JP3669789B2 - 異常陰影候補の検出方法および装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は放射線画像における腫瘤陰影に代表される異常陰影候補の検出方法および装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、種々の画像取得方法により得られた画像を表す画像信号に対して、階調処理や周波数処理等の画像処理を施し、画像の観察読影性能を向上させることが行われている。特に人体を被写体とした放射線画像のような医用画像の分野においては、医師等の専門家が、得られた画像に基づいて患者の疾病や傷害の有無を的確に診断する必要があり、その画像の読影性能を向上させる画像処理は不可欠なものとなっている。
【0003】
このような画像処理においては、その画像全体を処理の対象とする場合もあるが、検査や診断の目的がある程度明確な場合は、その目的に適した所望の画像部分だけを選択的に強調処理することもある。
【0004】
通常、そのような画像部分の選択は、画像処理が施される以前の原画像を観察読影者が観て、必要に応じて手動で行うものであるが、選択される対象画像部分や指定される範囲は観察者の経験や画像読影能力の高低によって左右され客観的なものとならない虞がある。
【0005】
例えば乳癌の検査を目的として撮影された放射線画像においては、その放射線画像から癌化部分の特徴の一つである腫瘤陰影を抽出することが必要であるが、必ずしも的確にその腫瘤陰影の範囲を指定できるとは限らない。このため、観察者の技量に依存せずに、腫瘤陰影を始めとする異常陰影を的確に検出することが求められている。
【0006】
この要望に応えるものの一つとしてアイリスフィルター処理(以下、本明細書中、アイリスフィルターの演算ということもある)が提案されている(小畑他「DR画像における腫瘤影検出(アイリスフィルタ)」電子情報通信学会論文誌 D-II Vol.J75-D-II No.3 P663〜670 1992年3月参照)。このアイリスフィルター処理は、特に乳癌における特徴的形態の一つである腫瘤陰影を検出するのに有効な手法として研究されているが、対象画像としては、このようなマンモグラムにおける腫瘤陰影に限るものではなく、その画像を表す画像信号(濃度等)の勾配が集中しているものについては、いかなる画像部分に対しても適用することができる。
【0007】
以下、腫瘤陰影の検出処理を例にして、このアイリスフィルターによる腫瘤陰影候補の検出処理の概要について説明する。
【0008】
例えばX線フイルム上における放射線画像(高濃度高信号レベルの画像信号で表される画像)においては、腫瘤陰影は周囲の画像部分に比べて濃度値がわずかに低いことが知られており、その濃度値の分布は概略円形の周縁部から中心部に向かうにしたがって濃度値が低くなるという濃度値の勾配を有している。したがって腫瘤陰影においては、局所的な濃度値の勾配が認められ、その勾配線は腫瘤の中心方向に集中する。
【0009】
アイリスフィルターは、この濃度値に代表される画像信号の勾配を勾配ベクトルとして算出し、その勾配ベクトルの集中度を出力するものであり、アイリスフィルター処理とはこの勾配ベクトルの集中度を基に腫瘤陰影を検出するものである。
【0010】
すなわち例えば図7(1)に示すようなマンモグラムにおいて腫瘤陰影P1 内の任意の画素における勾配ベクトルは同図(2)に示すように腫瘤陰影の中心付近を向くが、血管陰影や乳腺等のように細長い陰影P2 では同図(3)に示すように勾配ベクトルが特定の点に集中することはないため、局所的に勾配ベクトルの向きの分布を評価し、特定の点に集中している領域を抽出すれば、それが腫瘤陰影となる。なお、同図(4)に示すような乳腺等の細長い陰影同士が交差した陰影P3 については勾配ベクトルが特定の点に集中する傾向があり疑似異常陰影となりうる。以上がアイリスフィルター処理の基本的な考え方である。以下に具体的なアルゴリズムのステップを示す。
【0011】
(ステップ1)勾配ベクトルの計算
対象となる画像を構成する全ての画素について、各画素jごとに、下記式(1)に示す計算式に基づいた画像データの勾配ベクトルの向きθを求める。
【0012】
【数1】
【0013】
ここでf1 〜f16は、図8に示すように、その画素jを中心とした縦5画素×横5画素のマスクの外周上の画素に対応した画素値(画像データ)である。
【0014】
(ステップ2)勾配ベクトルの集中度の算出
次に、対象となる画像を構成する全ての画素について、各画素ごとに、その画素を注目画素とする勾配ベクトルの集中度Cを次式(2)にしたがって算出する。
