JP3674259B2 - インボリュート形状の加工方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、スクロールコンプレッサ等に用いられるインボリュート形状部品の加工方法に関し、特に、このインボリュート形状の外壁面および内壁面とこの壁面間に形成される溝部の底面を同時に加工する加工方法に関する。また、この壁面と底面の加工と壁部の上面を連続的に加工する加工方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
インボリュート形状の加工方法として、工作物を回転させると共に、この回転と同期して工具をインボリュート形状の基礎円の接線上を移動させるように制御する方法が知られている。そして、この方法によりインボリュート形状の内壁面と外壁面とを順次加工することが特開昭62−57856に記載されている。
【0003】
この特開昭62−57856に記載された加工方法の一つは、直進運動する移動テーブル上に回転自在なロータリテーブルを設け、工作物をロータリテーブルの中心に固定し、工具の中心がインボリュート形状の基礎円の接線上を移動するように移動テーブルを直進させると共に、ロータリテーブルをその回転角度が移動テーブルの送り量と一定の比例関係となるように回転させることによりインボリュート形状を加工するものであり、外壁面の加工時と内壁面の加工時とで移動テーブルの直進方向を逆転させて往復運動を行い、これと連動してロータリテーブルの回転方向を反転させるものである。また、もう一つの方法は、移動テーブルを外壁面と内壁面の一方の加工のとき一方向に直進させ、一方の加工が終わったときインボリュート形状の中心でエンドミルの中心を移動テーブルの直進方向と直交する方向にインボリュート形状の基礎円の直径分だけシフトさせ、一方の面の加工時と同方向に移動テーブルを直進させると共に、ロータリテーブルを回転方向を一方の面の加工時とは逆転させるものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記の加工方法は、インボリュート形状の外壁面と内壁面の加工を連続して行うものであるが、この外壁面と内壁面との間に形成される螺旋形状の溝部の底面の加工については述べられていない。外壁面および内壁面の加工と底面の加工を別々に行うことは非効率であり、また、壁面の加工時に工具が底面に干渉し、あるいは底面の加工時に工具が壁面に干渉することを防止するためには底面にぬすみを設ける必要があり、この点からも壁面の加工と底面の加工を別々に行うことは効率的ではない。さらに、ぬすみを設けるとこのスクロールラップをスクロールコンプレッサとして用いる際にシール性に問題を生じることもある。
【0005】
そこで、本発明は、インボリュート形状の壁面と底面の加工を同時に行うことを目的としている。さらに詳細には、壁面の加工により生じる加工負荷と底面の加工による生じる加工負荷の影響による加工誤差を極力小さく抑えることができる加工方法を提供するものである。
さらに、上記従来技術のように外壁面と内壁面とを連続的に加工する場合、一方の壁面の加工終了時の工作物の位相と他方の壁面の加工開始時の工作物の位相は形成されるインボリュート形状の壁の厚さに基づいて異なっているので、一方の壁面の加工後、他方の壁面の加工開始に先立って工作物の位相を割出す必要が生じるが、この位相の割出しによるサイクルタイムの増大を防止して効率的な加工を行うことを目的としている。また、この外壁面および内壁面と底面の加工と壁部の上面との連続加工を効率的な工具軌跡とすることによってサイクルタイムを短縮することを目的としている。
【0006】
