JP3663918B2 - 形状維持性に優れる缶用鋼板およびその製造方法 - Google Patents

形状維持性に優れる缶用鋼板およびその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、変形が少ない缶用鋼板、とくに缶厚(板厚)を薄肉化した場合であっても、搬送工程などにおける変形が少なく、形状維持性に優れる缶用鋼板およびその製造方法に関する。本発明は、3ピース缶用鋼板にとりわけ好適である。
【0002】
【従来の技術】
缶用素材の板厚は、製造コスト低減の観点から、次第に薄くなる傾向にある。このような板厚の薄肉化に伴って缶強度の低下が懸念され、その対処策についてこれまでにも幾つかの研究が行われてきた。例えば、特開平1−319628号公報には、焼鈍後の2次冷間圧延、いわゆるダブルレデュースにより鋼板の硬さを高める技術が開示されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記技術で対象にしている鋼板の最小板厚は、せいぜい0.150 mmまででしかない。仮に、この技術を、より薄肉板厚の0.130 mmあるいはそれ以下の板厚の鋼板に適用するとした場合には、強度不足を起こし、缶体としての十分な強度が確保できず、外力に対して容易に座屈してしまう不具合現象を招く恐れが極めて高い。
【0004】
ここで、3ピース缶の一般的な使用形態について、缶体強度の面から説明しておく。缶用鋼板は、先ず円筒状に成形して缶胴部とし、この缶胴部に底蓋のみをつけた状態で、パッカー(内容物の充填会社)まで搬送される。パッカーで内容物を充填したのち、表蓋をつけ3ピース缶として完成させ、出荷される。
缶体強度が問題になるのは、特にパッカー(内容物充填会社)までの搬送工程であり、この搬送段階では缶体としての剛性が低いので、缶体同志あるいは缶体と搬送機器とがぶつかったとき、容易に変形し、缶胴部の真円度が保てなくなってしまう。
【0005】
今後、製缶コスト低減のために、素材の薄肉化が一層進展するであろうことを考えれば、薄肉化に対応できる缶体強度の確保がますます重要な課題になってくる。そして、缶体強度確保のための手段として、これまでのような素材の高張力化以外の新規な対策の出現が強く望まれている。
そこで、本発明の目的は、素材板厚が薄肉化した場合であっても、缶体に外力が加わったとき、円筒部の真円度が変わりにくく、形状維持性に優れた缶用とくに缶胴用の新規な鋼板と、その製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、上記課題の解決に向けて鋭意実験、検討を行った。その結果、形状維持性は、缶素材である鋼板のヤング率を、これまでない程の低値に低下させることにより可能になること、またかかる鋼板は、熱間仕上げ圧延をはじめとする製造条件を適正に制御すれば製造可能になることを知見し、本発明を完成するに到った。その要旨構成は以下のとおりである。すなわち、
【0008】
1 C:0.01〜0.10wt%、Mn:0.1 〜1.0 wt%、Al:0.15wt%以下、N:0.015wt%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、かつ下記(1) 式で定義されるヤング率Eが170 GPa以下であることを特徴とする形状維持性に優れる缶用鋼板。

E=(E0 +2E45+E90)/4 ・・・・・・… (1)
ただし、E0 、E45、E90は、それぞれ圧延方向、圧延方向に45°の方向、圧延方向に90°の方向のヤング率
なお、本発明においてヤング率 (E,E0 ,E45,E90)は、室温における値とする。ここで室温とは、0〜30℃を意味し、ヤング率の測定温度としてはとくに10〜25℃が好適である。
2 )上記成分組成に加えてさらに、 Ti 0.50wt %以下、 Nb 0.50wt %以下およびV: 0.50wt %以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする (1) に記載の缶用鋼板。
3 )上記成分組成に加えてさらに、 Cu 0.50wt %以下、 Ni 0.50wt %以下、 Cr 0.50wt %以下および Mo 0.50wt %以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする (1) または (2) に記載の缶用鋼板。