【0015】
【数2】
【0016】
ここでNは注目画素を中心に半径Rの円内に存在する画素の数、θj は、注目画素とその円内の各画素jとを結ぶ直線と、その各画素jにおける上記式(1)で算出された勾配ベクトルとがなす角である(図9参照)。したがって上記式(2)で表される集中度Cが大きな値となるのは、各画素jの勾配ベクトルの向きが注目画素に集中する場合である。
【0017】
ところで、腫瘤陰影近傍の各画素jの勾配ベクトルは、腫瘤陰影のコントラストの大小に拘らず、略その腫瘤陰影の中心部を向くため、上記集中度Cが大きな値を採る注目画素は、腫瘤陰影の中心部の画素ということができる。一方、血管などの線状パターンの陰影は勾配ベクトルの向きが一定方向に偏るため集中度Cの値は小さい。したがって、画像を構成する全ての画素についてそれぞれ注目画素に対する上記集中度Cの値を算出し、その集中度Cの値が予め設定された閾値を上回るか否かを評価することによって、腫瘤陰影を検出することができる。すなわち、このフィルターは通常の差分フィルターに比べて、血管や乳腺等の影響を受けにくく、腫瘤陰影を効率よく検出できる特長を有している。
【0018】
さらに実際の処理においては、腫瘤の大きさや形状に左右されない検出力を達成するために、フィルターの大きさと形状とを適応的に変化させる工夫がなされる。図10に、そのフィルターを示す。このフィルターは、図9に示すものと異なり、注目画素を中心に2π/M度毎のM種類の方向(図10においては、11.25 度ごとの32方向を例示)の放射状の線上の画素のみで上記集中度の評価を行うものである。
【0019】
ここでi番目の線上にあって、かつ注目画素からn番目の画素の座標([x],[y])は、注目画素の座標を(k,l)とすれば、以下の式(3),(4)で与えられる。
【0020】
【数3】
【0021】
ただし、[x],[y]は、x,yを越えない最大の整数である。
【0022】
さらに、その放射状の線上の各線ごとに最大の集中度が得られる画素までの出力値をその方向についての集中度Cimaxとし、その集中度Cimaxをすべての方向で平均して、その注目画素についての勾配ベクトル群の集中度Cとする。
【0023】
具体的には、まずi番目の放射状の線上において注目画素からn番目の画素までで得られる集中度Ci (n)を下記式(5)により求める。
【0024】
【数4】
【0025】
すなわち式(5)は、注目画素を起点として、終点をRmin からRmax までの範囲内で集中度Ci (n)を算出するものである。
【0026】
ここでRmin とRmax とは、抽出しようとする腫瘤陰影の半径の最小値と最大値である。
【0027】
次に、勾配ベクトル群の集中度Cを下記式(6)および(7)により計算する。
【0028】
【数5】
【0029】
ここで式(6)のCimaxは、式(5)で得られた放射状の線ごとの集中度Ci (n)の最大値であるから、注目画素からその集中度Ci (n)が最大値となる画素までの領域が、その線の方向における腫瘤陰影の候補領域となる。
【0030】
すべての放射状の線について式(6)の計算をしてその各線上における腫瘤陰影の領域を求め、この各線上における腫瘤陰影の領域を隣接する線間で直線または非線形曲線で結ぶことにより、腫瘤陰影の候補となり得る領域の外周縁の形状を特定することができる。
【0031】
そして、式(7)では、この領域内の式(6)で与えられた集中度の最大値Cimaxを放射状の線の全方向(式(7)では32方向の場合を例示)について平均した値を求める。この求められた値がアイリスフィルター処理の出力値Iであり、この出力値Iを、腫瘤陰影であるか否かを判別するのに適した予め設定した一定の閾値Tと比較し、I≧Tであればこの注目画素を中心とする領域が異常陰影候補(腫瘤陰影候補)であり、I<Tであれば腫瘤陰影候補ではない、と判定する。
【0032】
なお、式(7)の勾配ベクトル群の集中度Cを評価する領域が勾配ベクトルの分布に応じて大きさと形状が適応的に変化する様子が、外界の明るさに応じて拡大、縮小する人間の目の虹彩(iris)が様子に似ていることから、勾配ベクトルの集中度を利用した腫瘤陰影の候補領域を検出する上述の手法はアイリスフィルター(iris filter )処理と称されている。
【0033】
なお、前述の集中度Ci (n)の計算は式(5)の代わりに、下記式(5′)を用いてもよい。
【0034】
【数6】
【0035】
すなわち式(5′)は、抽出しようとする腫瘤陰影の半径の最小値Rmin に対応した画素を起点として、終点をRmin からRmax までの範囲内で集中度Ci (n)を算出するものである。