さらに、一方の壁面の加工の際に生じた切屑が溝部に堆積しており、他方の壁面の加工の際に工具がこの切屑を巻き込み加工精度に悪影響を与える問題がある。本発明の他の目的はこの切屑を除去して加工精度の悪化を防止することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上述した目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、工作物をインボリュート形状の中心を回転軸心として回転させると共に、この回転軸心と平行な軸心を回転軸心として回転され前記インボリュート形状の外壁面と内壁面の間に形成される溝部の溝幅よりも小さくかつ前記溝幅の1/2よりも大きくかつ前記インボリュート形状の壁部の壁厚よりも大きい径を有するエンドミルもしくは砥石を用いて、前記工作物と前記エンドミルもしくは砥石の相対移動により前記外壁面および前記内壁面と前記溝部の底面と前記壁部の上面を加工する方法であって、前記工作物の回転と同期して前記エンドミルもしくは砥石が前記工作物に対して前記インボリュート形状の基礎円の接線上を移動するように前記工作物と前記エンドミルもしくは砥石の相対移動を制御することによって、前記インボリュート形状の外壁面または内壁面のいずれか一方と前記底面を同時に加工する第1のステップを実行し、この第1のステップの実行後に、前記工作物の回転と同期して前記エンドミルもしくは砥石と前記工作物の相対移動を制御することによって、前記壁部の上面を加工する第2のステップを実行し、この第2のステップの実行後に、前記工作物の回転と同期して前記エンドミルもしくは砥石が前記工作物に対して前記インボリュート形状の基礎円の接線上を移動するように前記工作物と前記エンドミルもしくは砥石の相対移動を制御することによって、前記インボリュート形状の外壁面または内壁面の他方と前記底面の前記第1のステップによる削り残し部分を同時に加工する第3のステップを実行するとともに、前記第2のステップの実行中に前記工作物を前記第1のステップの終了時の位相から前記第3のステップの開始時の位相へ回転させることを特徴とするものである。
【0010】
請求項2に記載の発明は、前記第1のステップにおける壁面の加工は外壁面の加工であり、前記第3のステップにおける壁面の加工は内壁面の加工であることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3に記載の発明は、前記インボリュート形状の巻き方向はのの字方向であって、前記第1のステップにおける相対移動は前記エンドミルもしくは砥石が前記工作物の中心から外側へ移動する方向でかつ前記工作物の回転方向は反時計回りであり、前記第2のステップにおける相対移動は前記エンドミルもしくは砥石が前記第1のステップの加工終了点から前記第3のステップの加工開始点への移動する軌跡でかつ前記工作物の回転方向は時計回りであり、前記第3のステップにおける相対移動は前記エンドミルもしくは砥石が前記工作物の外側から中心へ移動する方向でかつ前記工作物の回転方向は時計回りであることを特徴とするものであり、請求項4に記載の発明は、前記インボリュート形状の巻き方向は反のの字方向であって、前記第1のステップにおける相対移動は前記エンドミルもしくは砥石が前記工作物の外側から中心へ移動する方向でかつ前記工作物の回転方向は反時計回りであり、前記第2のステップにおける相対移動は前記エンドミルもしくは砥石が前記第1のステップの加工終了点から前記工作物の外側へ移動し、再び前記工作物の中心方向へ移動して前記第3のステップの加工開始点へ移動する軌跡でかつ前記工作物の回転方向は時計回りであり、前記第3のステップにおける相対移動は前記エンドミルもしくは砥石が前記工作物の中心から外側へ移動する方向でかつ前記工作物の回転方向は時計回りであることを特徴とするものである。
【0012】
さらに、請求項5に記載の発明は、少なくとも前記第2のステップの加工中にクーラントを供給し、前記第1のステップの加工により発生し前記溝部に堆積した切屑を流出させることを特徴とするものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。
図1(a)は加工されるインボリュート形状を有する工作物1の平面図であり、図1(b)はその断面図である。インボリュート形状部2は底板3に一体的に図2において上方に突出して形成されており、本実施の形態における加工方法によって加工されるのは、インボリュート形状部1の外壁面4、内壁面5、これらの壁面の間に形成される溝部6の底面7、そして、インボリュート形状部2の上面8である。
