JP3671354B2 - 質量分析用の多重極イオンガイド - Google Patents

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Description

【0001】
(技術分野)
本発明は、大気圧イオン源から真空中へ導入されるイオンを、質量分析計へ輸送し収束する多重極イオンガイドの構成、及びその使用方法に関する。多重極イオンガイドは、1つの真空ポンプ段から始まり、1つ以上の連続する真空ポンプ段へと延びて構成される。このような多重極イオンガイドによれば、イオンを1つ以上の真空ポンプ段へと効果的に輸送可能としながら、中性バックグラウンドガスをポンプにて排出することができる。また、多重極イオンガイドの複数極には、AC周波数、AC及びDC電圧が印加されるが、これらの値は、多重極イオンガイドが所定の選択された範囲内の質量電荷比のイオンを通過させるように設定することができる。そして、こういった多重極イオンガイドにおけるイオン搬送性は、大気圧イオン源に臨む特定の質量分析計の性能を向上させるのに用いることができる。
【0002】
(背景技術)
大気圧イオン源(API)は、質量分析用のイオン生成手段として益々重要になってきている。具体的には、エレクトロスプレー、即ち噴霧器を用いたエレクトロスプレー(ES)や、大気圧化学イオン化(APCI)や、誘導結合プラズマ(ICP)イオン源は、ほぼ大気圧と等しい圧力領域にて分析試料種からイオンを生成するものである。そして、生成されたイオンは、質量分析のために真空室へと輸送される。API供給源にて形成されたイオンの一部は、API供給源チャンバー内のガスに取り込まれ、該ガスやキャリアガスとともに、オリフィスを通して真空室内へ押し流される。一般に、質量分析計(MS)は、質量分析計のタイプにより10-4から10-10Torrの範囲に圧力を一定化した高真空室内で動作させるものである。API供給源から真空室へ導入されるガス化イオンは、バックグラウンド用キャリアガスと分離され、単一又は多重段の真空システムを通して質量分析計へ輸送され収束される。そして、API/MSシステムでは、真空システムやそれに関連する静電圧レンズの構造として多様なバリエーションがある。具体的には、多重ポンプ段が採用される場合、静電レンズ部材は、イオンを加速させたり、イオンを質量分析計へ収束させるだけでなく、複数の真空ポンプ段間にオリフィス(すき間)を規制する機能を果たすように構成される。そして、静電レンズが一方のポンプ段から他方のポンプ段への中性ガスの搬送を限定するように働く場合に、動作の交換が起こることがある。例えば、一方のポンプ段と他方のポンプ段との間に配されたスキマーは、中性ガスのガス流を限定するが、オリフィスが比較的小さな寸法のため、同様にイオンの通過も制限してしまう。そこで、2種類のイオンレンズが真空室内へイオンを輸送し収束させるのに用いられている。ここで、特に、イオンは大気圧から自由噴射の拡張により内へ導入される。第1のレンズは、静電圧レンズであり、第2のレンズは、動的電界イオンガイドである。API/MSシステム用の最も効果的なレンズ構成は、静電界及び動電界が印加される両レンズ部材を上手に組み合わせて採用することである。
【0003】
詳しくは、第1のイオンレンズのタイプは、静電レンズであり、このレンズには、イオンがレンズの電場内を移動している間に一定のDC静電圧が印加される。図1に、静電圧が印加される静電レンズを有する4重真空ポンプ段のAPI/MSシステムを模式的に示す。図1に示すように、キャピラリー口8から噴射されたガスは、真空室に向かって超音速自由噴射体として拡張し、ガスの一部が第1のスキマー10及び第2のスキマー14を通過する。一般に、ポンプ段同士の間に位置するスキマーは、そのオリフィスが小さく、中性ガスが下流側の真空ポンプ段へ流れるのを規制する。DC電圧は、キャピラリー口9、スキマー14、及び他の静電レンズ15,16,17に印加され、これら電圧値は、質量分析計18へのイオンの搬送量を最大とするように設定される。拡張するガスに取り込まれたイオンは、静電的及び動的ガス力の組み合わせにより導かれる軌道を追従する。特に、図1に示す構成では、ガスの動的流れが第2のスキマー13まで又はそれを超えて強力に影響を及ぼしうる。また、静電圧レンズを介したイオン搬送効率は、イオン軌道に沿って生じるイオンとバックグラウンドガス間の衝突によるイオン損失を分散することで低下してしまう。質量電荷比(m/z)の異なるイオンでは、衝突断面が異なり、そのため、真空室を輸送される間に生じるバックグラウンドガスとの衝突回数も異なってくる。よって、上述した静電レンズの電圧設定の場合では、質量分析計へのイオン搬送効率が、m/zや衝突断面により変りうる。すなわち、あるイオン種の搬送を最適化すべくレンズの電圧値を設定しても、他のイオン種にとって搬送効率を最適化するとはいえないのである。そのため、API/MSシステムへの応用に静電圧レンズ構成を用いると、分子量の大きい成分と同様な効率で分子量の小さな成分を搬送することはできないことになる。分子量の小さいイオンほど、分子量の大きな成分よりもバックグラウンドガスとの衝突により分散される搬送損失が大きくなる。そこで、多層静電圧レンズを通したイオン搬送の効率を向上させるためには、m/zの小さなイオンがバックグラウンドガスを通っても確実に搬送されるよう、静電エネルギーが十分高くなければならない。また、静電圧レンズ構造では、異なるエネルギーを有するイオンを異なる収束点にて収束させることもできる。API供給源から真空室へ搬送されるイオンは、存在するイオンの種類ごとにそれぞれ異なるイオンエネルギーを有するイオンビームを生成する。仮に、所定のイオンの収束点が質量分析計の計測口に位置しなかった場合、搬送損失が生じることになる。そこで、質量分析計の問題点、すなわち質量/電荷比による搬送効率の違いや静電圧レンズによるイオン搬送の非効率性を解消すべく、多重極イオンガイドにおいて動的電界が、真空ポンプ段を介してAPI/MSシステムの真空領域へイオンを輸送するのに用いられている。多重極イオンガイド内の動電界及び静電界は、イオンとの衝突を分散させるバックグラウンドガスを制御でき、また多重極イオンガイド長をイオンが通過する間にイオンを効果的に“トラップ”(閉じ込め)することができる。
【0004】
このような多重極イオンガイドは、真空中における効果的なイオン搬送手段として知られている。Olivers et.al.(Anal.Chem.Vol.59,p.1230−1232,1987)や、Smith et.al.(Anal.Chem.Vol.60,p.436−441,1988)や、米国特許第4,963,736号では、ACオンリーモードで動作する4重極イオンガイドを用いて、API供給源からのイオンを4重極型質量分析計へ輸送する方法を報告している。米国特許第4,963,736号は、多重極イオンガイドを、3段真空ポンプのうちの2段真空ポンプに用いた場合、または2段真空ポンプのうちの1番目の真空ポンプに用いた場合を開示している。この特許によれば、イオンガイドの位置する真空ポンプ段内のバックグラウンドガス圧を10mTorrまで増加すると、イオン搬送効率を向上することができるとともに、搬送イオンのイオンエネルギー幅を減少することができることをも報告している。ここで開示された4重極型質量分析計の構造では、イオン信号強度が、バックグラウンドガス圧を6mTorr以上とすることで減少する。なお、カナダのSciex社製の市販のAPI/MS装置は、単一の真空ポンプ段システム中の4重極マスフィルターよりも前の位置に、ACオンリーモードに作動する4重極イオンガイドを配置して組み込んでいる。そして、API装置のオリフィスを通って真空中に流れるイオン及び中性ガスが、4重極ACオンリーイオンガイドに進入するようになされる。イオンは、AC4重極領域によりラジアル方向に拡散するのをトラップされ、中性ガスがロッドスペースを通してポンプにより吸引排出されるのに従って、4重極イオンガイドロッド長に沿って搬送される。そして、この4重極イオンガイドに存在するイオンが、同じ真空チャンバーに位置する4重極マスフィルター内へ収束される。このとき、中性ガスは、高容量ポンプにより汲み出される。多重4極イオンガイドは、API供給源からのイオンを多重の真空ポンプ段を通して、フーリエ変換イオンサイクロントロン共鳴型質量分析計へと輸送するのに用いられている。Beu et.al.(J.Am.Sco.Mass Spectrom vol.4.546−556,1993)は、5つの真空ポンプ段のうちの連続する3真空ポンプ段に位置する、ACオンリーモード作動の3重真空ポンプ段の4重極イオンガイドを用いたエレクトロスプレーフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FT−ICR)型質量分析計を報告している。多重真空ポンプ段は、質量分析計の作動圧力を2×10-9Torr以下に実現することが求められる。各真空ポンプ段の間には、中性ガスが一方の真空ポンプ段から隣の他方の真空ポンプ段へと伝導するのを規制する仕切りがあり、この仕切りに形成されたオリフィスが、連続する4重極イオンガイド間に位置していた。
【0005】
ここ数年に亘り、API/MSシステム設計が開発されるにつれ、より高性能で且つ低価格なシステムが、多重真空ポンプ段の採用により実現されつつある。この多重真空ポンプ段は、バックグラウンドガスを排出しながら、各真空ポンプ段にあるイオンレンズシステムが、大気圧から質量分析計に向かって真空中を進入するイオンを加速し収束させるものである。API供給源の接続される質量分析計の各種タイプは、大気圧と質量分析計との間のイオン輸送領域に位置するイオン輸送レンズの構成や真空条件についてそれぞれ独自の条件がある。各タイプの質量分析計は、許容可能なイオンエネルギー、イオンエネルギー幅、及び上流側のイオン輸送レンズシステムがイオンを質量分析計の入口に搬送する際に満足しなければならない入射角開きなどの条件がある。例えば、4重極型質量分析計は、一般に、40電子ボルト以下の軸並進エネルギーを持つイオンを受け取るが、その一方、磁場型質量分析計は、何千もの電子ボルトの軸並進エネルギーを持つイオンを要する。
【0006】
本発明では、API/MSシステムの総合的感度を向上するとともに、装置コストを低減し装置の複雑な構造を簡略化可能とするように、多重極イオンガイドが構成される。本発明の実施形態では、API供給源から真空内に進入するイオンを飛行時間(TOF)イオントラップ及びFT−ICR型質量分析計へ輸送するのに、多重極イオンガイドが用いられる。そして、イオンガイド動作安定領域に位置し多重極イオンガイドを通って効果的に搬送されるイオンの質量電荷比(m/z)の範囲が設定され、これらm/zのものを通過させる。詳しくは、所定の質量電荷比を有するイオンが、多重極イオンガイドの動作安定領域内にある場合、そのイオンが軸方向から離れて遠くまで移動するのを効果的なトラップにより防ぎ、イオンがイオンガイド軸方向に自在に移動可能とする。一方、イオンのm/zが安定領域外である場合、イオンは、安定した軌道を持たず、出口まで到達しない。多重極イオンガイドの組立体では、イオンとバックグラウンドガスとの間の衝突は、イオンが多重極イオンガイドを通過する際のイオンの搬送軌道やイオン運動エネルギーに影響しうる。仮に、バックグラウンドガスが十分高圧であれば、衝突を通して、イオンが多重極イオンガイドを通過していく際のイオンの動きを、イオンの運動及び熱エネルギーを低減しながら弱めることができる。これにより、特定のイオン種のエネルギー幅を減衰させた状態で多重極イオンガイドから放出するイオンビームを形成することできる。また、所定のバックグラウンドガス圧下で多重極イオンガイドを通って搬送されるイオンのm/zの安定領域や範囲は、隣接するイオンガイドロッドが交互の極性となるように印加されたAC周波数、AC及び/又はDC電圧を調整することで可変される。多重極レンズのオフセット電位、すなわちACロッド電位及びそれと反対極性のDCロッド電位が浮動して基準とされる、全ロッドに均一に印加されたDC電圧は、多重極イオンガイドを通って搬送されるイオンエネルギーを設定するのに用いられる変数である。本発明は、幅広い範囲の真空(減圧)下にてイオンを効果的に輸送可能とする多重極イオンガイドを構成するものである。また、多重極イオンガイドは、低エネルギー幅のイオンビームを質量分析計へ搬送し、エネルギー平均値及びm/zを個別に調整可能とするものであり、この多重極イオンガイドにより、API/飛行時間(TOF)型質量分析システムや、API/イオントラップ型質量分析システムや、API/FT−ICR型質量分析システムの性能を向上することができる。
【0007】
