。これらは、重合時に析出する重合体組成物の量を低減する点で好ましい。アルキル基としては、炭素数が9〜18であるものが好ましい。分子内のジスルホン酸塩としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩等が挙げられる。特に好ましくは、一般式(1)〔化4〕
【0037】
【化4】
で表される化合物である。
【0038】
乳化剤の使用量は、重合時に析出する重合体組成物の量や、得られる共重合体組成物の耐衝撃性、黄色度、曇り度等に影響を及ぼす。その使用量が多過ぎると、塩析による生成ラテックスからの重合体組成物の回収が難しくなる他、重合体組成物中に乳化剤が残留し易くなって、成形品の黄色度及び曇り度が増加し、表面外観が低下する他、耐衝撃性が低下する。逆に少な過ぎると、重合時に析出する重合体組成物の量が増加する。これらの点を考慮すると、乳化剤の使用量は共重合させる単量体混合物の総量の1〜4重量%が好ましい。
【0039】
本発明においては、グラフト共重合は、重合反応系に重合開始剤が添加された時点を以て重合開始時とする。本発明に用いる重合開始剤には特に制限はなく、公知のラジカル重合開始剤が用いられる。例えば、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウリル等の有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸化合物、過酸化水素等が挙げられる。過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素が好ましい。重合開始剤の添加量は、グラフト単量体混合物に対して0.02〜0.2重量%が好ましい。
【0040】
本発明の耐熱性高ニトリル系重合体組成物は、共役ジエン系合成ゴムの存在下で、上記組成の単量体混合物をグラフト共重合することにより得られるゴム変性高ニトリル系重合体組成物であるが、重合時に析出する重合体組成物の量を低位に制御し、且つ、表面外観に優れた成形品を与える重合体組成物を得るために、上記各単量体及び乳化剤を特定の方法により重合系に添加する。
【0041】
本発明に用いる分子量調節剤には特に制限はなく、公知の連鎖移動剤が用いられ、アルキルメルカプタン類、例えば、n−ドデシルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルチオールアセタート、ペンタエリスリトールテトラキス(β−メルカプトプロピオネート)、リモネンジメルカプタン等が挙げられる。これらの内、好ましくはメルカプタン臭が実質的にないという点から分子内に2個以上のメルカプト基を含む有機メルカプト化合物、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(β−メルカプトプロピオネート)、リモネンジメルカプタンが好ましく挙げられる。分子量調節剤の添加量は、共重合させる単量体混合物の総量の0.1〜10重量%が好ましい。
【0042】
重合時に析出する重合体組成物量の制御は、単量体混合物の組成や共役ジエン系合成ゴムの量等により詳細は異なるが、上記各単量体と乳化剤の重合系への添加方法により行う。これらの重合系への添加方法としては、一括添加、継続的添加、逐次添加またはこれらを併用する方法が例示できる。各単量体と乳化剤は、各々を初期添加分と後添加分とに分ける。
【0043】
初期添加分とは、重合開始剤を重合反応系に添加する前に一括添加または継続的添加により重合反応系に添加する単量体及び乳化剤を意味し、後添加分とは、最終的に使用する各添加総量から初期添加分を差し引いた量であり、重合開始剤を重合反応系に添加した後に重合反応系に添加する単量体及び乳化剤を意味する。後添加を行う単量体と乳化剤は、重合開始剤の添加終了後、継続的に重合系に添加される。
【0044】