【0014】
図2はインボリュート形状加工用の工作機械を示しており、ベッド10上に固定されたX軸案内台11にはエンコーダ12を有したサーボモータ13により図1の紙面に垂直方向(X軸)に往復移動するテーブル14が設けられている。このテーブル14には主軸台15が固設されており、この主軸台15には工具主軸16が回転駆動可能に支持され、その先端にはエンドミルTが取付けられている。また、主軸台15には加工中に切削箇所にクーラントを供給するためのクーラントノズル17が設けられている。
【0015】
ここで、エンドミルTの径は、次の3つの条件を満たすように定められている。
(1)溝部6の溝幅hよりも小さい。
(2)溝部6の溝幅hの1/2よりも大きい。
(3)インボリュート形状の壁部の壁厚tよりも大きい。
【0016】
すなわち、(1)は一方の壁面の加工中に隣接する他の壁面にエンドミルTが干渉しないための条件であり、(2)は外壁面4の加工時と内壁面5の加工時との2回のパスで底部7が加工されるための条件であり、(3)は上面8を1回のパスで加工するための条件である。
工具主軸16の前面のベッド10上にはZ軸案内台18が固設されており、Z軸案内台18にはエンコーダ19を有したサーボモータ20により図1の左右方向(Z軸)に往復移動するコラム21が設けられている。コラム21にはエンコーダ22を有するサーボモータ23により図1の上下方向(Y軸)に往復動する工作物主軸台24が設けられており、工作物主軸台24には図略のサーボモータによるZ軸と平行な軸線回り(C軸)に回転駆動される工作物主軸25が設けられている。この工作物主軸25には工作物1を着脱可能に保持するチャック26が固設されている。
【0017】
ここで、インボリュート形状の外壁面4および内壁面5と底面7の加工時の切削抵抗(加工負荷)について考える。
図3および図4は工作物1とエンドミルTとの位置関係を示す図であり、図3(a)は外壁面4の加工時の平面図、図3(b)は内壁面5の加工時の平面図、図4(a)は壁面と底面7との同時加工において外壁面4と内壁面5のいずれか一方を最初に加工する際の断面図、図4(b)は壁面と底面7との同時加工において外壁面4と内壁面5の他方を後から加工する際の断面図をそれぞれ示している。
【0018】
図3から明らかなように、切り込み量cが一定の場合、インボリュート形状部2は所定の曲率を有するので、エンドミルTが工作物1と接触する接触弧の長さは、内壁面45加工時iの方が外壁面4の加工時oよりも長い。したがって、インボリュート形状の壁面の加工により生じる切削抵抗は外壁面4を加工する時よりも内壁面5を加工する時の方が大きいことがわかる。
【0019】
一方、図4に示すように、底面7の加工をみると、外壁面4または内壁面5のいずれか一方を最初に加工する際、すなわち、底面7の1パス目の加工はエンドミルTの全幅fにわたる取代があるのに対して、外壁面4または内壁面5の他方の後から加工する際、すなわち、底面7の2パス目の加工は1パス目の削り残し分sだけの取代しかない。したがって、底面7の加工により生じる切削抵抗は1パス目の加工時の方が2パス目の加工時よりも大きいことがわかる。
【0020】
したがって、壁面の切削抵抗の比較的小さい外壁面の加工〔図3(a)〕と、底面の切削抵抗の比較的大きい1パス目の底面の加工〔図4(a)〕とを組み合わせ、壁面の切削抵抗の比較的大きい内壁面の加工〔図3(b)〕と、底面の切削抵抗の比較的小さい2パス目の低面の加工〔図4(b)〕を組み合わせれば、全体の切削抵抗(壁面の切削抵抗と底面の切削抵抗の和)は均等化される訳である。
【0021】
つまり、外壁面を先に加工することによって、外壁面の加工時と内壁面の加工時とで切削抵抗の差が小さくなり、加工精度が均一化される。これが、逆に内壁面を先に加工すると、内壁面の加工時の切削抵抗が外壁面の加工時の切削抵抗に比して非常に大きくなるので、内壁面の加工時に所望の加工精度を得られない、あるいは所望の加工精度を得るためには切削速度を落とす等の加工条件の変更が必要であり、サイクルタイムが増大するといった悪影響を及ぼすこととなるのである。