本発明の他の実施形態は、API/MSシステム内に多重真空ポンプ段の多重極イオンガイドを組み入れたものである。この多重真空ポンプ段の多重極イオンガイドとは、多重真空ポンプシステムにおいて、1つのポンプ段から始まり、連続して1つ以上の追加真空ポンプ段を通って延設される多重極イオンガイドである。仮に、多重ポンプ段システムの1つの真空ポンプ段だけに位置する多重極イオンガイドでは、そのイオンガイド内に存在するイオンを、あるポンプ段と次のポンプ段を分割する穴を通して運ばなければならない。そのため、バックグラウンドガス圧が多重極イオンガイドの出口からイオンを分散させるほど高圧であったり、次のポンプ段の穴がイオンビームの断面よりも径が小さい場合には、イオン搬送に損失が生じることになる。また、API/MSシステム内の最初の数個のポンプ段において、個別に多重極イオンガイドが累進的に配置されている場合、各ポンプ段間でイオンを搬送する際に、イオン搬送損失が生じうる。さらに、ポンプ段間のイオン搬送損失を抑えるべく、使用するポンプ段の数をより少なくした場合、真空室に移送される全ガス流および全イオン数が、それなりの量になってしまう。よって、連続する複数の真空ポンプ段を亘って延設するよう構成された多重極イオンガイドを用いた多重真空ポンプ段によって、95%以上のイオン搬送効率を実現することができる。ここで、多重真空ポンプ段の多重極イオンガイドは、あるポンプ段から次のポンプ段へと流れる中性ガス流を最小限とするのに十分なほどの小さい中央開口部を有するイオンガイドとして機能しなければならない。Xu at.el.(Nuclear Instr.and Methods in Physics Research,Vol.333,p274,1993)は、2つの真空ポンプ段を通って延びる6重極レンズを開発し、75〜150Torrの真空(減圧)に維持されたチャンバー内で作動するヘリウム放電源から発生されたイオンを輸送する技術を開示している。この開示内容では、ヘリウム放電源で形成されたイオンの一部が、オリフィスを通して次の真空段へと押し出されていた。そして、これらイオンが、RFオンリーモードに作動する6重極イオンガイドにより2つの追加真空ポンプ段を通って搬送された。このように、イオンガイドによりトラップされたイオンは、放電源真空チャンバーの下流側の2つの真空ポンプ段を通って効果的に輸送された。放電源真空チャンバーの下流側の真空ポンプ段では、バックグラウンドガス圧が600mTorrであり、その後に98mTorrのバックグラウンドガス圧の真空ポンプ段が続くよう構成された。そして、1つの真空ポンプ段から始まり途切れなく2つの真空ポンプ段へと延びる6重極イオンガイドを通るイオン搬送効率は、O2 +イオンの場合で90%であったと報告されている。Xu at.el.で開示された装置では、質量分析計が用いられていないが、装置内のヘリウム放電イオン源バックグラウンド圧力が、大気圧以下の5〜10倍であり、ヘリウムがバックグラウンドガスとして使用されていた。大気圧イオン源質量分析システムに組み込まれた多重ポンプ段の多重極イオンガイド(API/MS)には、様々な構成や性能基準があり、これらはXuらにより開示されたイオンガイドの応用に必要であった。API/MSシステムに取り込まれる多重極イオンガイドは、幅広い範囲の質量電荷比に対して多様な帯電状態のイオンを効果的に搬送できなければならない。一般に、API供給源には、ヘリウムではなく窒素がキャリアガスとして用いられる。また、API/MS多重真空ポンプ段システムのバックグラウンドガス圧は、Xuらの報告したイオンガイド装置の圧力とはしばしば非常に異なった値である。Xu et.alにより実施された非API/MSシステムにはないAPI/MSシステムに課された追加的制約としては、最初の2真空ポンプ段のガス拡張領域で衝突誘起解離(CID)により分子イオンを分解可能とすることである。これにより、重要な構造に関する情報は、ESやAPCI源で生成された分子イオンのCIDから得ることができる。CID条件は、静電圧レンズ間の相対電位、更にはAPI供給源の最初の2真空ポンプ段に配された多重極イオンガイドの各DCオフセット電位を調整することで設定することができる。
【0008】
本発明では、多重ポンプ段の多重極イオンガイドが、API/MSシステムの性能を最大限向上させるとともに、システム内の真空ポンプのコストを低減するよう構成されている。すなわち、API供給源から質量分析計へのイオン搬送効率を最大限としながら、中性ガスの搬送量を最小限とすることで、信号感度の向上及び真空ポンプのコストダウンを実現している。本発明は、1つの真空ポンプ段から始まり、途切れなく1つ以上の連続する真空ポンプ段を通って延設される多重真空ポンプ段の多重極イオンガイドに関する。ここで、多重極イオンガイド組立体のロッド径やロッドスペースは、中性ガスがイオンガイドを通って下流側の真空ポンプ段へと搬送されるのを最小限とするよう十分小さな大きさとした。また、各真空ポンプ段の適度な真空圧力は、通常の容量真空ポンプにて実現できた。このような小さな内径を有するイオンガイドは、ロッドやポール間のスペースを通過する中性ガスの伝達を十分可能とするように構成し、中性ガスを各ポンプ段で効果的に汲み出した。また、イオンガイドを介した効果的なイオントラップやイオン輸送が、幅広いバックグラウンドガス圧に対してイオンガイド長に沿って実現可能であった。本発明は、上述の文献で報告されているAPI/MSイオンガイドよりも高圧なバックグラウンドガス圧で効果的に作動するイオンガイドに関する。本発明の実施形態に示すように、多重極イオンガイドは内径が小さく、これに比例して小さな断面を有するイオンビームを生成できた。そして、質量分析計に収束されるイオンビームの断面が小さいほど、イオン搬送効率を下げることなく、質量分析計の入口を小さくすることができた。このような多重真空ポンプ段の多重極イオンガイドを用いることにより、効果的なイオン輸送、イオンエネルギーの制御、エネルギー幅の低減、及び小径なイオンビームを実現できる。
【0009】
(発明の概要)
本発明では、エレクトロスプレー、即ち噴霧器を用いたエレクトロスプレー(ES)や、大気圧化学イオン化(APCI)や、誘導結合プラズマ(ICP)イオン源などの質量分析計に接続される大気圧イオン源(API)が、多重極イオンガイドを、API供給源と質量分析計との間の真空ポンプ領域に組み込んで構成されている。
【0010】
本発明の実施形態では、API/MSシステムは、多重真空ポンプ段と、1つの真空ポンプ段から始まり2つ以上の真空ポンプ段を通って途切れなく延設された多重極イオンガイドとを備える。多重極イオンガイドの内径は、真空ポンプ段間の中性ガスの伝達を最小限に抑えつつ、多重極イオンガイド長に沿ってイオンを効果的に輸送すべく、小さく抑えられている。多重真空ポンプ段の多重極イオンガイドの少なくとも一部は、高圧なバックグラウンドガス圧を受けることになる。このバックグラウンドガス圧は、イオンガイド長に沿って移動するイオンが中性バックグラウンドガス分子との多数の衝突を受けるほど高圧となされている。このような多重極イオンガイド組立体を通過するイオン搬送効率は、所定の真空ポンプ段のバックグラウンドガス圧が数百mTorrであっても、95%を超えることができる。また、多重極イオンガイドにおけるイオンとバックグラウンド中性ガスとの衝突により、イオンの運動エネルギーが低減され、イオンのエネルギー幅を狭めることになる。多重極イオンガイドのAC領域は、径断面内にてイオンをトラップし、イオンがイオンガイド長に沿って移動する際にバックグラウンドガスとの衝突によりイオンの分散損失が生じるのを防ぐことができる。質量分析計の入口の電位に対して、多重極イオンガイドを出るイオンのエネルギーは、多重極イオンガイドのDCオフセット電位を変化させることで設定できる。そして、イオンガイド内でイオンの運動エネルギーを十分低減することで、イオンエネルギーを、所定のm/zのイオンエネルギー幅に対応させて幅広い範囲で変化を少なく調整することができる。数電子ボルト又はそれ以下の平均エネルギーを有するイオンは、多重真空ポンプ段の多重極イオンガイドを用いて、質量分析計の入口穴へ搬送される。4重極型質量分析計に搬送される狭いエネルギー幅の低エネルギーイオンは、高エネルギーイオンよりも、所定の感度に対してより高度な分解能が実現されることになる。こういった感度や分解能の向上は、4重極型質量分析計、飛行時間型質量分析計、イオントラップ型質量分析計、FT−ICR型質量分析計、及び磁場型質量分析計において、真空システムのコスト減を図った本発明の多重真空ポンプ段の多重極イオンガイドを用いて実現することができる。
【0011】
ACオンリーモードにおいて、又はポールにAC及びDC(周波数、電圧)を印加した状態で、多重極イオンガイドを駆動する際に、その周波数や電圧のレベルは、幅広いm/zのイオンが多重極イオンガイドを搬送されるように設定することができる。また、AC周波数、AC及びDC電圧は、所定のバックグラウンドガス圧下にて多重極イオンガイドを通って搬送されるm/zの範囲を限定するように設定することもできる。具体的には、API/TOF型質量分析計のデューティーサイクルや感度を向上させるのに、TOF型質量分析装置の分析計に搬送されるイオンのm/zの範囲を限定する方法が用いられる。また、FT−ICR型質量分析装置のイオントラップや分析計セル内に搬送されるイオンのm/zの範囲を限定することで、質量分析中でのトラップやFT−ICRセル内の空間帯電効果を低減することができる。これにより、質量分析精度、及び質量分析計の分解能や動的範囲を向上することができる。
【0012】
(発明の詳細な説明)
試料溶液は、ES、APCI、ICPイオン源などの大気圧イオン化源に導入され、ガス化イオンが溶液内の分析試料から生成される。API/MSシステムは、1から5以上の真空ポンプ段を備えるものがある。図1に示すように、エレクトロスプレーイオン化源が、4重極型質量分析計に接続される。図示するシステムでは、4つの真空ポンプ段と静電圧レンズ構造とを備え、最初の3段の真空ポンプ段を通してイオンを輸送し、4重極型質量分析計18の入口にイオンを収束する。この構成では、試料溶液がニードル1中に導入され、チャンバー2のバスガス中にエレクトロスプレーされる。液滴はチャンバー2中で蒸発したり、またはキャピラリー3を通して真空室へ掃き出されて、蒸発する液滴からイオンが放たれる。帯電した液滴は、対向流の乾燥ガス23及び/又は加熱キャピラリー3によって乾燥することができる。エレクトロスプレーチャンバー(室)2で形成されたイオンや帯電した液滴は、バックグラウンドガスの一部と共にキャピラリーの入口4に入り、キャピラリー環5を通して真空室へ送り出される。なお、この代わりに、真空室へのキャピラリーのオリフィス(隙間)を、最適な隙間寸法を有するノズルで代用しても良い。バス内ガス、即ちキャリアガスと、それに取り込まれたイオンは、キャピラリーを通って押し出され、キャピラリーの出口8を通って第1の真空ポンプ段7へと進入する。一般に、真空ポンプ段7内の圧力は、0.4から20Torrに維持され、キャピラリー内にあるガスは、超音速自由噴射にて拡散する。この超音速自由噴射に取り込まれたイオンは、拡散するバックグラウンドガスとの衝突により加速される。ここで、用いられるバックグラウンドガスは、たいてい窒素であるが、二酸化炭素、酸素、ヘリウム、または分析条件やイオン源のタイプに適合する他の任意の種類のガスであっても良い。静電界は、キャピラリー出口8、リングレンズ9、及び第1のスキマー10の間に印加され、これにより、イオンをスキマー10のオリフィス11を介して第2の真空ポンプ段12へと静電的に加速し収束する。真空ポンプ段12は、通常、ポンプスピードやスキマーオリフィス11の寸法により1〜200mTorrの範囲の圧力下で動作する。静電ポテンシャルは、スキマー10と13との間で維持され、スキマー10を通過するイオンの一部を、スキマー13のオリフィス22を通して第3の真空ポンプ段20へと収束させる。真空ポンプ段20の圧力は、通常、1×10-3〜8×10-5Torrの範囲で維持される。また、電位が静電レンズ部材14,15,16上で設定され、イオンを穴17を通して収束し、第4の真空ポンプ段24に位置する4重極マスフィルタ18へ通過させる。
【0013】
図1に示す静電圧レンズシステムは、イオンを真空ポンプ段を通して質量分析計へ輸送及び収束しつつ、バックグラウンドガスを排出可能とするものである。ここで、4重極マスフィルタのオフセット電圧に対するイオンエネルギーは、拡張するキャリアガスにより付与される加速エネルギーと、印加される静電ポテンシャルとの組み合わせで設定される。リング電極9及びスキマー電極10に対するキャピラリー出口8の電位は、衝突誘起解離(CID)を引き起こすのに十分な高い値に設定することができる。このCIDは、親イオン及びフラグメントイオンのエネルギー及びエネルギー幅に影響しうる。また、バックグラウンドガス圧からの分散や、真空ポンプ段のスキマーオリフィス11,22や4重極入口17を通して全てのイオンを静電的に収束できないことによって、各真空ポンプ段でイオン搬送損失が生じうる。そのため、各真空ポンプ段につき望ましい真空(減圧)圧を実現すべく、真空ポンプスピードを各真空ポンプ段につき800L/Sec以下として、真空ポンプのコスト及びサイズを低減する。ここで、この構成におけるスキマーオリフィス11は、通常直径0.8mm〜1.5mmとし、スキマーオリフィス22を直径0.8mm〜3.0mmとする。そして、質量分析計の圧力条件に応じて(例えば、4重極型質量分析計では10-6Torr、磁場型分析計では10-7Torr)、最適なスキマー寸法を選択し、可能なポンプスピードの規制内で真空条件を満足させる。スキマーのオリフィス寸法が小さいほど、この静電圧レンズ構造を通過しうるイオン数が少なくなる。また、所定のm/zのイオンのエネルギー幅が高く、且つ異なるm/zのイオン間のエネルギー差が大きいほど、質量分析計及び質量分析に効果的に収束されるイオン数が少なくなる。図示した静電圧レンズ構造では、分析作動中に維持される真空圧力によって、異なるm/zに対して異なる搬送効率を示すことが有り得る。また、この静電圧レンズシステムでは、イオンエネルギーが10電子ボルト以下となると、すぐにイオン搬送効率が低下する。
【0014】
そこで、中性ガスをコスト的に効率良く排除できるという多重ポンプ段の利点を維持しつつ、イオン搬送効率を向上するために、複数の静電圧レンズの一部を取り替えた多重極イオンガイドが用いられる。図2に、真空ポンプ段41に始まり、途切れなく真空ポンプ段42へ延びる多重極イオンガイド組立体40を示す。この組立体40では、個々のロッド、即ちポール45は、真空ポンプ段41及び42間の仕切りから絶縁体43により電気的に分離されて所定位置に保持される。6重極イオンガイドの断面図を図12に示す。絶縁体156は、6本のロッド即ちポール160を所定箇所に保持する目的と、中性ガスを流しイオンを一方の真空ポンプ段から次の真空ポンプ段へと搬送するロッド組立体径内の有効開口領域を最小化する目的の2つの目的を担う。多重極イオンガイド組立体40は、平行な電極45からなる。また、図12では、イオンガイド組立体が、中心線から同径で等間隔に配された円形ロッド160からなる。8重極イオンガイドであれば、等間隔に配された8本のロッドからなり、4重極イオンガイドであれば、等間隔に配された4本のロッド即ちポールからなる。このような多重極イオンガイド40がACオンリーモードで動作する場合、1つおきにロッドが、同じAC周波数、電圧、位相となり、隣同士のロッドが、印加されるAC周波数及び電圧は同じだが、位相が180度異なるようになる。例えば、6重極イオンガイドについては、3ロッド即ちポール(ロッド1,3,5)は、同じAC周波数、電圧、位相にて動作するが、残りの3ロッド(ロッド2,4,6)には、同じAC周波数及び電圧だが180度異なる位相が印加される。DCオフセット電圧は、多重極イオンガイド40の全てのロッド45に印加され、イオンエネルギーの形成に大きな役割を果たす。スキマー47の電位は、イオンをスキマー47のオリフィス48を通して多重極イオンガイド40へと効果的に搬送することができるように、多重極イオンガイドのDCオフセット電位に対して設定される。多重極イオンガイド40に進入するイオンの運動エネルギーは、イオンが多重極イオンガイド40に入る際の外辺領域からのAC電圧成分と同様に、キャピラリー出口50に入る拡散ガスによる速度や、キャピラリー出口50、リングレンズ51及びスキマー47に印加される相対的静電DC電位や、多重極イオンガイド40のDCオフセット電位からの寄与を内包する。静電圧レンズ部材53は、多重極イオンガイドの出口端部52に追加され、イオンを質量分析口47へと収束するようにしても良い。レンズ53は、多重極イオンガイド40の出口52に位置し、出てくるイオンを多重極イオンガイドのAC電圧外辺領域からシールドし、イオンを質量分析計の入口穴47に収束させる。これら2つの真空ポンプ段の多重極イオンガイド40を通るイオンの搬送効率は、幅広い範囲のm/zのイオンに対して95%以上である。ここで、イオン搬送効率は、スキマーオリフィス48を通過した全イオン電流を測り、さらに、エレクトロスプレーイオン化源の同じ動作条件で多重極イオンガイド40に存在する全イオン電流を測ることにより特定した。
