JP3671318B2 - 護岸近傍に構築された構造物の杭基礎補強方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば海沿いの護岸の近傍に構築された構造物について、地震等による地盤の液状化により護岸が沖合へ変位しそれに伴う地盤の側方流動が起きても、当該構造物の沖合への移動を防止する構造物の杭基礎補強方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
地震によって起きる様々な現象のひとつに、地盤が液状に変化する現象、いわゆる液状化現象がある。液状化現象が起きると、周辺の道路の崩壊や地盤沈下等といった事態が引き起こされ、それによって甚大な被害がもたらされる恐れがある。
【0003】
河川や海に沿って護岸が設けられた地域、例えば埋立て地等の地盤に液状化現象が起きた場合を想定する。図7に示すように、護岸1の近傍に構築された建築構造物2は地盤を貫通して打設された杭基礎3上に構築されている。杭基礎3は上層の地盤(液状化層)4を貫通し、下層の岩盤(非液状化層)5にまで打設されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
この建築構造物2が構築された地域の地盤4に、地震によって液状化現象が起きると、地盤4上に構築された護岸1は基礎部分の安定を失った状態となり、液状化した地盤4に押し流される格好となって海側に倒れるように変位し、さらにそれに伴って地盤4の側方流動が起きる。建築構造物2の下に位置する地盤も護岸1の基礎部分に向けて移動し、そのため地盤4が軟弱化する。地盤4が軟弱化すると建築構造物2の重量は地盤4の支持を失って杭基礎3に集中する。急激に荷重が掛った杭基礎3は座屈を起こして破損する。杭基礎3が破損した建築構造物2は海側へ移動、傾斜し、最悪の場合は倒壊してしまう。
【0005】
上記のような事象は実際の被害例として報告されており、同時に根入れがしっかりした建築構造物ほど被害が小さかったことが報告されている。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、地盤の液状化により護岸が沖合へ変位しそれに伴う地盤の側方流動が起きても、該構造物の沖合への移動を防止することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するための手段として、次のような側方流動対策を講じる。
その第1の対策としては、護岸近傍に構築された構造物の杭基礎の周りに位置する地盤に対して地盤改良を施して地盤を硬化させ、当該構造物の下方に位置する非液状化層にまで達する柱状の改良域を杭基礎と一体に形成する。
なお、地盤改良の方法としてはコラム・ジェット・グラウト工法等の高圧噴射注入工法を採用するのが望ましい。
【0008】
また、第2の対策としては、構造物の杭基礎よりも護岸側に位置する杭基礎近傍の地盤に対して地盤改良を施して地盤を硬化させ、杭基礎と護岸との間に、杭基礎の近傍に位置し、当該構造物の下方に位置する非液状化層にまで達する改良域を形成する。
なお、地盤改良の方法としてはD.M.M.(Deep Mixing Method)工法等の深層混合処理工法を採用するのが望ましい。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明に係る護岸近傍に構築された構造物の杭基礎補強方法の一実施形態を図1ないし図5に示して説明する。
図1には、例えば海沿いの護岸1の近傍に構築された既存の建築構造物2とその周辺の地盤の状態を示している。護岸1は海岸線に沿って構築されており、建築構造物2はこの護岸に近接して杭基礎3上に構築されている。
【0010】
杭基礎3にはPHC、鋼管杭等の比較的曲げ剛性の小さいものが採用されており、地表から液状化を起こす可能性のある上層の地盤(液状化層)4を貫通し、液状化を起こす可能性のない下層の岩盤(非液状化層)5にまで打設されている。また、建築構造物2は護岸1に平行に構築されているため、杭基礎3も建築構造物2の両側面に沿って平行に並んで構築されている。
【0011】
上記のような建築構造物2に対し、次の手順に従って側方流動対策を実施する。本対策は、杭基礎3の周りに位置する地盤に対し地盤改良を施して地盤を硬化させ、杭基礎3の周りに岩盤5にまで達する地盤の改良域を杭基礎3と一体に形成するものである。
【0012】