【0022】
次に、インボリュート形状の加工原理について考えると、特開昭62−57856にも記載されているように、インボリュート形状はその幾何学的性質から、工具をインボユートの基礎円の半径分だけY軸方向へオフセットさせた状態で、工作物の回転と同期して工具と工作物とをX軸方向へ相対移動させることにより加工することができることが知られている。
【0023】
ここで、後述するように図7(a)は外壁面の加工終了時の状態を示すものであり、図10(b)は内壁面の加工開始時の状態を示すものであるが、外壁面の加工終了時における工作物の位相と内壁面の加工開始時の工作物の位相とは異なっている。これは、図11(a)に示される内壁面の加工終了時の状態と図6(a)に示される外壁面の加工開始時の状態とにおいても同様である。この位相ずれは壁面の壁厚tに基づくものであり、逆に言えば、外壁面の加工時と内壁面の加工時とで工作物の位相をずらすことによって厚みを有する壁面を形成することができる(外壁面を定義するインボリュート曲線の基礎円と内壁面を定義するインボリュート曲線の基礎円が同一である場合、位相をずらさなければ外壁面の加工時と内壁面の加工時とで工具は同じ軌跡をたどり、壁面は形成されない)のである。したがって、外壁面および内壁面を連続的に加工するに際しては、外壁面の加工終了後、内壁面の加工に先立って工作物の位相をずらす必要がある。
【0024】
上述した点(切削抵抗および工作物の位相のずれ)を踏まえた上で、本実施の形態におけるインボリュート形状の加工方法について図5から図12に基づいて説明する。
図5は、工作物1とエンドミルTとの相対的な移動の軌跡の概略を示すものであり、図5におけるエンドミルTの各位置(VI、VII、・・・、XII)に対応する工作物1とエンドミルTの関係が、それぞれ図6から図12に示めされている。図6から図12において、(a)は平面図、(b)は(a)の断面図を示している。なお、rはインボリュート形状2を定義するインボリュート曲線の基礎円の半径である。
【0025】
まず、工作物1をチャック26に取付け、工作物1とエンドミルTとが図6(a)および(b)に示すような位置になるように、各サーボモータ13、20、23および工作物主軸25を位置決めする。この工作物1とエンドミルTの相対的な位置関係は、Y軸においてはエンドミルTの中心がインボリュート形状の外壁面4を定義するインボリュート曲線の基礎円の接線l1 上となる位置であり、X軸およびC軸においてはインボリュート曲線の開始位置でエンドミルTを外壁面4に所定量切り込んだ位置であり、Z軸においてはエンドミルTを底面7に所定量切り込んだ位置である。
【0026】
この図5のVIおよび図6に示される状態から、サーボモータ13を制御してエンドミルTがインボリュート曲線の基礎円の接線l1 上を通るように移動させ、このX軸の移動と同期して工作物主軸25を反時計回りに回転させて、外壁面4と底面7を同時加工する。外壁面4の加工が終了した状態が、図5のVIIおよび図7に示される状態である。
【0027】
次に、図5のVIIおよび図7に示される状態から、サーボモータ20を制御して工作物1を後退させ、インボリュート形状2の上面8の加工開始位置を示す図5のVIIIおよび図8に示される状態とする。ここで、図5のVIIおよび図7に示される状態と図5のVIIIおよび図8に示される状態とでは工作物1の位相は同じであるので、もしくは僅かしかずれていないので、工作物主軸25の位相割出しは必要ないか、もしくは必要であっても僅かな量だけ回転させればよく、Z軸の移動の間にC軸の割出しを行うことが可能である。
【0028】
そして、サーボモータ13、23を制御してエンドミルTが工作物1の回転中心へ向かう方向へ移動させると共に、このX軸とY軸の同時2軸制御によるエンドミルTの移動に同期して工作物主軸25を時計回りに回転させることにより、上面8の加工を行う。図5のIXおよび図9は上面8の加工が終了した状態を示している。
【0029】