【0015】
図2に模式的に示した4重極型質量分析計は、イオントラップ型質量分析計、TOF型質量分析計、FT−ICR型質量分析計、磁場型質量分析計などの他の質量分析計によって置き換えられても良い。例えば、磁場型質量分析計などの数キロボルトのイオンエネルギーを必要とする質量分析計では、イオンガイドRF及びDC電位が、キロボルトのイオン加速電位上で浮動しうる。そして、セクタ型質量分析計において、相対的なイオンガイドのAC及びDC、スキマー47、及び出口レンズ53の各電位は、キロボルトのイオン加速電位と照合されるが、飛行管がイオン加速電位で作動するような状態で、4重極、イオンガイド、FT−ICR、TOFなどの低エネルギー質量分析計の構成に用いられる対応する各電位と、近い値となされても良い。ここで、図2に示した2重真空ポンプ段の多重極イオンガイド40の性能を一例として用いてきたが、多重ポンプ段の多重極イオンガイドは多様な変形が可能である。6重極イオンガイドとしては、ロッドが真空ポンプ段41で始まり、図2中で示した4つの段システムのうちの真空ポンプ段42へ連続して延設されたロッドを備えた構成とした。使用試験を目的として、バックグラウンド圧力を第1及び第2ポンプ段53,41において変化させた。そして、多重極イオンガイド40をACオンリーモードで動作するようにし、AC周波数、振幅、及びDCオフセット電位を変化させて、所定のバックグラウンド圧範囲に亘って性能をマッピングした。
【0016】
なお、図2に示した4真空ポンプ段のAPI/MSシステムにおいては、2真空ポンプ段の6重極イオンガイドを、4重極イオンガイドや8重極イオンガイドよりも優先して選んだ。というのも、6重極イオンガイドの構成は、イオントラップ効率や、ロッドスペースを介した真空ポンプの空気流伝導や、幅広いm/z及びバックグラウンド圧の所定範囲における安定領域同士の重複などの関係から最も好ましい構成であるためである。2つの非寸法係数an及びqnは、運動のラプラス方程式を解くことにより多重極イオンガイドやマスフィルタでのイオン軌道をマッピングする際に一般に用いられるものである。これら2つの係数は、次式にて定義される。
n=n3U/2(m/z)w20 2n=n3V/4(m/z)w20 2
ここで、nは、ロッドペアの数(例えば、6重極イオンガイドの場合はn=3)であり、Uは、ロッドに印加されたDC電位であり、ロッドは1つおきに反対極性を有している。また、m/zは、多重極イオンガイドを移動するイオンの質量対電荷比であり、wは、印加される周波数であり、Vは、ロッドに印加される0からピーク間のAC電位であり、ロッドは1つおきに位相が180度ズレている。また、r0は、組立体の中央線からの半径を示している。多重極イオンガイドがACオンリーモードで動作する場合、Uは、ゼロに設定され、anは動作方程式から外れる。全ロッドに等しく印加されるDCロッドオフセット電位は、多重極イオンガイド40に出入りするイオンの軌道にだけ影響する。ただし、このオフセット電位は、一端イオンがイオンガイド内を通過してロッド内にトラップされた後は、イオン自身の初期の入口軌道及び速度に影響すること以外では、イオン軌道の安定性に影響すべきではない。図2に示す構成では、ロッド組立体内のバックグラウンドガス圧が多重極イオンガイド長に沿って変化し、イオンガイドを通るイオン軌道に影響する傾向がある。多重極イオンガイドを通るイオン軌道上でバックグラウンド中性ガスが衝突する作用を理論上模式化するには、イオンの断面が分からなければならない。API供給源により発生されたイオンの衝突断面、特に、エレクトロスプレーイオン化源により生成された多重帯電イオンの断面は、必ずしも分からない。そのため、本発明に開示の多重極イオンガイドの構成としては、多重極イオンレンズを介する効果的なイオン搬送を実現する係数an及びqnの値を、イオンのm/z及びバックグラウンドガス圧の組み合わせ範囲を超えて実験的に特定した。
【0017】
n=0のとき、ロッドのAC電圧を、図2に示した多重極イオンガイドを使用して、異なる電波周波数(RF)値に応じて勾配を持たせ、4重極型質量分析計の範囲内にある全m/zの安定領域値qnをマッピングした。また、バックグラウンドガス圧の勾配を各イオン搬送の試験において一定に保ち、2重真空ポンプ段の多重極イオンガイド40を通過する安定且つ効果的なイオン軌道を実現可能とする係数qnの値を確定した。イオンがロッド長を移動する際に生じるイオンと中性ガスとの衝突数は、ロッド長及びバックグラウンド圧に依存する。すなわち、ロッドが長ければ長いほど、イオンが所定バックグラウンドガス圧下でロッドを移動する際に生じる衝突数を増やすことができる。実際に、多重極イオンガイド組立体40では、有効内径を2.5mm以下として構成することで、真空ポンプ段41,42間の中性ガスの流動を最小限にすることができた。また、真空ポンプ段41におけるロッド長を2.9cm、真空ポンプ段42におけるロッド長を、3.0cmとした。このような多重極イオンガイド構成及びバックグラウンド圧の勾配を試験した場合、印加するAC電圧は、ロッド間で絶縁破壊が生じる値以下で維持した。所定のm/z及び帯電状態のイオンの安定的軌道が得られるqn値を特定するには、1〜10MHzの範囲の設定周波数に対して、多重極RF振幅に勾配を持たせた。
【0018】
図3a,3b,3cは、一連の試験例を示しており、ここではバックグラウンドガス圧を次のようにした。ポンプ段53を2Torrとし、ポンプ段41を150mTorrとし、ポンプ段42を4×10-4Torrとし、ポンプ段54を6×10-6Torrとした。図3aのデータでは、4重極マスフィルタをm/z109.6〜110.6の範囲でスキャンさせた。イオン信号は、RF振幅を変化させながらRF周波数を1MHzづつ変えて測定し、最大信号を見つけた。各RF周波数において、RF振幅を最小値から最大値へと勾配を持たせて変化させ、その後また最小値に戻すように勾配を持たせた。図3a中の点61では、2重真空ポンプ段の多重極イオンガイドがACオンリーモードで動作しており、RF周波数が3MHzに設定され、RF振幅が低い値に設定されている。RF振幅は、点62で最大値をとるように勾配を持ち、m/zが110であるイオンのイオン搬送効率は、上記周波数で点63にて最大値(ピーク)に到達する。振幅は点62から元の低い値に向かって下がって勾配を持ち、点64では、イオンの搬送は、ほぼ又は全く観察されない。点65で観察される信号最大値は、点63と点65で同じ値のq3が生じていることから予想されるように、点63とほぼ同じRF振幅を有する。RF周波数が5MHzに設定された場合、RF振幅は点66で最小値をとってから、点67で最大値をとり、再び点68で最小値へと戻るように勾配を持つ。点78及び67間に生じるイオン信号の比較的平坦な上部形状は、m/z110における効果的なイオン搬送が、RF振幅即ちq3の範囲を超えて生じていることを示している。図3bは、図3a及び図3cのデータと同時に得られた、m/z872のイオンにおけるイオン搬送効率を示している。4重極マスフィルタをm/z871.7〜872.7までスキャンしつつ、図3aのm/z110の場合と同様なRF周波数及び振幅をかけた。ここで、RF振幅は、1MHzの下で点69にて小さな値に設定した。RF振幅は、点69で最小値をとってから点71で最大値をとるまで増加され、イオン搬送効率は点70で最大となった。また、予想されるように、RF振幅を点71での最大値から勾配を持たせて変化させ、点72の最小値に戻す時に、同じq3値でイオン搬送効率が最大となる。そして、周波数を増やして3MHzとし、RF振幅を点73の最小値から点74の最大値へと勾配を持たせ、さらに点75で最小値に戻すと、RF振幅、即ちq3の幅広い範囲を超えて、効果的なイオン搬送が実現できる。図3cは、図3aに示したm/z110に用いられた範囲と同じRF周波数及び振幅範囲に亘って、m/z1743のイオン(1742.5〜1743.5の範囲をスキャンした)におけるイオン搬送効率を示す。図3に示されるように、所定のバックグラウンド圧力下で、多重極イオンガイドを超えて磁場のオーダーを変化させた場合に、ACオンリーモードで作動するイオンガイドを通過するイオン搬送効率を、幅広いm/zの範囲に対して効果的に実現することができる。
【0019】
例えば、イオン搬送効率を図3に試したm/zの全範囲に亘って最大値とすることを希望した場合、RF周波数を4MHzに設定し、RF振幅を点76で示される、おおよそq3値となるようにすれば良い。搬送効率が計測されたこの一定q3値及びバックグラウンド圧値では、m/zが110以下や1743以上のイオンに対して、多重極イオンガイドを通して効果的なイオン搬送が行えると考えられる。図4に、イオンガイドのq3値を図3の点76で設定した場合のグルカゴンのマススペクトルを示す。メタノール:水が1:1の溶媒中に濃度2pmolμ/lのグルカゴンを含む溶液を、図2で示したAPI/MS装置に連続注入試料導入法を用いてエレクトロスプレーし、4重極型質量分析計にてm/z20〜1900の範囲をスキャンした。(M+4H)+4,(M+3H)+3,(M+2H)+2のグルカゴンのピークを、それぞれ図中記号80、81及び82で示す。このように、自由噴射から放出されたイオンを質量分析計へ搬送し収束する多重ポンプ段の多重極イオンガイドを用いることで、感度を妥協せずに、API/MS装置の真空システム及びイオン光学システムの構成に自由度を持たせることができる。多重ポンプ段が小さいほど、性能を妥協することなく、装置コストを最小限とするように真空ポンプを選択して、API/MS装置を構成することができる。このように、多重ポンプ段の多重極イオンガイドは、幅広い圧力勾配の範囲に亘り、効果的なイオン搬送及びイオン収束を可能とするように構成し動作させることが可能である。図2に示した構成では、第2真空ポンプ段12のバックグラウンド圧は、200mTorr以上や数mTorr以下の範囲に亘る異なる数値に設定しても、イオン搬送効率にはほとんど変化はなかった。よって、本発明により動作圧力が幅広い範囲で可能となったため、ここで示した多重極イオンガイドとしては、動作圧力の状況が多様な多種類の質量分析計に対して、異なる実施形態を構成することができる。例えば、4重極型質量分析計では、1×10-5Torrかそれ以下の真空圧下で効果的に動作可能であり、その一方、TOF型質量分析計では、イオンの飛行時間中にイオンとバックグラウンドガスとの多数の衝突を避けるために、バックグラウンド圧が、10-7Torr範囲かそれ以下であることが求められる。このような幅広い単一の圧力範囲を有する多重真空ポンプ段のAPI/MS装置や、多重ポンプ段の多重極イオンガイドは、ポンプコストを最小限に抑えながら、イオン搬送及びイオン収束を最大限効果的にするように構成することができる。
【0020】
図3に示されるように、anやqn値は、イオン搬送において低い又は高いm/z比のイオンを遮断(カットオフ)するように設定することができる。例えば、an=0の場合、RF周波数が3MHzであり、RF振幅が点79から点62の間の何れでも動作するように設定されたら、m/zが110又はそれ以下のイオンは、多重極イオンガイドを通って質量分析計に搬送されない。同様に、RF周波数が7MHzであり、RF振幅が点77の値に設定されたら、m/zの高いイオンは、多重極イオンガイドを通って質量分析計に搬送されるのを遮断される。図5aは、幅広いm/zの範囲内のイオンを通過させるようにqn値を設定した場合の多重極イオンガイド40の動作を示す。図5bは、低いm/zのイオン搬送を遮断するようにqn値を設定した場合の多重極イオンガイド40の動作を示す。図5aは、多重極イオンガイド40を幅広いm/zの範囲内のイオンを通過させるようにq3値に設定した場合に、メタノール:水が1:1の溶媒中に濃度2pmolμ/lのアルギニンを含む溶液を、連続注入法を用いてエレクトロスプレーした際のマススペクトルを示している。溶液中に存在するカチオン不純物のナトリウム85(m/z23)及びカリウム86(m/z39)が、マススペクトル中に見られる。また同様に、プロトン化したメタノールモノマー87(m/z33)やメタノールダイマー(二量体)88(m/z65)、及びm/z175の試料アルギニンのプロトン化したピーク90が見られる。図5bは、同一のスプレー条件にて同様な溶液をエレクトロスプレーした際のマススペクトルであるが、6重極イオンガイドのq3値を低いm/zのイオンを遮断するように設定した。100〜120m/zのイオン搬送は、アルギニン91又はそれ以上の高いm/zのイオンのイオン搬送効率を低減することなく、効果的に遮断されている。その他の実施例として、図6a及び図6bに示したものがある。これらは、図2に示したAPI/MS装置を用いて、メタノール:水が1:1の溶媒中に濃度2pmolμ/lのグラミシジンSを含む溶液を、連続注入法でエレクトロスプレーした際の実施例を示している。図6aでは、6重極イオンガイド40のq3値を幅広いm/zの範囲内のイオンを通過するように設定し、不純物カリウムピーク92及びプロトン化して2価に帯電されたグラミシジンSのピーク93(M+2H)+2が、マススペクトル中に見られる。図6bは、図6aと同一のスプレー条件での同様なグラミシジンS溶液のマススペクトルであるが、6重極イオンガイドのq3値を低いm/zのイオンを遮断するように設定した。カリウムイオンは、もはや質量分析計に搬送されていないが、ピーク94で示される2価のグラミシジンSのイオン搬送効率は維持されている。ここで、qn値は、図7a及び7bに示すように、高いm/zのイオン搬送の遮断を起こすよう選択される。図7a及び7bでは、図2に示したAPI/MS装置を用いて、メタノール:水が1:1の溶媒中にアルギニン、ロイシンエンケファリン、グラミシジンSを各濃度2pmol/μlとした溶液をエレクトロスプレーした実施例を示している。図7aは、多重極イオンガイド40のq3値を、幅広いm/zの範囲内のイオンを通過させるように設定したマススペクトルを示している。このマススペクトルには、m/zの低いイオンピーク98と同様に、アルギニン(M+H)+ピーク95、ロイシンエンケファロン(M+H)+ピーク96、及び2価のグラミシジンS(M+2H)+2ピーク97が示されている。図3bは、同一のスプレー条件で同様な溶液をエレクトロスプレーしたマススペクトルである。但し、イオンガイド40のan値及びq3値は、m/zの低いイオンがピーク99で示されるように通過するが、m/zの高いイオンが多重極イオンガイド40を通過しないように設定される。