【0036】
上述のステップにより、アイリスフィルターは放射線画像から所望とする大きさの腫瘤陰影だけを効果的に検出することができ、特にマンモグラムにおける癌化部分の検出を主目的として研究されている。
【0037】
【発明が解決しようとする課題】
ところで放射線画像においては、異常陰影の画像に乳腺等の異常陰影ではない画像や量子ノイズ等が重なって記録されることがある。このような場合、濃度勾配ベクトルの向きが異常陰影の中心から外れ、濃度勾配ベクトルの向きの集中度が、本来の異常陰影だけが記録された画像の場合よりも低下する。したがって、アイリスフィルター処理の出力値Iが小さくなり、設定された閾値を下回って異常陰影候補として検出されない虞がある。
【0038】
またアイリスフィルター処理の出力値Iは、異常陰影の輪郭形状が真円に近いほど大きな値を採るが、異常陰影の全てが真円に近いとは限らず、輪郭形状に多少の凹凸を有する異常陰影も存在する。そしてこのような歪んだ異常陰影についてのアイリスフィルター処理の出力値Iは小さくなり、上記ノイズが重なった場合と同様に異常陰影候補として検出されない虞がある。
【0039】
しかし、これらの本来検出されるべき異常陰影候補を検出できるようにするために、上記閾値を単に小さく設定したのでは、検出されるべきではないニップル等の疑似異常陰影(FP;False Possitive )までもが異常陰影候補として検出されるため、医師等の画像読影者に無駄な判断労力を強いることになり、好ましくない。
【0040】
例えば図3(1)に示すようなマンモP0 を被写体とした放射線画像(フイルムに記録されたネガ画像)Pについてアイリスフィルター処理を施すと、同図(2),(3)に示すように、腫瘤陰影P1 の出力値はI1 、乳腺の陰影P2 の出力値はI2 (=0)、乳腺と血管が交差した陰影P3 の出力値はI3 、ニップルの陰影P4 の出力値はI4 となる。
【0041】
ここで例えば腫瘤陰影P1 に量子ノイズが重なっていると、その出力値I1 は小さく、ニップルの陰影P4 の出力値I4 と同程度となり、閾値をT2と高めに設定すれば腫瘤陰影P1 は検出されず、閾値をT1と低めに設定すれば腫瘤陰影P1 は検出されるものの腫瘤陰影ではないニップルの陰影P4 も同時に検出されてしまう。
【0042】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、画像読影者の労力の増大を回避しつつ、異常陰影候補の検出を的確に行なうことを可能とした異常陰影候補の検出方法および装置を提供することを目的とするものである。
【0043】
【課題を解決するための手段】
本発明の異常陰影候補の検出方法および装置は、腫瘤陰影等の異常陰影候補の濃度値が周囲の画像部分の濃度値よりも小さいという特徴を利用したものであり、アイリスフィルター処理の出力値Iとの比較対象たる閾値をこの画像信号値に依存して変動させ、または、アイリスフィルター処理の出力値を画像信号値に依存して変動させることにより、疑似異常陰影の誤検出を抑止しつつ、異常陰影候補を的確に検出するようにしたものである。
【0044】
すなわち、本発明の第1の異常陰影候補の検出方法は、被写体の放射線画像を読み取って得られた画像信号に対してアイリスフィルター処理を施し、該アイリスフィルター処理の出力値と予め設定された閾値とを比較し、該比較の結果に基づいて前記放射線画像における異常陰影候補を抽出する異常陰影候補の検出方法において、
例えば図4(1)のグラフに示すように、前記アイリスフィルター処理の対象となる画素の画像信号が減少するにしたがって前記閾値を減少させたうえで、前記比較を行なうことを特徴とするものである。
【0045】
ここで上記画像信号とは、濃度が高くなるにしたがって信号値が大きくなる濃度値を意味するものであり、反対に、一般に輝度値と称される画像信号を処理の対象とする場合は、上記「画像信号が減少するにしたがって」とは、「輝度値(高輝度高信号レベルの画像信号)が増大するにしたがって」と同義である。したがって画像信号が輝度値で表される場合は、図4(2)のグラフに示すようにアイリスフィルター処理の対象となる画素の画像信号が増大するにしたがって閾値を減少させたうえで、前記比較を行なうことを意味する。
【0046】
また、上記アイリスフィルター処理の対象となる画素とは、前述したアイリスフィルター処理において勾配ベクトルを求める際の注目画素を意味するものである。
【0047】