地盤改良の方法としてはコラム・ジェット・グラウト工法を採用する。まず、図2(a)に示すように各杭基礎3の側方に岩盤5にまで達する孔10を杭基礎3と平行に掘削する。孔10は、護岸1側に面した建築構造物2の側面に沿って構築された杭基礎3についてはその護岸1側に、陸地側に面した建築構造物2の側面に沿って構築された杭基礎3についてはさらにその陸地側に設けるものとする。
【0013】
次に、図2(b)に示すように孔10に対して管11を挿入し、この管11の先端に装備されたノズル12から超高圧水(200〜700kgf/cm2)と、これに沿わせて圧縮空気(7〜15kgf/cm2)を噴射し、さらにそのノズルを回転させながら引き上げることにより、岩盤3から地盤4にかけて人為的な空間13を形成する。このとき、空間13の断面形状がほぼ円形となるようにノズルの回転速度および管の引き上げ速度を適宜調節する。また、空間13内に杭基礎3の幹の部分が露出するように超高圧水および圧縮空気の圧を適切な大きさに設定しておく。
【0014】
その後、孔10から管11を引き抜き、図2(c)に示すように空間13にセメント系の団結剤を充填して略円柱状の形状をなす改良体(改良域)14を形成する。改良体14には空間13内に露出していた杭基礎3の幹の部分を一体化させ、見かけ上の杭基礎3の断面積を拡大する。
以上の作業を各杭基礎3に対して個々に実施し、全ての杭基礎3に改良体14を一体化させて補強する。
【0015】
上記のように側方流動対策が実施された建築構造物2が構築された地域の地盤4に地震によって液状化現象が起きると、この地盤4上に構築された護岸1は基礎部分の安定を失った状態となり、液状化した地盤4に押し流される格好となって海側に倒れるように変位し、さらにそれに伴って地盤4の側方流動が起きる。
【0016】
側方流動が起きることにより、図3に示すように建築構造物2の下に位置する地盤も護岸1の基礎部分に向けて移動し、そのため地盤4が軟弱化する。しかしながら、杭基礎3が改良体14と一体化されることでその断面積が拡大され、杭基礎3の曲げ剛性が格段に高められているので、周囲の地盤が軟弱化しても杭基礎3の変形が抑えられる。しかも、改良体14は液状化を起こしていない岩盤5にまで達して構築されているので、杭基礎3が安定を失うことはない。
【0017】
上記のように、各杭基礎3に改良体14を一体に形成することで、杭基礎3の変形が抑えられるとともにその安定が保たれるので、地盤の液状化に対しても杭基礎3を健全に保って建築構造物2の損傷を防止することができる。
【0018】
また、この側方流動対策では杭基礎3の近傍にのみ地盤改良を施すので、例えば護岸1に沿って壁状の改良域を設けた場合等に比べて施工コストを安価に済ませることができる。特に護岸1に沿うスパンの大きい建築構造物について比較すればコスト的にさらに有利である。
【0019】
地盤改良の方法としてコラム・ジェット・グラウト工法を採用したことにより高強度の地盤改良ができるだけでなく、改良工事中の振動や騒音がほとんどないため、周辺環境に与える悪影響も僅かでしかない。
【0020】
ここで、護岸1の近傍に構築された建築構造物2の解析モデルを図4に示し、さらにその解析結果を図5に示す。この解析結果は、解析モデルに示した各杭AおよびCに作用する曲げモーメントの大きさを、側方流動対策が実施された場合と実施されない場合とに分けて検討したものである。この解析結果から、無対策の場合に比べて側方流動対策が実施された建築構造物2の杭基礎3に作用する曲げモーメントが大幅に減少しており、本発明の側方流動対策の効果が非常に大きいことが解る。
【0021】
なお、本実施形態では地盤改良の方法として高圧噴射注入工法のひとつであるコラム・ジェット・グラウト工法を採用したが、同様の改良体(改良域)を形成する手段としてジェットグラウト工法といった他の高圧噴射注入工法、もしくはその他の地盤改良法を採用してもよい。また、本実施形態では既存の建築構造物2に側方流動対策を実施した場合を例に挙げて説明したが、本発明は、新たに構築される建築構造物に対して実施されてもその有効性を発揮することができる。
【0022】
地盤改良に際しては、建築構造物2の振動特性に悪影響を及ばさないために、杭基礎3を含めた建築構造物2全体の形状が前後、左右に対称となるように改良を行うのが望ましい。(図3を参照)
【0023】
次に、本発明に係る構造物の杭基礎補強方法のその他の実施形態を図6に示して説明する。なお、上記の実施形態において既に説明した構成要素については同一符号を付してその説明を省略する。
本実施形態にて説明する側方流動対策は、杭基礎3よりも護岸1側に位置する地盤に対し地盤改良を施して地盤を硬化させ、杭基礎3と護岸1との間に岩盤5にまで達する改良域を形成するものであり、建築構造物2に対して次の手順に従って実施する。