上面8の加工が終了すると、再び上面8の加工時のX軸とY軸の同時2軸制御を行い、さらにエンドミルTを移動させて、図5のXおよび図10に示す状態とする。この時、工作物主軸25を回転させ、工作物1の位相が後述する内壁面5の加工開始状態となるように割出しを行う。また、この際、既に加工済の上面8とエンドミルTの接触をさけるために、サーボモータ20を制御して工作物1を弱冠量だけ後退させることが好ましい。
【0030】
なお、この上面8の加工において、エンドミルTの移動軌跡は上述した外壁面4および後述する内壁面5の加工時と異なり、インボリュート曲線の基礎円の接線上ではないが、エンドミルTの径がインボリュート形状の壁面の壁厚tに比して十分大きいので、エンドミルTの軌跡がX軸とY軸の同時2軸制御、すなわち、図8(a)のエンドミルTの位置から図9(a)のエンドミルTの位置への斜め(X軸とY軸の同時制御)の移動であっても加工可能である。しかし、上述した外壁面4および後述する内壁面5の加工時と同様に、エンドミルTがインボリュート曲線の基礎円の接線上l1 上を移動するように制御してもよい。この場合、エンドミルTの軌跡は上面8を加工しながら工作物1の外側から中心へ向かって移動し、工作物1の中心で上面8の加工を終了して、後述する内壁面5の加工加工開始位置へ斜め(X軸とY軸の同時制御)の移動を行う。そして、この斜めの移動の間に工作物1を回転させて上面8の加工終了時の位相から内壁面5の加工開始時の位相に割出しを行う。
【0031】
次に、図5のXおよび図10に示される状態から内壁面5の加工開始位置を示す図5XIおよび図11の状態になるように、サーボモータ20を制御して工作物1を前進させる。この時既に工作物1の位相は内壁面5の加工開始時の位相に割出されている。この内壁面5の加工開始位置は、Y軸においてはエンドミルTの中心がインボリュート形状の内壁面5を定義するインボリュート曲線の基礎円の接線l2 上となる位置であるが、外壁面4の加工時とは反対方向(外壁面4の加工時は基礎円の図面において下側の接線l1 、内壁面5の加工時は基礎円の図面において上側の接線l2 )である。そして、X軸およびC軸においてはインボリュート曲線の開始位置でエンドミルTを内壁面5に対して所定量切り込んだ位置であり、Z軸においては外壁面4の加工時と同じエンドミルTを底面7に所定量切り込んだ位置である。
【0032】
この図5のXIおよび図11に示される状態から、外壁面4の加工時と同様に、サーボモータ13を制御してエンドミルTがインボリュート曲線の基礎円の接線l2 上を通るように移動させ、このX軸の移動と同期して工作物主軸25を時計回りに回転させて、内壁面5と底面7の外壁面4の加工時の削り残し部分(上述したように、エンドミルTの径は溝幅hよりも小さいので、外壁面4と同時加工では底面7には削り残りが存在する。そして、エンドミルTの径は溝幅hの1/2よりも大きいので、この内壁面5との同時加工によって削り残し部分は全て切削される。すなわち、底面7は2パスで加工される。)を同時加工する。内壁面5の加工が終了した状態が、図5のXIIおよび図12に示される状態である。
【0033】
このようにして、外壁面4および内壁面5、底面7、上面8が効率的に加工される訳であるが、これらの加工の全般に渡ってクーラントノズル18からクーラントを供給しながら加工を行うのが好ましいが、少なくとも上面8の加工中にはクーラントノズル18からクーラントを供給する。これにより、外壁面4の加工と内壁面5の加工との間の上面8の加工時に供給されるクーラントによって、外壁面4の加工時に発生し溝部6内に堆積した切屑が洗い流されるので、内壁面5の加工時にエンドミルTが堆積した切屑を巻き込むことによる加工精度の悪化が防止される。
【0034】
なお、図1に示される工作物1のインボリュート形状の中心部分にはインボリュート曲線ではなく、円弧形状をつないだ形状の部分が存在するが、この円弧形状部の加工は、X軸とC軸の他にY軸を制御し同時3軸制御にて加工することができる。そして、この同時3軸制御による円弧形状部の加工は、外壁面4の加工に先立って(すなわち、図5のVIの状態の前に)行うこともできるし、内壁面5の加工の後に(すなわち、図5のXIIの状態の後に)行ってもよい。しかし、円弧形状を凸R部と凹R部とに分割し、凸R部を外壁の加工に先立って行い、円弧形状の凹R部を内壁の加工の後に行うのが好ましい。