本発明の第2の異常陰影候補の検出方法は、被写体の放射線画像を読み取って得られた画像信号に対してアイリスフィルター処理を施し、該アイリスフィルター処理の出力値と予め設定された閾値とを比較し、該比較の結果に基づいて前記放射線画像における異常陰影候補を抽出する異常陰影の検出方法において、
前記アイリスフィルター処理の対象となる画素の画像信号が減少するにしたがって前記出力値を増大させたうえで、前記比較を行なうことを特徴とするものである。
【0048】
ここでアイリスフィルター処理の出力値を増大させる方法としては、この出力値に、アイリスフィルター処理の対象となる画素の画像信号値が減少するにしたがって増大するように設定された、例えば図6(1)のグラフに示すような信号依存係数aを、上記アイリスフィルター処理の出力値Iに乗じる(a×I)ようにすればよい。
【0049】
なお本発明の第2の異常陰影候補の検出方法においても上記画像信号とは、濃度が高くなるにしたがって信号値が大きくなる濃度値を意味するものであり、反対に、輝度値を処理の対象とする場合は、上記「画像信号が減少するにしたがって」とは、「輝度値が増大するにしたがって」と同義である。したがって画像信号が輝度値で表される場合は、アイリスフィルター処理の対象となる画素の画像信号が増大するにしたがってアイリスフィルター処理の出力値を減少させたうえで、もしくは図6(2)のグラフに示すように信号依存係数aを減少させたうえで、前記比較を行なうことを意味する。
【0050】
本発明の第1の異常陰影候補の検出装置は、被写体の放射線画像を読み取って得られた画像信号に対してアイリスフィルター処理を施すアイリスフィルター処理手段、および該アイリスフィルター処理手段の出力値と予め設定された閾値とを比較する比較手段を備え、前記比較手段による比較の結果に基づいて前記放射線画像における異常陰影候補を抽出する異常陰影候補の検出装置において、
前記アイリスフィルター処理の対象となる画素の画像信号が減少するにしたがって前記閾値を減少させる閾値変動手段をさらに備え、
前記比較手段は、前記出力値と前記閾値変動手段により変動された閾値とについて前記比較を行なうものであることを特徴とするものである。
【0051】
また閾値変動手段としては例えば、アイリスフィルター処理の対象となる画素の画像信号値が減少するにしたがって閾値が減少するように、画像信号値と閾値とが予め対応付けられた変換テーブルを用いて、閾値を変動させるものとすればよい。
【0052】
なお、上記画像信号が高濃度高信号レベルの画像信号を意味する点については既述の発明と同様であり、高輝度高信号レベルの画像信号を対象とする場合には、上記「画像信号が減少するにしたがって」とは、「輝度値が増大するにしたがって」と同義である。したがって画像信号が輝度値で表される場合は、閾値変動手段として、アイリスフィルター処理の対象となる画素の画像信号(輝度)が増大するにしたがって閾値を減少させるものとすればよく、例えば図4(2)のグラフに示すようにアイリスフィルター処理の対象となる画素の画像信号が増大するにしたがって閾値を減少させたうえで、前記比較を行なうことを意味する。
【0053】
本発明の第2の異常陰影候補の検出装置は、被写体の放射線画像を読み取って得られた画像信号に対してアイリスフィルター処理を施すアイリスフィルター処理手段、および該アイリスフィルター処理手段の出力値と予め設定された閾値とを比較する比較手段を備え、前記比較手段による比較の結果に基づいて前記放射線画像における異常陰影候補を抽出する異常陰影候補の検出装置において、
前記アイリスフィルター処理の対象となる画素の画像信号値が減少するにしたがって前記出力値を増大させる出力値変動手段をさらに備え、
前記比較手段は、前記出力値変動手段により変動された出力値と前記閾値とについて前記比較を行なうものであることを特徴とするものである。
【0054】
また出力値変動手段としては例えば、アイリスフィルター処理の対象となる画素の画像信号値が減少するにしたがって増大するように、該画像信号値と予め対応付けられた信号依存係数を、アイリスフィルター処理の出力値に乗じるものとすればよい。
【0055】
なお本発明の第2の異常陰影候補の検出装置においても、上記画像信号が高濃度高信号レベルの画像信号を意味する点については既述の発明と同様であり、高輝度高信号レベルの画像信号を対象とする場合には、上記「画像信号が減少するにしたがって」とは、「輝度値が増大するにしたがって」と同義である。したがって画像信号が輝度値で表される場合は、出力値変動手段として、アイリスフィルター処理の対象となる画素の画像信号(輝度)が増大するにしたがって出力値を増大させるものとすればよく、例えば図6(2)のグラフに示すようにアイリスフィルター処理の対象となる画素の画像信号が増大するにしたがって増大するように設定された信号依存係数aを、アイリスフィルター処理の出力値に乗じたうえで、前記比較を行なうことを意味する。