4 )上記成分組成に加えてさらに、 Ca 0.0050wt %以下を含有することを特徴とする (1) (3) のいずれかに記載の缶用鋼板。
【0010】
5 C:0.01〜0.10wt%、Mn:0.1 〜1.0 wt%、Al:0.15wt%以下、N:0.015wt%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる鋼片を、950〜1350℃に加熱し、粗圧延を行った後、Ar3変態点〜(Ar3変態点−100℃)の温度域における圧下率が50%以上、最終パスの圧下率が15%以下、かつ終了温度が(Ar3変態点−100℃)以上となるように仕上げ圧延し、450〜700℃の温度域でコイルに巻き取り、次いで、圧下率80%以上で1次冷間圧延し、再結晶温度以上、800℃以下の温度域で焼鈍し、さらに、圧下率1.0〜40%で2次冷間圧延することを特徴とする、形状維持性に優れる缶用鋼板の製造方法。
6 )上記成分組成に加えてさらに、下記A〜C群のうちから選ばれるいずれか1以上の成分を含有することを特徴とする (5) に記載の缶用鋼板の製造方法。

A群: Ti 0.50wt %以下、 Nb 0.50wt %以下およびV: 0.50wt %以下のうちから選ばれる1種または2種以上
B群: Cu 0.50wt %以下、 Ni 0.50wt %以下、 Cr 0.50wt %以下および Mo 0.50wt %以下のうちから選ばれる1種または2種以上
C群:Ca:0.0050wt%以下
【0011】
【発明の実施の形態】
発明者らは、鋼板が外力に対して一旦変形しても、弾性回復によりもとの形状に戻れば、良好な形状維持性が発揮されるとの、基本的な考え方のもとに研究を進めた。得られた主な知見は以下のとおりである。
鋼板のヤング率を通常のものに比べて大幅に低くすると、外力に対して変形しても弾性回復によりもとの形状に戻りやすくなる。外力として缶に付加されるエネルギーを素材の弾性域で吸収してしまえば、弾性回復により缶はもとの真円度に戻る。外力によるエネルギーが弾性域で完全に吸収できずに塑性変形域に至った場合には、余剰エネルギーは永久歪みとして残り、へこみを生じてしまう。
図1は、降伏応力YSが同じである場合を仮定して、ヤング率が異なる2種類の鋼板の応力−歪み曲線をもとに比較したものである。図1から、外力を弾性域で吸収できるエネルギーは、ヤング率が低い鋼板の方が大きいことが理解される
【0012】
このような効果が発揮されるヤング率Eとして、とくに170 GPa 以下とすればよいこともわかった。
ここにヤング率Eは、下記(1) 式で定義されるものである。
E=(E0 +2E45+E90)/4 …… (1)
ただし、E0 、E45、E90は、それぞれ圧延方向、圧延方向に45°の方向、圧延方向に90°の方向のヤング率
ヤング率Eを170 GPa 以下まで低下させることができれば、薄肉化された3ピース缶の缶胴の搬送工程における形状維持性を向上させることが可能になるはずである。
【0013】
そこで、発明者らは、鋼板のヤング率Eを低減する手法について、さらに実験を重ねた。
図2は、仕上げ圧延の終了温度(最終スタンドの出側温度)が、2次冷間圧延した板厚0.13mmの鋼板の板面(100) 方位のインバース強度比およびヤング率に及ぼす影響について調査した例である。ただし、ヤング率Eは各方向の測定値の平均から上記 (1)式で求めたものである。
このときの鋼板の製造条件は、粗圧延材の成分組成が0.042 wt%C−0.20wt%Mn−0.015 wt%Si−0.011 wt%P−0.008 wt%S−0.01wt%Al−0.010 wt%N(Ar3:865 ℃)であり、仕上げ圧延(仕上げ圧延開始温度は860 ℃、ただし、仕上げ圧延温度が860 ℃を超えるものの仕上げ圧延開始温度は終了温度+80℃、最終パスの圧下率10%)の圧下率が89%、1次冷間圧延の圧下率が90%、焼鈍温度が 700℃、2次冷間圧延の圧下率が22.5%であった。
図2から、仕上げ圧延の終了温度が、865 〜765 ℃、すなわちAr3変態点〜(Ar3変態点−100 ℃)の温度範囲にあるとき、板面(100) (ND//<100> と同じ)の強度比が高くなり、ヤング率が170 GPa 以下にまで低下することがわかる。このヤング率は、従来鋼板のヤング率 210〜220 GPa (室温)よりも著しく低い値である。