初期添加単量体の添加は、次の方法で行う。即ち、不飽和ニトリル系単量体(以下、単量体(A)という)90〜100重量%、単量体(A)、マレイミド系単量体(以下、単量体(B)という)及び芳香族ビニル系単量体(以下、単量体(C)という)と共重合可能な単量体(以下、単量体(D)という)0〜10重量%を含む単量体混合物15〜35重量部を反応系に添加する。主要原料である単量体(A)が90重量%未満である場合は、使用量の少ない単量体(D)が反応する割合が相対的に高くなり、得られる重合体に大きな組成分布が生じるので好ましくない。また、単量体混合物の初期添加量が15重量部未満である場合は、その分反応量が少なく効率的でないので好ましくなく、35重量部を超える場合は、反応速度が速く分子量の調節が困難になる他、重合体組成物が多量に析出し、反応機等へ付着していわゆるスケールとなるので好ましくない。
【0045】
初期添加乳化剤は、乳化剤0.2〜0.8重量部を重合開始剤の添加前に反応系に添加する。0.2重量部未満の場合は、重合時に析出する重合体組成物の量が多くなるので好ましくなく、0.8重量部を超える場合は得られる重合体組成物の耐衝撃性が低下するので好ましくない。
後添加する残部の単量体混合物65〜85重量部、乳化剤0.8〜3.2重量部及び分子量調節剤については、重合開始剤の添加終了後、重合系への継続的添加を開始する。
【0046】
継続的添加の開始及び終了の方法は唯一つではないが、グラフト単量体混合物の総転化率(以下、単に転化率という)を基準に好ましい方法を示すことができる。転化率とは、単量体混合物の添加方法及び添加時期(初期添加または後添加)に関係なく、最終的に重合系に添加されるグラフト単量体混合物の総量を基準とした転化率を意味する。後添加する乳化剤については、転化率0〜10重量%に到った時点で継続的添加を開始することが好ましく、転化率60〜80重量%に到った時点で終了することが好ましい。添加開始時期が転化率10重量%を超えた場合、及び添加終了時期が60重量%未満までの場合は、いずれも重合時に析出する重合体組成物の量が多くなり、反応機等への付着が多くなるので好ましくない。
【0047】
後添加乳化剤の使用量は、0.8〜3.2重量部が好ましい。0.8重量部未満の場合は析出する重合体組成物の量が多くなるので好ましくなく、3.2重量部を超える場合は、塩析による重合体組成物の回収が困難になる他、得られる重合体組成物の黄色度や曇り度が高くなり、成形品の表面外観が悪化するので好ましくない。
【0048】
後添加する残部の単量体混合物65〜85重量部及び分子量調節剤については、重合開始剤の添加終了後、転化率が0〜5重量%、より好ましくは1〜5重量%に到った時点で重合系への継続的添加を開始することが好ましい。これらの添加開始時期が転化率5重量%を超えた場合は、得られる重合体に大きな組成分布が生じる他、分子量分布が広くなり、成形加工に際しダイスウェルが大きくなって成形性に問題が生じたり、耐衝撃性が低下したりするので好ましくない。
【0049】
単量体(A)及び(D)の継続的添加は、転化率が70〜80重量%に到った時点で終了することが好ましい。70重量%未満で終了する場合は、その時点までの重合系への添加速度が過大となり、乳化安定性が悪化して析出する重合体組成物の量が多くなり、反応機等への付着が多くなるので好ましくない。通常、最終転化率が約90重量%程度でグラフト重合を終了するため、転化率が80重量%に到るまでに添加を終了して重合させることが好ましく、転化率が80重量%を超える時点までの添加の場合は、いたずらに重合時間が長くなるので好ましくない。
【0050】
単量体(B)の継続的添加は、転化率が30〜80重量%に到った時点で終了することが好ましい。30重量%未満で終了する場合は、その時点までの重合系への添加速度が過大となり、乳化安定性が悪化して析出する重合体組成物の量が多くなり、反応機等への付着が多くなるので好ましくない。80重量%を超える時点まで添加を継続する場合は、反応系に未反応のまま残存する単量体(B)が増え、得られる重合体組成物の耐熱性の向上度が低下する他、単量体(B)の残留濃度が高くなるので好ましくない。なお、固体のマレイミド系単量体は、液体の他単量体に溶解して重合系に添加する方法が好ましい。
【0051】
単量体(C)の継続的添加は、転化率が80〜90重量%に到った時点で終了することが好ましい。80重量%未満で終了する場合は、単量体(B)の一部が反応系に未反応のまま残存し、得られる重合体組成物の耐熱性の向上度が低下する他、単量体(B)の残留濃度が高くなるので好ましくない。
【0052】