【0056】
【発明の効果】
本発明の第1の異常陰影候補の検出方法および第1の異常陰影候補の検出装置は、アイリスフィルター処理における注目画素の画像信号値が小さくなるにしたがって、アイリスフィルター処理の出力値との比較対象たる閾値を小さくすることにより、画像信号値が周囲部分よりも小さいという特徴を有する異常陰影候補の検出率を向上させるとともに、アイリスフィルター処理の出力値が比較的小さい疑似異常陰影やこの出力値は大きいが画像信号値が周囲部分よりも大きい疑似異常陰影の検出を抑止することができる。
【0057】
本発明の第2の異常陰影候補の検出方法および第2の異常陰影候補の検出装置は、上記本発明の第1の異常陰影候補の検出方法および第1の異常陰影候補の検出装置とは反対に、閾値は画像信号値の大きさに拘らず一定とする一方、アイリスフィルター処理における注目画素の画像信号値が小さくなるにしたがってアイリスフィルター処理の出力値を大きくすることにより、画像信号値が周囲部分よりも小さいという特徴を有する異常陰影候補の検出率を向上させるとともに、アイリスフィルター処理の出力値が比較的小さい疑似異常陰影やこの出力値は大きいが画像信号値が周囲部分よりも大きい疑似異常陰影の誤検出を抑止することができる。
【0058】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の異常陰影候補の検出装置の具体的な実施の形態について説明する。
【0059】
図1は本発明の第1の異常陰影候補の検出装置の一実施形態を示す概略ブロック図、図2は図1に示した異常陰影候補の検出装置を用いた計算機支援画像診断装置の一例を示すブロック図である。
【0060】
図示の計算機支援画像診断装置100 は、入力された画像信号(以下、全体画像信号という)Sを記憶する記憶手段20と、この記憶手段20に記憶された全体画像信号Sを読み出して、階調処理、周波数処理等の画像処理を施す全体画像処理手段30と、記憶手段20に記憶された全体画像信号Sを読み出して、この全体画像信号Sのうち異常陰影(腫瘤陰影)候補を表す画像信号(以下、局所画像信号という)Sp を抽出する異常陰影候補検出装置10と、この抽出された局所画像信号Sp に対して抽出した異常陰影候補を強調処理する局所画像処理手段40と、全体画像処理手段30により画像処理された全体画像と局所画像処理手段40により画像処理された異常陰影候補とを可視像として表示する表示手段50とを備えた構成である。
【0061】
ここで、計算機支援画像診断装置100 に入力される全体画像信号Sは、例えば図3に示すような患者のマンモグラムを表す画像Pが蓄積記録してなる蓄積性蛍光体シートに、励起光を照射することにより発生せられた輝尽発光光を光電的に読み取り、その後にデジタル変換して得られた画像信号(高濃度高信号レベルの信号)である。
【0062】
また表示手段50は、全体画像と異常陰影とを表示面上に各別に表示してもよいが、本実施形態においては、全体画像を表示しつつこの全体画像のうち異常陰影候補の画像部分だけは局所画像処理手段40により画像処理された異常陰影候補の画像に置き換えて表示するものとする。
【0063】
異常陰影候補検出装置10は詳しくは図1に示すように、全体画像信号Sに対して前述したアイリスフィルター処理を施すアイリスフィルター処理手段11と、全体画像信号Sの入力を受け、この全体画像信号Sに依存した、アイリスフィルター処理の出力値Iとの比較対象である閾値Tを出力する閾値変動手段12と、アイリスフィルター処理の出力値Iと閾値変動手段12から出力された閾値Tとについて比較を行ない、(出力値I)≧(閾値T)であれば、その出力値Iを得た画素をアイリスフィルター処理の注目画素とする異常陰影候補の画像内部に含まれる全ての画像信号を出力し、一方(出力値I)<(閾値T)であれば画像信号を出力しない比較手段14とを備えた構成である。
【0064】
なお閾値変動手段12は、画像信号値Sが減少するにしたがって閾値Tが減少するように、これらが予め対応付けられた変換テーブル13(図4(1)参照)を有し、アイリスフィルター処理手段11が注目画素としてアイリスフィルター処理している画素の画像信号に応じた閾値が、アイリスフィルター処理手段11の出力と同期して出力されるように構成されている。
【0065】
次に本実施形態の異常陰影候補検出装置10の作用について説明する。
【0066】