【0014】
発明者らは、この実験結果を基にして、熱間仕上げ圧延についてさらに詳細な検討を進めたところ、上述したような効果を得るためには、Ar3変態点〜(Ar3変態点−100 ℃)の温度域で全圧下率(単に、「圧下率」と略記)にして50%以上とすればよいこと、また同時に、最終パスの圧下率を15%以下に抑制し、かつ圧延終了温度を(Ar3変態点−100 ℃)以上とすることが必要であることが明らかとなった。
【0015】
上記条件で熱間圧延することにより、ヤング率の低減に有効な集合組織が発達する機構については、必ずしも明らかではないが、次のように考えている。すなわち、熱間圧延をフェライト域で行うことにより、圧延集合組織として、ND//<100> 、ND//<211> 、ND//<111> が発達する。しかし、この圧延条件では、いずれの圧延集合組織においても、再結晶を生じるほど歪みが蓄積しないために、回復の速いND//<100> 集合組織が他の集合組織を侵食し、ND//<100> 集合組織が優先的に形成する。
【0016】
そして、熱間圧延条件を上記範囲に定めた理由は以下のように説明される。圧下率を規制する温度をAr3変態点〜(Ar3変態点−100 ℃)の範囲とするのは、Ar3変態点を超える温度で圧延すると、熱延後にフェライト変態するため結晶方位がランダム化し、ND//<100> 集合組織が形成されないからである。一方(Ar3変態点−100 ℃)を下回って圧延すると歪が蓄積し、その結果、特に歪の蓄積しやすいND//<111> が優先的に再結晶、成長する。また、この温度域での圧下率を50%以上とするのは、50%未満の圧下率では、結晶の回転が少なく、十分な量の集合組織が形成されないからである。
最終パスの圧下率を15%以下に抑制するのは、最終的な歪みの蓄積量にもっとも影響するのは最終パスであり、このパスの圧下率をもっとも厳しく制限する必要があるからである。
さらに、終了温度を(Ar3変態点−100 ℃)以上とするのは、前述したND//<111> の方位粒の再結晶・成長を防止するためである。また、終了温度が低過ぎる場合には、圧延により加工された粒が回復せずに、加工組織となり、その割合が多くなれば、再結晶温度が上昇し、焼鈍での操業性が悪化するので、この点でも好ましくない。
【0017】
なお、ND//<100> 集合組織の形成を一層向上させるという観点から、熱間仕上げ圧延を、好ましくは、Ar3変態点以下でのパス数は3パス以上とすること、さらに好ましくは、最終パスを除くパスの圧下率を30%/パス以下として、パス数を5パス以上とすることが推奨される。
というのは、これらの条件を外れると、熱延中の歪み蓄積が増して、1) <111>//NDの再結晶が促進されて、<100>//ND 集合組織が弱められ、また、2)蓄積した歪みそのものが、結晶回転による集合組織の集積を阻害する傾向があるからである。
【0018】
ところで、缶用鋼板の分野ではないが、ND//<100> 集合組織を発達させるにはAr3変態点以下で仕上圧延を行うことが好適であることが、特開昭62−284016号公報等で知られている。しかしながら、漫然とAr3変態点以下での仕上圧延を行っても、実際には十分な低ヤング率を安定して得ることは困難であり、また、低ヤング率化のための熱延条件の適正化についてはよく知られていないのが現状であった。
本発明では、上述したごとく、Ar3以下の温度で、歪みの蓄積を回避しつつ、Ar3〜(Ar3変態点−100 ℃)の温度域で50%以上の圧下率で圧延することによって、低ヤング率を達成するに有利な集合組織を効果的に形成させることができるようになったのである。
【0019】
このようにして、仕上げ圧延スタンド間で、加工一回複を繰り返し、熱間圧延後に、いったんND//<100> の集合組織が十分に発達すると、その後、この熱延板に、1次冷間圧延−連続焼鈍−2次冷間圧延を行っても、ND//<100> の集合組織は安定的に維持され、最終製品でも低ヤング率のままとなる。
なお、焼鈍においては、板面(111)方位の結晶粒が(100)方位のそれに比べて優先的に再結晶しやすいが、焼鈍母材である冷間圧延板で (100)方位の結晶粒が絶対的に多ければ、焼鈍後も(100)方位の結晶粒の比率が多い集合組織となる。
【0020】
以上、目標とするヤング率とこれを達成するための熱延条件について説明したが、このほかの製造条件および成分組成などについて以下に説明する。