【0021】
高圧のバックグラウンドガス下で動作する際の多重極イオンガイドの重要な特徴は、イオンガイド長に沿って移動するイオンがバックグラウンドガスと多数の衝突を起こすことで、イオン運動エネルギーを低減することである。イオンが多重極イオンガイドに進入しその中を通過する時に、RF電場、またはRF−DC電場が、衝突によりイオンがラジアル方向に分散するのを抑えてトラップする。このとき、バックグラウンドガスは、ガスの動力によりイオンを部分的に軸方向に移動させることができる。また、バックグラウンドガスとの衝突によるイオン運動エネルギーの低減によって、多重極ロッドを出るイオンのエネルギー幅を狭めることになる。イオンがイオンガイド長を移動する間に生じる衝突数は、ロッド長、ロッド組立体内のバックグラウンド圧、及び多様な電場によるイオン軌道の状態のいかんによる。具体的には、イオンガイド組立体の一部に沿ったバックグラウンド圧が十分高圧であると、多くのイオンが中性分子と衝突することになり、イオンガイドのDCオフセット電位が、イオンガイドを出るイオンの平均エネルギーを設定するのに用いることができる。また、多重極イオンガイドの一部をイオン衝突による低減効果を生じさせる高圧領域として該イオンガイドを駆動させることで、結果的に得られる搬送イオンの狭いエネルギー幅は、イオンガイドのDCオフセット電位を調整した際に平均イオンエネルギーが変化しても、その変化とは独立して維持される。図2に示す装置では、第2真空ポンプ段12のバックグラウンド圧を150mTorrに維持した状態で、スキマー47の電位を、イオンガイド40のDCオフセット電位に対して所定の電圧幅に亘って調整することができ、イオンガイドから放出されるイオンの平均イオンエネルギーやエネルギー幅にはほとんど変化が見られなかった。
【0022】
イオンガイド40の電極に印加される電場は、イオンガイド長の大部分に沿って移動するイオン運動に支配的に影響する力であるが、イオンガイド長の一部に亘って該イオンガイド内に生じるガスの動力は、イオンエネルギーやエネルギー幅を決定するのに重要な役割を果たす。イオンガイド40口に近い箇所で高圧なほど、イオンガイドに進入するイオンのトラップ効果を向上すると考えられる。
【0023】
そこで、図2に示すイオンガイド内でのガス動力の効果を例証するために、図2中のレンズ53の電圧に勾配を持たせ、質量分析計のイオン信号をモニターすることにより、2価のグラミシジンS(M+2H)+2イオン(m/z571)のエネルギー幅を測定した。この技術は、イオンエネルギーの正確なプロファイルをつかむことにはならない。なぜならば、レンズ53は、阻止電位を印加できるというだけでなく、収束部材でもあるからである。しかしながら、たとえレンズ53の電圧に勾配を持たせて変化させて収束性が変化しても、所定のm/zのイオンエネルギーの境界を得ることは可能である。具体的には、図2の構成の多重極イオンガイドを使用し、バックグラウンド圧を真空ポンプ段53で2Torrとし、真空ポンプ段41で150mTorrとし、真空ポンプ段42で4×10-4Torrとし、真空ポンプ段54で6×10-6Torrとし、4重極型質量分析計の入口47の接地電位に対して6重極イオンガイドのDCオフセット電位を調整することで、イオンエネルギーを変化させた。図8a、図8b及び図8cは、6重極イオンガイド40の3つの異なるDCオフセット電位で、グラミシジンSの2価陽イオンピーク(M+2H)+2のイオン信号を示したものである。図8aでは、DCオフセット電位を4重極型質量分析計の入口47に対して0.1ボルトに設定した状態で、6重極イオンガイド40をACオンリーモードで駆動した。図8aは、レンズ53の2ボルト〜8.2ボルト間の3連続勾配電圧における、m/zが571.6のイオン信号レベル100を示している。m/zが571.6のイオンの90%以上が、1つのイオンエネルギーの電圧窓に収まっている。図8bは、6重極イオンガイド40のDCオフセット電位を15.3ボルトとした状態で、レンズ53の19ボルト〜21.2ボルト間の3連続勾配電圧における、m/zが571.6のイオン信号101を示している。検出されたm/zが571.6のイオンの90%以上が、1つの電圧窓に収まるエネルギーを有している。同様に、図8cは、6重極イオンガイド40のDCオフセット電位を25.1ボルトとした状態で、レンズ53の29ボルト〜35ボルト間の3連続勾配電圧における、m/zが571.6のイオン信号102を示している。同じく、6重極イオンガイド40内に存在するm/zが571.6のイオンの90%以上が、1つの電圧エネルギー窓に収まっている。平均イオンエネルギーは、図8a、図8b及び図8cの6重極イオンガイド40で設定されたDCオフセット電位よりも高く、約3〜5.2ボルトの範囲内にある。ここで、真空ポンプ段51の自由噴射による拡散ガスがもたらすイオン加速が、グラミシジンSイオンの場合、この2.6〜3ボルトの追加的イオンエネルギーの理由となっている可能性がある。ただし、多重極イオンガイドのDCオフセット電位が高められたときに3ボルトを超え1〜2ボルト分のエネルギーがどこに付加されるかは、未だ明白ではない。多重極イオンガイド40のDCオフセット電位を調整することにより、低いエネルギー幅を有しつつ、所定のm/zの平均イオンエネルギーを制御できる性能を兼ねて効果的にイオン輸送することができ、これにより、多様な質量分析計において高分解能での高感度を実現できる。
【0024】
API/MSシステムは、ガイド長の一部が真空(減圧)下で動作する多重極イオンガイドを組み込んでおり、この真空圧(減圧)が、イオンのロッド長移動時の衝突による低減効果をもたらすのに十分な高圧となされている。そして、このようなAPI/MSシステムは、次のような3つの重要な動作特徴を有する。まず第1に、十分なバックグラウンド衝突が存在する中で動作するイオンガイドが、最適なan及びqnを設定した際にイオン搬送効率を低減することなく、イオンエネルギー幅を低減することができる点である。第2に、所定のm/zのイオンにおける平均イオンエネルギーが、イオンエネルギー幅を大幅に変化させることなく、多重極イオンガイドのDCオフセット電位を変化させて調整できる点である。第3に、イオンエネルギーが、多重極イオンガイドを通るイオン搬送効率を低減することなく、イオンガイドのDCオフセット電位を変化させることにより調整できる点である。これら特徴を示す例として、図9に、部分的に分割された同位体ピークを有した、2価陽イオンのグラミシジンS(M+2H)+2ピークのマススペクトル103を示す。このスペクトルは、図2の構成を持つAPI4重極型質量分析システムを用いて、メタノール:水を1:1とした溶媒中に濃度2pmol/μlのグラミシジンS試料を含む溶液をエレクトロスプレーして得られた結果である。このとき、6重極イオンガイド40のDCオフセット電位を、4重極型質量分析計の入口47の接地電位に対して0.1ボルトに設定した。特に、低いイオンエネルギーの場合に、多重極イオンガイド40及び4重極マスフィルタ57の外辺領域が存在する状況で、多重極イオンガイド出口52と4重極マスフィルタ57間には、静電レンズ53,47の収束及び搬送性能の程度次第でイオン搬送損失が生じる可能性がある。このとき、性能は、より高分解能な設定でスキャンする際にはより低いエネルギーのイオンを優先しながら、イオンエネルギー、4重極マスフィルタ57の分解能及び信号レベルの間でトレードオフする。図1に示した静電圧レンズシステムを用いると、図9に示すような分解能及び感度は得られない。また、適当なan及びqn値で動作する多重極イオンガイドを、バックグラウンド圧がイオンガイド長を移動するイオンの衝突低減効果を生じるのに十分な高圧となされている領域で用いることにより、静的レンズ構成を用いた場合と比較してAPI/MSシステムの性能を向上することができる。
【0025】
このように、イオン運動エネルギーの低減効果を発生するバックグラウンド圧領域で駆動する多重極イオンガイドの性能は、多種多様な質量分析計の性能を向上するのに用いることが可能である。なお、多重真空ポンプ段の多重極イオンガイドを4重極型質量分析計と接続させて使用することでイオン搬送効率を向上できるという利点は、上述した実施例で説明した。m/z当りの狭いエネルギー幅を変化させずに多重極DCオフセット電位を調整することにより平均エネルギーを設定できる点は、分析計が4重極型、磁場型、TOF型、イオントラップ型、又はFT−ICR型質量分析計であるAPI/MS装置の分解能及び感度を向上するために利用できる。そして、2つ以上の真空ポンプ段を通って延びる多重極イオンガイドを質量分析計より前の初期真空ポンプ段にて用いた際に、API/MSシステムの感度や分解能をより高度に向上することができ、しかもポンプコストを最小限とすることができる。また、所定のm/zのイオン搬送の遮断が設定されたモードで多重極イオンガイドを駆動することができる点は、該イオンガイドを磁場型や4重極マスフィルタなどのスキャン質量分析計において利用しても動作上の利点とならない。これらのスキャン質量分析計は、任意の所定時に狭いm/zの範囲内のイオンだけを検出器へ搬送するからである。しかしながら、TOF型、イオントラップ型、FT−ICR型などのトラップ及び/又は非スキャン技術を用いる質量分析計にとっては、質量分析計に搬送されるm/zの範囲を限定できるという多重極イオンガイドの特徴は、システムの性能を高めるものである。図10は、リフレクトロン型飛行時間質量分析計を有する4真空ポンプ段の垂直パルスAPI/MSシステムを示す図である。便宜上、エレクトロスプレーイオン化源をAPI源として示したが、この代わりにAPCIやICP源であっても良い。試料溶液は、エレクトロスプレーニードル110を通して導入され、チャンバー111に向けてエレクトロスプレー、即ち噴霧器によりエレクトロスプレーされ、112にてニードルから放出する。そして、生成された帯電液滴は蒸発し、ガス化イオンがチャンバー111内と、環を通して真空中へ吐き出される時にキャピラリー113内との両方で離脱する。キャピラリー出口114を通って第1の真空ポンプ段133に進入したイオンの一部は、レンズ115や、キャピラリー出口114に印加された電位によって、スキマー116のオリフィス136を通して収束される。スキマーオリフィス136を通過したイオンは、多重極イオンガイド118に進入する。ここで、多重極イオンガイド118は、真空ポンプ段117から始まり、途切れなく真空ポンプ段119へと延設されている。このとき、所定のm/zの範囲にあるイオンを通過するように、多重極イオンガイドのAC及びDC電圧を設定すると、多重極イオンガイドに進入した当該範囲内のイオンが121から放たれ、レンズ120を出てTOF分析計入口のオリフィス122を通るように収束される。初期のイオンビーム134は、第4の真空ポンプ段126に位置する静電レンズ123及び124の間を通過する。レンズ123,124,125における相対電圧はパルス化され、レンズ123と124間に入り込んだイオンビーム134の一部が格子レンズ125を通して束で放出され、飛行管127を下りながら加速される。イオンは、飛行管127を下り続けながら、図中128に示されるX及びYレンズにより所定方向に向かって進む。図示した構成では、イオン束は、反射鏡つまりイオンミラー130を通して反射され、検出器131で検出される。パルス化されたイオン束は、飛行管127を下って進みながら、異なるm/zのイオンは、それらの速度が互いに異なることから、空間内で分離され、異なる時間に検出器へ到着する。このように、API/TOFシステムで垂直パルスを用いることにより、初期イオン束のイオンエネルギー幅を狭めて、より高度な分解能及び感度を実現することができる。
【0026】
質量分析計の穴122を通過する所定の初期イオンビーム電流では、イオンエネルギーが低いほど、パルス毎のパルス領域に存在するイオンの数は増える。これは、パルス毎に得られるイオン信号応答に直接影響する。また、初期イオンビームの静電エネルギーが低いほど、パルス領域135で生じるイオン濃度対m/zの区分がなくなっていく。この区別が生じるのは、静電的に加速された低いm/zのイオンは、高いm/zのイオンよりも速く移動し、その結果、パルス領域での類似イオン電流のm/zあたりの相対濃度が低濃度となるためである。静電的に加速されたイオンと、自由噴射でガス動力により加速されたイオンとの間でも、分離がなされる。高分子量の場合には若干のズレもあるが、自由噴射で真空中に拡散する中性ガスだけで加速されるイオンは、単一エネルギーよりむしろ単一速度に近いイオンビームを形成する。バックグラウンドガスとの衝突のない状態での静電加速は、単一エネルギーに近いイオンビームを作り出す傾向にある。パルス領域135に進入する単一速度イオンビームは、所定のイオン流において、イオン濃度対m/zの誤差を低減することになり、結果的に相対的ピーク高さが当初のイオンビーム134の相対的m/zの強度をより強調して表すマススペクトルを生じることができる。
【0027】
初期イオンビーム134内のイオンの並進エネルギーは、拡散ガスと静電加速により離脱されたエネルギーの合計である。そして、一部が高真空圧領域で動作する多重極イオンガイド118は、イオンビームの分岐を最小限にして、低並進エネルギーを有するイオンビームを、質量分析計のオリフィス122を通して移送することができる。仮に、静電レンズシステムが用いられると、一般に、イオンビームエネルギーが低くなり、ビーム分岐を増大させる結果となる。ビーム分岐は、開口122に進入するイオンビームの強度を低減するだけでなく、パルス領域135においてイオンビーム断面を増大させてしまう。そして、初期イオンビームの分岐により垂直パルスTOF構造の分解能を低減させる結果となる。よって、イオンをパルス領域に搬送する際に、多重極イオンガイド118を使用することによって、低イオンビームエネルギーにおけるイオンビーム分岐の程度を低減することができる。こうして、最終的な結果として、感度や分解能が向上する。