【0035】
上述の実施の形態において、巻き方向がのの字のスクロールラップについて、述べたが、巻き方向が反のの字のスクロールラップを加工する場合は、外壁面4の加工時のX軸方向の移動を外側から内側へ向かう軌跡に、工作物1の回転を時計回りにし、内壁面5の加工時のX軸方向の移動を内側から外側へ向かう軌跡に、工作物1の回転を反時計回りにすればよい。ただし、この場合は、外壁面4の加工後にエンドミルTは工作物1の中心部分に位置しているので、この位置から工作物1の外側へ向かうX軸の移動(もしくはX軸とY軸の同時制御)によって上面8の加工を行い、上面8の加工後に再び外側から内側へ向かうX軸とY軸の同時制御(もしくはX軸の移動)により、内壁面5の加工開始状態の工作物1とエンドミルTの位置関係とする必要がある。ただし、これらは全て、いわゆるダウンカットを行うことを前提にして述べられているので、アップカットを行いたい場合は、インボリュートの巻き方向と工具軌跡および工作物の回転方向の関係を逆転することになる。
【0036】
上述の実施の形態において、工具としてエンドミルを用いた切削方法について述べたが、砥石を用いた研削加工においても同様である。
【0037】
【発明の効果】
請求項1に記載の発明によれば、外壁面および内壁面の加工と底面の加工が同時に行われ、さらにこれらの加工と上面の加工が連続的に行われるので、インボリュート形状を効率的に加工することができる。しかも、一方の壁面の加工終了時の工作物の位相から他方の壁面の加工開始時の工作物の位相への工作物の割出し動作を上面の加工時に行うことにより、この割出しのための時間が不要となり、加工効率が向上する。
【0039】
請求項2乃至4に記載の発明によれば、さらに、加工負荷が大きい底面の1パス目の加工と加工負荷が比較的小さい外壁面の加工が同時に行われ、加工負荷が小さい底面の2パス目の加工と加工負荷は比較的大きい内壁面の加工が同時に行われるので、両者の加工負荷の差異が抑制され、加工負荷の違いによる加工精度の悪化が防止される。
【0040】
請求項5に記載の発明によれば、一方の壁面の加工によって発生し溝部に堆積した切屑が、上面の加工時に供給されるクーラントによって流出されるので、他方の壁面の加工時に工具がこの切屑を巻き込むことによる加工精度の悪化が防止される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の加工方法により加工される工作物を示す図であり、(a)は平面図、(b)はその断面図である。
【図2】本発明の加工方法を実施するための加工装置を示すものである。
【図3】壁面の加工時の工作物とエンドミルの状態を示す模倣図であり、(a)は外壁面の加工時、(b)は内壁面の加工時の状態を示すものである。
【図4】壁面と底面の同時加工時の工作物とエンドミルの状態を示す模式図であり、(a)は底面の1パス目の加工時、(b)は底面の2パス目の加工時の状態を示すものである。
【図5】一連の加工における工作物とエンドミルの相対位置を示す模倣図である。
【図6】図5のVIの状態における工作物とエンドミルの相対位置を示すものであり、(a)は平面図、(b)はその断面図である。
【図7】図5のVIIの状態における工作物とエンドミルの相対位置を示すものであり、(a)は平面図、(b)はその断面図である。
【図8】図5のVIIIの状態における工作物とエンドミルの相対位置を示すものであり、(a)は平面図、(b)はその断面図である。
【図9】図5のIXの状態における工作物とエンドミルの相対位置を示すものであり、(a)は平面図、(b)はその断面図である。
【図10】図5のXの状態における工作物とエンドミルの相対位置を示すものであり、(a)は平面図、(b)はその断面図である。
【図11】図5のXIの状態における工作物とエンドミルの相対位置を示すものであり、(a)は平面図、(b)はその断面図である。
【図12】図5のXIIの状態における工作物とエンドミルの相対位置を示すものであり、(a)は平面図、(b)はその断面図である。