・スラブ加熱温度; 950〜1350℃
連続鋳造スラブを熱間圧延するに先立って 950〜1350℃で加熱する。加熱温度が 950℃に満たないと、十分高い熱延仕上げ温度を確保することが困難となる。一方、加熱温度が1350℃を超えると鋼板の表面性状が劣化する。このため、スラブ加熱は上記温度範囲で行う。
【0021】
・巻き取り温度; 450〜 700℃
巻き取り温度は、低過ぎると熱延板の形状が悪くなり、次工程の酸洗、冷間圧延などに支障をきたすので、下限を 450℃とする。一方、高くなり過ぎると熱延母板中に炭化物が凝集した組織が形成され、これが鋼板の耐食性に悪影響を与える。また、鋼板表面のスケール厚が増大して酸洗性を劣化させる。これらの悪影響を避けるために、上限を 700℃とする。
【0022】
・1次冷間圧延の圧下率;80%以上
本発明で対象とする缶用鋼板は、概ね板厚0.25mmに満たない薄肉材である。80%未満の冷延圧下率でこの板厚を達成するには、熱延での負担が大き過ぎる。このため圧下率は80%以上は必要である。なお、焼鈍時に(111) 方位の発達を抑え、ヤング率を高くしないためには、90%以上の圧下率が望ましい。
【0023】
・焼鈍温度;再結晶温度以上、800 ℃以下
焼鈍温度は、再結晶を完了させるために再結晶(終了)温度以上にする必要があり、この温度は本発明の場合、約 650℃である。一方、焼鈍温度を過剰に高めると連続焼鈍時にヒートバックルや板破断等のトラブルを招く危険が増し、また鋼板の表面にMnなどが濃化し、表面処理性の劣化をも招く。このため、焼鈍は再結晶温度以上、800 ℃以下の温度範囲で行う必要がある。
【0024】
・2次冷間圧延の圧下率; 1.0〜40%
焼鈍後の材質を均一化させるため、また、可動転位の導入により鋼板の成形性を向上させるためには、1.0 %以上の圧下率で冷間圧延する必要がある。
なお、連続焼鈍炉に通板するときの板厚は、板切れ、バックリングなどの不具合を起こすことなく、かつ、通板速度(生産性)を低下させることなく、安定して操業するためには、0.150 mmが限界である。板厚が0.150 mmを下回るような極薄の缶用鋼板を製造する場合には、必然的に焼鈍後の2次冷間圧延により目標板厚まで薄肉化する必要がある。この意味からも、2次冷間圧延は必須である。
ただし、2次冷延の圧下率を過剰に高めると、延性が低下し、円筒成形後に行なわれるフランジ加工性を悪くし、割れなどの不具合を生じる。このため、2次冷間圧延の圧下率は40%以下に制限する必要がある。
【0025】
本発明において適用可能な鋼板の成分組成は、缶用鋼板に必要な加工性を有するものであれば、基本的に、Ar3変態点〜(Ar3変態点−100 ℃)での熱間圧延時に、回復が十分に早く生じる成分であればよい。
【0026】
C:0.01〜0.10wt%
本発明は、板厚0.15 mm に満たない薄肉の鋼板を対象にしているので、缶体強度の確保が重要である。C量が0.01wt%に満たないと、十分な缶体強度を確保できなくなり、一方、0.10wt%を超えると、素材が硬質化し、フランジ加工やネック加工などの2次成形性が劣化する。よって、C量は0.01〜0.10wt%の範囲とする。
【0027】
Mn:0.1 〜1.0 wt%
Mnは、Sによる熱間割れを防止するために有効な元素であり、S量に応じて添加するのが望ましい。また、Mnは、薄肉缶体の強度を確保するためにも有効な固溶強化元素である。これらの効果を発揮させるためには、少なくとも0.1 wt%以上の添加が必要である。一方、Mnを多量に添加し過ぎると、鋼板が硬質化し、フランジ加工性やネック加工性が劣化するので、その上限を1.0 wt%とする。
【0028】
Al:0.15wt%以下
Alは、固溶NをAlNとして析出固定するために有効な元素であるが、過剰に添加するとコストの上昇、フランジ加工性の劣化を招くため、0.15wt%以下の範囲で添加するのがよい。なお、上記効果を発揮させるためには0.005 wt%以上の添加が望ましい。
【0029】
N:0.015 wt%以下
Nは、固溶強化作用を通じて、缶体強度を確保するために有効な添加元素であるが、0.015 wt%を超えて含有すると、鋼板が硬質化し、フランジ加工性やネック加工性が劣化する。また、製胴時に、フルーティングと呼ばれる腰折れを発生させ、外観不良をもたらす。このため、0.015 wt%以下の範囲で添加するのがよい。なお、これらの効果を発揮させるには0.002 wt%以上の添加が望ましい。