【0028】
多重極イオンガイド118の有効内径を小さくすることにより、イオン搬送効率を妥協せずに、真空ポンプ段117及び119間の中性ガス伝達を最小限とすることができる。多重極イオンガイド118の有効内径は、一般に2.5mm以下である。イオンガイドの形状自体は、出口121を出るイオンビームの断面に上限を設けるものである。多重極イオンガイド118を出るイオンビームの直径を2mm以下に限定することにより、開口122は2mmに抑えられ、パルス領域135へのイオン搬送効率にほとんど又は全く損失がない。開口122の寸法が小さいほど、真空ポンプ段126へ入る中性ガス量は少なくなり、真空ポンプスピードに求められる条件が減り、装置コストも低減される。また、パルス領域124に入る初期イオンビーム134が小さいほど、イオンが領域135から飛行管127へとパルス化される前に生じる、空間内のイオン拡散が減る。このように、垂直パルス構造では、イオンビーム134の幅を小さくすることにより、パルス化されたイオン束幅や、イオンの空間拡散や、イオンのエネルギー幅を低減することができ、潜在的にTOFの感度や分解能の向上につながる。
【0029】
垂直パルスTOFでは、狭いイオンエネルギー幅が望ましい。なぜならば、初期イオンビームエネルギーであるイオンエネルギーの垂直成分は、イオンが飛行管を移動する時に横方向の移動に変るためである。そのため、初期イオンビームでのイオンエネルギー幅が狭いほど、初期m/zイオン束が飛行管127を通過する際にラジアル方向に密集して保持されることとなり、結果的に検出器131の表面により多くのイオンが収束されるようになる。図8に示すように、イオン運動エネルギーの低減効果を発生させる真空圧領域で多重極イオンガイドを動作させることにより、イオンエネルギー幅を狭めることとなり、またイオン搬送効率を低減したりイオンエネルギー幅を増幅させることなく、イオンエネルギーを低減することができる。低いイオンエネルギー幅を維持しつつ、イオンエネルギーを低減可能とすることで、TOF型質量分析計のデューティサイクルや感度を向上させることができる。ところで、所定のm/z及びエネルギーのイオンは、パルスが発生してからレンズ123,124間のギャップを満たすのに時間がかかる。仮に、ギャップ長が約2cmであれば、m/z1000でエネルギー20ボルトのイオンは、その2cmを走行しパルススペースを充填するのに10.2μ秒かかる。また、エネルギーが3ボルトの同じイオンでは、2cmを走行しギャップをイオンで満たすのに約26.3μ秒かかる。なお、パルス化されずに飛行管に向かうイオンは、パルス領域134の壁面に衝突し無効となるため消失する。また、イオン束が1秒につき10000回、即ち100分につき1回の割合でパルス化されると、3ボルトの初期イオンビーム134をパルス化することで、20ボルトの並進エネルギーを持つ初期イオンビーム134をパルス化するのと比べて、デューティサイクル及び感度を2.6倍向上することができる。断面が小さく、平均エネルギーが低減されたイオンビーム135搬送用の多重極イオンガイドを用いることで、API/TOFシステムの性能を、単なる静電圧レンズを用いた場合よりも遥かに向上することができる。
【0030】
多重極イオンガイドの特徴のうち、所定範囲のm/zのイオンを選択的に通過させ、範囲外のm/zのイオンの搬送を遮断する点は、API/TOFシステムでのデューティサイクル及び検出器の感度を向上させるのに利用される。デューティサイクルは、パルス領域135に進入するm/zの範囲を狭めることで、TOFシステムにおいて向上される。図5,6,7を参照すると、多重極イオンガイドan及びqn値は、イオンガイドがm/zの搬送遮断点を持つローパスフィルタやハイパスフィルタとして動作するように設定することができる。また、各隣接するポールが逆DC極性を有するようなポールにDC電位が印加されると、an及びqn値は、多重極イオンガイドがより幅狭いm/zの範囲内のイオンを通過させるように設定することができる。通常、4重極イオンガイドは、このモードで、2×10-5Torr以下に維持された真空圧領域において、マスフィルタとして利用される。なお、この真空圧領域は、バックグラウンドガスとのイオン衝突による影響を無視できるレベルである。また、+又は−DC電位を適当なバックグラウンド圧の下で多重極ロッドに印加したとき、各種多重極イオンガイドやマスフィルタ組立体の搬送特性を試験して特定しなければならない。an及びqn値のイオン搬送マッピングは、異なる数のポールや異なるバックグラウンド圧で動作する多重極イオンガイド間では同じ結果でないかもしれない。特に、TOF装置のデューティサイクルに影響する変数としては、イオンが飛行管内をパルス化され、加速され検出される繰り返し数がある。仮に、パルス領域135がパルス間を埋めることができる場合、すなわち初期イオンビーム134エネルギーがこの基準を満足するように設定される場合、パルスの繰り返し数は、連続するイオン束が飛行管127を通って検出器へと移動する際における、最低のm/zを有するイオンの最も速い飛行時間と、最高のm/zを有するイオンの最も遅い飛行時間とで限定される。あるパルス化されたイオン束から次のイオン束へとイオンが重なり合っていると、結果として得られるマススペクトルを解読するのがより困難となる。そのため、低い、又は高いm/zのイオンが所定の分析にて対象となっていない場合、多重極ロッド118の動作に対して適当なan及びqn値を選択することによって、これらイオンがパルス領域に入っているのを回避することができる。また、イオン束が飛行管を下っていく際のイオン束の到着時間幅を狭めることによって、パルス間の時間を減らすことができ、結果的にデューティサイクルを増加することとなる。
【0031】
例えば、図10に示すAPI/MSシステムでは、有効イオン飛行距離が2.5mであり、飛行管イオン加速エネルギーが1500電子ボルト(ev)である。近接するイオンm/z間のTOF検出器への到着時間差が、大きいほど、理論上、得られる分解能が高度であるといえる。しかしながら、API源からの連続イオンビームの場合、イオン束の到着時間幅を増加させることにより分解能を向上する方法は、却ってデューティサイクルを低減しうる。具体的には、イオン加速エネルギーが1500evでの2.5mのTOF飛行管内の相対飛行時間は、m/zの値によって次のようになる。
m/z 飛行時間(μ秒)
1 4.6
19 20.3
100 46.5
500 103.9
1000 146.9
2000 207.8
3000 254.5
5000 328.6
10000 464.7
【0032】
パルス化されたイオン束内のイオンの最速の飛行時間から最遅の飛行時間を差し引くことにより、追跡パルス側のm/zの低いイオンが、引率パルス側のm/zの高いイオンに追いつくのを回避すべく、連続するパルス間に必要とされる最小時間を決定する。例えば、プロトン化した水(m/z19)からm/z3000の範囲のm/zを有するイオンがパルスイオン束に存在する場合、255μ秒の遅延時間が連続するパルス間で維持されねばならず、これにより1秒間に約3921パルスが可能となる。m/zが3000以下で、並進エネルギーが3ボルトのイオンを有する初期イオンビーム134は、45μ秒以下で2cmのパルスギャップ135を埋める。飛行管に入るイオンのパルス間の遅延時間が長いほど、デューティサイクルは低下し、所定の初期イオンビーム強度に対する感度が低下する。仮に、所定の分析において対象とするイオンが、より幅狭いm/z窓、例えばm/zが1000以下の範囲に属するものである場合、多重極イオンガイドのan及びqn値を、m/zが1000以下のイオンだけを通過させるように設定すれば良い。このとき、パルス間の最小遅延時間が、147μ秒に低減されると、デューティサイクル及び電位的感度を1.7倍効果的に向上させることができる。その逆に、対象とする質量範囲がm/z500以上で、初期イオンビームに存在するイオンのm/zが2000m/z以下である場合、多重極イオンガイド118の動作用an及びqn値は、500m/z以下のイオンを排除するように設定すれば良い。また、イオン束のパルス周波数は、1秒あたり9500パルスを超えるように設定されると、パルス領域135に進入する全てのm/z値に対するデューティが増加する。
【0033】
積層型マルチチャネルプレート(MCP)電子増倍部は、しばしばTOF型質量分析計における検出器として用いられる。MCPチャネルの個別チャネルリカバリー時間は、イオンがヒットし電子カスケードを生じた後、1ミリ秒ほどが良い。イオンが回復する前にチャネルへヒットすると、ほとんど又は全く電子カスケードは生じず、イオンは検出されないままである。所定のパルス化されたイオン束で最初に検出器に到着した低いm/zのイオンは、後に続く重いm/zのイオンのチャネルを弱めうる。また、イオン束パルス数が、1000ヘルツを超えると、即ちMCPチャンネルリカバリー時間よりもパルス間の時間が短いと、これにより、信号強度を低減することになる。というのも、先行するパルスからのイオンは多くのチャネルを弱めるため、検出器に到着したイオンが二次的な電子カスケード強度を減じるからである。さらに、所定の質量分析で対象とするイオンが限られたm/zの範囲内にある場合、不要なm/zのイオンが検出器に到着するのを防ぐことにより、対象とするイオンに対する検出器の応答を向上させることができる。多重極イオンガイド118のm/z搬送窓は、パルス領域135に入ってくる不要なm/z値のイオン数を最小限とし、且つ検出器に到達する不要なm/z値のイオン数を減らすように選択することが可能である。
【0034】
イオンを選択的に検出器に到達しないようにするには、イオン束の一部が検出器に到達する前にTOF飛行管を移動する間に、これを偏向させることによっても実現できる。イオン偏向用のイオンレンズを、図10中記号132で示す。TOFのパルス領域に進入するイオンのm/zを限定するために多重極レンズを使用する技術は、飛行管での偏光部材の使用を補足する技術である。但し、偏光レンズは、これらがm/z分離能の低いイオンフライト経路中の早い段階で用いられない限り、デューティサイクルを増加する手助けにはならない。Boyle,Whitehouse and Fenn(Rapid Communications in Mass Spectrum.Vol.5,400−405,1991)の報告によれば、線形パルスのAPI/MSシステムは、垂直パルスTOF構造と同様に、上流側の真空ポンプ段に多重極イオンガイドを組み込むことで、感度やデューティーサークルを向上することができる。
【0035】
API源がイオントラップ型やFT−ICR型質量分析計に接続される場合に、真空ポンプイオン搬送光学系に多重極イオンガイドを利用すると、質量分析計のトラップ領域へのイオン搬送効率を向上させ、イオンエネルギー幅を低くし、所定幅のm/zイオンを選択的に搬送することで所望のm/zの範囲に対する空間電荷制限を縮小することにより、性能を向上することができる。また、m/zの範囲のイオンに亘ってイオンエネルギー及びエネルギー幅を低くすることで、イオントラップ型やFT−ICR型質量分析計でのトラップ効率を向上する手助けとなる。イオントラップ型質量分析計と接続して用いた多重ポンプ段の多重極イオンガイドの一実施形態は、図2に示した4重極型質量分析計をイオントラップで置き換えることで構成できる。つぎに、本発明の他の実施形態を図11に示す。図11は、3重真空ポンプ段のAPI/イオントラップシステムを示しており、これは多重極イオンガイドが真空ポンプ段148から始まり、連続して3つの真空ポンプ段を通って延設された構造である。エレクトロスプレー、即ち噴霧器を有するエレクトロスプレーは、図示するように、イオントラップ型質量分析計154に接続される。試料溶液は、エレクトロスプレーニードル口140に導入されて、エレクトロスプレーされ、即ち噴霧器により電気的噴霧されて、エレクトロスプレーニードル先端141から放出される。エレクトロスプレーチャンバー142で生成された帯電液滴は、逆流乾燥ガス164のガス流に抗してキャピラリー口144に向かって吹き流される。イオンは、蒸発する帯電液滴から生成され、キャピラリー145を通して真空中へと流される。このキャピラリーは、キャピラリーを通って真空中へ広がるガスを加熱するキャピラリーヒーター146により過熱されても良い。キャピラリーの出口部147から出てきたイオンは、中性ガスの自由噴霧により第1の真空ポンプ段148中へ加速される。キャピラリーに存在したイオンの大部分は、多重極イオンガイド165に入って、ガイドの全長に沿って効果的にトラップされ輸送される。そして、イオンは第3真空ポンプ段151の多重極イオンガイド165から出て、レンズ162によりエンドプレート155を通ってイオントラップ154へと収束される。このとき、イオントラップをある角度に向けることで、イオンをエンドキャップとRF電極との間の隙間を通してイオントラップ中へ導入することもできる。真空ポンプ段148の圧力は、キャピラリー145の内径や長さ、また真空ポンプ段の寸法やキャピラリーヒーターが作動する温度に応じて、0.1〜2Torrの範囲とすることができる。第3の真空ポンプ段151は、電子増倍検出器152を適切に機能させるために、たいてい5×10-5Torr以下の圧力に保たれるが、内部のトラップ圧は、トラップ154中にヘリウムガスを直接導入することでポンプ段151におけるバックグラウンド圧よりも高圧に設定されることがある。ポンプ段157の圧力は、通常、150mTorr以下に保たれている。
【0036】