分子量調節剤の継続的添加は、転化率が80〜90重量%に到った時点で終了することが好ましい。80重量%未満で終了する場合は、得られる重合体組成物中における単量体(B)の残留濃度が高くなるので好ましくない。更に、80重量%を大きく下回る時点で終了する場合は、それ以降に高分子量の重合体が多量に生成して分子量分布が広くなり、ダイスウェルが大きくなって成形性に問題が生じるので好ましくない。
【0053】
本発明の方法において、継続的に添加するとは、単量体や乳化剤等の添加を開始してから終了するまでの間、連続的または間欠的に所定量の単量体や乳化剤を添加し続けることを意味するが、間欠的添加の場合はその間隔が15分間程度であれば継続的添加に包含する。連続的添加の好ましい方法として、遠心ポンプ、プランジャーポンプ等を用いる添加方法が挙げられる。これらの方法において、単位時間当たりの添加量が少ない場合、ポンプの脈動等により不連続で添加される状態であっても差支えない。また、後添加する各単量体や乳化剤及び分子量調節剤は、一定の速度で添加しても良いが、添加速度を変化させても良い。
【0054】
具体的重合方法は後述の実施例で説明するが、グラフト重合の温度には特に制限はなく、0〜100℃の任意の温度において実施できる。重合速度、重合終了時の転化率、生産性等を考慮すると、50〜70℃の温度範囲が好ましい。
【0055】
乳化重合に使用する分散剤、分子量調節剤の効果を高めるために添加する酸類等の種類及び量は公知のものが適用される。その他、可塑剤、安定剤、潤滑剤、染料及び顔料、充填剤等を必要に応じて重合後に反応系に添加することも可能である。
【0056】
乳化重合により得られたラテックスから重合体組成物を回収する方法としては、電解質物質、有機溶媒等の凝固剤を用いる凝集法、または凍結法等によって重合体を凝固し、分離、水洗した後、乾燥する方法、得られたラテックスを直接乾燥雰囲気中に噴霧する噴霧乾燥方法等が例示できる。消費熱量等を考慮すると前者の方法が好ましい。
【0057】
凝固剤を用いる凝集法により分離する方法として、固形分相当の重合体組成物100重量部に対し1〜10重量部の凝固剤を添加する方法が挙げられる。この際、凝固後の重合体組成物の形状等を考慮すると、ラテックスは予め30〜70℃に加温しておくことが好ましい。凝固剤としては、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム等が挙げられ、硫酸アルミニウムが好ましい。
【0058】
ラテックスから分離された重合体組成物は、その1〜20重量倍の水で洗浄することが好ましい。洗浄水の温度は5〜90℃程度、洗浄時間は10分間〜2時間程度でよい。分離された重合体組成物はその後、乾燥される。乾燥方法としては、特に制限はないが、流動乾燥機等を用いて50〜100℃の雰囲気中に5〜30分間滞留させる方法が挙げられる。
【0059】
上記方法により製造される重合体組成物は、既知の熱可塑性重合体材料を使用する従来の成形法、例えば押出成形、射出成形、ブロー成形等により容易に熱成形し得る熱可塑性重合体組成物であり、高ニトリル系重合体が本来有する酸素、窒素、二酸化炭素、フロン等のガス、ガソリン等の蒸気に対する高いバリアー性及び各種有機溶媒、酸、塩基等に対する優れた耐薬品性を備えているのみならず、耐熱性と表面外観に優れた成形品を与える。また、上記製造方法は、重合時に析出する重合体組成物の量を抑制し、後処理工程での配管詰まり等を防止できる極めて実用価値の高い重合体組成物の製造方法である。
【0060】
【実施例】
以下、重合体組成物に関しては実施例及び比較例を示して、本発明について更に詳細を説明する。本発明はこれらにより限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」はいずれも重量基準を意味する。また、実施例及び比較例中に示した重合体組成物について、重合時の転化率、析出した重合体組成物の生成割合、重合体組成物の荷重たわみ温度、アイゾッド衝撃強度、メルトインデックス、黄色度、曇り度及び酸素透過係数は、下記の方法によって測定した。
【0061】
(1)転化率(重量%)