【0030】
以上の成分に加えて、下記の成分を添加することができる。
Ti:0.50wt%以下、Nb:0.50wt%以下およびV:0.50wt%以下の1種または2種以上
これらの元素は、C, Nなどを固定して熱間圧延時の歪の蓄積を抑制し、かつ鋼板の延性を向上させるために有用である。しかし、上限を超えて添加すると、熱間圧延時に蓄積される歪量がむしろ大きくなるため、また、固溶強化による缶体強度の確保のうえからも望ましくないので、それぞれ上限を0.50wt%とする。なお、各元素を添加する際には、0.005 wt%以上の添加が好ましい。
また、Tiは脱酸元素としても使用可能である。
【0031】
Cu:0.5 wt%以下、Ni:0.5 wt%以下、Cr:0.5 wt%以、Mo:0.5 wt%以下の1種または2種以上
Cu、Ni、CrおよびMoは、鋼板の組織を細粒化し、固溶強化に寄与する有用な元素であり、必要な缶体強度に応じて添加される。しかし、これらの元素を上限を超えて添加すると、効果が飽和するうえ、硬質化により、圧延加工が困難になる。よって、これらの各元素はそれぞれ0.5 wt%以下の範囲で添加する。なお、各元素を添加する際には、0.005 wt%以上の添加が好ましい。
【0032】
Ca;0.0050wt%以下
Caは、溶鋼中の酸化物組成を制御し、CaO分率を増やし、低融点の酸化物系介在物とすることで、連続鋳造時のノズルへの酸化物付着によるノズルづまりの防止に、またCaOは冷延−焼鈍後の粒成長を抑制することで肌荒れの原因となる粗大粒の抑制に寄与する。これらの効果を発揮するには、0.0005wt%以上の添加が望ましい。一方で、0.0050wt%を超えて添加するとCaSを形成し、これが発錆の原因となるために、その上限を0.0050wt%とする。
【0033】
また、以下に掲げる元素は、いずれも不可避的不純物に属するものであり、有害な作用をもたらすので、極力減らすように努めるのが望ましい。制限すべき好適範囲は次のようになる。
Si;0.04wt%以下
Siは、多量に添加すると表面処理時の酸化増量が大きくなり、長時間の加熱でめっき層が剥離する等の問題を生じるので、その上限を0.04wt%とするのが好ましい。
【0034】
P;0.02wt%以下
Pは、鋼を硬質化させ、フランジ加工性やネック加工性を劣化させるとともに、耐食性を劣化させる元素であるため、その上限を0.02wt%とするのが好ましい。
【0035】
S;0.02wt%以下
Sは、ぶりきの延性を減少させ、脆化や耐食性の劣化をもたらす元素であるので、その上限を0.02wt%とするのが好ましい。
【0036】
以上のようにして、一連の工程を経て2次冷間圧延を終えた鋼板には、板面(100)方位の結晶粒密度の高い集合組織が発達し、ヤング率が低い、ひいては製缶後の形状維持性の良い特性が付与される。
【0037】
【実施例】
次に本発明を実施例にもとづいて具体的に説明する。
まず、表1に示す成分組成で、残部は実質的にFeからなる鋼を転炉で溶製し、この鋼スラブを、厚み30mmのシートバーまで粗圧延した。このシートバーに、表2に示す条件で熱間圧延、1次冷間圧延、連続焼鈍そして2次冷間圧延を行い、最終仕上げ板厚を0.13mmとした。得られた鋼板を、ハロゲンタイプの電気錫めっきラインにて25番相当の錫めっきを連続的に施してぶりきに仕上げた。これらの錫めっき鋼板について以下の各種材質評価に供した。
▲1▼ヤング率E:圧延方向、圧延45°方向および圧延90°方向のヤング率を室温(25℃)で測定し、前述した式により平均を求めた。
▲2▼降伏応力YS:JIS 5号引張試験片を用い、JIS 規格により引張試験を行い、0.2 %耐力をYSとした。降伏点伸びを生じるサンプルについては下降伏応力の平均値をYSとした。
▲3▼組成変形が起こるまでの弾性変形エネルギー: (YS)2/2Eの式で求められる。▲4▼搬送試験におけるへこみ不具合の発生率:実製缶ラインにて10000 缶につき溶接および底蓋の巻き締め加工を行った後、最終ライン出側にて外観の目視観察を行い、へこみ不具合の発生した缶の数をカウントした。
得られた調査結果を表2に併せて示す。なお、上記▲1▼から▲3▼まではめっき前の材質も試験したが、両者は同じ特性値であった。
【0038】
【表1】
Figure 0003663918