多重極イオンガイド165は、ロッド、即ちポール150から構成されており、ポンプ段148から始まり、途切れなくポンプ段157を通ってポンプ段151へと延びている。絶縁性の搭載ブラケット156,158は、多重極ロッド組立体を支持する目的と、バックグラウンドガスが下流側のポンプ段へと流れるのを最小限とすべく真空チャンバーを仕切る目的との2つの目的を果たすものである。図12に、絶縁体156からなる6重極イオンガイド組立体の断面図を示す。6つのロッド160が、等間隔で且つ中心線から等しいラジアル距離の位置に、絶縁体156に取り付け保持されている。絶縁体は、動作中に6重極ロッドにより多重極ロッド組立体の断面領域161内に生じる静電場を乱すことなく、内部穴の有効断面領域を最小限とするように構成される。具体的には、ロッドの直径を約0.5mmとし、ロッド内側のスペース166を2mmとして、中性ガスが下流側の真空ポンプ段へ流れるのを最小限に抑え、必要な真空ポンプのサイズ及びコストを低減するようにした。また、絶縁体156,158の軸方向の長さを延ばすことで、中性ガスが一方の真空ポンプ段から次の真空ポンプ段へ移るのを抑えるようにしている。イオンガイド組立体では、内側断面領域161が小さいほど、それに比例してロッド160径も小さくなり、多重極イオンガイドを出るイオンビームの断面も小さくなる。したがって、多重極イオンガイド165を通って搬送されレンズ162から出てくるイオンビームの断面が小さければ小さいほど、イオントラップ端板155に求められる有効開口サイズも小さくなる。
【0037】
多重極イオンガイド165は、バックグラウンドガス圧の勾配を通してイオンを効果的に輸送することができる。図8a,b,cに示したように、イオンのエネルギー幅は、イオンがバックグラウンドガスとの衝突で生じる低減効果により低減される。そして、エネルギー幅が狭く且つ平均エネルギーが低いイオンがイオントラップ154に入ると、より高度なトラップ効果が実現できる。さらに、このトラップ効果の向上により、イオントラップ154に入る所定イオン電流に対して高度な感度が得られる。このように、所定のm/zの範囲のイオンの搬送を多重極イオンガイド165を通して選択的に遮断することで、イオントラップ型質量分析計における感度や信号動的領域を向上させることができる。イオントラップは、まず最初にイオンをトラップしてから、トラップされたイオン束に対して質量分析を行うようにしなければならない。イオントラップによれば、測定したm/zをシフトさせたり、分解能を低下させるといった空間帯電効果を受けないように、特定の限られた数のイオンだけを保持することができる。所定の質量分析をするに際し、多重極イオンガイドのan及びqn値は、出口レンズ162及びイオントラップ端板155を通ってイオントラップ154に搬送されるイオンのm/zの範囲を狭めるように設定することができる。これにより、所定の質量分析において対象としないm/zのイオンから空間帯電効果を低減することによって、対象とするm/zのイオンに対する信号応答の動的範囲を広げる。例えば、図5aのスペクトルに見られる不純物ピーク85,86及び溶媒関連ピーク87,88は、帯電イオンでトラップを満たし、アルギニンピーク90がイオントラップ中に見られる信号強度範囲を狭めるようにしている。なぜならば、低いm/zピークは、イオントラップ内に到達される空間帯電に限界をもたらす大きな要因である。図5bのスペクトルに示されるように、多重極イオンガイドのan及びqn値が低いm/zのイオンを遮断するように設定されると、アルギニンピーク91は、トラップに進入する最初のイオン源となり、その結果、S/N比がより高い動的範囲を有してもむしろ空間帯電効果は見られない。このように、スペクトル内の動的範囲が増加することは、微量分析や正確な相対ピーク高さが溶液中の相対濃度を図るのに必要となる分析では、特に重要である。
【0038】
FT−ICR型質量分析計もまた、イオンをトラップし、イオン束に対して質量分析を行う。イオントラップ型質量分析計と同様に、API/FT−ICR MS装置の性能は、イオン運動エネルギーの低減が生じる真空圧下で多重極イオンガイドを動作させ、所定のm/zのイオンエネルギー幅を狭めることにより、向上することができる。ここでは、所定の質量分析にて対象としたm/z値のFT−ICR MSにおける動的範囲を効果的に増加するというよりも、むしろFT−ICR MSトラップセルにおける空間帯電限界による効果を、上述したイオントラップ型質量分析計と同様にして低減することができる。これらのイオンガイドの有効内径が小さいほど、小さな断面のイオンビームが発生するため、開口サイズの低減が可能となり、より小さなオリフィスを通過してもイオン搬送効率に大幅な減少のないFT−ICR型質量分析計とすることができる。
【0039】
様々な構成のハイブリッドAPI質量分析計が報告されており、これら装置の性能が真空イオン輸送領域に多重極イオンガイドを組み込むことで向上することが知られている。Chien,Michael and Ludman(Anal.Chem.,vol.65,1916−1924,1993)らは、API源からのイオンをトラップし、これらをTOF型質量分析計飛行管内へパルス化して輸送すべく、イオントラップを用いている。特に、多重極イオンガイドは、イオンを高圧真空領域からAPI/イオントラップ/TOF装置内のイオントラップへと輸送するのに、特に上流側の真空ポンプ段で用いるのが効果的で良い。
【0040】
何れの質量分析計も、それ自身のイオンエネルギー、イオン入射光学系、及び真空について各条件がある。多重極イオンガイド、中でも特に2つ以上の真空ポンプ段を通って延びる多重極イオンガイドの構成は、それらを組み込む装置の性能を最大限高めるように、形状上及び使用上の観点から調整できる。但し、装置形状によっては、単一ポンプ段の多重極イオンガイドを用いても良いものもある。例えば、API/MS TOFシステム及びイオントラップシステムにおいて多重極イオンガイドを構成するには、図13及び図14に示すような2つのバリエーションがある。図13は、3重真空ポンプ段API/イオントラップ型質量分析計システムを示す図であり、多重極イオンガイド170が真空ポンプ段172内に位置し、真空ポンプ段171からスキマーオリフィス176を通過するイオンが、軸から遠く離れてラジアル方向に移動するのをトラップにより防ぎ、イオンガイド170を通過して搬送される。イオンガイド170を出たイオンは、出口レンズ175によりエンドプレート174を介してイオントラップ177内へ収束される。このとき、イオントラップ・エンドプレートの開口178は、第3の真空ポンプ段173へのオリフィスとしても機能する。イオンは、イオントラップ電極の異なるギャップや開口を通ってイオントラップへと注入されるが、この構成は一例にすぎない。真空ポンプ段172の真空圧及び多重極イオンガイド170長は、イオンのバックグラウンド中性ガスとの衝突による低減効果を十分生じるように設定することができ、その結果、所定のm/zのイオンエネルギー幅を狭めることとなる。なお、単一真空ポンプ段に多重極イオンガイドを用いる場合は、連続真空ポンプ段に多重極イオンガイドを用いる場合に可能であった性能向上と真空ポンプのコストダウンとの最適な機能交換をすることはできないが、静電圧レンズ構造を用いた場合と比較すると、実現可能な性能上の利点がある。
【0041】
多重極イオンガイド使用の他の実施形態としては、2つ以上のイオンガイドを連続する真空ポンプ段に組み込むという構成がある。これは、異なるan及びqn値をイオンガイド毎に設定することができるが、結果的にシステムを複雑としコスト高となる。図14は、4重真空ポンプ段のAPI/TOF型質量分析計システムを示す図であり、真空ポンプ段184,185の各々に配された単一真空ポンプ段用の多重極イオンガイド180,181を備えている。真空ポンプ段183内のイオンは、スキマー190を通ってイオンガイド180に進入する。イオンガイド180によって真空ポンプ段184を通って輸送されるイオンは、多重極イオンガイド180の出口側のレンズ187により開口194を通して収束される。次いで、イオンは、真空ポンプ段185の第2イオンガイド181内に進入し、多重極イオンガイド181を出た後、開口189を通してレンズ188により収束される。開口189を通って真空ポンプ段186へ入ったイオンは、レンズ191により垂直方向にパルス化されてTOF型質量分析計192に向かう。ここで、多重極イオンガイドは、TOF装置のデューティサイクル及び感度を最適化するように設定された別個のan及びqn値に基づいて駆動される。なお、連続多重真空ポンプ段の多重極イオンガイドの構成と同様に、図14に示したようなデュアル型多重極イオンガイドは、イオンエネルギー幅を低減でき、低いエネルギーイオンを質量分析計へ移送することができる。但し、デュアル型多重極イオンガイドの構成では、2重極組立体180,181間の静電圧レンズ187,195の領域で、イオン搬送効率の損失が生じる可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】静電レンズ構造を真空ポンプ段1〜3に組み込んだ構成とした4重真空ポンプ段のES/MS4重極装置を示す図である。
【図2】多重極イオンガイドを第2真空ポンプ段から連続して第3真空ポンプ段へと延設させた構成とした4重真空ポンプ段のES/MS4重極装置を示す図である。
【図3a】m/zが110のイオンが所定範囲内のqn値にて2重真空ポンプ段の多重極イオンガイドを通過する際のイオン搬送効率を示す図である。
【図3b】m/zが872のイオンが所定範囲内のqn値にて2重真空ポンプ段の多重極イオンガイドを通過する際のイオン搬送効率を示す図である。
【図3c】m/zが1743のイオンが所定範囲内のqn値にて2重真空ポンプ段の多重極イオンガイドを通過する際のイオン搬送効率を示す図である。
【図4】2重真空ポンプ段の多重極イオンガイドのqn値を幅広いm/zの範囲内のイオンを通過させるように設定した場合のグルカゴンのマススペクトルである。
【図5a】多重極イオンガイドのqn値を幅広いm/zの範囲内のイオンを通過させるように設定した場合のアルギニンのエレクトロスプレーマススペクトルである。
【図5b】多重極イオンガイドのqn値をm/zの低いイオンの搬送を遮断するように設定した場合のアルギニンのマススペクトルである。
【図6a】多重極イオンガイドのqn値を幅広いm/zの範囲内のイオンを通過させるように設定した場合のグラミシジンSのエレクトロスプレーマススペクトルである。
【図6b】多重極イオンガイドのqn値をm/zの低いイオンの搬送を遮断するように設定した場合のグラミシジンSのマススペクトルである。
【図7a】多重極イオンガイドのqn値を幅広いm/zの範囲内のイオンを通過させるように設定した場合のアルギニン、ロイシンエンケファリン、及びグラミシジンSの混合物のエレクトロスプレーマススペクトルである。
【図7b】多重極イオンガイドのqn値をm/zの高いイオンの搬送を遮断するように設定した場合のアルギニン、ロイシンエンケファリン、及びグラミシジンSの混合物のマススペクトルである。
【図8a】多重極イオンガイドのDCオフセット電位を0.1ボルトに設定した場合のm/z571のイオン信号対多重極イオンガイド出口側レンズ電位の関係を示す曲線である。
【図8b】多重極イオンガイドのDCオフセット電位を15.3ボルトに設定した場合のm/z571のイオン信号対多重極イオンガイド出口側レンズ電位の関係を示す曲線である。
【図8c】多重極イオンガイドのDCオフセット電位を25.1ボルトに設定した場合のm/z571のイオン信号対多重極イオンガイド出口側レンズ電位の関係を示す曲線である。
【図9】多重極イオンガイドのDCオフセット電位を0.1ボルトに設定した条件でスキャンした場合の2価のグラミシジンSイオンのピークを示すスペクトルである。
【図10】第2真空ポンプ段から第3真空ポンプ段へと延びる多重極イオンガイドを備え、垂直パルスを用いる4重真空ポンプ段のES/MS飛行時間型質量分析装置を示す図である。
【図11】第1真空ポンプ段から第2真空ポンプ段を通り第3真空ポンプ段へと延びる多重極イオンガイドを備える3重真空ポンプ段のES/MSイオントラップ型質量分析装置を示す図である。
【図12】電気的絶縁性の搭載ブラケットを備える6重極イオンガイドの断面図である。
【図13】第2真空ポンプ段に配された単一真空ポンプ段の多重極イオンガイドを備える3重真空ポンプ段API/MSイオントラップ型質量分析装置を示す図である。
【図14】第2及び第3真空ポンプ段の各々に配した単一真空ポンプ段多重極イオンガイドを備える4重真空ポンプ段API/垂直パルスTOF型質量分析装置を示す図である。
【符号の説明】
7,12,20,24 真空ポンプ段
18 マスフィルタ
40 多重極イオンガイド
41,42,53,54 真空ポンプ段
57 マスフィルタ
117,119,126,133 真空ポンプ段
118 多重極イオンガイド
148,151,157 真空ポンプ段
165 多重極イオンガイド
170 多重極イオンガイド
171,172,173 真空ポンプ段
180,181 多重極イオンガイド
184,185,186 真空ポンプ段

Claims (117)

  1. (a)ほぼ大気圧で作動し、試料からイオンを生成するイオン源と、
    (b)それぞれが部分的に真空状態を生成するためのガスを排出する手段を有し、第1真空ポンプ段は前記イオン源と連絡しており、複数の前記イオンは前記イオン源から前記第1真空ポンプ段に流入でき、また、真空ポンプ段はお互いに連絡しており、複数の前記イオンは、前記第1真空ポンプ段から連続する前記真空ポンプ段を通って流入できる、複数の真空ポンプ段と、
    (c)前記真空ポンプ段の少なくとも1つに配置された質量分析計および検出器と、
    (d)前記真空ポンプ段のうちの1つから始まり、連続する前記真空ポンプ段のうちの少なくとも1つの次に続く真空ポンプ段に延び、複数の前記真空ポンプ段を通って延設される多重極イオンガイドと、
    (e)前記多重極イオンガイドに電圧を印加するための電圧印加手段とを備えることを特徴とする化学種分析のための装置。
  2. 請求項1において、
    前記イオン源は、エレクトロスプレーイオン源であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  3. 請求項1において、
    前記イオン源は、大気圧化学イオン化源であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  4. 請求項1において、
    前記イオン源は、誘導結合プラズマイオン源であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  5. 請求項1において、
    前記多重極イオンガイドは、6重極であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  6. 請求項1において、
    前記多重極イオンガイドは、4重極であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  7. 請求項1において、