記憶手段20から異常陰影候補検出装置10に入力された全体画像信号Sは、アイリスフィルター処理手段11と閾値変動手段12に入力される。
【0067】
ここでアイリスフィルター処理手段11は、入力された全体画像信号Sに対して1画素ずつ注目画素を代えて、式(6)にしたがった濃度勾配ベクトルの集中度の最大値Cimaxを求め、さらに式(7)にしたがって、異常陰影の注目画素から放射状に延びる複数の線について最大値Cimaxの平均値を求め、得られた平均値をアイリスフィルター処理手段11の出力値Iとして比較手段14に出力する。
【0068】
【数5】
【0069】
一方、閾値変動手段12は、入力された全体画像信号Sに応じて、変換テーブル13にしたがって閾値Tを出力する。このとき出力される閾値Tは、アイリスフィルター処理手段11が注目画素としてアイリスフィルター処理している画素の画像信号に応じた閾値である。閾値変動手段12から出力された閾値Tは比較手段14に入力される。
【0070】
次いで、比較手段14は、入力されたアイリスフィルター処理の出力値Iと閾値変動手段12から出力された閾値Tとについて注目画素ごとに比較を行なう。
【0071】
比較手段14は、上記比較を行なった結果、
(出力値I)≧(閾値T)であった場合は、その出力値Iを得た画素をアイリスフィルター処理の注目画素とする異常陰影候補の画像内部に含まれる全ての画像信号Sをそのまま出力し、一方、
(出力値I)<(閾値T)であれば画像信号を出力しない。
【0072】
このように閾値Tを超えた画像部分に対応する画像信号Sp だけが比較手段14から局所画像処理手段40に出力される。
【0073】
この一連の作用を図3(1)に示したマンモグラムを表す画像Pを用いて説明する。このマンモグラムをアイリスフィルター処理手段11によってアイリスフィルター処理すると、同図(2),(3)に示すように、腫瘤陰影P1 の出力値はI1 、乳腺の陰影P2 の出力値はI2 (=0)、乳腺と血管が交差した陰影P3 の出力値はI3 、ニップルの陰影P4 の出力値はI4 となる。ここで腫瘤陰影P1 に対応した出力値Iは本来、図示した出力値I1 よりも大きい値を示すが、量子ノイズが重なっているため濃度勾配ベクトルの注目画素への集中度が低下した結果、図示した程度の大きさとなり、ニップルの陰影P4 の出力値I4 と同程度となる。
【0074】
ここで閾値をT2(一定)と高めに設定すれば腫瘤陰影P1 は検出されず、閾値をT1(一定)と低めに設定すれば腫瘤陰影P1 は検出されるものの腫瘤陰影ではないニップルの陰影P4 も同時に検出されてしまう。
【0075】
しかしながら本実施形態の異常陰影候補の検出装置10においては、閾値変動手段12により閾値Tを上記注目画素の画像信号Sに応じて変化させるため、画像信号値が小さい領域において存在する腫瘤陰影P1 に対する閾値は小さく設定され、一方、画像信号値が大きい領域において存在するニップルの陰影P4 に対する閾値は大きく設定される。
【0076】
したがって、比較手段14による、腫瘤陰影P1 の出力値はI1 と閾値との比較においては、(出力値I)≧(閾値T)となって腫瘤陰影P1 を表す画像信号S1 が局所画像処理手段40に出力されるが、ニップルの陰影P4 の出力値はI4 と閾値との比較においては、(出力値I)<(閾値T)となってニップルの陰影P4 を表す画像信号S4 は局所画像処理手段40に出力されず、異常陰影候補を的確に抽出しつつ、疑似異常陰影であるニップルの陰影や乳腺の陰影を検出するのを防止することができる。
【0077】
このように異常陰影候補検出装置10により的確に抽出された腫瘤陰影を表す画像信号は局所画像処理手段40に入力され、腫瘤陰影を観察するのに最適な強調処理がなされて表示手段50に入力される。
【0078】
一方、全体画像処理手段30により階調処理、周波数処理等の、全体画像を観察するのに適した画像処理が施された全体画像信号も表示手段50に入力され、表示手段50は、全体画像を表示しつつこの全体画像のうち異常陰影候補の画像部分だけは局所画像処理手段40により画像処理された異常陰影候補の画像に置き換えて表示し、医師等の画像観察読影者による異常陰影の診断に供される。
【0079】
なお、画像信号値のわずかな変動による閾値の急激な変動を避けるため、、画像信号値のダイナミックレンジに対して閾値の変動幅ΔTを大きく設定するのは好ましくない。
【0080】
そこで、上記閾値Tに、閾値の変動幅ΔTよりも大きい一定のステップ量Δαで変動可能の直流分k・Δαを加算した和を新たな閾値Thとするのが好ましい。すなわち、新たな閾値Thを下記式の通り定義する。
【0081】
Th=T+k・Δα (ただし、kは0または自然数)