【0039】
【表2】
Figure 0003663918
【0040】
表2からわかるように、ヤング率Eが170GPa以下である発明例は、同じYSの比較例と比べて塑性変形を生じるまでの弾性変形エネルギーが大きく、搬送工程でのへこみ発生率も著しく向上することが分かる。へこみ発生率のこのような向上は、缶同志あるいは搬送機器との衝突により加わる外力を塑性変形なしに吸収できた結果であるといえる。
【0041】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、搬送工程等での外力に対して、缶体が変形しにくく、形状維持性に優れた缶用鋼板を提供することができる。そして、本発明によれば、缶厚が0.13mmにも満たない最近の薄肉化傾向に対して十分対応できる鋼板が提供可能となり、その工業的価値は極めて大きい。
なお、本発明による鋼板は、錫めっき鋼板としてだけでなく、ティンフリー鋼板、複合めっき鋼板、樹脂フィルム被覆鋼板、めっきを施さない塗油鋼板などとして用いても同様な効果が発揮されるのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】ヤング率が異なるときの弾性変形エネルギーの違いを説明する応力−歪み曲線の模式図である。
【図2】2次冷間圧延した鋼板の、ND//<100> の集合組織およびにヤング率に及ぼす熱間仕上げ圧延終了温度の影響を示すグラフである。

Claims (6)

  1. C:0.01〜0.10wt%、Mn:0.1〜1.0wt%、Al:0.15wt%以下、N:0.015wt%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなり、かつ下記(1)式で定義されるヤング率Eが170 GPa以下であることを特徴とする形状維持性に優れる缶用鋼板。

    E=(E0 +2E45+E90)/4 ・・・・・・ (1)
    ただし、E0 、E45、E90は、それぞれ圧延方向、圧延方向に45°の方向、圧延方向に90°の方向のヤング率
  2. 上記成分組成に加えてさらに、 Ti 0.50wt %以下、 Nb 0.50wt %以下およびV: 0.50wt %以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の缶用鋼板。
  3. 上記成分組成に加えてさらに、 Cu 0.50wt %以下、 Ni 0.50wt %以下、 Cr 0.50wt %以下および Mo 0.50wt %以下のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の缶用鋼板。
  4. 上記成分組成に加えてさらに、 Ca 0.0050wt %以下を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の缶用鋼板。
  5. C:0.01〜0.10wt%、Mn:0.1〜1.0wt%、Al:0.15wt%以下、N:0.015wt%以下を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる鋼片を、950〜1350℃に加熱し、粗圧延を行った後、Ar3変態点〜(Ar3変態点−100℃)の温度域における圧下率が50%以上、最終パスの圧下率が15%以下、かつ終了温度が(Ar3変態点−100℃)以上となるように仕上げ圧延し、450〜700℃の温度域でコイルに巻き取り、次いで、圧下率80%以上で1次冷間圧延し、再結晶温度〜800℃の温度域で焼鈍し、さらに、圧下率1.0〜40%で2次冷間圧延することを特徴とする、形状維持性に優れる缶用鋼板の製造方法。
  6. 上記成分組成に加えてさらに、下記A〜C群のうちから選ばれるいずれか1以上の成分を含有することを特徴とする請求項5に記載の缶用鋼板の製造方法。

    A群: Ti 0.50wt %以下、 Nb 0.50wt %以下およびV: 0.50wt %以下のうちから選ばれる1種または2種以上
    B群: Cu 0.50wt %以下、 Ni 0.50wt %以下、 Cr 0.50wt %以下および Mo 0.50wt %以下のうちから選ばれる1種または2種以上
    C群: Ca 0.0050wt %以下
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