【0024】
地盤改良の方法としてはD.M.M.(Deep Mixing Method)工法を採用する。まず、スラリー状の硬化剤等薬液を深層混合処理装置に圧送し、改良域にあたる地盤の全深度にわたって土壌と硬化剤スラリーとを均一混合させ、地盤に所定の強度を得るように改良を施して図6に示すように改良域20を形成する。
【0025】
上記のように側方流動対策が実施された建築構造物2において、地震によって周辺の地盤4に液状化現象が起きた場合、改良体20が杭基礎3に接していなくても、その近傍に位置していれば地盤の移動を妨げる作用が生まれるので、杭基礎3の損傷を防止することができる。しかも、D.M.M.工法は地盤改良の方法として安価に実施できるので、施工コストの削減を図ることも可能である。
【0026】
なお、地盤改良の方法としてD.M.M.工法を採用したが、これに限らず他の深層混合処理工法、もしくはその他の地盤改良法を採用してもよい。
【0027】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る杭基礎補強方法によれば次のような効果が得られる。
まず、護岸近傍に構築された構造物の杭基礎の周りに位置する地盤に対して地盤改良を施して地盤を硬化させ、当該構造物の下方に位置する非液状化層にまで達する柱状の改良域を杭基礎と一体に形成するといった第1の側方流動対策を実施すれば、杭基礎に改良域を一体に形成することで、地盤の液状化により構造物下の地盤が軟弱化しても、杭基礎の変形が抑えられるとともに杭基礎の安定が保たれるので、構造物の損傷を防止して地震の被害を最小限に食い止めることができる。
杭基礎の近傍にのみ地盤改良を施すので、例えば護岸に沿って壁状の改良域を設けた場合等に比べて施工コストを安価に済ませることができる。
さらに本発明の側方流動対策は既存のものに対しても新規に建設されるものに対しても実施可能である。
【0028】
また、構造物の杭基礎よりも護岸側に位置する杭基礎近傍の地盤に対して地盤改良を施して地盤を硬化させ、杭基礎と護岸との間に、杭基礎の近傍に位置し、当該構造物の下方に位置する非液状化層にまで達する改良域を形成するといった第2の側方流動対策を実施すれば、改良域が杭基礎に接していなくても、その近傍に位置していれば地盤の移動を妨げる作用が生まれるので、杭基礎の損傷を防止して地震の被害を最小限に食い止めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係る構造物の杭基礎補強方法の一実施形態を示す図であって、側方流動対策が実施された建築構造物とその周辺地盤の立断面図である。
【図2】 図1に示した建築構造物の杭基礎を補強するための地盤改良の手順を示す状態説明図である。
【図3】 側方流動対策が実施された建築構造物とその周辺地盤の平断面図である。
【図4】 建築構造物の杭基礎に作用する曲げモーメントを解析するための解析モデル図である。
【図5】 図4に示した解析モデル図に基づく解析結果を示すグラフである。
【図6】 本発明に係る構造物の杭基礎補強方法のその他の実施形態を示す図であって、側方流動対策が実施された建築構造物とその周辺地盤の平断面図である。
【図7】 護岸の近傍に構築された建築構造物の側方流動による被害の模式図である。
【符号の説明】
1 護岸
2 建築構造物
3 杭基礎
4 地盤(液状化層)
5 岩盤(非液状化層)
10 孔
14、20 改良体(改良域)
Claims (2)
- 護岸近傍に構築された構造物について、地震等による地盤の液状化により護岸が沖合へ変位しそれに伴う地盤の側方流動が起きても、該構造物の沖合への移動を防止する構造物の杭基礎補強方法であって、
前記構造物の杭基礎の周りに位置する地盤に対して地盤改良を施してこれを硬化させ、杭基礎周りに、前記構造物の下方に位置する非液状化層にまで達する柱状の改良域を該杭基礎と一体に形成することを特徴とする護岸近傍に構築された構造物の杭基礎補強方法。 - 護岸近傍に構築された構造物について、地震等による地盤の液状化により護岸が沖合へ変位しそれに伴う地盤の側方流動が起きても、該構造物の沖合への移動を防止する構造物の杭基礎補強方法であって、
前記構造物の杭基礎よりも護岸側に位置する杭基礎近傍の地盤に対して地盤改良を施してこれを硬化させ、杭基礎と護岸との間に、杭基礎の近傍に位置し、前記構造物の下方に位置する非液状化層にまで達する改良域を形成することを特徴とする護岸近傍に構築された構造物の杭基礎補強方法。
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