ここで直流分k・Δαについては、比較手段14によってkの値を順次代え、適切な閾値の基準k・Δαを求めるようにすればよい。
【0082】
なお本実施形態の閾値変動手段12に記憶された変換テーブル13の形状は図4(1)に示した例に限るものではない。また、取り扱う画像信号が高輝度高信号レベルの信号である場合は、図4(1)に示したテーブルに代えて図4(2)に例示する、画像信号値Sが増大するにしたがって閾値が減少するように対応付けられた変換テーブルを用いればよい。
【0083】
図5は本発明の第2の異常陰影候補の検出装置の一実施形態を示す概略ブロック図である。
【0084】
図示の異常陰影候補の検出装置10′は、図1に示した異常陰影候補の検出装置と同様、図2に示した計算機支援画像診断装置に用いることができる。
【0085】
図示の異常陰影候補検出装置10′は、全体画像信号Sに対して前述したアイリスフィルター処理を施すアイリスフィルター処理手段11と、全体画像信号Sの入力を受け、この全体画像信号Sに依存した、アイリスフィルター処理の出力値Iに乗じられる信号依存係数aを出力する出力値変動手段15と、アイリスフィルター処理の出力値Iと信号依存係数aとを乗じる乗算器18と、アイリスフィルター処理の出力値Iと信号依存係数aとの積と記憶手段17に記憶された一定の閾値Tとについて比較を行ない、a・I≧Tであれば、その出力値Iを得た画素をアイリスフィルター処理の注目画素とする異常陰影候補の画像内部に含まれる全ての画像信号を出力し、一方a・I<Tであれば画像信号を出力しない比較手段14′とを備えた構成である。
【0086】
なお出力値変動手段15は、画像信号値Sが減少するにしたがって信号依存係数aが増大するように、これらが予め対応付けられた変換テーブル16(図6(1)参照)を有し、アイリスフィルター処理手段11が注目画素としてアイリスフィルター処理している画素の画像信号に応じた信号依存係数が、アイリスフィルター処理手段11の出力と同期して出力されるように構成されている。
【0087】
次に本実施形態の異常陰影候補検出装置10′の作用について説明する。
【0088】
記憶手段20から異常陰影候補検出装置10′に入力された全体画像信号Sは、アイリスフィルター処理手段11と出力値変動手段15に入力される。
【0089】
ここでアイリスフィルター処理手段11の作用については前述した実施形態等と同様であるので説明を省略する。
【0090】
一方、出力値変動手段15は、入力された全体画像信号Sに応じて、変換テーブル16にしたがって信号依存係数aを出力する。このとき出力される信号依存係数aは、アイリスフィルター処理手段11が注目画素としてアイリスフィルター処理している画素の画像信号に応じた閾値である。出力値変動手段15から出力された信号依存係数aは、アイリスフィルター処理手段11からの出力値Iと同期して乗算器18に入力され、乗算器18は同期して入力された出力値Iと信号依存係数aとを乗算し、その積a・Iが比較手段14′に入力される。
【0091】
一方、比較手段14′は記憶手段17から閾値Tを読み出し、この閾値Tと入力された積a・Iとについて注目画素ごとに比較を行なう。
【0092】
比較手段14′は、上記比較を行なった結果、
(積a・I)≧(閾値T)であった場合は、その出力値Iを得た画素をアイリスフィルター処理の注目画素とする異常陰影候補の画像内部に含まれる全ての画像信号Sをそのまま出力し、一方、
(積a・I)<(閾値T)であれば画像信号を出力しない。
【0093】
このように閾値Tを超えた画像部分に対応する画像信号Sp だけが比較手段14′から局所画像処理手段40に出力される。
【0094】
ここで、図5に示した実施形態の異常陰影候補の検出装置10′は図1に示した異常陰影候補の検出装置10に対して、閾値を画像信号に依存させるのではなく、出力値を画像信号に依存させる点において相違するが、この相違は大小比較の判定を行なううえで相対的なものであるため、本実施形態の異常陰影候補の検出装置10′は図1に示した異常陰影候補の検出装置10と同様の効果を得ることができる。
【0095】
なお本実施形態の出力値変動手段15に記憶された変換テーブル16の形状は図6(1)に示した例に限るものではない。また、取り扱う画像信号が低濃度高信号レベルの信号である場合は、図6(1)に示したテーブルに代えて図6(2)に例示する、画像信号値Sが増大するにしたがって信号依存係数aが増大するように対応付けられた変換テーブルを用いればよい。
【0096】