重合系に最終的に添加されるグラフト重合用各単量体の総量に対する、所定の時点または重合終了時点までにグラフト重合により生成した重合体の累計量の割合(重量%)で示す。重合系に存在する各単量体の合計量は、当該時点における重合液をガスクロマトグラフ(島津製作所製、型式:GC−9A及びGC−14A)により分析して求め、その時点までに添加した各単量体の合計量とから総転化率を算出する。
【0062】
(2)重合時に析出した重合体組成物の生成割合〔%〕
重合反応終了後、ラテックスを100メッシュのステンレス繊金網でろ過して析出物を回収し、乾燥後に重量を測定した。重合終了時の転化率から重合体組成物の理論収量を求め、その重量に対する析出物の重量を百分率で表し、生成割合とした。
【0063】
(3)ペレット化
得られた重合体組成物を50mmφ単軸押出機を用い、成形温度200℃で溶融、混練してペレット化した。
【0064】
(4)荷重たわみ温度〔℃〕
(3)項で得られたペレットを180℃においてロール混練した後、180℃で4分間加圧成形して得た厚み3mmのシートより試験片を調製する。該試験片について、荷重たわみ温度については、JIS K−7207(B)法に規定される方法に従い、4.6kg/cm2荷重で、荷重たわみ温度(HDT)測定器〔(株)東洋精機製作所製〕を用いて測定する。
【0065】
(5)アイゾッド衝撃強度〔kg・cm/cm〕
ASTM D−256(ノッチ付)に規定される方法に従い、23℃においてアイゾッド衝撃試験機〔(株)東洋精機製作所製、秤量:20kgf−cm〕を用いて測定し、摩擦損失を見込まない計算式で算出する。試験片は前項と同様にして調製する。
【0066】
(6)メルトインデックス〔g/10min〕
メルトインデックスについては、ASTM D−1238に規定される方法に従い、200℃、12.5kg/cm2荷重においてメルトインデクサー〔(株)東洋精機製作所製、型式:S−111〕を用いて測定する。
【0067】
(7)黄色度
試験片は(2)項と同様にして調製し、これをJIS K−7103に規定される方法に従い、SMカラーコンピューター〔スガ試験機(株)製、型式:SM−3〕を用いて測定する。
【0068】
(8)曇り度〔%〕
試験片は(2)項と同様にして調製し、これをJIS K−6714,6717及びASTM D−1003に規定される方法に従い、ヘイズメーター〔日本電色工業(株)製、型式:300A〕を用いて測定する。
【0069】
(9)酸素透過係数〔cm3(STP)・cm/cm2・sec・cmHg〕
(3)項で得られたペレットをT型フラットダイを装着した30mmφ単軸押出機を用いて成形温度210℃で製膜し、厚さ30μmのフィルムを調製する。該フィルムについてJIS K−7126(A)法(差圧法)に規定される方法に従い、23℃、0%RHで気体透過率測定装置〔理化精機工業(株)製、型式:K−315−N−03〕を用いて酸素透過率を測定し、酸素透過係数を算出する。STPは標準状態、即ち0℃,1気圧を示す。
【0070】
実施例1〜12、及び比較例1〜13
(i)共役ジエン系合成ゴムラテックスの製造
ステンレス製重合反応器にアクリロニトリル30部、1,3−ブタジエン70部、脂肪酸石ケン2.4部、アゾビスイソブチロニトリル 0.3部、t−ドデシルメルカプタン0.5部及び水200部を装入して、窒素雰囲気下において、攪拌下、45℃で20時間重合反応を行い、転化率90%で重合を終了した。未反応の単量体を減圧ストリッピングにより除き、固形分濃度約30%の共役ジエン系合成ゴムラテックスを得た。また、ラテックスより固形分を回収し、乾燥後、元素分析によりゴム中の1,3−ブタジエン及びアクリロニトリル単位の含有量を求めたところ、1,3−ブタジエン単位が71%、アクリロニトリル単位が29%であった。
【0071】
(ii)グラフト重合体の製造
ステンレス製重合反応器に共役ジエン系合成ゴム(上記(i)のラテックス(固形分量))及び初期添加乳化剤の〔表1〕〜〔表4〕に示す量、ポリビニルピロリドン0.14部、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.18部、及び、水150部を仕込み、さらに、初期添加単量体を〔表1〕〜〔表4〕に示す量仕込み、攪拌下、窒素雰囲気下で58℃に昇温した。その後、重合開始剤として過硫酸カリウム0.10部を添加して重合を開始し、ポリビニルピロリドン0.54部、ヘキサメタリン酸ナトリウム0.18部、水85部と共に後添加乳化剤を〔表1〕〜〔表4〕に示す方法(量及び時間)で継続的に添加した。後添加する各単量体及び分子量調節剤を重合開始時より起算して30分後から〔表1〕〜〔表4〕に示す時間まで継続的に添加し、重合開始から9時間後に反応を停止した。この間、重合開始時より起算して30分後から6時間後まではリン酸も継続的に添加して、重合系のpHを約3〜4に保って重合を行った。