    前記多重極イオンガイドは、複数の極を有することを特徴とする化学種分析のための装置。
  8. 請求項1において、
    前記質量分析計は、4重極マスフィルタであることを特徴とする化学種分析のための装置。
  9. 請求項1において、
    前記質量分析計は、磁場型質量分析計であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  10. 請求項1において、
    前記質量分析計は、飛行時間型質量分析計であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  11. 請求項1において、
    前記質量分析計は、垂直パルス飛行時間型質量分析計であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  12. 請求項1において、
    前記質量分析計は、ハイブリッドイオントラップ飛行時間型質量分析計であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  13. 請求項1において、
    前記質量分析計は、イオントラップ型質量分析計であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  14. 請求項1において、
    前記質量分析器は、フーリエ変換型質量分析計であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  15. 請求項1において、
    前記真空ポンプ段を、3つ備えることを特徴とする化学種分析のための装置。
  16. 請求項1において、
    前記真空ポンプ段を、4つ備えることを特徴とする化学種分析のための装置。
  17. 請求項1において、
    前記多重極イオンガイドは、2つの前記真空ポンプ段を連続して通って延びることを特徴とする化学種分析のための装置。
  18. 請求項17において、
    前記多重極イオンガイドは、前記第1真空ポンプ段から始まり、連続して第2真空ポンプ段へと延びることを特徴とする化学種分析のための装置。
  19. 請求項17において、
    前記多重極イオンガイドは、前記第2真空ポンプ段から始まり、連続して第3真空ポンプ段へと延びることを特徴とする化学種分析のための装置。
  20. 請求項1において、
    前記多重極イオンガイドは、3つの前記真空ポンプ段を連続して通って延びることを特徴とする化学種分析のための装置。
  21. 請求項1において、
    前記多重極イオンガイドは、前記第1真空ポンプ段から始まることを特徴とする化学種分析のための装置。
  22. 請求項1において、
    前記多重極イオンガイドは、第2真空ポンプ段から始まることを特徴とする化学種分析のための装置。
  23. 請求項1において、
    前記多重極イオンガイドは、1つの前記真空ポンプ段から始まり、次に続く複数の前記真空ポンプ段を連続して通って延びることを特徴とする化学種分析のための装置。
  24. 請求項1において、
    前記多重極イオンガイドは、AC及びDC電圧を前記多重極イオンガイドへ印加するための手段を有すことを特徴とする化学種分析のための装置。
  25. 請求項24において、
    前記多重極イオンガイドへ印加される前記AC及びDC電圧とAC周波数とを調整できることを特徴とする化学種分析のための装置。
  26. 請求項25において、
    前記AC周波数は一定で、前記AC電圧の振幅および前記DC電圧を調整できることを特徴とする化学種分析のための装置。
  27. 請求項25において、
    前記AC周波数および前記AC及びDC電圧は、前記多重極イオンガイドを搬送されるイオンの質量電荷比の範囲を制限するように設定することを特徴とする化学種分析のための装置。
  28. 請求項27において、
    前記AC周波数は一定であり、前記AC電圧の振幅および前記DC電圧は、前記多重極イオンガイドを搬送されるイオンの質量電荷比の範囲を制限するように調整されることを特徴とする化学種分析のための装置。
  29. 請求項1において、
    前記多重極イオンガイドの一部が配置された少なくとも1つの前記真空ポンプ段のバックグラウンドガス圧が、イオンの運動エネルギーを低減するのに十分高いことを特徴とする化学種分析のための装置。
  30. (a)ほぼ大気圧で作動し、試料からイオンを生成するイオン源と、
    (b)それぞれが部分的に真空状態を生成するためのガスを排出する手段を有し、第1真空ポンプ段は前記イオン源と連絡しており、複数の前記イオンは前記イオン源から前記第1真空ポンプ段に流入でき、また、真空ポンプ段はお互いに連絡しており、複数の前記イオンは、前記第1真空ポンプ段から連絡する前記真空ポンプ段を通って流入できる、複数の真空ポンプ段と、
    (c)イオンのパルス領域および飛行管を有し、前記イオンのパルス領域および前記飛行管が少なくとも前記真空ポンプ段の1つにそれぞれ設置された、飛行時間型質量分析計および検出器と、
    (d)少なくとも1つの前記真空ポンプ段に設置された少なくとも1つの多重極イオンガイドと、
    (e)前記多重極イオンガイドに電圧を印加するための電圧印加手段とを備えることを特徴とする化学種分析のための装置。
  31. 請求項30において、
    前記イオン源は、エレクトロスプレーイオン源であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  32. 請求項30において、
    前記イオン源は、大気圧化学イオン化源であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  33. 請求項30において、
    前記イオン源は、誘導結合プラズマイオン源であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  34. 請求項30において、
    前記多重極イオンガイドは、6重極であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  35. 請求項30において、
    前記多重極イオンガイドは、4重極であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  36. 請求項30において、
    前記飛行時間型質量分析計は、前記イオンのパルス領域から前記飛行管に前記イオンを垂直パルス化する手段を備えたことを特徴とする化学種分析のための装置。
  37. 請求項30において、
    前記飛行時間型質量分析計は、前記イオンのパルス領域から前記飛行管に前記イオンを直列パルス化する手段を備えたことを特徴とする化学種分析のための装置。
  38. 請求項30において、
    前記飛行時間型質量分析計は、前記イオンのパルス領域から前記飛行管に前記イオンをパルス化するイオントラップを備えたことを特徴とする化学種分析のための装置。
  39. 請求項30において、
    少なくとも1つの前記多重極イオンガイドは、前記真空ポンプ段の1つに設置され、前記多重極イオンガイドは、同じ前記真空ポンプ段から始まり終わることを特徴とする化学種分析のための装置。
  40. 請求項39において、
    前記質量分析計のそれぞれの前記多重極イオンガイドは、それぞれの真空ポンプ段から始まり終わることを特徴とする化学種分析のための装置。
  41. 請求項30において、
    少なくとも1つの前記多重極イオンガイドは、前記真空ポンプ段の1つから始まり、少なくとも1つの連続する真空ポンプ段へ延びることを特徴とする化学種分析の方法。
  42. 請求項30において、
    少なくとも1つの前記多重極イオンガイドが設置された少なくとも1つの前記真空ポンプ段のバックグラウンドガス圧が、イオンの運動エネルギーを低減するのに十分高いことを特徴とする化学種分析のための装置。
  43. 請求項30において、
    前記イオンガイドは、前記飛行時間型質量分析計に導入される前記イオンのエネルギーを選択する手段として、AC及びDC電圧を印加されることを特徴とする化学種分析のための装置。
  44. 請求項43において、
    前記多重極イオンガイドに印加される前記AC及びDC電圧は、前記多重極イオンガイドを搬送されるイオンの質量電荷比の範囲を制限できるように設定できることを特徴とする化学種分析のための装置。
  45. 請求項44において、
    前記多重極イオンガイドに印加される前記AC及びDC電圧は、前記飛行時間型質量分析計のデューティーサイクルを増加させるように設定できることを特徴とする化学種分析のための装置。
  46. 請求項44において、
    前記多重極イオンガイドに印加される前記AC及びDC電圧は、前記飛行時間型質量分析計の検出器の休止時間を減少させるように設定できることを特徴とする化学種分析のための装置。
  47. (a)試料からイオンを生成するイオン源と、
    (b)それぞれが部分的に真空状態を生成するためのガスを排出する手段を有し、第1真空ポンプ段は前記イオン源と連絡しており、複数の前記イオンは前記イオン源から前記第1真空ポンプ段に流入でき、また、真空ポンプ段はお互いに連絡しており、複数の前記イオンは、前記第1真空ポンプ段から連絡する前記真空ポンプ段を通って流入できる、複数の真空ポンプ段と、
    (c)前記真空ポンプ段のうちの1つから始まり、連続する前記真空ポンプ段のうちの少なくとも1つの次に続く真空ポンプ段に延び、複数の前記真空ポンプ段を通って延設される多重極イオンガイドと、
    (d)前記真空ポンプ段の少なくとも1つに設置されたイオン分析のための質量分析計と、
    (e)前記多重極イオンガイドに電圧を印加するための電圧印加手段とを備えることを特徴とする化学種分析のための装置。
  48. 請求項47において、
    前記イオン源は、エレクトロスプレーイオン源であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  49. 請求項47において、
    前記イオン源は、大気圧化学イオン化源であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  50. 請求項47において、
    前記イオン源は、誘導結合プラズマイオン源であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  51. 請求項47において、
    前記多重極イオンガイドは、6重極であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  52. 請求項47において、
    前記多重極イオンガイドは、4重極であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  53. 請求項47において、
    前記多重極イオンガイドは、複数の極を有することを特徴とする化学種分析のための装置。
  54. 請求項47において、
    前記質量分析計は、4重極マスフィルタであることを特徴とする化学種分析のための装置。
  55. 請求項47において、
    前記質量分析計は、磁場型質量分析計であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  56. 請求項47において、
    前記質量分析計は、飛行時間型質量分析計であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  57. 請求項47において、
    前記質量分析計は、垂直パルス飛行時間型質量分析計であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  58. 請求項47において、
    前記質量分析計は、ハイブリッドイオントラップ飛行時間型質量分析計であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  59. 請求項47において、
    前記質量分析計は、イオントラップ型質量分析計であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  60. 請求項47において、
    前記質量分析計は、フーリエ変換型質量分析計であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  61. (a)ほぼ大気圧で作動し、試料からイオンを生成するイオン源と、
    (b)それぞれが部分的に真空状態を生成するためのガスを排出する手段を有し、第1真空ポンプ段は前記イオン源と連絡しており、複数の前記イオンは前記イオン源から前記第1真空ポンプ段に流入でき、また、真空ポンプ段はお互いに連絡しており、複数の前記イオンは、前記第1真空ポンプ段から連絡する前記真空ポンプ段を通って流入できる、複数の真空ポンプ段と、
    (c)前記真空ポンプ段のうちの1つから始まり、連続する前記真空ポンプ段のうちの少なくとも1つの連続する真空ポンプ段に延び、複数の前記真空ポンプ段を通って延設される多重極イオンガイドと、
    (d)イオンのパルス領域および飛行管を有し、前記イオンのパルス領域および前記飛行管が少なくとも前記真空ポンプ段の1つにそれぞれ設置された、垂直パルス飛行時間型質量分析計および検出器と、
    (e)前記多重極イオンガイドに電圧を印加するための電圧印加手段とを備えることを特徴とする化学種分析のための装置。
  62. 請求項61において、
    前記イオン源は、エレクトロスプレーイオン源であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  63. 請求項61において、
    前記イオン源は、大気圧化学イオン化源であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  64. 請求項61において、
    前記イオン源は、誘導結合プラズマイオン源であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  65. 請求項61において、
    前記多重極イオンガイドは、6重極であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  66. 請求項61において、