また上記各実施形態においては、対象画像をマンモグラムとしたものについて説明したが本発明の各異常陰影候補の検出方法および装置においては、対象画像はマンモグラムに限るものではない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の異常陰影候補の検出装置の一実施形態を示す概略ブロック図
【図2】図1および図5に示した異常陰影候補の検出装置を用いた計算機支援画像診断装置の一例を示すブロック図
【図3】(1)は図2に示した計算機支援画像診断装置による処理の対象となる画像(マンモグラム)を示す図、(2)および(3)は(1)に示した画像についてのアイリスフィルター処理の出力値および閾値Tを示す図
【図4】閾値Tが画像信号Sに依存して設定された変換テーブルを示す図、(1)は高濃度高信号レベルの画像信号の場合、(2)は高輝度高信号レベルの画像信号の場合をそれぞれ示す
【図5】本発明の第2の異常陰影候補の検出装置の一実施形態を示す概略ブロック図
【図6】画像信号Sに依存して設定された信号依存係数aの変換テーブルを示す図、(1)は高濃度高信号レベルの画像信号の場合、(2)は高輝度高信号レベルの画像信号の場合をそれぞれ示す
【図7】マンモグラムにおける濃度勾配の集中度を示す概念図
【図8】アイリスフィルター処理における勾配ベクトルを算出するマスクを示す図
【図9】注目画素についての勾配ベクトルの集中度の概念を示す図
【図10】輪郭形状が適応的に変化するように設定されたアイリスフィルターを示す概念図
【符号の説明】
10 異常陰影候補検出装置
11 アイリスフィルター処理手段
12 閾値変動手段
13 変換テーブル
14 比較手段
Claims (6)
- 被写体の放射線画像を読み取って得られた画像信号に対してアイリスフィルター処理を施し、該アイリスフィルター処理の出力値と予め設定された閾値とを比較し、該比較の結果に基づいて前記放射線画像における異常陰影候補を抽出する異常陰影候補の検出方法において、
前記アイリスフィルター処理の対象となる画素の画像信号値が減少するにしたがって前記閾値を減少させたうえで、前記比較を行なうことを特徴とする異常陰影候補の検出方法。 - 被写体の放射線画像を読み取って得られた画像信号に対してアイリスフィルター処理を施し、該アイリスフィルター処理の出力値と予め設定された閾値とを比較し、該比較の結果に基づいて前記放射線画像における異常陰影候補を抽出する異常陰影の検出方法において、
前記アイリスフィルター処理の対象となる画素の画像信号値が減少するにしたがって前記出力値を増大させたうえで、前記比較を行なうことを特徴とする異常陰影候補の検出方法。 - 被写体の放射線画像を読み取って得られた画像信号に対してアイリスフィルター処理を施すアイリスフィルター処理手段、および該アイリスフィルター処理手段の出力値と予め設定された閾値とを比較する比較手段を備え、前記比較手段による比較の結果に基づいて前記放射線画像における異常陰影候補を抽出する異常陰影候補の検出装置において、
前記アイリスフィルター処理の対象となる画素の画像信号値が減少するにしたがって前記閾値を減少させる閾値変動手段をさらに備え、
前記比較手段は、前記出力値と前記閾値変動手段により変動された閾値とについて前記比較を行なうものであることを特徴とする異常陰影候補の検出装置。 - 前記閾値変動手段は、
前記アイリスフィルター処理の対象となる画素の画像信号値が減少するにしたがって前記閾値が減少するように、該画像信号値と該閾値とが予め対応付けられた変換テーブルを用いて、前記閾値を変動させるものであることを特徴とする請求項3記載の異常陰影候補の検出装置。 - 被写体の放射線画像を読み取って得られた画像信号に対してアイリスフィルター処理を施すアイリスフィルター処理手段、および該アイリスフィルター処理手段の出力値と予め設定された閾値とを比較する比較手段を備え、前記比較手段による比較の結果に基づいて前記放射線画像における異常陰影候補を抽出する異常陰影候補の検出装置において、
前記アイリスフィルター処理の対象となる画素の画像信号値が減少するにしたがって前記出力値を増大させる出力値変動手段をさらに備え、
前記比較手段は、前記出力値変動手段により変動された出力値と前記閾値とについて前記比較を行なうものであることを特徴とする異常陰影候補の検出装置。 - 前記出力値変動手段は、
前記アイリスフィルター処理の対象となる画素の画像信号値が減少するにしたがって増大するように、該画像信号値と予め対応付けられた信号依存係数を、前記出力値に乗じるものであることを特徴とする請求項5記載の異常陰影候補の検出装置。
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