得られたラテックスを30〜70℃に加温し、ラテックスに含まれる重合体100重量部に対し、硫酸アルミニウム3.7重量部を添加、混合して重合体組成物を凝集させ分離した。得られた重合体組成物を10重量倍の水を用いて80℃において100分間洗浄した。次いで、濾別し、流動乾燥機を用いて100℃において10分間乾燥して粉粒体状の重合体組成物を得た。主要な重合条件を〔表1〕〜〔表4〕に示す。また、得られた重合体組成物の特性を上記方法により測定し、その結果を〔表5〕〜〔表8〕に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
【表4】
【0076】
【表5】
【0077】
【表6】
【0078】
【表7】
【0079】
【表8】
【0080】
〔表の簡単な説明〕
〔表1〕〜〔表4〕に記載した、乳化剤及び単量体等の添加開始時間及び終了時間は、重合開始時点(重合開始剤の添加を開始した時点)からの経過時間を示す。〔表5〕〜〔表8〕は、それぞれ実施例、比較例で得られた各重合体組成物に関し、グラフト重合用単量体総添加組成、共役ジエン系合成ゴムの添加量、重合時に析出する重合体組成物の生成割合、荷重たわみ温度(以下、HDTという)、アイゾッド衝撃強度(Izod値)、メルトインデックス(以下、MI値という)、黄色度(YI値)、曇り度(Haze)及び酸素透過係数を示したものである。
なお、各表において、DPESは一般式(1)で表されるドデシルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム系の乳化剤、DOSSはジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ANはアクリロニトリル、NPMIはN−フェニルマレイミド、Stはスチレン、MAはアクリル酸メチル、PEMPは分子量調節剤として用いるペンタエリスリトールテトラキス(βーメルカプトプロピオネート)をそれぞれ表す。
【0081】
〔実施例の考察〕
不飽和ニトリル系単量体50重量%以上を含む単量体混合物を重合して得られる高ニトリル系重合体組成物では、成形温度を上げると色相が黄変して劣化が起こり、高温での成形は好ましくないため、MI値が高いことが好ましく、少なくともMI値が1g/10minを有することが好ましい。また、重合体組成物をブロー成形する等して、例えば、自動車等の内部に配設される容器、部品等、熱充填が可能な包装容器等を製造する場合、耐熱性が高いことが好ましく、HDTで約100℃を有することが好ましい。
【0082】
本発明によれば、ゴム変性高ニトリル系重合体組成物の耐熱性、黄色度及び曇り度等を高位に維持しながら、重合時に析出する重合体組成物の量を低減することができる。すなわち、グラフト用単量体混合物中に、50〜80重量%の不飽和ニトリル系単量体、5〜25重量%のマレイミド系単量体、5〜25重量%であってマレイミド系単量体と同量もしくはそれ以上の芳香族ビニル系単量体、及び必要に応じてこれらと共重合可能な単量体0〜10重量%を含み、各単量体及び乳化剤の添加方法が、本発明の範囲内である実施例1〜12で得られたゴム変性高ニトリル系重合体組成物は、1g/10minのMI値を確保した上で、HDT90〜125℃の耐熱性、2〜20kg・cm/cmのアイゾッド衝撃強度、60〜90の黄色度、5〜20%の曇り度、1×10-13〜5×10-12cm3(STP)・cm/cm2・sec・cmHgの酸素透過係数を有し、しかも、かかる特性を有するゴム変性高ニトリル系重合体組成物のグラフト重合中に、析出する重合体組成物の生成割合を0.2重量%以下の極めて少量に抑制することができる。そのため、収率が良好であるのみならず、ラテックスの送液や塩析等の後処理工程で配管詰まり等を生じることがなく重合から後処理工程に到る全工程における操作が極めて容易である。