    前記多重極イオンガイドは、4重極であることを特徴とする化学種分析のための装置。
  67. 請求項61において、
    前記多重極イオンガイドは、複数の極を有することを特徴とする化学種分析のための装置。
  68. 請求項61において、
    少なくとも1つの前記多重極イオンガイドが配置された少なくとも1つの前記真空ポンプ段中のバックグラウンドガス圧をイオンの運動エネルギーを低減するのに十分高くし、前記多重極イオンガイドを搬送される所定の質量電荷比の前記イオンのエネルギー幅を減少させることを特徴とする化学種分析のための装置。
  69. 請求項61において、
    前記イオンガイドは、前記飛行時間型質量分析計に導入される前記イオンのエネルギーを選択する手段として、AC及びDC電圧を印加されることを特徴とする化学種分析のための装置。
  70. 請求項69において、
    前記多重極イオンガイドに印加される前記AC及びDC電圧は、前記多重極イオンガイドを搬送されるイオンの質量電荷比の範囲を制限できるように設定できることを特徴とする化学種分析のための装置。
  71. 請求項70において、
    前記多重極イオンガイドに印加される前記AC及びDC電圧は、前記飛行時間型質量分析計のデューティーサイクルを増大させるように設定できることを特徴とする化学種分析のための装置。
  72. 請求項70において、
    前記多重極イオンガイドに印加されるAC及びDC電圧は、前記飛行時間型質量分析計の検出器の休止時間を減少させるように設定できることを特徴とする化学種分析のための装置。
  73. (a)試料からイオンを生成するイオン源と、
    (b)それぞれが部分的に真空状態を生成するためのガスを排出する手段を有し、第1真空ポンプ段は前記イオン源と連絡しており、複数の前記イオンは前記イオン源から前記第1真空ポンプ段に流入でき、また、真空ポンプ段はお互いに連絡しており、複数の前記イオンは、前記第1真空ポンプ段から連絡する前記真空ポンプ段を通って流入できる、複数の真空ポンプ段と、
    (c)複数の前記真空ポンプ段を通って、前記真空ポンプ段のうちの1つから始まり、連続する前記真空ポンプ段のうちの少なくとも1つの次に続く真空ポンプ段に延び、複数の前記真空ポンプ段のうち少なくとも1つがバックグラウンドガス圧を複数の前記イオンとの衝突を促進するのに十分高く維持されて設置される多重極イオンガイドと、
    (d)前記真空ポンプ段の少なくとも1つに設置された前記イオンの分析のための質量分析計と、
    (e)前記多重極イオンガイドに電圧を印加するための電圧印加手段とを備えることを特徴とする化学種分析のための装置。
  74. (a)試料からイオン源へ導入されるイオンを生成することと、
    (b)複数の前記イオンを第1真空ポンプ段および次に続く多重極イオンガイドへ導入することと、
    (c)複数の前記イオンを前記多重極イオンガイドを通して輸送し、質量分析計へ導入して、化学種を分析するため、前記多重極イオンガイドのロッドへAC及びDC電圧を印加することとを備えることを特徴とする、イオン源と、複数の真空ポンプ段を有する真空システムと、質量分析計と、前記真空ポンプ段のうち少なくとも1つ以上の真空ポンプ段を通って延設される多重極イオンガイドと、前記多重極イオンガイドに電圧を印加する電圧印加手段とを利用する化学種分析のための方法。
  75. 請求項74において、
    前記イオン生成の過程は、ほぼ大気圧で行われることを特徴とする化学種分析のための方法。
  76. 請求項75において、
    前記イオン源へ導入される前記試料は、溶液であることを特徴とする化学種分析のための方法。
  77. 請求項74において、
    さらに、前記多重極イオンガイドの少なくとも一部の圧力を、前記イオンガイド中の前記イオンの、中性ガス分子との衝突により運動エネルギーを低減させるように十分高く保つことを特徴とする化学種分析のための方法。
  78. 請求項74において、
    さらに、DC電圧は、前記イオンガイドから搬送される前記イオンのエネルギーが安定するように設定されるレベルに、前記イオンガイドのロッドへ印加される過程を含むことを特徴とする化学種分析のための方法。
  79. 請求項74において、
    前記イオンガイドのロッドへ印加される前記AC及びDC電圧は、前記イオンガイドを通過する前記イオンのm/zの範囲を制限するように設定されていることを特徴とする化学種分析のための方法。
  80. 請求項79において、
    前記イオンガイドの前記AC及びDC電圧は、イオントラップ型質量分析計の分析能力を向上するために、前記イオンガイドを通過する前記イオンのm/zの範囲を制限するように設定されていることを特徴とする化学種分析のための方法。
  81. 請求項79において、
    前記イオンガイドの前記AC及びDC電圧は、フーリエ変換型質量分析計の分析能力を向上するために、前記イオンガイドを通過する前記イオンのm/zの範囲を制限するように設定されていることを特徴とする化学種分析のための方法。
  82. 請求項79において、
    前記イオンガイドの前記AC及びDC電圧は、飛行時間型質量分析計の分析能力を向上するために、前記イオンガイドを通過する前記イオンのm/zの範囲を制限するように設定されていることを特徴とする化学種分析のための方法。
  83. 請求項79において、
    前記イオンガイドの前記AC及びDC電圧は、飛行時間型質量分析計の検出器の応答を向上するために、前記イオンガイドを通過する前記イオンのm/zの範囲を制限するように設定されていることを特徴とする化学種分析のための方法。
  84. 請求項74において、
    前記分析は、4重極型質量分析計で行われることを特徴とする化学種分析のための方法。
  85. 請求項74において、
    前記分析は、磁場型質量分析計で行われることを特徴とする化学種分析のための方法。
  86. 請求項74において、
    前記分析は、飛行時間型質量分析計で行われることを特徴とする化学種分析のための方法。
  87. 請求項74において、
    前記分析は、イオントラップ型質量分析計で行われることを特徴とする化学種分析のための方法。
  88. 請求項74において、
    前記分析は、フーリエ変換型質量分析計で行われることを特徴とする化学種分析のための方法。
  89. (a)試料からイオン源へ導入されるイオンを生成することと、
    (b)複数の前記イオンを第1真空ポンプ段および次に続く多重極イオンガイドへ導入することと、
    (c)複数の前記イオンを前記多重極イオンガイドを通して搬送し、質量分析計へ導入して、化学種を分析するために、前記多重極イオンガイドのロッドへAC及びDC電圧を印加することとを備えることを特徴とする、ほぼ大気圧で作動するイオン源と、複数の真空ポンプ段を有する真空システムと、質量分析計と、前記真空ポンプ段のうち少なくとも1つを通って延設される多重極イオンガイドと、前記多重極イオンガイドに電圧を印加する電圧印加手段とを利用する化学種分析のための方法。
  90. 請求項89において、
    前記イオンの生成過程は、エレクトロスプレーイオン化を使って行われることを特徴とする化学種分析のための方法。
  91. 請求項89において、
    前記イオンの生成過程は、噴霧器を用いたエレクトロスプレーイオン化を使って行われることを特徴とする化学種分析のための方法。
  92. 請求項89において、
    前記イオンの生成過程は、大気圧化学イオン化を使って行われることを特徴とする化学種分析のための方法。
  93. 請求項89において、
    前記イオンの生成過程は、誘導結合プラズマイオン化を使って行われることを特徴とする化学種分析のための方法。
  94. 請求項89において、
    さらに、イオンガイド長の一部の圧力を前記イオンガイド中の前記イオンの中性ガス分子との衝突により、前記イオンの運動エネルギーを低減させるように十分高く保つことを特徴とする化学種分析のための方法。
  95. 請求項89において、
    DC電圧は、前記イオンガイドから搬送される前記イオンのエネルギーが安定するように設定されるレベルに、前記イオンガイドのロッドへ印加される過程を含むことを特徴とする化学種分析のための方法。
  96. 請求項89において、
    前記イオンガイドのロッドへ印加される前記AC及びDC電圧は、前記イオンガイドを通過する前記イオンのm/zの範囲を制限するように設定されていることを特徴とする化学種分析のための方法。
  97. 請求項89において、
    前記イオンガイドの前記AC及びDC電圧は、イオントラップ型質量分析計の分析能力を向上するために、前記イオンガイドを通過する前記イオンのm/zの範囲を制限するように設定されていることを特徴とする化学種分析のための方法。
  98. 請求項89において、
    前記イオンガイドの前記AC及びDC電圧は、フーリエ変換型質量分析計の分析能力を向上するために、前記イオンガイドを通過する前記イオンのm/zの範囲を制限するように設定されていることを特徴とする化学種分析のための方法。
  99. 請求項89において、
    前記イオンガイドのAC及びDC電圧は、飛行時間型質量分析計の分析能力を向上するために、前記イオンガイドを通過する前記イオンのm/zの範囲を制限するように設定されていることを特徴とする化学種分析のための方法。
  100. 請求項89において、
    前記分析は、4重極型質量分析計で行われることを特徴とする化学種分析のための方法。
  101. 請求項89において、
    前記分析は、磁場型質量分析計で行われることを特徴とする化学種分析のための方法。
  102. 請求項89において、
    前記分析は、飛行時間型質量分析計で行われることを特徴とする化学種分析のための方法。
  103. 請求項89において、
    前記分析は、イオントラップ型質量分析計で行われることを特徴とする化学種分析のための方法。
  104. 請求項89において、
    前記分析は、フーリエ変換型質量分析計で行われることを特徴とする化学種分析のための方法。
  105. (a)試料からイオン源へ導入されるイオンを生成することと、
    (b)複数の前記イオンを第1真空ポンプ段および次に続く多重極イオンガイドへ導入することと、
    (c)複数の前記イオンを前記多重極イオンガイドを通して搬送し、前記質量分析計の前記パルス領域へ導入されるように、前記多重極イオンガイドのロッドへAC/DC電圧を印加することと、
    (d)複数のイオンを前記飛行管内に加速させて、前記試料のイオンを分析するため、前記飛行時間型質量分析計の前記パルス化領域内のレンズエレメントにパルス化電圧を印加することとを備えることを特徴とする、ほぼ大気圧で作動するイオン源と、複数の真空ポンプ段を有する真空システムと、少なくとも1つの前記真空ポンプ段に設置された少なくとも1つの多重極イオンガイドと、飛行時間型質量分析計および検出器と、前記多重極イオンガイドに電圧を印加する電圧印加手段とを利用する化学種分析のための方法。
  106. 請求項105において、
    前記イオンは、エレクトロスプレーイオン化により生成されることを特徴とする化学種分析のための方法。
  107. 請求項105において、
    前記イオンは、噴霧器を用いたエレクトロスプレーイオン化により生成されることを特徴とする化学種分析のための方法。
  108. 請求項105において、
    前記イオンは、大気圧化学イオン化により生成されることを特徴とする化学種分析のための方法。
  109. 請求項105において、
    前記イオンは、誘導結合プラズマイオン化により生成されることを特徴とする化学種分析のための方法。
  110. 請求項105において、
    前記イオンは、前記飛行管軸とほぼ直行した軌道で前記パルス領域に導入されることを特徴とする化学種分析のための方法。
  111. 請求項105において、
    前記イオンは、前記飛行管軸とほぼ一致した軌道で、前記パルス領域に導入されることを特徴とする化学種分析のための方法。
  112. 請求項105において、
    イオンガイド長の一部の圧力を、前記イオンガイド中の前記イオンの、中性ガス分子との衝突により前記イオンの運動エネルギーを低減させるように十分高く保つことを特徴とする化学種分析のための方法。
  113. 請求項105において、
    DC電圧は、前記イオンガイドから搬送される前記イオンのエネルギーが安定するように設定されるレベルに、前記イオンガイドのロッドへ印加される過程を含むことを特徴とする化学種分析のための方法。
  114. 請求項105において、
    前記イオンガイドロッドへ印加される前記AC及びDC電圧は、前記イオンガイドを通過する前記イオンのm/zの範囲を制限するように設定されていることことを特徴とする化学種分析のための方法。
  115. 請求項105において、
    前記イオンガイドの前記AC及びDC電圧は、飛行時間型質量分析計の分析能力を向上するために、前記イオンガイドを通過する前記イオンのm/zの範囲を制限するように設定されていることを特徴とする化学種分析のための方法。
  116. 請求項105において、
    前記イオンガイドのAC及びDC電圧は、飛行時間型質量分析計の検出器の応答を向上するために、前記イオンガイドを通過する前記イオンのm/zの範囲を制限するように設定されていることを特徴とする化学種分析のための方法。
  117. (a)試料からイオン源へ導入されるイオンを生成することと、
    (b)少なくとも1つの真空ポンプ段がバックグラウンドガス圧を複数の前記イオンとの衝突を促進するのに十分高く維持されて設置される多重極イオンガイドへ、複数の前記イオンを導入することと、
    (c)複数の前記イオンを前記イオンの分析のために少なくとも1つの前記真空ポンプ段に配置された飛行時間型質量分析計と検出器へ導入することとを備えることを特徴とする、ほぼ大気圧で作動するイオン源と、複数の真空ポンプ段を有する真空システムと、飛行時間型質量分析計および検出器と、少なくとも1つの前記真空ポンプ段に配置された少なくとも1つの前記多重極イオンガイドと、前記多重極イオンガイドに電圧を印加する電圧印加手段とを利用する化学種分析のための方法。
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