【符号の説明】
T エンドミル
1 工作物
4 外壁面
5 内壁面
7 底面
8 上面

Claims (5)

  1. 工作物をインボリュート形状の中心を回転軸心として回転させると共に、この回転軸心と平行な軸心を回転軸心として回転され前記インボリュート形状の外壁面と内壁面の間に形成される溝部の溝幅よりも小さくかつ前記溝幅の1/2よりも大きくかつ前記インボリュート形状の壁部の壁厚よりも大きい径を有するエンドミルもしくは砥石を用いて、前記工作物と前記エンドミルもしくは砥石の相対移動により前記外壁面および前記内壁面と前記溝部の底面と前記壁部の上面を加工する方法であって、前記工作物の回転と同期して前記エンドミルもしくは砥石が前記工作物に対して前記インボリュート形状の基礎円の接線上を移動するように前記工作物と前記エンドミルもしくは砥石の相対移動を制御することによって、前記インボリュート形状の外壁面または内壁面のいずれか一方と前記底面を同時に加工する第1のステップを実行し、この第1のステップの実行後に、前記工作物の回転と同期して前記エンドミルもしくは砥石と前記工作物の相対移動を制御することによって、前記壁部の上面を加工する第2のステップを実行し、この第2のステップの実行後に、前記工作物の回転と同期して前記エンドミルもしくは砥石が前記工作物に対して前記インボリュート形状の基礎円の接線上を移動するように前記工作物と前記エンドミルもしくは砥石の相対移動を制御することによって、前記インボリュート形状の外壁面または内壁面の他方と前記底面の前記第1のステップによる削り残し部分を同時に加工する第3のステップを実行するとともに、前記第2のステップの実行中に前記工作物を前記第1のステップの終了時の位相から前記第3のステップの開始時の位相へ回転させることを特徴とするインボリュート形状の加工方法。
  2. 請求項1に記載のインボリュート形状の加工方法において、前記第1のステップにおける壁面の加工は外壁面の加工であり、前記第3のステップにおける壁面の加工は内壁面の加工であることを特徴とするインボリュート形状の加工方法。
  3. 請求項2に記載のインボリュート形状の加工方法において、前記インボリュート形状の巻き方向はのの字方向であって、前記第1のステップにおける相対移動は前記エンドミルもしくは砥石が前記工作物の中心から外側へ移動する方向でかつ前記工作物の回転方向は反時計回りであり、前記第2のステップにおける相対移動は前記エンドミルもしくは砥石が前記第1のステップの加工終了点から前記第3のステップの加工開始点へ移動する軌跡でかつ前記工作物の回転方向は時計回りであり、前記第3のステップにおける相対移動は前記エンドミルもしくは砥石が前記工作物の外側から中心へ移動する方向でかつ前記工作物の回転方向は時計回りであることを特徴とするインボリュート形状の加工方法。
  4. 請求項2に記載のインボリュート形状の加工方法において、前記インボリュート形状の巻き方向は反のの字方向であって、前記第1のステップにおける相対移動は前記エンドミルもしくは砥石が前記工作物の外側から中心へ移動する方向でかつ前記工作物の回転方向は反時計回りであり、前記第2のステップにおける相対移動は前記エンドミルもしくは砥石が前記第1のステップの加工終了点から前記工作物の外側へ移動し、再び前記工作物の中心方向へ移動して前記第3のステップの加工開始点へ移動する軌跡でかつ前記工作物の回転方向は時計回りであり、前記第3のステップにおける相対移動は前記エンドミルもしくは砥石が前記工作物の中心から外側へ移動する方向でかつ前記工作物の回転方向は時計回りであることを特徴とするインボリュート形状の加工方法。
  5. 請求項1から請求項4のいずれかに記載のインボリュート形状の加工方法において、少なくとも前記第2のステップの加工中にクーラントを供給し、前記第1のステップの加工により発生し前記溝部に堆積した切屑を流出させることを特徴とするインボリュート形状の加工方法。
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