【0083】
一方、初期添加単量体の構成が本発明の範囲外、即ち、マレイミド系単量体や芳香族ビニル系単量体を使用している比較例1〜3及び初期添加量が多い比較例4は、重合時に析出する重合体組成物の生成割合が高くなっている。また、乳化剤の量または添加方法が本発明の範囲外、即ち、トータル及び初期添加の乳化剤量が不足している比較例6及び比較例8や、後添加乳化剤の添加開始時期が遅すぎる比較例9、添加終了時期が早すぎる比較例10も、重合時に析出する重合体組成物の生成割合が高くなっている。比較例6は生成物がスラリーで得られている。トータル及び初期添加の乳化剤量が多すぎる比較例5及び比較例7は、アイゾッド衝撃強度が低下しており、比較例5は黄色度や曇り度も劣っている。本発明において好ましい乳化剤である、上記一般式(1)で表される乳化剤を使用せず、他の乳化剤を使用した比較例11〜13では、その乳化剤の使用量が少ないと、析出する重合体組成物の量が著しく多く、乳化剤の量が多いと、黄色度や曇り度が著しく低下している。
【0084】
【発明の効果】
本発明の耐熱性高ニトリル系重合体組成物の製造方法は、ゴム変性高ニトリル系重合体組成物が本来有するガスバリアー性、耐薬品性の特性を維持しつつ、耐熱性及び成形品の表面外観が改良された重合体組成物を与え、且つ、重合時に析出する重合体組成物の量を低位に制御する。
具体的には、重合時に析出する重合体組成物の生成割合が、0.2重量%以下に制御されており、且つ、得られる重合体組成物の荷重たわみ温度が90〜125℃、アイゾッド衝撃強度が2〜20kg・cm/cm、黄色度が60〜90、曇り度が5〜20%、酸素透過係数が1×10-13〜5×10-12cm3(STP)・cm/cm2・sec・cmHgの特性を有している。かかる重合体組成物は、ブロー成形、射出成形、押出成形等の原料として使用できる。特に、ブロー成形による中空成形体の製造に適している。
Claims (6)
- 共役ジエン単量体単位50重量%以上を含む共役ジエン系合成ゴム1〜40重量部の存在下に、不飽和ニトリル系単量体(A)50〜80重量%、マレイミド系単量体(B)5〜25重量%、芳香族ビニル系単量体(C)5〜25重量%(但し、(B)≦(C))、及び、単量体(A)、(B)及び(C)と共重合可能な単量体(D)0〜10重量%を含む単量体混合物100重量部を乳化グラフト共重合して得られる耐熱性高ニトリル系重合体組成物の製造方法であって、
(1)先ず、初期添加単量体として単量体(A)90〜100重量%、単量体(D)0〜10重量%を含む単量体混合物15〜35重量部、及び乳化剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩0.2〜0.8重量部を添加した後、重合開始剤を反応系に添加して重合反応を開始し、(2)次いで、後添加単量体として残部の単量体65〜85重量部、後添加乳化剤としてアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩0.8〜3.2重量部を反応系に継続的に添加することを特徴とする耐熱性高ニトリル系重合体組成物の製造方法。 - アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩が、炭素数9〜18のアルキル基を有するアルキルジフェニルエーテルジスルホン酸のアリカリ金属塩またはアンモニウム塩であることを特徴とする請求項1記載の耐熱性高ニトリル系重合体組成物の製造方法。
- 後添加乳化剤の継続的添加を、グラフト単量体混合物の総転化率が0〜10重量%に到った時点で開始し、総転化率60〜80重量%に到った時点で終了することを特徴とする請求項1記載の耐熱性高ニトリル系重合体組成物の製造方法。
- 生成したラテックスを30〜70℃に加温し、凝固剤を添加して重合体組成物を回収することを特徴とする請求項1記載の耐熱性高ニトリル系重合体組成物の製造方法。
- 凝固剤が、硫酸アルミニウムであることを特徴とする請求項5記載の耐熱性高ニトリル系重合体組成物の製造方法。
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